IFストーリー2 もしも白目ゴジラだったら?
presented by 蜜柑ブタ様
人類は、数多くの罪を犯し、その都度数えきれない犠牲を出してきた。
悲しいかな、記憶というのは儚く、消えやすい。どれほど文明が発達しても悲しみと罪の記憶は薄れ、やがて忘れられていくものである。
これは、もしもの話。
忘れられた罪の犠牲者達の行き場のない怒りが一匹の怪獣に集まってしまったら、という話である。
***
第三新東京はかつてない緊張感に包まれていた。
突如として現れた使徒という謎の巨大生命体が襲来したからである。
これを迎え撃つべくエヴァンゲリオン初号機が出動した。
初号機は、暴走を起こしたものの、その暴走によって使徒を撃破。
これを機に初号機に乗った碇シンジがサードチルドレンとなり、ファーストチルドレン・綾波レイ、セカンドチルドレン・アスカ・ラングレーと共に、次々に現れる使徒と戦い撃破していった。
それは突然現れた。
まず原子力潜水艦が数隻行方不明となり、捜索に向かった部隊が謎の巨大生命体の姿を捉えた。
「これが捉えた映像です。」
撮影された映像に映るのは、ゴツゴツした黒い皮膚と、白っぽい背びれである。
「これだけじゃ分からないわね。」
ミサトが不満そうに言った。
「この背びれ……。」
リツコは、背びれの形状からある一匹の怪獣を思い浮かべた。
「リツコ、心当たりがあるの?」
「……まさかね。あの怪獣はとうの昔に死んだはずだもの。いるはずがないわ。」
リツコは、そう言ってその可能性を否定した。
その後も原子力潜水艦が行方不明になる事件が発生し、犯人と思われる巨大生物の捜査が行われたが、発見することはできなかった。
「使徒が原子力潜水艦を狙った可能性は?」
「あり得ないです。使徒にはS2機関がある。それなのにわざわざエネルギーを摂取する必要はないはずですから。」
「……ふむ。」
冬月の質問にリツコが淡々と答え、ゲンドウは、何か考えるように眼鏡を押さえた。
原子力潜水艦が次々に失踪する事件に、ゼーレもさすがに首を傾げていたが、犯人が何者なのかは彼らも把握できなかったという。
空中に縞模様の球体が浮かぶ奇妙な使徒レリエルが現れた時。
それは、ついに彼らの眼前に姿を現した。
縞模様の球体を一撃で粉々に粉砕した青白い熱線。
チルドレン達が驚愕している間に、第三新東京に響き渡る雄叫び。
「今のは!? どこから飛んできたの!?」
「画像解析結果によると、静岡方面からです!」
「静岡から!? なにその飛距離!? ボジトロンライフルなんて目じゃないじゃない!?」
「今の雄叫び…、まさか…、そんな…。」
「リツコなにか知ってるの!?」
「ゴジラ…。」
「えっ? ゴジラって…、50年前に倒されたって言われる、怪獣よね? なんで今そんなのが…。」
「国連から緊急伝達あり!」
「黒い巨大生物が静岡、焼津港に上陸し、第三新東京に向けて進行中です!」
「っ! 作戦変更! 全エヴァを静岡に緊急配置! 巨大生物、推定ゴジラを迎え撃つ!」
「巨大エネルギーを感知!」
「えっ?」
ミサトが指示を出している時、第三新東京を囲む山が粉砕され、極太の熱線が飛んできた。
その射程圏内には、エヴァンゲリオンがいた。
『う、うわああああああ!』
初号機は咄嗟に横に走りギリギリで背中を掠っただけで済んだが、武装ビルがいくつも蒸発するように破壊された。
『み、ミサトさん…、何が起こってるんですか?』
「い…、今のまさか、エヴァを狙ったの?」
っとしか思えない正確な狙いに作戦本部は唖然とした。
「高濃度の放射熱線を感知! 測定値計測不能!」
「あれは!」
「まさか! 本当に!?」
砕かれた山の向こうから現れたのは、エヴァンゲリオンと同等の大きさもある巨大な怪獣ゴジラだった。
ゴジラは、白い眼を鋭くして、唸った。
『はっ、なによ、ただの黒いトカゲじゃない!』
「アスカ、だめよ!」
『何言って…。えっ?』
アスカがゴジラを知らないばかりに舐めていると、リツコから叱られそちらに気を取られている隙に、眼前に青白い熱線が迫っていた。
アスカがそれを理解したかしないかの合間に、エヴァ弐号機は、熱線の爆発に巻き込まれて消えた。
ゴジラが、凄まじい雄叫びをあげ、残りのエヴァンゲリオンに迫ろうと歩を進めた。
『あ、アスカ? アスカ! ミサトさん、アスカが!』
「…、に、逃げてシンジ君、レイ! すぐに退却を…、レイ、何をしているの!?」
一瞬で消えてしまった弐号機のことで茫然としていたミサトが我に返って退却するよう指示を出すが、レイの様子がおかしいことに気付いた。
零号機は棒立ちで、中にいるレイは、口を押えてただただ震えていた。
「レイ、レイ! しっかりしなさい! 逃げるのよ!」
レイに必死に声を掛けるが、レイは、聞こえていないのか動こうとしない。
その間に眼前に迫ったゴジラが、背びれを光らせ大きく口を開けた。
「レイ!」
ゲンドウが席から立ち上がり声を上げた。
零号機は、棒立ちのまま熱線に焼かれて消えた。
ゴジラは、くるりと向きを変え、初号機を睨んだ。
『ひっ!』
シンジは、短く悲鳴を上げた。
弐号機も零号機もあっという間にやられ、残るは、自分だけ。
初号機は、シンジとのシンクロで無様な有様で尻餅をついたままズリズリと地面を後退る。
「エントリープラグ、緊急射出! 急いで!」
ミサトが指示を出し、シンジを乗せたエントリープラグが初号機の背中から射出され、射出された先に空いたハッチに見事に入った。
が……。
ゴジラが吐いた熱線は、初号機はおろか、エントリープラグが入ったハッチと第三新東京の特殊装甲板ごと破壊してしまった。
ゴジラは、大きな雄叫びをあげ、地団太を踏んだ。
まるでこれでは収まりがつかないと言わんばかりに。
ゴジラが背中を丸めたかと思うと、背びれが今までで一番強く発光し始めた。
そして放たれた体内熱線は、すべての特殊装甲板を破壊し、ネルフ本部にゴジラが落下した。
すべてのエヴァンゲリオンを失い、特殊装甲板をも破ってきたゴジラに、ネルフ内部は混乱し、もはや統率を失っていた。
ゴジラの背びれが輝いた。
特殊装甲板を失い、巨大な穴と化した第三新東京から巨大なキノコ雲があがった。
『馬鹿な…、そんな馬鹿なことがあってたまるか!』
ゼーレは、この非常事態に混乱した。
『ネルフもエヴァシリーズも、すべてが消滅したぞ! こんなことはシナリオに書かれていない!』
『アレはなんだ! 50年前に死んだはずのゴジラなのか!?』
『そんなものがなぜ今になって現れる!? まさか一連の原子力潜水艦の失踪は奴の仕業なのか!?』
『なぜだ、なぜ東京なのだ!? 奴はなぜ東京を目指したのだ!?』
「落ち着け! シナリオの修正は容易な事ではないが、まだこちらにはアダムが…。」
『議長! ゴジラがこちらに向かってきています!』
「な、馬鹿な、なぜ我々の居場所を!」
『議長! お逃げください!』
『いやだ、こ、こんなところで死にたくない!』
ゼーレは、それぞれ逃げ出そうとした。
しかし、逃げた先で待ち構えていたゴジラにことごとく殺されていった。
彼らが気が付いた時、目線が高いことに気付いた。
そして感じ取った、いや無理やりに理解させられた。
今、かつてゼーレと名乗っていた者達全員がゴジラの一部となっている。
それだけではない、ネルフの構成員全員とチルドレン、果てはこれまで倒された使徒までもがゴジラの一部となっていた。
身動きはとれず、聞こえてくるのは、凄まじい数の怨嗟の声。
行き場のない怒りなのか、悲しみなのか、憎しみなのかも分からない声でゴジラは構成されていた。
その声がなんであるのかも理解させられた。
人類が始まって以来、犯してきた数々の罪の犠牲者達、戦争、そして…セカンドインパクトで犠牲となった者達であった。
なぜなのかは不明だが、ゴジラは、それらすべての犠牲者の魂を抱えている。感情を抱えている。
なぜ忘れていたのだろう?
これほど沢山の声を。罪を。
理解する。
ゴジラが、街を焼き払い、すべてを焦土に変えていく光景を目にしながら理解する。
ゴジラは、罰を与え、思い出させようとしているのだ。
記憶から消え去った罪を。
それを忘れたすべてに罰を与えるために蘇ったのだと。
忘れ去れた罪が、ゴジラとなって姿を現してしまったのだと。
To be continued...
(2018.03.17 初版)
(あとがき)
うん。これは酷い。
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