※時間軸としては、サハクイエルとイロウルの間になります。
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presented by 紫雲様
NERVチルドレン専用控え室―
「あー、疲れたあ・・・何でアタシだけ、こんなに遅くなるのよ・・・」
一人しかいない控え室で、ぼやいたのはアスカである。時刻はすでに夜の12時を回っており、日付も変わってしまっている。
何故、アスカだけ居残りなのか?
それは弐号機用のF型装備開発の為、急遽、必要なデータ取りが行われたからである。
『新装備、欲しくないなら別にいいけど。でも、初号機のお下がりのマステマだけで、アスカは満足なの?』
リツコの言葉を聞いた時、ムッとしたアスカ。マステマは初号機のF型装備と同時期に開発された、白兵・射撃・広範囲殲滅と3種類に対応した武装である。もともとマステマ自体、どんなエヴァでも使える装備であるため、使徒の能力を利用できる初号機にしてみれば、敢えて必要な装備とは言えなかった。
「ああ、言われちゃ、腹が立つわよねえ・・・まあシンジが使った装備なら、別に使ってあげても良いんだけどさ・・・」
一人になっても、なかなか素直にはなれないアスカである。
『アスカ、着替えは終わったかしら?』
「ごめん、あともうちょっと。それより、帰りはどうすればいいの?終電過ぎちゃってるわよ」
『それなら大丈夫。先輩から、アスカの宿泊手続きを取っておくように言われていたから。いつもの宿泊部屋を使ってくれていいわ』
発令所からのマヤの通信に、アスカが『ダンケ!』と気軽に返す。
「それより、リツコはどうしたの?」
『先輩だったら、ちゃんと夕方5時には定時上がりしているわよ。私が先輩の代理兼、データ収集責任者、ってわけ』
「・・・マヤ、アンタも良いように使われているわね」
着替えを終え、荷物を手早くまとめるアスカ。
『アスカ、朝はゆっくり眠ってくれていて構わないわ。学校にも連絡はいれておくし、必要なデータも全て取り終わったからね』
「そうね、お言葉に甘えさせていただくわ」
そのまま宿泊部屋に移動するアスカ。
疲れ果てたアスカは、ある事に気づく事もなく、夢の世界へと落ちて行った。
時間は少し遡り、遠野宅―
「・・・これで・・・良いの?」
「バッチリです!完璧です!勝利は我にあり!って感じですよ!」
夜中だと言うのに、妙にハイテンションな琥珀である。彼女の前には、レイが立っていた。
「・・・お弁当・・・食べてくれるかな・・・」
「大丈夫です!私が保証しますよ!」
レイは琥珀の指導のもと、手作り弁当の深夜講習を受けていた。明るい内にやらなかったのは、琥珀が『シンジ君を驚かせちゃいましょう!』と言ったからである・
「・・・初めてのお弁当・・・」
彩り豊かな弁当を見つめると、レイは蓋をしめた。そして、弁当箱をキュッと抱きしめる。
「ありがとう・・・琥珀さん」
「いいのよ、将来の妹を手伝ってあげるのは、当然の事なんだから!」
ポッと頬を染めるレイ。その初々しさに、琥珀からも笑みが零れる。
「片づけは私がしておきますから、レイちゃんはお風呂に入って寝なさい」
「でも・・・」
「レイちゃん、明日は決戦の日なのよ?睡眠不足で勝機を逃したら、一生、後悔するわよ?」
その言葉を、真剣に検討するレイ。レイは一般常識こそ欠けているが、軍事知識については、それなりの知識を得ている。だからこそ『勝機を逃す』という言葉には、説得力を感じていた。
