新☆世紀☆白書
Yu☆Yu☆ GENESIS EVANGELION AFTER

presented by かのもの様


盟王高校に3人の転校生がやってきた。
そのうちの1人は、出戻りであった。

「碇シンジです」

「綾波レイです」

「渚カヲルです」

使徒との戦いの中、壊滅した第3新東京市は廃棄されたので、新東京第壱高校は廃校となったため、蔵馬は、レイとカヲルを連れて盟王高校に戻ってきた。
クラスの女生徒達は、学年首席で学校一の美男子である蔵馬の復学に喜びを隠せなかった。
そして、蔵馬とはタイプの違う美男子であるカヲルの転校に狂喜乱舞した。
男子は男子で、神秘的なアルビノの美少女であるレイに、見とれているようであった。
一時間目が終わり、休み時間になったら、レイは男子に、カヲルは女子に囲まれ質問攻めを受けていた。

「よう、碇……お帰り…」

「只今、海藤……」

蔵馬のところには、海藤ユウが来ていた。

「話は桑原君から聞いていたよ……大変だったんだな……」

「……そうだな……だが……収穫もあったよ」

母との再会。かけがえのない存在が出来たこと。
第3新東京市に行った事は、蔵馬にとってまったく無駄ではなかったのが救いであった。
蔵馬が行かなければ、SEELEと碇ゲンドウの『人類補完計画』によって人類は危機に陥っていたであろうから、例え収穫がなくても行かない訳には行かなかっただろうが……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「学校はいいねぇ……勉学を学び、友と触れ合う……リリンのすばらしき文化だよ……」

女子に囲まれたカヲルは、そう言っていつものごとく微笑んだ。
何を言いたいのかは理解していないが、そのアルカイックスマイルに女子達は魅了された。

「綾波さん……付き合っている彼氏っているの?」

レイを囲んでいた男子の1人がそう質問してきた。
盟王高校は進学校ではある。
特に3年生は、大学受験を控えている。
しかし、もともと優秀な成績の者が集まる学校ゆえ、それほど切羽詰まった状況には陥らないようである。
セカンドインパクトによって人口が減少している現在,20世紀後半に比べて、大学受験の壁は険しくないようであった。
ゆえに、進学校の学生とはいえ、色恋沙汰に興味津々のようであった。

「………」

レイはこの質問に口答せず、蔵馬の方を指し示した。

「………碇……!?」

「碇と付き合っているの!?」

レイは肯いた。
レイを囲んでいた男子達は、蔵馬に敵意の視線を向けた。

「おい、睨まれているぞ……碇…」

海藤がにやにやしながら、言った。
蔵馬は一瞬苦笑した後、睨んでいる男子達を睨み返した。
蔵馬は、今まで盟王高校では穏やかに過ごしていた。
第壱高校では、転校早々因縁をつけられたが、この盟王高校ではそんな輩は今まで居なかったからだ。
ゆえに、蔵馬の正体を知っている海藤以外の盟王高校の生徒達は、蔵馬の恐ろしさを全く知らなかったのだ。
学年首席で、女子に人気のある優男。
そんな印象だった男からの凄まじい眼光。
たかが、一般高校生に百戦錬磨の妖怪の眼光が耐えられるわけがなく、皆、一目散にレイから離れてしまった。

「ま、これであいつらも、お前に喧嘩を売るなんで馬鹿な考えは持たないだろうな……」

蔵馬の眼光にひびったクラスメイト達を見て、海藤は笑いながら言った。
レイは、ようやく解放されたとホッとして蔵馬の席に近づいてきた。

「疲れたか……レイ…」

「うん。蔵……碇君…」

危うく『蔵馬』と言いそうになり、言い直すレイ。
盟王高校では、『蔵馬』ではなく、『碇』と呼ぶように言われていたからだ。

「紹介しよう、こいつは海藤ユウ。俺の仲間の1人だ」

「よろしく……綾波さんのことは桑原君から聞いていたから、知っているよ」

「……よろしく…」

蔵馬の仲間と聞き、幾ばくか安堵してレイは海藤に挨拶した。
以前に比べれば、遥かにマシになったとはいえ、まだまだ社交的ではないレイにとって、さっき男子達に囲まれていたときは苦痛だったのだ。

