碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

番外編 Ⅲ

presented by 紫雲様


洛陽―
 李儒こと于吉が左慈とともに姿を消し、涼州蜀連合軍と曹孫連合軍が洛陽に進軍し、共通の敵を前に休戦協定を交わした。
その数日後の事である。
 久しぶりに丸々1日休みを貰った聞侍従ことシンジは、折角の休みをどう過ごそうかと考えながら、王宮の廊下を歩いていた。
 時折、擦れ違う女官や文官に目を丸くして驚かれながら―シンジは帝と劉協を守って死んだと言われていたから当然の対応である―テクテクと歩き続けるシンジ。その足が、ピタッと止まった。
 「・・・何をやっているんですか。そんなベタな方法で」
 ビクウッと身を竦ませる不審人物3人。その素性は一騎当千の武将として名高い愛紗・星・翠である。そしてその両手には、1本ずつ木の枝が握られ、額に撒かれた鉢巻には、やはり木の枝が数本差されていた。
 いわゆる出歯亀スタイルである。
 (身を隠して下され、聞殿)
 星に裾を引かれて、渋々身を隠すシンジ。その眼前で、愛紗と翠が無言で指を差す。その先にいたのは3人の人影。
 「こちらはどうですか?」
 「うわあ、美味しいですね」
 「にゃはははは。鈴々が味見をしたのだ!」
 そこには望を挟む様に鈴々と朱里が座り、一緒にお菓子を食べていたのである。
 (・・・えっと・・・アレって、そういう事ですか?)
 (左様)
 (だったら、猶更邪魔をするのは)
 (邪魔じゃねえ。見守っているだけだ!)
 拳を握りながら力説する翠に同調する愛紗。対するシンジは苦笑する事しか出来ない。
 (見守るも出歯亀も自由ですけど、邪魔をしちゃ可哀想ですよ?)
 (何を言われるか。我々には見守る義務がある。邪魔をするなど以ての外!)
 (女子の身としては、他人の色恋沙汰には興味がある物なのです。そういう点においては、聞侍従殿も中々に艶やかな噂話を聞いておりますがな?)
 董卓殿、賈詡殿、叶殿、それから、と指折り列挙していく星。
 (ところで、既に食べられたのですかな?3年振りの再会だったのでしょう?)
 (被告人は黙秘を貫かせて頂きます)
 (なるほど。まあ当事者が合意の上なれば、問題は無いでしょうな)
 ニヤリと笑う星。傍で耳をそばだてていた愛紗と翠は、既に顔が真っ赤である。
 (ただし、もし彼女達を悲しませる様な事があれば、その時は覚悟をして貰いますぞ)
 (重々、肝に銘じておきます)
 (うむ、宜しい)
 満足そうに、グイッと酒を呷る星。そこへ翠がソッと囁く。
 (お、どこかへ移動するみたいだぞ?)
 (では、聞侍従。我々は失礼致します)
 (いずれ機会がありましたら、色々と話を聞かせて下され)
 気配を殺し、足音を忍ばせながら移動を開始する3人。それを見送ったシンジは、大きく深呼吸すると廊下へ戻った。
 「何と言うか、余裕があると言うのは良い事なんだろうけどなあ」
 先程の3人を思い出しつつ、再び廊下を歩きだす。そのまましばらく歩いていると、今度は口喧嘩しているような声が聞こえてきた。
 「何だ?」
 おもわずそちらへ足を向けるシンジ。そこにいたのは―
 「お兄さんの膝の上は、風の指定席なのですよ♪」
 「すぐに離れなさい!全身精液袋に妊娠させられるわよ!」
 「おお、それは望むところなのですよ~お兄さんが望むのであれば、風はいつでも構わないのですよ」
 椅子に座った一刀。その膝の上のチョコンと座っている風。そんな風の眼前で、顔を真っ赤にしながら力説する桂花。
 周囲には華琳を覗く曹魏の主要メンバーが取り巻き、今後の状況を見守っている。表情は人それぞれだが、共通する物が1つだけあった。
 ((((((風、うらやましい))))))
 魏の種馬、全身精液袋、天の御使い等、様々な呼ばれ方をされる一刀であるが、結局の所、人気が高いからこそ人が集まり、女性同士での恋のさや当ても起きる。
