ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二十話

つまらないが、変わり行く日常

presented by 蜜柑ブタ様


 ある日のお昼後。
「宮宇地さん。」
「なんだ、シンジ少年。」
「たまに聞くんですけど…、ミュータントに、先天性とか、後天性ってあるんですか?」
「ああ、そうだな。俺は、後者だ。二十代ぐらいからの若い連中は、先天性が多いんだぞ。」

 M機関調べでは、ミュータントには、基本的に二種類いるとされている。
 それが先ほどシンジが聞いた、先天性ミュータントと、後天性ミュータントの違いだ。
 ようするに生まれた時からミュータントか、普通の人間からミュータントとして覚醒したかの違いだ。
 尾崎、風間など、20代のミュータントから先天性ミュータントの年代。30代過ぎの宮宇地のように後天性ミュータントが現れたのは、セカンドインパクト後の話である。
 どういうわけだか、セカンドインパクトでの被害が大きい地域でミュータントは発見され、その後世界中各地に現れ始めたのだ。

「僕はミュータントじゃないから分かりませんけど…。」
「なんだ?」
「やっぱり、急にミュータントになるって大変でしたか?」
「大変というか…、いきなり力が使えるようになってビックリはしたぞ。まあ、デカいたちの悪い屁が出るまでのことだ、1回力を出してみればあとはトントン拍子で加減を覚えていけばよかったしな。なにせ俺の場合は、シンジ少年ぐらいの歳での覚醒だったからな、若さでカバーできたよ、そこら辺は。」
 ハッハハハ!っと朗らかに笑う宮宇地に、シンジは一瞬呆気にとられたが、すぐに正気に戻り『そうですか…』っと、要らない心配だったと思いつつも微笑んだ。
 しかし、不意に宮宇地は笑うのを止めた。
「まあ…、俺の場合はその程度でどうにかなったが、中には自分の能力に押しつぶされて精神に異常をきたしたとか、果ては暴走して死んだってケースもあったからなぁ…。地球防衛軍が、早い段階でM機関を作らなかったらどうなってたかと考えるとゾッとする。」
「…差別……。」
「だろ? まあ、生きているに、そういうことが起こらなくてよかったとは思ってる。争いは無いに越したことはないからな。……ん、でも待てよ…。アイツがいたおかげってのもあるかもしれないな?」
「アイツって誰のことですか?」
「『椎堂ツムグ』。名前聞いたことないか?」
「えーと…、なんかの本に載ってたような?」
「ま、少年の世代じゃそんなもんか。G細胞…、ゴジラの細胞を取り込んでいるのに人間のままでいる人間。ある意味じゃミュータント以上の突然変異だな。40年以上前からいるんだが、全然見た目が変わりゃしない。これから先、地球防衛軍にいるつもりなら、いずれ見るかもしれないが、赤毛に金が混じった髪の色してるから、一目で分かると思うぞ。もしかしたら……、イタズラされる可能性も無きにしろ非ずだがな…。気をつけろよ?」
「えっ?」
 宮宇地に軽く軽くポンポンと叩かれ、キョトンとするシンジ。
「注意されてなかったか? じゃあ、覚えておけ。椎堂ツムグは、地球防衛軍内で、ある意味で大問題児だ。一応は監視されているってのに、監視の目を盗んで自由に歩き回って…、ハッキリ言ってナニをしでかすか分からないから…、本当に気をつけろ。」
「み、宮宇地さん達もナニかされたんですか?」
「……。」
 シンジが恐る恐る聞くと、宮宇地は眉間を指で押さえて押し黙ってしまった。
 シンジは、聞いてはいけない禁句だったと思い至り、『ごめんなさい!』と慌てて謝った。
「いや、少年は悪くない…。ま、とりあえず、気をつけろよ?」
「はい…。」


「ヒトのこと、どういう変質者だと思ってるのかな〜?」


「ひっ、ぃい!?」
「噂をすれば、出たな。」
 シンジの背中をツーっと指でなぞり、ゾゾゾッとさせているツムグから、宮宇地はシンジを庇い、背中に隠した。
 長すぎず、短すぎない赤い色に金が混じった独特な髪を揺らし、ケラケラとおかしそうに笑うツムグに、宮宇地は頭痛を覚えた。
「ヤッホー、おひさ? でもって、元気になって良かったね、碇シンジ君?」
「えっ?」
「会うのはこれが初めてだから、一応自己紹介するよ。俺は、椎堂ツムグ。よろしくね。」
「よろしくはないぞ?」
「つれないな〜。まあ、嫌われてるのは知ってるけど。」
「何しに来たんだ? ただの自己紹介のためだけに来たわけじゃないだろ?」
「はいはーい、その通りでーす! 次のワゴン販売いつ?」
「明日の午後からだが?」
「買い物リスト送っとくからお願いね。」
「それだけか?」
「それだけだよ。じゃあね、販売員の宮宇地さん。」
 そして、ツムグが消えた。
「き、消えた…?」
「テレポートだ。アイツの得意技だ。」
「なんか……。」
「だいじょうぶか?」
「……分からないけど、気味が悪いというか…。なんなんだろう? この変な不快感というか…。」
「アイツに対して、好印象を持つって輩はそうはいない。なぜだか分からないがな。……ああいう奴だから、今後気をつけろ。いいな?」
「はい…。」
 宮宇地は念を押して言うと、シンジは怯えた様子で返事をした。そんなシンジを落ち着かせようと宮宇地はシンジの頭を撫でた。





***





 地球防衛軍は、自衛隊のように予備、あるいは候補として普通の一般人でも受けられる試験や訓練を実施している。
 軍事機密に大きく関わることはできないし、やれることもボランティアに近いが、場合によっては直々にスカウトや、希望があれば正式に地球防衛軍の一員になれる試験も可能である。ただし、正式に受けるとなると学生であれば学校を、社会人として会社勤めなどしてれば会社を辞めなければならない。
 鈴原トウジ(14歳)は、予備候補になるべく、今年の試験会場に来ていた。
 トウジのように若くして予備候補になろうと夢見る者は決して少なくはない。勉学や自己トレーニングを経て正式な試験に受ける者、そして予備候補から正式な一員になろうと考える者。思いはそれぞれだ。
 もっとも、トウジの場合は、現役の中学生というのもあるが、本人が早く地球防衛軍の力になりたいという思いが強く、予備候補の試験と訓練があると聞くやいてもたってもいられず、どうどうっと家族が落ち着かせながら来たのである。
 体力には自信はある。だが…、問題があるとしたらやはり筆記試験だろう。トウジは、典型的な体育系(成績のほとんどは体育で稼いでいる派)であるから。
 渡された試験番号に従って会場をウロウロとし、最初の筆記試験会場へ。
 必死に頭を悩ませながら問題を解き、時間切れで焦りながらも筆記試験終了。
 次に体力測定。
 これは自信ありなトウジは、持ってきていた動きやすい服装に着替えて挑んだ。(服装は各自持ってくることになっている。無い場合は、貸し出し)
 持久試験で、大きく出遅れた少年がいた。身体の線が細く、トウジと同じぐらいの年頃だったので、ゼーゼー…っと息を切らしている彼につい話しかけていた。
「だいじょうぶかいな?」
「う…うん…、平気…。……僕、落ちるかも…。」
「なんや? ここまでやっといて泣き言かいな?」
「筆記は…自信あるけど……。」
「なんやねん。それ自慢かいな。わしなんて筆記ボロボロやで?」
「ふーん…。結構簡単だったのに?」
「嫌みかいな…。どーせわしゃ馬鹿や。わし、鈴原トウジゆうねん。そっちは?」
「僕? 僕、碇シンジ。鈴原君も予備候補になるために?」
「当たり前や。なしてそれ以外でココにおんねん!って話やで?」
「それもそうか。」
「わしの夢やねん。」
「なに?」
「地球防衛軍に入隊することや。ほんまなら予備やなんややなくて、キチッとした試験とか受けてぇな、一から頑張るのが一番やねんのは分かっとるねん。けどな…、防衛軍の力になれることなら些細でも良いからって、我慢できんかった。」
「それって、立派だと思うよ。」
「碇はどないして試験に来た?」
「それは……、僕も似たようなモノかな? 僕は恩返ししたいって気持ちが強かったかも。」
「それかて立派な理由やて。」
「そ、そうかな?」
「なんや、これも縁やと思うし、合格したら祝杯一緒にあげようや! 碇の奢りでな!」
「なんで僕が払うことになるのさ?」
「冗談やじょーだん! 炭酸で祝杯や! そや、お互い合格したか分からへんから、連絡先交換しよ!」
「うーん…。」
「なんや? えらい気乗りせんか?」
「イヤじゃ無いんだよ? でも、僕の今の状況だと、相談しないと難しいかなって……。」
「碇は、どこ住んどるん?」
「それは、秘密…にしろって言われてて…。」
「なんやそれ?」
「ごめん、ちょっと聞いてくるから。」
「あっ、おい…。」
 そそくさと人をかき分けて行ってしまったシンジに、伸ばし掛けた手をそのままにトウジは困った。
 少しして、シンジが戻って来た。
「ごめん、お待たせ。」
「早かったな。それで、どないなった?」
「色々と秘密を守れればいいよって。」
「なんやねん? ダチに秘密ってアリかいな?」
「でも、そうしないと鈴原君と連絡はしちゃダメだって…。」
「うー、仕方ないのう…。ほんじゃ、着替えたら試験会場入り口で待っとるからそこで連絡先交換や。」
「…あの……。」
「なんや?」
「ぼ…僕と本当に連絡先交換して良いの?」
「なんやねん、今更なこと言うて…。もうわしらダチ同士や。ええな?」
「う…うん!」
 トウジがニカッと明るく笑うと、シンジは、一瞬目を見開いたがすぐに何度も頷いた。

 その後、すべての試験が終わり、試験会場入り口でトウジはシンジと連絡先を交換し、合否の有無を1週間後に伝え合った。
 結果は、トウジは、筆記試験でギリギリ。シンジは、逆に体力測定でギリギリ。それぞれ合格したのだった。
 だが、結局シンジがいる地球防衛軍側が身柄保護状態のシンジと、一般人のトウジが会うことを許してくれなかったため、コンビニで炭酸を勝手祝杯をするというのはできなかった。
 トウジは、そんなシンジの事情を知らないため、首を傾げつつも深くは追求せずにいた。これがかつて友達として付き合っていた相田ケンスケだったなら、すぐに怪しんで根掘り葉掘り聞いていただろう。そういう意味ではとても運が良かった。シンジもトウジも。両者ともに。





「それは、正史になかった物語。それは、正史に無かった友情の形。それは、あり得たかも知れない物語。」



『おい…、また変な呟きしてるんじゃないぞ?』
「いいじゃーん。今暇なんだし。」
「お疲れ様でぇす。」
「ナっちゃん。」
 三十代そこそこの白衣の女性が小走りで近寄ってきたのでツムグが反応した。
 ナっちゃん。
 ナツエというのだが、彼女はG細胞完全適応者であるツムグの監視役の一人の看護師で、ちょっと(?)マッド。
 なぜかツムグにたいして好意をもってる変わり者である。
「ツムグさん、これどうぞ。うふふっ。」
「わー、ありがとう。」
 ちょっと不気味に笑うナツエから差し入れとしてドーナツを受け取った。
「やっぱ甘いものは脳にいいね。」
 海外からの進出店のとびきり甘くて(歯が溶けそうなと言われる)高カロリーな品のドーナツを食べる。
「うふふ…。よかった。」
 結構可愛いんだけど影が見える不気味な笑い方をするナツエに、ツムグは若干苦笑いを浮かべた。
 人からの好意は嬉しいが、自分なんぞ好きになっても人生無駄にするだろうとツムグは思っているし日頃そう言っているのだが…。
 ナツエがもし普通の人に好意をもったら、確実にたちの悪い方向に行っていたんじゃなかろうかというのを、精神感応で精神構造をうっかり読み取ってしまった時は、相手が人間じゃないツムグだったし、合法的にほぼ四六時中見ていられる環境だったのがよかったと思ったのは黙っておく。
 あとツムグは年齢的に恋愛感情が枯れているのでナツエの想いには応えれずにいる。
 さらに付け加えると、ナツエがツムグにたいして向けるモノは好意以外にもあり、それが問題だった。
「どこに行くんですかぁ?」
「波川ちゃんとこ。」
 テレポートしようとしたら、その瞬間に腕を掴まれた。
「お仕事の邪魔しちゃだめですよぉ。」
「分かってるよ。」
 そう言ってツムグは、背中を向けた。
 そして動こうとした直後、背中にドンッと衝撃が走った。
「……また?」
「……。」
 ナツエに背中から刺されたのである。マジで。グッサリと。
 『あっ、コレ内蔵まで行ったな。』っとのんびり考えながら、ツムグは、背中にメスが刺さった状態でナツエの方に顔を向ける。
 恒例行事化していることである。ものすごい物騒であるが、ツムグだからできることである。
 ナツエの問題。それは、嫉妬深いのである。
 恋愛的な意味でも友愛的な意味でも。なので彼女に好んで近寄る人間はそうそういない。
「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、スーツに穴が空くのと、血が出てるとあれこれ言われるから少し控えてって言ったし、言われなかった?」
「でもぉ…。」
「俺も女の人喋るのは控えるように努力するからさ。それに一番はナっちゃんだよ?」
「それならいいですぅ。」
「ハハハ…。」
 メスを抜かれてすぐに塞がった傷口を撫でて確認しながら、ツムグは苦笑いを浮かべた。

「っていうか、コレ何プレイ?」

『こっちに聞くな。』

 こういう謎のやりとりも恒例行事。



To be continued...
(2020.09.05 初版)


作者(蜜柑ブタ様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで