Rel. 1.0(HTML) : 9/30/2005
"AT Will" with "Project-N" (A.S.G.)
原案 : 影野 文也・斎藤 和哉
文章 : 影野 文也・茂州 一宇


 アタマガイタイ……

 

 ナニガアッタノカナ……

 

 アレ……?

 

 ココハドコ?

 

 ボクノ……、ナマエハ………?

 

 オモイダセナイ……オモイダセナイヨ……

 

 

 

with

    - The Reason Why He Became Him.

 

 

 

 そこは小雨の降る路地。幼い少年 (幼児) が行く宛も無く、歩いていた。

 

寒い……』

 

 少年が着ている服は夏服。しかし、今、この街の季節は晩秋。短い夏の終った後に駆抜けるように過ぎ去る秋の終り。もうすぐ長い長い冬が始る、そんな季節…。

 

 少年は何故ここにいるのか分らなかった。

 

 覚えているのは、何かあって、何処からかこの街にやってきていた事。頭を打ったのか記憶がとても曖昧な事。そして、自分が四歳だろうと言う事。

 

──── それが殆ど全て……

 

 

『僕が着てる服……、みんなのと違う……』

 

 小雨でも、雨の中を歩いていればずぶ濡れになってしまう。

 辺りの者達は見た事の無いケープを纏い、足早に街を駆けている。女性の姿は殆ど見えない。

 雨でずぶ濡れになりながら、少年はその大人達の行動を目で追っていた。

 

 少年を気に留める者は特にいないようだった。

 

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『何処まで行っても……、何も思い出せないよ……』

 少年は、寒さで震えながら呟いた。そして、街並は何処まで歩いて行っても、全く見た覚えの無い所しか無かったのだ。

 

『僕には……、帰るお家だけは在ったと思うけれど……』

 そんな気がする。でも、両親の事となると、何も思い出せない。それに、帰る家には誰も待っていないような気がする。

 

『僕には……、お父さんも、お母さんも……、いないのかな……』

 その言葉を口にするのは、少しだけ悲しかった。でも、何故か仕方が無いような気もするのが自分でも恐ろしい。

 

 とぼとぼと歩いていると、いつの間にか街外れに着いていた。小さな泉と、その周りに並ぶ木々。雨宿りをするには少し枝葉の数が少なそうだ。隙間が多く、根元まで雨の雫が到達している。

 そしてその先には、畑と道が延々と続き、少年の目線からだと霧で霞む地平線の辺り迄それが続いているように見えた。

 

『この先にも、街は在るのかな……。でも、僕が歩いて行けそうには……無いよね……?』

 そんな事を考え呟きながら、少しでも雨を避けるように、大きめの木の根元の一部に座り込んで幹にもたれ掛る。

 辺りは霧が覆い、遠くはぼんやりとしか見えない。そして、今いる近辺には満遍なく、何となく淋しい気配が漂っている。

 ふと後ろの細い木ばかりの林の向うを見ると、墓地が在った……。

 

 街の規模が小さいためか、数はそれ程多くはない。それでも、百以上は在ろう墓石。

 無表情に並ぶ少し黒ずんだ石の塊が並ぶ光景。それらは少し気味が悪い。

 

『……怖い

 でも、彼には帰る処が無かった。街に知っている処も無かった。そして決定的な事に、記憶が非常に曖昧で、まともに思い出す事が出来なかった。

 

『僕は……、どうなるのかな? ……死ぬのかな』

 四歳で死と言うものを実感している事自体が少し異常かも知れない。こんな状況で泣叫びもしないのも異常と言えば異常だ。この歳ならば、普通は死ぬ事など意識はしないし、実感も持ってはいない。だが、彼は死と言うものを何故か良く知っていた。

 

 怖いけれど、いずれは訪れるもの。楽になりたくてその道を選びたかった事があるような気もしていた。

 

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 凍えた身体は、冷たい雨と、気化熱で益々冷えて行く。その先に見えるのは死……。

 身体が上手く動かない事に彼は気付いていた。そして、意識が朦朧として来ている事にも……。

『僕は……、死ぬ……のかな……。でも、余り……怖くないのは……どうして……?』

 

 少年には、重い瞼を支える気力は残っていなかった。

 何しろ、彼には生きる気力というものが決定的に欠けていたのだから。

 

『お休み……なさい……。僕は……、もう……、いいや……』

 こうして、彼は意識を手放してしまった。

 

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──── 約半時後

 

 そんな少年が倒れ込んでいるのを見付けた者がいた。

 

『ふむ……。どうやら、孤児 (みなしご) のようだな……』

 

 そう呟くと少年に近付き、冷たく貼付いた服を脱がせ、濡れた身体を拭いた後、持っていた布を巻付け、更にその外を表面に粘度の高い油を塗り防水加工を施した布で包むと、紐で背中に縛り付けて、そのまま何処かへと運び去って行った。

 

 これは、この世界では珍しくない事。

 

 人身売買なども珍しくないどころか、ざらに横行している世界……。

 孤児 (みなしご) をさらう者など、いくらでもいるし、孤児 (みなしご) 故に色々と利用価値が有るのだ。

 

 この世界に人権などと言う高尚なものは存在していないのだから……。

 

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 少年が気が付くと、そこは石造りの余り広くない部屋だった。辺りには少し目が淀んだ少年 ── 幼児 ── 達が二十名余り見える。

 

『……暖かい? あれ……、僕、こんな服着てなかったよ?』

 いつの間にか周りの少年達と同じ様な服を着ている事に気付く。そして、その服の生地が粗く、着心地が良くないと言う事にも気付いた。

 

 身体を起して辺りを見回すと、石の床には廃材から調達したような、質の悪い板が十数ヶ所敷かれ、そこに子供が腰掛けたり、横になったりしていた。布団のような高級な物は無く、粗末な布が寝具のようだ。自分も板の上で、粗末な布にくるまれて眠っていたのだ。

 

 暖かいと感じたのは、部屋の隅に暖炉が設けられているからだった。だが、少年には物珍しい代物で、火が燃え実際に使用している石造りの暖炉と言うものは、初めて見る物だった。

 

『僕……、死ななかったんだ……。でも、ここは……』

 

 訳が分らなく、どうしようかと俯き加減で迷っていると、声を掛けてくる者がいた。それは同じくらいの歳の少年 (幼児) に見えたが、少し痩せ気味に見える。良く見ると、この部屋にいる者は皆、幼児としては肌に丸みの少ない姿をしていた。

 

『やぁ、気が付いたかい、エモ君』

 それは聞き慣れない名前だった。

エモ……?』

 聞返すと、声を掛けた少年が理由を教えてくれた。

『ここはね、裏の社会の養成所だよ。そして、君に与えられた名前はエモ。今迄の名前はもう君の名前じゃないんだよ……。従わないと、ここでは生きて行けないからね』

 名前の事はどうでも良かった。思い出せなかったのだから……。でも、少し気になる事がある。

『裏の社会…?』

 それは聞き慣れない言葉だった。ただ、語り掛ける少年の暗い表情を見ていると、それは余り良い事ではないのだけは分ったのだが…。

 

『ここはね……、主に……、暗殺や破壊工作をする組織なんだ』

 

 アンサツ……?

 ハカイコウサク……?

 

『それは……? 良く分らないけど、良くない事なの?』

 それに対する反応は、暗かった。

『……そうだよ。少なくとも、良い事じゃないだろうね。でも、僕達には自由は無い。逆らう事は、を意味するから』

 

……』

 僕はどうやら、誰かに連れてこられて……、悪い事をするように育てられるらしい事だけは分った。

 でも、悪い事をさせられる以外は、今迄の生活と大きな差が無いような気もしていた。

 

 何故なのだろうか……?

 

 

『でも……、君も、もうすぐ……。いや、言うのは止しておこう……。あれが終れば、深く苦しまずに済むかも知れないから……』

 僕はその言葉を聞いて、何かをされると言う事を理解した。そして、それから逃れる事が出来ない事も……。

 

『エモ君。ここはね、それでも、裏の社会では、比較的大事にしてくれる所なんだよ』

『……??』

 僕には良く分らなかった。そもそも、裏の社会と言われても実感が湧かないのだから。

 

『名前をね、貰えるだけ、僕達は恵まれてるんだ……。ひどい所だと、番号が名前の代りらしいよ』

 番号で呼ばれる……? それって、人として扱って貰えていないって事?

 そんな所も在るんだと言うくらいにしか感じなかったが、それは嫌だなとも感じていた。

 

『僕は××。宜しく、エモ君』 (注 : 彼の名前は本編でもまだ出て来ていないため敢て伏せています)

『××君……。よ、宜しく……』

 それが、後に一番仲が良くなる一つ年上の友達との出会いだった。

 

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 翌日、僕は木製の器具に手足を縛り付けられると、何か複雑な模様の中心に置かれていた。

 この模様は、まほうじん (魔法陣) と言うらしい。

 まほうじん (魔法陣) の周りには蝋燭が立てられ、揺らめく光が僕を照らしている。少し怖い。

 

 そして、さっきから怪しげな言葉が辺りに木霊している。この部屋は、少し大きな声で話しただけで、声が響くように作られているようだ。

 

 そんな怪しい時間が一時間程経った頃に、急に僕の周りを妖しげな光が包込み、僕の中の何かが、そして、僕の身体にも何かが起き始めているのが感じられた。

 

(痛い!! 痛いよっ!! あぁっ……、何か変な感じが……)

 僕は口を布で塞がれていたので、苦しくても、痛くても、微かにうめく事しか出来なかった。

 意識を手放してしまいたかったけれど、余りの苦痛にそれも出来ない。それに、心にも何か干渉を受けているみたいで、気絶する事は許されないらしい……。

 

 その苦しみは暫く続いた。

 長かったような気もするが、短かったのかも知れない。

 

 苦痛のためか、時の感覚が無かったから……。

 

 それでも、最後には気を失ってしまったようで、僕には途中までしか記憶が無かった。

 

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 気が付くと、俺は昨日と同じ部屋の木の板の上に転がされていた。

 

『終った……、みたいだね……』

 心配そうに、××君が俺に話し掛けてくる。彼の言葉は、とても悲しそうだった。

『××君……? 俺は……、どうなったの?』

 

 彼は溜息をつくと、優しく悲しい口調で、俺にそれを教えてくれた。

 それによると、俺は……

 

 

と言う事だった。今迄の俺という存在を破壊したと言うのが大雑把な解釈だろうか。

 

『ふう……、記憶は無かったんだよ、元々……。結局は、余り変らないのかもな……』

 俺は溜息をつきながら呟いていた。そして、後に××君から細かく指摘されるまで、性格が変っている事にすら気付かなかった。

 

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 翌日からは、妙で過酷なトレーニングを強制された。

 

 俺は基礎体力が低いようで、まるで周りの者について行けなかった。××君が言うには、俺は、一般的な子供の体力をかなり下回っていると言う。

 

『僕達のグループが、一番能力の無い者が集められてるんだよ……。エモ君も、もう少し体力を付けないと、任務を与えられた時に、すぐに死んでしまうよ……。もう少し大きくなったら、嫌でも任務を押しつけられるんだから……』

 ××君は、組織の事を話す時にはいつも表情が暗くなった。同室の他の仲間達はそんな事が無い所を見ると、××君は、人一倍繊細な心を持っているのだろう。俺なんかは、気付かないうちに、そんな部分は壊されてしまったらしいのだから。

 

 俺と同室に暮す少年達は皆何処か弱いものを抱えていた。それが心だったり、技能だったり、体力だったり、魔力だったり……。そして、弱いが故に、他のグループに比べ、お互いに仲が良かった。だが、それが後に色々な悲劇を生む事になるとは、誰も気付いていなかった。

 

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 トレーニングを強制されてから五年程が経った。その間に身体には多くの生傷が付き、長い長い冬の夜にはしくしくと痛んだりもした。だが、実戦で付く傷に比べればまだましらしい……。教官には、「その痛みに慣れておけ」と言われていた。

 そして、この五年の間に、同室の仲間が二人死んだ。

 

 一人は病を患って……。

 一人は訓練中の事故の傷が悪化して……。

 

 悲しかった……。辛かった……。

 色んな感情を壊されているのに、こう言う感情だけはそのまま残されている事に悲しみと怒りを覚える。

 

 感情を壊しすぎると、単純な反応だけの操り人形みたいになってしまうため、基本的な感情を残しておかないと役に立たないという理由があるらしかった。

 だがそれは使う側の都合。俺達にしてみれば、こう言う感情があるからこそ、辛く、苦しいのだ。

 

 結局、俺達のグループでは大きく能力が伸びた者は一人しかおらず、その一人だけが他のグループに移って行った。最初の二年くらいは、三人程新しい仲間がやってきたがそれ以降、顔ぶれは変っておらず、ずっと一緒に過してきた幼なじみ達だけのグループ……。

 共に生活してきた幼なじみなのは互いに心を許しやすく良いのだが、皆何処か能力が欠けた者ばかり。そして、組織内での平均的な能力を持ち合せている者は一人としていない。

 

 それは危険や死に一番近いグループだと言う事でもある。また、組織にとっては余り役に立たない、捨駒に近い存在でもあった。

 

 

 そして……、到頭、俺達も実戦に出る日がやってきた……。

 

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 俺達のグループの任務は、敵をおびき寄せる囮だった。

 伸びが見込めないグループの主な任務ではあるが、危険とも隣り合せだ。

 

 俺はコンビを組んでいる××君と共に、木の上で、様子を伺っていた。

 

『なぁ、妙に敵の数が少なくないか?』

 俺がそっと語り掛けると、即座に××君も肯定する。

『そうだね……。少し変だと思うよ……』

 敵が放った魔物達が少し後方迄はいたのに、この辺りにはまるで見当らないのだ。

 

『おかしいな……。この辺りは戦略上、重要な地域じゃないのか?』

『うん、そうだよ。だから、ここにいる魔物を他の地域におびき出す筈だったんだけど……』

 

 俺達は、そっと地上に降りて辺りを伺う。

 辺りには、が少ないという妙な感じはあったが、は全くと言っていい程に感じられない。

 

『××君。攻か邪の気を感じる?』

 俺は、魔力を扱うのが苦手だ。

 この五年で、体力は組織での平均をまだ大きく下回るものの、それなりに伸びた。その弱点を、平均以上に伸びた体術や武器を扱う技術でなんとかカバーしている。

 だが、魔術だけは上手く扱えなかった。どうやら、身体の中に溜込める気の量が少ない事が原因のようだった。魔術に関しては、生れつきの素質が能力の殆どを決定し、訓練でどうにかなるものではないのだ。

 ××君は、魔術の才能だけは平均を大きく上回っていた。その他の才能は、俺よりも下回っていたようだけれど……。

 

『ん……? 全然感じないよ?』

 

 それを聞いて俺はほっとする。自分の能力を、全く信用できないからだ。

『じゃ、行くか……』

 

 俺達は、目的地に向って、走り始めた。

 

 

 十分程経った頃だろうか、それまで全く感じなかった邪の気配が急に強くなり、地中から多くの怪物が現れ、俺達を襲ってきたのは。

 

『な……、どうして……?』

『隠してたんだ……。怪物達を休眠状態にして、操る者が僕達を見付けて解き放ったんだよ!』

 確かにそう考えるのが正しいと思える。しかし、これだけの数の怪物をどうやって……。

 

……だった?!』

『みたいだね……』

 俺達は、まんまと罠に掛ってしまったと言う事らしい。絶対的に経験が不足していたのが一番の原因だろう。何せ、俺達の初任務なのだから…。

 

 俺達は、近くの洞窟に逃込み、気配を殺す。

 洞窟の中で滴る地下水の音が嫌な雰囲気を醸し出してしまっている……。

 

 俺は気配を殺し、隠れている間、何故あんな事になったのか考えていた。そして一つの結論に達する事が出来た。

(静と浄の気が極端に少なかった……! そうか……、邪の気を静と浄の気で打消し続けていたんだ……)

 とは言え、今更気付いても後の祭である。とにかく今は、敵が俺達から完全に離れるのを待たなくてはならない。そうしないと、俺達の未熟で、低い能力では、とても怪物達をおびき寄せ、この場から遠ざける事など出来はしないのだから。

 

 

 ……時間がとても長く感じられる。

 

 

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 一時間程が経った。これだけの時間何も無ければ、多分大丈夫だと思われた。

 俺達は入口に戻ると、そっと辺りを伺った。

『多分……、この辺りにはもういないみたいだ……』

『うん……、多分……。でも、さっきみたいに隠れてるかも……』

 

 俺達は、一応安全を確保するために、もう暫くこの洞窟で待機する事にした。

 

 

──── これが過ちだったのだ

 

 

 更に一時間後、俺達は、そろそろ行動を起そうと、与えられていた武器の点検をしていた。

 これでなんとか任務は完遂できそう……。終れば、ほんの暫くだけれど、平穏な日々を送る事が出来る。

 

『こっちは、大丈夫みたいだ……』

『僕のも、大丈夫みたいだよ……。行こうか?』

 ××君の言葉に俺は頷くと、そっと入口に向って歩き始めた。だが、その時、急に強力な邪の気が辺りに漂い始めたのだ。

 

『えっ?!』

 俺達は、驚くしか無かった。なんと入口近くに、オオトカゲの化物が立っていたのだから。

 オオトカゲの化物は俺達に気付くと、何か黒いものをこちらに投げつけた。

 

 

 それは……

  点 火 さ れ た 爆 弾 !!

 

 

『危ないっ!!』

 ××君が叫びながら、俺に覆い被さるように駆寄ってきた。俺には、彼の後ろから、大きな炎の塊が押寄せてくるのが見えていた。

『?!』

 

 俺は岩壁に背中をぶつけたが、咄嗟に呪文を唱えていた。

zig tart, tart hrdizt wvaltell stoor , quels wig zig!!

 

 だが、詠唱した時は既に遅く、俺の魔力では、さほどの防壁を作る事など出来はしなかったのだ。

(駄目だ……、間に合わない……)

 

 そう思った時、俺は目の前に、強力な防壁が展開されるのを感じていた。

 

『××君!!』

 

 俺よりも強力な魔術が使える××君……。俺は呆然とせざるを得なかった。

 彼は、彼と俺の間に強力な防壁を張っていたのだ……。

 

 強力な熱を含んだ爆風は、俺の張った防壁を突破り、××君を痛めつけ、彼の張った防壁でほぼ食止められていた……。

 

『よ……かった……。エモ……く……んは……、無事……なん……だ……ね……』

 

(そ……、そんな……、何故?!)

 俺は、余りの事に声を出す事も出来なかった。

 

『僕は……、もう、駄…目……だから……。エモ君には、生…きて…いて……欲し……い……』

 掠れるような声でそう言残すと、××君は俺の腕の中でゆっくりと目を閉じた。程なく冷たくなって行く彼の身体……。

 

ああぁぁぁぁっ!! ××君っ!!

 

 俺も防壁を張っていたのだ。彼の防壁を重ねて張れば、怪我はしたかも知れないけれど、二人とも助かった可能性は高い。

 だが、××君のとった判断は、俺を守る事だった……。

(何故、何故、俺なんかを……)

 

 振動で洞窟の天井の一部が崩れ、俺達は崩れた土砂の奥に僅かに残った空間にいた。その結果を見て、片が付いたと思ったのだろう、オオトカゲの化物が放つ邪の気は遠ざかって行った……。

 

(うぅぅ……、××君……)

 

 彼をまともに埋める時間も無かった……。簡単な墓を作る時間も無かった……。

 何故ならば、生きている俺は、任務を遂行しなければならないからだ。

 

(ごめんよ、××君……)

 

 俺は心の中で彼に謝りながら、彼の遺体を崩れた土砂で埋め、洞窟を飛出して行った。

 与えられた任務は成功したが、俺は最も親しい友人を永遠に失ってしまったのだ……。

 

 これが、俺の初めての任務だった……。

 

:
:
:

 

──── あれから三年と少し

 

 俺は、まだ生きていた。

 体中に多くの傷を負ったが、五体満足だった。

 

 俺達のグループは最弱かつ危険な任務ばかりと言う事もあり、死んだ者、傷ついた者、身体の一部を失った者は珍しくなかった。

 それが皆、幼なじみであるからこそ、とても悲しかった。そして、一番仲の良かった××君は、最も早くこの世を去ってしまったのだ。それも俺の腕の中で……。

 

『俺は……、いつまで生きていられるだろうか……』

 

 任務に向う途中、俺はそんな事を呟いていた。

 

 これから遂行しなければならない任務は、今迄で一番危険な内容。生きて帰れる保証は無い。

 

『俺も、君の元へ、行くかも知れないよ……、××君……』

 

 三年前に失った親友の事を考えていたのがいけなかったのだろうか。普段ならまずしないだろう油断を生んでしまったのだ。

 踏みしめた地面の感覚がおかしい……。いつもなら、こう言う罠にはすぐ気付いて避けてきたのに……。

 

『し、しまった!!』

 

 もう遅かった……。

 

 そこに仕掛けられていたのは、強力な爆薬。大きな音と共に、激しい爆風と衝撃波が襲って来る。

 

……!!

 

 呪文を唱える事も出来ない……。もう駄目だ……。

 

 俺は、覚悟を決めていた……。

(××君、ごめん……。君に助けて貰ったのは無駄になっちゃったね……)

 

 目の前が暗転する…………。

 

:
:
:

 

──── 知らない何処か

 

 気が付くと、硬い石畳の上に転がっていた。身体の節々が軽く痛む。

 確か爆風と熱風に巻込まれ、死んだと思った。だが、無事であるし、辺りには爆発の痕跡すら無く、何が起きたのか分らなかった。そもそも、ここは何処なのだろうか?

 

『……? 暑い…?? 何故……?』

 こんなに暑くなる筈が無いのだが……。それに、まだ春は遠く、寒い筈なのだが……。

 また、辺りの街並には見慣れたものとは異なっていた。そして、辺り一面、灰色や黒の石畳で覆われていたのだ。

 

『ここは……?』

 

 こうしてエモの新しい生活が始ろうとしていた。

 

 

 

【 本編に続く → 】


【著者より哀を込めて】

 初めまして、影野です。和哉君に、「書けー、書けー」と半ば強制されるように書きました (苦笑)。それも、一日で (ぉぃ)。本編の第3話の完成が随分と遅れているのに (爆)

 えーと、全然エヴァっぽくないですが、これ一応、エヴァ二次創作です。本編も、全然エヴァっぽくないですが、これはこう言うお話なので… (エモはネルフと関係有りませんし、エヴァにも関わりません)

# 分る人には分る分類表記だと“エモ×マユミ”です (ぉ


 斎藤 (和哉) です。“Die Endwelt... §04”が間に合わないので、影野に 強制的に書かせました 書いて貰いました。 ← こんな事をしてるから、更に遅れるとも言う

 一応、この短編では、私も細かい部分の設定とかに関わっていますが、本編の設定・進行には関わっていません。本編は、サークル内投稿 (ぉぃ) という形で、サークルページにて 2話まで公開されています。


 茂州です。えーと……、最近何を書いてるのか良く分りません。作品毎に微妙に文体が違うので面倒です。これは基本的に影野の作品故に、更に差異が…。今回は、Project-N 側の文体で統一したため、本編とは微妙に雰囲気が変ってしまっています。

# A.S.G. にはサークルの文章方針 (ポリシー) があるので、ある程度工業的な作業が行える分、楽なのかも知れません


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