第二十五話
presented by かのもの様
一週間に1度の蔵馬の作る食事。
蔵馬の作る食事が何より好きなレイは、幸せそうに食べていた。
さて、本日も情報収集をしていた加持から報告を受けていた。
蔵馬たちにお茶を出すマナ。
「……う〜ん。マナちゃん…すっかりおさんどんだね」
そう言いながらマナの出したお茶を飲む加持。
「まあ、アスカがこんなことするはずありませんし……」
「マナ、うるさい!」
「さてと、シンジ君。『SEELE』がEVA伍号機から拾参号機までの製造が開始したらしい……同時にね…」
「……なるほど、『SEELE』の約束の時が近づいてきたので、それに間に合わせるためですね」
今まで第3新東京市に襲来してきた使徒は第3使徒から第15使徒までの13体。
残る使徒は第16使徒『アルミサエル』と第17使徒『タブリス』の2体。
その後『SEELE』は、愚かなる計画『人類補完計画』を発動させるだろう。
その為に必要なEVAシリーズ。
しかし、このEVA量産機の開発は蔵馬にしてもチャンスなのであった。
EVAの建造はかなりの資金が必要である。
一国の国家予算に匹敵する資金ゆえ、当然造らせている国の国家予算では不可能である。
いかに『SEELE』が世界を裏から支配しているからといっても、無いところからは作れない。
故にEVA量産機の開発費は『SEELE』が出しているのだ。
それに、『人類補完計画』が実行されれば、金など不要であるため、『SEELE』も気前良く資金を出せるのだ。
しかし、蔵馬はその計画を阻止するのが目的である。
「加持さん。祖父と繋ぎをとって下さい……」
EVA量産機に金を出しているため、SEELE系の企業はかなり苦しくなっているのだ。
何しろ、半端ではない金がそちらに回っているからだ。
蔵馬はその隙を突き、世界経済の中枢を碇グループに握らせるつもりなのだ。
『人類補完計画』が失敗することなど想像もしていない『SEELE』は、碇グループの動きを笑っていることだろう。
無駄なことに必死だ……と。
あの老人達は今まで、自分達の思い通りに事を運んできた。
故に『規格外の存在』を理解できないのだ。
彼らは知るだろう。
人間界では支配者でも、魔界から見ればとるに足らない存在だったということを……。
☆ ☆
リツコは祖母からの電話で、実家で飼っている愛猫が死んだことを知った。
「猫にだって寿命があるわよ。もう泣かないで、お祖母ちゃん。時間ができたら一度帰るわ。母さんの墓前にももう3年も立っていないし……」
電話を切って直ぐ、悲しみがこみ上げてきた。
「そう……あの子が死んだの……」
☆ ☆ ☆
「報告は聞いたよ、碇君」
ゲンドウは『SEELE』の面々に呼び出されていた。
「前回の使徒の殲滅……我らの想定外だ……。まさか、初号機のA・Tフィールドが使徒の存在そのものを拒絶して消滅させてしまうなど……」
「ありえんことだ……」
「サードチルドレン、碇シンジ……やはり危険な存在だな……」
「碇君、SEELEが決めた方針を伝える。全ての使徒殲滅後、サードチルドレンを処分することが決定した」
「一応、実の父親の君に伝えておこうと思ってね」
「ご心配なく、サードチルドレンが生きようが死のうが私には関係ないことです。どうぞご随意に……」
慇懃に頭を下げるゲンドウ。
その後、これからのスケジュールの確認をしている途中に、冬月から使徒襲来の報告が届いた。
第16使徒『アルミサエル』襲来である。
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「初号機が出撃できない?」
蔵馬はケイジでリツコからそう説明を受ける。
「ええ、前回のあのとてつもないA・Tフィールドの調査をしていたのよ……だから、数分の間は弐号機と零号機のみで迎撃に出て欲しいの……」
「………了解!」
「まったく、リツコも愚図ね……そんな調査してもわかんなかったんだから完全に無駄ね……むしろ、今回はミサトのヘボ作戦じゃなくリツコに足引っ張られるなんて……」
短く答えて零号機に乗り込むレイ。
愚痴を言いながら弐号機に乗り込むアスカ。
エントリープラグ挿入後、両機は発進した。
「……何よあれ?」
アスカは、次の使徒の形状を見てとても生き物とは思えなかった。
『アルミサエル』の姿は光り輝くリング状であった。
《……使徒が必ずしも生き物の姿をしているわけではないわ……第5使徒の姿も生き物の姿じゃなく、正八面体だった。使徒に……アスカの常識は通じない…》
《改めて言われるまでもないわ……使徒が非常識な存在だってことくらい……》
レイの指摘に膨れながら肯定するアスカであった。
EVAに搭乗している2人の耳に、発令所の喧騒が聞こえてきた。
「目標は大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています」
「目標のA・Tフィールドは依然健在」
「パターン。青からオレンジへ、周期的に変化しています」
「どういうこと?」
「MAGIは回答不明と提示しています」
「答えを導くにはデータ不足ですね」
「あれが固定形態でないことは確かだわ」
「アスカ、レイ、しばらく様子を見るわよ」
ミサトはアスカとレイに待機を命じた。だが……。
「いえ、来るわ」
レイの返答と同時に『アルミサエル』は紐状に変化し、零号機の腹部を貫いた。
「うぐっ……!!」
「レイ!」
零号機は反撃するが、まるで効果が無い。
「目標、零号機と物理的接触」
「零号機のA・Tフィールドは?」
「展開中!しかし、使徒に侵食されています」
『アルミサエル』は零号機の腹部から侵食を始め、A・Tフィールドはおろか機体、そしてパイロットまでも侵食していった。
「使徒が積極的に一次接触を試みているの……零号機に……」
リツコは呆然としながら呟いていた。
零号機、そしてレイの肉体に葉脈のような筋が浮かび上がっていた。
《誰?……1人目じゃない……私以外の誰かを感じる……貴女、誰?……使徒?私たちが使徒と呼んでいるヒト?》
弐号機が零号機を助けようと近づくが、『アルミサエル』のA・Tフィールドに遮られた。
「くそ、レイ!!こんなA・Tフィールドすぐ中和して……」
アスカはA・Tフィールドを全開にして中和する。
《下がって、アスカちゃん!!》
キョウコの警告に、とっさに下がる弐号機。
A・Tフィールドを中和すると同時に『アルミサエル』はアスカにも侵食しようとしたのだ。
《レイちゃんを助けようと近づいたら、弐号機も侵食されてしまうわ》
《そんな、何か手段はないの?ママ》
打つ手のないアスカは、気ばかり焦っていた。
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《私と1つにならない?》
いえ、私は私。貴女ではないわ。
《そう、でももう遅いわ》
使徒から何かが私に流れてくる……。
《……この気持ち、貴女にも分けてあげる。痛いでしょ?ほら、心が痛いでしょ?》
痛い?いえ、違うわ……寂しい?そう、寂しいのね。
《サビシイ?解らないわ》
1人が嫌なんでしょ?それを寂しい、と言うの。
《それは、貴女の心よ。哀しみに満ち満ちている、貴女自身の心よ》
《違うわ!2人目にはアスカやユイ母さん、キョウコおばさん……そして、シンジお兄ちゃんがいる!!》
そう、私には1人目の言うとおり、アスカ、マナ、ゲンカイおばあちゃん、ぼたんさん、久遠、ユイおば様、キョウコさん……そして、なにより、蔵馬君がいる。
だから、私は……
寂しくない!!
「これは、涙……泣いているの……私……」
哀しみの涙じゃない……これは喜びの涙。
愛する者にめぐりえた喜びの涙。
だから、この寂しさは私の心じゃない!!
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ようやく初号機が出撃した。
《またせたな、アスカ……レイ、待っていろ!》
『アルミサエル』に近づいた初号機は、先ほどの弐号機のように侵食されようとした。
「蔵馬君!」
「……これは……この心は……俺と共にありたいと願うレイの……心」
蔵馬は『アルミサエル』を通じてレイの意思を感じ取った。
そして、レイも……。
「私の、蔵馬君を求める心が……蔵馬君と一緒にありたい心が……」
レイは、自分の蔵馬への想いが、初号機と蔵馬に対する侵食を促進させていることを悟った。
「駄目。させない!!」
蔵馬から『アルミサエル』を離させるべく、A・Tフィールドを反転させることによって初号機から離し、零号機と『アルミサエル』の強制的な融合を図る。
「まさか…使徒を押さえ込むつもり!?」
リツコはレイの意図を悟り、呟く。
「レイ!機体を捨てて逃げて!!」
ミサトが命令を叫ぶ。
「駄目……私がいなくなったら、A・Tフィールドが消えてしまう……だから、駄目…」
レイは自爆レバーに手を掛ける。
《ちょっと、レイ!アンタ、死ぬ気なの?》
《アスカ……この使徒は物理攻撃もA・Tフィールドもまるで効かない……これしかないの…》
『アルミサエル』には攻撃する実体がないのだ。
ならば、自らに取り込み自分ごと滅ぼすしかないのだ。
《でも、もうアンタには代わりの体はないのよ……いいえ、もし有ったって……それは、あたし達の知っているアンタじゃないのよ》
《……でも!》
そのとき、零号機のエントリープラグが強制的に射出された。
「えっ?エントリープラグ強制射出!?」
「マヤ、貴女が射出させたの?」
「違います先輩……勝手に射出されたんです…」
「そんな馬鹿な……」
リツコとマヤは突然のトラブルにパニックになっていた。
《……貴女がいなくても……A・Tフィールドはなくならない……私がいるもの》
《1人目!?》
エントリープラグを射出したのは1人目のレイの意思であった。
確かに以前のEVAならば、パイロットがいなければA・Tフィールドは消えていただろう。
しかし、蔵馬によってコアの魂が覚醒している状態の今のEVAならば、パイロットが居なくても、その魂がA・Tフィールドを張れるのだ。
《ちょっと、ちびレイ…貴女……》
《レイちゃん……お前何をする気だ!?》
《……ありがとう、お兄ちゃん……短い時間だったけど……お兄ちゃんに逢えて嬉しかった……さよなら……》
『アルミサエル』を完全に取り込んだ零号機から閃光が発せられた。
「くっ!アスカ、A・Tフィールドを張れ!!」
蔵馬はそう叫ぶと、零号機のエントリープラグを抱え込み、自らもA・Tフィールドを張った。
零号機と『アルミサエル』は爆風に包まれた。
その爆発によって第3新東京市は、廃墟と化した。
「目標、消失」
しばらく、発令所は沈黙に包まれたが、思い出したように報告する青葉の声に皆、我に返った。
「現時刻をもって、作戦を終了します。第一種警戒体勢へ移行……」
「零号機は使徒と共に消失……ですが、零号機のエントリープラグは初号機の腕の中に……」
ミサトの問いにマヤが答える。
「………何故……零号機が勝手に自爆を……ありえないわ……」
リツコは、己の目を疑っていた。
☆ ☆
《2人目……私は死ぬんじゃない……貴女と1つになるの……私の魂が貴女と同化することによって……これで貴女は、本当に唯一無二の『綾波レイ』になったの……》
1人目……私の代わりに……
《貴女がお兄ちゃんと幸せになれば……貴女と同化した私も幸せになれる……だから……簡単に死を求めたら駄目……お兄ちゃんがいる限り、無に還りたくはないでしょう?だから、駄目だよ》
御免なさい……貴女の代わりに……いえ、これからは貴女と共に、蔵馬君と一緒にいる。
約束する。
お還りなさい…1人目の私。
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「……レイちゃん……1人目のレイは……レイの魂の下に還ったんだな……」
蔵馬は泣きじゃくるレイを抱きしめながら、そう呟いた。
「………ちびレイ……」
アスカも目に涙を浮かべていた。
初号機も弐号機もどことなく哀しそうな雰囲気になっていた。
整備員たちは何故かそんな感じがしたとそれぞれ噂しあった。
一方その頃、廃墟と化した第3新東京市に佇む者たちがいた。
「……とりあえず、サンキューな久遠。お前の結界がなけりゃ俺の屋台もぶっ飛んでいたぜ」
ユウスケである。
ラーメンの屋台はリースであるため、壊すわけにはいかなかったのでホッとしているのだ。
「………蔵馬君の家も無くなっちゃった……私、これからどうしよ……」
久遠を抱き上げながら、マナが呆然と呟いていた。
ユウスケも屋台が無事でも、街か無くなれば商売が出来ない。
途方にくれる2人であった。
「あとで、蔵馬に相談すればいいじゃろう」
滞在していたホテルが無くなったゲンカイはとくに気にしていなかった。
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「とりあえず、ユウスケとマナはこれからNERVの食堂で働けるようにしてもらいましたから」
相談を受けた蔵馬は、その日のうちになんとかしていた。
蔵馬は冬月に頼み(脅し?)丁度、人手が不足していた食堂のスタッフの一員にしてもらった。
「なんで、食堂なんだ?」
「いずれ、雪村食堂を継ぐんですから、今のうちに練習しておくのもいいかと……」
「おまえなぁ〜!」
ユウスケのガールフレンドで幼馴染みの雪村ケイコの家の家業は大衆食堂である。
意外な才能というか、ユウスケは料理の腕が抜群だった。
蔵馬の料理と甲乙付けがたいレベルなのだ。
よく、桑原にも「いつでも雪村食堂を継げるな」などと言われているのだ。
第3新東京市壊滅により、住民はすべて疎開しNERV職員はジオフロントにある官舎に全員入ることになった。
ユウスケとマナとゲンカイは何故か、蔵馬たちと同じパイロット宿舎で寝泊まりすることになっていた。
もちろん、これも冬月を脅し……もとい、頼んで許可してもらった。
疎開により、しばらくヒカリと会えなくなるとのことなので、アスカに怒鳴られながらもトウジは見送りに行っていた。
夜。
1人目のレイを失ったレイは、蔵馬の部屋に居た。
流石に、今回はアスカとマナは遠慮して、それぞれ各自の部屋に居た。
蔵馬は慰めるようにレイを抱いていた。
☆ ☆ ☆
『SEELE』は零号機喪失に至るまでの経緯を検討していた。
「ついに16の使徒までを倒した」
「これで死海文書に記述されている使徒はあと、1人……」
「約束の時が近い」
「その後、サードチルドレンを始末し、セカンドチルドレンを寄り代にした我らの『人類補完計画』が発動する」
「これで、人類は救われるのだ」
「そして、我らは人類を救う救世主となるのだ」
「ところで、碇ゲンドウはどうする……未遂とはいえ我らに反旗を翻そうとしていたようだぞ……」
「奴のことをよく知る者を」
「冬月か?」
「いや、あの老人は駄目だ……所詮、ただ碇の後ろに立っているだけの男だ……それよりも……」
彼らの前に映し出された人物は……赤木リツコであった。
「ところで、最近我らの権益を割り込もうとしている『碇グループ』についてだが……」
「まさか、創設者の碇シンタロウが現役に復帰するとはな……」
「あの者は、我らの先代と親交が深かった人物だ」
「我らの計画が果たされるまで、夢を見せてやってもよかろう」
蔵馬の予測どおり、碇グループの台頭は、『SEELE』の連中にとっては警戒する必要がないと判断された。
☆ ☆
魔界。
現在の魔界の支配者、煙鬼は6人のS級妖怪を呼び寄せていた。
かつて、蔵馬が黄泉の軍事参謀総長を務めていたとき、直属の部下だった者たち。
鈴駒。錬金妖術師、酎。呪氷使い、凍矢。風使い、陣。死々若丸。美しい魔闘家、鈴木の6人である。
「煙鬼、おら達を呼んだ理由は何だ?」
「お前達はこれから人間界に行き、蔵馬の指示に従ってもらう」
「蔵馬の?」
煙鬼は現在、蔵馬が人間界での任務について説明した。
「限定的に、人間の殺傷を認める。蔵馬が許可を出した相手のみじゃがな……」
煙鬼に彼らの派遣を要請したのは蔵馬である。
蔵馬は最終決戦において、鈴駒たちをどう使うつもりなのだろうか。
☆ ☆ ☆
「いい加減素直になったらどうだね?赤木博士」
「我々も穏便に進めたい」
「君にこれ以上の陵辱、辛い思いはさせたくないのだ」
『SEELE』のモノリスの前で、リツコは全裸で立たされていた。
「私は何の屈辱も感じていませんが……」
たくさんの男達に己が裸体を見られてる……しかし、リツコは表面上は平然としていた。
かつて、無理やりゲンドウに強姦されたことがある。
そのときの、恐怖と絶望に比べれば、これくらい何でもないと考えようとしていた。
「……気の強い女性だ。碇が傍に置きたがるのもわかる……だが……」
「君を我々に差し出したのは碇君だよ」
「零号機パイロットの尋問を拒否。代理人として君を寄越したのだよ、赤木博士」
リツコは考えていた。
自分はレイの代わり……。
ゲンドウは、自分に離反したレイをいまだに大事にしているのか……。
結局……あの男にとって、リツコは都合のいい道具に過ぎないのだ。
心で、自らを嘲りながらもリツコは、今までゲンドウの命令に従ってきた。
自分を犯した男。
自分にとって、初めての男。
そして、自分が愛した男。
しかし、あの男にとってはただ役に立つ道具に過ぎないのだ。
人形だと思っていたレイは、あの男の呪縛からあっさりと抜け出し、愛する男と幸せを掴もうとしている。
リツコは……感情を殺し、愛する男に尽くしてきた。
しかし、あの男はリツコの心を決して見ようとしない。
役に立つ道具。
性欲を満たすための道具。
それがゲンドウにとってのリツコの存在理由。
リツコのゲンドウに対する愛は転化し、激しい憎悪に変わった。
冬月に続き、リツコもまたゲンドウを見限ったのだ。
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「よいのか?赤木博士の処置」
「彼女は返したほうが得策だ。EVAシリーズの功労者。いま少し役に立ってもらう。我々人類の未来のために」
ナンバー01はそう言うと、解散を命じた。
☆ ☆
蔵馬はリツコに呼び出された。
何用かと思い、リツコの部屋に行くとリツコは、映像の準備をして待っていた。
「何か御用ですか?リツコさん」
「シンジ君に面白いものを見せてあげようと思ってね」
そう言うと、リツコは部屋の明かりを消し、ディスプレイにある映像を映した。
それは、LCLの水槽の中に漂う『綾波レイ』たちの映像だった。
「この映像に映っているレイたちはみんなダミー、ダミーシステムの為に生産されたの……そして、レイの為のスペアパーツに過ぎないわ」
リツコは蔵馬に真実を教え、レイから蔵馬を取り上げようと考えたのだ。
そして、真実を知った蔵馬がゲンドウに制裁を加えるのを期待していた。
「人は、神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから罰が当たった。それが19年前……セカンドインパクトよ……せっかく拾った神様も消えてしまったわ。でも今度は神様を自分達で復活させようとしたの……そして、神様に似せて人間を作った。それが、EVA」
リツコは歪んだ笑みを浮かべていた。
「わかる?あなたの愛しいレイは人間じゃないの……人形なのよ……それでも貴方はあの娘を愛せるの?」
「……それがどうかしましたか、リツコさん」
「!!」
あっさりとした蔵馬の返答にリツコは絶句した。
「貴方、このことを知っても何とも思わないの?」
「フッ……リツコさん……貴女こそ俺を舐めていますね……この程度のことを俺が知らないとでも思っているんですか?」
「何ですって!?」
「俺にこのような映像を見せたということは、貴女は父さんを裏切ったようですね……」
蔵馬は確信した。
いくら、ゲンドウが蔵馬からレイを取り戻そうと考えていても、この事を教えようとするはずが無い。そんなことをすれば、レイの秘密がNERV全体に広がってしまう。いくら、ゲンドウが愚か者でもそこまで馬鹿ではない。
故にこれは、ゲンドウにとってはマイナスの要因だ。つまり、リツコがゲンドウを裏切った事を証明するものだった。
「では、俺もいい事を教えてあげましょう。セントラル・ドグマにあるこの映像に映っている水槽を破壊したのは俺です」
「!!」
「つまり、俺は最初から知っていたんですよ……レイの正体も、SEELEが進める『人類補完計画』についてもね……」
リツコは驚愕した。
そして、自分がいかに道化を演じていたのか思い知ったのだ。
蔵馬にレイの正体を明かして、ゲンドウとレイを苦しめようと思ったのに……まったくの無意味だったのだ。
「……リツコさん……俺のことを報告しようとしたら、俺は貴女を殺します……言っておきますが、俺は貴女を殺すことに躊躇はしません。貴女にはこれから俺の監視がつきます。その監視は貴女では絶対に突き止められません。貴女が俺のことを父さんや、『SEELE』の連中に告げようとしたら、その監視が貴女の命を奪います。死にたくなければ大人しくしていなさい。貴女が父さんと袂を別つなら……貴女を殺す必要もなくなりますからね」
蔵馬はそう言うと、部屋を後にした。
リツコは、改めて蔵馬の恐ろしさを知った。
そして、自分達の愚かさを……。
そして、理解した。
自分が何もしなくても、この少年があの男を地獄に突き落とすことを。
ならば、自分は傍観者となろう。
あの周りを見下している臆病者が、破滅する様をゆっくりと見物させてもらおう。
リツコは、そう考えた。
〈第二十五話 了〉
To be continued...
(2009.10.03 初版)
(あとがき)
ジョルジュ「ついに使徒はあと一体」
コエンマ「次回、ついにあの渚カヲルが登場する」
ジョルジュ「彼は、蔵馬さんとどのような交流をするのか」
コエンマ「それは、次回の楽しみに」
ジョルジュ「では、これからもかのものの駄文にお付き合いください」
作者(かのもの様)へのご意見、ご感想は、または
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