「分かったわ。琥珀さんの言うとおりにする・・・」
お風呂に入るべく、レイが台所を後にする。同時に台所の鳩時計が、夜の12時を報せた。
そのため、レイは気付かなかった。
琥珀の瞳が、怪しくキュピーンッと煌いた事に。
翌朝―
「おはよー・・・」
珍しく、寝ぼけ眼をこすりながら、シンジが起きてきた。洗面所で顔を洗い、身支度を整えていく。
やがて食事を摂ろうと台所へ入って、彼は気がついた。
普段なら、琥珀お手製の朝食が並んでいるはずなのに、肝心の食事が見当たらないのである。
おまけに食事はおろか、琥珀さえも室内にいなかった。
部屋中探してみるが、シンジ以外、誰もいない。レイすらもいなかった。
「・・・みんな、どこ行ったんだろう、琥珀お姉ちゃんと一緒に、どっか行ったのかな?まあ、護衛もいるし、大丈夫だとは思うけど」
とりあえず朝食を用意するべく、料理に取り掛かる。
スクランブルエッグと野菜ジュース、それからトーストという簡素なメニュー。
「早く食べて学校行かないとね」
シンジは気付いていなかった。今日が何を意味する日なのかを。
市立第1中学校―
「・・・その頃、私は根府川に・・・」
老教師の言葉に、シンジが大きな欠伸をする。
(・・・眠いなあ・・・)
うつらうつらと船を漕ぎだすシンジ。というのも、常に彼に注がれる、2人の少女の視線が、今日に限っては無いからである。いつもなら少女の視線に挟まれる緊張感で、眠るどころの騒ぎではない。
「見つけた!シンジ!」
突然の言葉に、眠気が飛ぶ。
「み、都古さん!?」
突然の乱入者に、クラス中がざわめく。教室の出入り口に立っていたのは、セーラー服に身を包んだ、快活な雰囲気の少女である。
すでに会ったことのあるトウジ・ケンスケ・ヒカリの3人は『何で都古さんが?』と首を傾げるが、初めて目にした他の生徒達は、実に様々な反応である。
シンジとの関係を邪推するもの。少しだけ年上の美少女に、ポーっと見惚れるもの。『お姉さんは誰ですかー?』と質問を飛ばすもの。実に様々である。
「シンジ!何で呑気に授業なんて受けてるのよ!」
「は!?別に今日はシンクロテストも何も、予定なんて無い筈だよ」
さっぱり心当たりのないシンジを、ズカズカと近寄ってきた都古が小脇に抱え込む。
そのまま黒板まで移動すると、力任せにシンジの包帯をグイッとずらす。
「ここに書いてある文字を読みなさい」
「・・・13日(金)日直当番・・・え?」
「やっと気付いた訳?シンジ、こっち来てから平和ボケしたんじゃないの?」
エヴァに乗り、使徒との命がけの戦いを潜り抜け、何度も死にかけた少年相手に『平和ボケしたんじゃないの?』と非難する都古の姿に、トウジがシンジを弁護するべく勢いよく立ちあがった。
「みや」
「都古さん、平和ボケは否定できないけど、それは言いすぎだよ。そりゃ、こっち来てからシエルお姉ちゃんと3日に一度ぐらいしか訓練してないけど・・・」
「ダメよ、三崎町では、毎日朝晩2回やってたでしょ。死にかけたって琥珀さんと翡翠さんがいるから安心だったし」
平和ボケの基準ラインが、一般常識とはかけ離れた高さにある事に気づいたトウジが、無言で着席する。
「まあ、いいわ。それより、やる事は分かっているわね?」
「うん、分ったよ。先生、急用が出来たので、早退します」
そのまま踵を返して、教室の外へと駆け出す2人を、生徒達は茫然と見送っていた。
発令所―
「状況は!?」
突然の非常呼集を受けた日向が、発令所へ駆け込んできた。
「今から10分前、第3新東京市市街にATフィールドの発生を確認。その後、フィールドはゆっくりと移動中。しかしMAGIは使徒であるかどうか判断を保留」
「その理由は?」
「それが・・・」
モニターの一部が切り替わる。そこには―
『女の勘よ』
正面モニターに表示された文字に絶句する日向。そんな日向に、マヤが報告をいれる。
「ウィルスかバグかと思って先輩に連絡を入れたのに、返事がないんです」
「何だって!赤城博士の現在位置も分らないのか?」
「はい。完全に信号ロストしています」
そこへ電話が入る。ナンバーディスプレイに表示された名前は遠野シンジ。
『もしもし、本部ですか?』
「シンジ君か!」
『そちらで、何かおかしな事が起きていませんか?』
直球ど真ん中な質問に『ああ』と頷くしかない日向である。
『心当たりがあります!今、都古さんと一緒に、本部へ向かっているところです!臨時で都古さんに本部への入構許可証の発行をお願いします!』
「何か知っているのかい?」
『今日は13日の金曜日!琥珀お姉ちゃんが姿を消しているんです!』
オペレーター達の脳裏をよぎる、悪夢。たった一人で本部を制圧し損ねた(誤字ではない)、割烹着の美女による襲撃―
『それより、レイとアスカをエヴァに待機させてください!』
「ああ、分かった」
と言おうとした日向は、モニターに映った光景に、凍りついていた。
モニターには、二つの人影が映っていた。
一人は割烹着の美女、琥珀。もう一人は蒼銀の髪の少女である。だがその少女は―
「・・・メイド服?」
モニターに映った綾波レイは、メイド服を着て街中を歩いていた。
第3新東京市市街地―
「ふっふっふ、楽しみですね」
にこやかな笑顔の裏で、物騒極まりない事を考えている琥珀と、その琥珀にメイド服を着るように言われたレイは、人通りの激しい市街地を闊歩していた。
ちなみにレイは片目に医療用眼帯をつけている。
普段、人目など全く気にしないレイだが、今日だけは例外らしく、どこか恥しそうに顔を赤らめている。
「あの・・・琥珀さん?」
「心配いりません。レイちゃんには、必ずシンジ君への想いを成就させてあげます。その為の切り札―メイド服型パワードスーツ『呂蒙』なんですから」
シンジがメイド服マニアと誤解されそうなセリフである。
「そう!全ては私の為に!」
(・・・私の事はどうでもいいの?)
レイの心の突っ込みに気づくこともなく、グッと拳を握り締める琥珀。彼女を遮る者は、どこにもいない―筈であった。
「そうはさせないわよ!」
「何奴!」
琥珀の前に立ちはだかったのは、金髪に白衣の美女―リツコである。
「来ましたね、赤木博士。ですが、私には勝てませんよ?」
「甘いわね。私は科学者よ?自らの頭脳によって勝負するのが、科学者の戦い方」
白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、仁王立ちのリツコのセリフに、周囲の観客達が拍手を送る。
「面白いですね。それなら、貴女の作品を見せていただきます」
「ふ。ならば、見せてあげるわ!来なさい、我が最初にして最高傑作!猫型機動兵器『レン』よ!」
リツコが叫ぶと同時に、大地が揺れ始める。その揺れは徐々に大きくなり、観客達が地面に伏して、必死に揺れに耐えようとする。
やがて揺れが最高潮に達した頃、それは姿を現した。
アスファルトの道路が、きれいに音もなく、真っ二つに裂ける。その中から姿を現したのは―
