第二十八話
初恋は結ばれて
presented by 蜜柑ブタ様
「…っっっ!」
ツムグは、手術用ベットの上で顔を両手で押さえてゴロゴロ転がっていた。
「……なに悶絶してやがるんだ。」
「いやぁ…、甘酸っぱい展開があったからさぁ…。」
ついには感涙までするので、手術着姿の研究者は気持ちわりぃな…っと呆れ返った。
「お前は、昔も今も、何が何だかさっぱりだ。」
「で、使えそう?」
「切り替え早いな。それについては無問題だ。…腹立たしいほど素晴らしい結果だ。」
今やっている作業と検査は、ツムグの骨髄細胞を抜いて、レイを人間にする実験に使えるかどうか調べることだった。
結果は、問題なし。
レイから採取した細胞に使用する実験が近々行われる予定だ。
「科学部的には、あの子のこと、どうしたいわけ?」
「それをおまえに言う必要があるんだ?」
「聞いてみただけだよ。」
「他の連中がどう考えてるかは知らんが、おまえの体液で全身の細胞が作り変わった初の生きた症例として記録には残るんじゃないか?」
「あの子が人間として生きていくぶんには問題なしっぽい?」
「さぁな、そっちは専門外だからなんとも言えないが、隔離する理由がないんならそうなるんじゃないか?」
「そっか。」
ツムグは、手術台の上で寝返りを打った。
研究者から見えない位置で、笑った。
「…ひとつ気になることがあるとしたら…。」
「なになに?」
「あの少女は…、月経がないらしい。つまり子供が作れないということだ。おまえの細胞の投与が行われたらどうなるか分からんが。今のままだと将来的に支障が出るんじゃないか?」
「その点は問題ないと思うよ。」
「おまえがそう言うならそうなんだろうな。」
そこら辺は変な意味で信頼はある。それもこれもツムグの予言の的中率の高さ故だ。
レイの体に、ツムグの細胞を投与する実験は着々と進んでいった。
「おーい、椎堂ツムグはいるかー?」
「はいはーい、いるよ〜、な〜に〜?」
「波川司令がお呼びだ。」
「分かった。ありがと。」
ツムグは、飛び起きるようにして手術台から降りて部屋から出て行った。
「なあ、聞いたか?」
「なにが?」
ツムグを呼びに来た男が、話しかけた。
「ほんとかどうかまだはっきりしてねぇんだけどな…。実は…。」
ヒソヒソと話された内容に、話しかけられた側は目を見開いた。
「なに〜!? 世界ロボット競技大会!」
「声、でけぇよ。」
「ま、まさか…、あいつが呼ばれたのって…。」
「そうなんじゃないのか? はっきりしてねぇんだけど。」
「…機龍フィアって100パーロボットじゃないぞ?」
「そこらへんはうまく誤魔化すんじゃないのか? 知らねーけど。」
***
一方そのころ。
「………そんなところで何をしている?」
風間は、通路の隅で座り込んで体を小さくさせているレイを見つけた。
レイは、びくりっと震えて顔を上げた。
もとから赤い目を赤く腫らし、頬に涙の痕を作ったレイの顔を見て風間は顔をしかめた。
「泣いてたのか?」
「あ……。」
「何があった?」
尾崎と違い遠慮のない口調で風間は語りかける。
レイは、少し怯えながらポツリポツリと何があったのか話し始めた。
話を聞いた風間は、呆れたように息を吐いた。
「それでこんなところでベソベソしてたっていうのか? おまえは何がしたいんだ?」
「私…は…。分から…ない。」
「シンジに好きって言われて、おまえはどう思ったんだ?」
「どう……。」
レイの目からまた涙が零れた。
「なんで…涙が……。」
「………嫌だったのか?」
風間が聞くと、レイは、ふるふると首を横に振った。
風間は、イライラとした様子で頭をかいた。
「そいつは、嬉し涙だ。」
「うれし…?」
「涙ってのは、嬉しくても出るんだよ。」
「私…、碇君に……、言われて…、嬉しい?」
「それはおまえの気持ちだ。俺が知るわけない。」
「私の気持ち…。」
「…言ってくりゃいい。」
「えっ?」
「どーした? シンジに返事をしないままでいる気か? 告白されたんなら、好きか嫌いか返事を返すのが常識だ。行ってこい。」
「でも…。」
「いいから、行ってこい!」
風間の苛立った声にレイは、ビクッとなったが慌てて走って行った。
残された風間は、ヤレヤレと後頭部をかいた。
「へ〜え、風間少尉ってばやるじゃない。」
「うぉ! 音無…博士。それに尾崎!」
後ろから音無の声がして驚いて振り返ると、音無と尾崎がいた。
「風間がレイちゃんの背を押したんだ。」