「さて、そろそろ次の授業が始まる……席に戻りなさい」

「……うん…」

蔵馬に促され、名残惜しそうにしながらレイは席に戻った。
第壱高校のときとは違い、蔵馬とレイは隣り合わせの席ではないので、レイは寂しそうだった。

「……聞いていたとおり、綾波さんは碇にべったりなんだな…」

「……まあね…」

これから卒業まで、授業中以外はレイは常に蔵馬の傍に居るようになった。
蔵馬にべったりなレイにやっかむ女子もいたが、彼女持ちになったの蔵馬に見切りを付け、フリーのカヲルに標的を切り替える女子達が殆どであった。

☆      ☆

さて、蔵馬たちが学校に行っている頃、アスカは、碇グループに就職するために面接を受けに行っていた。
弱冠14歳で、ドイツの大学を卒業したアスカは、人材としては申し分ない筈なので、かなり好条件での入社を期待したアスカだった。
……だが、面接官の態度はアスカの予想を裏切りシビアであった。

「……惣流さん」

「はい!」

「貴女の学歴は、確かに素晴らしい……」

「ありがとうございます!」

「しかし、高学歴イコール優秀な人材ではありません。学歴がどれだけ優秀でも、社会では役に立たない……では困ります。それに貴女は、まだ就労経験がない、貴女の実力はまだ未知数です」

「………」

「能力が優秀でも、社内の和を乱したり、スタンドプレーに走られたら、かえってグループに不利益をもたらされる場合もあります……そこで、来年期の新卒の新入社員が来るまでの間、研修期間として契約社員待遇で仕事をしてもらいます。もちろん貴女の学歴は、他の社員には伏せさせてもらいます。そして、貴女が有用な人材であると見極めましたら、それなりの待遇で遇させていただきましょう」

来年入社する社員が来るまでに、アスカは自分が有能だけでなく、有用な人物であるということを、会社の上役達に認めさせなければならない。つまり、試されるのだ。

「いかに、会長の後継者と親しい間柄であろうとも、特別扱いするなとの、上からの指示ですので……それをご了承いただければ、一週間後から、研修を始めてもらいます」

アスカが次期会長である碇シンジの関係者であることは、とっくに知られていたのだ。
しかし、流石は碇グループ。縁故で待遇が決定するなどということはないようだ。

「望むところよ!蔵馬の力になる為に……あたしを認めさせてあげるわ!」

アスカが碇グループに就職を決めたのは、いずれ会長となる蔵馬の力になる為である。
故に、蔵馬のコネで高い地位についても意味がないのだ。
自分の実力でで周りの人間に認められなければ蔵馬の力になるとはいえない。
かつて、自分が優秀であることを認めさせるためにEVAのパイロットをやっていたが、今度は蔵馬の為に、蔵馬の力に成るために周りに認めさせなくてはならない。
しかし、『一番』に拘らなくてもいいので、アスカも今回はゆとりを持って実力を示そうと考えていた。
『一番』に拘ると、周りが見えなくなり、それはそれで失敗してしまうことは、第6使徒『イスラフェル』戦で経験済みである。
蔵馬と出会う前には考えられない思慮深さを、アスカは持ちつつあった。

☆      ☆

さて、碇邸では……。

「霧島さん。今日の仕事は終わりましたか?」

「はい、メイド長。今日の仕事は終わりました」

マナがメイドとして働いていた。
碇邸には、シンタロウが手配した執事、メイドなどが居る。
マナもその一員となっていた。
しかし、マナはこの家の主である碇シンジ直属のメイドという立場にある。
それが、他のメイドたちには気に入らないことであった。

碇家に直接仕えるメイドともなれば、まさに一流のプロフェッショナルと言っても過言ではない。
彼女たちは、それこそメイドとしての腕は、そこいらの富豪の家に居る雇われメイドとはレベルが違っていた。
しかし、メイドたちの中でも、年長者は職務を忠実にこなし、余計なことを考えなかったが、またまだ歳若いメイドたちは、技量は一流だが、心根に関してはまだまだメイドとして、徹底しては居なかったのだ。
彼女達は、期待していた。
碇グループの次期当主に見初められ玉の輿に乗ることを……。
次期当主である碇シンジこと蔵馬は現在高校3年生。
まだ二十歳を過ぎたばかりの彼女達にとっては充分守備範囲に入った。
そして、次期当主の姿を見て、彼女達は狂喜した。
容姿に関しても、及第点を遥かに上回っていたからだ。
しかし、彼女達の期待はあっさりと裏切られてしまった。
蔵馬の傍に居る3人の女性。
蒼銀の髪と紅い瞳を持つ、神秘的な美少女、綾波レイ。
たった14歳でドイツの大学を卒業した天才にして、絶世の美少女、惣流・アスカ・ラングレー。
自分の器量にそれなりの自信を持っていたメイドたちだったが、彼女達の存在はその自信を打ち砕いてしまったのだ。
敵わない。
この2人には敵わない……と。
しかし、最後の1人……次期当主直属のメイドとして傍に居る霧島マナに関しては、そうではなかった。
確かに彼女も他の2人に負けないくらいの美少女である。
しかし、それ以外は普通の少女であった。
レイのような神秘性、アスカの天才性を感じない。
にもかからず、同じメイドでありながら、彼女は自分達とは違う立場に居た。
基本的には、メイド長の指示に従うが、彼女はメイド長の下にはついていないのだ。
自分達は、一流のメイドとして一流の教育を受け、碇家のメイドとして採用された。
しかし、マナは見習いのくせに、立場は自分達とは違う特別待遇。
しかも、次期当主の寵愛を受ける立場なのである。
当然、洗礼を与えるべきだと、身の程を弁えさせようとマナを呼び出して、痛い目をみせてやろうと考える輩もいた。
彼女達は、一流のメイドとして、屋敷に侵入してくる泥棒や不審者への対処として護身術を学ばされている。
たかが、18歳の……つい先日まで、高校生だった小娘を痛い目にあわせることなど造作もない……筈であった。
しかし、マナも普通の少女ではない。
望まなかったとはいえ、彼女は戦略自衛隊の兵士であったのだ。
一流とはいえ、メイドの護身術ごときが、戦闘に特化した戦自仕込みの戦闘術に敵うはずもなく、返り討ちに遭ってしまったのだ。
マナは、自分が妬まれる立場に居ることは、十分承知していた。
ゆえに、彼女達の暴挙を蔵馬やユイ、メイド長に報告はしなかった。
しかし、腕力では歯が立たないことを知った彼女達は、陰険な嫌がらせに入った。
マナは、その嫌がられに必死に耐えていたのだ。
この程度の嫌がらせ等、戦自の訓練や、仲の良かった幼馴染みであるムサシとケイタを失った時の哀しみに比べたらなんでもない……と。
マナが告げ口をしないことをいい事に、彼女達は上にばれないよう注意しながら、マナに様々な嫌がらせを続けていた。
しかし、彼女達は自分達の考えが甘いことを思い知らされた。
普通の者たちなら気付かなかったであろうが、蔵馬が気付かないはずはなかったのである。
蔵馬は迅速に、彼女達の嫌がらせの証拠を掴み、彼女達を解雇した。
しかも、懲戒免職としてであり、退職金も出させなかったのだ。
そればかりか、見せしめとして執事や家政婦、メイドたちを纏める組合に手を回し、今後二度と、メイドとして働けないようにしてしまったのだ。
その温和で優しそうな外見とは裏腹に、蔵馬は自分と、自分の大切な者に危害を加える者に対しては、冷酷なのである。
見せしめを兼ねた苛烈な処置に、他のメイドたちは震え上がり、二度とマナにちょっかいを出さなくなった。