「・・・無様ね、アスカ」
「見るなあ!」
両手で胸と股間を隠すように出てきたのは、アスカであった。何故、彼女がそんな事をしているのかというと―
「これが我が研究の成果!猫を参考に作り上げたレンよ!」
アスカの体を覆っているのは、黒一色のビキニであった。両手両足も漆黒の部位装備に包まれ、頭部には猫耳と思しき漆黒の物体が載り、お尻には漆黒の尻尾、首には鈴、両手両足には肉球完備というこだわりようである。
全身を羞恥で赤く染めるアスカに、周囲からカメラのシャッター音が漏れだす。
「・・・やりますね。正直、貴女の事を甘く見ていました・・・」
「ふふ。御理解頂けたようで嬉しいわ。でも、貴女もなかなかやるわね」
互いの実力を認めあった者だけに生まれる共感を得た二人。
「でも、それだけではないのでしょう?」
「勿論です。外見だけ取り繕った所で、何の意味があるというのですか?」
ニヤリと笑う二人に、少女達の頬を冷汗が伝わり落ちる。
「・・・私、用事を思い出したので帰ります」
「ア、 アタシ学校行かなくちゃ」
踵を返そうとする少女達。だが、二人の美女は振り向く事もなく、同時に「カチッ」という音をたてた。
「・・・体が勝手に?」
「ちょ、ちょっとリツコ!アンタ、一体何したのよ!」
「「遠隔操縦システムに決まってるでしょ」」
少女達の顔が、見る見る青白く変化していく。
「ところで、琥珀さん。ただ戦うというのもつまらないわ。やはり、あらゆる面で競わせてこそ、意味があると思うのよ」
「同感です。となれば・・・」
「ええ。まずは、こちらから行かせていただきますわ」
クルッと振り向くリツコ。
「アスカ。まずはコタツの上で丸くなる猫を表現しなさい」
「ア、 アンタ馬鹿ア!・・・って、ちょ、ちょっとおおおおお!?」
強制的にリツコの指示通りに丸くなるアスカ。幸い、言語中枢までは支配されていないらしかった。
「次は私ですね。レイちゃん、スカートの両端を持って、お辞儀をしなさい」
「こ、琥珀さ・・・ええええ?」
ペコリと頭を下げるレイ。
第3新東京市の真昼の路上で、決戦の火ぶたが切って落とされた。
発令所―
美女二人と美少女二人による決戦―というより、公開羞恥プレイとしか表現できない事態に、大人達は頭を抱えていた。
確かに本部を壊されることを考えれば、被害が無いだけマシである。
だが―
『アスカ!右足をあげて毛繕いしなさい!』
『いやああああ!アタシを見ないでえええええ!』
『レイちゃん!私の指をしゃぶるんです』
『・・・うう・・・』
まさに真夏の夜の夢―というより真昼の悪夢だが―に、もはや呆然とするしかない。
「ど、どうしたら・・・」
「そうだ!冬月副司令は!」
「副司令は松代の国連本部へ出張中です!」
頭を抱え込む大人達。そこで何かを思いついた日向がポンと手を打った。
「シンジ君!今からデータを送る場所へ急行してくれ!そこに琥珀さんと赤木博士がいるんだよ!」
『どういうことですか!』
「すまない、僕達にも分らないんだ!」
『わ、分りました!とりあえず向かいます!』
まだ市街地を走っていたシンジ達が、急遽進路を変更。現場へと駆けていく。
彼らは気付かなかった。その決断が、悲劇を生む事に。
第3新東京市市街地―
真昼の決闘は、当初よりも、そのギャラリーの数を大幅に増やしていた。
携帯電話で知り合いから話を聞いた者、掲示板に書き込まれた情報を見た者、情報入手経路は様々である。
