第三使徒、サキエル戦。
 結果初号機の圧勝に思われるこの戦でも、魔術師である彼は当然のように力を発揮している。
 初号機が制御不能に陥ったその時だ。珀夜はその混乱に乗じ、発令所から戦場に移動していた。
――開け ≪Warp Portal【ワープポータル】≫
 発令所から出た廊下。床で光る円に足を踏み入れた瞬間、ネルフから珀夜の姿が掻き消えた。

 ものすごく便利だと思われる魔法だが、これを扱うには生まれつきの素質が必要になる。
 資質が無くてもある程度の、簡単なものなら使用することはできるが、転送魔法≪Warp Portal≫のように複雑になると使うことはまず使用はできない。加えて魔法そのものの制限による不便さも大きい。
 たとえば≪Warp Portal≫。これは地面設置魔法に分類され、対象として地面を指定するという特色を持つ。地面設置魔法は人の足元に直接置くことは出来ず、その効果を得るには必ず人あるいは何かの物質が魔法が設置された地面に移動する必要がある。
 加えて≪Warp Portal≫の場合、最大転送人数が10人前後であること、ゲートの出現時間は約30秒、魔法発動者がゲートを潜るとその時点で閉じてしまうといった制限。色々と扱いにくいのだ。
 珀夜やシンジが魔法をあまり好まず、風を身に纏うことが多いのはこういった理由もある。もちろん、こちらの魔法としての確かな形に変えない手法が、より資質に影響されるのは言うまでもない。







新世紀エヴァンゲリオン――時の迷い子

外伝之弐――第三使徒、サキエル戦。

presented by 神凪珀夜様




 サキエル戦終了後。
(私は、何も出来なかった……)
 エヴァに乗り使徒を殲滅するのがあの人の命令。そして無に還るのが私の望み。なのに私はここで寝ていただけ。誰が殲滅したの……?
 目が覚めて既に数時間。白で構成されるこの部屋に訪れる者は誰も居ない。
 いいの、私は……だから……
「失礼する」
 身を起こして相手を待つ。
 …知らない人。誰?
「私は珀夜、神凪 珀夜という。碇シンジの保護者をしている者だ。
 君は綾波レイで相違ないかな」
「……(こくん)
 ……碇?」
 サードチルドレンの名前? 碇司令の息子…?
「シンジか。そうだな、ネルフが言うサードチルドレン 碇シンジ。バカ髭の血縁であり、私の息子みたいなシンジ。
 どの姿もシンジには変わりないさ。  そう、なの? 「人はいつでも色々な顔を持つものだ。今のキミと同じように」
 考えを読んだ? 違う。それに
「証拠が無いわ。それに私はあなたじゃない。」
 そう、彼の言うことがホントウかどうかは分からない。
 きっと、碇司令の息子が呼ばれたなら私は用済み。
「それは信じてもらうしかあるまいよ。君に示せるものは何も無いからな」
「何も無い……私と同じ?」
「同じとは」
「私には……何も無いもの」
 そう、私には何も。
「何を指して全てを語っているかは分からん。だがそれは君がそう思っているだけだな。
 自身が望まねば結果は得られぬよ。さて、キミは何を望むのかな?」
 私は、得られるの?
 ケド私の、望みは……それは……
「私は……無に還りたい」
「無、か。死を求める、それがキミの望みなのか。ならば私がこの手で送ってやろう。
 何、心配するな。無に……死に合間見えばこの世界のことを考える必要はなくなり、その思考も無くなろう。あの髭司令のこともな」
 碇司令のことを忘れるの……?
「そうだな、その前に一つキミに見せたいものがある。死に行くキミへの手向けだ」
 何故、止めるの? 少し不機嫌に聞いた。
「……何?」
「サキ、おいで」
「はい」
 病室に一人、入ってくる。……だれ?
「この子は名前をサキという。この世界で生きることを選んだ、君の妹に等しい存在だ」
「はじめまして、サキといいます。それとも……」
 サキと名乗る少女が、私の耳の傍で囁いた。 
「……と名乗った方が良いかしら?」
「!!!!!!」


「おまえもこの世界で生きていくか?」
 珀夜が持つ真紅のコアが、鈍く光った。
 彼の者の答えはYES。その答えを以て魔術師の真骨頂がココに発揮される。
「ならばまず肉体だが……」
 珀夜が持つもう一つの賢者の石。シンジに渡した、亜流賢者の石LCLの凝固石とはまた別の製法で作られた、本家本元の石になる。
 その賢者の石が赤い朱い紅い光を、鈍く発した。

 話は変わるが、マナと魔術師について説明しよう。
 魔術師はマナを理解しマナを操作する者を指す。マナとはすべてを育み、結合させる力を指す。そのマナは大きく分けて5色で表されることが多い。5色とは白、青、黒、赤、緑。それぞれの色に属性があり、色マナが支配する物質をコントロールが可能となる。

白:平地を司り、光、法、秩序、組織のを表す。純粋の色。
青:海、空を司り、策略とごまかし、時を表す。思考の色。
黒:沼を司り。死、病、独善、あらゆる犠牲を表す。死の色。
赤:山を司り、破壊、衝動、炎を表す。混沌の色。
緑:森を司り、成長、生命、自然を表す。生命の色。

 そしてマナは何かを構成しようとする力を持つ。構成要素そのものは異なるが、たとえば石。石を構成する分子は、石であろうとするマナ(この場合、基本は赤マナ)が無くなればたちまちその姿を変え砂、砂塵、塵へと姿を変える。そのためマナとはその事象を支える要素だと考えて問題はないだろう。
 またある程度の損失ならば自身で回復する性質を併せ持つ。石であろうとするマナを半分のみ移し変え、半分のみ石となるように術を施す、そうすると石が2つになると考えれば良い。
 そして人などの生命体はもっとも複雑に絡み合ったマナを保有する。錬金術では禁忌とされる人体練成でさえ人1人分のマナを移しかえる気でいれば可能となる。――それ即ち人1人を殺すことにも繋がりかねないし、個人個人でやはりマナ保有量が代わるため、クローンと同様似たようなものが2つ出来るだけに終わる。
 人が保有するマナの絶対量は少ないものだが、その複雑さは輪に掛けて難しい。何せ思考までもマナで表現するのだから。

 もっとも単色のマナでは純粋に何かを為すことは難しい。
 例を二つ挙げよう。仮に光を表すはずの白のマナだけで光を生み出せるかとなるとまず、無理だ――光は光のみの環境では光たり得ない。影があってこその光である。
 同様に、火は燃焼する物体があって初めて火たりえるが、酸素青マナがあるほうが燃えやすいのは言うまでも無い。

 基本となるマナにいくつかのマナを加え、練り上げ、最終的に魔法として放出するのが魔術師なのだ。

 そしてシンジ達は、LCL人の身で作られた、もっとも複雑とされるマナさらに寄り合わせた賢者の石を手元に持っている。赤く光る、マナの根源たる石。秘められたマナの量は自然界そのものより多く、肉体構成ぐらいのマナを使用しても石自体の復元力でたちまち含有マナの量は回復するだろう。
 ――その量のマナをコントロールできるかどうかはまた別の話であり、肉体の構成素材が無い現在、マナのみでは意味を為さないのだが。
 マナとはあくまで構成、結合させるための力であり、何かを作り出すわけではないのだ。

「肉体か……お前の意思次第だが、地下のあれを使うか。」
 そして舞台はネルフの地下へ……。


『マスター』
「なんだ?」
 珀夜に問う。
『私は……この肉体をもつのですか?』
 ふわふわと液体を漂ういくつもの体。その中の一つに使うのでしょうけれども、ちょっと気分は悪いですね。
「まぁ、そうなるな。もっとも見た目など些細なことだよ。お前が望むなら別の肉体でも作ろう。
 それにお前にもマナを操作することはできる。そうなれば自身で操作もできるし後は慣れの問題だ。慣れてしまえば寝ているときでもマナ操作ぐらいはできるものさ。お前たちは石を生まれつきに持っているだろう?」
『そういうものですか……』
 それはマスターが規格外だと思います。ええ、そうですとも。
 何故ただの人間が、そんな時間を生きていられるのでしょう。ぜったい、マナコントロールだけじゃないはずです!
「それはそれ、これはこれ、だ。
 そもそも思考そのものであるコレに触れてるのに、読めないなんてことは無いぞ?」
 うぅ……早く肉体を持ちたい……(T-T
「もうしばらく待つんだな」
 マスター、そんなにくすくすと笑わないで下さい!

「そうやって、私は転生しました。マスターの手によって」
 私とは違う、リリン――人間という種を見てみたくなったのもある。珀夜という人外規格…人外…人…ひと…? と、ともかくマスターに出会えたこともある。シンジというおもしろい人を見つけたこともある。
 だからこそ私はこの世界で生きることを決めた。
「私には意志があります。他の何者でもない、私の、私自身による意志が。希望、夢、そして私自身の歴史を私の手で作りたい。それらを私は叶えて生きていく」
 ただ何もしなかったあの頃。あのときはそれが普通であり、疑問など抱かなかった。
「何もないことが普通だなんて嘘。何もないことに慣れきって自らが排除しているだけです。昔の私みたいに。
 そのために私は、私であることを決めたんですよ」
 そう、そのためにまずはマスターについて行こうと決めたのだから。
 微笑みながらレイさんに答えた。


「あなたは……」
「うん?」
 黒いマントのヒトに聞く。
「あなたは何がしたいの」
「何が、か。それを知ってどうする?」
「私も、私の道を見てみたい。
 サキさんが何もなかったというのは、たぶん、本当のこと。けど私とは違う。
 それに、あなたは私を変えようとしている。何もない私に何故? それを知りたい」
「ふむ」
 私は私、今までの私にはできなかった考え。碇司令の言われるままに動いていたあの頃の私にはできない考え。
「ならばどうする」
「私も」
「良いだろう」
 神凪さんが手を伸ばす。けど怖い……? 今までの神凪さんとは違う……
「キミが君自身を作るのだ。何かに作られたなどと関係はない。人間だって親に作られたことには代わりはない。
 ヒトがヒトらしく生きるにはヒトであろうとする意志が欠かせぬ。キミにはそれをもてるかな?」
 分からない……。けど、私は一度見てみたくなった。
 檻から抜け出した世界を。

 私は、ゆっくりと、その手をつかんだ。

Write by: 神凪 珀夜
Homepage: 徒然草

To be continued...
(2008.06.14 初版)


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