「泣かないで・・・私はシンジと出会えて・・・とっても幸せだったわ」

動かなくなってしまった体をベットに横たえ、彼女は僕を見つめながら、話す。

一体、なぜ彼女はこんなに優しいのだろう?

何もできなかった僕にまで。

「でも・・・僕は結局君のために何もできなかった・・・。」

「もう、大きくなってもそんな所は変わらないんだから。」

「ごめん・・・。」

「こらっ、怒るわよ」

そう言って、優しく僕に言い聞かせる。

「シンジ・・・私はあなたを真剣に愛してるわ。

だから、泣かないで・・・。」

情けない・・・最後まで、君に心配をかけてしまう僕。

「・・・うん。でも」

「んっ?でも?」

どうしたの?って目で、問いかけてくる。

「どうしても・・・耐え切れないとき・・・その時は泣いてもいいかな?」

彼女は僕の言葉に少しだけ驚いた顔をして、涙を一滴流すと、

「ええ。その時は2人で泣きましょ?」

寂しそうな笑顔を浮かべ、そう言った。





これが、僕と君がこの世界で最後に交わした言葉。

彼女はこの日の深夜、僕に「ありがとう」って言葉を残し、

手の届かない世界へ旅立った。

もう届く事のない僕の気持ちも一緒に連れて。










君を想い、涙を流す・・その時は


presented by hot−snow様











「来ました!!!一目見ようと、大勢の人が押しかけ、空港は大パニックを起こしています」

テレビの向こうで、リポーターが大声を張り上げ、声高に叫ぶ。

「ついに碇 シンジさんがこの日本に降り立ちました。

今回の凱旋帰国については、謎に包まれていますが、一部の情報では亡き恋人の命日に、世界的バイオリスト

である、妹の碇 レイさんとコンサートを行うとの事です」

リポーターが情報を告げる後ろではシンジが、ファンに囲まれながら、通路を通っていく。

その表情は見事に無表情を保ち、問いかけてくるマスコミの質問にも答えない。

「シンちゃん・・・」

私はそれを見ながら、唇を強くかみ締めた。

その際に、唇から流れる一筋の血。

「彼は変わってしまったわね・・・。」

「ええ。」

「でも、良かったかもしれないわ・・・。それほどまでに、アスカの死は大きかったんですもの。

正気ではいられない。仮面を被らなくては生きていけないほどに。」

そう言って、沈痛な表情で下を向く、リツコ。



彼女はアスカを死から救う事ができなかったことを誰よりも後悔している。

原因不明の奇病に冒されたアスカを何よりも必死に救おうとしたのはリツコだった。

それは、自分が今までしていた非人道的な行為の贖罪だったのか、医師免許を持つ故の正義感だったのかそれは分からない。

事実として、彼女はアスカを必死に救おうとした。

救えない、死を待つより他に道はない。と分かったとき彼女はシンジ君、アスカに土下座したのだ。

「ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい」と。

何日も家に帰っていないのか、ボサボサになった髪を振り乱し、必死に謝るその姿は・・・

まるで、もう許してくださいと言っているようで、複雑な気分だった事を覚えている。

そのリツコを、シンジ君とアスカは許した。

なぜなら、彼らはもう諦めていたのだから。

そして、それから3日後、アスカはこの世を去った。

それが、悪かったか、良かったかは分からないが、リツコはまた1つ贖罪のチャンスを逃し、

この10年間ずっと罪を背負い続けている。








そして・・・シンジ君は、

泣きもせず、怒りもせず、「さよなら」と告げたアスカの告別式。

その翌日彼は母親ユイの唯一の形見であるチェロだけを持ち、NERVを去った。

その際、ヨーロッパを選んだのにはびっくりしたが、もうNERVに関わりたくないという言葉を聞いていたので、

勢力が及ばない地域を選んだ事が分かると、やけに納得したものだ。

それから、1年が経ち、2年が経ち、彼の記憶は私の中から段々と消えていった。

悪い事をした。とは思っていたが、仕方ないことだ。と自分の中で割り切れていただけ、リツコとはまた違ったのだろう。

そして、10年たった今日・・・彼は世界的なチェロリストとなって、日本にまた帰ってきた。

「悲しみのチェロリスト」の異名と私の苦い記憶と共に。

そう・・・彼の奏でる音は悲しさを帯びている。

それが彼の演奏を一度でも聴いたことのある者の一致した答えだった。

そして、彼の演奏するコンサートは必ず自殺者が出る事でも有名であった。

しかも、それは突発的な行動ではなく、必ず遺書が見つかるのだ。

愛しい人にあてたラブレターという形で。

何がそうさせるのか?