白衣の美女と割烹着の美女が火花を散らし、その足元で猫のコスプレ少女とメイド服のコスプレ少女が涙を流している光景は、確かに余所では見られない。
「だいぶ、ギャラリーが増えてきましたね」
「そうね。観客の数は十分と言ったところかしら」
((もう、お嫁にいけない・・・))
「「そろそろ戦闘能力で競いあいましょうか」」
そんな時だった。
「見つけた!何をしてるんですか!」
聞き覚えのある声に、美女はニヤリと笑いながら、美少女達は顔に絶望を張り付けたままゆっくりと振り向く。そこにいたのは、包帯を外していたシンジ―
「・・・え?」
「いやあああああ!」
「見ないで・・・」
とはいえ、シンジも今年14歳。健康的な中学2年生である。そんな彼が、間違いなく美少女と言っていい2人の艶姿に見蕩れたのを、責められるものはいないだろう。
「「ふっふっふ・・・さすがシンジ君、計算通りよ」」
その発言を止めるかのように、シンジの後ろから都古が勢いよく飛び出していく。標的は琥珀。
たちまち始まるセーラー服の美少女と、割烹着の美女との拳劇に、カメラのシャッター音が聞こえだす。
「琥珀さん!いい加減にしなさい!」
「こんな楽しい事、止めるわけには参りません!世界は全て、私のものなのですよ!」
都古の放った中段突きを紙一重でかわしつつ、裏拳でのカウンターを試みる琥珀。その一撃を肘打ちで相殺しながら、まるで根こそぎ刈り取るかのようなローキックで、琥珀の機動力を奪いにかかる都古。だが、琥珀はそれも紙一重でかわし、いったん後ろに飛びのいて、距離をとった。
「もう手遅れですよ。二人を見なさい」
レイの呂蒙と、アスカのレンが光を放ち始める。
「ちょ、ちょっと!?」
「・・・うう、怖い・・・」
「二人とも!アスカとレイに何をしたんですか!」
詰め寄るシンジ。
「教えてあげるわ。S2機関が稼働したのよ」
「さすが赤城博士。考えたのは私と同じでしたか」
「「そう。少女の羞恥心を動力源とした永久機関―S2機関!」」
マッド2人の宣告に、少女達の顔に絶望の色が浮かぶ。
「二人とも!それを脱ぐんだ!」
「できるか!この馬鹿シンジ!」
「・・・変態・・・」
少女達が断ったのは仕方ない事である。レイはまだしも、アスカに至っては、どう考えてもレンの下は裸である。
「仕方ない!こうなったら力づくで!」
本人としては大真面目なのだが、客観的にみれば鬼畜なセリフを口にしながら、シンジが走り出す。だが、突如生じたオレンジの壁が、シンジの行く手を遮った。
「ATフィールド!?」
突然の出来事に、唖然とするシンジ。
そこへ、リツコの冷静な言葉がかけられる。
「ATフィールドは心の壁。アスカとレイがシンジ君を拒絶するのをやめない限り、シンジ君は2人に近づくことはできないわ」
「アスカ!レイ!どうして僕を拒絶するんだよ!」
「当たり前でしょうが!」
「同感・・・」
顔を羞恥で赤く染めるアスカ。レイも珍しく、感情を露わにしている。
「さて、仲良しごっこはそれぐらいにしてもらおうかしら?」
「リツコさん?」
バサッと白衣を翻すリツコ。今の彼女を見れば、誰もが彼女のことを悪の科学者と信じて疑わないだろう。
「琥珀さん。こちらの準備は整いました。本番といきましょうか」
「ええ、いいですわよ」
都古の踵落としを両腕でブロックしながら、琥珀がニヤリと笑う。
「「ATフィールド、収束開始!」」
アスカとレイの右腕に、ATフィールドが収束。まるで拳を包み込むかのように、赤い光を放ち始める。
「リツコ!アンタ何するつもりよ!」
