ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第十三話

白兵戦

presented by 蜜柑ブタ様


 マトリエルが出現したことで地球防衛軍の基地の本部は大忙しだった。
「あのバカは、どこで油を売ってるんだ!?」
 あのバカとは、椎堂ツムグのことである。
 正式ではないが機龍フィアのパイロットであるツムグがどこを探してもいない、いつもなら親しい人間が探すか、どこからともなく自分から来るかして機龍フィアに乗るのだが、今日に限っては姿が見えないのだ。
「だから奴のは監視を見直すべきだと進言したのだ! どうするのだ!」
「使徒は第三新東京の中心。つまり地下のネルフ本部の真上の位置に急に出現したらしいな、まったく…、使徒はどこからどうやって現れるのか分からん!」
「機龍フィアは、ツムグじゃなくとも操縦できる! 適当にパイロットを見繕って出撃させるしかない!」
「だが、G細胞完全適応者以外のパイロットについての機龍フィアの起動とシンクロ実験の成果は、まだ1割にも満たされてない! 例えミュータントのエースを乗せてもただの木偶だ! 自動操縦の方がまだマシだ!」
「なら自動操縦で行けばいいだろう!」
「そうと決まれば機龍フィアのDNAコンピュータのオートパイロットプログラムによる使徒の迎撃をせよと、ネオGフォースに指示を出せ!」
「よろしいですね! 波川司令!」
「ええ…。どこへ行ったの? ツムグ…。」
 ツムグがいないことで迷惑被っている司令部は大変だった。


 地球防衛軍が右往左往して、ネルフはネルフで停電事件が起こっている間。
 使徒マトリエルは、ザトウムシのような大きな足を折り曲げ、地面すれすれに体を降ろすと、下腹部の目玉のような部分から、ドロドロと液体を吐きだし始めた。
 液体は地面を溶かし、その下にあるネルフ本部を覆い隠す装甲を少しずつ溶かしていった。


「……地味だな。」
「地味ですね…。」
 前線に配備された地球防衛軍の前線司令部が、マトリエルの動きを見てそう言っていた。
 見た目のインパクトはある。虫嫌いは生理的に受け付けない見た目なうえに、何しろでかい。
 だが、今までの奴らの派手だっただけに(特にラミエル)、マトリエルの攻撃方法が溶解液だけなので残念な印象を持ってしまう。
「大変です!」
「どうした?」
 走ってきた兵士の一人が前線司令官達に言った。
「ネルフとの交信が取れません! どうやら本部の電力が落ちていて本部全体が停電状態にあるようです!」
「確か、本日は、監査官と護衛としてM機関の風間らがネルフ本部に行くことになってたと…。」
「つまり監査官も風間達も本部に取り残されているのか? なら余計にあの使徒を早く殲滅しなければ!」
「基地からの伝達です!」
 前線のオペレーターがヘッドフォンを片手で押さえて司令官達の方に振り向いた。
「椎堂ツムグが行方が分からず、地球防衛軍司令部は、機龍フィアをオートパイロット状態で出撃させる決定をしました! ですが、オートパイロットプログラムの起動がうまくいかないトラブルが発生しているとのことです!」
「別のパイロットを乗せないのか!?」
「ツムグ以外のパイロットでの起動実験では、現状の機能の2割程度しか使えないと聞いているぞ。そんな状態じゃ木偶人形と変わらん!」
「オートパイロットといい、G細胞適応者以外のパイロットの件といい、技術部は何をやっているんだ!?」
 前線も前線で大変だった。
「とりあえずあの虫みたいな使徒の攻撃を止めさせるために、メーサーをありったけ撃つぞ!」
 イスラフェルの時の経験でATフィールドを貫通できたメーサーによる攻撃が開始された。
 いくら攻撃方法が地味でも、地味は地味なりに地道に確実にネルフ本部を守る鉄板の束を溶かしている。ほったらかしていいわけがない。
 いきなり現れたこの使徒マトリエルもだが、それ以上に問題なのが…、ゴジラが来るのが時間の問題だということだ。
 マトリエルの出現位置と、出現してから現在までの時間はそれほど経っていない。ゴジラがまだ使徒の出現に気付いていないことを祈りたいが、サキエルやシャムシエルの時のことを思い返すとゴジラが使徒の存在を察知するまでそんなに時間はかからないようだ。
 今頃海の中を進撃しながら第三新東京を目指してるゴジラを想像しただけで、現場の人間達は汗が噴き出てくる。基地にいる人間では分からない、現場で実際にゴジラを目の当たりにした者でなければ分からない凄まじい緊張感だ。
 使徒マトリエルは、ゴジラが来るかもしれない危機感をまったく考えてないのか、そもそも考える頭がないのか、変わらず地味にボタボタと溶解液を出し続けている。
「なんなんだ、あの使徒は?」
 今までのヘンテコながら強敵であることを示してきた使徒なのに、その部分が今のところ見られないマトリエルの様は、違う意味で変な奴っという印象をもたせた。
 ところがである。
「ん? 雨…? これは……。」
 不意に雨が降ってきた。
 しかし軍服に当たった瞬間、ジュッと微かな音が鳴る。それにいち早く気づいた前線部隊長。
「いかん! 酸性雨だ! 総員! 待避! 待避!!」


 マトリエル。
 その名は、雨を司る天使の名である。

 マトリエルの周辺のみに、スコールのごとく酸性雨が降り出していた。





***





 停電したネルフ本部の中を走り抜け、地下へ地下へと進み続けた椎堂ツムグは、ある場所で足を止めていた。
 そこは、セントラルドグマと名付けられた場所であり、ネルフが抱える最大の秘密を隠された場所だった。
 ツムグは、意図してここまで来たわけじゃない。寄り道し過ぎたのを反省して考えずに走って、はたっと気が付いたらここまで来ていたのだ。
「……やっちゃった。」
 誰もいないのに誰かに向かってテヘッと舌を出してふざけてみたりする。
 しかしふざけたところで現実は変わらない。
「あ〜あ…、こういう秘密の場所には、ゴードン大佐や尾崎達が来るべきだろ。俺が来ちゃだめだろ…。ど〜しよ、かな。……んん?」
 腰を落とし膝を抱えてどんよりしていたが、ツムグは、ふいに顔を上げて鼻をヒクヒクとさせて匂いを嗅いだ。
「この匂い……。あと気配。………やられた!」
 顔に怒りの感情を浮かべ立ち上がったツムグは、目の前にあるパスワードやら認証が必要な扉を蹴飛ばした。
 それだけで強固な扉は破壊され、ツムグは、激情のままに遠慮なく中に入り、片手を差し出して青白く発光する光で部屋を照らした。

 そこにある巨大な水槽の中を漂うのは。
 透けるような白い肌。
 青い髪の毛。
 赤い瞳。
 瑞々しい十代半ばの少女の造形。

 何人も。何十人もいた。

 お昼ご飯を基地の庭でシンジと一緒に食べていた、あの少女。
 綾波レイとまったく同じ姿形をした心を持たないモノが、水槽の中という限定された世界でただ生かされているだけの異常な世界がそこにあった。
 ツムグは、眉間に皺をよせ、もう片方の手で口を押えた。
「あの…野郎……! 同じ匂いと気配を持ってる“コレ”を囮にしたな!」
 ツムグは、天井を見上げて、自分を騙した相手に向かって怒りを露わにした。

 レイという存在は、初号機と同化してしまったシンジの母、碇ユイをサルベージしようとした時に出てきた偶然の産物である。
 使徒と人間の遺伝子の近親性が生んだ碇ユイの遺伝子と初号機の素体に使われた使徒の遺伝子が混ざって生まれた、使徒と人間のハイブリッドなのだ。
 ユイの遺伝子を持つため、科学的に見ればユイのコピーと言えるが、クローンのそれとは違う。
 水槽の中にいるレイ達は、最初に生まれたレイから作られ、増やされたコピーのコピーであろう。
 レイと違い水槽の中でしか生きられない脆弱な生命でしかないレイ達は、さしずめ取り換えがきくレイという存在の予備の器だ。ゲームに例えるとコンテニュー回数といったところだ。
 現在いるレイが死ねば、その魂は、このレイ達の中のいずれかに移り、レイは蘇生するというサイクルになっているのだろう。
 つまりネルフから離されて自殺を図ったレイが仮に自殺に成功したとしても、消えたいいう願いは成就されず、恐らく最低限の記憶だけ受け継いでそれ以外はリセットされるなりして、別人のレイとしてこの世に連れ戻されていたのだ。
 そういう意味では、シンジが勇気を振り絞って今いるレイに手を差し伸べたのは幸運だったいえる。
 恐らくレイは、死ねばこうなることを知らなかったのだろう。だから安易に自殺に走ったのだ。

「なんて…、酷いというか…、奇妙な運命だなぁ。」
 ツムグは、ゆっくりとした足取りで水槽のガラスに近づき、片手を添えた。
 ツムグの姿を認識した無垢なレイ達が水槽の中で漂い、泳ぎながらガラスの向こう側にいるツムグに純粋な好奇の目を向けてくる。そのさまはさながら人懐こい動物のようで、ツムグは、思わず微笑んでしまった。
「はあ…、ネルフの資金が最低限で、しかも停電状態でここだけしっかり稼働してるってことは…、シンジを捨てた馬鹿親父の独断だな。どんだけ奥さんに執着してんだ。子供を見習えよ。このまま放っておいたら、間違いなくあの子(※現在いるレイ)が暗殺なりで殺された場合ここに移るから…、ダメダメ、あかん、せっかく育ち始めた甘酸っぱい少年少女の物語にドロドロの臭いどぶのヘドロをぶっかけるなんてできるかぁ!」
 ツムグは、片手の発光を止め、ガラスに添えていた手を握り、握りこぶしを作った。
 ツムグは、暗くなった部屋の中で、水槽から数歩後退った。
 彼の赤と金の髪が青白く発光する。その光は全身に広がり、部屋を眩しく照らした。
「何が正しいかなんて、分からるわけない。けど…、これが……、俺の決意だ!」
 ツムグは、そう叫び、青白い熱線を纏った右腕を振りかぶった。


 熱線で焼き尽くされるレイ達を管理している水槽と、レイの基となる素材。
 地球防衛軍の技術力をもってしても再生は不可能なほど念入りに破壊した。
 ……ただしここで何があったのか、ここに何が隠されていたのかは、“カイザー”である尾崎が全力でサイコメトリーすれば分かるだろう。自分がレイ達を殺したことと、破壊した件についてはその時に話し合えばいい。
 人間の罪から作られた外では生きられない悲しき命達を独断で殺した事実は変わりないから。

「は〜あ…、俺ってさ、人間でも怪獣でもない…。俺が“椎堂ツムグ”になったあの日が俺が俺だという記憶の始まりで、40年以上生きてて…、どうすればいいのか、どうなりたいか…、何にも決めてなかった。その場に勢いと気紛れで周りに流される適当な生き方してた。『おまえは、何も考えてないだろ?』っとか、『マイペースに気楽な人生送ってるな』っとか言われてきたけど、ずっと、ずっと…、考えてた。ゴジラさんの細胞を持ってるのに怪獣でもない人間でもない俺はどう生きればいいかって。何ができるんだろうって。だからどんな実験にも付き合ったし、機龍フィアを作る時だって、データ取りのためにゴジラさんと戦わされても俺にできることだからって思ってた。けど、なんか、足りなかったんだ。それがはっきりしないままズルズル来て、ここであの子の分身達を壊して殺して、俺は……、何かがカチッてはまった気がした。俺は、あの子に…、生きていてほしいんだ。せっかく築いたシンジとの絆…、幸せってものを掴んでほしいって…、俺なんかが親気取りしたってなぁ。」
 焼け焦げた地下プラントで、両手を広げたツムグがケラケラと笑っていた。
 その目からツーッぽたりと透明な滴が零れて焼け焦げた床に落ちた。
 G細胞完全適応者になる前の記憶がなく、怪獣でも人間でもない世界でたった一人の存在であるツムグは、マイペースに周りを振り回すお気楽なキャラクターを気取りながら心の内では、数十年のも歳月をかけても出せない自分自身の存在意義についての大きな悩みを抱えていたのだ。
 G細胞の爆発的なパワーもあり、“カイザー”である尾崎にすらその心の内に見抜かせなかった、隠し続けた本音。

 ネルフ本部の地下プラントにあった綾波レイのコピー達を殺し、レイが二度と歪んだ輪廻を繰り返させないようにし、レイの新たな人生のために力を尽くそう。
 それが、ツムグが自身の存在意義に繋がる決意の一つとなる。

「アハハハ、目に煤が入っちゃったかな? って、そういえば、肝心のアイツ! 初号機はどこだ!?」
 地下プラントの一部を破壊したツムグは、ゴシゴシと腕で涙を拭うと、瞬間移動のごとくその場から消えた。





***





 一方そのころ。
 大停電に陥ったネルフ本部内。
 今現在、加持は、とても気まずい気持ちで一杯だった。
 加持がなぜそんな気持ちで一杯なのか、少し時を遡る。

 ネルフ本部が暗くなった。
 非常時の時のために持っていた小型の懐中電灯を取り出して通路を照らした時。
 すごく見覚えがある頑丈そうな黒いブーツとジャンプスーツで覆われた足が目に入った。
 懐中電灯の光を下から上へ移動させたら、機嫌悪そうな若い男の顔が真っ直ぐこちらを見ている状態が分かった。
 ミュータントの能力ならこんな真っ暗な状態でも光も無しで普通に行動できる。現に加持の数メートル前の方にいる風間が暗い中で加持の存在を認識していた。懐中電灯で照らした顔がそれが真実だと物語っている。普通なら暗から明に急に変わったら咄嗟に目をつぶるなりして反応するものだが、ミュータントの、それも戦士として訓練された風間はまったく微動だにしない。恐らくそういう訓練もメニューとして取り入れられているのだろう。
「…か、風間少尉殿。どーされたんです?」
 顔が引きつりそうになりながら加持が言う。
「そんなことを言っている場合じゃないだろうが。」
 風間がますます機嫌を悪くしたと言う風に低い声で言った。
「さいですね〜。いや〜、何が起こったんでしょうね?」
 ここで黙ると後々頭が上がらなくなると踏んだ加持は、ごますりしそうなベタベタな態度で風間と会話を続けようとした。
「何も知らないのか?」
「いや〜、自分、ここの職員じゃないんで。けど、もしかしたらメインの動力が落ちたのかしれませんね。今は、予備動力で本部そのものの維持はできてるはずですけど。」
「以前にもあったのか?」
「いいえ。今回が初だと思いますけど?」
「なるほど。」
「ところで、関係ない話になりますけど、風間少尉、葛城を見ませんでしたか?」
「誰だ?」
「…赤いジャケットを着た髪の長い女性ですよ。」
「会ってないな。」
「そうか…。」
 ミサトの奴、間違いなく迷子になってるなっと加持は心の中で結論付けた。
 加持がそう考えてると、風間が背を向けて去って行こうとした。
「あ、待ってくださいよ! どちらへ行くんです?」
「おまえは、ここで待つつもりか?」
「い、行きます! 行きますよ!」
 後で聞くことになるが、風間は護衛対象の監査官からの命令で大停電の中、無駄に広いネルフ本部の中で閉じ込められるなりして取り残されている人間を救出していたのだ。
 ネルフ職員は総司令のゲンドウと副司令の冬月、そしてMAGIの管理者であるリツコなど、ハッキリ言って資金を地球防衛軍に管理されてから無駄な人件費を払えないため多くがクビを切られている。残ったのは本部や戦闘時に備えられる人員達など最低限だ。
 職員ではない加持は範囲外なのだが、放っておくわけにはいかないので、避難場所に案内することにしたのだ。
 ちなみにミサトは、他のミュータント兵士が見つけて避難場所に運ばれていた。どうやら迷子のあげくこの停電で足を滑らして、手すりすらない通路から落下したらしい。結構な高所から落ちたというのに気絶だけすんだあたり、ミサトの頑丈さについて彼女はミュータントじゃないかと疑われたがミサトと腐れ縁なリツコが速攻で否定した。
「ミサトがミュータントなら、もっとマシに…、それにこんなところ(ネルフ)で腐ってないわよ。」
 っというリツコ。加持曰く、ミサトの友人らしいが、本当に友人同士なのかは、このリツコの発言ではまったく分からない…。
 まだ気絶してるミサトを睨むリツコに、何か清々しさすら感じた地球防衛軍から派遣された監査官と風間らミュータント兵士達であった。
 ところでこの場にアスカとケンスケがいないのだが、二人はエレベーターに閉じ込められており、電力が落ちた今、救出する側も、エレベーターから通風口を使って脱出を計る側も必死であった。なお、ケンスケが通風口への足場にさせられたのだが、うっかり、『あっ、白…。』っと、アスカの下着を見てしまい蹴られて二人してエレベーターに逆戻りして一方的な大げんかになるのだが、この話には関係ないことである。
「赤木博士。ネルフ本部の動力の復旧の目途は立っているのですか?」
 監査官が話題を変えようとリツコに言った。
「急ピッチで動力の復旧をさせていますわ。どうやら、ネズミが入り込んだようで…。」
「おや? 今のネルフを狙うとは、世間知らずもいたものですな。」
 権限を失ったネルフを軽く疎んじる発言をする監査官に、リツコはクスッと笑っただけだった。
「ええ。どこかの馬鹿な男のせいで随分と敵が多くて…。下の者…、つまり現場のことなどひとつも考慮しないのでほんと困っていますわ。」
「…そのこともペナルティとして叩きつけましょう。」
 リツコのため息交じりの愚痴に、監査官は同情し、手帳にスラスラとメモを書いた。
 監査官の対応にリツコは、笑顔で、ありがとうございます、っとお礼を言っていた。意外とこの監査官と気が合ったらしい。リツコを先輩と慕うオペレータの女性を焦らせていた。
 しかしリツコが真剣な表情に変わり、不可解なことを口にした。
「ですが、おかしいのです。動力炉のような重要な場所にはそう簡単に入り込めるようにはしてませんでした。誰かが手引きでもしなければ…、絶対に入り込めるはずがないのに…。」
「ネルフが誇るMAGIでも感知できなかったっと?」
「そういうことは真っ先に感知するよう命令していたわ。停電が起こる直後までMAGIの定期検診を行っていた時、プログラムの一部が書き換えられていたのを見つけた。MAGIのプロテクトを越えてハッキングを行うなど、この地球上の人間の文明なら地球防衛軍が保有するスーパーコンピュータでもなければ無理だわ。」
「我々を疑っているのか?」
「いいえ。こんなことをしてもあなた方にメリットはない。先ほども言われましたわよね? 今のネルフを狙うなんて世間知らずだと。」
「確かに…、その通りだ。だとするならば他に容疑者に心当たりは?」
「残念ですが、“私は”、まったく心当たりはありませんわね。せめてシステムが復旧さえすれば足跡を辿れるのですけれど。」
「それは、参りましたな。辛抱して待つしか……。ん?」
 その時、監査官の懐にある通信機が鳴った。
 監査官が通信機からイヤホンを伸ばして耳に差し込み、通信を繋げた。
 ノイズが十数秒ほどして、急にはっきりとした声がイヤホンから監査官の耳に届いた。
『おお! やっと繋がったか!』
「こちら、Y−81。通信状況は良好です。どうぞ。」
『そちらの状況を確認したい。何が起こっている?』
「現在ネルフ本部が大規模な停電状態陥っています。現在復旧を急いでいるとのことです。」
『停電? なるほど、そうだったのか。赤木博士はいるのか?』
「ええ。現在、避難場所にした場所に共にいます。」
『できる限り早くネルフ本部から安全に地上へ脱出する経路を確保してしておいてもらえるか? 現在地上では使徒が出現し、溶解液で装甲を溶かし本部を攻撃しようとしている。』
「使徒ですって!?」
 監査官が思わず声をあげると、リツコを始めとしたその場にいた面々が驚いた。
『まだゴジラは、来ていない。だが時間の問題だろう。しかもG細胞完全適応者が行方不明で機龍フィアが出撃できない状況だ。地上部隊が使徒を攻撃しているが、攻撃を少し妨害する程度で撃滅とまではいけない。』
「なんてことだ…。」
 監査官は、地上で使徒が現れていて、戦闘が起こっていることに愕然とした。
 監査官が口にした言葉から出た使徒という単語から、リツコは、現在使徒が第三新東京でネルフ本部を破壊しようと活動していることを見抜いた。
 そしてリツコは、監査官に進言した。
「監査官殿。私、赤木リツコが使徒の殲滅に協力させていただけませんか?」
「りっちゃん!?」
「先輩!?」
 リツコの言葉に加持とマヤが驚きの声を上げた。
「…どういうつもりだ?」
「言葉のままですわ。私は、ネルフで使徒の研究を続ける恐らくこの世界でもっとも使徒に精通した人間です。念のために言っておきますが、これは、私個人の言葉です。ネルフのためではなく、生き残る最良の道を開くために力を貸したいのです。」
「神に誓ってもか?」
「生憎と、神様は信じていません…。ただ、私はここで死ぬつもりはありません。死にたくないから戦うのです。」
 リツコは、一息置いて、しかし…と言い。
「私は拳銃程度しか使えない貧弱な研究者でしかありません。強い戦士の力が必要なのですわ。」
「ほう…? つまり私の護衛として来ている風間少尉達に戦ってもらいたいということかね?」
「その通りですわ。」
「っ…。」
 それを聞いた風間は、訝しげにリツコを見た。
 風間と目が合ったリツコは、笑ってウィンクをした。それを見た風間は溜息を吐いて腕組をした。
「命令なら、俺は構わない。」
「それでいいのか? 風間少尉。」
「怪獣を相手に白兵戦を行うことを想定した訓練を一日と欠かさず続け来た俺達が…、使徒ごときに負けるとでも?」
 風間がそう言うと、それに同調した護衛として来ていたミュータント兵士達が一斉に強い意志を宿した視線を監査官に向けた。ミュータント兵士達の迫力に監査官は思わずたじろいた。
「い、いや…、そんなつもりは…。しかし使徒への白兵戦はぶっつけ本番だ。何が起こるか分からない。」
「あんたが生き残ったら、上の連中にこう言え。『すべては、風間の独断だと』な。」
「な、それは…、風間少尉!」
 風間の肩を掴もうとした監査官の手を振り払い(手加減してます)、念のために持ち込んでいたミュータント部隊に支給される武器の入ったトランクを担ぎ上げ、風間はリツコの前に来た。
「それで? どうすればいい?」
「力を貸してもらえるの?」
「じっとしてるのも飽きたからな。」
「ありがとう。それで、監査官様はいかがされます?」
「……仕方がないですな。生きて外の空気を吸いましょう。」
「感謝しますわ。」
「先輩…、私達はなにをすればいいですか?」
「MAGIが使えない今は、あなた達にやれることはないわ。ここで待機してて。」
「分かりました。」
「そうっすか…。」
「そんな…。」
 日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤは、それぞれリツコの指示に違う反応をした。特にマヤは、リツコの手伝いさえできないことに落胆していた。
 リツコは、ネルフの主力のメンバーに指示し終えると、風間と監査官に向き直った。
「まず、監査官には、地上の状況と使徒の形状などを地上の地球防衛軍から聞いてもらえますか? 現在、地上と交信できる手段は監査官が持っているその通信機しかありません。どうか、お願いします。」
「分かった。こちら、Y−81。地上の戦況はどうなっている?」
 こうして地球防衛軍(ネルフに派遣された監査官と護衛のミュータント兵士達)とネルフの赤木リツコによる秘密の共同戦線が始まった。




 風間達が使徒殲滅のため共闘を始めてた頃。
 地下プラントから出て、初号機を探してネルフ本部の中を移動していたツムグは、自分の足元に転がる複数人の人間を見おろしていた。
「……反ネルフ組織の残党か。それも熱心な信者。匿名で送られた情報で動力炉まで侵入して停電騒ぎを起こした…。本当ならネルフ本部ごと爆破して自決するつもりだったわけか。よくあるテロリストのやり口だな〜。でも実際にやってみたら動力炉を爆発させられず停電止まり。焦って、こうなりゃ物理的に動力炉を破壊しようとしてたところに俺が来て、今こうしてのびてるわけだ。」
 通路に転がるテロリスト達は死んでない。
 2、3日ほど意識不明で、目を覚ましても頭痛のあまりしばらくまともに動けない程度に超能力で精神と脳などの神経細胞にダメージを与えてやったのだ。さすがに熱線を使うと火傷じゃすまない。
 このテロリスト達が侵入した理由と動力炉の稼働を止めるまでの流れとその後のことをツムグが知ることができたのは、テロリストの一人を残して他の者達を昏倒させた後、残った一人をG細胞を持つ者である自分にしかできないゴジラによく似た威圧感と殺意を浴びせて脅迫し、失禁させ、白目をむいて泡を吹かせて隙のできた精神に割って入って脳の中を覗き見たのだ。それで分かったのが、先ほどの独り言の内容である。なお、その他もろもろのあんなことやこんなことも全部見えたのだが、関係ないので除外した。
 テロリスト達をその辺に転がしておいて、ツムグは、頭の後ろで両手を組んで歩きだした。
「さ〜て、さてと。赤木博士と風間達の共同戦線か…。ゴードン大佐が聞いたらまた笑い転げるんじゃないかな。それにしても、赤木博士は、中々人を見る目はあるなぁ。……あの男の愛人ってのを抜けば。ま、元々お母さんの件で複雑な事情があってそういうことになったわけだし、今まで人生を捧げてきたネルフがこのありさまだし、愛想は完全に尽かしてるっぽいけど。あの人を地球防衛軍に勧誘する? ん〜、それは、無理か。っというか、時期じゃない。赤木博士は、地球防衛軍よりネルフにいてもらう方がいい。」
 ツムグは、独り言を言いながら、ブラブラと歩いて行った。
 当初の目的だった初号機だが…、彼は、また完全に忘れており、この数分後に思い出してまた走り回るのだった。




 地上では、地球防衛軍とマトリエルとの戦いが続いている。
 戦いと言っても、一方的にマトリエルに対して地球防衛軍が酸性雨が降ってない遠くから砲撃を行いネルフへの攻撃を妨害しているだけである。
 マトリエルは、淡々としており、当たった個所によっては少しぐらつくも、多く長い足でしっかりバランスを取り、変わらず溶解液を吐きだし続けている。
 他の使徒のように、胴体の部分にある複数の目玉から発射するようなビーム兵器を使う様子もなく、本当に淡々としている。
 それが逆に気色悪い。
 淡々と、地味、だが確実に、マトリエルの溶解液はネルフ本部を覆い隠す、第三新東京という装甲を溶かしていく。
 その時、マトリエルの胴体の斜め下辺りのハッチが開いた。

 メーサー銃を肩に担いだ風間と数名のミュータント兵士達がメーサー銃を構えた。そして斜めすぐ下からマトリエルの目に向かって、メーサー銃の引き金を引いた。
 放たれる閃光。そして潰れたマトリエルの目玉の一つからブシュッと大量の鮮血が噴き出た。
 マトリエルは、ギロリッと残った他の目で風間達の姿を捉えると、足の一本を持ち上げ、風間のいる場所を踏みつけた。
 しかし風間達は、マトリエルが足を振り上げてる間にさっさと潜り込み、その場から退散していた。

「この使徒のコアは、溶解液を吐きだしている目玉に似た部分の中心よ。それを潰せば使徒は殲滅できるわ。」

 風間は、仲間を率いて第三新東京の地下通路を走り抜けながらリツコの言葉を思い返し、別のハッチを開くと、再びマトリエルの目玉(溶解液を出している腹部の目玉じゃない)部分を狙ってメーサー銃を構えた。






 一方、地球防衛軍の基地では。
「ゴジラが東京湾内に侵入!」
「とうとう来たか…。」
「随分と遅い登場だが。まだ機龍フィアは起動できないのか!」
「オートパイロットプログラムの再起動とフリーズを繰り返しているとの報告が…。」
「あああああああ! 椎堂ツムグめ! 本当にどこへいったのだーーー!」
「ツムグ…。」

 ゴジラがついにマトリエルの気配を察知し、第三新東京に上陸するのが秒読み段階に入った。

 ゴジラとの対決で一番の武器であった機龍フィアが万全でない状況。
 ネルフの科学者赤木リツコとの共闘して使徒マトリエルを殲滅戦を白兵戦で挑む風間。
 初号機を探しして彷徨う椎堂ツムグ。


 彼らと、この状況を嘲笑うように、“異変”は、その時をジッと待っていた。



To be continued...
(2020.09.05 初版)


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