「俺は別に…。ただイライラしただけだ。下手に長引かせて拗れるよりは、マシだろ…?」
ばつが悪そうにそっぽを向く風間に、尾崎は終始ニコニコしていた。
「それにしてもシンジ君がレイちゃんに告白か…。うまくいくといいわね。」
「そうだな。」
「……。」
音無と尾崎は、純粋に二人の恋の成就を祈り、風間は風間でレイを導いたことに今更ながら照れ臭くなり、ぼりぼりと頭かいていた。
***
シンジが自分に与えられている寮の部屋に帰ろうとしていた時だった。
「碇君!」
「綾波?」
走ってきたレイに、シンジは驚いた。
「どうしたのさ?」
レイは、走ってきたため息を切らしていた。
「……き…。」
「えっ?」
「…碇君…の……こと…。」
レイの目から涙が零れた。
表情が乏しかったレイの顔は、涙でくしゃくしゃになった。
「…す…き。」
「……えっ!? 綾波…、今、なんて…。」
「いかり、君が…、しゅ…き……、好きっ。」
レイは、目をこすりながら必死に言葉を紡いだ。
シンジは、目を見開き、ポカンッと口を開けた。
「私も……、好き。碇君が好き。」
頬を染めて、泣きながらレイは、…笑った。
「あ、綾波…! ほ、ほんとに?」
シンジの顔が真っ赤になった。
レイは、こくりっと頷いた。
「ほ、ほ本当に、いいの?」
「なにが?」
「僕なんかで…、いいの…?」
「碇君だから。」
「あ、綾波〜!」
感極まってレイの肩を掴もうとしたシンジだったが。
っとその時。
ぐうううっという腹の虫が鳴った。
「……、お腹すいた。」
レイのお腹だった。
検査のため絶食していたためだ。
地球防衛軍に来てからというもの、結構食いしん坊になっていた。
「あは…は、はぁ。なんか作ろうか?」
雰囲気が壊れたため、シンジは、ふらつきそうなりながらそう言った。
「卵丼。」
賄いで食べて以来、レイのお気に入りの料理だ。
「分かった。作ってあげるよ。」
「うん。」
レイは、嬉しそうにこくりと頷いた。
シンジは、自分の部屋にレイを招き、卵丼作った。
「いただきます。」
両手を合わせて、レイは、箸を丼に向けた。
箸で、出汁で煮込まれた半熟の卵とご飯を持ち上げ口に運ぶ。
「…美味しい。」
ホワンッと、素直な自然な表情を浮かべるレイ。
食堂で働き始めてから、美味しい物を食べるのが幸せなことなんだと知ったらしい。
「おかわりいる?」
「うん。ねえ、碇君。」
「なに?」
「私が人間になったら…、またサンドイッチを作って、食べたいの…。碇君と一緒に。」
「綾波…。うん。いいよ。」
「私、生きたい…。碇君と一緒に…、生きていきたい。」
「僕も…、綾波と一緒に生きたい。」
レイとシンジは、見つめ合った。
「碇君…、あのね。」
「なに?」
「…………怖いの。……だから…、触って。」
レイがもほんのり頬を染めて言った言葉に、シンジは、吹きだしかけた。
「ええええ!? 綾波、どういう意…。」
「こう。」
シンジが混乱していると、レイは、シンジの両手首を掴んで引っ張り、ちょうどレイの体を抱きしめるような形に持って行った。
「あ、綾波!?」
「こう……ぎゅ? して。」
「っ!」
つまり抱きしめろと言われ、シンジは、真っ赤になって固まった。
レイが、上目づかいでシンジに潤んだ目を向けてくる。
シンジは、呼吸が乱れそうになるのを押さえながら、レイの体を抱きしめた。
その体の細さに驚き、レイの体温が低いことにも驚かされた。
でも…、密着した個所から、レイの鼓動の速さが伝わってきて、シンジは、たまらずゴクリッと唾を飲んだ。
「碇君…、あったかい。」
レイがシンジの体にスリスリッと頬をこすりつけてきたため、シンジは、顔真っ赤かなり、悶絶しそうになった。
「碇君、実験が始まる時も、またギュッてして。」
「う…、うん。」
落ち着けー、自分落ち着けーっと心の中で自分に言い聞かせながらシンジは返事をした。
「碇君にギュッしてもらったら、怖くなくなってきた。」
「そ、そう、よかった、ね…。」
「…ずっとこうしていたい。」
「……ぼ…、僕も…だよ。」
二人はしばらく、抱きしめ合い続けた。
それが終わりを告げたのは、火にかけていた卵丼の出汁が焦げた匂いが部屋に充満してからのことだった。
***
「いや〜、めでたいめでたい。」
「どうしたの?」
「ちょっとね。それはそうと、波川ちゃん、マジで機龍フィアを大会に出すの?」
波川の執務室で、ツムグは波川の机に腰かけながら言った。
ついでにM機関の売店で買った駄菓子をポリポリと貪ってもいる。(※波川にも分けている)
