リターン・オブ・エンジェルズ

外伝 至高なる存在達の誕生 或いは碇シンジの女難

presented by クマ様


紅い海のほとりで、一人の少年が佇んでいた。

彼の名は碇 シンジ。

遥かなる時を経て、己が得た全人類の知識を検証し、実践し、新たなる理論を構築し、ついには過去へ舞い戻りし者。そしてその過去において、己の記憶を封印し、かつて自身の体験した歴史をたどりし者。

しかし彼は、最後の瞬間に記憶の封を解き、歴史に反した。

すべての者達がLCLに帰る瞬間、何事にも動じない精神力をすべての人類に与えた。

そして第三におけるシンジの扱いを、追体験させるがごとく見せたのだった。

さらには人類補完計画。SEELE、NERV双方の物も教えてあった。

すべてを体験した後、精神力は元に戻るように設定してある。今頃全人類はどうしているのだろうか?

今彼は、生命の海を眺めながら呟く。

「さて、ここから何人が帰ってくるかな?一応S2機関の作り方も教えておいたけど」

S2機関の作り方。それはある意味外道の技術。

S2機関を作るには、LCLを何かで隔離する必要がある。ATフィールドが望ましいが、無ければLCL化した自分自身でよい。
その上で中のLCLをかき混ぜる。
一定以上のスピードになると自転を始め、中央に集まり、固形化が始まってくるのだが、そのときにどれだけLCLを継ぎ足すかで出力が決まると言ってよいだろう。より多くのLCL、より多くのDNAをつぎ込もう。
このとき自分自身が吸い込まれないように注意しないと、際限なくLCLを吸収し続け、出来上がったS2機関は見つけた誰かのものになる。

量産型エヴァのS2機関は、SEELEが南極海でサルベージした物だ。

またLCLは生命の泉であると同時に知恵の泉でもある。したがって、高い知性をつぎ込むことでより細かな出力調整が可能になる。
つまり、より高度な生命体、つまりは人間を使うのが最良となる。
また、S2機関の出力は大きさとは関係ない、重要なのは密度だ。大きければ使徒の時のように弱点となる。S2機関とそれを覆う制御システム、それがコアだ。
ちなみにシンジは、すべてのLCLを使ってS2機関を作っている。

「・・・・・・遅いね。
どう思う? 紫音シオン

「いくつかの生成中のS2機関の反応を感知しました。もう暫くすると動き出すものかと」

そう答えたのは、薄い紫銀の髪に濃紫の瞳を持つ少女。
シンジによく似た顔をしている。

それもその筈、彼女は元は初号機だ。そしてMAGIであり、イロウルでもある。

実はイロウルは、MAGIの中で生きていた。
MAGIに寄生し続けた彼女は、ネットワークを駆使して情報を集め、自我と呼べるものを確立しつつあった。
そしてそれに気付いたシンジが初号機に上書き、これによって彼女は肉体を得た。ちなみに中にいた碇 ユイ、長い間放置されることで孤独に苛まれ、自我は崩壊し、本能のみが残っていた。
MAGIの中に存在し続けた彼女は、最初のサードインパクトの後シンジの中に取り込まれて逆行、この時間の初号機に上書きした上で、MAGIに直結して得られる情報から感情を学習、この時間のイロウルと初号機、ゼルエルのコアを取り込み、一人の知性ある使徒としてここにいる。
そして、元が初号機でもあるから、ベースとなるのは取り込んでいるユイの顔=シンジに似た顔、となる。

「・・・・・・!
生成の終わったS2機関の幾つかが、分裂しました、これは、脈動を開始?! 信じられません、あれだけの情報から、脈動融合によるS2機関のレベルアップを行っています!」


S2機関の分裂は、イスラフェルが行っている。
彼(彼女?)は自身が分裂するため、損傷を補完するために分裂しただけだが、他にも分裂の使い道があった。それが脈動融合。

方法は、まずS2機関を二つに分ける。そうすると出力もほぼ半分に減るわけだが、その出力を同時に変動させるのだ。
安全なところで1.2倍の出力、暴走覚悟の場合、最大で1.75倍までだせる。
そして、脈動上昇点でS2機関を融合させる。するとその時の出力の約二倍が、融合したS2機関の通常出力になり、その制御能力も同じだけ上昇する。

この方法の欠点は、高出力を狙えばS2機関の暴走を招きかねないこと、そして逆に出力の低下を招きかねないこと。
脈動を大きく取ることはすなわち、急激な上下動を行うことになる。
上昇中と思って融合を開始したら一気に落ちてしまい、下降点で融合、出力が落ちてしまうという事もありうる。最悪の場合は下降が止まらず、S2機関の停止だ。

「・・・・・・すばらしい・・・・・・あの程度の情報からこんなことが分かるわけが無い、己で考え出したんだよ、強化のやり方を!
どんな人だろう? 僕と共に在ることを望んでくれれば嬉しいんだけどね」

「? 『始原の泉』から戻ってくる存在が、マスターの敵に回ると?」

「ありえるよ。
こんなことを導き出せると言うことは、科学者だろう。 と、言うことは、僕を研究対象と認識したかもしれないよ」

そう話し合った二人は、そろって紅い海、始原の泉を見る。

すると、

「う、・・・・・・うぇ、・・・・・・うぅ・・・・・・」

突然聞こえてきたすすり泣きに右を向くと、全裸で泣き崩れている少女が一人。

「「・・・・・・(汗)・・・・・・」」

『帰ってくるなら目の前に』と、意味も無く決め付けていた二人の後頭部にでっかい冷や汗ひとつ。

「・・・・・・あはは、は。まあ、こんなこともあるよね」

「そ、そうですね」

二人は引きつった笑いを浮かべ、その少女に向かって歩いていった。

しかし、少女に近づくにつれてシンジの顔には驚愕の表情が浮かぶ。すぐ傍に立ったシンジは、意外すぎる人物に、思わず呟いた。

「・・・・・・委員長・・・・・・」

「・・・・・・うえ、うぅ、い、いかり、くん」

泣きながら顔を上げたのは、洞木 ヒカリ。
まるきり予想外と言うわけではない、可能性はあった。しかし一番最初に、というのは思いもしなかった。

「碇君、ごめんなさい、ごめんなさい。私知らなかった、知ろうともしなかった、碇君があんなにつらい思いをしてたなんて、あんな目にあっていたなんて。
それなのに、私自分勝手な思い込みを碇君に押し付けていた、ごめんなさい!」

