ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二十一話

ワガママ『ふぃあ』と、白黒使徒

presented by 蜜柑ブタ様


 技術開発部と科学研究部の二つの部署は、困っていた。
 理由は。

『ヤだヤだ! 触るな触るな!』

 機龍フィアの自我意識に子供みたいに拒否されていたからだ。
 子供みたい、というよりも、ホントに子供なのかもしれないが、『コレは酷い』っと技術者達や研究者達は頭を押さえざるおえなかった。
 自我意識が芽生えたからには、調べる必要があるので必要な事だからと説明して説得しようとしても聞き入れてもらえない。
 無理やりやろうものなら、巨体を捻って振り落される。死人はギリギリで出なかった…。
 結局ツムグでなければダメだという結論だ。
「いい加減言うこと聞きなさい。」
 椅子に座って足をプラプラさせながら様子を見ていたツムグが、溜息を吐きながら言う。
『ヤだ、ヤだ! くすぐったいんだもん、くすぐったいんだもん!』
 そう駄々をこねる機龍フィアの自我意識、自称“ふぃあ”。
 子供のような高い声で、機械から発せられるせいか男なのか女なのか判別が困難な音程である。
 しかも発音がところどころおかしい。
「同じ言葉を繰り返す癖があるなぁ…。精神年齢は、十歳以下かな?」
「データ量は防衛軍のスパコン並なはずなんだが…。なぜこんなに低いのか謎だよ。」
 ツムグは隣にいた書類を片手に頭を押さえている技術者に話をふるとそういう答えが返ってきた。
「人格の年齢と知能は比例しないということではないのか?」
「しかしこのままでは正確なデータが取れない。なんとかしろ、ツムグ。」
「分かってるって。ふぃあちゃーん、くすぐったくっても我慢しよう。これ以上みんなを困らせないで、ねっ?」
 椅子から立ち上がったツムグが機龍フィアに近寄って顔を指さして言った。
『うゥ〜。でもォ。』
「でもじゃない。このままだとふぃあのこと削除とか言われるよ?」
『ヤだ! それ、ヤだ!』
「だったらここにいる人達の言うこと聞きこと。くすぐったいのは慣れるから我慢しなきゃ。」
『う〜〜、分かった…。ツムグが言うなら言う通りにする。』
「いい子いい子。」
『ワ〜い。』

 こうしてなんとかふぃあを大人しくさせることできたのである。
 ふぃあの精神年齢は低いうえに、データ量の割に成長性も晩成型であるというのが現在の見解である。
 それは、逆に言えばそれだけ長く多くの経験値を吸収し、高度に成長できる可能性を持った、将来有望とも言える。

『ねえねえ、ふぃあイイ子? ふぃあイイ子? イイ子してたら褒めてくれる?』
「うん。いい子だから首をこっちに向けないようにね。人が落ちちゃうから…。」
『ツムグ、見てる、見てる?』
「体こっちに向けちゃダメ! 周りが壊れるから!」
『ツムグ〜!』
「あとでいっぱいお喋りしてあげるから、今は静かに動かないように! お願いだから大人しくして!」
『うん! 大人しくする!』
「大人しくしてないー!」

「…あの馬鹿(ツムグ)を困らせるとは、こりゃ相当だぞ。」
 ツムグによく振り回されている技術開発部と科学研究部の者達は、ツムグがふぃあに振り回されている様子を珍しいモノを見るように見ていた。
「しかし…、一応は想定していたとはいえ実際に自我意識が芽生えてしまったわけだが、上層部はどう判断するだろうな?」
「4式の開発のプロジェクトでその辺の資料は見せてるし、渡してるはずだろ?」
「しかもこの人格ですからな…。機龍フィアの運用自体に支障が出る可能性もありますな。」
「そうなったら徹底抗議だ。我が子も同然に育て上げた作品でもあるのだから。」
「我が子…と言う割には、まったく我々に関心がないみたいですけどね。」
「それは言うな…。」
 そう言った技術者は、くっ、と泣いた。
 自我意識が突然芽生えたとはいえ、一応は想定していたことだったのもあり技術者達と研究者達の適応は早かった。





***





「……以上が、科学部と技術部からの報告です。」
 会議場が、機龍フィアについての説明を聞いてざわついた。
「こうなることは想定していたというのは間違いないのですか!?」
「4式機龍開発プロジェク発足時から自我意識の発生は予測されていました。3式機龍という前例がある以上、生体コンピュータの運用において独自の思考が発生する可能性は避けられないものとしてプロジェクトは進行していました。」
「機龍フィアの操縦はどうなる!? 今後は自我意識に戦わせるというのですか!?」
「自我が芽生えた直後の出力の記録では、予定出力の半分程度と出ています。」
「つまり現状の戦闘能力を出すには操縦者が必要ということです。」
 機龍フィアについての状態についてや、今後の運用について質問が飛び交う中、一人の男が場の流れを変えることになる。
「メカゴジラの運用以前の問題を忘れてはなりませんよ。」
「問題?」
「この映像をご覧になってください。」
 そう言って合図を出しモニターに映し出したのは、使徒に乗っ取られた機龍フィアが暴走したあとの爪跡だった。
 踏みつぶされた道路その他、車や建物。群馬の市内をまっすぐ通り過ぎた後の惨状であった。
「暴走したメカゴジラは、基地のドッグ目前で運搬船から落下し、そのまま第三新東京までまっすぐ突き進みました。この惨状について、国民にどう言い訳をなさるつもりで? 波川殿。」
「言い訳などしません。ありのままに説明するのみです。」
「馬鹿正直になったところで国民の感情を抑えられるとお思いなのか?」
 モニターの映像が変わり、プラカードや紙などを掲げて集団抗議する団体や、機龍フィアと地球防衛軍を非難するニュースの映像が映し出された。
「我々地球防衛軍の存在を理解せず権利ばかりを主張する馬鹿に油を注いだばかりか、その馬鹿に上辺だけ同調した集団行動が横行しつあるというのに、ここで馬鹿正直に敵にこちらの最強の駒を奪われたことを説明できるわけがない。」
「だから言って弾圧をしても良いわけではありません。」
「世界の命運がかかっているのだ。やむ終えないでは?」
「それこそ火に油を注ぐのではないですか? 和臣(かずおみ)殿。」
「理想論ばかりで組織が守れるとでも? ロシアのことについても、まだ始末がついてない。」
「……。」
「……。」
 波川と和臣の睨み合いが炸裂し、会議場にいる者達は、たらりと汗をかいた。
 その空気を変えたのは、一つの連絡だった。
「な、波川司令。たった今…。」
「来たのね。」
「波川殿?」
「戦うための駒がなければ、増やすまでですわ。」
 モニターの映像がまた変わった。
「! これは!?」
 和臣も、会議場にいる人間達も驚いた。

