ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二十七話

少年少女の想い

presented by 蜜柑ブタ様


 M機関の食堂のおばちゃんこと、志水(しみず)は、気になっていた。
 レイの様子がおかしいのである。
 本人は隠しているのだろうが右腕を庇うように動いているのである。
「レイちゃん。右腕どうしたの?」
「…なんでもないです。」
「嘘おっしゃい。さっきからずっと庇ってるでしょ。」
「…なんでもないです。」
「……今日は帰りなさい。時間給とはつけておくから。」
「…平気です。」
「いい加減にしなさい!」
「っ!」
 志水に右手首を掴まれ、レイは顔を一瞬歪めた。
「見せてみなさい!」
「やめ…っ」
 レイが止める間もなく袖をまくられた。
 右腕の半分以上が赤く腫れていた。
「これどうしたの? 火傷?」
「……。」
「…悪いけど、今から医務室にこの子連れて行くからよろしくね。」
「あっ…。」
 志水はその場にいた者達にそう言い、レイを引っ張って食堂から出ていった。
 医務室に連れてこられたレイの顔色は悪い。
 なにかに怯えているようなそんな雰囲気がある。
 レイの腕を診察した医者は。
「熱湯でも浴びたのかい?」
「いいえ…。」
「それか劇薬を被ったとか。」
「いいえ…。」
「治り始めていて、この分なら跡も残らないでしょう。」
「それはよかったわ…。」
 傷跡が残らないと聞いて志水はホッとした。
 レイのような若い子に傷が残ったら大変だと心配していたのだ。
「薬を出しておくから患部に一日三回塗って様子を見てね。水仕事や重い物を持つ仕事は控えるように。」
「はい…。」
 レイは、少しホッとした様子だった。
 その様子を志水は少し怪訝に思った。


 その後、レイは、シンジが寝ている病棟にお見舞いに行った。





***





 数日の昏睡の末、目を覚ましたシンジは、左手に温かい物があることに気付いた。
「…綾波?」
 怪訝に思って横を見ると、ベッドの端で椅子に座ったレイが頭をのせて寝ていた。
 温かさの正体は、シンジの手を握るレイの手だった。
 スウスウと静かな寝息を立てて眠っているレイの寝顔。
 シンジは、じっとレイの顔を見た。
 白い。こういうのを病的と言うのだろうか、透き通るようなと言うのだろうか、とにかく白い。
 こんなに白くても一応は健康らしい。
 不思議な青い髪の毛。
 綺麗な顔のラインと目鼻立ちは、どこかで見覚えがある面影があるものの、シンジには思い出せなかった。
 それにしても…だ。
 薄紅色の唇に、つい目が行ってしまう。なぜだろう?
 レイは、起きる気配がない。
 シンジとて男だ。それも思春期真っ只中の。
 病室のベッドではあるが、ベッドの横で気になっている美少女が寝ていて、しかも起きる気配が全くない状態だとどんな気持ちになるか。
 レイの綺麗な寝顔に見惚れつつ、シンジは無意識に唾を飲んだ。
 恐る恐る、ゆっくりと、シンジの顔がレイに近づいていった。
 その時。