 そんな所で出くわしてしまったシンジにしてみれば、災難以外の何物でも無い。彼も実年齢は既に30代。他人の恋を邪魔する奴は~という有名な言葉が有るが、その辺りの空気は読めるぐらいに成長しているのである。
 だが、この世にはもう1つ有名な言葉が有る。
 溺れる者は藁をも掴む。間違いなく真実を現した言葉である。
 「た、助けてくれ!シンジ!」
 「そこで僕を呼ぶな!馬に蹴り殺される趣味は無いんだよ!」
 一斉に突き刺さった視線に、思わず一歩退くシンジ。シンジには邪魔する気など無いと悟った軍師3人は、すぐに不愉快そうな表情を元へ戻した。
 「ところで、仲達殿はどのようなご用件で?」
 「いや、急に休みになったから暇潰しを捜して彷徨ってただけだよ。女性の戦場に乱入するつもりはないので、好きなだけ功名を挙げて下さい」
 神速の2つ名を有する戦友と同様に、早い見切りからの撤退を選択する。同時に置き土産も忘れない。
 「ああ、そうそう。天の国には変わった風習がありまして」
 頭の上に?マークを浮かべる女性陣。
 「酔った上での行為であれば、それが犯罪でなければ大半の事は許されます」
 「仲達?一体何を」
 「凛ちゃん!桂花ちゃん!すぐにお酒を!」
 「「任せなさい!」」
 首を傾げる武人達を尻目に、シンジの真意に気付いた軍師3人が咄嗟に動き出す。
 「シンジ!てめえ!」
 「僕を引き込んだ罰だ。せいぜい赤い玉が出ないように祈るんだな」
 踵を返したシンジの背中に叩き付けられる罵声。途中、お酒を抱えた軍師2人と擦れ違いながら―1人はサムズアップをしていた―シンジはその場を後にした。
 
 その後、ぶらつき続けたシンジは厨房へと足を伸ばしていた。3年前の様に、月や詠、叶達の為に何か作ろうと思いついたからである。
 厨房にいた流琉に訳を話して材料を譲ってもらい、早速料理に取り掛かる。作るのは簡単なクッキー。だが良い香りに引き攣られたかのように、厨房に人が集まり始める。
 「聞侍従も御菓子を作られるんですね」
 「・・・良い香り・・・」
 「恋殿にも分けるですよ!」
 「なあなあシンジ。酒の肴に分けてくれへんか?」
 「霞。どう考えても甘い香りだぞ?酒には合わないんじゃないか?」
 「うっわあ、良い香り!私にも分けて!あとお母さんの分も!」
 「うんうん、私にも宜しくね~」
 いつのまにやら香りに惹かれた女性陣がワラワラと姿を見せる。恋や霞はすでに椅子に座り、食べる準備は万端。一方、璃々と蒲公英はシンジの背後から肩越しに覗きこむ様に、調理の様子を興味深そうに眺めていた。
 逆に冷静なのは雛里と音々音、意外な事に雅である。
 「ううん、男が料理と言うか、お菓子を作るのってそんなにおかしいかな?」
 「まあ、珍しい光景だとは思うぞ?まあ料理など作った事も無い私が言える義理では無いが」
 「確かに珍しいと言われれば、否定は出来ないよなあ」
 焼きあがったクッキーをお皿へ盛る。既に食べる準備万端の2人分を渡すと、配達用に確保した分以外をまとめて女性陣へと渡した。
 「はい、どうぞ」
 「む、シンジはどこへ?」
 「お裾分けに入って来るよ」
 「「「手伝う!」」」
 咄嗟にクッキーから離れ、シンジの後に続く雛里、蒲公英、流琉の3人。3人の心の内を悟った他の者達は『頑張れ~』とわざとらしく手を振ってみせる。
 最初に向かったのは執務室。現在の洛陽は、4名の王を中心とした連合政権の支配下にある。その為、常に誰か1人は執務室にいるのである。
 軽くノックして中へと入る―言うまでもないが見張りは顔パスである―シンジ。丁度、中では月、詠、桃香、華琳が事務処理の真っ最中であり、それを補佐するように叶の姿もあった。
 「ご苦労様です。甘い物を作ってきました。一息つかれてはいかがですか?」
 「シンジの御菓子!?すっごい久しぶり!」
 「はいはい、ちょっと待っててね。今、お茶を用意するから」
 鼻腔を擽る香りに、つい手を止めてしまう少女達。それでも甘い物の誘惑と、長時間労働の疲労には参ったのか、素直に小休止に入った。
 「考えてみれば、貴方の作った料理を食べるのは初めてね」
 「あの時は事故が起きましたからね。はい、どうぞ」
 「・・・うん、美味しいわね」
 「本当に美味しい・・・朱里ちゃんや雛里ちゃんと同じぐらい美味しいよ」
 素直にクッキーの出来を褒める華琳と桃香。3年ぶりにシンジの手料理を口にした少女達も、久しぶりの甘味に歓声を上げる。
 そんな中、桃香がふと気づいたように口を開いた。
 「そういえば、華琳さんのお傍に誰もいないと言うのも珍しい光景ですね。何かあったのですか?」
 「言われてみれば・・・桂花や風、凛はどうしたのかしら?」
 「彼女達でしたら、今頃、一刀と子作りの真っ最中かと」
 ブフウッとお茶を噴き出す華琳と詠と桃香。月と叶は顔を真っ赤に染めながら激しく咳き込み、雛里と流琉は顔を俯け、蒲公英はニヤアと笑いながら口元を隠している。
 「ど、どういう事かしら?」
 「文字通りの意味ですけど。要は、誰が一刀の寵愛を受けるのか?その点で女の争いが勃発しまして、文字通り曹魏の将軍・軍師達による一刀争奪戦が起こりまして」
 『今頃、一刀の部屋は後宮同然ですかね』と更に爆弾を落とすシンジ。
 「わ、私には何の関係も無い事ね」
 平然を装いながら、お茶に再度口を着ける華琳。だが机の下から覗いている足が、小刻みに震えている事に全員が目敏く気づく。
 「ただこの時期に、曹魏の上層部が妊娠してしまうと、さすがに問題はあるかもしれません。しかしながら、女の戦場に立ち入るのは心苦しくあります。さて、どうした物やら」
 「・・・いいわ。私が直接行くから」
 何故か絶を手に執務室から立ち去る華琳。その後ろ姿に『やっぱり意地張ってただけか』と生温かい視線が注がれる。
 そんな覇王を見送った後、シンジは残された少女達と歓談していたのだが、しばらくして遠くから悲鳴と思しき絶叫が聞こえてきた。
 「・・・殺られたかな?それとも犯られたかな?」
 「どっちの表現も危険だから止めなさいよ」
 「はいはい」
 湯気の立つお茶を啜りながら、反省の言葉を口にするシンジ。その後ろでは、雛里と流琉が『あわわ』と顔を赤く染めながらオロオロとしている。
 そんな雛里達を見ていた蒲公英だったが、何か思いついたのか口元を隠しつつ、ニヤリと笑いながら口を開いた。
 「ねえねえ、シンジ。ちょっと聞きたい事があるんだけどなあ」
 「蒲公英?」
 「あのさ、ぶっちゃけた話、この部屋のいる人の中で、誰を食べちゃったの?」
 ブフウッとお茶を噴き出す詠。語るに落ちるとはこの事である。
 「そうだなあ。本人の名誉もあるから、詠以外は教えられないな」
 「ちょっと待て!何でボクだけ!?」
 「だってバレバレだもん。そこまで露骨に動揺されたら誤魔化しようがないでしょう」
 羞恥心から激昂する詠という珍しい光景に、付き合いの長い月がクスクスと笑う。
 「詠ちゃんって、頭良いけど本当は」
 「月、それ以上言わないでええええ!」
 慌てて親友の口を塞ごうと、机の上に身を乗り出す詠。その光景に周囲から笑いが零れ落ちる。
 「もう1つ質問して良い?」
 「何かな?」
 「シンジは何人もの女性と関係持っちゃってる訳だよね?」
 「・・・まあ、そうだねえ。今更隠すような事でもないけど」
 「なるほどなるほど。じゃあさ、蒲公英も参加して良いかな?」
 小首を傾げた、涼州の小悪魔こと蒲公英の爆弾発言に、今度は叶と月が、詠と一緒に激しく咳き込む。
 「実はさ。鋼様―馬騰様から私か翠お姉ちゃんのどっちかで良いから、シンジの子供作って来いって、手紙が送られてきたの」
 「・・・馬騰将軍から?」
 「そう。前からシンジを婿に迎えようと考えていたみたいなんだけど、シンジは死んじゃったって聞いたから断念してたみたいなの。でも、シンジが生きてるって分かったから考え直したみたいで、子種だけでも貰って来いって書かれていたの。シンジの子供なら、頭の回転早そうだから、将来が期待出来そうだって」
 ヒラヒラと手紙をアピールする蒲公英。
 「・・・それって翠さんも?」
 「お姉様は知らないよ。だってライバル増やしたくないし」
 シーンと静まり返る執務室。
 「そういう訳なんだけど、どうかな?」
 「さすがにそういう理由はなあ・・・僕としては自由恋愛の結果として関係を持つならともかく、政略結婚というか種馬扱いはちょっとなあ」
 「自由恋愛なら良いんだ。じゃあ、蒲公英もそれで良いよ」
 あっけらかんと断言する蒲公英。同時に絶叫が響く。
 「「「「「ダメえええええええ!」」」」」
 「む?じゃあさ、雛里と典韋ちゃん、蒲公英の味方してよ」
 「うえ!?」
 「あわわわわ!?」
 「2人だってシンジの事、嫌いじゃないでしょ?寧ろ、好きだと思うし。向こうは洛陽3人組。ここにはいないけど、孫呉だってシンジを好きな人いるって知ってる?王様の孫権様とか、未来の軍師呂蒙ちゃんと密偵の周泰ちゃん。あとは袁術ちゃんもいるよね?分かるかな、蒲公英達はかなり出遅れちゃってるんだよ?」
 言葉が出てこない雛里と流琉。無言のまま互いに視線を交差させ―やはり無言のままガシッと握手する。
 「「蜀魏涼州連合軍の結成です!」」
 「だああああああ!ダメに決まってんでしょ!これ以上、ライバル増やされて堪るか!」
 バンッと机を叩きながら、怒りの形相で立ち上がる詠。
 「月も何か言ってあげてよ!」
 「そうねえ・・・じゃあ私達3人の翌日は、蒲公英さん達3人と言うのはどうかしら?」
 「月!?」
 小首を傾げる親友を前に、愕然とする詠と激しく咽る桃香。その視線の先では、蒲公英が親指を立ててサムズアップをしていた。
 「叶!貴女も何か言ってあげてよ!さっきからずっと黙って」
 詠が振り向いた先。そこには―
 「シンジ、お昼一緒にどうかな?」
 「叶えええええええ!」
 これ幸いと、チャッカリ抜け駆けを図る、逞しく成長した叶の姿があった。

 執務室でのドタバタ騒ぎから抜け出した後、シンジは再び散策に戻った。最初は暇潰しがてら『どう過ごそうか?』と考えていたのだが、いつのまにか『もう宮廷散策でいいや。お昼近いし』と状況に流されるように、その目的は変わってしまっていた。
 そんな所に聞こえてくる声。そちらへ何となしに足を向けると―
 「と言う訳で、蓮華様にはこちらの服が似合うと思うのです」
 「ちょっと穏。胸がブカブカしすぎじゃない?これ」
 「そこは彼に押えて貰えば良いじゃない、蓮華」
 「お姉様!それじゃあ私ただの恥ずかしい女じゃないの!私は痴女か色狂いか!?」
 「髪飾りを御持ち致しました、蓮華様」
 「女官の間で流行りだと言う香水もありますよ」
 場所は雪蓮が借りている部屋。かなりの広さのある居室は、今は急遽、蓮華を題材としたドレスアップ会場へと変じていた。
 と言うのも、蓮華と仲達―シンジを本格的にくっつけてしまえ、という雪蓮による命令が下ったからである。
 『蓮華は出遅れているわ。だからこそ、この機会を逃す事無く、アイツを射とめてしまうべきだと思う訳』
 雪蓮の言は、誰もが頷くに足りる言葉であった。仲達―正体が皇帝陛下侍従聞シンジであった事は言うまでも無いが―伝説の大軍師2人に教えを受けたと言う事実が、更なる拍車をかけていたのである。
 ハッキリ言ってしまえば、想像以上の優良物件。
 曹魏に降りた天の御使いの血を孫呉に取り込む事も魅力的だが、シンジの血を取り込む事は彼女にとって同等以上の価値があった。
 ちなみに亞莎と明命は、このドレスアップ会場には呼ばれていない。雪蓮の姉としての感情が動いた事も理由の1つだが、この2人とくっついた場合は結果として孫呉に血を取り込む事が出来るから、という打算的な理由もあるからである。
 「しかし、どこか物足りない気がするんですよねえ・・・やはり切り札を切るべきでしょうか」
 「切り札?」
 「はい!蓮華様の魅力!それはお尻です!ですから」
 「却下!」
 (・・・何をやってるんだ・・・)
 気配に聡い思春に視線で『覗いたら殺す』と警告された事に気付いたシンジは、ソッと足音を忍ばせながらその場を立ち去った。

仲良し2人組SIDE―
 「ね、ねえ?これ、どうかなあ?」
 「う、うん。可愛くて良いと思うよ。ところで私のこれだけど、ど、どうかな?」
 孫呉の仲良し2人組―明命と亞莎は、お互いに協力して事に当たる事にした。主である蓮華には、雪蓮を中心とした大半のメンバーが協力体制にある。しかしながら2人に対する協力の度合いは、蓮華のそれと比較すると幾分かは落ちてしまう。
 そこで2人は同盟を組む事にしたのであった。
 その第一歩が、襄陽にある服屋を訊ねて、可愛らしい服を見繕う事だったのである。
 だが―
 「はうあ!?」
 「明命!?どうしたのですか!?」
 「ここここここ、これはあああああ!私、これにしますうううう!」
 ギュウッと抱きしめたのは、モフモフとしていそうな、猫の着ぐるみであった。
 「この愛らしさ!絶対に仲達さんといえども一撃で陥落確定です!」
 「待って待って!陥落してるのは明命だよ!お願いだから正気に戻って!」
 「亞莎ちゃん!?お猫様の可愛らしさが理解出来ないのですか!?それはいけません!ですから亞莎ちゃんも!」
 「明命、正気に戻って!」
 そして―
 「仲達様♪」
 「ん?明命か、どうした・・・」
 蓮華の部屋の近くでUターンした後、あてどなく彷徨っていたシンジは、聞き覚えのある声に振り向き―絶句した。
 目の前にいるのはモコモコとした、肌触りの良さそうな物体―猫。ただしその口元から覗いているのは、満面の笑みを浮かべる明命と、羞恥心から顔を赤らめている亞莎であった。
 「どうですか!この可愛らしいお猫様は!」
 無言で近寄るシンジ。そのまま2人を抱きよせ―
 モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ
 「ちちちちちちち仲達様!?」
 「ああ、この手触り・・・癒されるなあ・・・」
 明命猫と亞莎猫の触り心地に陥落するシンジ。抱き締められている2人は顔を真っ赤に染めて、目を丸くする。
 その異様な光景―190cmを超える黒装束の男が、猫の着ぐるみを纏った少女2人を抱き締め、だらしなく眼尻を下げている―を目撃した者達は、互いに囁きながら足早に立ち去ってしまう。それに気付いた明命と亞莎は制止しようと試みるが、すっかり着ぐるみに魅了されてしまったシンジから逃げ出す事も出来ない。
 「ああああああああ!?これでは作戦成功し過ぎですよおおおお!?」
 「どどどどどど、どうすれば良いのよ、明命!?」
 「頭脳労働は亞莎ちゃんのお仕事だよおおおおおお!?」
 そこへ女官経由で事の次第を聞きつけた一行が、ドタドタと走りながら姿を見せる。その先頭に立っているのは、美尻王こと蓮華である。
 「ちゅちゅちゅちゅ仲達!?」
 「うっわあ、やるじゃない2人とも。昼間っから見せつけてくれるわねえ」
 とっくりからお酒をラッパ飲みしながら、雪蓮がニヤリと笑う。その横では冥琳が『まさか仲達が可愛いもの好きだったとは』と毒気を抜かれた様に唖然としていた。
 「でも、これじゃあ拙いわね。このままだと仲達、あの2人に持ってかれるかも」
 「お、お姉様!?」
 「大丈夫!こんなこともあろうかと、曹魏の天の御使いに相談して用意しておいた物が有るんだから!これよ!」
 バッと突き出したのは2つの衣装。
 1つは虎柄のビキニに、小さな角。もう1つは胸に『れんふぁ』と書かれた紺色のスクール水着である。
 「天の御使いによれば、こっちは喋る時に『~だっちゃ』と着けるのが礼儀だそうよ。それからこっちはわざと1回り小さく作る事で、体型を際立たせて籠絡し易くしてあるそうよ」
 「い、いやです!どっち選んでも人間として越えてはいけない一線を越えてしまうような気がします!」
 「思春!祭!蓮華を捉えなさい!何としてでも仲達を振り向かせるわよ!」
 「・・・ご無礼、お許しください蓮華様」
 「すまんのう。策殿の我儘は今に始まった事ではないからのう。仲達めに責任は取らせる故、我慢して下され」
 「いいいいいいいやあああああああああああ!」
 衆人環視の中で部下2人に衣服を剥ぎとられていく王様。一方、ひたすらモフモフし続けるシンジ。そんな不思議な光景を、穏がニコニコ笑いながら眺めていた。

 「・・・仲達。一体、何があったのじゃ?」
 シンジが休日と聞きつけた美羽は、いつも通り七乃と暇そうにしていた白蓮を連れてシンジの部屋へと足を伸ばしていた。
 そんな彼女が見たのは奇妙な物体である。最初に目についたのは、シンジのベッドの中で、額に濡れタオルを乗せて寝息を立てている明命と亞莎である。ただその顔は、誰が見ても至福の夢を見ているのだろうと思える程に、だらしなく崩れきっていた。
 次に目についたのは、少し離れた所にいる布団の塊。ただし隙間から、強い視線が外へと向けられている。その正体は孫呉の王である蓮華。姉達の策謀の結果、遂にブチ切れた彼女はシンジの部屋に閉じ籠って籠城戦を展開してしまったのである。
 「いや、つい迸る熱いパトスを押えきれなかったと言うか、若さ故の過ちと言うか、とにかく色々な事が有ったんだよ」
 「仲達さん?その良い訳だと、腰を動かし過ぎた様に聞こえますよ?」
 「ごめんなさい。ちょっと過剰表現し過ぎました。実はあれが原因で」
 部屋の隅へ放り出されていた猫の着ぐるみを指差すシンジ。
 「ついモフモフしてしまって」
 「それで『聞侍従が壊れた』なんて噂が立っていたんですね」
 「・・・別にいいじゃないか、可愛いのが好きでも」
 フカフカしたのをモフモフして何が悪いんだよ、とボソッと呟くシンジ。そんなシンジに『ギロッ』という擬音とともに蓮華の視線が注がれる。
 「可愛い物好きという事は、美羽様も標的になっちゃいますねえ?」
 「なんと!シンジは妾の事をモフモフしたいのかや?」
 「お前らなあ」
 はあっと溜息を吐いてみせる苦労人白蓮である。
 「あら?白蓮さんだって十分可愛らしいですわよ?」
 「な、何言ってんだよ」
 「そうじゃのう、白蓮は可愛いと妾も思うぞ?」
 わざとらしく白蓮の背後へ回ろうとする七乃。背後を取らせまいとジリジリと後ずさる白蓮。そして七乃の動きに合わせて、反対方向から白蓮の背後へ回ろうとする美羽。
 次の瞬間、白蓮の絶叫とともに2対の両手が白蓮の胸部に伸びていた。
 そんな喧騒を余所に、窓の外へと目を向けるシンジ。赤い夕陽が静かにその顔を照らす。
 脳裏に過ぎたのは、かつて見た光景―シャムシエル撃破後に、ミサトに案内された光景。あの時、自分が言われた事を思い出し、クスッと笑う。
 「シンジ?」
 「ああ、そろそろ夕御飯の時間かなと思ってね。2人を起こしてあげないとな」
 布団から顔だけ出した蓮華に微笑むと、シンジは未だに眠り続けている2人を起こそうと椅子から立ち上がった。



To be continued...
(2015.11.07 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は前回の後書きで予定していた物を変えて、番外編にしてみました。
 最終決戦前の最後の息抜きとして、色々と馬鹿をやってみましたw笑って流して下されば幸いです。
 話は変わって次回ですが、最終決戦前の前哨戦みたいな話になります。
 于吉達の目的を調べる為に、シンジ達は情報を集める。その結果、シンジは一刀とともに始皇帝の墳墓へと足を伸ばす事に。
 そんなシンジ達を待ち受けていたのは『神話』の世界の住人だった。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで