ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

最終話

presented by 蜜柑ブタ様


 ゴジラによる、怪獣達の復活劇から、数か月。
 良くも悪くも世界は順応する。人類も、怪獣も。
 怪獣達は、復活したてだからか、人類に対してなんのアクションも起こさなかった。
 そのおかげで人類側が立て直す時間が取れたのである。運がいいのか悪いのか。
 ともかく初号機とゴジラの戦いによる破壊の影響から立ち直るには十分であった。
 ゴジラの方も現れてはいない。ミニラと共にどこに行ったのかは分からないがどこかにいるであろう。
 地球の軸が戻ったことで、季節が徐々にではあるが戻り、十数年ぶりに日本に雪が降るという出来事があった。
「う〜、寒い!」
 季節が戻ったことで年中夏だった日本は冬の季節を十数年ぶりに迎えた。
 夏になれた体に、冬の寒さが堪えるが、これが本来の日本の風物詩なのだ。
「冬ってこんなに寒いんだな〜。初めてだよ。」
「私も。」
 シンジとレイは、並んで空を見上げていた。冬の空から雪がちらついている。
 年中夏となってから売られなくなった冬着を着込んでモコモコになった二人は寄り添う。
「おーい、二人とも、もうすぐ始まるぞー。」
「はーい。行こうか。」
「うん。」
 シンジとレイは、手を繋いで呼ばれた方へ向かった。


 ……“式”に出るために。


 地球防衛軍の空き地に即席で作られた会場には、沢山の人々がすでに集まっていた。
 立食パーティー形式で、みんながそれぞれ語らっている。
 普通の人間も、ミュータントも、何の隔たりもなく。
「よぉ、お二人さん。」
「宮宇地さん。」
「相変わらず仲の良いことで…。」
「アハハハ…、す、すいません。」
「なんで謝るの?」
 顔を赤らめて頭を下げるシンジに、レイは疑問符を飛ばした。
「次の式は、おまえらか?」
「き、気が早いですって! 僕らまだ14歳だし!」
「ハハハ、そうだったな。だが大人になるのは早いぞ。それまで若さを楽しんでおけ。」

『間もなく、新郎新婦入場です。』

「おっ、始まるな。」
「いよいよですね。」
 今日の式の主役達がやってくる放送がされた。
 やがて、周りが、拍手と共に新郎と新婦を出迎えた。

 タキシード姿の尾崎と、白いドレス姿の音無が手を組んで赤い絨毯の上を歩きながらやってきた。

「おめでとー!」
「やっとだなーー! 待たせやがって!」
「ちくしょう、羨ましいな!」
「尾崎先輩カッコいい…。」
「音無博士、綺麗だな…。」
 ミュータント兵士の仲間達がピーピーと口笛を吹いたり、大拍手をして祝う。反応もまあそれぞれだ。
「世界初のミュータントと普通の人間の夫妻か…。」
「ミュータントだろうが何だろうがめでたいもんはめでたいって。関係ねぇよ。」
 同僚に向かって熊坂が言った。その顔はとても嬉しそうだ。
「……チッ。」
「こら、舌打ちしてんじゃねぇぞ、風間。嬉しかったら嬉しいってリアクションしろ。」
「しない!」
 風間はプイッとそっぷを向いた。
「あらあら、ライバルを取られちゃって不貞腐れてるのかしら?」
「そんなんじゃねぇよ…。」
 リツコの言葉に、風間は、下を向いてブツブツと言った。
 ネルフ本部がなくなった…というか第三新東京そのものが大穴になってなくなってしまったので、MAGIを失ったリツコは、そのまま地球防衛軍の科学部に移籍が決まったのだった。
 マヤは、そのままリツコの助手に、日向は、念願の技術部に、青葉は、事務職に就いた。
 地球防衛軍所属となったリツコは、中々にイキイキとしていた。
 怪獣の研究は勿論のこと、何より……。
「ねえ、いい加減連絡先交換してほしいわ。」
「しねぇよ!」
「恥ずかしがり屋なんだから。」
「違う!」
 風間と会えるからだ。
「やっぱり年上は嫌い?」
「いや、嫌いじゃ…、って何言わせんだ!」
「あらあら、そうなの? 嬉しいわね。」
「先輩…。」
 風間をからかって楽しんでいるリツコに、マヤは、呆れ顔である。

