ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二十三話

過去の残骸

presented by 蜜柑ブタ様


 近頃、尾崎は夢見が悪かった。
「……。」
「大丈夫か、尾崎。」
「えっ? あ、いや…。」
「寝不足すか?」
「ああ、ちょっとな。」
「エキサイトっすか? 恋人さんと、アダッ!」
「アホなこと言うな、馬鹿。」
「アホ馬鹿って言うなっす!」
「ハハハっ…。はあ…。」

 奇妙な夢を見る。

 何か巨大なモノが迫ってくるような、それに捕まったらマズイと感じているから逃げようともがく。

 迫って来るモノの正体は分からない。そこだけ黒くぼやけてはっきりと思い出せないのだ。ただ危険だというのは分かって、逃げるために夢から目覚めようと念じるため十分な睡眠がとれなくなってきていた。

 日に日に距離を詰められているのも感じていた。

 ついに最近では、自分を捕まえようとする相手の手の象が見えるようなった。全体像がはっきりと全部見えてしまったら…。

 本能がそうなったらお終いだと囁いていて、ゾッとした。

「そういえば、風間って明日には帰って来るんだよな?」
「ああ、ロシアの基地の復旧の目途が立つからなぁ。」
「帰ってきたら一番に尾崎と手合わせだろうな。どっちに賭ける? ……って、本当に大丈夫か尾崎?」
「顔色悪いっすよ。」
「だ、大丈夫だ。」
「ほんとかよ?」
「尾崎。…今日はもう上がれ。」
「えっ、でも…。」
「命令だ。倒れられたら元も子もない。」
「分かりました…。」
 顔色の悪さで定時前に帰らされることになってしまった。
 自分の部屋に戻った尾崎は、寝不足で重たい頭を押さえて、ベッドにすぐに横になった。
 せめて少しでも熟睡して寝不足を解消しなければと思い、目を閉じた。
 体が睡眠を欲しがっているのか、恐ろしい速さで眠りに落ちた尾崎を、部屋の隅にいる小さな子供の影のようなモノが見ていた。そして、足音も無く寝ている尾崎に近づき、影は尾崎の上に覆い被さる。





***





『ネーネーネー。』

「なぁに?」
 機龍フィアが収まっているドッグで、今日もツムグは、ふぃあと話をしていた。
 ツムグは、操縦席でくつろぐ姿勢で座っている。
 会話内容は外に漏れていない。
『外、イイ天気?』
「うん。いい天気。」
『毎日、ナツーっ』
「夏だね〜。セカンドインパクトからずっと夏だよ。」
『チキュウの軸ずれちゃったモンね。』
「そーだね。」
『アダ…。』
「ふぃあちゃん。それは内緒。」
『なんで?』
「俺がいいって言うまで内緒。いいね?」
『うん! 分かった! ツムグがイイって言うまで言わない!』
「いい子だ。」
『エヘヘ。ふぃあイイ子。』
「いい子いい子。」
『ワーイ!』
「……。」
 ナツエもそうだが、自分に好意を寄せても無駄な事だからやめた方がいいのにっと常々ツムグは思っている。
 ゴジラがいるから自分がいる。生きている理由はゴジラの存在があるからだ。それ以外にないと思っている。
 細胞だけが必要なら死体で十分であろうし、自我意識がある方が邪魔であるはずだ。地球防衛軍の技術なら体の各部位の細胞をそれぞれ補完すれば事足りる。なのに椎堂ツムグとしてここにいるのは、ゴジラを倒すために他ならない。
 機龍フィアの開発計画は、ツムグの細胞の研究の一環でもあり、放射能の吸収や超再生など持っている能力の割に使い道がほとんどないという利用性の低さを解決するという目的もあった。
 なぜ使い勝手が悪いのかは謎であるが、一時はG細胞の平和利用に最適などと言われてもてはやされたこともあった。
 現在は使徒に有効だと分かったのである意味で平和利用できることは分かった。
 ところで、ふぃあからの好意は、同一の細胞から発生した自我意識だから親子、兄弟感覚から来るものじゃないかと推測している。雛が親を慕う感覚なのではないか。
「ふぃあちゃん。俺のこと好き?」
『スキ!』
「俺はゴジラさんが…。」
『ヤダ!』
「ん? 何がヤダなの?」
『ツムグは、ふぃあの! ゴジラのじゃないもん!』
「ゴジラさんのこと嫌い?」
『キラーイ!』
「そっか。俺にとってゴジラさんは、好きとか嫌いとか越えてるんだよ。ふぃあちゃんには分かんないでしょ?」
『ふぃあ、ワかんない。』
「分かんなくていいと思うよ。俺にもよく分からないから。」
『ツムグもワかんない? ふぃあと同じ〜。』
「たぶん違うだろうけど、同じってことにしようか。」
『同じ同じ!』
 こんな感じで会話を続けていた。
 その時。通信音が鳴ったのでスイッチをオンにした。