「そう・・・もう、駄目なのね・・・」
遠隔操縦システムにより、二人の少女が至近距離で向かい合う。その顔に浮かぶのは絶望の色。
「「互いの最大火力をもってしての力比べで雌雄を決するのよ!」」
事、ここに至って、ようやく危険性に気づいたらしいギャラリー達があわてて避難を開始する。だが―
「あら、貴重な観客を逃してなるものですか」
「そうそう、最後まで見ていってくださいね」
突如、周囲に現れる無数のメイド服の人影と、無数の猫の群れ。
「さあ、観客を足止めするのです!遠野家の財力を注ぎ込んで作り上げた、御町内制圧型愉快兵器、量産型メカ・レイちゃん!」
メイド服に身を包んでいるのは、蒼銀の髪に赤い両眼を持った機械少女である。その全身から、無数のミサイルと電撃が無差別にばらまかれ、哀れなギャラリー達を次々に犠牲にしていく。
「ふ、負けていられないわね。戦術プログラム起動開始!征きなさい、SEELEの予算を利用して作り上げた、量産型レンちゃん!」
漆黒の毛並みに包まれた猫達が、一斉に「にゃお〜ん」と鳴き声をあげる。すると、猫達の付近にいたギャラリー達が、同時にしゃがみ込んで猫達を可愛がり始めた。
「どうかしら?エヴァからの精神汚染データを利用した、精神洗脳攻撃は」
「鬼ですか!貴女は!」
シンジの突っ込みに、リツコが『それは褒め言葉として受け取っておくわ』と高笑いで返す。
「「さあ、時間よ!」」
「いやああああああ!」
「・・・私、泣いているの?・・・」
2人の美女による死刑宣告と同時に、ATフィールドに包まれた2つの拳が、少女達の絶望を乗せて撃ちだされる。
そして第3新東京市は光に包まれた。
「ふう。この年になって松代までの出張は堪えるな。やはり、もう一人補佐役が欲しい所だが」
自分の肩を叩きながら、冬月はプラットホームへ足を踏み入れた。本来なら専用車なのだが、今日は気分転換を兼ねて電車を利用していたのである。
「・・・何があった?・・・」
駅の校舎を出た冬月を迎えたのは、現代技術の粋を集めた迎撃都市―ではなく、まるで絨毯爆撃でもくらったかのような、廃墟であった。
呆然とする冬月だったが、何とか気力を奮って、NERV本部へと歩き出す。
やがて―
足下に見つけた複数の人影―白衣に金髪の女性、割烹着の女性、セーラー服の少女、学生服の少年、黒いビキニの少女、メイド服の少女―を見つけると、彼は大きなため息をついた。
「やれやれ、また恥をかかせおって」
遠野物語番外編3へ続く?
遠野物語番外編おまけ話(過去編。ショートストーリーです)
遠野家本宅―
「それで、先輩の目から見て、シンジはどうかな?」
「才能はありますね。教師役としては、教えがいのある生徒ですよ」
シンジが遠野家へ引き取られてから1年。シエルがシンジに戦闘指導を行うようになってから半年が経過した頃、遠野家ではシンジに関する家族会議が行われていた。
「ですが問題なのは心です。あの子の心に刻み込まれた父親に関するトラウマ。これをどうにかしなければ、あの子はいずれ潰れるでしょう」
シエルの言葉に頷く遠野家の面々。
「正直、暗示で記憶を封じる事も考えなかった訳ではありませんが・・・」
「それでは根本的な問題は残ったままですね」
「そうなのです。やはり自ら乗り越える必要があります」
シエルと秋葉の間で交わされる真剣な討論に、翡翠が口を挟む。
「シンジ君のトラウマですが、シンジ君は父親の事を怖がっているのですか?」
「いえ、それは違います。『父親に取って自分は不必要な存在なんだ』という思い込みが尾を引いているのです」
シエルの言葉に、琥珀がポンと手を叩いた。
「それなら、何とかなるかもしれません!シンジ君に父親を乗り越えて貰いましょう!」
「「「「・・・は?」」」」
「と言う訳で、これからシンジ君の心の治療を始めます」
琥珀の前には、猿轡を噛ませられ、椅子にロープで縛りつけられたシンジが、恐怖と困惑で表情を歪ませていた。
涙を浮かべている弟の姿に、春菜を抱かかえた秋葉が顔を引き攣らせている。
「・・・琥珀。貴女ねえ・・・」
「大丈夫ですよ。治療が終われば解放しますから」
「・・・そこはかとなく不安ですが、他に策も有りませんから・・・」
今回、琥珀の助手を務めるのはシエルである。彼女の役目は、琥珀の思考をシンジに転送することである。
「任せて下さい。シンジ君のトラウマ、この私が必ず克服させます!」
「・・・はあ・・・仕方ない、始めますか」
魔術でシンジを眠らせると、シエルは琥珀の思考の転送を開始した。
???―
「うわああああああああ!」
シンジは逃げていた。とにかく逃げていた。恥も外聞もなく逃げていた。
彼が逃げようとするのも無理は無い。なぜなら・・・・
「「「「「「「シンジ」」」」」」」
辺り一面を埋め尽くすほどに、髭を生やした強面の男―ゲンドウがシンジを追いかけているからである。無表情のまま「シンジ」と繰り返し続ける光景は、別の意味で新たなトラウマとなりそうであった。
必死に逃げるシンジ。それを無表情のままに追いかけ続けるゲンドウの群れ。
そのシンジの足が強制的に止められた。思わず顔を上げたシンジが、反射的に顔を強張らせる。
「おう、坊主。逃げても追いかけてくる時はどうすればいいと思う?」
そうシンジに問いかけてきたのは、強面の男だった。スキンヘッドに顔を縦横無尽に走る古傷。片目は漆黒の眼帯で覆われ、その身に纏うのは白の空手着。
「え?え?え?」
「こうするんだよ!」
そう言いながら、スキンヘッドの男は右拳を突き出した。空手の代名詞と呼べる正拳突き。
ゲンドウが1人吹き飛ぶ。だが男の動きは止まらない。
拳が蹴りが、次から次へとゲンドウを『破壊』していく。
「分かるか?敵は倒すものなんだ、よく覚えておけ」
破壊されていくゲンドウの姿に『次は自分か?』と誤解し始めるシンジ。そんなシンジの横に、今度は眼鏡をかけた、初老の男性が現れた。
眼鏡をかけた和装姿の男性は、理知的で、なおかつ温和な雰囲気を持っていた。だからこそ、シンジは咄嗟に助けを求めた。
「た、助けて下さい!」
「ほっほっほ」
好々爺の様な笑みを浮かべながら、老人は片手だけでゲンドウを投げた。背中から叩きつけられるゲンドウ。そこへ―
「ソイヤアッ!」
喉笛を踏み砕くような追撃が、ゲンドウの頚骨を木っ端微塵に粉砕する。
「先生、相変わらずですな」
「まだまだ若いもんには負けんわな」
そう返すと、老人は傍に近寄ってきた別のゲンドウへと歩み寄る。その手首を右手で掴むなり、強烈な背負い投げでゲンドウを大地に叩きつける。だが相手の両腕を完全に捕まえ、受け身を封じつつ頭部から落としたその背負い投げは、明らかに殺し技であった。
「そこの童、名は何と言うのかの?」
「と、遠野シンジです!」
「ほっほっほ、元気のよい童じゃ。折角だから、儂の投げ技を教えてやろうかの」
その言葉と同時に、脱兎のごとく逃げ出すシンジ。
(殺される!あの2人に殺される!捕まったら最後だ!)
