ミサトの不正
経理部・給与課
「ま、また今月もですか?」
カウンターで話を聞いていた経理部の所員が怪訝そうにそう言った。
「だから、俺達は確り残業も夜勤もしていたのに、今月も、手当が無いどころか、残業も夜勤もした記録すら消されている奴がいるんだよ」
ココ数ヶ月、数人のネルフ所員達が給与明細を受け取った後、確認すると・・・
何故か、やったはずの残業が全て無くなり、更に、手当ても無いから確認してくれと言ってくるのだ。
「本当にしていたんですか」
応対していた経理部の所員が頑なにそう言った。
なぜなら、通常業務時間を始めとして、残業総時間や総夜勤時間を含む、所員達の総勤務時間の確認や、総支給給与金額などは、全てマギが管理、計算していて、それまで間違った事が無かったからである。
それに、経理部の所員達は、マギに任せっきりで、仕事を言えば、言われた時に、データを調べ、マギの行う単純計算の確認を見て、机に向かってボーっとするだけであり、だらけきった事なかれ主義者達であるし、一々そんな事を確認するのも面倒であるからだ。
某所の国家資格を持つ所員のように・・・
(数時間、盥回しをされ、結局、最初の部署に戻ってきて、交代したらしい他の所員が、直ぐ処理してくれた経験とは多分関係ない・・・かな?)
「事実だ!
今度こそ、調べろよ!」
しかし、代表格の男がシツコクそう怒鳴った。
事が自分達の給与の事なので、真剣なのである。
だが、その経理部の所員は迷惑そうな顔をしつつ・・・
「いい加減にしてください。
こちらには、チャンとこのように記録がですね・・・」
と、言いながら、マギの端末を操作し、怒鳴る男の勤務時間の記録を見せるが・・・
「じゃぁ、なに?
先月も、アレだけ働かせておいて、私達には残業や夜勤が一分も無かったって言う気?」
横から出てきた女性がそう言った。
事実、退職者がかなりでた為、ココ数ヶ月の間、目が回るほど忙しい。
故に、ここ最近、残業をしていない者は殆ど居ない。
使徒迎撃の任のある、ある意味、軍関係の基地である為、当然、夜勤は当たり前のようにあるのである。
「で、ですが、ほら、このように、マギの中にある職員がネルフに居た総合計時間、つまり、総業務時間にズレはありませんし、総残業時間や総夜勤時間だって」
「だから、そんな、いつでもコンピュータで改変できるような記録じゃなく、こっちの改変できないタイムカードに印字してある記録も見ろ!
提出したコピーじゃなく、俺達が保管していた現物だ!」
男が自分のタイムカードを見せた。
実はネルフの所員の勤務時間の記録は二種類ある。
本部の出入り等の記録でマギが自動で行う物と、本人達が自分でつける物だ。
当初、マギだけの管理が確り出来るかという実験で、確認をする為、所員達に、自分の業務時間の記録をタイムカードでとらせて、確認していたのである。
そして、完全にマギで管理が出来るようになった今も、やはり、自分達でも、勤務時間を確認が出来るようにと、殆どの所員達が続けているのである。
(因みに、チルドレンは色々あるのでつけていないらしい)
そして、本来、経理部・給与課とは、マギのデータとその記録のずれが大きくなっていないか等を確認し、間違いが無いように確認する為の課である。
しかし、結局、殆どマギの記録で間違いが無く、ズレも特に問題が無かった。
その為、それに慣れきった経理部・給与課は、所員達から、提出されているタイムカードによる記録のコピーを集めるものの・・・
本来しなければならないチェックをロクにしないで、適当にやっているのである。
「し、しかしですね、普通のコンピュータならいざ知らず、マギの記録を改変する事等・・・」