「MOGERAも出します。」
「地球防衛軍の宣伝のためとはいえ、対ゴジラ兵器を出さなきゃいけないのかぁ…。」
「一般へのお披露目でもあるわ。機龍フィアにたいする反感を少しでも緩和できればと。」
「…使徒にやられた時(※使徒イロウルに乗っ取られた)に、街中を突っ切っちゃったから…。」
あの時の被害から、機龍フィアへの反感と、その運用反対を掲げる運動が起っている。
「3式機龍の時もそうだ。街中で暴れたし。」
「その反省を踏まえての4式開発計画だったのよ。」
「使徒はどうしようもなかったわけだけど、一般人は納得しないよね。どこかにぶつけないとやってられないわけだしね〜。」
「競技大会で、メインとして、機龍フィアには、模擬戦を行ってもらうわ。」
「対戦相手は?」
「ジョットアローン。通称、JA。」
「…秒殺しないように心掛けるよ。」
名前を聞いた時点で勝負にならないと思ったのは、黙っておく。
「お祭りと思って気楽にやりなさい。」
それは波川の方も思ったことらしい。
「あっ、ふぃあちゃんがそこらへんのこと理解してくれるかどうか分かんないから、事前に話しとくよ。」
「うまく制御しなさい。」
「…がんばる。」
ピシッとツムグは、敬礼した。ちなみにツムグには軍位はない。地球防衛軍に貢献しているが、正式には地球防衛軍に監視されている身であって、兵隊とかでもなんでもないのだ。
機龍フィアのDNAコンピュータに宿る自我意識“ふぃあ”をいかにして、暴走しないようにするか。そこら辺が鍵になりそうである。
***
第三新東京で、バルディエルに乗っ取られたエヴァンゲリオン参号機は、ゴジラに惨殺された。
そして、ゴジラに破壊されたエヴァンゲリオン初号機。
「これ…、回収する意味あったのか?」
ゴジラの熱線で超ウェルダンの焼き加減の初号機。ウェルダンってか、炭とも言うか?
初号機の方は、散々潰されて原型がないうえに、ゴジラの放射熱線でとどめとばかりに焼かれたため、もはやこれが初号機だったと分かる人間はいないというありさまである。
辛うじて骨だったと思われる箇所が残っていたことと、ネルフを守る要である特殊装甲板の修理のため重機が入った際に、抉ってみると生の組織が出たことから回収が決定され、運び込まれたのである。
炭化した部分を剥がすと、確かに生きた細胞と思われる物が出てきて、面白い物が見つかったとマッドな科学者達は喜んでいた。
ところで、なぜゴジラがエヴァンゲリオンを無視したかについては、ツムグは。
「俺、あの時蒸し焼きされてる真っ最中で、ゴジラさんの思考を見る余裕なかったんだ…。」
機龍フィアの中から引っ張り出された時の惨状を思えば、余裕がなかったのだろう。
ツムグは、すごく落ち込んでそう答えたのだった。本当は蒸し焼きされただけじゃないのだが…、頭クラクラだったことは蒸し焼きの段階で忘れられた。
ツムグがあの時のゴジラの思考を読み取っていない以上、なぜ弐号機と四号機を無視したのかその理由は謎のままになった。
二人のチルドレンであるが、あれからアスカは牢屋から出されたものの、ケンスケを見つけると殺しに行く勢いで襲いかかるため完全に二人を会わせないという決定がされ、ケンスケは、ホッとし、アスカは、自分よりケンスケなのかと塞ぎ込み、かなり面倒なことになっている。
ゴジラに無視され命拾いしただけなのだが、ケンスケは、きっとゴジラは自分を恐れてるんだっとか、自分は英雄(ヒーロー)になれるんだっとか、トンチンカンなことを言っているが、保護者をしていたミサトがいない今、話をまともに聞く相手はいなかった。それでもベラベラと増長した妄言を吐く様は、一種狂っていると言っていいかもしれない。
To be continued...
(2020.09.12 初版)
(ながちゃん@管理人のコメント)
はい、まるでダメなおっさん終了〜。ユイも自業自得とは言えアホな子。ただ初号機の細胞(?)が残ってたのは何かの伏線かな。それにつけてもゴジラさんは何を考えてるのかわからないですねぇ(良い意味で)。これからいろいろツムグとリンクしていって解明されるのかな。ケンスケはっちゃけました。最高です。結果、アスカが鬱展開に。彼女はこのままリカバリーされないままケンスケの咬ませ犬と化すのでしょうか?(汗)
物語はいよいよ佳境に!執筆期待してます!
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