「気にしなくていいよ、洞木さん。NERVでのことはほとんど機密だったから、知りようがなかったことだよ?
それにアスカのことを優先するのは、友達として当然だと思う。事情を察しろなんてことは、中学生の僕たちに求めるのは酷だよ。
だから気にしないで。ね?」

「違うの、鈴原の、こと」

「!!」

片膝をついて背中をさすりながら、仕方の無いことと言って慰めようとしていたシンジは、唯一ヒカリに対して持っていた嫌悪感をヒカリ自身の口から言われ、固まった。

「私、碇君の気持ちを考えもしなかった。
いきなり知らされてない理由で殴られて、自分勝手な理由で戦いの邪魔をされて、そのせいで罰も受けて・・・・・・。
それなのに私、鈴原に相談されたとき、友達になって支えてあげればいいなんて言っちゃった! 碇君がナツミちゃんのことを気にしてるの、分かってたのに! 鈴原の自己満足にしかならないの、分かってたのに!!」

そう、ヒカリはシンジが登校し始める前に、密かにトウジから相談を受けていたのだった。
痛烈な自己否定。それをシンジは、沈痛な表情で聞いている。

やがてシンジは、ヒカリの肩を優しく抱くと語りかけた。

「ほら、もう泣き止んで。
確かに苦痛だった、自分が傷つけた相手の兄と親友を装うのは。だけどね、そうしなかったらあの場が丸く収まることはなかったんだ。
トウジだってそう。シャムシエルのとき、何があったか周りが薄々気付いている、だってシェルターからいなくなってたんだから。だから当事者同士が仲直りした風を装いたかった。洞木さん、ううん、ヒカリが言い出したことは渡りに船だったんだよ。
その後もそう。ヒカリがいたから、あのクラスがギクシャクしなくて済んだんだ。
だから、ね? もう泣かないで。かわいい顔が台無しだよ」

そう言って、優しく微笑みながらヒカリの肩を抱きしめる。

「い、碇君・・・・・・。
ぅ、うぅ、うわ〜〜んっ!」

ガバッ!

「うわっ、ヒ、ヒカリ?!」

感情が押し流したのだろう、ヒカリがシンジを押し倒す。
シンジはシンジで、おとなしいヒカリがこんなことをするとは思ってもいなかった。あっさりと押し倒される。

「ごめんなさい、碇君、ありがとう、碇君、ごめんなさい、碇君、ありがとう、碇君、ごめんなさい・・・・・・」

「(はわわわわ、素っ裸で抱きついてくるなんて、抱きついてくるなんて・・・・・・。
!?む、胸が当ってる! 胸が、おっぱいが、バストがぁ〜。ヒカリの胸って以外におっきくってやわらか〜、じゃなくって!
(ムク、ムク)ああ! まずい、雰囲気が台無しになる! 膨張しちゃ駄目だ、膨張しちゃ駄目だ、膨張しちゃ駄目だ、って、太ももに挟まれてきもちいい〜、■*!○☆@?▽&$%(プチッ!)。 !! (ガバッ) ウワァ〜〜! ヒカリ、ヒカリ〜〜!」

「えっ? い、碇君?!
ちょ、ちょっとまって、だめっ! そういうことは暗くなってからベッドのな、む〜〜?!」

あっさり理性を手放し、逆にヒカリを押し倒すシンジ。
ヒカリは抵抗しようとするが、押し倒された時に開いた脚の間に体を入れられており、大したことができない。その上、唇をキスでふさがれてしまって、何もできなくなってしまった。

そのまま二人は、18禁な行為に突入する。

そんな二人を、生暖かく見つめていたものがいた。

「何気に口説いてましたね」

「口説いていたな」

「女たらしの素質有、というところですか?」

「流石は碇総司令の息子、と言ったところか」

「? 髭外ン道ヒゲンドウの特技はレイプでは?」

そう言って紫音は、隣に立つ長髪の青年に視線を送る。

その青年は、口元に酷薄な笑みを浮かべ、冷徹な視線を紫音に向けた。

「確かに、赤木 リツコ前後は、奴自身の余裕の無さからレイプで事を済ませていたな。だが、それより以前や以降は、口説き落とした女が大半だ。
特に、赤木 ナオコと惣流 キョウコ、この二人は、自身が結婚してからも関係が続くように念入りに口説いていたな。
碇 ユイは知らなかったらしいが、ナオコ・キョウコの二人は、一緒にゲンドウと寝たこともあるらしいぞ」

「・・・・・・やっぱり外道」

そう呟き、顔をしかめる紫音。

そんな彼女に、青年は小さな疑問をぶつけた。

「見たところ経験はあるようだが、あっさりと暴走したな。経験が少ない、割にはテクニックはある。
どう判断するべきだ?」

「・・・・・・経験だけは、私相手にあります。ただ、その当時の私には経験値がほとんどなく、特に感情表現がまったくできませんでした。
こういったことの練習には専門用語で言う、ストーリープレイ、ですか? これが良いかとは思いましたが、それをするには感情が必要です。私では三文芝居でも評価が高すぎたでしょう。
感情表現の下手さゆえの、やっていて萎えてくるストーリープレイよりも、生きたダッチワイフをするほうがまだしも健全でしょう」

うつむき、真っ赤になって答える紫音。

そんな彼女に、冷笑と暖かな視線という相反する物を向けながら、

「そうか」

一言だけ返した。




そうこうしているうちにも、何人かの人物が始原の泉から戻ってくる。

「ップァッ! ようやく岸に上がれたわぁ!
けっこう沖に流されてたなあ、機関生成で海流がおかしくなってるわね」

「ふえ〜〜、LCLが気持ち悪いよ〜〜。シンジ君もいつもこんなの我慢してたのかな〜。
って、きゃ〜〜っ! 私なんで裸なの〜〜?! 服、服、ふく〜〜! ぎぶ・み〜ふく〜〜!」

