Rel. 1.0(HTML) : 9/15/2007
A.S.G. (Project-N)
原案 : 斎藤 和哉
文章 : 茂州 一宇


【注意】LD 版 (ラスト 2話は劇場版) のストーリーを元にして、再構築した話になっています。原作を知らないと、訳が分らない可能性が高いと思います。

 

 

 永い永い時を私は独りで過していた。

 それは私の我儘。だが、彼らの事を放置すべきではなかったのだろう。

 

 気付いた時には、彼らは歪みの中に巻込まれ沈み掛けていた。

 それは私の望む事ではなかった。

 

 私は、この永い永い一人暮しを一時中断する事にした。

 

 そう、それは彼らのため。

 私は、過去のあの時点…、この事を決断した時には間違い無くそう思っていたのだ。

 

 そして、少なくとも、望んだ結末の七割方は叶うだろうと…。

 

 

 

糸と善

 

 

 

『暑い…』
 閑散とした常夏の国の車道を歩く少年がいた。歳は十二歳程度に見え、細身の身体から華奢な印象を受ける。
 服装は、紺のノースリーブシャツの上に、白を基調に淡い緑の細いラインが入った半袖のシャツを羽織り、紺のハーフパンツに黒を基調に緑のアクセントの入ったサンダル。そして、有名なスポーツメーカのロゴの入った緑のメッシュキャップと緑地に黒アクセントのスポーツバックパック。
 緑の割合が高いのは少々気になるが、この国の気候や現在の気温を考えると妥当と言える服装だろう。

 

『この暑さは今に始った事ではないが…。しかし……』
 両掌を組み、目を閉じると少年は溜息をつく。
『これは……、ひどい事になっている……。やはり ××× に手を打った方が良かったのだろうか…?』

 

 どうも、「暑い」とその後に続いた言葉の関連性は低そうだ。

 

『それにしても…。何故、彼らがこの体系に組込まれてしまったのか…? やはり呪術の一種が使われたのだろうか…?』

 

 少年は呟きながら、広い道をただ前に前にと歩いて行く。路肩に停車した車はあるが、走っている車は一台もおらず、人の姿も見えない。何故なら、この一帯には緊急避難が通告されているのだから。
 そんな時に、のこのこと外をふらついている事自体大問題なのだが、それを咎める者は周りにはおらず、こんな異様な光景が出来上ってしまっているのが今現在の状況だ。

 

『待ち合せの駅は、あそこか…。一時間も掛ってしまったが…』
 駅前の広場で少年は辺りを見回す。
『誰もいない…』
 駅の前には誰もいない。それはそうだろう、人々はシェルターへ避難してしまっているのだから。待ち合せの時間を過ぎていると言うのに、待ち合せの相手の姿も見えない。普通ならば、この状況下では仕方ないのであるが、相手にも特殊事情があるので、いない方が問題だ。
 少年は公衆電話も、手持の携帯電話も回線封鎖によって使い物にならない現状を確認すると、一つ溜息。
『今日は、溜息ばかりついている気がする…。私の後ろ向きな性格にも困ったものだ…』
 自嘲気味だが少し影を帯びた苦笑を漏すと、少年は空を見上げながら、ぽつりと漏した。
『さて…。目的地は、歩きでは……遠いな……』

 

 見上げた先には嫌になる様な青空が広がっている。常夏となってしまった今の日本で日常生活を送る上では、ただ恨めしいだけの晴天。
 強い日差しはアスファルトを加熱し、陽炎が揺らめく。その向うに見える無人の街を僅かに険しい表情で見詰めつつ少年は呟いた。

 

『心苦しいが、シェルターへ向うか…』

 

 そして、駅の構内に設置された案内パネルで一番近いシェルターを探すと、無言で避難して行った。

 

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 誰もいない街を、一台の青い車が疾走していた。運転しているのは妙齢の女性。その格好は、少々若作りをしている様に思われる。
『参ったわね。こんな時に見失うなんて…』
 上司に命じられた事とは言え、緊急事態発生時に市民カードを持たぬ者を探すのは困難だった。所属組織本部の操るコンピュータが、いくら高性能とは言っても、曖昧な画像マッチングの処理はやはり重いし、監視カメラが管理下の全ての範囲をカバーしている訳でもないのだ。何とか、彼の映像を追跡した結果、最後に確認されたのは、強羅駅。電車が止ってしまった駅である。
 開いているリソースを全て検索に回しているのだが、緊急時故に回す事の出来るリソース量、特に時間的リソースに限りがあるのも厳しい。同時に処理されているタスクの割込の方が優先順位が高く、その分処理が遅くなっているのだ。結果、今現在、その後の足取りはつかめないまま既に一時間以上の時が経過。組織としての大失態である。だが、その責任は、きっと自分に降りかかって来るであろうと予想される。
『せめて、彼を保護しなきゃ…』

 

 しかし彼女が彼を保護する事は出来なかった。彼が保護されるのは、時間軸では N2 地雷が使用された後。シェルターに避難していた彼を見つけ出したのは、ようやく検索に成功した彼女の親友らしき科学者。そして、迎えに出たのは、保安部の職員だったのだから。

 

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 街の地下に広がる大空洞に建てられた大規模建造物に案内された少年は、金髪に染めた科学者に引率され、移動していた。
『ここが目的地なのだろうか?』
『ええ。足下に気を付けてね』
 何か妙な匂いのする真っ暗で巨大な部屋に案内された少年は、軽い溜息をつくと科学者の背を追っていた。暗いとは言え、計器類から微かな光が漏れ出しており、白衣を着た彼女の背を追う事は、そう難しい事ではなかった。だが、この暗闇は演出のためと言う事は半ば予想出来る事でもあった。それ以外に、無意味に真っ暗にする必要が無いだろうから…。

 

 そして、いきなり点けられた明りで目の前に現れたのは巨大な顔。いくら何でも度を過ぎた演出だろうと少年は苦笑してしまっていた。

 

『あら? 驚かないのね』
『十分驚いたのだが…? しかし、これは…。大きな顔だが、ロボットか何かなのだろうか?』
 少年の反応は異様な程に落着いていた。科学者は『そう言えば、そう言う子だったわね…』とレポートを思い出して軽く苦笑。

 

 その直後、少年は三年ぶりに父親の姿を目にし、即座に無茶な命令を突きつけられた。まともな会話になっていなかったのだが、要約すると「この機体に載って使徒と呼ばれる巨大生物と闘え。これはお前にしか出来ない事だ」と言う事らしい。
 少年はただそれに『良いだろう…。しかし、何も知らない私に期待されても困るのだが…』と返すだけだった。

 

 少年が乗込む頃には、彼を迎えに行っていた女性も持場に戻ってきていた。どうやら、彼女が直属の上司になるらしい事を理解し、少年の気持は少し沈んでいた。『きっと彼女との対人関係は良くないものになるだろう…』と。

 

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 戦闘の記憶は、少年には余り無い。そもそも、シンクロ率とか言うものが十八%しか無く、搭乗機をまともに動かす事すら出来ず、気が付いたら、だだっ広い部屋のベッドの上。

 

『…良く無事だったものだ。やはり……、いや、しかし……』
 暫く、少年はベッドに腰掛けた状態で虚空を眺め、ぶつぶつと呟いていた。端から見ると、かなり危ない人である。そして、半時間程経った頃だろうか、ここをモニタしていたのか上司にあたる女性がやってきた。

 

 やたら陽気な口調にうんざりしつつも、収りそうには無いので適当に受流しつつ、自分を呼出した父の所へ向った。おそらくはここでの生活の事だろうが、一般的に見てまともな提案が為される可能性は低いだろう。そして予想通り、本部ビル内での一人暮しを提案されるが、幸いそれは少年にとって有難い事だった。

 

『是非そうして欲しい…』
 即座にそう告げると、隣で勝手に騒ぎ始める女性の声。もう我慢の限界に来ていたのか、少年は少し強い口調で言切った。

 

『私は、一人暮しが良いと言うのに何故それを邪魔する?』
 それに対し感情的に続く女性の言葉。
『中学生が、一人暮しなんて良くないわ!』
 耳障りだと思いつつも、説明位はしなくてはならないだろうと少年は言葉を返す。
『いや、そもそも、この本部ビルの内部なのだろう? 特に問題は無いと思うが…?』
『そう言う事じゃなくて…』
 埒があかない。それが少年の素直な気持であった。だから、余り積極的に言いたくなかった事を口にする事にした。
『ふぅ…。私にとってだが、重要な理由もあるのだが…』
『何よ? 言ってみなさい!』
 「対人関係というものは難しい」と妙な事を考えながら少年は答える。
『昔はそうでもなかったのだが、今の私は人と交わる事自体が好きではない…。人混みの中に身を置くと、その騒がしさに対して殺意すら覚える程にな…』
『なっ…?!』
異常と言うのだろう? そう、間違い無い。私は異常だ。故に、無理強いは止して欲しいと思う…』
 さすがに、「自分は異常者で人との関わりに殺意を覚える」とまで言切られると、返す言葉を考える方が難しい。感情的にぶつかればぶつかる程に、相手は殺意を覚えるのだろうから。

 

 こうして少年は、望んだ通りに、本部内の独身寮に住む事となった。だが学校には通わねばならないと言う。
 それは、少年にとっても、目的を達成するためには必要な事ではあった。だが、彼は独りでいる事を好む。長時間に渡る沈黙または静寂を愛する者とならば共にいても苦にならないが、そんな人間は基本的に変人である。思春期の者達の集う学校は、それとは正反対の環境なのだから。

 

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 こうして少年の非日常的な日々は始った。

 

 それは、彼が想う、一人の少年と一人の少女のための日々。
 だが、彼はこれからの事を軽く考えすぎていたのだ。

 

 少なくとも最初は、彼の思惑通に事が進んで行った。
 だが、ずっと独りだった彼は、人の心の機微というものを忘れてしまっていたのだ。
 「人の心の動きは難解である」と言う事を身を以て思い知る事になるのだ。
 だから、話がおかしくなって行く。予定から、大きくずれて行く。

 

 そして、最後の刻 (とき) に昔よりも更に後悔する事になるのである。

 

 

【 多分続かない (^^; ← ぉぃ  

 


【筆者達より哀を込めて】

 

 今日は、和哉です。投稿は一年弱ぶりです。困ったものですね…。書きかけな話はいくつかありますが、仕上げるとなると中々筆が進まず、結局は新作を書いてしまいました。
 一応、「あの人のいない地球 (セカイ) で」と対になるお話です。途中を書いても多分面白くないので、“始りはこうだったんだよー” と言う感じで (^^;; 。
 出来れば三月に一度位は投稿したいのですが、三ヶ月後には、冬コミ対策か、年明けの地元イベント対策をしている筈なので、もう少し先になるでしょう。待っている方はいない様な気がしなくもない辺りに、悲しさを覚えますが… (^^;; 。

 茂州です。最近は、オリジナルの話の構築作業をいくつか行っています。全部同人ソフト用の題材なのがまたアレですが…。意図的とは言え、登場人物の名前を出さずに文章を書くのは少々面倒でした。最低限まで冗長性を削っているので、読辛いかも知れません (いえ、きっと、読辛い事でしょう)

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