碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

番外編 Ⅰ

presented by 紫雲様


注意事項
・誠に申し訳ございません。前回(本編第5話)後書きにおいて、番外編は反董卓同盟結成前の時間軸で~みたいな事を書いていましたが、大間違いでした。反董卓同盟騒動終了後、かつ、諸侯達が洛陽から退去した後が舞台となります。



洛陽―
 「シンジさん。何を作ってるんですか?」
 ポカポカと暖かい日差しが降り注ぐ、ある穏やかな日。事務仕事を終えて気分転換の散歩を楽しんでいた月は、厨房の近くで何やら作っているシンジを見つけて声をかけたのであった。
 「味噌作りだよ。僕の母国の調味料でね、こうしてカビた部分を捨てながら、発酵させるんだ。初めて作ったけど、結構良い出来だな」
 「・・・変な色なんですね。美味しいのですか?」
 「僕にとっては食べ慣れた味だね。ちょっと嘗めてみる?」
 「じゃあ、試しに」
 恐る恐る味噌を嘗めてみる月。だが初めて体験する味は、塩味はきつくても十分に美味しいと言える味であった。
 「美味しい!これ、どうやって食べるんですか?」
 「一番使われるのは汁物だね。色んな具材を煮た所へ、これを少量溶かすんだよ。貝や玉ねぎ、この国にはないけどジャガイモとかが特に美味しいんだ。あとは野菜に付けてみたりとか・・・」
 「・・・今日、これダメでしょうか?」
 少し顔を赤らめながら、ちょっとした我儘を呟く月。だがシンジはニッコリ笑いながら『試しに食べてみるのも良いかな?』と気軽に返す。
 「もし良かったら、今日のお昼ご飯はこれを使おうか。僕は作っておくから、みんなを呼んできてくれる?」
 「はい!」

 「へえ、これがシンジの生まれ故郷の料理なんか」
 「調味料とか違うから、若干味は違うけどね。とりあえず食べてみてよ」
 御呼ばれしたのは月を筆頭に詠、恋、ねね、霞、華雄。更には協も弁を引き連れて参加していた。
 「・・・む、この汁物は旨いな」
 「それお味噌汁って言うんだよ。中の具材で味が変わって来るんだ」
 「シンジ、これは何?どうやって食べるの?周りだけ火が通っているけど、中は生だよ?」
 「それはタタキって言ってね、脇にある醤に付けて食べるんだ。生臭かったら、薬味のネギを使うと良いよ」
 「生食とは珍しい料理なのです。でも美味しいですよ」
 「これ、木の根っこ?えらく硬いんやけど」
 「それ牛蒡だよ。一応山菜の一種でね、故郷では良く食べられるんだ。馴染みのない食材だろうから無理しない方が良いよ」
 「初めて見る食材だな。シンジの故郷の料理は野菜が多いのか?」
 「野菜が中心だね。宗教的な理由で、昔はお肉禁止されていた国だから、結果として野菜料理が発達したんだ。ちなみにその串焼き、食べてみてよ」
 「美味しい!これ、鶏肉かな?」
 「外れ。それレンコン磨り潰して、いくつも調味料まぜた、偽物のお肉だよ」
 「何と!?そのような料理があるとは・・・」
 「これこれ、シンジ。デザートはあるかのう?」
 「果物の盛り合わせなら用意してありますよ。師叔」
 カチャカチャと音を立てつつ、和気藹々と進む昼食会。だが全員の視線が、一斉に一ヵ所に突き刺さる。
 「「「「「「誰?」」」」」」
 「うむ。儂は呂望と申す」
 「と言うか来るなら来るで一言ぐらい連絡下さいよ、師叔」
 「無茶を言うでない。折角、煩い奴らの目を欺いて脱走出来たのだ。前触れなぞ送る暇などある訳なかろう」
 明らかに知り合い同士な2人に声も無い一同。だがそれは次の瞬間、驚愕の叫びに取って代わられた。
 「はい、四不象の分。果物なら大丈夫だよね?」
 「ありがとうっス!」
 「「「「「「カバが喋った!?」」」」」」
 「僕はカバじゃないっス!四不象っていう立派な霊獣っス!」
 ふよふよと浮きながら必死に抗議する四不象。
 「そうだぞ、こやつはカバ等では無い」
 「その通りっス!」
 「無駄飯ぐらいな、立派な豚じゃよ」
 「酷いっス!ご主人様!」
 呂望を名乗る目の前の少年の素性に気付いた軍師2名と将軍1名はともかくとして、他のメンバーは主従の漫才を面白そうに眺めるばかりである。
 「ところで師叔。先程は脱走してきた、と言っていましたが」
 「うむ」
 「それ、何ですか?四不象のお尻のとこ」
 シンジの指摘通りに視線を向けると、そこにあったのは何やら点滅を繰り返す機械の箱である。隅には太乙と書かれている。
 「何じゃ、これは?」
 「それは私が開発した『太公望用発見器』さ!」
 「太乙!また儂の時間を潰す気か!って、何でお主等全員来ておるのじゃ!」
 背後へ振り向いた太公望。その視線の先にいたのは蓬莱島に隠れている筈の住人達である。あまりにも豪華すぎる顔触れに詠とねね、さらには霞も『まさか易姓革命の・・・』と言葉にならない驚きに呑まれてしまっていた。
 