慌てて、経理部の所員は、マギは絶対であると言おうとするが・・・。
「言っておくが、コイツはその残業の時も、夜勤の時も、俺と一緒にペアを組んでいたが、確りついていたぞ!」
「え?」
しかし、証人まで出されて驚く。
「えぇ、私の方にはチャンと記録も、手当てもありました。
彼と一緒の整備部で、同じ班なので、殆ど就業時間だけじゃなく、残業時間とかも、夜勤も同じハズなんですが・・・」
その証人の所員がそう証明しながら、自分の明細とタイムカードを出した。
確かに、出勤退社に、一、二分のズレはあるものの、殆ど同じである。
「そ、そんな、馬鹿な・・・」
慌てて、その所員の勤務記録を出してみる。
だが、マギの記録では、片方は一切、残業をして無い事になっているのに、その所員のには、確りついているし、夜勤も確りやった事になっている。
「一緒に残業や夜勤をして、終わらせた仕事だって、幾つもあるんだ!」
叩き付ける様に、書類などを机にたたきつける。
「し、しかし・・・マギが管理してある数字は・・・」
経理部の所員は、ここ数年、ずっとマギの記録に頼りきり、本来、面倒でも、確認しなければならないのに、実はしていなかった事が、バレればかなり拙いので、そう言った。
(給料泥棒だしね)
「なんだと!
俺達は、キッチリ、夜遅くまで仕事をしているんだ。
それなのに、一緒に仕事をしている仲間の内、数人が、その残業の記録を消されて、無かった事にされ、夜間勤務の記録を通常勤務だった事に変えられているんだぞ。
おかしいじゃないか!」
しかし、代表格の男が怒鳴ってくる。
「大体、夜勤時間が無い所員がコレだけいるっているのが、そもそもおかしいんじゃないの?」
代表格の男の後から、顔を出した女性が、係りを疑いの目でみながら、そう言った。
「へ・・・」
よくよく考えれば、確かに、夜勤が一切無い所員は、月に数人くらいは出るかもしれないが、元々、持ち回りな為、こうも連続でやっていないような所員が出るような不公平があるはずが無い。
特にココ数ヶ月は、人員不足な為、半ば強制的にやらされる者もいるのだ。
「もしかして、貴方達がデータを弄くって、辻褄を」
別の女性も、信じられないといった顔でそう言った。
そこに居た全員が、疑いの目で、経理部の所員を睨む。
「そ、そんな事するハズ無いじゃないですか!」
してもいないハズの不正をやったように言われ、更に、疑いの目で睨まれ、焦った経理部の所員は、叫ぶように、そう言った。
「じゃぁ、何故、事実調査もせず、一方的に俺達の間違いと決め付け、取り合おうとしないんだ!」
「ココ数ヶ月、ズット同じような事が起きているのに!」
「だいたい、このタイムカードの機械だって、そっちの管轄でしょ!」
「俺らが弄れるはずが無いじゃないか!」
ある意味、単純な構造の機械である為、マギのシステムを殆ど使って無い代わりに、厳重に周りを固めてあり、時間などを弄るには特殊な鍵が無い限り、破壊しなければならず、そうなると、直ぐバレるハズである。
また、その鍵も、経理部が厳重に管理してあり、持ち出された記録も、鍵をつけてから、一切無く、機械の時間を弄られるはずも無い。
(因みに、一度、某作戦部長が壊した時、問題になり、より強化されているらしい)
その機械の正確な時間の調整は、マギが自動的に行っているので、弄ると、マギがチェックする時に、直ぐばれる。
ただし、よく開ける事になであろうインク口のみ、簡単になっている。
しかし、これは調整とは別の窓で、更に、鍵付きであり、月に一度でよいので、めったに開ける事は無い。
「そうよ! 怪しいわ!」
所員達は、ヒートアップしていく。
「やっぱり、こいつらが俺達の給与を掠め取ったんだ。
おい、警察や役所に訴えに行こうぜ!」
「あぁ、証拠も証人も、これだけあれば、経理部の誰かが、横領の辻褄合わせにやったって、査察がはいるだろうから、早いな」
「まったく、内部の恥を外に出さない為に、言いにきていたのに」
「これだけの不正があるんだ」
「最低でも、課長クラスのクビは切られるわね」
「部長だって、ただじゃすまないさ」
「ちょ、ちょっと!」
その一団の言葉に慌てる所員。
自分達が幾ら今回の件には無罪でも、そんな事をされたら、殆ど仕事をサボって、チェックをしていなかった事がバレ、大変な事になるからだ。
(良くて減棒、悪くて懲戒免職)
それに、面倒臭いからって、今まで相手にせず、ロクに報告もしなかった為、部長まで巻き込む結果となったら、何が無くとも・・・
「なんだ?」
「ですから、私達はそんなことやっていません!」
悲鳴をあげるようにその所員が言った。
「だったら、どう言う事か説明しろ!」
「そうじゃなきゃ、訴えるわ!」
「そんな、すぐには・・・先ず、調べないと・・・」
「じゃぁ、一週間だ」
「へ?」
「一週間以内に、事実を確認しろ!」
「そ、そんな・・・」
「俺達は、最初の訴えから、今まで我慢したんだ!
これ以上は待てん!
良いな!」
代表格の男がそう怒鳴り、経理部・給与課の所員達は反論できず、頷くだけだった。
一日目
「・・・ふむ、確かに、この問題を外部に出られたら、拙いね」
面倒臭そうに、経理部長がそう言った。
「えぇ、ですから、調査をさせてください」
因みに、訴えは、最近になって、激しくなったことにしている。
「経理部に何者かが潜入したとか、データを弄ったとか、そう言う事実は無いのかね?」
経理部長がそう言った。
「はい、経理部の端末を先ず調べましたが、特に弄った記録はありません」
「・・・とは言っても、事がマギのことですから・・・
相手が、我々より、上のパスだと」
相棒もそう言った。
「それに、事がマギの事ですし、我々もそんなに詳しくありませんので・・・」
「ふむ・・・じゃぁ、技術部に調べてもらったらどうかね?
私からと言う事で、協力を依頼していいよ・・・えっと書類は・・・」
部長はそう言って、引き出しから書類を出し、印鑑を捺す。
「はい、これで、大丈夫なハズだ。
即座に調べたまえ」
「「分りました!」」
給与課の2人はそう言って、出て行った。
第一技術部・・・
マギ・オリジナルのマスターとも言える赤木リツコが管理している部署である。
本部で一番、マギの扱いに詳しいとも言えるが・・・
「・・・忙しそうだな」
「あぁ・・・」
せわしなく動く技術部員達を見ながら、マギの調査依頼に来た2人はそう呟いた。
第一の技術部員が忙しいのは、今まで、リツコやマヤが行っていた表の仕事の殆どを、自分達だけでしなければならないからである。
勿論、それだけだったら、そんなに忙しくは無いだろう。
だが、マヤを始めとする優秀な技術部員達が、あらかた辞めており、残ったのは、未だ慣れていない者、もしくは、他人任せなど、上手くサボっていた連中だけなのだから、個人当たりの仕事量はかなり多い。
しかも、一番、詳しいリツコは、司令から言われたらしい仕事で、指導したり、教えたりしている暇が、無いのである。
手が足りないのを補う為に、他の支部から引き抜かれてきた人材で、新たに第二技術部が設立されたのだが・・・
しかし、ある程度の仕事を受け持ってくれるとは言っても、リツコの手伝いとして、よくわからない計算や、正体不明だが、指定された器具の製作等をさせられている。
しかも、これらは、一切、第二技術部に頼ってはいけないと、司令から直々のお達しである。
それ故、思いっきり忙しいのである。
「そう言えば、赤木博士って、最近、よく倒れているんだよな・・・過労で」
「あぁ、数ヶ月前に辞めた日向マコト二尉の記録を抜いているしな」
リツコは裏の仕事も多いので、色々と動いている。
残業時間が、一般就労時間よりも多いと言う噂だ。
「MAXの何倍だよ」
だが、規定により、残業時間を含めた総勤務時間は、MAXが決められており、それ以上働いても、本人が勝手に行ったサービス残業と言う事になり、手当ては出ない事になっている。
コレは、表向き、働きすぎる人間へのブレーキの為に作られたモノであるのだが・・・
(裏向きはサービス残業による経費削減かも・・・)
しかしながら、某事情により、それ以上に働かなければならないリツコは、それを一週間と経たずに、アッサリ突破しているらしい。
これは、もう辞めたが、某仕事を全くしない上司の仕事や始末書さえも、自主的にやっていたとされる日向マコト二尉の記録を、大幅に超えるものでもある。
「そう言えば、俺、博士が帰ったのを最近見て無いぜ」
「車も駐車場に置きっぱなしらしいな・・・」
「洗濯すら、近くのコインランドリーに電車で行けないくらいだよな」
「あとは、実験室と病室を行ったり、来たり、繰り返しらしいし・・・」
「今、ココに居ないという事は病室か?」
事実、リツコは、自分のマンションに帰っているヒマは無い。
マヤが居た時は、未だ、洗濯物を頼めたが、現在は副司令に特別に許可を貰い、本部にまで、クリーニング屋に引き取りや配達を頼んでいるくらいだ。
「なぁ、気付いたんだけど」
「なんだ?」
「技術部ってさ、マギのエキスパートだよな」
今思い出したと言う風に、相棒がそう言った。
「当然だろ、だから、協力を頼むんじゃないか」
とは言っても、本当の意味でのエキスパートはリツコ以外、居ないようだが・・・
「でもさ、データを窮算した犯人が居る可能性があるんじゃないのか?
あるいは共犯者とか・・・」
「あ・・・(汗)」
今、気付いたと、冷や汗を流した。
「し、しかし、アレだけやっているんだぜ。
残業時間を増やさなくても、実際にやっている分だけで、十二分に増やす必要は無いし、あれだけ忙しければ使っている暇も無いんじゃないか?」
だが、そう言って反論する。
「でもさ、あの状況じゃ、頼んでも、後回しにされるぜ」
ある者は涙を流しながら、ある者は悲鳴をあげながら仕事を大慌てでしている姿を見て、相棒がそう言った。
到底、期間内に調べてもらえるハズがないと思われる。
「・・・自分たちで、地道に調べるか」
「だな・・・」
2人はそう言って、第一技術部の部屋に入るのを断念した。
4日目
「だぁ〜多い〜」
一つ一つ、チェックをしながら、やっていたが、とうとう悲鳴をあげた。
まぁ、今までやらなくて、溜まっている全てではなくとも、事の始まりより、少し前の月から、所員の勤務時間等を一人一人、地道にチェックするのだから、そうであろう。
「しかし、おかしいのは、あの大量辞表者が出た後の月からだな」
「・・・だな」
大量の辞職者が出た後から、残業時間がおかしいと言う者が増え始めたのである。
勿論、本部の残業者が一気に増えたのは、使徒戦開始を除けば、それからなのだが・・・
「なぁ、思ったんだけど」
「なんだ?」
「第二技術部って、その頃、なかったよな?」
「ん?・・・当たり前だろ、忙しいのをカバーする為に設立されたんだから・・・」
辞職者が出た月に、大急ぎで選抜し始め、希望者を集め始めたのだから、事件が始まった当初、本部に、第二技術部の面々は存在していなかった。
「・・・て、言う事はさ、あそこは、シロって事じゃないか?
共犯者とも考えにくいだろ」
「あぁ!」
相棒の言葉に、驚き叫ぶようにそう叫んだ。
「それに、優秀なツートップが居るから、第一よりも、時間はあるだろうし・・・」
「だよな!」
「協力を依頼してみよう!」
そう言うなり、2人は部屋を飛び出して行った。
第二技術部・・・
「・・・つまり、マギの記録を不正に弄っている輩を探してくれって事?」
休憩中だった第二技術部の課長であるマリア=フィバイッツ技術三佐が、紅茶を片手にそう訊き返した。
「は、はい」
給与課の所員Aは頷く。
「・・・ふ〜ん・・・まぁ、出来ないことは無いけど・・・給与関係のデータね・・・」
彼女は、かなり若いとは言え、その卓越した頭脳で、大学院までスキップで卒業していき・・・
その結果、ドイツ支部の技術の要を一人で築いたと言われている故?東方の女三賢者の1人、惣流キョウコ=ツエッペリン博士の目に留まって、彼女の助手となり・・・
更には、彼女の後継者とまで、言われていた有能な科学者である。
つまり、某作戦部長と違い、その地位を完全に実力で得た人物だ。
しかも、赤毛っぽい金髪の美女で、某牛乳とまで言われる女性ほど、大きくはないが、バランスから見れば、スタイルは某乳牛よりも良いと言われている。
「え、えぇ、その、かなり多くって、専門の知識が無いと・・・」
その為、Aは緊張しながらそう言った。
「あら・・・貴方達も専門じゃないの?」
マリアは不思議そうにそう言った。
勿論、全く嫌味は無い。
「い、いえ、自分等の専門は経理ですから・・・
マギを使う事になると・・・」
Bも、緊張しながらそう言った。
「・・・ふ〜ん、でも、こういうのって、無くなった人がいるのなら、普通、逆にあからさまに増えて、おかしい人がいるんじゃないの?
だって、全所員の最終的な業務時間の総合計とかは変わらないんだし・・・
そう言うのが、少なくとも、犯人に一番近い人物ね」
「「あ!」」
マリアに言われて、今更、気付いたように声を漏らす2人・・・
今まで気付かなかったようだ。
「そこから調べれば・・・(となると・・・一番怪しいのはあの女ね)
チョッと、覗かせて貰うわよ」
マリアは端末の方に目をやり、左手で、キーボードを叩いていく。
画面が動いていき、経理課の領域にアッサリ入っていく。
「IDとPASSは?」
「はぁ?」
マリアにそう訊かれて、驚くA。
「だから、これ以上は、許可が無いと、不法でしょうが、私にそんな不正をさせる気?
幾ら経理部長の許可があっても、それがなければ、強引に入らないといけないから、ある意味、不法になるのよ」
真面目なマリアはそう言った。
「あ、はい、えっと、5I8EWJ3WOW58OWJW」
Bが慌てて、IDを渡して、パスを言う。
マリアはそれを打ち込み、更に奥のデータベースにアクセスする。
そして・・・
「・・・ねぇ、作戦部長って、こんなにネルフ本部に居たっけ?」
一発目に出た記録のところで、不信そうにマリアが訊いた。
「「え?」」
「私の記憶が正しければ、居る以前に、無断遅刻早退を繰り返していたようだけど?」
確かに、某作戦部長は、通常勤務に戻ったら、昼過ぎにやってくるわ、定時より前に居なくなるわで、マトモに仕事をしていない。
他の部長以上の者は、急な用事が無い限り、そのような事はしないが・・・
(ゲンドウでさえも、他に予定が無いときは、確り、決められた時間にはネルフに居る)
だが、ミサトにそう言うモラルも考えも無く、規定時間通りに居ない事は、ネルフに所属している人間にとって、常識とも言えた。
「・・・先月の残業時間が100h以上って、そんな、ばかな」
Aがその明細を見て驚く。
「アレが無遅刻無早退で、しかも、毎日、残業が4h以上っておかしくない?
しかも、休日返上に、夜勤だって・・・勤務の殆どが夜勤扱いって・・・」
ハッキリ言って、異常である。
(気付かなかったのは、無意識的に部長職のを調べるのをさけてたな)
外に居る時間よりも、本部に居る時間のほうが長くなっている。
はっきり言って、本部に殆ど居座って、外に出る事のないリツコに継ぐ勤務時間だ。
(リツコが担ぎ込まれるのは、本部内の病室なため・・・)
「じゃぁ・・・」
「チョッと待って、これだけの証拠じゃ、アレは何かしら言い訳をして、勝手に自己完結をし、貴方達に罪を着せるわ」
マリアはそう言って、慌てて出て行こうとするBを止める。
「え?」
「ドイツでは、あの女がよくやっていたし・・・
自分の罪を、関係ない部下や見つけた相手に擦り付けるの。
上司の権限を使たり、証拠を捏造したりしてね・・・」
因みに、実際にやったのはミサト自身ではなく、サポートに回ったゼーレの構成員だが・・・
「「そんな・・・」」
青くなるA&B。
折角見つけたのに、非常にヤバイ相手で、動きがとれず、このままでは、どう動いても、自分達が犯罪者にされるかもしれないからだ。
「大丈夫、もっと動かぬ証拠を完璧に集めて、それなりの人に渡せば良いのよ」
「お、お願いできますか?」
「そうね・・・でも、これ以上となると・・・」
マリアが悩んでいると、第二技術部長であるバート=ミュース技術二佐がやってきた。
「ミス・マリア、どうしたんですか?」
一応、上司と言う事になっているが、バートはそんなに気にして無いらしく、軽い口調で、声をかけてきた。
「あ、ヘル・バート、実は・・・」
マリアは事情を説明する。
「成る程、しかし、マリアさんも仕事が・・・」
「あぁ、あの設計とか、計算でしたら、既に殆ど終わっていますよ」
マリアは机の上の書類やファイル、MOディスクの束を指しながら、そう言った。
「ふむ、こっちは完璧に終わっていますね。
こっちは、後は実際のサイズを測って・・・
わお、相変わらず、素体関係とかは、早いですねぇ〜
(コレに関しては私でも、丸一日程かかるのに、半日程度ですか・・・)」
バートは、その書類に目を通しながら、驚いたようにそう言った。
因みに、通常の技術部員の数日分である。
最も、バートも同じくらい事が出来るくらい優秀し、兵装関係はマリアより確実に上である。
「一応、ドイツで、ずっと弐号機やアスカのプラグスーツを調整していましたし、
伍号機は一からですからね・・・
それに優秀な部下も居ますし・・・
後は実際に着せて、乗せて、差異とかを測って、微調整するだけですよ」
「そうですね、ある程度、エヴァの調整も進んでいますし、チルドレン達のスケジュールを早めましょう。
(コレなら、やはり、副部長になっていただいて、権限を上げ、積極的に行動してもらった方が良いですね)」
顎に手を当てながら、バートはそう言った。
「じゃぁ、これに協力をしても良いですか?」
「何時までかかりますか?」
「そうですね・・・マギの記録を洗う為に、ある程度の上位者許可をいただければ、明日までには、ある程度終わりますわ」
マリアはあっさりそう言った。
「じゃぁ、私のパスでOKな所は私の権限で許可します」
そう言って、バートは自分のIDをマリアに渡す。
一応、バートの方が上司で、階級も地位も上な為、マリアのIDより、深く潜れるのである。
「分りましたわ」
マリアは、それを受け取り、そう言うと、端末のリーダーに読ませ、IDを返して、作業を始める。
そのタイピングはかなり早く、マヤがいれば、先輩並かそれ以上と言ったであろう。
「流石ですねぇ〜
(東洋の女三賢者の正式な後継者であるDrリツコと、互角かそれ以上と言われるだけの事はありますね〜)」
バートがそう呟く。
因みに、マリアは生粋のドイツ出身である為、【東洋の・・・】には認定されないらしい。
あえて言うなら、【西洋の・・・】であろうか?