『椎堂ツムグ!』

「ん?」
『今すぐ出てこい! 緊急事態だ!』
「なになになに?」
『話はあとだ、さっさと出てこい!』
「ん、分かった。」
『ナニナニナニ?』
「ごめんね、ふぃあちゃん。お話はお終い。ちょっと行って来る。」
『いってらっしゃーい。』
 ツムグは、機龍フィアの外へ出た。

 自分を呼びに来た科学者に連れられ、歩きながら話をした。

「で? 何の用?」
「おまえ…、把握してないのか。珍しい…。」
「何もかも分かるわけじゃないから。」
「尾崎少尉が…。」
「尾崎ちゃんが?」
「目を覚まさないんだ。」
「…は?」

 呼ばれた理由を聞いたツムグは、軽く目を見開いた。





***







 病室に来たツムグは、ベッドの上で意識がない尾崎を見て片眉を吊り上げた。
「こりゃまた…、面倒なことになって…。」
「なんとかなりそうか?」
「やれるだけのことはやるよ。」
 熊坂に聞かれ、ツムグは、肩をすくめた。
 ツムグは、尾崎の傍に近寄ると、片手を伸ばした。
「いっ!」
 しかし触れようとした直後、見えない何かに噛みつかれたように手首に傷ができ出血した。
「なっ!? おい、ツムグ!」
「だいじょうぶだいじょうぶ、傷は浅い。けど…、これ……。」
 熊坂に心配されつつ、ツムグは、尾崎に触れようと噛まれた手を押し出す。
 噛んでいる見えない何かが踏ん張っているのか、傷口がどんどん深くなり、力が入っているので腕が震えた。更にミシミシ、メリメリと見えない歯が食い込んでいく。全然傷は浅くない。
「……ちょっと目ぇつむって。」
「はっ?」
 病室にいる人間達にそう警告すると、ツムグは、放射熱線を放った。
 パンッと弾ける熱線の力が病室に衝撃波をもたらし、部屋のカーテンや布団などがはためいた。
 熱線でツムグの手を噛んでいた何かがいなくなったのか、ツムグの手がようやく尾崎に触れた。
 ツムグは、目をつむり、意識を集中させた。





***





 視界が真っ暗になった。
 何が起こったのか分からない。
 目を開けているはずなのに何も見えない。
 ただ、何かの気配が迫ってきているのを感じた。
 巨大何かだ。
 何かが迫って来るのだが、逃げられない。
 逃げたくても体が動かない。
 このままだと捕まると、分かっても動くことができない。
 もう目の前まできている。
 尾崎は何も見えない中、自分を捕えようとしている何かの衝撃に固く目をつむろうとした。
 その直後、視界が突然破裂するような光で一杯になった。
 視界に映る色が劇的に変化した。
 目の前はどこまでも真っ赤だった。
 果物や野菜のような赤さではなく、生命の中に流れる血のような赤さだ。
 自分がその中を漂っているのが分かる。漂っているということは液体の中にいるということだろう。
 だが不思議なことに息は苦しくなかった。
 ここはどこだろうと思っていると、液体が大きく揺らいだ気がした。
 下の方から何かが浮上してくる。
 浮上してきたモノを見て、尾崎は叫びかけた。

 ゴジラだった。

 ゆっくりと尾崎の目の前を通り過ぎてゴジラが上へ上へと浮上していく。
 すると視界が急に変わった。
 真っ赤な海と思われる場所の中空に変わり、下を見ると、ゴジラがちょうど頭を出したところだった。
 ゴジラは、動く様子がなく、頭の一部を出した状態でじっとしていた。
 どれくらい時間が経っただろうか、ゴジラがゆっくりと目を開いた。
 その目には何の感情もないように見えた。どこか夢心地というか…、意識がはっきりしていないのか。

『夢を見てるんだよ。』

 少年のような声が聞こえた。

『ゴジラさんは今、夢を見ているんだ。この海に溶けた生命の夢を。』

 ……“さん”?