「ようやく、連れて帰ることができたわ。」





***





 機龍フィアの今後についての会議が行われて間もなく。
「結局、機龍フィアの運用一時凍結か…。傍から見たら事情なんて分からないし。」
 ツムグは、壁に背を預けてそう呟いた。
「これを機に“アレ”を日本に持って帰ってきたし。使徒は、今のところ割と簡単に倒せてるけど、使徒側だって簡単に負けてられないだろうし、どうなるかな? イロウルはあのおじいちゃん達の想像を超えてたみたいだし…、次がどうなるかな?」
 使徒サキエルに始まり、使徒イロウルまで倒れた。
 残るは6体であるが、地球防衛軍側は何体の使徒が存在するのか知らされていない。
 使徒がネルフの最深部に到達すると世界が終わるとされるサードインパクトが起こるという本当なのか否か首を捻りそうになる情報だけが伝わっている。
 それが事実であるように使徒がネルフを目指すという不可解な習性が認められたものの、一部はネルフを目指すことよりもゴジラへの迎撃や地球防衛軍への攻撃を優先したものがいた。
 使徒ラミエルがゴジラをひたすら狙撃したり、使徒ガキエルが第三新東京とは全く関係のない海に出現したり、衛星軌道に出現した使徒サハクィエルがロシアの基地を破壊したり、使徒イロウルが機龍フィアにとりついて機龍フィアをネルフの真上で自爆させようとしたりした。特にサハクィエルは、その後も他の国の基地を狙って攻撃を仕掛けた。途中でゴジラに狙いを変えなかったらそのまま地球防衛軍の基地を攻撃し続けていたであろう。
 6体中、4体が“ネルフの最深部を目指す”と仮定された使徒の習性を無視して動いているのが分かる。
 原形がほぼ残っていた使徒マトリエルの死体を回収し分析を行い、使徒の正体を突き止めようと科学部が頑張っているが、分かっていることは、すべての体機能をコアに依存した生命体であること、遺伝子構造が99.89パーセントまで人間と共通していることである。
 二足歩行ならまだともかく、どう見てもザトウムシな見た目のマトリエルからなぜ100パーセントに限りなく近い遺伝が出てくるのか…、多くの科学者が頭を抱えた。
 構造的に見て怪獣のそれよりも非常に優れた生命体で、イロウルのような微生物型という想像を超えた形態を持つモノすらいる始末である。
「…無理して立て続けに出てくるから間があくだろうな。ゴジラさんも、大怪我してるし…。ああ…、ゴジラさん。」
 その場にズルズルとへたり込んで体を抱くように腕を回してツムグが溜息を吐いた途端…。
 大きな音と建物が揺れる振動が来た。

『ツムグは、ふぃあのーーー!』

 数枚の壁越しでも聞こえる大音量で、そんな子供の叫び声が聞こえてきた。

「……使徒が来ない間にこっちの問題をなんとかするのが吉だな。慕ってくれるのは嬉しいけど、独占欲(?)が強いのがちょっとなぁ。」
 ツムグは、立ち上がり機龍フィアのところに戻ろうとした時、ふと立ち止まった。
「えっ…、嘘でしょ…。う〜ん、なんでこう問題って立て続けに起こるのかな? あとで教えとこ。」
 頭に過った未来のビジョンに、ツムグは、額を抑えて唸った。
 ツムグは、超能力系統の力が細胞のエネルギー量により凶悪レベルになっているため本人の意思に関係なく暴発しやすい。それゆえに盗聴、覗きが息をするようにできてしまう。未来予知だってできてしまう。聞きたくて聞いているわけではないし、見たくて見ているわけでもない、そういう誤解が……多少、あるのだが、本人は日常なのでその事実の裏返しでとぼけるのも普通になってしまっていた。
『G細胞完全適応者! どこにいるーーー!?』
 機龍フィアの格納庫からの放送の呼び出しがきた。
「はいはーい、今から行きますよと。」
 呼び出されたツムグは、軽い足取りで向かった。





***





「尾崎さんお疲れ様。」
「ありがとう。シンジ君。」


「……傍から見ると誤解されそうな光景よね…。」
「そうーだなー。」
「そー見えてるのはおまえらだけ…。」
「年上年下の組み合わせとか鉄板だよなー。」
「そうよね〜。」
「おまえらいい加減口を閉じろ! 腐女子、腐男子コンビ!」
「だって可愛いんだも〜ん。」
「だってカッコいいんだも〜ん。」

「?」
 仲間達がギャイギャイワーワーやっているのを見て、話の内容が聞こえていない尾崎は、シンジからもらったコーヒーを飲もうとしようとカップに口を近づけようとして急にピタッと止まった。
「尾崎さん?」
「…シンジ君、このコーヒーは、そこのコーヒーメーカーのだよね?」
「はい。」
「…あそこにいる人だれ?」
「えっ? あの人は僕が入るよりも前からいた人ですよ?」
「……。」
 困惑するシンジとは反対に、尾崎の空気を察した仲間達の雰囲気が変わった。
 尾崎は仲間の一人にカップを渡すと、食堂の中に向かった。
「? なんですか?」
「なんのつもりかは取調室でしようか。」
「は? 何のはな…し……、っ、っっ!?」
 何の話だとその人物が言いかけた時、尾崎がその右肩を掴んだ。すると急に顔色が悪くなり、尾崎を振り払って背中を向けて裏口の方へ走ろうとした。
 しかし横から飛び出た足に払われ、転倒。そのまま取り押さえられた。
 仲間内でしか伝わらない合図で裏手に回っていた仲間が足払いをして取り押さえたのである。
「ばけ、ばけものめ!」
 顔面蒼白、顔から出る者全部出した変装した不審人物は、錯乱した状態でそう叫んだ。
 尾崎が肩に触った時、超能力を使って脳をかき回されたのである。サイコイリュージョンという幻覚を見せる技だが、カイザーの尾崎のはかなり強力で、恐らく尾崎が化け物に見えているのだろう。
 尾崎を殺そうとした不審者を連行し、毒薬が入ったコーヒーカップを証拠品として渡したあと、尾崎は茫然としているシンジのもとへ戻ってきた。
「シンジ君?」
「あ…、お、尾崎さん…。」
 声を掛けられて我に返ったシンジは、震えだした
 いつの間にか殺し屋が少し見知った顔の人間に入れ替わっていたことと、何より毒薬を受け渡す中継にされたことに。
「君のせいじゃないよ。」
「なんで尾崎さんが…。」
「それは…。」
「?」
 なぜ尾崎が狙われたのか疑問をもつシンジに、尾崎は何か心当たりがあるのか言葉を詰まらせた。
「知らないのか?」
「宮宇地。」
「何がですか?」
「こいつが狙われるのは、こいつが特別だからなのさ。」
「とくべつ?」
「やめてくれ宮宇地。俺はそんな特別なんかじゃ…。」
「認めたがらない気持ちは分からんことはないがそのせいで周りが巻き込まれて平気か? 何も教えないことが幸せとは限らないぞ?」
「っ…。」
「自分で説明できないのなら、俺がしてやろうか?」
「いや、自分でするよ。」
「そうか。」
 宮宇地は、そう言うと、手をヒラヒラさせてその場から去った。
 尾崎は、このあとシンジに自分の身の上について説明した。
 自分がミュータントの中でも特別だとされる存在で、カイザーと呼ばれる個体であること。
 そのため幼少期に実験体として閉じ込められたり、出ることが許されてからも閉じ込めようとする輩がいたことと、ついには死体でもいいからと命を狙われるようなったりしたことなどを語った。
 殺そうとしてきた者達を次々に捕まえたりして処分したので最近では少なくなったが、あんまりにもやられすぎたので、すっかりそういうことに敏感になり今回すぐに気付くことができたのであった。
「そんな、尾崎さんが…。」
「ごめん。秘密にしていたつもりはなかったんだ。」
「いいえ、いいです。話したくなかったんですよね? 特別に見られたなかったから。」
「うん。ごめんね。」

 オ…ニイチャ…

「!?」
「? どうしたんですか?」
「あ、いや、なんでもないよ。」
 なにか聞こえた気がして周りを見回した尾崎をシンジが不思議そうに見上げたので、尾崎はなんでもないと気のせいだと笑っい、シンジの頭を撫でた。シンジは、気恥ずかしそうに頬を染めた。



「やっぱり、可愛いね〜。」
「やっぱり、カッコいいね〜。」
「いい加減にしろ、腐ったコンビども。」

 こっちはこっちで変わらずだった。



 その翌朝、緊急出動を知らせる警報が鳴り響く。





***





 空が時ともに青から紫、橙へ、そして青黒い夜の闇から溶け出して形作られたように、そいつはやっぱり突然現れた。

 アートな白黒模様。美しい円…、いや巨大な球体。

 またもやというか…、やっぱり、“変”なのが現れたっと、地球防衛軍側はまず思った。

 宙で静止しているその巨大な白黒球体は、動かない。浮いたまま動かない。
 立体的な四角形(※使徒ラミエル)から、球体に変わった……っと思って侮った。

「パターン、オレンジ! 使途と確認できません!」
「あんなに、目立つのにか?」
 まさに、『えっ?』である。
 オレンジということは、実体が無いということだからだ。あんなクソ目立つ白黒物体で、下にもあんな影が広がっているのにそれはあまりにもおかしい。


「マズいのが来たね…。」
『なんだ? なにがマズいんだ、椎堂ツムグ?』
「とりあえず、攻撃しちゃダメ。無駄な死人を出したくなかったらね……。」
『はあ?』
『エヴァンゲリオン到着! これより、ネルフ陣営による戦闘が開始されます!』
「あーー……、ヤバいよ。んー、でも、エヴァンゲリオンで済むんなら安いか?」
『だからお前はなにを…?』


 四号機が、山の上からスナイパーライフルを撃つ。
 その瞬間、白黒の物体が一瞬にして消えた。


『………………………へっ?』
 一瞬呆けるケンスケ。そして四号機の真上に白黒球体が現れ、下に黒い影が広がった。
 すると、山の上の地形にある木々や岩などを、エヴァンゲリオン四号機ごと影に吸い込み始めた。
『うわああああああああああああ!? た、助け…、助けて!!』
 下半身が沈み、慌ててライフルで影を撃ちまくるが弾は沈むばかりでまったく効果が無く、あっという間に上半身まで沈んでいってしまった。
『メガネ!』
『相田くん!』
『ミサ…ト、さん! ミサトさーーーーーーん!!』
 そして四号機は完全に影の中に沈んでしまった。
『この……!』
『アスカ! 攻撃中止!』
『なんで!?』
『見えているあの球体は…、ダミーよ! 攻撃したらカウンターで影みたいな本体の方に取り込まれてしまうわ!』
『……チッ!』
 アスカは、どうにもならないことを理解し舌打ちをした。

『前線部隊に告ぐ!! 攻撃中止! 攻撃中止! 絶対に使徒に手を出すな!』



『おい、椎堂ツムグ! これはどういうことだ!?』
「だから言ったじゃん。ヤバいって。どうする? 一旦基地戻った方がいい?」
『……フォースチルドレンが不憫だ。』
 フォースチルドレン、相田ケンスケの事情を知っている者達から、ちょっとだけ同情が向けられたのだった。





***





 影から身を守るため、遠望鏡と無人機で使徒レリエルを監視しつつ、基地の兵装整備ドッグで、機龍フィアに乗ったままのツムグに、対レリエルのための助言を請うこととなった。
 ツムグに対して反感や嫌悪感を持っている者達は難色を示すが、35年前、南極でゴジラと決戦をするよう進言したのもツムグであり、封印に至ったなど、人類への貢献度から無視できる存在でもなく、渋々といった様子でツムグに教えを請うこととなった。
「この使徒なんだけど……。“ふぃあ”ちゃん、モニターを。」
『はーい。』
 ツムグが、DNAコンピュータ“ふぃあ”に使徒レリエルの画像をモニターに出すよう指示した。
「ようするに、影に見える方が本体で、丸に見えるのが影なわけ。見た目とは真逆。それでいて、ディラックの海だっけ? 無限に広がる空間を持っていて、それをATフィールドで極薄の身体で支えているってかなり危ない身体してるよ。」
「では、取り込まれたエヴァンゲリオン四号機は?」
「まだ時間的にLCL液っていう酸素吸入ができる液体が濁ってないはずだから、生きてるよ。生命維持装置が働いてるんだからね。でも時間の問題だろうけど。早く引っ張り出してあげないと死ぬ。」
「その方法が分からないから、こうやってお前に聞きに来てるんだが?」
「この使徒の身体の作りだと……、内側からぶっ壊す?」
「はあ!? できるか!」
「だよね〜。かといって機龍フィアをディラックの海に放り込むこともできないし? かといって全然期待されてないエヴァンゲリオンですら手も足も出ない超生物の使徒の虚空空間の内側からぶっとばすほどの技術力がまだないしね。時間を掛ければ出来るだろうけど、それまでに確実にフォースチルドレンは死ぬ。」
「……最も時間のかからない解決策は?」
「こういう時こそゴジラさんでしょ!」
「アホか!!」
 波川以外の指揮官達が口を揃えて怒った。
「いや、マジな話だけど? ようするにこの使徒は、ATフィールドで極薄かつ無限空間の開閉を攻撃手段に出来るけど、その代わりに極限まで脆い身体を持ってるわけだから、その生命線になってるATフィールドを破壊できる存在…、つまりこの場合、ゴジラさんか、機龍フィアでやるしかないんだよ。あー……、でも、手段を選ばなければこういう手もあるにはあるけど…。」
「なんだ?」
「俺の体液を、除草剤みたいに撒けばいいんだよ。」
「なんだと? そんなことでいいなら…。」
「ただし、後者の方法はディラックの海への出入り口を封じてしまうかもしれないから、四号機を助けるのは諦めた方が良いかもね。」
「!」
「かといって…、ゴジラさんをディラックの海に入らせると…、四号機が無事で済むという確証もないか…。どうする? 波川ちゃん?」
「……ネルフに、四号機とフォースチルドレンの生死が確実でないことを伝えてください。」
 波川は秘書にそう伝えた。