それは死んだ人に聞かなければ分からない。しかし、共通に残された言葉・・・「生きることが怖い」

一体、彼らは何をこの世界に見出したのか?





「シンちゃんはどうするつもりなのかしら?」

「それは分からないわ。」

「ここでコンサートをするんでしょ?アスカのお墓の前で。」

「ええ。場所は閉鎖された元NERVにあるジオフロント。観客はマスコミ、彼の元友人・・そして、世界の要人達よ」

その答えに、そうか、と私は一言呟き、2時間後に迫っている彼との再会の準備を始めた。














「寂しい場所やな・・・」

「そうね」

壊れた天井に、川の跡・・・かつてこの世界の在り方を決したジオフロントにはそれだけしか残っていなかった。

「こんな場所でセンセは楽器を奏でるっちゅーんかい。どないしてや?」

「分かるでしょ?ここでアスカが眠ってるからよ・・。」

私はアスカの名前を呼び、胸に痛みを覚える。

彼女は、10年前・・・私が知らない間にこの世を去ってしまった。

碇君と仲良く手を繋いで歩く姿が最後に見たアスカの姿。

幸せそうだったのに・・・

「センセは辛かったやろな・・・」

「ええ。」

「実はワイ・・・センセの音楽一回しか聴いたことないんや・・・」

「知ってるわ。あなたを寝室に運ぶの苦労したもの」

自分の夫であるトウジが辛そうに顔を下げる。

彼は碇君の映っているテレビや、発売されているCDを全部買っている。

それは、どんなにお金がなくても・・・・ずっとだ。

なのに、それらが開けられ、家に響いた事・・・それは、一度しかなかった。


ある日、家に帰ると、大声で泣くトウジの声と、響き渡る悲しい音。

その瞬間悟ったのだ。

これは、アスカのために捧げられた碇君の恋文だと・・・。

拭っても、拭っても、止まらない涙を諦め、リビングに向かうと、

そこには、床に頭をこすりつけ、泣き叫ぶトウジの姿があった。

周りには投げ付けられた食器の山。

彼は、音楽が終わり、泣きつかれて寝てしまったけど、私はアスカを思い、泣いた。

誰にも忘れられない人・・・生きて欲しかった人がいる。

碇君の音楽はその人を必然的に思い出させる。

だから、せつなかった。


「センセは親友や。例え、恨まれてもワイはセンセをとめるで?邪魔するなや」

「分かってる。私もアスカの思い出を悲しさだけで終わらせたくはないもの」

突然の帰国。アスカのお墓の前でのコンサート。

理由は1つしか思いつかなかった。























「碇・・・そろそろ始まるぞ。準備はいいか?」

「ああ。」

私の声を待っていたのか、碇はやっと重い腰をあげる。

「碇、分かっているな?このコンサートの意味を?」

「分かっているよ。何があってもシンジをユイのところには行かせはせん。老後の楽しみをなくすわけにはいかんからな」

そう言って、無理に笑顔をつくる。

しかし、私は碇が少し震えているのに気づいた。

「碇、大丈夫だ。シンジ君は死なせない。それが、アスカ君との最後の約束だからな」

「あぁ。」


アスカ君を看取ったのは、私と碇だった。

急な容態の変化に、着替えをとりに帰っていたシンジ君は間に合わなかったのだ。

その時に交わした約束。

「シンジを・・お願いします」

苦しいのに、必死に言葉を紡ぐ。

その光景は枯れたはずの涙を私にもたらせた。

「分かった・・・。約束しよう」




私は碇の泣いてる姿は見た事がない。

でも、シンジ君のCDの発売日には必ず休む。

たぶん、家で聞きながら、一人で泣いてるのだろう。

愛する息子にした自分の行為を後悔しながら。

「無理しおって・・・愛しくて、愛しくてたまらんくせに」

「んっ?何かいったか?」

「いいや。何も」

「そうか。」

クビを捻り、納得がいかない表情を浮かべる碇を横目に見ながら、

決意を胸に足を進める。

ただ1つ、胸に引っかかること。それは、共演者であるレイの心の中。

彼女は何を思い、このコンサートへの出演を了承したのか?

もしかしたら・・・

彼女はすべてを知った上で、シンジ君に賛同したのかもしれない・・・。



















「碇君・・・本当にいいの?」

「ああ。いいんだよ。綾波、最後まで迷惑かけてごめんね」

「ううん。いい」

碇君はそう言って、寂しそうに微笑む。

私はその笑顔に胸が痛むのと同時に、嬉しくもあった。

私の前では、表情を出してくれる。例え、それが彼を苦しめる事でも。

彼の愛情がアスカにのみ向けられていることは知っている。

だからこそ、碇君の幸せを願うなら、彼はアスカと共にあるべきなのだ。

なのになぜ、皆は死ぬ事を止めようとするのだろう?私には理解できなかった。

「この世界での僕の最後の恋文・・・。アスカに捧げよう」

その時の碇君の表情を私は一生忘れない。

だから・・・大丈夫。

この瞬間の碇君は私だけのもの・・・。

それだけで充分だから。




碇君・・・あなたを失って、私は寂しさを覚える。

あなたの変わりに人間になるの。

だから、平気よ。少なくとも今はね。






















「ついに聴ける・・・」

私はこの日をずっと待っていた。

恋人が自殺したあの日から・・・ずっと。


私の婚約者であったケンスケは、友人であった碇シンジのコンサートの帰り道で自殺した。

それは、2年前のニューヨークでのこと。

死ぬ直前、彼は私に電話をしてきて、「世界がどうとか?怖い?」

とか言っていたのを覚えている。

しかし、仕事で疲れていた私は言葉をうまく返せもしなかったし、よく憶えていない。

眠気がさめたのは、彼の「じゃあな、また会おう」

という言葉と共に、電話口に聞こえてきた悲鳴であった。

もし、あの時に戻れるなら、私はケンスケを説得できるのかな?

今日はそれを知りに来た。

彼は何かしらに絶望し、この世を去った。

それは間違いない。

だから、今日それを確かめるんだ。

世界各地で起こった碇シンジの音楽によって、死んだ人々。

それの謎が今日明かされる。

テレビカメラ・・・そして、私たちによって。













ザワザワザワ・・・

「ついに始まるか・・・」

「ええ。」

あと5分でシンジ君の演奏が始まる。

プレミアがつく彼のコンサートが生で聞けるとあってか、招待客達は少し興奮気味で周りの人と話をしている。

その様子はシンジ君が如何に有名に・・・遠い場所に旅立っていったのかを如実に表していた。

しかし、それを今は嬉しいと思う。彼はアスカの死を乗り越え、世界のトップまで上り詰めたのだ。

「ねえ、リツコ?」

「なぁに?」

「シンジ君のコンサートは一部では呪われてるって言われてるのよね?

なのに、なんでこんなに人気が高いの?

オカルト好きな人たちなら、ともかく、世界の要人達が好き好んでくるようなものじゃないでしょ?」

シンジ君が帰ってくると知ってから、必死にかき集めた情報。

その中で、1つだけ引っかかるものがあった。

しかし、リツコは、私のそんな素朴な疑問に、少し驚いた顔をすると、呆れたような話し出した。

「ミサト、あなた何も知らないのね。

彼の音楽には・・・聞こえないはずの・・・”歌”が聞こえる事で有名なのよ。」

「歌?」

「そう、歌よ。

シンジ君が奏でる音は、そのまま歌として観客に伝わるの。

”悲しみ”も”嘆き”も”歪み”も”憎しみ”もね。

だから、彼は音楽界の中でも別格的存在・・・」



「それが自殺者が出る原因?」

「そうね、間違いないと思うわ。シンジ君が感じている100分の1の悲しみでも、私だったら死んでしまうもの。

そして、彼の音楽から聞こえる声は、彼の中から、少しだけ漏れたものよ。

それだけでも、絶望するものは多く存在するわ」

「ということは・・?」

「ええ。彼の音楽は人をも殺せる劇薬って事よ・・・。

彼がすべてを開放し、負の感情を隠さずに音に乗せたときには・・・私たちにはどうすることもできない。

ただ、受け入れるしかないの。」

それが、音楽でしょ?

そう言って、前を見つめるリツコ。

「さあ、始まるわよ、シンジ君。あなたの悲しみを見せて頂戴。

もう隠す必要も、抑える必要もないでしょ。ただ私はそれを受け入れる。」

と前を見たまま、呟くと彼女は一言も言葉を話さなくなる。

彼女が望むもの。。それは無なのだろう。


















「コツコツコツ」

静まり返ったジオフロント。

僕の靴の音だけが響く。

そうこの場所だ。懐かしさがこの胸に溢れる。

10年前、アスカの葬儀が行われ、埋められた地。

最愛の人が眠るこの場所で僕は音楽を奏でる。

僕の最後の瞬間には、ふさわしい。

「感謝しています」

それだけ僕は言葉を発すると、綾波に合図し、音楽を始める。

みんな、聴いて貰っていいかな?

今日というこの日に、僕はすべての悲しみを開放し、アスカへ愛を捧げるよ。

だから、僕の音楽を聴いて?

皆の最後の日になるように・・・これ以上、恐怖を感じなくていいようにさ。











「♪〜♪〜♪〜」

(その音楽は・・・悲しみに満ち溢れた歌。

あなたのいないこの世界で、あなたのためだけに旋律を奏でる。

なんのために?

愛する人を失った喪失感を・・・

その時、味わった無力感を・・・

そして、この世界に君がいないという絶望を、みんなで思い出すために。)





「嘘でしょ・・・詩が・・・」

頭の中に響き渡る声。

その声には、聞き覚えがあった・・・

儚げに、すべてを諦めた笑顔を浮かべ、アスカの遺影を見つめていた・・・

10年前の碇君。

あなたが歌っているの?








(1人では抱えきれないだろう?

だからって、忘れてしまうのかい?

狂ってしまうから?

壊れてしまうから?

この世界に絶望してしまうから?

なんだって、いいじゃないか。

ただ1つの真実。

君の愛する人は、この世界には存在していない。)







「や・・・め・・・て」

なんとか、途切れ途切れ声を出す。

周りを見渡せば、押し付けられる寂しさに、涙を流し、自らを抱きしめる人たち・・・。

そう・・・寂しい。

でも、分かち合えないから・・・皆は自分を抱きしめる。






私にはケンスケの気持ちが分かった気がした。

そっか・・・。

ケンスケは怖かったんだね。

あと少し・・・あと少しだけ待ってて。

あなたの親友の詩を最後まで聞いていくわ。

そしたら、また会いましょう。







(だったら、君はなんで生きるの?

もう、その隙間を埋める事はできないのに・・・

なんで、生きるの?

もう、希望なんて、君がいない世界で求めることができないのに・・・)








もう忘れる事ができないほどの強烈な悲しみ。

それが、段々とこの身を凍てつかせる。

私はこの感情を知っている。

いいやっ・・・今、思い出したのだ。

サードインパクトから帰ってきた時、喪失と一緒に味わった寂しさ。

せっかく、忘れていたのにね・・・

碇君・・・あなたは・・それを思い出せて何をする気なの?










「シンジ・・・」

もう、私には何もすることができない。

ユイを失った瞬間、世界を憎んだ。

そのことを知っているから。

お前は私に似てしまったんだな・・・・。

それは、嬉しくもあり、寂しくもあり、自分という存在が心から憎かった。







(こんな世界はいらないよ。

皆が悲しみに暮れ、すべて狂ってしまえばいい。

愛する人?希望?求められているから?

はははっ。

笑わせないで。

そんなもの・・・いつかは消えてしまうものばかりじゃないか。

また味わうつもり?)








「あなたは・・・」

碇君が分かった気がした。

すべてを呪っているのね。

アスカを奪ったこの世界を・・・

アスカを吐き出したこの世界を・・・

だから・・・すべてに悲しみを?


そんな時・・・







「♪〜♪〜!!?」

いきなり止まる音楽。

そして、頬にあたる冷たい感触。

おそるおそる、目の前を見た。

そこには、涙を流す、碇君。

何かを慈しむように、手を広げ、空を見上げている。







「アスカ・・・君も泣いてくれているのかい?」

壊れた天井から、ゆっくりゆっくり落ちてくる雪。

僕は、それらを零さない様に手を広げる。

これは、アスカの涙なんだろう。

10年前、交わした約束。

「アスカ・・・守ってくれたんだ」

胸に愛おしさが溢れ、アスカの泣き顔を思い出す。

そうだ・・・君はこんなにも優しくて、こんなにも美しかった。

僕は・・・君さえいれば、何もいらなかったのに・・・



なぜ・・・あなたは・・・アスカを排除なさったのですか?








無知なあなたへ。

選択を間違えたあなたへ、報復を与えよう。

あなたが選んだ民衆へ、音を届けてあげる。

下準備は終わっているんだ。

さあ、響けよ。









僕は再び、チェロを構えると、静かに弦を走らせた。














(アスカのいないこの世界を・・・

アスカを捨てたこの世界を・・・

僕は心から憎んでいます。)







(そして、こんな世界で幸せそうに暮らすあなた達に伝えよう。

僕の憎しみと悲しみを。

無力感と脱力感を。

そして、真っ黒に染まった絶望を。)







これから僕と同じ思いを体験するだろうあなたたちへ。

この思いを届けよう。







最後のメッセージが放たれ、詩は終わりを告げた。

でも、私たちは一歩たりとも動けない。

私は1人だ。

その事実に、震えるばかり。排除される立場を思い知るばかり。

大切な人は、諸刃の剣。

トウジ・・・あなたが怖いよ。




そんな私たちを・・・涙を流しながら彼は、壇上の上で満足そうに見つめていた。

何かに成功したような、嬉しさを隠そうともせずに。

そして、ひとしきり空を見つめると、傍らに、いるはずの綾波さんに声をかける。

しかし、返事はなかった。

それも、そのはず、彼女はもう死んでいたのだから。

口元から、溢れる血。

私はそれを見て、なぜかうらやましいと思ってしまった。

だって・・・彼女はもう恐怖を感じなくてすむのだもの。






綾波も仕方ないね。

初めて自発的に憶えた感情が、恐怖か・・・

残念、残念。


仕方なしに、強引に綾波の懐から拳銃を奪い取る。

それは、自殺するであろうと疑われてる僕が、綾波に頼んでいた事。

偉いよ。ちゃんとたくさん持ってきているね。

傍らのケースの中にはたくさんの拳銃が見える。

僕はしっかりとその感触を確かめると、自分のこめかみに当てる。

だって、そうしないと・・・仕上げが終わらないだろ?



怖いかい?

寂しいかい?

だったら、僕と同じ事をしなきゃね。

君を救ってくれる唯一の方法を。


そして、目を閉じると、僕はアスカのことを思った。

とても嬉しい。

もう復讐は終わったよ。

やっと、君に逢いにいける。

















そして・・・

彼は急にこちらに振り向き、




「さよなら。僕の代わりに絶望を身に纏い生きていく哀れな人たちよ」

そう笑顔で話すと、こみかみに拳銃を当て、迷いなくひきがねを引いた。

「バァ−ン」

綺麗に吹き飛ぶ碇君。

彼の血はとても紅く、降り続く真っ白な雪を、ゆっくり、ゆっくり侵食していく。









この寂しさから逃れる方法が示された祭壇では、


奪い合うように、傍らに置かれている銃に手を伸ばし、自害する人たち。

まさに地獄絵図。



たった今、世界は壊れた。



だって、私たちはいつか愛する人を失わなければならない事に気づかされたから。



そして、その選択権は私たちにはない。




私は真っ赤に染まる祭壇に近づくと、落ちている銃をゆっくり握り締めた。



そして、こめかみに当て、ゆっくりとひきがねを引く。


目の隅に映った泣き叫ぶトウジ。


「さよなら」


目の前が真っ黒になり、光が消える。






ねえ?トウジ・・・とっても、とっても愛してるわ。



だから、消えてあげる。

あなたが苦しまないように・・・



私を想い、涙を流す・・・その時は・・・世界を憎んで・・・消えればいい。










Fin


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