「もう直ぐ、シンジ様たちがご帰宅なされますので、迎える準備をお願いします」

「わかりました」

メイド長の指示に従い、蔵馬たちを出迎える支度をするマナであった。

☆  ☆  ☆

男は、今の境遇が不満であった。
かつては、組織の長としてやりたい放題であった。
しかし、自分の目的を、よりにもよって目的達成のための予備でしかなかった自分の息子に打ち砕かれてしまった。
そして、愛する妻に見限られ、落ちぶれるところまで落ちぶれてしまった。
今の男は、己の目的実行のための道具に過ぎなかった女に従属させられている。
この女に捨てられたら、自分は何にも縋れなくなってしまう。
立場が逆転し、その女の機嫌を伺わなくてはならない今の境遇が不満なのだ。
そして、そんな境遇に追い込んだ息子は、のうのうと男を見限った妻と、一緒に暮らしている。
碇ゲンドウ……いや、六分儀ゲンドウの逆恨みとも言うべき、憎悪の念は闇の存在を呼ぶことになった。
ゲンドウはほくそ笑んでいた。
今度こそ、あの生意気な息子を始末して、愛する妻、碇ユイの心を再び取り戻すことが出来る……と。

☆      ☆

惣流母娘は、3日に1度、碇家の夕食に招待されている。
本日は、その日であった。
碇家の豪華な夕食を堪能したあと、居間で団欒を楽しんでいたとき、蔵馬が聞き捨てならないことを口にした。

「明日の日曜日は、俺はマナと2人で朝から出かけるから……」

「…な…何ですって〜〜〜〜〜〜!!」

アスカの怒声が居間中に響き渡った。
当然だろう。
アスカは、まだ蔵馬と2人っきりでデートなどしたことがない。
レイと一緒にデートしたことはあるが……。

「ちょっとマナ……本妻である私を差し置いて、蔵馬と一番最初に2人っきりのデートをするつもりなの!!」

「……アスカ……蔵馬君の本妻は私!」

「レイ!横から割り込まないで……って……アンタも何言ってんのよ。蔵馬の本妻になるのは…」

「落ち着け!!」

ヒートアップしてきた2人を落ち着かせる為、蔵馬は事情を説明した。

「俺とマナが出かけるのは中学の同窓会に出席するからだ……」

「……へっ…同窓会?」

落ち着きを取り戻したアスカにユイが説明した。

「実は、シオリさんからシンジ宛に中学の同窓会の招待状が届いたと連絡があったのよ。もちろんマナちゃんに対しても招待状が届いたと、マナちゃんのご両親から連絡があったの……」

畑中シオリ。旧姓、南野シオリ。
蔵馬にとって姉のような人物である。

「それにね、アスカちゃん。なんだかんだ言いながら、レイちゃんと貴女は結構、シンジと2人っきりになっているでしょう」

レイは同じ学校に通っているので、ほとんど蔵馬と一緒であり、よく2人っきりになる。
アスカも、日曜日にはよく蔵馬と一緒に居るので、2人っきりになる。

「しかし、マナちゃんはメイドとして働いているわけだから……貴女達ほどシンジと一緒にいることはない……だから…明日くらいはマナちゃんがシンジとずっと一緒にいても良いでしょう?」

そう言われるとアスカも反論できなかった。
確かに、マナが蔵馬と2人っきりになることは皆無であった。
常に、レイかアスカがいる状態であるのだ。
たまにはマナも蔵馬と2人っきりならなければ不公平である。
しぶしぶ、認めざる得ないアスカであった。

☆  ☆  ☆

中学の同窓会において、シンジとマナは懐かしい面々と顔を合わせた。
中学の頃は短髪だった蔵馬が長髪になっているのを見て、女子達はキャーキャー言っていた。
短髪よりもよく似合っているからである。
同窓会は、当時の担任教師も含めて全員集まっていた。
否、全員ではない。
ムサシ・リー・ストラスバーグ。
浅利ケイタ。
この2人は既に亡くなっているので、当然、参加できなかった。
2人の死をマナから聞かされ、皆、暗い顔になった。

