ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二十四話

粘菌の使徒

presented by 蜜柑ブタ様


 音無とシンジが攫われた時間帯。
 その時間帯に、ある実験が執り行われようとしていた。

 それは、本当にゴジラがエヴァンゲリオンを狙うのかどうか、という実験だ。

 ようするにエヴァンゲリオンをゴジラのエサにしてみて、釣れるかどうか試すだけである。
 そこで、現在乗り手であるチルドレンがいない、参号機が選ばれ、空輸されていた。
 参号機は、空輸されている最中、雲を掠った。
 その時、参号機の装甲に錆色のカビのようなものが生じた。





***





 音無とシンジが攫われて間もなく。

「尾崎少尉?」
「…嫌な予感がする。」



 っと、その時。基地が揺れるほどの爆発が外で起こった。
 鳴り響くサイレンの音と共に、更にゴジラが出現したことを伝える警報音が鳴り響いた。

 なぜゴジラ!?っと、基地にいた者達は一瞬焦った。




 ゴジラは、海からまっすぐに……地球防衛軍・日本基地に向かってきていた。
「なぜゴジラがここ(基地)に?」
「理由を調べるのは後にしろ! 総員、戦闘態勢に入れ!」
「防衛ラインを突破させるな!」
 第三新東京を目指さず、基地に向けて進撃してくるゴジラに地球防衛軍はすぐに戦闘態勢に入って応戦した。

 ゴジラの雄叫びが基地まで届くほど響いた時。
 戦艦を収容しているドッグから爆発が起こった。
 そして煙の中から、火龍がゆっくりと浮上した。
 基地の爆発の原因は、火龍である。

「火龍!? 出動許可は出ていないぞ!」
「待て! ドッグを爆破させたのは火龍なのか!?」
「船員は誰も乗っていません!」
「なんだと!? じゃあ、なぜ動いて………まさか…。」

 いきなり動き出した無人の火龍が、砲塔を出して、基地に攻撃を行った。
 その砲塔にはネバネバとした筋のようなものが張り付ていた。

「パターンブルーを検出しました! 使徒です!」
「今度は戦艦を奪われたのか!!」
「全軍に通達! 火龍…、いや使徒を迎撃せよ!」
「ゴジラが基地を狙ったのは、このためだったのか!」

 ゴジラは、いち早くそれに気づき使徒が潜んでいる場所、つまり地球防衛軍の日本基地に向かって来たのである。

 宙に浮いた火龍からの砲撃が続いている。
 地球防衛軍が応戦して砲弾を撃ち込むと、火龍の周りにATフィールドが発生し防がれた。
 火龍が撃ってくるミサイルに弾切れがないのかどんどん撃ってくる。これも使徒のなせる業なのだろうか。
 ミュータント部隊が超能力を使いミサイルの弾道を曲げて防いだり、撃ち落とすなどでして基地への被害を抑えようとした。

「機龍フィアの出動はどうした!?」
「椎堂ツムグがヘロヘロで操縦ができんらしい! こんな時にあのバカは!」
「轟天号を出します。」
「し、しかしまだ修理が終わったばかりでは?」
「一刻を争います、急ぎなさい。」
「は、はい!」

『おい、いつまで待たせる気だ?』

 そこへ通信が入り、ゴードンの声が響いた。
「準備は万端なようですね。」
『あったりめーだ。さっさと発進許可を出しな。』
「ゴードン大佐、許可もなく轟天号に乗り込んだのか!』
「轟天号出動。目標は、使徒に乗っ取られた火龍の殲滅。徹底的にやりなさい。」
「波川司令! 火龍を完全に破壊するのですか!?」
「それ以外に方法がありますか?」
「う…。」
 波川にじろりと見られ、司令室の人間の一人が言葉を詰まらせた。
「科学部から使徒の名は、バルディエル、粘菌型の使徒だというデータが届きました!」
 なお、使徒の名前とタイプの情報をもたらしたのは、機龍フィアのDNAコンピュータ・ふぃあである。
「微生物の次は、粘菌…。まったく同じタイプの使徒はいないのね。」
 波川は、これまで現れた使徒がどれも被っていないことについて、息を吐いた。
「…気味の悪い存在だわ。」

 怪獣のような生物らしさというか、そういうものが感じられず突然現れ、何を目的に行動しているのかも不明で、倒さなければ世界が終わるという曖昧な情報だけしかない謎の生命体。
 それが、使徒と呼ばれているモノだ。