 ゴジラのことをそう呼ぶ奴は尾崎が知る限り一人しかいない。
 しかし知っている人物にしては声が幼い気がする。

『ここは南極。ここでゴジラさんは知ったんだ。』

 なにをっと声に出せないが聞こうとすると。

『セカンドインパクトのことを。あと何がこれから先起るのかを。』

 そう語られた直後、ゴジラの目に怒りと憎悪の火がともり、ゴジラが吠えた。
 尾崎が知るゴジラの鳴き声以上に大きく、殺意に満ちた凄まじい声だった。

『ゴジラさんはね、世界を救いたいわけじゃないんだ。ただ、許せないんだよ。』

 ゴジラが戦うのは世界を救いたいからではないのだと語られる。
 確かにゴジラについての歴史を振り返ると世界のために行動しているとは言い難い。怪獣と戦うのだって敵対するきっかけがあったからそうなったというわけだから、使徒を攻撃するのも何か理由があるのは間違いない。
 これまで現れた使徒が直接ゴジラにちょっかいを出したとかで敵対心を煽ったわけではない。
 南極で眠らされていたゴジラが、使徒アダムから発生したセカンドインパクトの破壊で叩き起こされて、そこから原因とサードインパクトのことを知ってしまったというダブルパンチで現在の状況になったということだった。
 そりゃゴジラが怒り狂うはずだと尾崎は納得した。いや…、怒り狂うなんてもじゃないのかもしれない…。
 尾崎がそう考えていると、ゴジラが海に沈んでいった。
 力尽きて沈んだのではない。泳いでどこかで眠るのだろう。そして15年後の世界で目覚めるのだ。

『こんなことがあったんだから、ゴジラさんが許してくれるわけがないよね。』

 それはそうだ。そうでなくても南極の氷の中に閉じ込められて眠らされているのだ、そこをあんな起こされ方をしたら許す許さないの問題じゃない。死ななかったゴジラがおかしいぐらいだ。
 セカンドインパクトの大破壊でも死ななかったゴジラに、果たして自分達は勝てるのか?
 そんな疑問が浮かんだ時、視界にノイズが走った。
 それとともに意識が遠のいていくような感覚があり…。


『尾崎! 目ぇ覚ませ!』

 その叫び声が聞こえた時、世界が白い光に包まれた。





***






「…うぅ…う……、ハッ!」

 顔を歪めて呻いていた尾崎がカッと目を覚ました。

「こ、ここは?」
「目を覚ましたか!」
「熊坂士官…、俺は? 一体…。」

「……うぅ。」

「! ツムグ!?」
 ベッドの横にツムグが倒れているのに気づいた尾崎は身を乗り出した。
「…ヘーキ。まったくもう…、心配かけて。」
 ツムグがへろへろ状態でベッドの端に手を掛けながら身を起こした。
「俺の身に何が?」
「ただの睡眠障害。」
「えっ?」
「ちょっと体調が悪くて眠れなくなってただけだよ。別に何か変なものに取りつかれたとかじゃない。睡眠不足なうえに自覚症状がなくって幻覚系の超能力が自分に向けて暴発したから悪夢を見てたんだ。」
「前の実験のせいか。」
 幻覚系の超能力の特訓を兼ねた実験を数日前に行っていた。
「まあ、それもあるかもね。色々積み重なってこんなことになっちゃったわけだからそれが原因とは言い難いけど。例えるなら風邪をこじらせて肺炎になりかけたみたいな? 尾崎ちゃんの脳に溜まってった疲労をこっちに移したからしっかり寝れるはずだよ。ミュータント兵士の疲労が超能力の暴発に繋がるから疲労度の診察を義務付けるべきだね。」
「あの声も幻聴だったのか…。」
「……そうだろうね。尾崎ちゃんの超能力は強くてドツボにはまってたから俺じゃなかったら引っ張り戻せなかったぞ。体調が変だと思ったらすぐに言うこと。いい?」
「分かった…。次から気を付ける。」
 ツムグの言葉に妙な含みがあるような気がしたが、気のせいだと思うことにした。
「すまんなツムグ、部下の体調管理を怠った俺の責任だ。」
「助けが必要ならいつでも呼んでくれていいよ。M機関のみんなのことは好きだし。遠慮はいらないから。」
 ツムグはそう言って笑った。

「尾崎!」
「風間?」

 そこへ病室のドアを乱暴に開けて風間が入ってきた。
 風間はズカズカと尾崎のところに来ると、ベッドの上にいる尾崎を見おろし睨む。
「なんで病室にいやがるんだ?」
「えっと、これはその……。」
「体調不良だとさ。」
「はあ?」
 熊坂の言葉に風間はわけが分からんと声を漏らした。
「ツムグ、大丈夫か?」
 尾崎がぐったりしているツムグに声をかけた。
「なんとか…。」
「なんでてめーがいるんだ?」
「さっき、尾崎の体調不良の原因になってた脳の疲労感をこっちに移したとこ。」
「何してやがるんだ…。」
「詳しいことは熊坂に聞いて。俺…、帰る。」
「おお、休んどけ。すまんかったな。」
「いいよ、別に。じゃっ。」
 ツムグは、ヒラヒラと手を振るとフラフラの足取りで病室から出ていった。
「大丈夫なのか?」
「ま、奴のことだから大丈夫だろう。まあ、とにかく休むことだ。いいな。」
「はい、分かりました。」
「残念だったな風間。せっかく尾崎との手合わせを楽しみにして戻ってきたってのに。」
「違います。」
 笑う熊坂に風間はムスッとしてそっぷを向いた。
 素直じゃない風間はよくこういう反応をする。
「すまない、風間。」
「うるせぇ。とっとと寝とけ。」
 そう言って風間は出ていった。
 熊坂も出ていき、残った尾崎は再びベッドに横になった。

 しっかり休めた尾崎は、後日復帰した。

 なおツムグは、弱点と言える脳に負荷をかけてしまったのでフラフラしていた。それを聞いた尾崎が慌ててお見舞品を持って駆けつける小さい騒ぎがあったりした。





***





 音無は、イライラしていた。
 尾崎がまた倒れた。
 心配する身にもなれといつも言っているのにこの様である。
 原因が訓練と実験による脳の疲労だったと聞いたから完全に尾崎の責任とは言えないのだが、今日はどうにも収まりがつかなかった。
 何回倒れた? もはや数えるのも億劫である。
 自分が傷つくことより他人が傷つくのを嫌う性格なのは熟知していたつもりだ。
 しかしこうも倒れてたらいい加減にしろと殴りたくなる。
 いや、もう殴ったのだが…、それでも改善されないわけで…。
「あああ、もう!」
 まとめて結んでいた髪の毛をかきむしって音無はイライラを露わにした。
 イライラしながら廊下を歩いていると、台車を押しながら歩いてくるシンジを見つけた。
「あ、音無さん。どうしたんですか?」
 音無の様子がおかしいことにシンジは気付いた。
「…シンジ君!」
「えっ! は、はい、なんですか!?」
「ちょっと付き合って!」
「えっ? え、ええええ!?」
 音無に近寄られて手を掴まれてそう言われ、シンジは混乱した。
「買い物付き合って! お願い!」
「あっ…、買い物か…。ビックリした。」
「あ…ごめんね、勢いで。」
「いえ、だいじょうぶですから。なにかあったみたいですけど、深くは聞きませんよ。」
「ありがとう。シンジ君は良い子ね〜。弟にしたい。」
「わっ。」
 感極まった音無にギュッと抱きしめられ、シンジは、ビックリした。






『……サードチルドレンを発見。』


 音無とシンジの姿を遠くから見ているフードを深く被り、能面のような仮面をつけた男が腕時計型の通信機でそう言っていた。
 フードから僅かに覗いた髪の毛は、銀色だった。

『…確保します。』

 仮面の男は、そう言って通信機を一旦切った。
 そして、ツカツカと音無とシンジへと近づく。
「? あなた…どこの…、っ!?」
 音無がその足音に気づいて振り返った瞬間、仮面の男が拳を振って、音無の鳩尾を殴った。
「音無さん!?」
「サードチルドレン、碇シンジ。来て貰うぞ。」
「えっ? わっ!」
 男がシンジの右腕を掴んだ瞬間、男は仮面の下で顔をしかめ、振り向き様に音無の手を踏んだ。
「ぐっ!?」
 音無の手から緊急サインを送る機械が落ちる。男は念入りにその機械を踏み潰して破壊しておいた。
「タフな女だ…。」
「音無さん!」
「……サードチルドレン。この女が無事でいてほしいなら大人しく来い。」
「えっ!?」
「!?」
 男は、シンジを掴んだままついでだとばかりに音無の身体に手を触れると、テレポートが発動されて二人は男に連れ攫われた。あとには、音無が持っていた緊急サインを送るための機械の残骸だけが残った。



To be continued...
(2020.09.12 初版)


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