 ネルフにすぐにそのことを伝えると、すぐに回答が返ってきた。


 ……その内容に、ある意味で波川を始めとした指揮官達が顔をしかめることとなる。



 『フォースチルドレン及び四号機の無事の有無問わず。』



 それは、ネルフが四号機とそのパイロットであるフォースチルドレンの相田ケンスケを見捨てたということだ。



「そう言うと思った。」
 ツムグは、機龍フィアの中で待機していて、そのことを超能力で知りつつ、やーれやれと足組み、腕組みしてドカリとコックピッ内の椅子に座り直した。


『東京湾よりゴジラ上陸!』


 結局、作戦としては、ゴジラに内部からの攻撃を期待しつつ、それでダメなら、ツムグの体液をミサイルに積んで散布することになった。
 レリエルが浮遊している山間には、天気予報で近々雨が降る予報となっていた。その雨雲に向けてミサイルを撃ち込み、雨に乗せてツムグの体液を広範囲に広がっているレリエルの本体である影に散布するのだ。ダミー(白黒球体)を攻撃するとカウンターとして瞬間移動をして対象を本体が開いたディラックの海に取り込むという攻撃方法からして、自分からは率先して動くタイプじゃないだろう。
 やがてゴジラがレリエルの影に踏み込んだ。
 すると待ってましたと言わんばかりにレリエルの影にゴジラの下半身が取り込まれ始める。
 ゴジラは、慌てるどころか、下を見てから、上にいる球体を見上げ、やがて全身が影に消えた。


「あとは、時間経過…。」

 ゴクリと、誰かが息を呑んだ。

 そして、ツムグの体液の散布予定時間に達する。

「ゴジラでもダメだったか…。」
「……ミサイル発射。」
「ミサイル発射! …、!? 使徒の球体から高エネルギー反応!」


 ミサイル発射直後にその反応があったため、モニターを切り替えると、白黒球体の部分の下辺りが急に割れ、大量の赤い液体が溢れ出た。その液体の中に赤く染まったゴジラの背びれと尻尾がダラリと出てきた。
 カッと背びれが輝き、その瞬間、体内熱線の爆発が起こった。
 爆風の中から、ポーンッと大きな何かが転がり落ちた。それが、黒焦げになったエヴァンゲリオン四号機だと気づくのに少し時間かかった。
 そこへ雨、爆風により大きく流れ出した雲の中に、発射されたミサイルが割れ、ツムグの体液が雨に混ざって降っていく。そして、影であるレリエルの本体の残り部分を溶かしていった。
 爆風が雨により消え、残されたのはゴジラと、黒焦げで転がる四号機だけ。
 ゴルル…っと、雨に濡れながら唸るゴジラは、ある方向を睨んだ。



「フフフ…、ゴジラさん。俺はここだよ。」
 ゴジラが睨んだ先にはツムグがいた。
 ツムグは、両腕を広げうっとりと笑った。
 焦げた赤い液で汚れていたが雨で徐々に綺麗になっていくゴジラは、ツムグのいる方向に向かって進撃した。



To be continued...
(2020.09.05 初版)


作者(蜜柑ブタ様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで