星の海の物語

第一話

presented by 黄水晶様


赤。
目の前に広がる海、頭上の空、それらが全て赤く染まっている世界。
全ての生き物がLCLの海に返り、辺りに死の気配が漂う中、唯一人少年が浜辺にうずくまっていた。
少年こと碇シンジは、何も考えず赤い水平線を見つめていた。
一緒に横たわっていた少女・惣流=アスカ=ラングレーは、傷口にあてがっていた包帯とプラグスーツを残しLCLへ返っていった。
一言

「きもちわるぃ・・・」

とシンジに言葉を吐いて・・・

それから長い年月が経った気がする。
「気がする」という言葉は、シンジが数える気がないゆえ曖昧だからだ。
そこには当時と容姿が全く変わらないシンジがいた。
サードインパクトの際、アダムと融合したシンジは、不老といえる体であり使徒と同じ力を使えるまでになっている。
シンジの心境は著しく変化していた。ある種の悟り、とでもいうのか自分に置かれている状況を楽しむようになっていたのである。
自分に足りない知識をLCLから吸収し、実践するのが一種の楽しみになっていた。
特に「戦い」に対する知識を多く求め、それに答えるかのように己の体を鍛え始め、今やシンジの体はサードインパクト前とは比べ物にならないくらい鍛えられていた。尤も、比較する相手もいないのが寂しいことなのだが。
食料探し>鍛錬>LCLから知識の吸収>食事>就寝 というサイクルをシンジは飽きること無く繰り返していた。
ちなみに食事等は不老になった時点で意味が無くなっていたのだが、人間だったころの生活が抜けないのかしっかり摂っている。
これも一種の暇つぶしになっていたので気にもしなかったようだが。

あれから暇つぶしに年数を数え始めて丁度100年。
「ぃ・・か・りくん・・」
いつもの生活サイクルを黙々とこなしていたシンジは声を聞いた。
「ぇ?」
聞き違いかと思い、周りを見たが何もない。
「イ・・かりくん」
「!その声は・・・」
今度は聞き違いではない!この声は!!
「あ、綾波!綾波なんでしょ!?どこにいるの!!」
「目が見えないのかしら?あなたの目の前にいるでしょ?」
「っどわぁ!!」
いきなり目の前にレイがドアップでいるのだからそりゃあ驚くだろう。
「だ、だってさっきは何処にもいなかったじゃないか!」
「それは碇君の修行不足。この程度で文句をいってはダメ」
「いや、修行ってなに!?そんなのした覚え無いし!」
「冗談よ」
シンジの反論をさっと流すレイ。
「それよりも碇君、大事な話があるの」
うって変わって真剣な表情になるレイ。
また冗談かとシンジは思ったが、その表情と伝わってくる雰囲気に思わずシンジはシャキッと背筋を伸ばす。
「碇君、過去に帰れるとしたら・・・帰りたい?」
(過去へ・・・帰る?)
言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
「ぇ?か、過去へ帰れるって・・・どういうこと!?」
「私が長い間碇君の前に姿を出せなかったのは、過去へ戻る方法を探していたから。
 私の力を全て解放すれば、碇君一人だけなら過去へ送り返すことができると分かったわ」
「撲一人って・・・綾波はどうなるの?」
「全ての力を解放したら、私は消えるわ」
「そ、そんな!綾波が消えるなんて・・・そんなの嫌だよ!!
 せっかく綾波が戻ってきたのに・・・綾波!君も一緒にいけないの!?」
シンジはレイが提示した方法に涙を流しながら反対する。
その涙を見たレイは微笑していた。
「碇君、心配しないで・・・これを」
レイが差し出したそれは、丸い赤い石がはめ込まれたブローチと一振りの刀だった。
飾りっ気のない質素なブローチだったが、赤い石は鼓動するかのように明滅している。
「力を使うことで私の肉体は消えてしまうわ。これは仕方の無いこと。
 そこで、力を使うと同時に、この石の中に私の意識を刷り込ませるようにしてあるの。
 このブローチを手にしていれば、碇君は私と話すことができるわ」
「そ、それじゃあ僕達ずっと一緒なんだね!」
「話を途中で折った上、勝手に自己完結しないでほしいわ。
 人の話は最後まで聞きましょうって、どこかで習わなかった?」
一緒にいられることにシンジは安心しつつ、レイの笑顔で容赦ないツッコミで轟沈。地面に「の」の字を書いて落ち込む。
「綾波・・・な、なんかさ、性格変わった?」
「・・・問題ないわ」

「綾波?この刀は?」
シュッと紫色の鞘から引き抜くと、薄い紫の刀身と鍔にはめ込まれている小さな赤い玉が印象的だった。
刀身からはなにやら力が感じられ、ブローチと同じくほんのりと明滅している。
「その刀は碇君の力に応じて日々進化するの。
 今はパッと見ただの刀だけど、今後の碇君次第でドンドン力をつけていくわ。
 力を注げば注ぐほど威力・硬度が増すけど、その代償として手にしている時は、常に碇君から力を吸い続ける欠点もあるわ」
「ええ!?それって下手したら僕やばいんじゃ・・・」
レイのトンでもない言葉にシンジは「こんなの持ってて大丈夫か」と思ってしまった。
手に持っている刀に意識を持っていくと、薄っすらシンジの手が光っていて、それが刀全体を包んでいるようだ。
地面に置いて少し離れると、微妙すぎてわかりづらいが、なるほど確かに疲労感が感じられる。
洒落にならない。
もし、ふとしたときに刀の吸収力が高まった時はどうなるんだろう。下手したら動けなくなるのではないのか?
戦国時代でよく伝えられる「妖刀」と大差ないものである。
「大丈夫、常時吸い取る力は碇君自身には微々たるもの。
 なにより力の扱いに慣れていかなきゃ、過去へ帰ったとしてもなにもできないわよ」
「そ、そうなんだ・・・でも不安だなぁ」
すこし弱腰になっているシンジをみて、レイの目が怪しく光る!
「行動する前に消極的になるその性格。
 碇君、あなたこの100年・・・なにやってたの?
 ただ漠然とこの赤い世界で毎日過ごすのを、赤木博士が見たらこう言うわね。
『・・・不様ね』って」
「うぐはぁっ!!」
レイの口撃!痛恨の一撃!!シンジは心に100のダメージ!!!
「うう・・・やっぱ綾波性格変わってるよぉ」
「・・・時間が人を変えるのよ」
なにやら答えになってない答えを言いつつレイは明後日の方向へ顔を背ける。

「碇君、それじゃあ準備はいい?」
さっきまでのどこか緩い雰囲気が引き締まる。
「うん。いつでもOK」
服はいつも来ていた学校の制服、首にブローチ、手に握るは己が身を守る一振りの刀。
シンジは幾分、緊張しているが笑顔でレイに答える。
「始まるわ、碇君わたしの手を掴んで念じて。過去へ戻る、この不幸な未来を変えたいと」
シンジは言われた通り、レイの手を握る。
レイは目を瞑り力を解放する。それを見てシンジも目を瞑り、祈る。
(レイと一緒に過去へ戻りたい!人類補完計画を阻止して、この赤い世界を作らないようにする!
 今度こそ、今度こそみんなを助ける!!)
この思いに答えるかのように、閃光が2人を包んでいく。
その光は徐々に大きく、全てを包むかのように広がり、

赤い世界がすべて白に染まった。





「ん・・・眩しい・・・」
眩い光と共にシンジは目がさめる。
気を失っていたのか、ぼうっとしつつも辺りを見る。
青々と緑溢れる木々、その隙間から太陽の光が差し込み、幻想的な風景になっている。
(赤いあの世界じゃない・・・ということは無事過去へ帰ってこれたのか?
 それにしても、僕はこんな場所はしらないぞ?)
ゆっくり立ち上がり、深呼吸をする。
自分のいた所とは比較にならないほど空気が澄んでいた。
(撲達がいつも吸ってる空気とは全然違う・・・
 こんなに空気がおいしかったなんて知らなかったよ)
その空気をもっと堪能しようと、吸い過ぎて多少クラクラしてしまった。
幾分、落ち着いた所で現状確認。
いつもの格好、それに首のブローチ、腰の刀、なにも欠いてはいない。
シンジはブローチを手にして、頭の中で問いかける。
『綾波?聞こえる?』
『・・・ええ、問題ないわ』
手にしたブローチがほんのり光、その後レイの声が頭の中に響く。
『綾波。ここは一体何処なの?
 てっきりミサトさんとの待ち合わせ場所まで戻るのかと思ったけど』
『ここにいるだけじゃわからないわ。碇君、とにかく行動して確かめるのよ。
 あと、私と話す時は一人でいる時のほうがいいわ。他人から見たら変にみられるから』
『うん、わかった。とにかくこの森の出口を探してみるよ。
 何かあった時だけ話かけるから』
話が終わり、シンジは森から抜けるため行動を開始する。
殆ど獣道にしか思えない所を刀で草を切り分けながら進む。
そうこうして1時間たっただろうか、少し開けたところに出たシンジは人が倒れているのを発見する。
「大丈夫ですか!?しっかり!!」
駆け寄り、シンジは声をかける。
その人は男性で、金髪ショートヘアーに赤いバンダナ、薄茶色のジャケットの下には黒のTシャツ、白いズボン。
脈を計り、生きている事を確認してほっとするシンジ。
「うう・・・」
その時、うめき声と共に男性が目を覚ます。その目は青かった。
「こ、ここは・・・?」
「よかったぁ、気がついたんですね?
 あなたはここで倒れていたんですよ。外傷は特に無し、脈拍も正常です。」
「君が助けてくれたのか、ありがとう」
礼をいうと男性は辺りを見回し、驚きの表情を作る。
「どこだ!?ここは!!」
「え?あなたここの人じゃないんですか?」
「いや違う。僕は惑星ミロキニアで調査をしてい・・・!?」
男性は「しまった」と思い、口を閉ざす。
「ミロキニア?ここは地球じゃないんですか??」
「なに!?」
男性はシンジの言葉に反応し、ポケットからなにやら通信機らしい機械を取り出し、操作する。
「いや、ここは地球じゃないな。地球連邦のデータにない惑星らしい」
「ぇええ!?」
シンジは驚いて声が上ずる。
(どういうことだ?僕は過去へ戻ったんじゃないのか?
 綾波、これは一体・・・)
「それよりも君。なぜ地球のことを知っている?」
 他の惑星から来たのだとしたら、未開惑星保護条約違反だぞ!!」
男性はシンジと間を開け、銃をつきつける。
その銃はリボルバーやオートマチックとは全く違い、弾装らしきものは一切ない。
どんな形をしていても銃は銃だ。シンジはいきなりのことでわけが分からず固まってしまう。
「ちょっとまってください!!未開惑星保護条約ってなんですか!
 いやそれよりも、その地球連邦ってなんですか!地球にそんなものがあったなんて知りませんよ!!」
「な!?君はどこの惑星の出身だ!」
「地球以外ないじゃないですか!それに地球のほかにも人がすんでいる星があるんですか!?」
シンジの言葉に男性はとまどいを隠せない。地球を知っているのなら地球連邦を知らないはずがないし、未開惑星保護条約も知っているはずだ。なのに、目の前にいる少年はそれを知らない。
「君は本当に地球出身なのか?」
「さっきからそういってるじゃないですか!」
「・・・にわかに信じられないが、君が嘘を言ってるように見えない。
 一時このことは保留にしよう。まずはここからでるのが先決だ」
納得していない様だが、ホルスターに銃を収める。
「そうですね。この森から出たらお互いの事を確認しましょう。」
「僕の名前はクロード=C=ケニー、地球連邦軍少尉だ。クロードって呼んでくれ」
「碇シンジです。僕のこともシンジって呼んでください」

その後、クロードとシンジは森を抜けるためにあっちこっち歩きまわっていた。
数時間経過しただろうか。
「ん?クロードさん。人の声がしませんでしたか?」
「いや・・・僕には聞こえなかったが?」
シンジは足を止め、周りに神経を集中させる。
クロードも周囲を警戒するが、シンジの言った人の声は全く聞こえない。
「シンジ君の聞き違いじゃないのかい?」
「いえ、確かに聞こえたんです。
 ・・・・・・やっぱり!前方から声が聞こえます!」
クロードには聞こえないが、シンジは2度目で確かに声を捕らえた。
これはアダムと融合した故に手に入れたシンジの力。聴力も人の数倍はあるだろう。
「いきましょうクロードさん!」
「お、おい!待ってくれ!」
いきなりダッシュして進むシンジに、慌てながらもついていく。
うっとおしい草木はダッシュしつつ刀で切り進む。
獣道を抜けた場所は、いままで歩いた中で最も広い空間だった。
「はぁはぁ・・・し、シンジ君って結構速いんだね。
 見失わないでいるのが精一杯だよ・・・ぜぇぜぇ」
息を切らしつつクロードも合流する。
シンジはクロードを無視しつつ辺りを見回す。
その表情は真剣なもので、クロードもそれを見て警戒する。
「きゃあああああ!!!」
その時、甲高い女性の悲鳴があたりに響きわたる!
「「!!」」
それを見たとき、2人は反射的に駆け寄る。
そこには腰が抜けたのか、地面にへたりこんで動けない少女がいた。
青いショートヘアーに三日月型の髪飾り、青い目、見たこともない服装の彼女が、体長3mにもなるだろう、ゴリラにも似た化け物に正に襲われそうになったその時、
「はぁあああ!!」
気合と共に腰に差してある刀を抜き、化け物に切りかかる!
ブシャア!
少女と動物の間に割って入り、張り倒そうとした化け物の指を切り飛ばす!
ウギャアアアオオォア!!
悲鳴をあげ、化け物は2,3歩シンジから下がる。
シンジは細かくステップをして立ち位置を変えつつ腕や足を切りつけ、少女からこちらへ意識を持っていかせようと奮闘する。
予想通り、化け物は対象を少女からシンジに切り替え、怒りの咆哮と共にでたらめに腕や足を振り回す。
すべて紙一重で回避していくシンジだが、ステップで後ろに下がる時、石に足が引っかかりバランスを崩す。
それを見逃すはずがなく、化け物の渾身の力で振りかぶった腕がシンジを捉える。
「ぐあああ!!」
咄嗟に刀でガードをしたが、巨体から生み出される力に吹っ飛ばされ巨木に激突する。
追撃をしかけるため、化け物がシンジへ突進する。
(ぐ!バランスを崩した際、ATフィールドでの身体強化が一瞬解除されたか・・・
 モロに受けたから痛みで次のATフィールド張るまで時間がかかる!)
普通の一般人ならあれで死んでいる。
これもシンジの力の1つ、ATフィールドによる身体強化である。
普段はATフィールドを張っていないのだが、それでも常人の4,5倍の能力をもっている。
戦闘の時に限り、ATフィールドを身体に纏いダメージを軽減したり、攻撃力をあげたりするのだ。
その際のシンジの身体能力は、張っていない時のさらに10倍にもなるのだが、こちらは常にフィールド展開に集中しなければいけないので、僅かでも想定範囲外の事で意識が逸れればATフィールドが解除される。
赤い世界での100年間、どうにか改善しようと色々考察していたのだが、結局不可能だった。
巨木から剥がされ、膝をつくシンジのすぐ前方に動物が迫ってきていた。
時間がかかるといってもほんの数秒。だが、戦場ではその数秒が正に命に関わるのだ。
それでもATフィールドを張りなおそうとして、内部にあるS2機関を全開にしようとしたシンジに声があがる。
「シンジ君!横に大きく飛べ!!」
化け物の後ろには、クロードが銃をこちらに向けている姿がみえた。
シンジは大きく横へ飛び、化け物の攻撃が地面にめり込んだ際の隙をクロードは見逃さない。
「くらええええ!」
ゴォォオオオオオオオオ!!!
銃口から放たれた物は銃弾ではなく、極太のレーザーのようなものだった。
化け物は突如あらわれた光に対応できるはずもなく、光につつまれた。
断末魔すらも飲み込むかのような光の後には、化け物がいた部分に灰が積もっていた。

「すごい・・・」
シンジはクロードの持つ武器に驚きを隠さずにはいられなかった。
明らかに自分が住んでいた世界には無い武器だった。
似た武器といえば、ヤシマ作戦時のポジトロンスナイパーライフルだが、あれは日本中の電力をかき集めやっと発射できたものだし、エヴァでしか扱えないほど大きい代物である。
それゆえに、この世界は自分がいた世界とは違うものなのではないかと疑問をもち始めた。
クロードは地球連邦という組織の少尉といった。
ということは、あの武器は一般兵に支給される消耗品程度の代物ではないのか。
そして、あんなのが支給品だとするのなら、もっと強力な兵器があるかもしれない。
(あんな強力な武器が僕の世界にあったら・・・
 いけないいけない!あれは明らかに僕の世界には過ぎた物だ。)
シンジは頭をブンブン振り、考えを追いやる。
今はそんなことを考えている時ではない。
シンジは刀を鞘に収め、クロードと少女の所へ歩いていく。
「シンジ君!大丈夫か!」
クロードは心配そうにシンジに声をかける。
シンジはクロードに「大丈夫です」と笑顔で答える。
「シンジ君・・・本当に大丈夫かい?
 あれだけ強く叩きつけられて、どこも怪我はないのかい?」
「いえ、本当に大丈夫です。
 僕はこう見えても結構タフなんですよ?」
シンジの言葉にクロードは内心汗を流して、苦笑する。
(おいおい、あんな強烈なの喰らって平気な顔できるのか?
 シンジ君って一体・・・)
「それよりも、女の子は無事でしたか?」
そう言いつつシンジは少女を見る。
目が合ったときにビクッと震え、すぐ目を逸らした。ちょっと哀しい。
「逃げる際に足首を捻ったらしい。
 応急処置をしたから、無理に動かなければ大丈夫だよ」
確かに、右足首に包帯が巻かれている。
大した怪我もなく、ほっとしたシンジであった。
「それにしても、シンジ君は凄いなぁ。
 化け物相手にあの動き。かなり鍛えている風に見えたけど?」
「ええっと・・・我流ですよ。
 身体を鍛えるのは嫌いじゃないし、剣術もある程度齧ってるだけです」
さすがに「他人の記憶を吸い取って覚えました」とは言えないので、それっぽい嘘を並べる。
「それでも凄いよ。今度お手合わせしてもらえるかな?」
「ええ。余裕ができたならお相手しますよ。
 それよりも、あの子を送っていきましょう。
 運が良ければ、あの子の村なり町なりでこの惑星の情報が集るかもしれませんよ」
2人は頷き合い、少女の元へ戻る。
少女は2人が自分に近づくにつれ、不安な表情を浮かべ後ずさる。
その姿に、シンジは恐がらせないようにニッコリと笑顔をむけて喋る。
「君、怪我はなかったかい?」
「・・・」
シンジの言葉を聞くも少女は口を開かない。
「え、えーと・・・」
「・・・」
いつまで経っても無口なのでシンジは困ってしまう。
その時、クロードが前に出て「僕が変わるよ」と目で言ったのでシンジは一歩さがる。
「ごめんね、恐がらせちゃったかな?
 あの化け物はやっつけちゃったからもう大丈夫だよ」
少女はクロードをジッと見て
「・・・あ、ありがとうございます、助かりました。
 そちらの方もゴメンなさい。お礼を言いたかったのに緊張しちゃって・・・」
おずおずと話しつつ礼と謝罪する。
「いや、そんなに畏まらなくても・・・困った時はお互いさまだからね」
「そうそう。君は謝らなくても全然もんだいないんだから。」
2人の言葉に安心したのか、少女はクスッと笑う。
「あ、申し遅れました。
 私はレナ=ランフォードと言います。」
「僕はクロード=C=ケニー。クロードと呼んでくれ」
「僕は碇シンジ。シンジって呼んでくれればいいよ。
 それはそうとレナさん、その足じゃ家に帰るまで辛いでしょ。僕たちが送っていくよ」
シンジの提案にレナは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そんな、悪いですよ。これくらいなら自分で帰れますから。
 ・・・っつ!!」
無理に立とうとして、足の痛みから顔をしかめる。
「無理しちゃだめだよ。それにさっきの化け物の仲間がいないとは限らないし。
 今度出合ったらそれこそ命ないよ」
シンジの言葉に少女は顔を青くする。
とても恐いことがあった後なのに、また恐い思いをするのかと考えているようだ。
「僕たちはそれなりに腕が立つから、化け物がまた出ても君に近づけさせたりしないよ。
 それにやっぱこんな森の中で一人でいるより、3人でいたほうが安心して帰れるでしょ?」
「・・・わかりました。クロードさん、シンジさん、よろしくお願いします。」
シンジの説得で折れたのか、レナは承諾する。
「そうと決まったらとっととこの森から出ましょう。
 クロードさん、レナさんをおぶってください」
「えぇ!僕が!?」
シンジの指名にクロードとレナは顔を赤くする。
「なんで顔を赤くしてるんですか。
 体格的にクロードさんがおぶったほうがレナさんも安心できるじゃないですか。
 それにクロードさんの武器ってあの銃みたいなのしかないでしょ?
 いざという時には、僕の刀のほうが対処しやすいんです」
「な、なるほど確かに・・・レナさん、さぁつかまって」
クロードが説得力あるシンジの説明に納得し、レナの前にしゃがみこむ。
レナは最初は戸惑っていたが、クロードにおぶってもらう。
「さあ、いきましょう。レナさん、出口まで案内してください」
「は、はい。森の出口は、左のわき道をまっすぐ進めばすぐに見えます」
レナのナビどおりに進んでいくと、それなりに人が通るのか、踏みしめられて地肌がむき出しになった道がポツポツと出てきた。
「レナさん、この森にはいつも人が入ってくるの?」
「ええ、この森でしか取れない薬草や食材もありますので。
 でも最近魔物がよく出るようになったので、ここを利用する人も少なくなっています」
「魔物って・・・あのドデカイ化け物の事だよね?」
「はい。人を襲わない動物が凶暴化して魔物になるんです。
 知らなかったんですか?」
「え?・・・ああ、あんなに大きいのは初めてだったんで、ちょっと驚いただけだよ」
シンジの言葉に眉をひそめるレナだったが、クロードの言葉にすぐ表情を元に戻す。
「ここの魔物を知らないという事は、お二人とも旅の方なんですか?」
「え?あ、まあ、そういうことになるかな・・・?」
「どこから来たんですか?私、この大陸から出たことないんですよ〜」
2人を旅行者と勘違いして、嬉々として聞いてくる。
当然2人はこの世界を知らない。大陸や街の名前が出てくるはずもない。
シンジが焦る中、クロードはなにかを試すようにこう言った
「・・・地球ってとこなんだ」
「クロードさん!」
クロードの発言にシンジは戸惑うが、クロードの目には「任せて」という意味が込められていて、黙る。
レナはクロードの言葉に「?」の文字を浮かべる。
「チキュウ?どこですかそこは?」
(やっぱり・・・未開惑星だから知ってるはずがないんだよな。)
「うーんと・・・ここよりも遠いところにあるんだ。
 そう・・・ずっと。とてつもなく」
「・・・ここよりもずっと遠くですか?
 エル大陸よりも遠いんですか?」
見知らぬ単語が出てきたので、クロードは「・・・そうだね。そこよりもずっと遠いかな」と曖昧に答えた。
(この会話を聞く限り、僕の世界とは全く違うことが強くなってきたかな
 それにここは地球ですらない・・・綾波、僕はやっていけるのかな)
先行きが見えないこの世界に、シンジは不安を覚えるのだった。



To be continued...


(あとがき)

このたび初投稿させていただきます、黄水晶です。
この作品は、過去へ飛んでいったと思っていたシンジが全く違う世界に跳ばされたという「異世界物」になっています。
クロスしている作品はスターオーシャン2、一番やりこんだ作品を出させていただきました。
拙い文章ですが、なんとか完結させるよう努力いたしますので、どうかよろしくお願いします(A;´д`)

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