右手に日本刀を持った少年が一人で道を歩いている。


黄色いTシャツにジーパンを着ている何処にでもいるような少年だ。


ただしそれが2XXX年だったらの話だ。


おそらく、いや確実に此処はそんな時代じゃない。


周りに続くのは田んぼや木で作られた家。


そして延々と続く緑の山々。


明らかに時代遅れなその風景の中を少年は何のためらいもなく歩いている。


あの赤の世界で全てを失い心の底を抉られるような目にあい


希望という希望全てを傷つけられた少年。


色に例えるなら白が一番しっくり来る。


何もない何も感じれないそんな風な感じがしていた。


ただ赤の世界で拾った刀で今まで身を守ってきたがそれすらも無駄に思えてきた。


この世界に来てから2〜3日いったい何回襲われた事か。


それがこのあたりの治安の悪さを物語っている。


おっと紹介が遅れたようだ。


この少年の名前は碇シンジ。


最愛の少女を2人失くしたショックと世界を滅ぼした罪悪感により


いまや魂の抜け殻の様な状態だ。


そんな自分でも命惜しさに襲ってきた賊を殺すという、その状況に


思わず自分でも情けなく思い、自分を責めまた心を傷つけている。


そんな少年が辿り着いた心の駅で考えている少年の心境はこうだ。


「ここが何処かもどうでもいい。早く終わりたい。でも死ねない。


なぜ?なんで?僕はなぜ生きるの?だれか・・・助けて・・・。」


それが今の少年の心からの悲痛な咆哮。


孤独を叫び、罪を呪い、自分を戒め、助けを求める。


だが、その様な平行線の日々も終わりが来た。


本当にそれは唐突に訪れたのだった。


鳥たちのか弱い鳴き声や木を揺らす風の音がやんだその時だった。


誰かの悲鳴が少年の耳に聞こえた。


この悲鳴が空白だった心に動く理由を与えた。


シンジは思ってもみなかっただろう。


この悲鳴が自分に罪滅ぼしの機会だけじゃなく、生き様までも与えてくれる事になろうとは。


シンジはすぐさま悲鳴の聞こえた方角をあり当てた。


なぜそんな事ができるかというとシンジの五感が常人の数倍はあるからだ。


悲しきかな。それも全てはあの悲劇のおかげなのだ。


なぜか?そう聞かれたならば「サードインパクト」の影響としか言えないので


あろう。それ以外にシンジがそんな特異体質になった原因はない。


さあ、皆々様。


この少年の物語をとくと御覧あれ・・・・・






違う場所で 〜三国の歴史〜

序章 「姫」

presented by 鳥哭様






走りながらシンジは思いを巡らせていた。


山賊・・・とでもいうのだろうか。ばかばかしいそんなものがあるわけ・・・


とも思ったがここは自分の居た時代、世界じゃない事、現に自分もそのような


輩に襲われた事を思い出し走るスピードをまた上げよりいっそう急いだ。


その行為が罪を軽くしてくれるような気がして・・・。


少年はその方向に向かって思いを走らせた。


だが、何故シンジはその自分が襲われた事を忘れてしまったのだろう?


やはり、関心がなかったのであろう・・・


この世界に対する関心いや希望が・・・・・


だが、もう少しで彼には光が差し込むであろう・・・・


もう少しで・・・・・












その山についたのはその1分後だった


おそらく事が起きた場所についてみると殺された馬の死骸が一つ道にある。


近くに人がいるのではと思いよく耳を澄ますと少女の叫び声と


何人かの男の卑劣な笑い声が聞こえてきた。


その場所のだいたいの見当をつけその方向に向かい走っていくと


そこから30秒もせずにシンジがその現場を見つけた。


山賊は数にして20人ほどで、襲われているのは紫色のチャイナドレスの様な


物を身にまとっている少女だ。


まだ年齢は12〜3歳ぐらいだろうか。


特に争った風な様子はないので、まだ大事には至らなかったようだ。


だが、少女は顔面蒼白のおびえた目で自分を見つめている。


この状況下で自分が害をなすものと思っているのだろう。


あたりまえだ。現に今彼女は貞操・・・いや命の危険を本能でも理性でも感じ取り


心の底から震えているのだから。


シンジはそんな少女を見て思った。


シンジは人としてなのかどうかは解らぬが助けねばならないと初めて無意識の内にで


はなく、自分の意思で刀の鞘に手を掛けて走っていった。


赤の海で全ての知識を得たシンジには戦うことなど造作も無い。


何しろ耳で聞いたり目で見たのではなく直接神経に流し込まれたのだから


体が覚えているのだ。


その動きを、タイミングを、使い方を、そう全てをだ。


山賊とは10m程の所まで助走段階程度のスピードでシンジは走っている。


だが、シンジにとっての助走段階は並みのスピードではない。


100m6秒のペースよりもまだ早いであろう。


しかも、相手はまだ自分の存在に気付いてはいない。


シンジは相手との10mの距離にくれば、もう後はシンジの領域だ。


10mの距離すなわちそれは、シンジの「居合い」の射程距離だ。


どんな小さなものでも寸分の違いもなく一刀両断にできるであろう。


その領域に3人の山賊が入った・・・その刹那。


シンジは山賊たちを挟んで向かい側にいた少女の前に立っていた。


そして、怒鳴るわけでもなく静かに流れる水のような動きに誰も気付くものはいなかった。


だが、シンジの黄色いはずのTシャツが赤に染まっていた。


なぜ?答えは簡単。それは山賊の返り血を浴びたからだ。


10mの間合いに入った瞬間に3人の山賊の首を切断したのだ。


そう、山賊に叫び声を出す暇も与えないほどの速さで抜刀したのだ。


これが「居合い」なのだ。


そして山賊の返り血を浴びた、そのままの姿出次の獲物に向かい駆けていく。


そこで、山賊達もシンジの存在に気付き・・・いや、我に返りシンジに向かいお約束とも


言えるであろう台詞を唱えた。


「なんだてめえは!!!!」


そういいながら山賊も剣で応戦してくる。


前にいる大柄な奴が縦一文字に剣を振り下ろす。


それを受けるわけでもなく避けるわけでもなくそれ以上の速さで首めがけて


横一文字に切り裂いた。


そしてシンジの刀が雨を降らせた・・・赤い雨を。


その勢いを利用して横にいた山賊にも攻撃を仕掛ける。


だが、山賊もバカではない。


刀でしっかりと受け止めた・・・はずだった。


あまりのシンジの斬撃の鋭さに刀の強度が付いていかず刀はただの


鉄の塊になった。


そして、その刀の持ち主も肉の塊になった。


シンジは休むまもなく大地蹴り山賊と距離を取り鞘に刀を収めた。


俗にいう抜刀術というものだ。


だが、それを失策だった事にシンジは気付かなかった。


一瞬の静寂が流れる。


不気味なほど静かな時間。


それは唐突に終わった。


「これでどうだ!!!!」


山賊の一人が少女の首に刀を向けた。


何処の時代でも悪役のする事は変わらないようだ。


「これでもう動けでえよね?おとなしく死にやがれ!!!!」


山賊は卑劣な笑みを浮かべて、優越感に浸っている。


少女は恐怖により腰が抜けていて動けない。


こんな状況をどう打開するかシンジは考えていた。


少女が自力で脱出することは不可能。


ならばあの男を殺すか?できないこともないがもし刀が運悪く


少女に当たったら大変なので却下。


それにより導き出される結論は・・・


そんなことを考えているともう目の前には山賊が剣を構えて走ってきている。


もう考えている時間はない!!


シンジはそう考えながら行動に出る事にした。


「「「「死ね!!!!!!!!!!!!」」」」


何人かの山賊がシンジめがけて剣を振り下ろす・・・そのとき!!!


(今だ!!!!!!!!!)


そう、心の中で呟きながらシンジの左足が砂埃を上げながら大地を蹴り


一足飛びで少女を捕らえる山賊の下に来た。


「でやっ!!!!!!!!!!」


シンジはそう叫びながら山賊の刀を素手で掴んで真っ二つに


へし折り山賊の手に蹴りを入れた。


シンジはそのまま少女を抱えて地面を蹴るのと同時に


腰の回転を利用して山賊の胴を真っ二つにしてそのまま走り抜けていった・・・。


そのときシンジのココロの中は懐かしい人の温もりで癒されていたのを


シンジ自身も気付いていないだろう。












何分か走ってちょうど山の頂上に来たところで


「大丈夫?」


少女を下ろして優しく微笑みかける。


微笑むなど自分にはもう無い事だと思っていたが、まさかこんなにも早く


笑う事になろうとはあの赤の世界の時には思っても見なかっただろう。


これもこの少女のお蔭なのだろう。


「礼をいいますわ。あなた名前は?」


少女は偉そうな口ぶりでそう問いかけた。


だが、さっきの事が怖かったのだろう、目も赤く充血し膝もわずかながら


震えている。


一瞬赤の髪の少女を思い浮かべて僅かながら苦笑いをしたシンジだった。


だが、いつしか少年にはそのような心の余裕も生まれていた。


全く人生とは解らないものだ。


「シンジ。碇ジンジだよ。君は?」


笑いながらそう言った。


「服といい名前といい不思議な御方ですわ。


あっと話がそれましたね。私の名前は甄姫といいます。」


ちょっと照れながらも名前を言ってくれた。


「そうかい。甄姫ちゃんか。家は何処なんだい?」


その瞬間に甄姫の表情が暗くなった。


その瞬間シンジもしまったという顔をしたが少しばかり遅かったようだ。


「家など無いです・・・。燃えてしまったわ。」


シンジはその事を聞くのと同時に少し考えていた。


甄姫。その女性は何かの歴史書物で見た事がある。


それに全てを知るシンジには知っていた。


彼が袁家に嫁いでいき、後に曹操率いる魏に行く事も。


そして、甄姫の家が燃える史実など無い事もだが結論は簡単に出た。


前と違う事。そう、自分だ。


この世界にイレギュラーとして現れた自分以外に原因など無い。


シンジの自虐的な性格から勝手にそういう結論に至ってしまった。


まあ、真実など誰も知り得ないのだが。


そんな思考の海から抜けてきたシンジは


「これからどうするの?」


と優しく尋ねた。


「わかりませぬ。ただどうしようも無いですが。」


そうすると甄姫は忘れていた事を思い出した。


「遅れましたが、さっきは危うい所を助けていただきありがとうございました。」


両手を膝の前に付け頭を下げてきた。


「そんな事当然じゃないか。そんな事やめてよ。」


シンジは相変わらず異性への免疫は0に等しい。


異性が自分に向かって土下座をしているのである。


彼にとってはたまったものじゃない。


「しかし・・・。」


彼女はそう言ってまた頭を下げそうになるが


「わかった。じゃあこれから君は身寄りがないんだよね?」


「はい。そうですが。」


甄姫は上目遣いにシンジを見上げる。


そう言ってシンジは甄姫の頭を上げる事に成功して


ほっと一息ついた。


「じゃあさ。これから僕と一緒に旅しないかい?


お互い身寄りの無いもの同士だし。」


甄姫は迷う間もなくしっかりとした口取りで告げた。


「元よりあの場所で亡くしていた命です。この命あなた様に捧げましょう。」


甄姫の何処か自分を過剰に評価している言い方にむず痒しさを感じたので


「甄姫ちゃん。それはちょっとあなた様はやめてくれないかな?


同じ位の歳なんだし。」


甄姫は呆けた顔をして


「はあ?では何と呼べば?」


「普通にシンジで良いよ。」


ちょっと頬を赤くしながら甄姫は


「シン・・・ジ?」


「何だい?」


前の世界では見る事のできなかった最大級の微笑を見せる。


「あの御歳は?」


「14歳だよ?」


「私と同じなんですか・・・。」


シンジはまた笑いながら


「だから言ったでしょ。同じ位だって。」


シンジはそういうと甄姫に右手を伸ばして


「さあ、そろそろ行こうか」


「ええ」


甄姫は初めて触れるシンジの掌の感触を楽しみながら


山道を二人で走り始めた。


昔はこんな事実など無かった。


この先を知るものはだれもいない・・・。


そう未来は常に変わり続けるのだから。










この3年後物語りは回り始めるのだ。


三国の歴史もまた変わる。


人の死も生も全てが変わっていく。


ただ、私は思う。


この少年に幸せが訪れますようにと・・・。







To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

鳥哭様より「違う場所で 〜三国の歴史〜」の序章を頂きました。
実はこのお話は某大手サイト様に投稿しておられたものだそうで、今回弊所にてお引き受けすることになりました。
うちはLASでもLRSでも、たとえミサトLOVEでもOKな節操なしサイト(笑)ですので、どんと来いです♪
確か五話くらいまで話が進んでいたと思いましたので、そのうち順次アップできると思います。
このお話、三国無双とのクロスだそうですが、実は管理人はよく知りません(汗)。
ゲームはおろか、三国志にもあまり精通してはいないので・・・何せ本嫌いなモノで(汗)。
時は中国後漢、三国時代・・・。管理人的には、シンジ君の覇王伝説を期待したいところですね♪
目指せ中国統一、後宮でウハウハ、ハーレム、酒池肉林♪
今後の展開に期待しましょう。
しかしこの鳥哭というHNは何とお読みしたら良いのでしょうか?(汗)・・・烏哭(うこく)と同じ読みでよろしいのかな?
何はともあれ、次作を心待ちにしましょう。
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