プロローグ
presented by Red Destiny様
「やったぜっ!俺にもやっと彼女が出来たぜっ!」
彼女いない歴がもうすぐ20年になろうかという赤井駿は、天にも昇るような心地だった。想いを寄せていた桐山真菜ちゃんとめでたく付き合うことになったからだ。彼女は茶髪でちょっとタレ目だが、可愛らしい目をした優しい雰囲気の女の子だ。鋼鉄のなんとかという某ゲームヒロインと似たような名前で、容姿もそっくりとまではいかないが、かなり似ている。駿はそのゲームのヒロインが大好きで、真菜ちゃんに惚れたのもそのヒロインに似ているからだった。まあ、好きになった理由には首を傾げざるを得ないのだが、ともかく本人は願いがかなって大喜びだ。だが、他人の幸福を喜ばない者がすぐ側にいた。
「よく言うぜ。圭子ちゃんはどうするんだよ。」
友人の浩が妬ましげに言う。もちろん、浩は現在フリーである。だから友人の幸せが妬ましいのだろうか。なんだか詰問調で駿にツッコミを入れる。しかし駿は、ボケるべきかもしれないところでマジに答える。
「えっ、圭子?あいつ、他の男とも寝てるんだぜ。そんなの、彼女なんて言えるかよ。」
駿は、いかにも心外だというような顔をする。駿の基準では、寝たことイコール彼女にはならないらしい。実は、駿は決して女の子に人気がないわけではない。容姿や成績は並以上だし、話題も豊富で女の子を楽しませるコツも掴んでいる。だが、とある理由で今まで特定の彼女が出来なかった。しかし、大学生になってからは女の子とデートをしたこともあるし、ある一線を越えたことも無いわけではなかったのだ。圭子は、その一線を越えた女の子のうちの一人だった。
「あのなあ、今の圭子ちゃんは他の男と付き合っていないんだけどな。まったく、お前は未経験者以外は彼女だって認めない気かよ。」
浩はそう言って呆れる。だが駿は、それが当たり前であるかのように言う。
「当然だろ。他の男の手垢が付いた女なんて、好きになれるわけねえだろうが。」
普通の女の子が聞いたら、まず間違いなく激しく怒るセリフだ。まあ、男同士だからこそ駿も言ったのだろうが、ちょっと軽率だろう。こんなセリフがたとえ一人でも女の子の耳に入ったら、あっという間に広まって女の子達から敬遠されてしまうかもしれないからだ。
「あのなあ。お前はなんて時代錯誤なんだよ。ん、待てよ。てことは、真菜ちゃんは『まだ』なのか?」
「ああ、3日前まではな。」
浩の問いかけに、駿は得意そうに答える。駿の言葉を借りれば、真菜ちゃんは駿の手垢が付いてしまったのだ。浩は、悔しそうな表情を浮かべる。
「なにい。てことは、会ったその日に頂いちゃったのかよ。ったく、羨ましいよ、お前が。俺も、お前の半分でもいいから女の子とヤレればなあ。」
浩は、盛大にため息をつく。他人の不幸は蜜の味だが、他人の幸福は妬ましいらしい。駿に負けず劣らず、浩も碌な男ではないようだ。ここで嫌な男は嵩にかかって自慢するのだが、駿はそこまで嫌な野郎ではないらしく、弁解じみた言葉を浩に返す。
「あのなあ、こうみえても俺は結構努力しているんだぜ。思い起こせば、女の子とまともに話せなかった魔の中高時代。バレンタインに義理チョコすらもらえなかった暗黒の日々。それをだなあ、必死に努力してここまでにしたんじゃないか。」
そう。駿は、中高と共学校だったにもかかわらず、女の子と付き合った経験は全くなかったのだ。
「確かに、お前が高校時代に女の子と付き合っていなかったのは認めよう。だがな、お前のことを好きになった女の子は結構多いんだぞ。お前が冷たくするからみんな諦めちゃったらしいがな。」
それを聞いた駿は、目が点になった。
「そ、そんなこと知らなかったぞ。それにな、俺は女に冷たくしたんじゃない。単に恥ずかしくて話せなかっただけなんだぜ。まあ、それも大学に入ってから克服したんだけどな。そうするには、涙がちょちょぎれんばかりの努力をしたんだぞ。」
駿に彼女が出来なかった理由は単純。駿は高校を卒業するまで、恥ずかしくて女の子とはまともにしゃべることが出来なかったからなのだ。どういうわけか女の子の前だとあがってしまい、まともな口がきけなかったのだ。
「はあっ。自分の人気を知らなかったとはなあ。でも、それで良かったんだろうな。もしお前が知っていたら、今のように女の子を食いまくっていただろうしな。」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。時々一緒に寝る女が何人かいるだけだろうが。それを、なんて言いぐさだよ。」
駿は、本人は気付いていないだけで結構鬼畜らしい。そんな全く悪びれた様子が無い駿に、浩は呆れてしまう。
「本当に、お前はとんでもないよな。」
だが、さすがに駿はムッとして反論を始める。
「そこまで言うなら、お前には二度と女は紹介しねえからな。お前が奈緒美を妊娠させた時、俺がどれだけ苦労したのか分かってるのかよ。それでもお前がどうしてもって言うから、未だに女を紹介してやってるのによ。」
「うっ、分かった。俺が悪かった。すまん。謝る。この通り。」
浩は急に頭をペコペコしだした。どうやら、浩も同じ穴の狢らしい。そのうえ、彼女を紹介してもらったり、色々と迷惑をかけたこともあるという。そこまでしてくれた駿を批判する資格など、浩には無いだろう。何気に、浩も最低な男である。
だが、浩が何度も謝ったためか、駿の怒りは次第に収まっていく。そうしてしばらく歩いた後、二人は何事も無かったかのように別れた。
浩と別れた後、駿は典子のアパートへと向かっていた。典子はキャリア・ウーマンで、現在22歳。月に何回かは、駿は典子の部屋に泊まっている。今日も泊まるつもりらしい。おいおい、彼女がいるのにいいのか?
「さあて、もうすぐ典子んとこだな。今日はどうやって楽しもうか。」
駿は、思わずニヤニヤしていた。あーんなことやこーんなことをしようかと、心の中でエッチなことを考える。そうして薄暗いトンネルの中に入ったのだが、どういうわけなのかなかなかトンネルから出られなかった。
「あれ?一体どうしたんだ。」
駿は後ろを振り向いたが、出口は見えない。
「おいおい、冗談だろ。」
駿は、背筋が寒くなった。
『おいで…。おいでよ…。』
「ひいっ!」
急に男の子の声が聞こえたので、駿は驚いて声をあげてしまった。
『おいで…。こっちにおいでよ…。』
声は、幻聴ではなさそうだ。小さいながらもはっきりと聞き取れた。
「な、何が起きたんだよ〜っ。」
駿は頭を抱えた。
「はっ。」
駿は、波の音で目を覚ました。駿は、何故か海辺にいた。だが、なにおかしい。
「こ、これは……。」
そう、海が紅かったのだ。まるで、とあるアニメの最後の時ように。
「ごめんなさい。こんなところに呼んで。」
あまりの事態に、駿は呆然としていた。ところが後ろから急に声がしたので、駿はびっくりして振り向いた。
「お、お前は、碇シンジ!」
なんと、そこには某人気アニメの主人公、碇シンジそっくりの少年が立っていたのだ。駿は、それこそ飛び上がらんばかりに驚いた。
「そう。僕は碇シンジです。すみません、こんなところに呼んでしまって。」
その少年──碇シンジ──は、本当にすまなさそうな顔をした。
「な、何で俺がここにいるんだよ。」
駿は、なんとなく嫌な予感がした。その予感が外れて欲しいと思いつつ、シンジに詰め寄った。だが、シンジの答えは嫌な予感を肯定するものだった。
「それは、僕が呼んだからです。」
シンジは、駿の顔をまともに見ていなかった。駿は、自分の悪い予感が当たっていることに気付いてしまった。シンジが自分の顔をまともに見ないのも、おそらく悪いことをしたという意識があるからだろうと思い当たる。
「どうして?」
駿がさらに食ってかかると、シンジは言いにくそうに口を開いた。
「お願いがあるからです。」
しかし、そんな答えでは駿は納得出来ない。
「何を?」
「僕の力を受け継いで、僕の代わりに時間を遡ってやって欲しいことがあるんです。」
駿は、冗談じゃないと思った。彼としては、こんな世界に来たくはないし、長居もしたくはない。とにかく早く元の世界に戻りたい一心で、続けてシンジを問い詰める。
「あはははっ、冗談だろ。何でお前がやらないんだよ。」
駿は、本当に悪い冗談だと思った。しかし、シンジは何か思い詰めたような、真剣な表情で言うのだ。
「僕じゃあ、上手くいかないと思うからです。いえ、もっと悪いことになるかもしれません。そこで、代わりの方を呼んだんです。」
そこで駿は、シンジが内向的な性格だったことを思い出した。自信家ではないことも。そうなると、シンジは本気で言っているような気がしてきた。でも、駿は自分に何のメリットも無いのに、トラブルに巻き込まれるのは嫌だった。
「冗談じゃない。今すぐ俺を元に戻せよ。」
駿はシンジに詰め寄ったが、シンジの答えはある意味予想通りだった。
「それが、出来ないんです。あなたが過去に戻って、力を蓄えないと。」
悪い予感のうちの一つが当たってしまった。
「冗談だろ。」
駿は、冷たく言い放った。シンジが嘘を言っている可能性があると思ったので、強引に断ればなんとかなるかもしれないと思ったのだ。
「すみません。本当です。」
だが、駄目だった。でも、真菜のこと──特に最初の素晴らしい夜のこと──や他の女の子との素晴らしき一夜を思い出して、もう一回試してみる。
「嫌だね。断る。」
なおも駿は首を横に振ったが、シンジが駿の耳元で囁く。
「僕が手助けすれば、10人以上の可愛い女の子と好きなだけエッチ出来るようになりますよ。」
当然ながら、駿は頭から疑ってかかった。こいつの言うことは本当だろうか、口からのでまかせではないだろうかと。だが、嘘であればそうと分かった時点で断ればいいし、話だけでも聞いておいて損は無いと思い直す。そして、駿はいきなり180度態度を変えた。
「ちっ。しょうがねえ。嫌だが、そこまでして頼むのならやってやる。」
なんて現金というか、エッチな奴なのだろうか。いや、男だからしょうがないかも。
「ありがとうございます。」
駿の心中を知ってか知らずか、シンジは駿が頷くのを見て安堵し、にっこりと微笑んだ。
To be continued...
(2009.04.11 初版)
(あとがき)
この外伝は、他のサイトに投稿していたものを若干修正したものです。
15禁程度の少しエッチな話になると思いますので、ご承知おきください。
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