新世紀エヴァンゲリオン アストレイア

プロローグ

presented by 伸様


 太陽系アステロイドベルト、木星方向外縁。

その宙域には、大小1500程の人工物体が浮かんでいた。

 その人工物体、宇宙艦船と言った方が良いだろう。

その中でも、一際大きな艦船の指揮所、水上艦艇で言えば、艦橋と言って良い所だろう。特設の司令長官席に、少女が居た。

「最後の反攻が、こちらの本拠地狙いとわ」

ふーっ、と溜息を吐き呟く、腰まで伸びる銀髪とアンバーな瞳を持つ少女。

歳は13・4歳と言った所か?

 年齢不相応に、出るところは出、締まる所は締まっているプロポーション。体全体を形作る黄金比率。

 その瞳は人外の証し。

 嘗て、『神を創る』為の生贄とされ、人で無くなった事の証明。

 その身に纏う気は、輝く闇。

 王女の様な華麗な美少女の外見と裏腹に、その雰囲気は戦政両略に長けた女帝の様な峻烈さを醸し出す。

艦橋で大勢の司令部スタッフに囲まれ、一人年少ながら、その関係は女帝と家臣。

 

 

 

「参謀長、歓迎パーティの準備は?」

「お嬢、出来ています。ご命令を」

恭しく答える初老の男。

「(くすっ)TF1、作戦開始です」

銀の少女の静かな一言で、隷下1500隻の艦艇群は動き出した。

 

 

 

 

 

 会戦クライマックス。

 銀の少女の身を包むのは、空間に浮かぶウィンドウ。各種情報を知らせる為に幾つものウィンドウがボールの如く彼女を包み込む。

 銀の少女の身を彩るのは、『神を創る』為に投与されたナノマシーンの発光と、そのパターン。

その彩りは銀の少女が纏う気を、“女帝”から“全てを知り全てを裁く女神”へと変えさせる。

「お嬢、機械知性体のマザーを確認しました。情報、送ります」

「有難うございます、情報参謀。

 艦長。艦の指揮を一時預かります」

その口調は、あくまでも静。

「ハッ。総員、対Gシートに。艦内の慣性制御が効かなくなるぞっ」

そして、艦内コンディション・グリーン。

「総員、固定完了。You have control」

艦長の声を受けて、銀の少女は静かに宣言をする。

「I have control.

 瑞穂、征きます」
 
 一際、銀の少女は煌き、少女の周りだけ重力が無くなった様にファーッと銀の髪の毛が浮び舞う。

全長2500mの戦艦瑞穂を含む一群が動き出す。

 

 

 

 

 

 凱旋を果たした銀の少女は、京都の本宅に戻っていた。暫しの静養を取る為に。

その銀の少女を待っていたのは、二通の手紙。

「碇シンジ様、ですか(クク)」

宛名を見て、口の端が跳ね上がる。

「碇シンジは死んでいます。貴方達が殺したんでしょう?」

その言葉には、一切の感情は無い。

その手紙の差出人は、六分儀ゲンドウと六分儀ユイと書かれていた。

 

 家令が恭しく尋ねる。

「如何致しましょうか?シノ様」

 銀の少女の名前は、碇シノ。

 碇家現当主にして、グループ・関連企業を併せれば世界経済の5分の3を牛耳れる碇財団の総帥でもある。

「良いわ。偶には、この京都の本宅以外の日本を見てみるのも。

 (クスッ)要塞都市第三新東京市に行ってあげましょう。

 (クスクス)ちゃんと私本人から『貴方達は、私の親じゃ無い』って教えてあげましょう。

 (クスクスクス)それに、例の文書通りなら、神の御使いも来始める頃でしょうし。

 (クスクスクスクス)ゲンドウとユイ、そして臆病者等の組織の足掻きを見るのも、興にはなるでしょう」

その顔に浮かべる微笑は、邪。(クスクスクスクスクスクスクス・・・)

 

「それでは、シノ様。宿の方は、ホテルで宜しいでしょうか?」

「(くすっ)暫く居るかもしれませんね。マンション一棟を買い上げて下さい」

「判りました。シノ様が第三新東京市へ御出でになるまでには、準備万端整えておきます。

 誰を御付として連れて行かれますか?」

「(くすっ)楓と紅葉を連れて行きます」

「「マスター(主様)の御心のままに」」

シノと家令しか居ない部屋に、二人の少女らしい声が響いた。






To be continued...


(Postscript)

 この作品、私としては古い作品になります。劇場版ナデシコが公開された頃の作品です。
 当時、大手ゲーム会社でゲームデザイナーと汎用コンピューターのシステムアナリストを兼任していた頃に、ゲームのシナリオ等の練習用と息抜きに書いて、会社のサーバーで会社内のみで公開していた作品になります。
 この作品でのお題が劇場版ナデシコ風味のエヴァと言う事で、如何に劇場版ナデシコをクロスオーバーでなくエヴァ世界で取り込むかが課題と言えました。
 当時使っていたノートPCのHDDからバイナリーベースで作品(の欠片)がサルベージできましたので、テキストに変換して加筆したものです。
 最近、閉鎖した某HPのSS掲示板で掲載していましたものを、当HPで掲載させていただく事になりました。
 今後とも宜しくお願いします。

 因みに、題名のアストレイアとはギリシア神話に出てくる正義の女神の名前でアストレア、又はアストライア、アステリアーとも呼ばれる女神です。
 一説には乙女座は彼女を象った物とも言われています。

 さて、この女神様。如何にエヴァ世界を引っ掻き回すのか、尤も引っ掻き回す理由が私怨8割だったりしますが(笑)。神話世界でも神は無慈悲で我侭なだけですけどね。


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