〜ゼルエル戦から2週間ほど経った日の事〜

第3新東京市、市立第1中学校―
 「父兄参観?」
 配布されたプリントをジッと見るシンジ。そこには来週行われることになっている、父兄参観会の連絡が書かれていた。
 「シンジ、これなんなの?」
 「親が僕達の授業風景を眺めに来るんだよ」
 「ふーん・・・アタシの場合って・・・ミサトになるのかしら」
 飛鳥の両親はドイツにいる。本当の母親なら本部ケージにいるが、まさか来てもらう訳にはいかない。
 「まあ、それが妥当かな」
 「アンタんとこは?馬鹿シンジ」
 「・・・うちもベルリンから来てもらうのはなあ・・・捨てて帰るか」

その夜、シンジ宅―
 「スミレさん、いいですか?」
 夕食と入浴が終わった後、レイがスミレの私室へやってきた。父兄参観のプリントを見せる。
 「私、見に来てくれる人がいません。スミレさんにお願いできませんか?」
 「私?いいわよ、ちょっと見せてごらん」
 レイから手渡されたプリントを肴に、グイッとブランデーを呷る。
 「ふふ、面白そうなイベントよね」
 「ス、スミレさん?」
 「あ、いいのいいの。こちらの話。レイ、教えてくれてありがとうね。レイの親代わりは、ちゃんと私がしてあげるからね」
 「はい。ありがとうございます」
 顔を赤らめたレイが、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべる。そんな未来の妹候補な娘を見て『感情表現豊かになったわねえ』とこちらも嬉しそうであった。
 「ねえ、志貴、シオン、ちょっと良い?」
 その夜、スミレは同胞達と相談をしていた。

参観会当日の朝―
 シンジの家は、朝はとても早い。朝食と弁当を作る必要があるので、シンジは毎朝5時半には起床している。今日も準備を終え、毎朝の恒例行事である、飛鳥やレイを起こし、朝食を摂ろうとしたところで事件は起きた。
 テレビから流れる、朝のニュース。
 『こちらは第3新東京市国際空港です。本日は厳重な警戒態勢が敷かれており・・・』
 飛鳥のおかわりの茶碗を受け取ろうとしていたシンジの体が、ピタッと止まった。その顔はテレビのニュースへと向けられている。
 『ただいま、降りてきました!ご覧ください!』
 テレビカメラが飛行機のタラップから降りてくる、壮年の男性を捉えた。
 「どうしたの?シンジ」
 「何か面白いのでも映ってるの?馬鹿シンジ」
 「・・・なんで?」
 ライブ放送はシンジの疑問に答える事もなく、全国への放送を続けていた。
 『Mr.ヴァン!おはようございます!今日はどのような理由で、プライベートジェットを使っての、突然の来日となったのでしょうか?』
 『おはよう、お美しいお嬢さん。良い朝だね。理由だが、たいした事ではないよ。我が息子の父兄参観会と聞いたのでな、仕事を3日ほどキャンセルして来日したのです』
 ピシッと音を立てて石化するシンジ。ちなみにヴァンが3日仕事をキャンセルすると、世界経済は間違いなく悪化する。
 『御子息と言われますと、あのエヴァに乗っている少年、シンジ=ブリュンスタッド君ですね?』
 『その通りです。私は多忙なため、息子はそれを気に病んで参観会の報告をしてこなかったのです。しかし、知人からそれを知らされまして、是非、息子の顔を見たくなりましてね』
 『麗しい親子愛ですね』
 延々と続く報道に、シンジは再起動できないでいる。そんなシンジを横目に、必死で笑いを抑える酔っ払いが1人。
 『実のところ、参観会は1人の参加が常識だとは聞いている。だが、シンジに会いたいという者が他にも数名いたのでな、これから学校に連絡をして、許可を頂くつもりなのです』
 止めてくれ!と心の中で叫ぶシンジ。
 『他にも、と仰いますと・・・ああ、あなたは!』
 タラップからゆっくりと降りてくる一団、その最後尾にいたロングヘアーの少女。漆黒のドレスをまとった、その少女は、シンジの知り合いに瓜二つであった。
 『アルトルージュと申します。シンジ、お姉ちゃんが会いに来たわよ』
 彼女は、ニッコリと微笑んだ。



堕天使の帰還

番外編

U
お姉ちゃん、襲来

presented by 紫雲様




第3新東京市、第1中学校―
 「センセ、朝から死んどるな」
 登校してきたトウジは、友人が机に突っ伏す姿を目撃していた。
 「ふふ、きっと神様の使いを殺し続けた罰だよね・・・僕の理想郷はどこにあるんだろう・・・」
 「セ、センセ?」
 「ああ、ペンペン、君が迎えに来てくれたんだね。ああ、カヲル君まで・・・僕は嬉しいよ・・・」
 「戻ってこい!センセ!」
 ユサユサと揺さぶるトウジ。その光景を級友達が面白そうに眺めていた。
 「もう覚悟決めちゃいなさいよ!どうせ、午後の1時間だけでしょ!」
 「馬鹿シンジ、諦めが悪いわよ」
 「シンジ君、見てもらうのが嫌なの?」
 とは言っても、シンジが突っ伏すのも無理はない。ヴァンの来日理由は、NERVの看板でもある少年を一目見ようというミーハーの群れを、学校の周辺へ集まらせたからである。
 学校側も慌てて警察へ相談し、急遽、機動隊が早朝から仕事に励む事になっていた。
 「おはよう、みなさん。朝のSHRを始めますよ?」
 ヒカリが号令をかけ、教師が出欠を確認していく。
 「ところで、みなさんに連絡があります。今朝のニュースを見た人も多いでしょう。実はブリュンスタッド君の御家族が、来日したのはいいですが、あまりにも早く着きすぎてしまったため、臨時で1時間目から見学されることになりました」
 どよめく教室。シンジはと言えば、信じたくもない連絡に、顔面を蒼白にさせていた。
 後ろのドアがガラガラと開く。最初に入ってきたのは、白スーツの優男であった。
 「おお、我が愛弟子よ!元気にブベッ!」
 「何を朝からサカッテいるのですか!状況を理解しなさい!」
 そういって、背後からやくざキックを放って、ゲシゲシと踏みつける金髪縦ロールの美少女。
 「・・・失礼する・・・」
 「おはようございます、みなさん」
 「おはよう、諸君」
 「ほっほっほ、邪魔させてもらうぞ」
 「ふむ、ここが日本の学び舎か、時計台とは違うな」
 黒スーツのリィゾが、漆黒のドレスをまとったアルトルージュと一緒に入ってくる。その後ろにヴァンと、灰色のスーツを着たトラフィム。最後尾を老人ながら、筋肉隆々とした体のゼルレッチがはいってきた。
 ちなみに志貴、シオン、スミレは午後から合流予定。プライミッツマーダーはアルトルージュの影の中で、ひたすら『待て!』の体勢である。
 「なんで、みんな揃って来るのさ!」
 「「「「「「心配だからに決まってる(でしょ)」」」」」」
 項垂れるシンジ。状況は悪化の一途を辿っていた。
 その姿に、級友達はさすがに憐みを感じていた。ただ一人、彼女を除いて。
 「シンジ君、愛されてるのね・・・羨ましい・・・」

1時間目、英語―
 教室の後ろに日本人ではない者達(というか人外連中)6名のオプション付きで授業は始まった。何故1人少ないかというと、その1人は全身を縛られてベランダで日光浴をさせられていたからである。
 「えー、ではこの英文を和訳できる人は、手を挙げてください」
 チラホラと手が挙がるが、シンジは手を挙げない。当たり前だが恥ずかしいのである。その背中に遠慮なく刺さる視線は、刃物なみの鋭さで心に突き刺さっていた。
 「シンジ、何をしているの!」
 ますます縮こまるシンジ。背後で叱責するのはアルトルージュである。
 「全くだ。お前には英語どころかドイツ語、ラテン語まで教え込んだだろうが。その程度、容易かろう」
 ゼルレッチからも痛烈な言葉が飛ぶ。
 「あ、あの、申し訳ありませんが、授業中ですので、できるだけお静かにお願いします」
 「ああ、申し訳ない。つい愛弟子の不甲斐無さに、腹が立ってしまいましてな」
 (・・・これって、イジメだよね?うん、イジメだよ、きっと・・・)
 授業中、亀になりつづけたシンジは、満足にノートをとることすらできなかった。

休み時間―
 生徒達が休憩を取る時間―であったはずだが、今日に限っては異なっていた。生徒達の好奇心が、飛鳥そっくりのアルトルージュへ向けられていたからである。
 「やっぱり、飛鳥そっくりよね?」
 ヒカリの言葉に、飛鳥が頷く。だが明日香は同意することもなく、席を立つとアルトルージュに近寄った。
 「あら?あなたは?」
 「アタシは惣流=明日香=ラングレーよ。馬鹿シンジの恋人よ」
 オオッと歓声が起こる教室。ヒカリは顔を赤らめ、トウジとケンスケは『イヤーン』と叫び、レイは眦を吊り上げると飛鳥に向かって歩き出した。
 「明日香。シンジ君の恋人は私よ。訂正して」
 「誰がよ!私に決まってるでしょ!」
 「明日香!嘘は止めて!恋人なのは私だってば!」
 痴話喧嘩に飛鳥も参戦。ますます混迷を極める。
 「ふーん、面白いわね。あなたの事は聞いてるわ、ハンブルクにいたシンジの想い人さん?」
 明日香の顔が瞬間的に真っ赤に染まる。同時に、更なる歓声が上がった。
 「アアアア、アンタねえ!」
 「でも、将来の義姉として言わせてもらえば、少し気品が足りないわね」
 ビシッと音を立てて、明日香のこめかみに青筋が浮かぶ。
 「今、何て仰ったのかしら?御義姉様?」
 「シンジの心に胡坐をかいてるようでは、まだまだ御子様よね、って事」
 「胡坐なんてかいてないわよ!シンジはアタシのものなんだから!アンタ、シンジの唇がどんな感触かなんて知らないでしょ!」
 シーンと静まり返る教室。飛鳥もそうだが、明日香もまた、先天性失言発声装置内蔵娘であった。
 
その後、シンジがと明日香が揉みくちゃになったのは言うまでもない。

2時間目、体育―
 体育の時間は、体育館で剣道の授業である。女子は体育館の半分を使って、バスケットボールをしていた。
 キャーキャー歓声を上げながら、楽しそうにボールを追いかける女子を、男子は羨ましそうに眺めている。
 『なんで、こんな暑い日に、こんな臭いの着けないといけないんだ!』
 とは言え、授業なのだから仕方ない。手拭いを頭に巻いて、防具を身につけ、素振りを始める。しばらくして、半分ずつ乱取りを行う事になった。
 シンジはトウジ・ケンスケとともに、後半に回っている。
 「センセ、大丈夫か?」
 「トウジ・・・知ってるかい?忘却ってのは、リリンが生み出した文化の極みだよ」
 「戻って来いって、センセ!」
 ガクガク肩を揺さぶるトウジ。その脇で、ケンスケは女子のバスケを眺めていた。
 「なあ、シンジ。お前は誰が一番なんだ?」
 ケンスケが指差す先では、飛鳥がレイアップシュートを決め、レイやヒカリとハイタッチをして喜びを表していた。
 「・・・なんで、そうなるのさ?」
 「いや、なんとなく、かな。で、ホントの所はどうなんだ?」
 思わず釣られて女子の方へ視線を向けるシンジ。その頬がうっすらと染まる。
 「僕は・・・」
 振り向いたシンジだったが、そこにいたのはケンスケでもトウジでもなかった。目の前に現れたのは、漆黒のズボン。上へ顔を向けると、そこには無表情のリィゾの顔が待ち受けていた。
 「リ、リィゾさん?」
 黙って竹刀を突きだすリィゾ。思わず受け取るシンジ。
 緊迫した空気が流れ、男女を問わず視線が2人に集まった。
 「シンジよ。以前、教えたな?武人たるもの、心を揺らがせてはならぬ。ことに、それが戦いの場なれば、当然のことである、と」
 「は、はい」
 「女人に気を取られるとは嘆かわしい。今すぐ鍛え直してくれる」
 いきなり振り下ろされる竹刀。咄嗟に横へ転がり、難を逃れるシンジ。生徒達は気付かなかったが、死徒として発達した五感を持つシンジの聴覚は、背後にあったカーテンが切り裂かれる音を捉えていた。
 ソニックブーム。音速を突破した時に生じる、衝撃波、リィゾはそれに指向性を持たせていた。
 「ちょ、ちょっと待って下さい!リィゾさん!こんなとこで本気を・・・」
 「安心しろ、手加減はしてやる。死んだら責任を持って蘇生してやろう」
 「それは手加減とは言いません!」
 突如始まる師弟の修業。ルールに捉われない縦横無尽の勝負に、生徒達がシーンと静まり返る。
 「シンジー、今度こそ勝ちなさいよ!晩御飯のおかず、賭けてるんだからね!」
 大穴狙いが大好きなリタ。
 「シンジ、勝負とは非情なものだ。この父を恨むなよ。リィゾに一品賭ける」
 沈着冷静なヴァン。
 「儂はシンジかの。シンジ、頑張るんじゃぞ?」
 声援を送るトラフィム。
 他のメンバーも、無責任に野次を飛ばす。そんな中、男子に剣道を教えていた、剣道五段の田中道弘(32歳)は、そのハイレベルな戦いにショックを受け、昼休みに早退してしまった。

3時間目、数学―
 すでに燃え尽きた感のあるシンジ。生徒達は憐みを覚えると同時に、下手に関わるまいと、やや遠巻きに眺めていた。声をかけるのは2人の少女ぐらいである。
 「さて、今日は前回のテストを返します」
 返却されていくテスト。シンジの点数は92点。それなりに良い点ではある。
 「では、問題を解説していきます。間違った人は、キチンとノートに取るように」
 一問一問、丁寧な解説が続く。
 「今回、最高点はブリュンスタッド君でしたが、ケアレスミスが目立ちました。ブリュンスタッド君は、その点を気をつけるように・・・?」
 今年、38歳を迎える数学教師、田中和弘(既婚、子供持ち)の言葉が凍る。教室の後ろに立っていたヴァンが、その眼に怒りの炎を宿していたからだ。
 「シンジ、ケアレスミスだと?」
 油の切れたゼンマイ仕掛けのブリキ人形のように、ギギギギギッと音を立ててシンジが振り返る。
 「シンジよ、常に言っていたはずだな?上に立つ者には多くの責任が求められる。その責任を果たすためにも、己にミスを許してはならぬ、と」
 グワシッと首根っこを掴まれ、宙吊りになるシンジ。
 「え、えっと・・・」
 「ちょうどいい、4時間目を使って、一から鍛え直してやろう」
 顔を青ざめさせるシンジ。
 「い、嫌だあ!スパルタコースはもう嫌だあ!」
 「安心しろ、1時間に濃縮させた、特別スパルタコースだ。今までとは比べ物にならない、濃密さをもってお前を鍛えてくれよう」
 必死で逃げようとするシンジを、教室外へ強制連行するヴァン。シンジの悲鳴が、廊下にこだました。

4時間目、歴史―
 「えー、その頃、私は」
 「嫌だあああああ!」
 「根府川に」
 「ぎにゃああああ!」
 「住んでおりまして」
 「帰してよおおおお!」
 どこからか聞こえてくる悲鳴を聞き流すスキルを習得した2−Aの生徒達は、今日初めてまともな授業を受けられる事に、幸せを感じていた。
 「助けて!明日香!飛鳥!綾波!」
 「がんばれ、馬鹿シンジ」
 「シンジ君・・・」
 「弐号機ないから、我慢して、シンジ」
 
昼休み、屋上―
 そこには、全てをやり遂げた表情の少年が座り込んでいた。頭髪は真っ白になり、瞳孔は虚ろに開きっぱなし。時折、虚空を眺めては『カヲル君、そこにいたんだね?』と呟いている。
 シンジの家族達は、屋上にシートを敷いて車座に座り、ヴァンが用意していた昼食を堪能していた。
 「シンジ、気合いが足りないわよ、もっとしゃんとしなさい!」
 リタの呼びかけに、ピクッと反応するシンジ。多少、意識が戻ってきたのか、リタを正面から見かえした。
 「急だったけど、私とアルトルージュでお昼作ってきたのよ、サンドイッチだけど、食べてくれるかしら?」
 「・・・姉さんが?」
 2人の姉のほほ笑みに、今日、初めてシンジは喜びに涙した。そのあまりも純粋な笑顔に、明日香もレイも口を挟むことすらできない。
 差し出されたランチボックスを開けるシンジ。そこに詰まっている物を目にした瞬間、シンジは凍りついていた。
 卵・ハム・チーズ・レタス等々。ただ特に目についたのは、パンであった。何故か真紅に染まっている。
 恐る恐る触れてみると、指先にヌトッという感触が残った。
 「な、なにこれ?」
 「実はね、この前活きの良い獲物を手にいれてね。是非、シンジに食べてもらいたくて、取っておいたのよ。勿論、作る直前までは生きていたから、鮮度はバッチリよ!自然味溢れる濃厚さがポイントなの!」
 「私には、少々合いませんでしたが、『シンジなら絶対、喜ぶ!』とリタが強く勧めるので・・・」
 キラキラと笑顔を振りまくリタとアルトルージュ。シンジは知らなかったが、サンドイッチを赤く染めた材料であるSEELE工作員の皆様は、今朝を持って完全に全滅した。
 半泣きの表情で周囲を見回すシンジ。だが飛鳥もレイも、ランチボックスから漂ってくる生臭い匂いに後ずさり、シンジから視線を外していた。
 今更自前の弁当を取り出す訳にもいかず、シンジは絶望とともにランチボックスの中身に手をつけた。

5時間目、国語―
 他の生徒達の親が、参観会に出席するため、続々と集まってきていた。だがシンジの家族が無意識に垂れ流すプレッシャーに押し負け、妙に端っこの方へと寄っている。
 「どうした、シンジ?随分、元気がないな?」
 「に、兄さん!」
 両目に包帯を巻いた兄の登場に、シンジは今日、初めて心の安らぎを見出していた。
 傍目に見れば兄弟愛に満ちた美しい光景であった。
 「お願いだよ、助けて!」
 「すまん、無理だ。俺には手伝えん」
 「裏切ったな!僕の事を裏切ったな!」
 事前にスミレから事情を説明されていた志貴は、なし崩し的に協力を強制されていた。闇の世界に悪名高い男であっても、苦手な者は存在する。
 (今、秋葉に捕まる訳にはいかないんだ、スマン、シンジ)
 「ふっふっふ、どうやら私の出番の様だな」
 どこからか聞こえてきた声に、クラス中の視線が集まり―女生徒の悲鳴が上がった。
 来校するなり、ベランダへ放置されていたフィナが、縄ごとスーツを脱ぎ棄て、その鍛え抜かれた裸体(紫のブーメランパンツを着用)を晒しながら入ってきたからである。
 「我が愛弟子よ!いざ、理想郷へ!共に逝こうぞ!」
 両手を頭の後ろで組み、腰を前に突き出し、更にその腰を左右に動かしながら摺り足で近づいてくる。
 逃げ惑う女子生徒。後ずさる男子生徒と親たち。

 ぷつん

 後になって、3人の少女はその音をはっきり聞いた、と明言している。
 幽鬼のように、フラ〜と立ち上がるシンジ。その口からは、虚ろな笑い声が漏れていた。
 「ふふ・・・ふふふ・・・あははははは・・・」
 「ちょ、馬鹿シンジ?」
 「シンジ君?」
 「シンジ、どうしちゃったのよ!」
少女達の声に反応は無い。シンジはゆっくりとフィナに振り向いた。
 「食っちゃえ、プライミッツマーダー」
 教室に旋風が巻き起こると同時に、アルトルージュの影から純白の怪物が飛び出した。
 割れる窓ガラス。
 吹き飛ぶ扉。
 砕け散るチョークと蛍光灯。
 床を滑っていく机とイス。
 パニックに陥り、正気を手放す生徒達。
 阿鼻叫喚の絶叫が響く中、最後列で見学していたスミレとシオンは行動を起こした。スミレは空想具現化により、教室を孤立化。シオンはエーテライトを取り出していた。
 「やれやれ、尻拭い位はしてあげましょうか」
 2人の奮闘により、この事件が明るみになることはなかった。

番外編2:お姉ちゃん、襲来。これにて終了。



Fin...
(2010.04.10 初版)


(あとがき)

 紫雲です。毎回お読み下さり、ありがとうございます。
 今回は欧州留守番組こと死徒27祖をネタとしたお話でした。
 ただ来日するのだけではつまらないので、父兄参観会にしてみました。護衛担当の3名以外に、それぞれ活躍の場を提供してみましたが、いかがでしょうか?
 ところで、番外編ですが次の第3話で終了となります。
 アップするのはアルミサエル戦とタブリス戦の間になる予定。激戦となる本編ともども、最後までお付き合い下さい。よろしくお願いします。



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