 「全く馬鹿者が。少しは自重せんか」
 目の前で繰り広げられる宴会に、もう何杯めかも覚えていない酒を呷り、大きな溜息を吐く聞仲。そこへ『一杯どうだ?』と声をかける雅。
 「む、折角だから頂こうか」
 「私は華雄。ここで将軍を務めている。ところで、貴方がシンジの師匠なのだろう?シンジが来てくれたおかげで、本当に助かっている。ありがとう」
 「アレはどうだ?道士としては動く事を禁じておるが」
 「十分すぎる程逸材だ。武では私達3名に、智では詠やねねに、政では月に届かない。だが戦場で、頭に血が上った私をぶん殴る様な度胸の有る男は初めてだったな・・・私達の大切な仲間だ」
 それを聞いた聞仲が『フン』と鼻を鳴らしながら酒に口を着ける。だが微かに下がった眼尻に『素直じゃない男だな』と呆れる雅。
 「それにしても、貴方の弟子は敵の虚を突くが得意なのだな。『七代先まで指を指される程の小悪党の遣り口』は実に凄かった。敵も味方も呆気に取られたぞ」
 ピクンと反応する聞仲。
 「何をやらかした、我が弟子は」
 「女のプライドを逆撫でしただけだ。体重と年齢と胸の大きさでな」
 「あの馬鹿弟子は・・・太公望も太公望だ、何を教えているのだ・・・少し文句を言ってくるとしよう。弟子の品性を損なわれては私の沽券に係わる」
 『行ってらっしゃい』と雅に見送られた聞仲。だが捜し求める人物は見つからない。そんな時、クイクイッと袖を引っ張られた事に気付く。
 「あの、初めましてなのじゃ。僕は協。こちらは弟の弁なのじゃ」
 「これはこれは。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。皇帝陛下にその御姉君ですな。私は聞仲と申します」
 数え切れぬほどの王族の子供達を教育してきた聞仲にしてみれば、相手が子供とは言え礼を尽くすのは極当然の事である。
 「いつも弟子がお世話になっております。何かご迷惑をお掛けしていたのであれば、それは師である私の不徳と致す所」
 「そ、そんな事はないのじゃ!シンジは本当に私達の事を気にかけてくれるのじゃ!と、ところでな、そなたはシンジの師匠なのであろう?シンジの好きな物とかは知らぬか?」
 「あれの好きな物、好物とかで良いのですかな?」
 「それもそうじゃが・・・異性の好みとかも教えて欲しいのじゃ・・・」
 弟に後ろから突かれつつ、真っ赤になりながら呟く協。その姿に『おやおや』と苦笑する聞仲。
 「シンジは周の武王に『プリンちゃんと懇ろになる方法』を学んだ、と言っておった。現に月や詠と言った強敵がおるのじゃ!絶対に負けるつもりはないのじゃ!」
 「姉上、頑張ってください!」
 「うむ。僕は必ずシンジを射とめてみせるのじゃ!」
 『ちょっと待てい』と内心で憤懣を抱える聞仲。とりあえず帰ったら、あの女好きをしばいてやる。張奎に禁鞭借りて。と物騒な事を考える。
 だが今は目の前の少女の質問に答えるのが礼儀。だからこそ感情を心の奥へ仕舞いこみ、何食わぬ顔で問いに返した。
 「あれの好みは甘い物ですな。逆に辛い物はあまり好まないようで、滅多に作ろうとはしなかった記憶がございます。それから異性の好みですが勝気な少女と、物静かな少女に懸想しておりましたな。相手の性格面よりも、己自身を見てくれるかどうか。それが好感を持つ判断基準の様に思えます」
 「か、感謝するのじゃ!」
 「良かったですね、姉上」
 仲の良い姉弟の姿に『それでは失礼させて頂きます』と立ち去る聞仲。弟子の思わぬ女性関係に、苦笑する師匠である。
 そんな聞仲の足が、何かにぶつかった。
 「む。少女よ、どうしたのだ?」
 「ちょうど良かったです。名軍師太公望の好敵手である貴方に、お伺いしたい事があったのですよ。申し遅れましたが私は陳宮文台。主である恋殿にお仕えしながら、月殿の下で副軍師を務めているですよ」
 「これはこれは可愛らしい軍師殿だ。それで私に何を聞きたいのかな?」
 普段は子ども扱いされると不満を覚えるねねだが、さすがに目の前の人物相手に不満を覚えるようなことは無い。