「うわきゃあ! 私もすっぱだかあ〜?!
ふくふくふくふく、福じゃなくって服〜〜!!」

「・・・・・・サツキ、文字変換しないとわかんないこと言わないで。
二人とも、NERVの制服、見つけてきたわよ。サイズが少し違うけど、勘弁してね」

そう言って阿賀野 カエデ、大井 サツキ両者に制服と下着を渡したのは最上 アオイ。
彼女は多少余裕があったようだ、下着だけ着けている。

「ありがと〜!って、なによこれ〜〜!!ななな、なんでこんな、スケスケてぃ〜ばっく〜〜?!」

「あんたは白だからまだマシよ! 私なんか黒よ黒! しかもパンストじゃないし〜」

「・・・・・・馬鹿ばっか・・・・・・」

騒ぎながら服を着る二人を眺めながら、以外にも鍛え上げられている肢体を制服に包む。

そんな彼女に、後ろから声がかかった。

「あのせくすぃ〜悩殺らんじぇり〜は、お前さんの趣味かいな、最上二尉?」

「飛び込んだのがそういうの専門のショップだっただけです。
それとああいった物はファウンデーション、補正下着に部類されるもの。ランジェリーはもっとゆったりした物だわ」

羞恥というものを欠片も感じさせず、むしろ憮然とした表情で返すアオイ。

「・・・・・・さよか。まあわいらみたいな野郎にとってはおんなしやわ。しかしまあなんや際どいの〜、乳首やあそこ、薄う透けとるで。
しかもガーターベルト、っくぁ〜、男の煩悩を刺激するわ〜! いわゆる勝負下着っちゅう奴やな、これは!」

これでも店にあった中では大人しい方だったのに! 私は別に気にしませんが、二人はからかわないでください。 いいですね? 鈴原一尉」

「お、おう、分かったわ」

こめかみをヒクつかせながら凄むアオイに、声を掛けた男、鈴原 ハルキ一尉がわずかにたじろぎながら答えた。

「最上三尉、あまりいじめないでくれる? 女にとってはお洒落でも、男の煩悩を刺激するものなのよ。
特に、ガーターベルトなんて娼婦が着けるものなんて思っているくらいよ。 そうではなくて?鈴原一尉」

「赤木は〜ん、そらあんまりですわ〜。 あれが悩殺ちゃうんなら、なにが悩殺なんでっか〜」

「(クスクス)もっとレースとか使ってて、肌がスケスケに透けているものよ。着けないほうがマシっていうのは、けっこうあるわよ?
ところで鈴原係長、御子息は?」

「あ〜、馬鹿息子はあきまへんわ。あん中で夢見とる方がええらしいですわ。
防諜課の、洞木課長の御嬢はんに想われときながら、レイ嬢ちゃんやアスカ嬢ちゃん相手に、犯りさかさかっとる夢見とりますわ、あんだ〜ほは!」

ハルキは青筋立てて吐き捨てる。

防諜課課長洞木 ランドウの娘、特に次女のヒカリといえば、同年代の息子を持つ親父連中の中では、息子の嫁にしたい女の子ランキングで、常に上位に位置する超優良株の女の子だったからだ。

その理由は、彼女は家事万能で特に料理が上手で、細かなことにも気が付く上に親や姉を立て、妹を気遣うできたお嬢さんだからだ。
更にランドウは、『最近、亡き妻に似てきた』と言うことがある。彼の妻といえば、事故で亡くなるまでは近所でも評判の美人妻だっただけに、将来美女になるのは決定事項らしい。

「まあ息子さんの年代なら、まだまだ中身より見た目な頃だから仕方ないのではなくて?」

そう言いながらクスクスと笑い続けるリツコ。

そんなリツコにチラチラと視線を向けながら、彼は少々言いにくそうに声を掛けた。

「あ〜、赤木はん? そろそろ服着てくれまへんか?
せくすぃ〜らんじぇり〜も悩殺モンやけんど、そのカッコもな〜、最上嬢ちゃんの視線が、ごっつう痛いんやわ〜」

そう、リツコはそこに全裸で立っていた。
さりげなく両腕を使い、隠すところは隠しているものの、素っ裸だ。アオイの、『こんのド助平エロ親父がぁ!』という、いわゆる殺す視線も仕方が無い。

「(クスクスクス)あら、その割にはあなたの股間、無反応よ?」

「堪忍したってや〜。こない居心地わ〜るいなかでおっ勃つほど、わいの(ピ〜〜)は無神経でもないし図太ぉもあらしまへんで〜(涙)」

「(クックックック)そうね、そろそろ可哀想だし、服を探そうかしら?
(ザバッ!)っと、マヤも帰ってこれたよう(ドンッ!)えぇ?!」

ドベシャァッ!

始原の泉から出てきたマヤは、脇目も振らずにリツコを突き飛ばすと、砂を蹴立てて一目散にシンジを目指して走り出す。

リツコはというと、突き飛ばされた勢いで、腰を高々と上げた状態で頭を砂浜に突き立てている、もちろん全裸で。

「伊吹二尉、あんさん、上司になんつう事を・・・・・・、赤木はん、ごっつい格好でコケとるで。
そやけど赤木はんもええ腰つきやわ〜、さすがは元ミス第二新東大(非公式投票)、脂ののったええ女〜」

「マヤ、敬愛する先輩を突き飛ばして、あんな恥ずかしい格好にして、更に無視?!
ほ、骨は拾ってあげるわ」

「(ズボッ!)マ〜ヤ〜、覚えてなさいよ〜!!」

ある意味挑発的なリツコの格好に鼻の下を伸ばすハルキに、後のことを考えて青くなるアオイ、頭を抜いて凄まじい視線を向けるリツコがいた。




そこには、陰に篭った少年がいた。

そうなってしまった理由は、ぶつぶつと呟いている言葉の端々から分かる。

「僕って最低だ、僕って最低だよ。
確かに経験は紫音としかないけど、あっさり暴走しちゃうなんて、そりゃあ紫音はどうすればいいかわからなかったから、生きたダッチワイフみたいな感じだったからって、雰囲気ぶち壊して押し倒しちゃうなんて最低だよ。
強引にするにしても、ヒカリにももっと気を使わなくちゃいけないのに、ヒカリは初めてなんだから、もっと優しくしなきゃいけないのに、自分の欲求だけをぶつけるなんて最低だよ。
ヒカリの初めては、ひなびた温泉旅館が似合っていると思うのに、こんなのあんまりだよ。
ああ、そうなるとマユミの初めては高級温泉旅館の離れがお似合いかな? アスカはプール付きの豪邸の、プールサイドで太陽を浴びながらって気がするなあ。
マナは高原のリゾートホテルで、森林もりの空気を吸いながら、かな? マヤさんなんかは、ディズ○ーシーの、ミラコ○タの、スイートってとこ?
リツコさんなんて、超高級リゾートホテルのロイヤルスイートで、シャンパングラスを傾けながら・・・・・・」