目からは涙、鼻からは鼻水、口からは唾液を垂れ流しながら、必死で逃げるシンジ。もはや後ろを振り返る余裕も無く、目を血走らせながら全力で走り続ける。
そのシンジが、何の前触れも無く宙に浮かんだ。その違和感に、最初は足元を、次に周囲へ視線を向ける。
「元気のいい小僧じゃねえか」
振り返ったシンジが見たのは、30代後半ぐらいに見える男性であった。無造作に伸び放題の髪の毛は、まるで天然パーマのように縮れている。顔は自信と気力に満ち溢れ、黒い道着の下には、はちきれんばかりの筋肉が自己主張している。
「小僧。俺が戦いの本質って奴を見せてやる」
シンジの首根っこを左手で無造作につかみながら、男はゲンドウの群れへと突撃した。
男の右手と両足が、唸りを上げて激しく動く。その度に、ゲンドウが木っ端微塵に吹き飛んでいく。
「小僧、お前は幸せ者だぜ?俺の戦いを特等席で拝めるんだからな」
全身に返り血どころか、砕けた骨の破片やピンクの肉片すら浴びているシンジは、返事をするどころではない。恐怖感からガチガチと歯を鳴らし、顔はすっかり真っ青である。
そこへさきほどの2人が追いついてきた。
「おう、坊主。また良い所にいるじゃねえか」
「全く得難い経験じゃな」
「何だ、お前らもいたのか。ちょうどいい、こいつを持ってろ」
ポイッと投げられたシンジを、眼帯の男が受け止める。
「小僧。その目によく焼き付けておけよ?」
男はまるで威嚇するかのように、両手を大きく広げた。両足も肩幅より少し広めに開いている。
やがて男の背筋が盛り上がり始めた。そしてシンジの目の前で、頑丈な筈の道着が、音を立てて弾け飛ぶ。
盛り上がった背筋の形に、シンジは呟いた。
「お・・・鬼の貌・・・」
そして繰り広げられた虐殺劇に、シンジは意識を手放した。
椅子の上で、呻いているシンジ。先程から、ひたすら『助けて』と繰り返し呟いている。
そんな弟の姿に、秋葉が口を開いた。
「琥珀。そろそろ説明してくれないかしら?」
「ええ、良いですよ。今回の目的は、シンジ君の中にある『父親』という存在を完膚なきまでに粉砕する事で、父親への依存心を無くす事にあります」
その説明に、早くも肩を落とす一同。
「甘かったわ、何で私は琥珀を無条件に信用してしまったの・・・」
「秋葉様。まだ遅くはありません。今すぐ助けだしましょう。姉さんは地下の座敷牢へ閉じ込めておけば問題ありません」
「翡翠ちゃん酷い!私はシンジ君の為を思って行動したのに!」
ヨヨと泣き崩れる琥珀。だが騙される者は1人もいない。
「琥珀。素直に喋りなさい。貴女は具体的に何をした訳?」
「ですから、シンジ君の父親に対する依存心を無くしているだけですよ。ちなみにこれが参考資料です」
1冊の本を取り出す琥珀。タイトルは『グラップラ○刃牙』。
「・・・琥珀、貴女、どこでこれを?」
「槇久様の書斎です。何でも父と子の『肉体言語』による交流を描いた、前世紀末から続く最高傑作だと聞き及んでおります」
シーンとなる一同。シンジの呻き声だけが室内に響いていた。
その後、琥珀のショック療法から立ち直ったシンジは、見事に父親への過剰な依存心を克服していた。だが父親に対するコンプレックスは、別に無くなった訳ではなかった。正確には方向性が変わっただけである。
『父親?そんなの僕には必要ありません』
父親など無価値。
その考え方に、1人を除いた遠野家一同は、大きなため息を吐いたという。
Fin...?
(2010.10.09 初版)
(あとがき)
紫雲です。今回もお読みくださり、ありがとうございます。
久しぶりの番外編でしたが、主役の2人がアスカとレイを玩具にしつつ、我が物顔に暴れ回りました。最初のプロットではここまで考えてはいなかったんですが、書いているうちに勝手に・・・一騎当千とか、最初はクロスさせるつもりは無かったんですけどねw
ショートストーリーの過去編は、衝動的に書き上げてしまいました。最初は『遠野家編の1と2の間のミッシングリングにしよう』程度だったのですが、古本屋で刃牙を立ち読みしてしまったのが運のつき。刃牙世界の大人代表3人の登場となりました・・・教育者として適性があるとは思えませんけどねw
話は変わって次回ですが、アラエル戦とオリジナルの混合になります。初号機への恐怖心から、陰謀を企むSEELE。第3新東京市へ姿を現すアラエル。そして、ついに牙を剥くSEELE。そんな感じの内容になります。
それではまた次回もよろしくお願いいたします。
作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、または
まで