「そして、なぜゴジラは、その使徒を敵と認識しているのか……。」
 波川は、ゴジラがなぜ使徒を敵視しているのか、その理由を知らない。
 ツムグが何か知っていそうなのだが、喋ろうとしない。
 ツムグは、色んなことを知っているはずだ。だがあえて喋ろうとしない。
 ツムグの力を最大限に使えば、すべての物事を自由にすることができるだろう。
 だがそれは望まれぬことだ。そんなことではダメなのだ。
 ゴジラは、人間が生み出してしまった。これは人間が立ち向かわなければならない問題だ。
 すべてを見聞きできるツムグの力を使うことは人間が受けるべき試練を台無しにしてしまう。それは成長を妨げ未来を台無しにすることに繋がる。
 機龍フィアのシンクロシステムを普通の人間でも操縦可能にしようとする試みもそのためだ。
 本当ならツムグを乗せて戦わせたくはない。だが現状はツムグを戦わせなければゴジラの迎撃が難しいのだ。
 使徒を迎撃する時もあまりの得体の知れなさから意見を求めなければならない時だってあった(レリエルの時)。
 ツムグが知っていることを喋らないのは、波川のその心中を知っているからだろう。だが急を要することは伝えてくる。おかげで大惨事を防げるわけだ。
 ツムグは、いつか自分が必要とされなくなることを望んでいる。
 いつか自分が死ぬことを夢見ているのではないかと思われる。
 だからああも悟ったような口ぶりをするし、何をされても受け入れるのだ。
 ツムグがいない世界…。
 波川はそれを想像するが、想像できなかった。
 それほどツムグがいる日常が当たり前のようなっていたのだ。
「彼のいる日常が、いつの間にか普通になっていたのね…。」
 波川は、そっと微笑んだ。
「轟天号と火龍の戦闘が始まりました!」
「ゴジラが熱線を吐きました! なっ…。」
 ゴジラが防衛ラインの途中から遠距離で熱線を火龍・バルディエルに向けて放った。
 しかしバルディエルのやや上の方に命中したかと思うと、熱線は緩やかな斜め方向に弾かれた。
「あれはATフィールド!? しかしゴジラの熱線はATフィールドでは防げなかったのでは!?」
「あの使徒のATフィールドがこれまでの使徒の中でトップクラスに強固だということか!?」
 確かにバルディエルのATフィールドは固い。
 しかしゴジラの熱線を完全に防げるほど固いのではない。
 ATフィールドを一点に集中強化したうえで、ATフィールド斜めにし、船体も斜めにすることで熱線を受け流したのである。だから斜めといっても緩やかなものになったのである。
 使徒なりの対ゴジラ対策であった。
 ゴジラもそれには驚いたのか、鼻を鳴らした。
 するとそこへ、若干ふらついているように見えなくもない機龍フィアが登場し、ゴジラと相対した。





***





 火龍・バルディエルを前にした轟天号は、敵の出方を待った。
 バルディエルが轟天号が来た途端に砲撃を止めたからだ。
 まるでこちらを観察しているような…、そんな感じがする。
「粘菌型とはまた…、気味の悪い使徒ですね。」
「……風間! 来るぞ!」
「はっ!」
 次の瞬間、バルディエルからミサイルが数発発射された。
 それを間一髪で逆噴射して後ろにずれることで避けた。
 ミサイルは、追尾式でないはずなのに、轟天号を狙って飛んできたので撃ち落とした。
 撃ち落すと爆発とともに粘菌のようなネバネバが燃えるミサイルの残骸に張り付いていた。
「野郎…、轟天号まで乗っ取る気だな。」
「ま、まさか、そんな! それはマズイのでは!? このままではこちらまで。」
「接近し過ぎんじゃねぇぞ。」
「ラジャー。」
「艦長!」
「倒せりゃいいんだ、倒せりゃな。」
 そう言って豪快に笑うゴードンに、副艦長は溜息を吐いた。
 再びミサイルを発射してきたバルディエルだが、そのミサイルをプラズマメーサーで焼き落とす。
 バルディエルは、ブレードメーサーを展開し、轟天号に急接近を試みようとしてきた。
 風間の操縦で絶妙な距離を保ちながら、轟天号は応戦するべく砲撃を開始した。
 メーサーが弾かれるのを見て尾崎が驚愕したが、すぐにATフィールドの向きやバルディエルの船体の向きが関係しているのを見破り、高出力のメーサーを撃って弾かせた隙をついて、他の向きから攻撃を加えた。すると防がれることなくバルディエルに命中した。
「科学部からの報告! 火龍の動力炉付近に動力炉とは異なる高エネルギー反応があり、そこにコアがある予想されるとのことです。」
「船の中心か…。」
「中心に攻撃を届かせるとなるとやはりドリルのメーサー砲でしょうね。しかしあのATフィールドの張り方と使い方では、弾かれてしますよ? かと言ってドリルアタックは…。」
「できるわきゃねーだろうが。奴に乗っ取られる。」
「ですよね。」
 そんなやり取りをしている間にもバルディエルがまたミサイルを飛ばしてくる。
 どうしても轟天号を乗っ取りたいらしい。
 それを撃ち落しながら攻撃は続いた。
 バルディエルは、ガバッと口を開くように縦に割れ、轟天号に向かって来た。
「! 見えた!」
 その口の奥にコアらしきものが見えたのを見逃さなかった。
 轟天号がバルディエルを避けると、バルディエルは、旋回して轟天号の後ろから噛みつこうとまた襲って来た。
 轟天号が逃げるとそれを追いかけてきた。
「後ろから追ってきますよ!?」
「右に回れ!」
「えっ!?」
「いいからやれ!」
 ゴードンの指示で右に舵を取ると、その直後、轟天号を掠るように…。

 機龍フィアのミサイルの流れ弾が通り過ぎ、バルディエルの口の中に入った。

 口の中、それでいてコアのところで爆発したことにより、バルディエルは悲痛な鳴き声を上げ、地面に落下した。


 バルディエルが地面の上でもがいていると、バルディエルの周りに放水車が集まってきた。

「放水開始!」
 その合図により放水が始まった。

 G細胞完全適応者(椎堂ツムグ)の体液入りの水を…。

 バルディエルは、声にならない叫び声をあげた。
 もうもうと煙が上がり、ブスブスと焼け焦げていく。
 4分の1くらい焼け爛れたところで、グググッとバルディエルの内部から盛り上がってきたものがあった。
 それはコアだった。
 バルディエルは、コアを出すと、粘菌状の身体と取り込んでいた火龍を残してコアを上空に超高速で飛ばした。
 その上空には轟天号がいた。
 コアから蜘蛛の巣のように粘菌が噴出され、轟天号のドリルに張り付いた。
「艦長! 使徒が! 轟天号が乗っ取られる!」
「尾崎、撃て。」
「ラジャー!」
「えっ、尾崎! 待て!」
 副艦長が止める間もなく、尾崎が兵器の発射スイッチを押した。
 轟天号からミサイルが発射され、コアが張り付いたドリルに命中。
 粘菌が散り、コアがプラプラとドリルに引っかかっている状態になった。しかしそれでも意地でバルディエルは、轟天号に張り付こうとした。すでにコア近くに当たった機龍フィアのミサイルとツムグの体液でかなり弱っている。
 粘菌の体には、液体が染み込みやすかったらしい。
「メーサー砲用意!」
「ラジャー!」
 ドリルにエネルギーが集約され、メーサー砲の準備が整った。
「発射!」
 尾崎がメーサー砲の発射スイッチを押した。
 ドリルに集約されたエネルギーが放出され、バルディエルの中心を撃ち抜いた。
 撃ち抜かれた中心、つまりコアは、砕かれ、要をであるコアを失ったことで粘菌状の身体を維持できなくなり硬質化したバルディエルの体の組織はボロボロと崩れていった。
「パターンブルー、消失。」
「使徒の殲滅を確認。」
 轟天号のオペレーター達が使徒の殲滅を伝えた。
「……あっけねぇな。」
 ゴードンは何か腑に落ちないと言う風に呟いた。
「そうでしょうか? 十分厄介な敵だったと私は思いますが?」
「ゴジラは?」
「機龍フィアと交戦中です。」
「エヴァンゲリオンはどうなっている?」
「? エヴァンゲリオン参号機は、いぜん東京湾に…、……!? 参号機の反応消失!」
「ちぃっ! 面舵いっぱい! 第三新東京を目指せ!」
「艦長、一体何か!?」
「火龍はデコイだ! 本物の奴は参号機の方だ!」
「馬鹿な、エヴァンゲリオンが!?」
「本部からの通達! 轟天号は速やかに第三新東京に急行せよと!」
「ゴジラが機龍フィアを振り切って第三新東京を目指し始めました!」
「今回は騙されたぜ…。」
 ゴジラも地球防衛軍も、使徒バルディエルに騙されたらしい。





***





 その頃、第三新東京の…跡地?
 度重なる戦いで原形をとどめていない第三新東京に、不気味な雰囲気を醸しだしながら、参号機に取り憑いたバルディエルが歩いてきた。
 そのバルディエルを迎え撃つべく、弐号機と四号機が地上へ送り出された。
『み、ミサトさん! あれって…エヴァンゲリオンですよね!?』
『相田君! 敵はもう目の前よ。集中して!』
『て、ててて、敵って…?』
『メガネ! ボサッとしてるんじゃないわよ!』
『け、けどぉ…。』
『死にたいの!? なら勝手にしなさい! 死ぬなら役に立ってからね!』

 するとバルディエルが口を大きく開けて、咆吼した。
 ケンスケがその咆吼にビクッとなった時、バルディエルは、四つん這いになり、獣のように走ってきた。

『でやああああああああ!!』
 アスカは、斧型ブレードを手にして迫ってきたバルディエルに振り下ろした。
 参号機の頭を切り裂くブレードは、頭の半分くらいで止まる。そして切断面から粘液が飛び出て、斧型ブレードに絡みついた。
『くっ!』
 バルディエルが腕をムチのように伸ばして振るってきたため、アスカはやむを得ず斧型ブレードを手放して飛び退いた。
 バルディエルは、空いてる手で頭に刺さった斧型ブレードを掴み、引っこ抜いて、今だ棒立ちの四号機に向かって投げた。
『うわっ!』
 粘液まみれの斧型ブレードを寸前で躱したが、左腕を擦った。その傷口から粘菌型の使徒の一部が侵食した。
『うわああああああああ! 腕が!』
『左腕部(さわんぶ)! 切断急いで!』
 四号機が左腕の付け根から切り離された。粘菌に侵された四号機の腕は、ひとりでに跳びはね、バルディエルに引っ付くと、バルディエルの腕になった。
 ケンスケは、シンクロ状態での左腕の切り離しの衝撃と痛みに、悲鳴を上げていた。
『たかが左腕程度でうるさいわね!!』
 アスカは、イライラしながら叫ぶ。
 そして弐号機を操り、バルディエルと殴り合った。
『死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ!!』
 結果を浮かせ、怒鳴り散らしながらアスカは、バルディエルを殴り、蹴った。
 ボコボコになっていくバルディエルだったが…、不意にあり得ない動きで首を動かし、口から粘菌を吐き出した。
『ぁっ…!? あ…!』
 粘菌を咄嗟に右腕で防ぐと、あっという間に浸食を受けた。
『右腕(うわん)! 切り離し!』
『ぐぅうううう!』
 ミサトのその命令が聞こえたと同時に、弐号機の右腕が切り離された。胴体に浸食されるギリギリであった。
 ボコボコになっていたバルディエルの姿があっという間に修復され、背中から翼のように粘菌の腕が生えてきた。そして腕のひとつが弐号機の頭部を殴り飛ばした。
『ご…っ!』
『そ、惣流だって人のこと言えねぇじゃねーかよ!』
『!』
『ああああああああああああああああああ!!』
 ブロッシングナイフを右手に手にした四号機が、横からバルディエルの目を抉った。
『だ、だいぶコツは掴んできたぞ! 強く…そうだ! 強く考えればその通りに動くんだ!!』
 四号機は今までの体たらくがウソのように良い動きでバルディエルの攻撃を回避しながら、ブロッシングナイフでバルディエルを切りつけた。
 確かに訓練の練度から言えば、ケンスケはアスカにまったく及ばない。
 だが、ケンスケは、オタクだ。オタクを悪く言うわけでないが、想像力だけで見たらケンスケはずっとアスカを上回るのである。
 最近上がり始めたシンクロ率に乗って、その想像力が反映され、四号機は片腕がないにも関わらず凄まじい活躍を見せた。
『前から思ってたけどさ! 役立たずだの死ネだのなんだのうるさいだよ! 僕だってなぁ、男なんだ! やるときゃやるってとこ見てろ!』
 ケンスケは、キレ気味で叫びながらバルディエルを攻撃し続ける。
『死ぬなら、お前が死ねよ、惣流!』
 調子に乗って禁句とも言える言葉を吐き出していた。
 その瞬間、アスカの何かがキレた。
『うるさあああああああああああああああああい!!』
『グゲッ!?』
 まさかの弐号機からの鋭い蹴りを受け、四号機が腹に重い一撃を受けて吹っ飛び、倒れた。
 エントリープラグ内では、下手にシンクロ率が上がったため、痛みも同時に感じるようになったケンスケが泡を吹いて気絶した。
『アスカ! なんてことを!』
『うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! コイツ…、私に向かって死ねって言ったのよ!! この役立たずのクソメガネが!!』
 アスカは、髪を振り乱して狂乱した。

 その時、ゴジラの咆吼が聞こえた。

 バルディエルは、ピタッと止まり、顔を上げて首を捻るようにしてフクロウみたいに回してゴジラの方を見ると、倒れている四号機も膝をついている弐号機も無視してゴジラの方へ移動し始めた。
 ハッとしたアスカが左腕を伸ばすが、バルディエルを掴むこと無く、その手は空しく空を切った。



To be continued...
(2020.09.12 初版)


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