望まない戦いを強要され・・・

周りの大人たちに流され続けた少年は・・

ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・壊れていった。


ミシミシと音をたてて、誰にも気づかれる事なく、崩壊する自我。

目の輝きはいつしかなくなり、死を望むようになった。

毎瞬、毎瞬、追い込まれ、

もう・・・自らの力では立ち上がれなくなった少年。

それでも、周りの大人たちは、少年に戦いを強要した。

そして、起こってしまったサードインパクト・・・。

その結果、世界は赤い海へと姿を変えた。

少年だけを残して・・・。


そこは孤独も寂しさも存在しない空間。

まるで、夢をみているかのような・・・そんな世界。

だから、少年は自分もその中に入りたいと願った。

そうすれば・・・もう辛い思いをせずに済むと思ったのだ。



しかし、世界はあくまでも少年には辛いものだった。

溶ける瞬間・・・赤い海は少年を拒絶し、世界は、はじけた・・・。

赤い海は一瞬のうちに、青い正常な海へと戻り、

世界は元通りの光景になった。

孤独を感じ、分かり合えないもどかしさを繰り返す

当たり前の世界に。


ここで、不幸だった事・・・それは、帰ってきたすべての人に、

あの赤い海での記憶が残っていた事だった。

快感を邪魔された人たちは、その少年を責めた。


「なんで、邪魔したんだ!!!」


「お前さえ我慢すれば、俺達は幸せだったのに」


「この寂しさを抱え、この世界でどう暮らしていけばいいんだ!!?」


「責任を取れ」


「どうにかしろ!!」



日々、高まっていく不満。

それは、少年へから、サードインパクトを起こしたとされる

NERVへと段々と移行していった。

快感さえ知らなければ、世界がこんなに辛いものだと分からなかったと・・・

そして、ある日、その団体から発表された声明・・・


「我々、NERVはサードインパクトを防ごうとしていた。

今回の憎むべきこの事態は、サードチルドレン 碇 シンジの暴走により、

起きた事態であって、我々が意図したものではない。」



そう・・・少年は切り捨てられたのだ・・・。

すべての責任を小さな体に背負わされ、少年は世界へと投げられた。










歪んで軋んで


presented by hot−snow様











「今回の公開処刑との決断に至った経緯はどのようなものだったのですか?」

「NERVが公開した資料は明らかな改竄の後があり、碇 シンジ君は切り捨てられたとみるべきとの意見が

あることについてのコメントは何かありますか?」

栗色の髪の毛の少女を横に携え、報道陣の波をかきわける女性に矢継ぎ早に浴びせられる質問。

マイクが何本も差し出される。

しかし、その女性は一切、相手にすることなく、通路の奥に消えていく。

「なんだ!ダンマリかよ!!お前らは1人の少年を生贄にして、自分達は助かろうとしてるんだよ!

恥ずかしいとは思わないんですか?」

なかなか答えようとしない女性に、我慢ができなくなった1人のリポーターが大声で叫ぶ。

それに、一瞬、静まり返った報道陣だが、

「そうですよ!!葛城さん!あなたはシンジ君と同居してたんですよね?

それなのに、死刑にするべきと主張している団体のトップにたっているのが、

あなたっておかしくないですか?!

何か、やましいことがあるとしか思えませんよ!」

「その通り!何か、喋れよ?NERVが本当はサードインパクトを起こしたんじゃないんですか?」

過激な質問が飛ぶ。

1人が線を越えたことにより、他の報道陣もそれに便乗したのだ。

それは、葛城ミサトを標的にするだけには、止まらず、少女にもマイクは向けられる。

「惣流さん!あなたは各地の講演でシンジ君は元々必要ない駄目チルドレンと言っていましたが、

それはあなたですよね?

関係者のコメントで裏取れてるんですよ。嘘ばっか言ってないで、本当のこと言ったらどうですか?

マスコミはあなたみたいな嘘つき少女に騙されるほど、甘くないんですよ!」

その質問に今まで静観が続いた状況に変化が訪れた。

殴り飛ばされる記者。

それは、一瞬の出来事。

しかし、そんなおいしい瞬間をマスコミが逃すはずもなく、目が眩むほどのフラッシュとカメラがむけられる。

「はんっ?誰が嘘をついてるって!!あんなクズと天才の私を一緒にしないで!」

「やめなさい!アスカ!!!」

状況に気づいたミサトが慌てて、アスカを後ろからとめる。

が、既にその映像は全世界へと発信された後。

もう、どうしようもない。

「あんなクズが生きていること自体、間違っているのよ。

第一、あなた達マスコミはエースの私を褒め称えてればいい存在なのに、なに?その言い草は?

頭おかしいんじゃないの?」

「それは一体どういうことですか?人間の命をなんだと思っているのですか?」

余りにも傍若無人な言葉に記者が興奮して質問を投げかける。

しかし、何を今更と言わんばかりの顔をして、アスカは話した。



「私が助かるんだったら、あんなクズの命、いくら捨ててもいいんじゃないの?」















「もう、マスコミを抑える事ができないから、シンジ君の公開処刑を早急に実行する。

君の意見はこうでいいのかな?」

「はい。その通りです。先程のアスカの行為により、マスコミはNERVを攻撃し始めています。

これを、止めるには早急に公開処刑を行い、目をそちらにむけるしか手はありません。

今という時期を逃せば、NERVは潰されるのを待つばかりになります。」

直立不動の体勢を崩さず、いかにも軍人らしい口調で進言するミサト。

しかし、その内容は責任を少年1人に負わせ、自らの保身をはかるものであり、冬月は顔をしかめた。



「確かにそうかもしれないが、元々私は処刑には反対なのだよ。

使徒との戦い、そして、今回のこと。君はどれだけシンジ君を追い詰めれば気がすむのだね?

もう、マスコミを使いシンジ君を攻撃する事、責任を転嫁することはやめたまえ。

国連には先程、真実を伝えておいた。

数時間のうちに、ここの解体作業、国連の会見が行われる。

もう、諦めなさい。

処刑されるのは、私達大人であって、シンジ君ではない。」

「なっ!!何をなさってるのですか!!これは、話し合いで決まった正式な・・・」

「黙れ!!!

君が赤木君を使って、我々を集団マインドコントロールした事は分かっているんだ。

昨日、赤木君が泣きながら教えてくれたよ。

その際、君は碇の居場所を教えると言ったそうじゃないか。

親友を騙してまで、少年に責任を押し付けてまで、生き残ろうとするその態度・・・

本当に醜いね。」

顔を真っ赤にして、言葉を発する。

その様子に焦ったのはミサトだ。

昨日まで、さっきまでは自分の計画はすべてうまくいっていた。

なのに、なぜ?

「いきなり、どうしたのですか?

リツコも司令代理も昨日まで・・・」


言葉が途切れる。

ミサトは見てしまったのだ。

冬月の目を・・・濁った色で、何も映さないその目を・・・

「私たちは目覚めたのだよ。シンジ君こそ神であり、私たちはその足元でひれ伏す虫なのだ。

神には逆らえん。」

「何を・・・?」

「君も死ぬ前に一度会ってきなさい。

どれだけ、無駄なことをしていたかわかるよ。」

肩を落とし、呟く。

「そう・・・我々は踊らされていたのだから・・・」

最後に敬礼をし、部屋を飛び出していくミサト。


冬月は自分ひとりしかいなくなったはずの部屋で話し出す。

「シンジ君、これで、いいのだね?」

「・・・・・・・」

「そうか。もう、眠らせてくれ・・・」

ゆっくりと目を閉じ、椅子に埋もれていく。

「冬月先生、さようなら」

どこからか声が響き、人間だったその固体は、役割を終えた。













「ガードがいなくなってる・・・。どういうこと?」

想像もしていなかった光景に一瞬言葉を失う。

確かに、昨日まで数え切れない程のガードがいた。大勢でシンジを取り囲み、

散々、嫌味を言ってやった事を覚えている。

しかし、目の前には人の姿を確認できなかった。

「ガチャ。シンジ君いる?」

慌てて、鍵を開け、中をのぞく。

「・・・・・」

「シンジ君?」


そこにあるのは、まさに囚人が過ごす寂しい室内。

部屋の真ん中には主をなくした椅子がちょんと置いてある。

「どこにいったの?出てきなさい。聞こえないの?」

姿が見えない事に苛立たしさが増していく。

「出てきなさいよ!!逃げるの?」

「ボトボトボト。」

「んっ?」

蹴り上げた段ボール箱・・・。

思いっきり蹴り上げられたそれは、勢いよく中身を吐き出した。

「キャー!!!」

床に転がる生首・・・。

一様に苦しげな表情を浮かべている。

「こ、これは・・・?ガード?」


「その通り。」

唐突に後ろからかけられる肯定の声。

「気に入ってくれた? ミサトさん、人が苦しむのとか好きだから。」

「あ、あなた、何を言って?」

「だって、そうでしょ?僕に家族を強要しながら、戦いを強制したり・・・。

罪を着せて、世界の憎しみを僕に背負わせたじゃないか?

すごい苦しかったんだよ。」

笑みを浮かべ、言葉を続ける。

「だから、ミサトさんは人の苦しみを見るのが好きなんじゃないか。って思ったんだ。」

「こ、これを、シンジ君が?どうやって?」

「簡単だよ。こうやって、ゆっくり、ゆっくり、ノコギリで解体したの。」

その動作を見せ、小さい子供のように無邪気に話す。

そこには、罪悪感も何も存在せず、母親に褒めてもらいたくて、四苦八苦する子供のような雰囲気に似ている。

「へ、へぇー。それは、頑張ったわね・・・。私そろそろいくわ。」


狂気に彩られたシンジの行動にミサトは慌てて、逃げようとする。

しかし、部屋のドアは硬く閉じられ、開くことはなかった。

「どこに行こうっていうんですか?」

「あははは。ちょっち、用事を思い出してね・・・話の途中で悪いんだけど、開けてくれないかな?」

「それは、無理ですよ。だって、ミサトさんにはまだプレゼント渡していないんですから」

「プレゼント?」

怪訝そうに呟くミサト。

「そうです。気に入ってくれるかな?」

そう言って、知らぬ間に置かれていたでかい袋の中をまさぐる。

その顔には笑顔が飾られており、とっても楽しそうに中のものを探している。

「おっ、あった。あった。これです」

そうして取り出したのは、一本のカセットテープ。

「あ、ありがと」


何か仕掛けがあるかと思い、探ってみるが、至って普通のテープだ。

「あっ、忘れてた。そのままじゃ、聞けませんよね。どうぞ。」

本当に忘れていたのだろう。

慌てて、懐から、携帯再生機を取り出しミサトへと手渡す。

「これを聞けって事よね?」

「いえいえ、ただ僕はミサトさんへカセットテープをプレゼントしただけです。

聞くのも、聞かないのもミサトさんの自由ですよ」

「そうか。かなり気になるし、聞かせてもらうわ」

一刻も早くこの場所を逃げ出したかったミサトだが、出られない以上、仕方ない。

しぶしぶだが、イヤホンを耳に当て、再製ボタンを押す。

「ガチャ」

(・・・・・・・・)

その様子を楽しそうに見つめるシンジ。

どうやら、自信作のようだ。

そんなシンジを横目に眺め、ミサトは「いいこと、悪い事、どちらにしても、ろくな事じゃないわね」

と心の中だけで呟く。

(・・・し・・・い・・・)

無音状態だったカセットだが、音がようやく聞こえてくる。

(・・う・・・わ・・・む・・・)


「ちょっと、シンジ君これよく聞こえないわよ。これ、音源悪すぎ!」

「あはは。ごめんなさい。というか、それ音量小さすぎません?大きくしてみれば聞こえるんじゃないかな?」

その言葉を聞き、本気でテープの内容が気になり出したミサトは黙ってボヒュームを上げた。

そこで、聞こえたもの・・・。それは、予想通りろくなものではなかった。

(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい)

「・・・アスカ?」

(もうしません。ヒィィィィィー!!叩かないで・・・。ぎゃー)

(あははは。指取れたくらいで大げさだな〜アスカは。でも、ミサトさんへのプレゼントだし、丁度いいかも。)

「・・・これは?」

(はぁはぁはぁ、お願い・・・もう許して。お願いだから・・・)

(はいっ?まだまだ全然足りないよ。僕は君に苦しめられたんだ。

これくらいで死ねるなんて思わないで。しかも、君を生かしておいても何も役にたたないしさ。

せめて、ストレス発散には利用させてね。)

そうしてエンドレスで聞こえるアスカの悲鳴。

それは、アスカが事切れるまで続いた。

「シンジ君・・・これはどういうことなの?」

「えっ?嬉しくなかったですか?おかしいな〜?」

あたかも意外だったかのように、クビをひねり、腕を組む。

「あっ、でもこれなら」

そういって、また懐のポッケから、何かを取り出し、ミサトへと差し出した。

「こ、こ・・れは?」

「ああ。アスカの指ですよ。捻り切るの大変だったんですよ。

大事にしてくださいね。」













目の前には、何もいわぬ人形。

ついていたはずの指は全部切り落とされ、手首なんかは逆になってしまっている。

しかし、その顔は安らかな笑顔を浮かべていた。

「アスカ・・・君は結局逃げる事しかできなかったね。」

シンジは1人、寂しそうに告げた。

「いつも、虚勢ばっか張って、最後の最後にも逃げるばかりか・・・

毎回、このパターンで飽きないの?」

それは、どのアスカに問いかけているか分からなかった。
















「し、シンジ君・・・アスカは?」

恐る恐るシンジへと問いかけるミサト・・・

「あぁ、死にましたよ。でも、本人は満足そうだったから、いいんじゃないんですか?」

「あなた、何を言って?!人の命をなんだと思っているの?」

軽く応えるシンジに腹が立ったのか、問い詰めるミサト。

プレゼントされたアスカの指を投げ捨てて。

それは、完全に自分の行動を省みようとしないミサトならではの行動であった。

「あはは。ストレス発散ですよ。それと、誰かに責任取ってもらわないと、僕が罪になっちゃうんで。

アスカに自白してもらったんですよ。あっ、大丈夫です。

アスカは殺されたって事にしときますから。」

「殺されたって、あなたにでしょ?!」

当たり前のように声を張り上げる。

しかし、シンジはチッチッチッと人差し指を左右に振り、

「ミサトさん、あなたにも責任とってもらいますよ。

怒らないでくださいね。僕はあなたと同じ事をするだけですから」

そう言って、微笑むシンジは本当に美しかった。















「今日、午後、国連の会見が行われました。

それでは、ご覧下さい」







「え〜、まず初めに我々は皆様と少年1人に謝罪をしなくてはなりません。」

「それは、一体どういうことなんですか?」

「サードインパクトの真実・・・今までサードチルドレン碇 シンジの暴走となってきました。

しかし、それは虚偽の報告であり、実際はNERVとゼーレが起こしたものだったのです。」

「それは、世界がNERVに騙されていたと?」

「そうなります。」

「それでは、サードインパクトの責任はNERVがとるということでいいんですか?」

「いいえ。もちろんNERVは解体いたしますが、

真実を知っているもの・・・碇 シンジ君へ罪をなすり付けたもの・・・

それら全員死亡が確認されました。」

「死亡?!」

「ええ。サードインパクトを故意に起こしたもの、そして、碇 シンジ君へ罪を着せたもの全員です。」

「実名をおっしゃってもらってよろしいですか?」

「それは言えません。サードインパクトに関しては資料が一切なく、裏付けがとれてないんです。」

「それでは、碇シンジ君へ罪を着せたものだけでも。」

「はい、それなら構わないでしょう。

中心的に推し進めたもの・・・それは皆様もご存知だとは思いますが、葛城ミサトです。

彼女は自らに罪が向かうのを恐れ、NERV内にいる赤木リツコを騙し、

重要人物をマインドコントロールすることにより、罪をきせることに成功しました。

誰しも、死にたくないと思っているのでしょうから、簡単だったのでしょう。」

「それでは、今回の事件も?」

「はい、たぶんとしか言えませんが、雲行きが怪しくなってきたことから、

クーデターを起こそうとしたようです。」

「それは、何か証拠が?」

「はい。彼女の行動を示すテープが見つかっております。

恐らく腹心の誰かが、隠し持っていたのでしょう。

それと、同時にセカンドチルドレン惣流・アスカ・ラングレーに対する尋問の証拠もありました」

「そうですか・・・。本当に残念ですね。それで、碇 シンジ君は無事なんですか?」

「ええ。彼なら・・・」













「本当に怖かったです・・・。信じていた人たちから・・・」

鎮痛の面持ちで話す少年。

その様子に周りのリポーターは同情し、慰めの言葉をかける。

「いいのよ。あなたは何も怖くないの。」

「大丈夫だよ。君のことはみんなが守ってくれるんだから」

必死に慰めてくる周りの大人達から見えないように、ニヤリと微笑むと、その少年は

「ありがとうございます。皆さんのおかげです・・・。」

とにっこりと微笑んだ。









Fin


(ながちゃん@管理人のコメント)

hot−snow様より「呪い返し」を頂きました。初の読み切りの作品ですね。
EOE後、すべての責任がシンジ君一人に擦り付けられ、でも結局は彼の掌の上で世界の何もかもが踊らされていたという、そんなお話でしたね。
ある意味、このシンジ君こそが諸悪の根源とも思えるくらいの・・・(汗)。
アスカの亡骸に向かって呟いてる彼のセリフから、どうも何回かは繰り返しているっぽいですが(違うのかな?)。
しかし、ここのミサトもやっぱり最低女だったんですね。えらくむかっ腹が立ちましたよ!
そして、巻き添えでアスカもクソ女になっちゃっていたし・・・(笑)。ある意味、納得、痛快ではありましたね♪
(でも、アスカ好きな人にはチョット痛い話なんだろうな〜きっと)
でもシンジ君って、このまま猫被ったまま、この世界で暮らすのでしょうかね?(笑)
さあ、作者様に感想メールを書いて、次なる新作を催促しましょう♪

追記
作品タイトルが「呪い返し」→「歪んで軋んで」へと変更されました。
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