「皆、乾杯の前に2人の冥福を祈って黙祷しましょう…」

中学のときは、率先して皆に接しなかった蔵馬が仕切りだしたので皆、意外そうに見つめていた。

「それが終わったら、皆で楽しみましょう……彼らの分まで……そうでなければ、集まった意味はないでしょう……」

蔵馬の提案に従い、一分間黙祷する一同。そして……。

「では、ストラスバーグ君と浅利君の分まで、楽しむために、乾杯しましょう!」

幹事を務めている、中学時代の委員長が乾杯の音頭をとり、皆、暗い顔を払拭し、各々楽しみ始めた。

「……ごめんね蔵馬君……せっかくみんなで集まったのに……」

「いや、皆に話さないわけにはいかないさ……」

彼らをその手にかけた張本人である蔵馬には、そう答えるしかなかった。
『降魔の剣』によって、魔物に成り果ててしまった2人の遺体を、家族に見せるわけにはいかなかった。
しかも、彼らは公式には犯罪者なのである。
彼らの葬式は、身内だけのささやかなものであった。
血縁者以外で出席したのは、マナだけであった。
当時の蔵馬は、EVAパイロットとして第3新東京市を離れるわけにはいかず、出席できなかったからだ。
ゆえに、マナは加持に連れて行ってもらい、葬儀に出席したのだ。
当然ながら、彼らの墓には遺骨すらない。
彼らが生前、愛用していた物が遺骨代わりに収められているのだ。
同窓会に参加した皆に、2人の死の真相は話せない。
せめて、みんなに冥福を祈ってもらうことくらいしか、あの2人に報いることが出来ないのだ。
蔵馬とマナは、それが少し哀しかった。

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同窓会も終わり、二次会に参加するメンバーはカラオケボックスに向かった。
蔵馬とマナは、二次会には参加せず、初めての2人きりのデートを楽しんでいた。
定番ではあるが、2人で映画(マナの趣味であるホラー)を観て、デパートで買い物をしたり、公園のボートに乗ったりと、世間一般のカップルのデートを楽しんでいた。
日が沈み、あたり一面が真っ暗になった。
昼間の騒がしさがなくなり、公園は恋人達の時間となった。

「今日は、本当に楽しかったよ……蔵馬君…」

初めて2人きりでデートを楽しむことができ、マナは幸せな気分でいっぱいだった。
マナにはわかっていた。
自分と蔵馬とは寿命が違うことを。
自分達3人の中で、いつまでも蔵馬と一緒に居られるのはレイだけだということを……。
だからこそ、今、2人きりで居られる今を大切にしたかった。
今度2人きりになれるのは何時になるのかはまったくわからない。
マナは、蔵馬の首に腕を回し、唇を重ねた。
蔵馬は何も言わず、マナを抱きしめ、マナの口に舌を入れた。
長い長い口付けを交わし、帰路につく2人。
蔵馬の腕に自分の腕を絡め、幸せそうに歩くマナ。
しかし、そんな2人の時間をぶち壊す存在が突如として現れたのだ。

「……蔵馬君!」

「……わかっている…」

蔵馬はマナの腰に腕を回し抱きかかえると、その場で跳躍した。

「キギッ!よくかわしたな!!」

蔵馬たちを襲ったのは妖怪であった。
その妖怪は頭部が牛で胴体が蜘蛛であった。
牛鬼である。

「俺の名は、牛蜘蛛……碇シンジだな?」

「……そうだ」

「光栄に思え、この俺様の餌になることを……」

牛蜘蛛は、蔵馬を食い殺そうと襲ってきた。

「薔薇棘鞭刃!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

とっさに出した薔薇の鞭にあっさりと切り刻まれる。

「は……話が……違……」

牛蜘蛛はそう言い残し、息絶えた。

「……話が違う…だと?」

牛蜘蛛が残した言葉が引っかかる蔵馬であった。
こいつは、どう見てもE級以下の下等妖怪である。
S級の蔵馬に勝てるはずがないのである。
知能がそれほど高くもないので、実力差が理解できず、身の程知らずにも蔵馬に襲い掛かってきた。
それは、わかる……。
しかし、『話が違う』とはどういうことなのか。

「蔵馬君……他にも居るみたいだけど……でも、なんか妙な感じの妖気を感じる…」

マナの注意により、蔵馬も近くに存在する妖気に気付いた。

マナは、第3新東京市に居た頃、家事の合間にゲンカイからある程度のことを学んでいたのだ。
こと霊能力扱いに関しては、マナはレイとアスカより優れていた。
レイは、霊力のキャパシティは3人中一番高いが、制御力が弱い。
アスカは、技術は巧いが、霊力のキャパシティは3人の中で一番低い。
マナは、霊力、技術、制御力が均等に保たれているのだ。
レイとアスカが念話を覚えた後、マナも念話のやり方をゲンカイから教わったが、二人よりも短時間でマスターしたのだ。
そればかりか、霊波動の簡単な技もマスターしてしまっていたのだ。
ゲンカイは語る。
自分の死期が近くなければ、彼女をいっぱしの霊波動の使い手に育て上げられるだろう……と。
霊光波動拳の継承者はユウスケに決定してしまったが、霊波動に扱いくらいなら、教えてもいい……と。

「マナ!後ろだ!!」

もう一つの妖力の持ち主は、後ろからマナを殴ろうとしたが、蔵馬の声に反応したマナはそれをかわし、相手の足を払い、仰向けに倒れた相手の鳩尾を思いっきり踏みつけた。

「ぐぇ!!」

余りのあっけなさに少し拍子抜けしてしまうマナであった。

「……素人……だね……こいつ、本当に妖怪なの?」

「……いや、どうやら半妖のようだな」

蔵馬の様に人間に憑依融合した妖怪というわけではなく、人間と妖怪との間に生まれた混血児のことである。
この男は、どうやら妖怪としての強さは先ほどの牛蜘蛛と同じレベルだが、人間との混血であるために理性と知性があるようだ。
マナが感じた妙な妖気とは、人間との混血による違和感であった。

「……牛蜘蛛を、あんなに簡単に倒すなんて……普通の人間じゃない…いや、あんたからは妖気を感じる……いったい何者だ?」

半妖は、驚愕しながら蔵馬に問いかけた。

「……俺の名は、蔵馬、そう言えばわかると思うが……」

半妖は、蔵馬の名を訊き蒼白になった。

「あの伝説の極悪盗賊『妖狐・蔵馬』!?」

頷く蔵馬を見て、半妖はすっかりと取り乱していた。

「そんな……話が違う!」

「貴様もそう言うか……説明してもらおうか。死にたくなければな」

『妖狐・蔵馬』の名前にすっかりと怯えてしまった半妖は、あっさりと事情を説明した。
この半妖は、下等妖怪を使役する能力を持っていた。
D級以上の高等妖怪は無理だが、自分と同等以下の妖怪を従えることができるのだ。
その能力を使い、裏社会を名をはせていたのだ。
先日、ある男から殺しの依頼を引き受けた。
依頼主の名は、六分儀ゲンドウ。
依頼内容は、碇家に居る者たちを1人を除いて皆殺しにすることであった。
対象外は碇ユイ。
彼女1人を残し、他は皆殺しにする。
最優先の抹殺対象は、親を蔑ろにする息子、碇シンジ。
そして、彼女の危機にゲンドウが駆けつけ、追い払われる振りをすること……。
これが、依頼内容である。
蔵馬とマナは、この陳腐な計画を聞いて、呆れ果てていた。

「……NERVの総司令って……馬鹿?」

「……少なくとも、利口ではないな…」

こんな使い古された三文芝居を、現実に実行する馬鹿がまだいたとは……。
いくら、ユイが世間知らずのお嬢様でも、こんなものに騙される筈がない。
ゲンドウに、妖怪を追い払えるような能力などないことなど、ちょっと考えればわかることである。
ゲンドウの自作自演であることくらい、直ぐ思いついてしまうだろう。
なんと言っても、妖怪である蔵馬が息子なのだから、そちら方面の知識も多少は理解しているのだ……。
と、言っても、ユイは蔵馬が妖怪であることを知っているが、ゲンドウは知らない。
だから、ユイにそちら方面の知識がないと、考えているのだろう。

「俺はただ、頼まれただけなんだ……見逃してくれ…」

半妖は、蔵馬に命乞いをした。
しかし、蔵馬の答えは、薔薇棘鞭刃の一閃であった。

「……な……何故…!?」

「ただ依頼されたんじゃなく、お前が誑かしたんだろうが…」

蔵馬は見抜いていたのだ。
ゲンドウから依頼したのではなく、こいつが提案したことを。
ゲンドウが、妖怪とコンタクトなど取れるはずがない。
人間の負の感情に感知し、彼に近づき、彼を誑かす。
妖怪の常套手段の一つである。
この半妖は、B・B・Cに雇われていた妖怪たちと同類である。
妖怪の中には、人間の金や権力に魂を売る奴も居るのだ。
戸愚呂兄弟が率いていた闇ブローカーのように……。
しかし、現在は金で闇の力を利用しようとする者は少なくなっていた。
かつて、蔵馬たちが強制出場させられた暗黒武術会において、戸愚呂(弟)によって、殆ど殺されていたからである。
故に稼ぎが減ってしまったので、ゲンドウの様な人間を誑かし始めたのであろう。
蔵馬の薔薇棘鞭刃の一撃によって、半妖は絶命した。

「マナ…家に戻るぞ!」

「皆、大丈夫かな?」

「大丈夫だ。こいつ程度が操れる妖怪ごときにやられないだろう……カヲル君は」

そう、ゲンドウの計画の穴はカヲルの存在を忘れていることである。
カヲルは、第17使徒『タブリス』でもあるのだ。
使徒は妖怪でいえは、A級レベルである。
E級以下の下等妖怪ごとき、簡単に無力化できるであろう。
しかし、家で働く執事やメイドたちが心配なので、蔵馬とマナは急いで家に戻った。

☆      ☆

ゲンドウは碇邸の前で、待っていた。
あの半妖が、中の人間を襲うのを……。
そして、ユイ1人になったら、颯爽と現れユイを救出する。
感激したユイは、自分の胸に飛び込んでくる。
そして、自分はユイを取り戻すのだ。

「待っていろユイ……もう直ぐ君を取り戻せる」

「悪いが、その妄想は現実にはならない!」

ハッとなり、後ろを振り向いたゲンドウの顔面に、何かが叩きつけられた。
ゲンドウが、自分の顔に叩きつけられたものを確認すると……それは、あの半妖の生首であった。

「ひっ!」

ゲンドウは、生首を投げつけた者の顔を見て、逃走を図ろうとした。

「逃がすか!」

ゲンドウの足元から、植物のツルが生えてきてゲンドウを拘束した。

「……シンジ…貴様!」

「父さん……いや、六分儀ゲンドウ…貴方と言う人は、本当に懲りないな…」

呆れた表情の蔵馬は、拘束したゲンドウを連れ、家の中に入った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……碇…じゃなかった…六分儀司令……アンタ馬鹿ぁ〜〜〜!」

蔵馬から事情を聞いたアスカの第一声がそれであった。
レイもキョウコも、心底呆れ果てていた。
ユイは泣いていた。
余りにも情けないゲンドウを見て、情けなくて涙が止まらなかったのだ。

「……六分儀ゲンドウ……以前に言った筈だ…『俺と俺の大切な者に危害を加えるのなら、殺す』……と」

蔵馬の冷たい視線をまともに受けているゲンドウは、震えが止まらなかった。

「一度二度と見逃したが……三度目の正直……今度は本当に…殺す!」

蔵馬は花瓶に生けてあった薔薇の花一輪を抜いた。

「待って……シンジ!」

ユイが蔵馬を静止した。

「何ですか母さん……まさか、この男を再び見逃せ…と?」

「……もう一度だけ……見逃してあげて……こんな男でも、かつては夫だった人……最後のチャンスを与えてあげて……」

ユイにここまで懇願されれば、蔵馬としてもゲンドウを殺すわけにはいかなかった。

「これが……最後ですよ…母さん」

「ありがとう、シンジ」

蔵馬に礼を言う、ユイ。
しかし、そのことに調子に乗ったゲンドウが、血迷ったことを口走った。

「ユイ……やはり、お前は私の事を……」

ユイがゲンドウの助命したことを、ユイがまだゲンドウに未練があると勘違いしたのだ。

「ゲンドウさん!!二度とその汚い顔を見せに来ないで!!」

不快になったユイはそういい捨てると、自室に引き上げていった。

「………」

あっさりと否定されたゲンドウは呆然となっていた。

「……ユイ…何故だ…」

「自分の胸に聞きなさいよ……まったく…」

アスカの呆れは最高潮に達していた。
これ以上、馬鹿の顔は見たくないと言って、キョウコと共に帰宅していった。

「で、シンジ君……六分儀司令をどうするんだい?」

カヲルがゲンドウをどうするのか問う。

「命は助けてやるが……当然、制裁は加えるさ……」

そう言うと、蔵馬はゲンドウの両手の爪を全てはがしてしまった。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

余りの激痛にのた打ち回るゲンドウ蹴り飛ばし気絶させた。
そして、植物の種をゲンドウに植え込んだ。

「それは?」

「これは、シマネキ草の亜種さ」

「シマネキ草?」

シマネキ草とは魔界の植物で、その種が生物の体に入り込み、体内に根を張り巡らし、やがて体を突き破り花を咲かせるのである。
今、ゲンドウに植え込んだのはその亜種であり、体に根を張り巡らせるが、その根は、血管や筋肉の筋と同化して、じわじわとその寄生した生物のから養分を吸い取っていき、その生物を死に至らしめてから花を咲かせるタイプである。
蔵馬は、このシマネキ草に妖気を込めて、ゲンドウに植えつけたのだ。
蔵馬の妖力に支配されているこの種は、ゲンドウの体に根を張り巡らせ、血管などに同化したら、その活動を休止する。
そして、蔵馬のゲンドウの前であるキーワードを口にしたら、活動を一気に再開させるのだ。
休止していた分、一気に再活動するため、肉も皮も一気に吸い尽くされ死に至ってしまい、白骨と化してしまう。そして、骨のカルシウムも養分として吸い尽くされるので、その骨も粉砕され灰と化してしまい、花だけが残るのだ。
今度、この男が蔵馬たちに危害を加えようとしたときの為の準備であった。
仏の顔も三度まで……。
四度目になる次は、たとえユイが再び助命を乞うても、容赦するつもりはないようであった。
蔵馬は、リツコに連絡して、ゲンドウを引き取らせた。

☆  ☆  ☆

「……蔵馬君」

「何だレイ?」

ベッドに潜り込んできたレイを優しく抱きしめてもらいながら、蔵馬に話しかけるレイ。

「今度は……私と2人っきりでデートしてくれる?」

何も言わなかったが、レイもアスカと同じように、蔵馬と2人っきりでデートがしたかったようである。

「……そうだな…丁度、明日は盟王高校の創立記念日だ……。明日あたり2人で出かけるか…」

「うん!」

明日、蔵馬とデートの約束を取り付けたレイは、笑顔を向ける。
最初にあった頃の、無表情なレイはもういない。
感情を知らなかった少女は、今、幸せそうに微笑んでいる。
蔵馬にとって、それはどんな宝より大切なものだった。
結局、そのまま蔵馬に抱きしめられながら、レイは幸せそうに眠りについた。

翌日、蔵馬がレイと2人っきりでデートすることを知ったアスカが、不機嫌になりながら出勤していったのは言うまでもない。

〈新☆世紀☆白書 完〉






Fin...
(2009.11.28 初版)


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