「尾崎さん、音無博士、おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「ありがとう、シンジ君、レイちゃん。」
 式は滞りなく進み、シンジとレイが尾崎と音無の所へ行って祝福の言葉を言った。
「ねえ、レイちゃん。この後ブーケトスだけど、これの意味って分かる?」
 音無がレイに言った。
 レイがフルフルと首を振ると、音無は、悪戯っぽく笑って。
「受け取った人は、次の結婚できるって言われているのよ。」
「えっ。」
 レイは、キョトンッとしたが、音無とブーケを交互に見て。
「私、欲しい。」
「じゃあ、しっかりキャッチしなきゃね。」
 絶対取ると決意するレイに、音無が笑った。
「綾波…、気が早い…、気が早いよ!」
「レイちゃんがんばれー。」
「尾崎さんも何言ってんですか!」
 真っ赤になるシンジと、純粋にレイを応援する尾崎の空気の違い…、尾崎は結婚しても変わらずだった。ま、そこが尾崎の魅力(?)ではあるのだが。
 そしてついにブーケトスの時間がやってきた。
 地球防衛軍の女達が燃えている。尾崎と音無の結婚を見て、結婚への熱き思いが滾っているのだ。
 レイもそこに混じる。レイも静かに燃えていた。

 そして、ついにブーケトスが始まった。

 ブーケは、群がる女性達の手の中に、納まった。
 レイではなく、別の女性の手に。
 レイは、がっかりして、見るからに落ち込んだ。

『続いて、ガータートスです!』

「がーたーとす?ってなんですか?」
「確か…、未婚の男性にやる、花嫁が左足の太ももに着けている靴下留め、ガーターリングを投げるって奴じゃなかったっけ?」
「男性…。」
 シンジは、ハッとした。
 周りがシンジに対して行なわれた説明を聞いて色めき立つのを。
「うわぁ…、怖い。」
 女性達もすごかったが、男性達の結婚への熱望もすごい。すっかりシンジは、怯えてしまった。
 シンジも一応参加するが、巻き込まれないよう隅っこにいた。
 どうせ取れないしと、諦めていたが……。
「あれ?」
 気が付けば、ガーターリングが手の中にあった。
 シンジが混乱していると、宮宇地がおめでとーっと拍手をし、レイが横から飛びつくように抱き付いてきたのでシンジは押し倒された。
「碇君! 私達、結婚できるね!」
「いや、早いって! 僕らまだ14歳ぃぃぃぃぃ!」
 純粋に喜ぶレイ。真っ赤っかになって大混乱のシンジ。周りは残念がるより初々しい恋人同士の二人を祝福して拍手した。
 シンジは、レイの体を受け止めながら、ふと思い出す。
 監獄に送られた父・ゲンドウとの面会の時を。






「………今更何の用だ?」
 ガラス越しの第一声がそれだった。
 シンジは、レイと共に来ていた。
「父さん。僕…。」
「碇君と付き合っています。」
 シンジが言うよりも早く、レイが言った。
 それを聞いてゲンドウは、目を見開く。
「レイ、おまえは……。」
「知ってるよ、父さん。綾波が母さんとどういう関係なのか。それでも好きなんだ。」
「……承知の上か。」
「うん。」
「私、人間になりました。もうあなたの人形ではありません。」
 レイは、シンジの手を握り強く言った。
「そうか…。」
「それだけ報告しに来たんだ。また来るよ。」
「シンジ。」
「ん?」
「すまなかった……。」
「……もう、いいんだ。」
 それが二人の和解であった。






「……。」
「碇君?」
「絶対に幸せにしなきゃ…。」
「碇君?」
「あ、なんでもない…よ。」
 無意識に言った言葉に気恥ずかしくなって、シンジは、首を振った。






 一方その頃。
「……。」
「参加しないのですか?」
「俺なんかが参加してもねぇ、誰も喜ばないよ。」
 ナツエに変わる新しい看護師の女性に、ツムグは答えた。
 ツムグは、離れた場所の建物の上から式を見ていた。
 初号機の存在を知っていながら放っておいた上に、自分が死ぬために世界を滅ぼす寸前まで追いやったことは知れ渡っている。そのためツムグの存在について議論が湧いたのは言うまでもなく、償いとしてこき使うという議論が湧いた。
 ゴジラだけじゃなく、他の怪獣達が復活した今、ツムグの預言、そして機龍フィアの操縦者など戦力がとにかく必要なのだ。特に預言は必要だ。
「でもご縁は深いのでしょう?」
「まあね、尾崎ちゃんが小さい頃からだよ。」
「でしたら…。」
「だからこそだよ。俺はただの疫病神でいいんだよ。嫌われてていいんだ。」
 ツムグは、そう言って笑う。
「……。」
 看護師の女性はそんなツムグの横顔を見ていた。
「どしたの?」
「いえ…、なんでもありません。」
 そう言ってそっぷを向く彼女の姿に、ツムグは、在りし日のナツエを思い出した。
「…人選はわざとか?」
 もしかしてナツエみたいなタイプをわざと人選しているんじゃないかと、ツムグは思った。
「まあ、それはそうと、サッちゃん。」
「えっ! サッちゃん!?」
「サツキって言うんでしょ? だからサッちゃん。」
「……。」
「サッちゃん?」
 微かに頬を染めて俯くサツキを見て、やっぱりナツエと同じタイプかとツムグは、思った。
「俺なんて好きになってもしょうがないよ?」
「わ、私は何も言っていませんよ。」
「絶対好きになっちゃダメだよ。困るから。」
 ナツエのことだってあるのだ、ツムグは、人から嫌われるのは慣れているが、好意を寄せられるのは慣れない。
「困って…くれるんですね。」
「おおっと、手遅れ?」
 年若い(20代)女性らしく、モジモジするサツキに、手遅れであると感じたツムグだった。
「そういえば…。」
 っと、ツムグは、ふと思い出す。




 地球防衛軍の病院に入院していた加持は、意識の戻らないミサトの看病をしていて、つい先日ミサトが目を覚まし、記憶の大半を失ったミサトを支えつつ、ちゃっかりプロポーズしていた。
 ミサトは、記憶はないが、加持に対する感情は残っており、顔を赤らめていた。



 弐号機に乗せられ、サードインパクトの依代にされたアスカは、無事に保護された後、病院に再び搬送された。
 しばらくは、狂乱していた彼女であったが、ある日を境に眠り、次に目を覚ました時にはエヴァンゲリオンに関する記憶の一切を忘れていた。
 年不相応の幼い子供のようになったアスカの姿に、ツムグだけが微笑んでいたのであった。
 彼女の記憶喪失についてツムグが関与しているかどうかは、不明である。



 一方でゼーレは。
 発見した時は、全員が死亡していた。
 司法解剖の結果、エヴァンゲリオン量産機が現れ、サードインパクトを起こした辺りで死亡したということが分かった。
 ツムグの見解だと、無理やりな儀式を行ったことによる弊害じゃないかと見ている。
 ともかく、ゼーレは、全滅していた。彼らがどのように世界に対して影響を与えていたか、そういう痕跡すら残っていなかったので、彼らは死を覚悟で儀式を強行したとみられる。




「おじいちゃん達ってば無責任なんだから…。」
「何の話ですか?」
「なんでもなーい。」
 人類の文明を裏から操ってきた秘密結社の消滅。
 例えそうなろうと世界は動く。
 いつか忘れられてしまうだろう、永遠に。