それは、兎も角、全ネルフの中でも、彼女の実力は文句なしのトップクラスなのである。
「あぁ、明日のお昼には、終わらせて置きますので、居なくてもいいですよ。
お仕事、他にもあるのでしょう?」
マリアは、凄いスピードで端末を叩きながら、経理部の2人にそう言った。
「あ、はい、宜しくお願いします」
「失礼します!」
2人は慌てて敬礼をして、出て行った。
「あら、侵入記録を消すのが不十分ね。
となると・・・あったわ、この映像、バッチリ証拠・・・」
何処となく、面白そうにマリアはそう呟いた。
「ふふふ・・・
この際、あの女の分るこのネルフ本部で犯した犯罪は全部、洗い出してやる」
何か燃え始めているマリア・・・
「・・・ま、その方が面白い事になるかもしれませんねぇ〜(汗)」
バートはマリアの様子を見ながら、面白そうに?そう言った。
次の日
「報告連絡義務の無視、重要提出書類等の滞納、無断遅刻欠席早退、職務中の飲酒・・・
残業時間水増しの為、マギへの不法進入・・・
マギにある他の部署の重要記録を改竄・・・
自分の業務時間及び残業時間の水増し、通常勤務を夜勤勤務と入れ替え・・・
そして、帳尻あわせの為、他の所員のデータを改竄・・・
また、それによる不正に手当てを得て着服・・・
チルドレンの人権無視する行為・・・
また、その給与を不当に隠し、着服している可能性もあると・・・
そして、外部では、一般市民の暴行及び、恐喝行為・・・
更に、道路交通法違反を度々起し、その揉み消しを始めとする様々な職権乱用等々・・・」
その罪状を書かれた書類を見ながら、冬月が額に皺をよせている。
だが、流石に全てを調べ上げる事は出来なかったらしく、ユイカの拉致に関係するモノは出てこなかったらしい。
(まぁ、ゲンドウが、積極的に自分で隠そうとしたからね)
「これは、経理部に、葛城作戦部長が行っていると思われる不正の証拠をつかもうとした結果の副産物です。
マギの監視カメラに残っていたそれらを行っている映像から、その証拠の記録の数々、たった一日で、ここまで出てくるとは思いませんでしたわ」
呆れたようにマリアがそう言った。
その後ろには、バート、経理部の2人に、経理部長まで居り、同じように呆れている。
「発端は、残業時間の不正・・・だったかね」
冬月がそう尋ねた。
「はい、そうです。
整備部を始め、各部の所員に被害が出ており、早急に事態を究明しない限り、外部に訴えると言う事で、第二技術部の皆さんに、協力を依頼し、こうなった次第であります」
経理部長がそう答えた。
「今、こういう事が表に出て行ったら、今のネルフでは、何かと致命的な問題が起こりますからね。
私も許可しました」
バートが肩をすくめつつ、そう言った。
確かに、残業時間の改竄と言う不正があった事だけでも、外に漏れれば、ネルフはかなり拙い状態になるだろう。
「内部で片付けようにも、相手がアレですし・・・
私たちでは、拗れて、外部に漏れるだけですから、今後の為にも、ご相談に来たのです」
マリアがハッキリそう言った。
「まぁ、一般所員に知られたら、司令も副司令も何かと・・・ねぇ〜」
バートが付け加えるようにそう言った。
確かに、被害にあった所員達がどのような行動に出るかを考えるだけでも、頭が痛いが・・・
そうなると、確実に、ゲンドウや自分の身に降りかかってくる可能性がでかい。
幾ら、ミサトがゼーレのシナリオによって守られているとは言え、こんな事をしでかし、更に、公になっては、幾ら何でも、かばえない。
切れば良いかもしれないが、シナリオに固執している老人達が、それを許すかと言うと・・・
かといって、見つけた彼らを切るわけには行かないし、そんな事をすれば、簡単に組織は崩壊する。