 何せ相手は数百年どころか下手をすれば1000年以上生きている仙人なのだから。
 「シンジの小悪党の遣り口。あれは師直伝と言っていたです。ですが史書に残る太公望の逸話からは、そのような雰囲気は感じ取れません。であれば聞仲殿が」
 「違う!断じて違う!あれは太公望の馬鹿が教え込んだのだ!私は無実だと断言する!」
 「そうだったのですか。もし良かったら教授をお願いしたかったのですが・・・では太公望殿にお願いしてくるです。それでは失礼させて頂くですよ」
 ペコリと頭を下げるねね。その姿を見送りながら『太公望めえ・・・』とストレスを募らせていく聞仲。
 そこへ入れ替わる様に『少し宜しいでしょうか』とかかる声。
 「私は董卓。字を仲穎と申します。シンジさんには陛下と殿下の御命を、そして仙薬を飲まされた私までも救って頂きました。本当にありがとうございます」
 「それは仙薬を流出させてしまっていた、我々仙道の失態がそもそもの原因。貴女が頭を下げる必要などありません」
 「いえ、両親にも、助けて頂いた時には相手に関わらず感謝の言葉を伝える事が礼儀だと教わりました。それに感謝しているのは事実ですから」
 幼い外見の月の態度に感心する聞仲。よほど両親が教育熱心だったのだろうと、顔も知らない月の両親を内心で褒める。
 「ところで、聞仲様。お伺いしたい事があるのです。私、その時の一件以来、我が身を守る術ぐらいは学ばないといけないと考えるようになったのです」
 「ふむ。確かに重要な事ですな」
 「そこでシンジさんに相談した所、もっとも向いている物を教えて頂いたのですが、やはり分からぬ点が多々ございまして。その辺りについてご質問をさせて頂きたいのです」
 「分かりました。私で良ければお答え致しましょう。それで何を学ばれたのか、お伺いしても宜しいでしょうか?」
 「毒薬知識とモルモット捕縛技術を少々」
 グラッとよろめく聞仲。あの馬鹿弟子は何を教えているんだ、とストレスゲージが更に募っていく。
 「そもそも身体能力で劣っているんだから、その分、頭脳で解決した方が良いと言われまして」
 「まあ確かに一理ございますが。しかしながら、さすがに毒薬と捕縛技術は専門外。ちょうど専門家である太乙真人も来ております。あそこで馬鹿騒ぎしているようですが」
 「本当ですか!ありがとうございます、それでは失礼致します!」
 喜び勇んでかけていく少女。その背中を見送っていた聞仲の耳に『睡眠薬と捕縛技術が向上すればシンジさんを』と何やら物騒な声が飛び込んできた為に、走り去る少女の背中をマジマジと凝視してしまう。
 「・・・まあ命に係わる訳ではないのだから良かろう。アレが戻るべき所へ戻った時の事を考えれば、女人のあしらい方ぐらい覚えておいた方が、アレの為かもしれん」
 「ほう?武成王から妻を喜ばせる夜の営み実践編を教わったと聞いとったんやけど、そんな理由があったんやな。ウチはてっきり、仙女と良い仲になったのかと・・・」
 「待てい。今、何と言った?」
 ギギギギギッと錆びついたブリキの玩具のような音を立てながら振り向く聞仲。そこにいたのは仁王立ちで酒をラッパ飲みしている霞であった。
 「いや、そのままの意味なんやけど」
 「飛虎おおおおおお・・・」
 まるで爆発前の火山の様に、ゴゴゴゴゴッと不気味な音を全身から発する聞仲。このままでは怒りのあまり超聞仲になりそうな勢いである。
 「・・・ダメ・・・信じてあげて・・・」
 「む?」
 「シンジはとっても優しい・・・信じてあげて・・・恋は信じているよ」
 円らな、そして純粋な瞳でジッと見つめられる聞仲。その瞳で見つめられる内に、怒りの炎が静まっていく。
 (・・・そうだな・・・師である私が弟子を信じなくてどうすると言うのだ)
 「・・・少女よ、礼を言う。我が名は聞仲。名前を教えて貰いたい」
 「恋は呂布。そちらは張遼」
 眉間から皺が消えた聞仲に、ニコリと笑う恋。その笑顔に、聞仲もまた笑みを返すと、手近に置かれていた酒を一気に飲み干し、満足気に笑う。
 「だって言ってたよ。シンジ、紂王様から誘惑に負けない強い心の作り方を教えて貰ったって」
 「陛下あああああああああ!」
 酒のせいで感情のメーターが振り切れたのか、地面へ膝を着いて号泣する聞仲。額の第3の目からも滝の様に涙を流す光景は不気味の一言に尽きる。
 「・・・恋。無自覚にトドメ刺しよったな」
 「・・・何で?恋、おかしな事言った?」
 「・・・恋、向こうへ行こう」
 ズルズルと引っ張られていく恋。やがてその姿が消えた所で、ちょうど落ち着いたのか涙腺を閉じながら聞仲が立ち上がる。
 「いかんいかん。久しぶりに呑み過ぎた酒で理性が・・・」
 「意外ですね。仙人でもお酒に飲まれる事があるとは・・・失礼しました。僕は董卓軍の軍師を務める賈詡と申します」
 「お見苦しい所をお見せしたようだな。私は聞仲、既に知っているだろうが」
 「ええ。シンジから聞いてます。伝説に謳われる師匠の事については」
 詠の言葉に『ほう?』と声を上げる聞仲。
 「大魔王からは逃げられない、と」
 「・・・くっくっく・・・アレがそう言ったのだな?」
 「ええ。僕の事をちっとも見てくれない馬鹿がそう言っていました」
 「良かろう。礼代わりに手当する役目は任せてやろう」
 遠回りな言い回しだけで、意思の疎通を図る2人。
 「くおの馬鹿弟子があああああ!」
 「師匠!?」
 「お前もついでだ、太公望おおおお!」
 「突然キレるでないわああああ!」
 禁鞭が無い為、鍛え抜いた体と拳だけで殴り掛かる聞仲。まともに正面から拳を喰らったシンジは吹き飛び、そのまま詠の傍に着弾する。
 その一方で、弟子を殴り飛ばした怒れる師匠は、諸悪の根源とばかりに好敵手を次の標的に見定めた。
 「おいおい、聞仲。一体どうし」
 「飛虎、お前もだああああああ!」
 「聞仲!このような場所で」
 「太乙!原因が何を言うかああああ!」
 王宮を舞台に始まる第2次仙界大戦。太乙を踏みしだきつつ暴れ狂う聞仲に対して打神鞭を手に迎撃する太公望。その光景に、バトルジャンキーの血が騒いだのか、哪吒・黄天化・雷震子らも武器こそ構えていないが拳を握って参戦。そこへ武成王も天然道士としての本領を発揮してやり返そうと殴り掛かる。
 瞬く間に余波だけで崩壊していく王宮。中で働いていた者達が悲鳴を上げながら逃げ惑う。
 そんな光景に、協がポツリと呟いた。
 「・・・ねえ、誰が直すのかな?王宮」
 「それはちょっと分かりかねます」
 シンジを介抱する親友を羨ましそうに眺めつつ、月は小さく溜息を吐く事しか出来なかった。
 
 その後、蓬莱島の総力を結集して王宮は一晩で建て直されたが、誰かの趣味が混じっていたのか妙にゴージャスになっていたと言う。



To be continued...
(2014.11.01 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 番外編でしたが、完全ドタバタコメディ。シリアスさなんて敢えて欠片も無い話にしてみました。
 今回の玩具は、前回の後書き通りお師匠様です。お師匠様、ストレスゲージが溜まり易い生真面目委員長系キャラだと思うので、酒の力で発散して頂きましたw
 話は変わって次回です。
 次回は本編第6話。舞台を呉の地に移して話を始める事になります。
 反董卓同盟から3年後、中央と北部を支配下に治めた袁紹。それに対抗する為、中央の混乱に乗じて、孫家は父祖伝来の地を奪還し、更には南方の地を支配下に治め、着々と力を蓄えていた。
 富国強兵に励む呉の地を治めるのは、孫呉の2代目孫策伯符。覇王と呼ばれる彼女の前に現れたのは、漆黒の衣を纏った1人の男。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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