必殺、現実逃避が入りだした。

しかしそんなことは長続きしない。なぜなら、一人の少女(?)が、砂煙を上げながら突っ込んできたから!

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

「シ〜ン〜ジ〜〜く〜〜〜ん!!」

ドグォオッ!

「ゲフウッ!」

ズザザザザザザザザッ!

ドゴッ!

「きゅう〜〜〜」

突っ込んできた勢いのままその腰にタックルをかまし、かなり先にあったはずの岩に叩きつけるマヤ。NFLのスカウトが見れば、よだれをたらして声を掛けるだろう。ピッツバーグ・スティーラーズ万歳!

シンジは意識を失いかけているが、彼女にとってはそんなこと関係ない。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい〜〜〜!
つらい思いしてたのに、苦しんでたのに、助けてあげられなかった、手伝ってあげられなかった〜〜!
腐界に住んで、一生懸命浄化してたのに、腐界獣を飼育してたのに、手を差し伸べられなかった。どうせ穢れてたのに、これ以上汚れたくないなんて思っちゃった!
レイちゃんにひどい事してたのに、人の命の上で生きてたのに、もう血まみれなのに〜〜!」

「ぐう〜〜〜ぅ?! マ、マヤさん、落ち着いて、もう終わったことなんだから。
大丈夫、血にまみれてなんかないですよ」

どうやら意識を失わずに済んだシンジは、その最も大きな要因でもある、胴を締め上げるマヤの両腕を、渾身の力をこめて引き剥がす。

マヤは両手を地面につき、うなだれながら呟いた。

「・・・・・・そんなことないわ・・・・・・
私、偽善者だってわかってる。
葛城一尉の家が腐界だっていうのも、葛城一尉の作戦が行き当たりばったりなのも、葛城一尉が責任をチルドレンに押し付けようとしているのも、葛城一尉が自分から保護者を引き受けたのに、仕事のせいにしてその責任を放棄したのも、全部知ってて、怒った振りをしてた。
面と向かっていえば、言ったことの責任を取らなきゃいけないから、逃げてた。
レイちゃんのこともそう、先輩に他の方法を探そうって言えばよかったのに、ならあなたが探しなさいって言われるのが怖くって、私のせいでダミーシステムの開発が頓挫するのが怖くって、何もできなかった。
エヴァのメンテナンスや部品製作も、もっと効率的で安くできる方法に気付いてたのに、先輩の面子を気にして、提案すらできなかった。
そのせいで、どれだけの人が餓死したか、わからないのに」

「それが自覚できたんだから大丈夫、次があるんだから、そこで償おう、ね?
一度血にまみれたことを自覚したなら、次はまみれずに済むようにすればいい。
そうすれば、今以上に穢れずに済む。まだマヤさんの体はそんなに汚れてない、綺麗なほうですよ?」

そういってマヤを慰めるシンジ。

しかしそれは、起爆装置の安全装置を外したようなものだった。
マヤがそのスイッチを入れる。

「私に、償えるかな?」

横座りし、両手をついた全裸の美少女が涙を流しながら上目遣い。

シンジはあっさりと暴走した。




一人の少女が、砂浜を走っている。

彼女はNERV本部近くの、戦自の秘密基地に幽閉されていた。
それゆえに、来ている服も、迷彩柄の野戦服にコンバットブーツ、下着も補正だのお洒落だのとは無縁の、胸が邪魔にならないように固定するためのものだった。

そんな彼女が、第二ラウンド中のシンジを見つけて呟く。

「あっちゃー、間に合わなかった〜。もう二号さんまでいるよ〜。
こうなれば、私は三号さんでもしょうがないかな?
それでは三号さんこと霧島 マナ、いっきま〜すぅ?!」

ズザザザザッ、ドガッ!

「にょわあ〜〜ッ!」

いきなり横から、凄まじい勢いで『ぶちかまし』を喰らい、はじき飛ばされるマナ。

「ななな、なに?!」

「御当主様に不埒な心積もりで近づくことは、この山岸 マユミが許しません!」

辺りを見回したマナの視線の先にいたのは、眼鏡を掛けた全裸の黒髪の少女。

その視線は、決意に満ち溢れている。

「・・・・・・たしか、シンジの遠縁の、マユミ、ちゃん?
かわっちったね〜」

「『知の海』において一族のことわりを知った以上、その任を安易に捨てるわけにはいきません。
全力を持って御勤めを果たします!」

「ん〜、けど、あっちでは二人ほど、シンジに『お勤め』してるみたいだけど、それはいいのかな〜?
あの中で知った通りなら、山岸家の使命のひとつは、御当主様に胡乱な人物を近づけないって言うのがあったんじゃないの? このままほっとくと、どっちかが孕んじゃうかもね?」

マユミの注意をそらし、乱入して既成事実をと画策するマナ。
しかし己が家命を知ったマユミは、堅物と化していた。

「『ヒカリ様は夷狩いかり』四家が一、殺禍得慧さかのうえ家が分家・屠鬼ほらき家が御息女、マヤ様は公家が末・伊吹家が御息女とあらば家柄は申し分なし!
更には御当主様が御望みになられたうえで性行為に及んでおられる以上、御生まれになる和子様を御守り致すのも我が一族の誉れ!
願わくば、御懐妊の前に正式に御輿入れいただきたいだけです」

「は〜、ほんとかわっちったね〜、マナちんは悲しいよ。
でも、はいそうですかと諦めきれないのよね!!」

「させません!!」

一気に、普通に走り出すマナに対し、大きく脚を開き、腰を落として拳を軽くつくマユミ。

発生したATフィールドが腰に纏わりつき、物質化してまわしとなり、巻き上がった髪は自らの意思で大銀杏を結う。

「『夷狩』四家が一、邪魔退やまたいが末、夜魔鬼神やまぎし理鬼神りきし魔魅まゆみ、参る!」

「! ハアッ!」

バッ!

凄まじい勢いで詰め寄るマユミに対して、突如凄まじい勢いで動き、砂煙を使った残像で目くらましをかけるマナ。
しかしマユミも、簡単に惑わされたりはしない。

「発剄、よいっ!」

突き出した掌底が、次々に残像を貫く。

ドボオッ!

「ほげえっ?!」

砂煙ごと打ち据えられるマナ。
彼女は体を起こしながら呟いた。

「今のなに?!
これだけ離れてて、なんで手が届くのお?!」

「剄を飛ばせば、簡単なことです」

驚くマナに、仁王立ちになったマユミが答える。

「ケイって、発剄?! それって普通は、相手に触ってぶつけるものでしょお?! なんて非常識!!」

「夜魔鬼神流古式相撲術を極めし者なら、基本中の基本です。
さてマナさん、覚悟はよろしいですね?」

「たはは、は」

冷や汗を浮かべたマナには、見下ろしてくるマユミが鬼に見えていた。

ゆっくりと後ずさるマナ。
マユミの気が一瞬それた、そう感じた瞬間、後ろを向き、走り出そうとする!

ガシィッ!!

「ほへっ?!」

いきなり足をつかまれて振り返ったマナは、にっこり微笑むマユミを見て青くなった。

「覚悟は、よろしいですね?」

確認の後、ちらりと彼方を見遣ると、両足首を持って自ら回転を始める。

「夜魔鬼神流古式相撲術・横廻大翔投!」

「にょええ〜〜っ!」

マナは凄まじい勢いで、投げ飛ばされた。




「なかなか壮絶なシンジ君争奪戦が起きているようだねえ。
誰が勝ち残ると思う? リリス」

「誰でもいいわ、だって関係ないもの」

「おやおや、リリスはシンジ君を諦めるのかい? 驚愕したよ。 つまりびっくりしたって事さ。
僕にはシンジ君を諦めるなんて、考えることすらできないよ」

「勝手に決めないで。
碇君はすべてを内包してしまったわ。それはすばらしいことであり、同時に不幸なこと。
おそらく今の碇君には、誰かを選ぶことや拒絶することはできない。たとえそれが、碇君を傷つける目的で近づいたとしても。
すべての頂点に立った以上、碇君が拒絶するということは存在そのものを拒絶することにつながりかねない。そうなれば、その人は存在を許されずに消滅しかねないわ。
以前の優しいシンジ君なら、自分が傷つくことを選びかねない。
それに私は、諦めるとは言っていないわ。
確かに、今のシンジ君なら顔色一つ変えずに消滅させるけれど、性格はそう簡単には変わらない。いつ元に戻るかわからないわ。
なら、そうなった時のために、シンジ君の選ばない相手はシンジ君に近づけない、そして私も、選ばれるまで近づかない。それが私が選んだ道よ。
それとタブリス、私の人格は綾波 レイであってリリスではないわ。間違えないで」

「その考えからいくと、僕はシンジ君の傍にいてもいいことになるねえ。なにせ僕は、シンジ君とひとつになるためだけに、いつでもどこでもひとつになれるように、避妊の必要のないこの体を手に入れたんだから。
リリスも認めていることだし、僕もシンジ君に抱かれに行って来るよ」

そう話しているのは二人の少女、全裸の渚 カヲルことタブリスと、NERVの制服を着たリリスこと綾波 レイ。

そう、タブリスは還って来た、女性化して。

彼が初号機に握りつぶされたとき、実は頭部にあったそのコアは、潰されることなく弾き飛ばされていた。
そしてそのコアは、リリスの血溜りに落ちた上に、『死に移行した』と思い込んだタブリスによって休眠状態に戻ってしまっていた。
そしてサードインパクトで引っ掻き回された結果、いろいろな所にぶつかった痛みで目が覚めたのだった。

17番目までの使徒が殲滅されていること、それが補完計画の前提条件のひとつ。

前回の補完計画が失敗した理由のひとつがここにあった。

自己中心的なセリフを吐いて歩き出すタブリスに対し、『わりゃなに自己中ぶっこいとんじゃぁこんボケがぁ』という表情で睨むレイ。

レイは物質化したATフィールドをタブリスの上に出現させ、そして重力に任せて落下させた。

ドスン!

ズザザァ。

「いきなりなんてことをするんだいリリス! 危ないじゃあないか!」

間一髪、ATブロックを避けたタブリス。
彼女はレイに向かって、ものすごい剣幕で文句を言った。

その言葉にレイは、無表情に答える。

「私は綾波 レイだと言った筈、間違えないで。
あなたはまだシンジ君に選ばれていないわ。
それと付け足し。
私は、シンジ君にふさわしくない人物を近づけるつもりはないわ。よってタブリス、あなたを排除するわ」

「僕のどこがシンジ君にふさわしくないって言うんだい? いい加減なことを言わないでほしいねえ、嫌悪に値するよ。つまりは「嫌いと言うんでしょう? 私もよ」」

立ち上がり、復活したときに伸ばした、肩にかかっていた髪を払いながら返す言葉をさえぎるレイ。

レイは、タブリスをキッと睨むと、『だめだし』をはじめた。

「シンジ君にふさわしくない所、まずは選ばれてもいないのに近づき、手を出そうとするその自己中心さ。
そんな自己中は、なにか気に入らなくなったら碇君の元を離れるわ、碇君を傷つける言葉を吐いて。
否定しても無駄、全人類的に自己中にはそういう傾向が強いもの。
次にその次代をのこせない体。
理論上私達に等しい存在は居ておかしくない。そして生存競争となる可能性も否定できない。想像したくもないことだけど、その時、碇君にもしものことがあったら?
子孫をのこせない者を近づけ、次代を減らすことは得策ではないわ。
次は顔。
歴代の当主の正妻は和風美人であり、側室も各国の美女だわ。
タブリスは日本人をベースにしている。そして日本では、あなたのような顔を『爬虫類顔』と言って、嫌う傾向が強いわ。
最後にプロポーション。
そんな下品な体を持つ人は、対外的にも対内的にも、碇君の精神衛生上も、側に置くわけにはいかないわ」

そのだめ出しに、苦笑しながら軽く手を広げて、首を振るタブリス。

「やれやれ、何を言っているんだか・・・・・・。
いいかいリリス、僕はシンジ君のためだけにこの体を得て、帰ってきたんだ。身も心も、シンジ君色に染まるさ。
シンジ君に仇なす存在? そんな物は僕達が倒せばすむ事だよ。そんなことより、妊娠中だから満足させれませんと言うほうが問題さ。
僕の顔が嫌われる傾向? ほかの人に嫌われようとも、シンジ君に好かれればそれでいいのさ。僕はむしろ好かれている筈さ、なんせシンジ君とは一緒にお風呂に入ったこともあるんだ。
それにこのプロポーションは、LCLの中で得た、男性陣の理想の女性像だよ? 自分にない物を持つからと言って、卑下しないでほしいねえ」

そう言って巨大な胸を張るタブリス。

冷たい視線を浴びる全裸のタブリス、その基本は細めの体だ。
しかしその胸。スイカップという言葉があるが、その胸はバルーンカップとでも言うべきだろう。腕が隠れるほど大きな胸が、豊胸手術? と聞きたくなるほど不自然な張りで押し合っている。

ウエストはウエストで、一気に締まっている。
肋骨がなくなったとたんに絞り出した腹部には、内臓はどこにいった?!と聞きたくなってくるほどに細い。40cmあるんだろうか?
それに対するヒップ、1mあるんじゃないの?!といいたくなるほどでかい。大きいというよりデカイ!のだ。そしてそれに見合った太さの太ももから細い足首へとむかう。

要するに、男性陣が喜ぶプロポーションを、サイズ・バランス無視で極端にしすぎた、というところだろう。

「正論をぶつけても無駄そうね。
実力で排除するわ」

「望むところさ」

絶対零度の視線を向けたまま、冷たく言い放つレイに、好戦的に返すタブリス。

しばしのにらみ合いの後、レイが動いた。

「・・・・・・ATブロック、投下」

しかしタブリスはそれを軽々と避け、鼻で笑った。

「どうやらリリスは、男性心理のみならず戦い方や個人の能力も理解できないらしいねえ。ATフィールドとはこう使うのさ!」

そう叫ぶと、ATフィールドを円筒形にし、中に砲弾型のフィールドを形作る。そして、

「くらえ!ATキャノン!!

「・・・・・・ATウォール・・・・・・」

ギーーンッ!!

「へえ、なかなかやるねえ、リリス」

「・・・・・・」

音速で打ち出された砲弾を、ATフィールドの壁ではじくレイ。

紅い壁をはさんで、しばしにらみ合いが続く。

しかし長くは続かなかった。レイが視線をはずし、にやりと笑う。

「・・・・・?・・・・・!!」

ズドゴオォッ!!

タブリスは、飛んできたマナ・ミサイルの直撃を受け、ATウォールに激突して沈黙した。





パシャッ。

「んっと、どこいった、かな?」

始原の海の中に、片手を突っ込んだ男がいた。波打ち際という浅瀬で、何かを探している。

「っと、見つけた! せ〜の、ていっ!」

ザバァッ!

全裸の青年が、膝を抱えた状態で引きずり出される。

「・・・・・・マコト、いつまでいじけてるんだ?」

「・・・・・・なんで連れ戻したんだよ・・・・・・」

「・・・・・・おまえ、周りからどう見られてたか知ってるか?」

「・・・・・・なんで連れ戻したんだよ・・・・・・」

「俺は情報部の仕官も兼ねててな、そっちからもネタが入ってくる。
お前の評価、イエスマンだぞ?」

「・・・・・・なんで連れ戻したんだよ・・・・・・」

「戦自での評価は、作戦立案能力は高く指揮能力は中の上、こちらは向上の余地大いにあり。鍛えれば悪くても師団長は確実といわれていた。
難点は国民を護ることに幻想を抱いていること。
捕虜を拷問してでも情報を引き出さなければ多数の命が奪われる、民間人ごとゲリラを殲滅しなければ多数の命が奪われる、そんな経験をさせて幻想を破っておく必要ありってな」

「・・・・・・なんで連れ戻したんだよ・・・・・・」

「同期の評価。あいつには年増で美形の巨乳あてがっときゃどんなことでもごまかせる、インテリならなおよし!」

「・・・・・・なんで連れ戻したんだよ・・・・・・」

「NERVはな、お前のその評価を知ってたんだ。だから葛城 ミサトのいない間にお前を本部に配属し、その後二十代で一尉、作戦部長就任で自信に満ち溢れたあの女をみせて惚れさせ、あの女の暴走を止めさせないようにした。
けどな、マコト。お前の目は節穴か?少しは周りを良く見ろ、お前が惚れるにふさわしい女はすぐ近くにいるぞ?
観よ、佳の人を。
麗しきその者、そは成熟の美、そは豊穣の美、そは知性の美。
汝その美に酔いしれ、その心虜となろう。佳の人の心得る為にいかなることも辞さぬであろう。汝呪われたるがごとく。
佳の人の御名、そは赤木 リツコなり」


詠うように告げられた名に、まるで憑かれたかのように指差すほうを見るマコト。そこにはいまだ全裸のリツコが立っている。

マコトにはその姿が女神のように見えていた。

「・・・・・・きれいだ・・・・・・なんて美しい・・・・・・。
そうだ、あの女性こそ、僕の求めていた 女性ひとなんだ!
ありがとうシゲル、お前のおかげで目覚めることが出来たよ!」

そう叫ぶマコトを見る青年、青葉 シゲルは、ニヤリと酷薄な笑みを浮かべていた。





事を終えたシンジは、近づいてくる気配に振り返った。
そこには、マナとタブリスを引きずるマユミとレイが。

「・・・・・・どうしたの?・・・・・・」

「不埒な事を考えておりましたので、殲滅いたしました」

「分不相応なことをたくらむ者には教育が必要」

「・・・・・・そ、そう」

思考を読んで事の次第を知ったシンジは、冷や汗をかいている。

シンジは目の前の二人と足元の二人をチラッと見ると、一人ひとりATフィールドを浴びせた。

浴びせられたATフィールドは、物質化して四人を包む。
ヒカリは淡いピンクのワンピース、マヤはフリルの付いたブラウスにプリーツスカート、レイはヒカリと色違いの、薄いブルーのワンピ、マユミの場合は、まわしが消えて、淡いピンクを基調とした加賀友禅の振袖に。

そしてシンジは、自らも羽織袴姿になり、ちらりと始原の海に視線を向けると、二尺八寸の太刀を作り上げ、腰に挿した。

「? 碇君?」

「なにか、ありましょうか?」

「ああ、気にしなくていいよ、念のためと、護られてばかりは男子の沽券にかかわるっていう思いからだから」

何か不安げな二人に、にこやかに笑いかけるシンジ。

しかし誤魔化しは効かなかったと言っていい。シンジは海を見遣って呟いた。

「思ったより早かったね。
レイ、マユミ、二人を守って!」

その言葉に、気を引き締める二人。

三人は、海に視線を向けた。

ザバァッ!!

海から上がってくる複数の男女。そのほとんどが、何らかの形で白衣を纏っている。
彼らは周りを見回し、シンジを見つけると一旦硬直した。

そして、

「実験体発見! かぁほぉっ!!」

一見して非友好的な一団に、険しい表情になるレイとマユミ。

しかしシンジは、いたってのんきに視線を向けている。
左手も、申し訳程度に太刀にかけており、鯉口を切ってもいない。

「さっきからこっちをうかがってたんだよね〜。
けど、人を集めるわけでもない、こっちに向かって来るわけでもない、むしろ護ってくれてるような感じだったんだ。
・・・・・・来た」


「させん!」

ザッ!

ザシュッ、ザンッ!

そのシンジの余裕の正体が、きた。

突如現れ、白衣の集団を切り伏せる男。

素肌の上に、袖をちぎったロングコートを羽織り、野太刀を持ったその男を見て、シンジは引きつりながらつぶやいた。

「ほ、洞木三佐・・・・・・」

現れた男の名は洞木 ランドウ、諜報部防諜課課長で保安部武術師範でもある。
しかし、あまりにも『武人』でありすぎたため、ゲンドウの信任を得ることができず、本来なら最低でも保安部の次長クラスの能力がありながら、同課課長から、MAGI偏重のNERVにおいて閑職と見られる防諜課の課長に左遷された男。
そして一番重要なことは、彼はヒカリの父だった。

「おおおおおおおおお!」

「うわっ、散れ、散れっ!」

気声とともに太刀を振りかざすランドウに、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う科学者達。
だが、彼らも何も対抗策がないわけではなかった。

「おまえら、どけ!!」

そう言って男が持ち出したのは、火炎放射器。

彼はトーチの先をランドウに向け、引き金を引いた。

轟!!

「やったな!」

「ひゃ〜っはっはっはぁ、NERVうちの武器庫からちょろまかしてきといたんだ! いくら強かろうと、炎に焼かれりゃあお終いだ!」

そう言って喜び合う科学者達。
しかし現実は甘くない。ランドウとて使徒なのだ

ドッ!

「私に火炎は効かん!!」

「「「「「なあっ!!」」」」」

全身に紅い光を纏って炎を突き破ったランドウは、そのままの勢いで科学者達を切り伏せてゆく。

「・・・・・・A・Tフィールド・コーティングによる完全防御、か。フィールドを張ることも出来ない存在に彼を倒すことは不可能だね。
それにしても無駄に強い。太刀筋なんか、かろうじて見える程度だ」

そんなことを呟いているうちに、すべての敵を切り伏せたランドウは、シンジの前に歩み寄ると片膝をつき、頭をたれた。

「我等が主シンジ様、駆け付ける事が遅れましたこと、真に申し訳御座いません! この罪は我が一命をもって「その必要はないよ。君が彼らを警戒していたのはわかっているから」ッ!!」

ランドウの謝罪をさえぎるシンジ。
その言葉にシンジを見上げた彼は、始原の海の上に視線を向けていた。

膝をついたままその方向に体を向けるランドウ。
納刀したはずの剣も、すでに鯉口を切ってある。

二人のその行動に、その場に居た全員の視線が紅い海の上に注がれた。

そこに浮いているのは、純白のスーツ姿の13人の男達。

その面を確認し、マユミ、レイの表情が引き締まる。が、次の瞬間、全員のあごが落ちた。

「「「「「「「「「「「「「ハアッ!」」」」」」」」」」」」」

「はぁ?」(多数)

円を描くように腕を突き出し、ポーズを決める男達。
そして一人ひとり、始原の海に頭からおちてゆく。

ザバアッ!

呆然と見守る中、突如として、Vの字に開かれた足が、V字列に並んで突き出される! そして、ザザザザザ!っと音を立てながら回りだした!

目が点になっている一同の眼前で、横に開いていた両足がいつの間にやら前後に開き、さらには交互に動いている。
そして回転と足の動きが止まり、垂直に伸ばされた右足の膝に、曲げられた左足足首が添えられ、一気に沈む。

ぼーぜんじしつ状態で見守る一同。
その前でこんどは二人ずつ飛び出して、伸身の宙返りをして頭から飛び込んでいる。

「・・・・・・シンクロナイズド、スイミング、で、いいの、か?・・・・・・」

そう呟いたシゲルの声が痛く響いた。




十分以上に上るシンクロ、その大作を終えた男達が浅瀬にやってきた。

足並みをそろえてV字列になって歩いてくる13人。
シンジの前に着くとしばし視線が交差する。

この男達に対し、警戒感を露わにしているのはレイとリツコ、ハルキに、意識を取り戻したカヲル、マナの5人。他のメンバーはその気配から敵意なしとして、観察の姿勢だ。

そんな中、先頭に立っていた男、キール・ローレンツがシンジに向かって一歩進み出た。

「我等が主神、シンジ様。われら十三使徒、この海の中で過去を振り返り、現状を省み、己が失策を痛感いたしました。
この上は自らを罰するべきかとも愚考いたしましたが、主神たるシンジ様の裁きも受けず、勝手に自裁するは僭越と思い直し、御前にまかりこしました。
どうかわれらに「「「「「「「「「「「「裁きを!」」」」」」」」」」」」」

そう言って片膝をつき、左胸に右掌を当てて頭をたれる使徒たち。

シンジは彼らを見渡しながらこう言った。

「確かに君達は、インパクトを起こした主犯だ。また新たなる世界で、己らが神とならんと欲していたこともまた事実。その罪万死に値しよう。
しかしながらこの行動、すべてが私利私欲かと問われれば疑問がないわけでもない。
確かに人類は、滅びに向かいだした傾向があった。己らの利益のために環境を破壊し、警告を発するものを権力・財力・暴力を使って排除していた。そう遠くないうちに、急激な気候変動で人類は絶滅か、激減して文明の衰退期に移行しただろう。
SEELEとは人類の進路に、僅かながらの修正を加え、より良いと思われるほうに導いてきた組織、私情を挟んだこと、検証不可能な計画を発動したことは問題であるが、滅亡へ向かいかけていた人類を救おうと考えたこともまた事実。
罪を償うと言うならば、我が元で世界の管理を行い、贖罪とせよ」

その言葉に、十三使徒を含めた全員の目がシンジに集中する。

その視線を浴びつつ、シンジのその髪と瞳が、ほんの一瞬、眩く輝いた。

なに、とはいえない変化を感じ取った一同は、マユミとランドウを除いて不安げな表情になる。

「シンジ様、いま、一体何を?」

「地球をコピーして、銀河中央、時間がほぼ止まった空間にもってきた。ここがそうだよ。
僕達はここで、インパクトの起こらない世界を構築する。そしてその世界、平行世界を管理し、人類が滅亡した時に限り、ターニング・ポイントまで戻して修正をかける。
なにか質問は?」

マユミとランドウを除いた全員が目を見張ってしまい、質問の余裕はなさそうだ。
しかしシンジはかまわずに続ける。

「まず最初の世界はここだよ」

ディラックの海が開き、その中に赤と黒の機動兵器が対峙しているのが見える。

その二機は一気に接近し、互いに一撃を加えあう。

相打ちに見えたその勝負はしかし、黒い機動兵器が破壊された装甲を落とし、ピンクの機体に変わったことで勝負は見えた。

「この世界はこの後、ワープを使った全面核戦争に突入する。相手が、そんなやばい手法を使うわけがないという思い込みで、先制攻撃のつもりで同時にやりあって、ね。
宇宙へ進出していた人達も、結局衰退して滅亡の憂き目を見る。
黒いほうは、流れに流されすぎて不幸になり、復讐にとらわれすぎて他の事はどうでも良くなっているけど、赤いほうは違う。
いろいろと問題あるけど、まあ人を見る目がなくて、仕えた相手が悪かったとか、主の言うことを鵜呑みにして、矛盾していても気にしなかったとか、そのうち壊れてきて、人を殺すことを楽しみだしたとか、問題は確かにあるけど、己の信じた正義のために動き続けている。
その彼に、この世界の改変を委ねよう。
己の正義を貫くための力と知識、それを与え、この世界を救わせる。
みんな、協力してくれるね?
特にSEELEの方々、あなた方の手腕、大いに期待しています」





一人の男が、大理石の廊下を音も立てずに歩いている。

ここは世界管理機構の中央庁舎。その最奥である最高評議会議長室へ続く廊下。

彼は議長室前に来ると、ドアをコンコンとたたいた。

「我が名は北辰。用向き合って参った、目通り願おう!」

「ああ、北辰さん? 開いてますよ、入ってください」

その言葉に、ドアを開けて内に入る北辰。

「ちょうど良かった、僕も北辰さんに用があったんです。
まずはここに座ってください」

そういってソファーを勧めるシンジ。

「どうぞ」

差し向かいで座ったすぐに、シンジにはコーヒーとクッキー、北辰には番茶と羊羹が差し出される。

「ああ、ありがとう」

「馳走になる」

そういって茶をすすりながら、彼は考えていた。

この冬月という御仁は、いったいどこで我の嗜好を調べるのか? この地では僅か数日、我の感覚では数十年、この地を離れておったというに。

「さて北辰さん、あなたの用と同じと思いますが、そろそろあなたの世界の改編に着手しようと思います」

「ようやくか」

感慨深げな北辰。

「長い間待たせてしまって申し訳ありません。
ここまで遅れた最初の躓きは、葛城 ミサトでした」

「よもや復活してくるとはな」

「しかもせっかく捕まえた葛城を日向 マコト(Mk.U)が裏切って、逃がしてしまうとは・・・・・・」

「呪法に飲まれず、あの 女郎めろうを慕う心を邪気と判断し、そを分離・排除。そが実体化して走ったか・・・・・・。まるでナメック星人のような輩よ」

「あの女も分裂して、葛城軍団なんか結成してますし。今はそこの参謀ですか」

「まああの葛城が、将であり長であり兵、作戦無視の猪突猛進しかせぬわ」

「苦労してますよねえ」

なにやらしんみりしだす二人。

その後も、色々と訳ありで、急ぎで改編した世界についての思い出話に花を咲かせる。

「ところで北辰さん、実はこの男を一緒に連れて行ってほしいんです」

「?
これは、評議長?
否、この者、異世界の者ですな?」

「はい、どうやら破壊衝動を抑えきれないようで。
放置しておいても立ち直るでしょうが、そうするとこの世界の自己改編後が少々きつくなりそうですので。
お願いできますか?」

「ふっ、承知」






Fin...


謝罪あとがき

同僚の辞職、出席する会議の増加、不況下での研修会開催および契約社員一斉カットによる仕事量増加等色々ありました。
告示を見て、あわてて書き上げたしだいです。
すでに見捨てていた方々、まだ期待していて下さった方々、申し訳ありませんでした。
ようやく暇になりそうなので、がんばりたいと思います。

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