 尾崎と音無の結婚式は無事に終わろうとして……。

 終わらなかった。

 ゴジラが来たという警報が鳴ったのだ。

「ハハハハハハ! そうでなくちゃな! おい、行くぞ! ゴジラとの再戦だ!」
「なんで喜んでるんですか、大佐ーーー!」
「いってらっしゃい、真一君。」
「行って来るよ。」
 尾崎はタキシードのまま、走って行った。


 轟天号が空を舞う。
 しらさぎに運ばれ、機龍フィアが出撃する。


「さーてゴジラさん。俺を死なせてくれなかったこと…、後悔させてやるんだから。」
『ツムグ、コワーイ。』
「怖くもなるよ、まったくもう。なんで死なせてくれないかな?」
『ツムグのこと嫌いだからじゃ…。』
「ストレートに言うねぇ…。」
『ワーン! ホントのことじゃん!』
「仕方ない。死ぬ方法を別に考えるか? いや、他にないよな…。ゴジラさんに溶ける以外に…。」
『また世界を壊すの?』
「さすがに何度もできないって。使徒もいなくなったし。神様がいなくなった世界だ。のんびり探すよ。」
『よかった。』
「ん?」
『ツムグが死ななくって、ふぃあ嬉しい。ツムグ死んだら悲しいもん。』
「……ありがと。って、一応言っておくよ。」
 健気なふぃあの言葉に、ツムグは苦笑し、横の計器を撫でた。

 やがてゴジラが見えてきた。
 街に上陸し、暴れている。
 使徒がいた頃は、第三新東京(無人化)に集中していたので、ある意味で新鮮な光景ではある。おかしいことなのだが。
「住民の避難を最優先に、前線部隊はゴジラ迎撃に回れ!」
 逃げ惑う人々の誘導避難をしつつ、向かって来るゴジラに前線部隊が応戦する。
 ゴジラが雄叫びを上げる。
 かつて、1900年代を始まりに当たり前となってしまったその姿。南極に封印され、セカンドインパクト後、15年間姿を見せなかったが、再び復活したその姿と独特の雄叫びに、恐れと同時懐かしさすら感じさせる。ただただ恐ろしい光景なのに懐かしさを感じるのはおかしいことなのだが……。
『機龍フィアの投下命令が下りました!』
『機龍フィアを投下する! 椎堂ツムグ、戦闘態勢に入れ!』
「ゴジラさん、戦おうか。」
『負けないもん!』
 機龍フィアが投下され、ゴジラと相対した。


『瀬戸内海にダガーラ出現!』
『イギリスに、ラドン出現!』
『ブラジルに、バラゴン出現!』

 世界中のあっちらこちらで怪獣達が現れ、攻撃を開始した。やっぱりゴジラが引き金なのか。
 世界中にある地球防衛軍が、人々が戦う。

 戦いは終わりを見せない。
 ゴジラを始めとした怪獣達と戦い続け、セカンドインパクトを経てもしぶとく生き残った人類は、使徒という脅威を超えてもまだ戦いの日々からは解放されそうにない。
 それでも人類は戦い続けるだろう。
 生きるために。
 明日を無事に迎えられるかどうかは分からない。
 それでも意地で戦い続ける。




「……うっ。」
「音無博士、大丈夫ですか?」
「大丈夫。病気じゃないの。あーあ、発表しそびれちゃったな。」
「えっ?」
「ふふっ。真一君が帰ってきたら伝えなきゃ。」
 音無は、自分のお腹を愛おしげに撫でながら空を見上げた。
 空はすっかり晴れ、冬の季節だと言うのに、青空が広がっていた。




「っ……。」
「おい、尾崎どうした? また嫌な予感か?」
「いや…、違う。」
「なんだ?」
「なんか……、良い予感がする。」




 新しい命のために。
 今日も明日も、戦いは続くのであった。



Fin...
(2017.03.18 初版)


(あとがき)

 戦いはこれからだ。という感じです。
 肝心のラスボス・初号機との戦いがいまいちだったかな…。
 一応これでハッピーエンドです。



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