「兎も角、彼女の処遇については、司令と話し合うが、不正に奪われた手当てなどは、臨時予算として出し、奪われた所員に返してくれたまえ。
原因は・・・今、究明中との事で、少し時間稼ぎをしておいてくれ・・・
こちらの方でそれなりの対応を考えるから・・・
そして、その金額の報告を」
「一応、所員毎に手当ての基本額がちがいますし、彼らよりも、作戦部長の方が、基本額が多いですから・・・」
経理部長が冷や汗を流しつつ、そう言った。
「両方、報告してくれたまえ・・・」
冬月は頭を押さえながら、そう言った。
「では、我々は、通常業務に戻ります」
バートがそう言い、マリアを始めとする他の所員達と出て行った。
「・・・なんでこう、問題ばかり・・・
兎も角、六文儀とゼーレと話し合って・・・」
冬月はこれからやる事を考えて、呟いていた。
結局、話し合いの結果、ミサトは刑事訴訟を起されたり、ネルフをクビにされたり、更迭されたりしない代わりに、減俸40%の180ヶ月間、更に、その間、全てのボーナスをカットされ、出張手当以外、全てつかない状態になったのである。
今回の事件の原因は、誰かがミスをして起こったマシントラブルによる記録違いとされ、ミサトが不正操作した事は隠された。
勿論、マリア達は、アレだけの事をしでかしたのに、ミサトがクビにならない事を、かなり不満に思ったが、冬月が・・・
『今、このような問題を、ネルフの上層部の所員が起した事を外部に知られると、今後の予算だけでなく、ネルフ存続の問題に発展するから・・・』
と、二時間に渡る説得と、マリアの表の功績を評価し、少し早い出世をさせる事により、何とか抑える事が出来た。
(因みにコレは、バートが後で個人的に冬月に言い出したものあり、マリアは出世に拘っていないので、ミサトの処罰が軽い事に不服なままであった)
だが、やはり、一部の所員達の間で、ミサトが今回の不正にかかわっていた事が噂として流れたらしい。
その噂により、ミサトのただでさえ無い信用度がマントル層を越え、マグマ層をあっさり越える程、益々、地に潜ったそうである。
地核を突破するのも時間の問題かもしれない・・・
おしまい?
(あとがき)
いや、本編で出せそうも無い設定を書こうかな〜って思ったら、デムパでピピッっときてこうなりました。
しっかし、また、アンチ・ミサトモノを・・・
リターンの時のミサトは何処行ったんだろう?
やはり、シンジサイドから外すと、あぁなるのかな?
まぁ、そう言う事で・・・では、では!
マタネ〜(^O^)/〜〜
(ながちゃん@管理人のコメント)
とりもち様より、ミサトの武勇伝(?)の第二弾を頂きました(笑)。
しかも何と今回は、ドラハツの外伝!!・・・管理人もビックリです。
それにしても、ミサトはこんなことをしていたんですねぇー。いやーまったく呆れますよねぇー。
出るわ出るわ、悪事の数々・・・。この全身イリーガル女め!
でも減俸40%、180ヶ月って・・・ドラハツ本編ではそんなに長くこの馬鹿女を生かしておくのでしょうか?(笑)
こんな女、40%と言わず95%くらいの給料カットが適当なのでは?そしたらきっと生活苦から再犯しますって♪
欲を言えば、ミサト本人の見苦しい言い訳を見たかったですね(まあこの話はそういう演出なんでしょうけど)。
きっと「冤罪ですっ!」って終始惚けたんだろうなぁ〜。動かぬ証拠を突き出されても、アレは平気で否認しそうだし。うーむ、あり得る話だ・・・。
うん、すごく面白かったです。是非、第三弾を読みたいですね♪
とりもち様、次の電波を待ってまーす。
作者(とりもち様)へのご意見、ご感想は、または
まで