「シンジ君!」
「!? わあああああ!」

 バターンッと病室の扉が開いて音無が入ってきたので、シンジは体を起こして悲鳴を上げた。顔と首を真っ赤にして。
「大丈夫!? シンジ君!」
「し…心臓止まるかと思った…。」
「えっ!? 心臓が!?」
 びっくりしたという意味と、今自分がやろうとしたことについての羞恥によるものなのだが、音無は結構勘違いしている。
「ナースコールしないと!」
「あ、あ、ああ、ち、違います! びっくりしただけですから!」
「えっ、そうなの? よかった…! とにかく、無事で!」
 シンジの肩を掴み、項垂れ涙する音無に、シンジは、若干混乱した。
「えっ? あの…、何が?」
「…覚えてないの?」
「えっ…っと……、僕………………、そうだ…、またあの紫色のロボットに…、それで、…頭痛い……。」
 思い出した途端頭痛が走り、シンジは顔を歪めた。
 シンジは、額を押さえながら音無をちらりと見て、音無の顔の片頬に大きなガーゼが張ってあることに気付いて目を見開いた。更に青あざや、瘡蓋などが顔のあちこちにあった。
「お、おおお、音無さん、顔!」
「あ、これ? 大丈夫よ、これくらい。」
「で、で、でも…。」
「う……うん? 碇君?」
 その時、レイがやっと目を覚ました。
 目をこすりながら、寝ぼけた目でシンジの顔を見たレイは、みるみる内に目を見開いて。
「碇君!」
「わっ! あああああああああ、あや、なみぃ!?」
 ギュッと抱き付かれてシンジは、茹蛸のように真っ赤になった。
「………よかった。」
「っ…。」
 ぽつりと呟かれた言葉で、レイがどれだけ心配していてくれたのかが分かって、シンジは我に返った。

「目が覚めたのね?」

 そこへ、リツコが現れた。
 リツコの姿を見たシンジは、頭の中にハテナマークが浮かんだ。
「あらあら、お邪魔だったかしら?」
 と言ってクスクス笑われ、シンジはますます混乱した。
「レイちゃん、そろそろ離してあげなさい。」
 音無が苦笑しながらレイをシンジから引き離した。レイは不満そうにしていた。
「気分はどう? 頭が痛む?」
「えっと…、ちょっと頭が痛みます…。」
「そう…、しばらく痛みは取れないでしょうけど、頭痛薬でも処方したほうがいいかしら?」
「あ、あの…。」
「なにかしら?」
「あなたは、誰ですか…?」
「…まあ、あれっきりだったし覚えてなくても仕方ないわよね。私は、赤木リツコ。ネルフの科学者で、あなたが乗ったエヴァンゲリオンを作って管理していたのよ。」
「えっと…、うーん。ここまで出かかってるんですけど。」
 と言って喉を示すシンジに、リツコはクスッと笑った。
「もしかして覚えてないのかしら? 最初のあの時よりはマシみたいね。」
「最初? ………あっ。」
 言われて、何のことかと思い出そうとしたシンジは、あの恐怖と衝撃を思い出し顔を青くした。
 音無が慌ててシンジの背中を摩った。
「碇君。」
「…、ハアハアハア…。だ、大丈夫。」
 汗が噴き出て呼吸が荒くなるが、心配するレイにシンジは、笑顔を向けた。
「その様子なら、問題なさそうね…。私はこれで失礼するわ。ゆっくり休みなさい。」
 そう言ってリツコは、笑顔を浮かべ、病室から出ていこうとした。
「赤木博士。」
 レイが、リツコを呼び止めた。
「どうするかはあなたの自由よ。」
「…はい。」
 リツコは、振り返らずそう言うと今度こそ出て行った。
 リツコが出て行った後、レイは、何かを決心したような表情をして音無に向き直った。
「音無博士。お話を聞いてもらえますか?」
「なに? ここじゃ言えない話?」
「?」
 レイは、音無に話があると言った。シンジは首を傾げレイを見た。
「はい…。」
「そう…、じゃあ、隣の空き病室で話をしましょう。」
「はい。」
 レイは、音無と共に隣の空いている病室に行った。
 残されたシンジは、何を話しているのか気になったが、盗み聞きするわけにはいかないのでここにいることにした。

「シンジ君!」

「尾崎さん!」
 病室の扉が開いて、尾崎が飛び込んできた。
「よかった! 無事だったんだね。」
「はい。なんとか…。あ、音無さんが…。僕のせいで…。」
「君の責任じゃないよ…。悪いのは……、君の、お父さんだ。」
「……父のせいなんですよね。」
 シンジは、音無と自分を誘拐したのが自分の父であるゲンドウであることを覚えていた。
「やっぱり僕のせいだ。僕がいたから音無さんが巻き込まれたんだ。」
「そんなこと言ってると美雪にデコピンされるぞ?」
「でも…。」
「君のせいじゃない。いいね?」
 強く、言い聞かせるように言われ、シンジは、それでも食い下がったが、仕方なくといった様子で頷いた。
「君のお父さん。碇ゲンドウは、地球防衛軍が管理する監獄に送られた。」
「……当然だと思います。」
 シンジは、恐怖の対象だった父親が最凶最悪と謳われる監獄行きになったと聞いても何も感じなかった。それほどまでに情は無くなっていたらしい。
「シンジ君は賢いから、何も言う必要はないね…。」
「あの人がそれだけのことをしたのは理解しているつもりです。」
 シンジは、どこか自虐めいた笑みを浮かべて見せた。
 尾崎はそれを見て、これ以上言うのはよくないとこの会話を終わらせた。
 するとそこへ、レイと音無が戻ってきた。
「ミユキも来てたのか。」
「尾崎君、シンジ君。大事な話があるの。聞いてくれる?」
「……。」
 真剣な表情でそう言う音無と、音無の隣で黙っているレイに、尾崎とシンジは、顔を見合わせた。

「碇君…、尾崎さん……、私……、人間じゃない。」

 レイが、語った。
 自分は人ではないのだと。
「正確に言うと、人間と使徒の混合らしいの。」
「…どういうことだ?」
「火傷するのよ。」
「やけど?」
「ツムグの体液で。」
「!」
 それが意味することを理解し、尾崎は目を見開いてレイを見た。
 レイは、無言で右腕の包帯を外し、火傷を見せた。
「それ…、ツムグにやられたのか?」
「違う…。雨が…。」
「影のような使徒の時にツムグの体液を散布したでしょ? それを浴びたらしいのよ。」
「綾波? どういうことだよ?」
「碇君…、私…。」
「綾波が人間じゃない? なんで?」
「私は、あの人に…作られた…。人形だった。」
「あの人って、碇ゲンドウのことでしょ。」
「!?」
「レイちゃんには悪いけど、あなたが保護された時に細胞の検査をしたのよ。」
「そう…。」
 レイは、すでに調査が及んでいたことにそれ以上は追及しなかった。自分の容姿が人間離れしていることは自覚していただけに。
「詳細情報は、赤木博士から直接聞くしかないけれどね…。」
「私が頼んだって言えば…、私の資料…、送ってくれるかも。」
「本当にそれでいいの? 黙っていることだってできたはずよ。」
「ダメ……、今のままじゃ……、私……、ゴジラ……が、来る。」
 レイは、胸の前で両手を握り俯いてそう言った。
 それを聞いた三人は、驚愕した。
 レイが使徒の要素を持つせいで、いずれはゴジラを呼び寄せる可能性を秘めていることに。
 今のところゴジラは、使徒を倒すことに優先し、その次にエヴァンゲリオンを破壊する(一部無視したりと気紛れを発揮しているが)。
 それが全て終わった後どうなるか。考えもしなかった。今が精いっぱいで。
 もし少しでも使徒の存在に過敏に反応するのなら、レイのような存在を見逃すだろうか?
 少しのG細胞に反応するゴジラが見逃すとは思えない。
「みんなを……、死なせたくない。」
「レイちゃん…。」
 レイが微かに震えていることに音無が気付いた。
 音無は、レイの肩を掴んで。
「大丈夫! 私達があなたを救う方法を探すわ!」
「でも…。」
「でもじゃない! 可能性はあるわ!」
「み、ミユキ。」
「だって、あのバカがこんなこと見逃がすはずがないじゃない!」
「! それもそうか、なんであいつはいつも黙ってるんだろうな。」
「あ、あの…、話が見えないんですけど。」
「???」
 何か心当たりがあるらしい音無と尾崎の反応に、シンジもレイもハテナマークを浮かべていた。





***





「……なあ。」
「……。」
「常々バケモノだって思ってたけどよ…、改めてバケモノだって思い知ったって感じだぜ。」
「そうだな…。」

 ツムグの監視ルームで、そんな会話が行われていた。
 機龍フィアがドッグに収容された後、凄まじい高温に曝されていたツムグが操縦席から運び出された。
 まずハッチを開けた時の、人肉が蒸し焼きされている時の独特の悪臭が立ち込め、そして運び出されたツムグの有様に嘔吐する者達が続出。
 骨までじっくり蒸し焼きされたというのに、あっという間に全回復。
 これをバケモノと言わずしてなんという。そんな話でもちきりだった。
 ちなみにツムグが発見された当初から、彼の体を使った人体実験に立ち会ったことがある古参は、生きたまま数千度の熱で焼くという実験があったのを知っていたので蒸し焼きされてもすぐに回復したことについてあまり驚きはしなかった。
「うふふふ…、さすがです、痺れちゃいますぅ。」
「いやいや、ナッちゃん痺れちゃだめだよ。」
 全裸のツムグがナツエに背中を拭いてもらっていた。
 看護師のナツエは、ツムグの身の回りの世話などを任されている。
 皮膚も肉もすべて再生したことで、スベスベになっており、ほんのり赤みを帯びた皮膚はまだ熱をもっている。その肌をうっとりとした顔をして拭いている。
「まるでオーブンで焼かれる豚の丸焼きみたいな状態だったのに逆再生したビデオみたいに治っていくんですもの。すごいですよぉ。」
 嬉しそうにツムグの体を拭きながら言ってくるナツエに、ツムグは微妙な顔をしていた。
「正直、あんまり嬉しくないかな…。」
「そうですかぁ? 不老不死って大昔からの永遠の憧れだと思うんですけどぉ。」
「俺は、不老不死じゃないよ。」
「またまた〜。」
「いつか死ぬよ。いつか、ね。」
 ツムグは、そう言って微笑んだ。
 ナツエに着替えを手伝ってもらったあと、ツムグは立ち上がった。
「どこか行くんですかぁ?」
「ちょっと、大事な話をしにね。」
「いってらっしゃ〜い。うふふ。」
「いってきまーす。」
 ナツエに向かってひらひらと手を振り、ツムグは、その場から消えた。
『……なぜ止めない。』
「止めても止められないですよぉ。」
 監視ルームからのツッコミに、ナツエは肩をすくめて答えた。





***





 ツムグがテレポートした先には、尾崎と音無がいた。
「ツムグ! いいところに来たわね。」
「二人が俺のところに尋ねに来ると思ったから、手っ取り早くこっちから来たよ。」
「そうか。なら話は早いな。」
「あの子…、レイちゃんのことでしょ?」
 ツムグがそう言うと、音無がジトッとツムグを睨んだ。
「やっぱり知ってたのね?」
「あの子が普通じゃないってことは、自分の口から言った方がいいと思ったんだ。それにまだゴジラさんは気付いてないし。まだ時間はある。」
「彼女をゴジラから守ることはできるのか?」
 尾崎が聞くと、ツムグは大げさにう〜んと唸って考える恰好をした。
「微妙だね。」
「びみょうって…。」
「言葉のままだよ。こればっかりは、俺もどうしようもないっていうか…。賭けになる。」
「かけ?」
「あの子を完全な人間にすることができるよ。」
「なんだって!」
 まさかの言葉に二人は驚いた。
「ただし。」
 ツムグが人差し指を差し出した。
「賭けになるって言ったよね? 失敗すればあの子は確実に死ぬ。」
「何をする気なの?」
「俺の血…、いや体液…、まあ何でもいいけど、骨髄液が一番いいかな? それをうす〜〜〜くしたのを一定量注射するだけ。」
「…そ、それだけ?」
「濃度と量間違えたら、即死。」
「賭けもいいところだろ!?」
「身長とか体重とか、その時の体調とか…、一番は本人の生きたいって意思力に関わって来るから、言いたくても言えなかったんだよね。だってあの子、最初の頃死にたがりだったわけだし。」
 レイは、地球防衛軍に保護された最初の頃は、消えたいという願望に取りつかれており、実際に自殺未遂(シンジにより未遂で終わる)をしている。
 また人間らしさというものが薄く、最近になってかなり人間らしい部分が強まったと思われるが…。
「これって成功すれば、俺の体液で死なずに健康になるってとうの昔に諦められてたことが叶うんだよね。ただ個人差があるからさ…。ほんと一発勝負になるよ。それでも人間になりたいならやってみるかどうか、あの子に聞いてみたら?」
「そうなったら一気にツムグの細胞の有用性が高まるってわけね。」
「それは、俺としてはよくない傾向なんだよね〜。」
 ツムグは、複雑そうに顔を歪めた。
「ツムグは嫌なのか?」
「嫌って言うか、よくないなって思ってる。人間ってさ便利な方に行っちゃう癖があるから、色々間違えちゃうじゃん? 俺みたいなのに頼るのはダメだよ。」
 ある意味で死にたがりのツムグにしてみれば、戦って死ぬために生かされていることより、人類のためだとかそういう大義のために生かされることに抵抗があった。
 ましてやナツエが言っていたように、不老不死などと言われるのは…。
「でもさ、目の前で泣いてる子供がいたら、それはもっとよくないから、こうして来ちゃったわけなんだけど。」
「ツムグ…。」
「ほんとに賭けだから。はっきり言って確率は、10パーセントもないと思う。」
「ゼロ…ではないのね。」
「0パーセントじゃない。それだけは言える。」
「分かった。」
「でもさ…、あの子俺のこと怖がってるんだよね。そこんとこ大丈夫かな?」
「…なんかやったの?」
「何もしてないって。たぶん本能? が…、俺を拒否ってるじゃないかな。全身の細胞が生まれ変わる以前に、恐怖のあまりにショック死起こさなきゃいいけど…。」
「不吉なこと言わないで!」
「ミユキちゃん達だけじゃできないから、防衛軍の科学部とか、赤木博士とかの協力がいると思うよ。まずは、資料請求。そこからだと思う。」
「言われなくてもそうするしかないわ。」
「よろしく頼むよ。」
「ツムグ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
 ツムグは、そう言って笑った。





***





 その後、あっという間に、レイが純粋な人間ではないことが広まった。

 自分とは違うものに過敏になるのは、生物の本能として当たり前と言えば当たり前である。
 青い髪の毛、赤い瞳、白すぎる肌。綾波レイは、見た目から人間離れしていた。
 彼女自身の立ち振る舞いもあり、他人と親しくなかった彼女であるが、地球防衛軍では意外にもすんなり受け入れられていた。
 それは使徒の要素を持っていると事が周りに知れても変わらなかった。
 そのことに一番驚いたのはレイ自身だったりする。

「人外って言ったら、あいつがいるから慣れているのもあるんだろうな。」

 食堂にいる同僚がそう言ったので、レイは目を丸くしたのだった。
 あいつとは、椎堂ツムグのことである。

「人間じゃないって言ったら、尾崎君達もそうじゃないって言えるでしょ? 一々気にしてられないわよ。」

 志水にそう言われ、レイは、あっと声を漏らした。
 人間じゃないと言ったら、ミュータントと呼ばれる者達もそうなる。
 G細胞完全適応者と呼ばれる人外であるツムグがちょろちょろして、周りが慣れたというのが一番大きいかもしれない。
 それになにより……。

「人外って最高じゃないですかぁ。」

 なんて言うマッドな人間達がいるのだ。
 さすがにこれにはレイも若干引いた。

「わたしは君には興味はあまりない。」

 っと、40代そこそこの白衣にメガネという見るからに研究者という見た目の男、阿辺(あべ)が言った。
 彼は、レイの体細胞の検査をした中心人物なのでレイの体の検査を担当した。
「奴の印象が強すぎるから案外君に興味のある人間は少ないんじゃないかな? 生きたまま解剖されるなんことはないだろうから安心したまえ。」
「……。」
 そう言われて、レイは、ちょっと複雑だった。
「とは言え、奴の体細胞を使った実験には興味があるから参加したがってる人間は多いよ。もちろん私も。」
「…奴というのは、しどうつむぐのこと?」
「そう、そいつ。ところで一応聞くが、君は頭部を粉々にされても復活するのかい?」
「……無理です。」
「そう、それは残念だ。やはり私好みじゃない。」

「頭を粉々が好みとか、それどうなの?」

「ショット!」
「おおっと!」
 すかさずツッコミを入れて来た神出鬼没のツムグに向けて、どこから出したのかショットガンを、躊躇なく頭に向かって撃つ阿辺。間一髪で避けるツムグ。
「こら、壁に穴があいじゃないか。避けるんじゃない。」
「血と脳をぶちまけて汚す方がいいって?」
「それで、何しに来たんだ?」
「んー。ちょっとね。」
 ツムグは、そう言いながらレイの方を見た。
 ツッコみができる人間がいたら、上記の物騒なやり取りを日常会話みたいにやっていることについて、危なすぎる!っとツッコんでいただろう。
 ツムグの視線を受けたレイは、びくりっと体を震わせた。
 ツムグは、無言でレイを見つめた。レイは、たらたらと汗をかき、不安と恐怖を和らげるためか胸の前で手を握った。
 それから数分ぐらいだろうか、その状態が続いた。
 やがてツムグが、フッと笑い。
「俺が怖い?」
 レイは何も答えなかった。
「俺は君に危害を加えるつもりはかけらもないけど?」
「……。」
「君達には幸せになってほしいって思ってるんだけどな…。」
「っ…。」
「怖がるのは悪いことじゃない。君はどうしたい? 生きたい? それとも死にたい?」
 ツムグの問いかけに、レイは、唇を微かに震わせた。
「………た、ぃ。」
「ん?」
「…生き…たい。」
「よく言えました。じゃっ。」
 そう言って笑ったツムグは、姿を消した。
 ツムグがいなくなり、レイは、ヘナヘナと崩れ落ちた。
「まったく、何をしに来たんだ、あいつは。大丈夫か?」
「……。」
「大丈夫そうだな。」
 全然大丈夫じゃないのだが、そう判断された。





***





 一通りの検査を終えたレイが廊下を歩いていると、廊下の先にシンジが立っていた。
「碇君…。」
「あ…。」
 レイの声でシンジがレイの方に振り返った。
 しかしすぐに目をそらされてしまい、レイは、俯いた。
「…ごめんなさい。」
「なんで謝るの?」
「だって私は…。」
「人間じゃないのは聞いた。音無さんからも聞いた。」
「それだけじゃないの。私は…。」
「母さんのこと?」
「えっ? ……聞いたのね。」
 シンジは、音無から聞いていた。
 リツコから渡されたレイについての資料に、碇ユイ…つまりシンジの実の母親のことが記されており、レイとどういう関係にあるのかを。
 検査結果と資料から、レイは、シンジとは従弟くらい離れた位置にいるということが分かっている。
「私は存在してはいけなかったのかな…。」
「なんだよそれ…、死にたいってこと?」
「あ…、ちが…。」
「あの時僕が助けなきゃよかったって思ってるってこと?」
「違う!」
 レイは、すぐに否定した。
「碇君がいたから私は今ここにいる。碇君いたから…。」
「音無さんから聞いた…。綾波が完全な人間になる方法があるって。でも、死ぬかもしれないって聞いた…。」
「……死ぬ確率がずっと高いらしいわ。」
「……。」
「ねえ、碇君……。」
「…なに?」
「…私、生きていてほしい?」
 レイは、胸の前で手を握って、俯いて弱い声で聞いた。
 シンジは黙ってしまった。
 レイは、手が震えるのを抑えるように手首を握った。
 そして。

「綾波が好きだ。」

「……えっ?」
 その言葉に、レイは顔を上げた。
 シンジは俯いており、肩を震わせていた。
「…今の忘れて。」
「あっ。」
 シンジは、早口でそう言うと、背中を向けて走り去ってしまった。
 レイが伸ばした手は空を切った。
 レイの足元に、ポタリッと水滴が落ちた。
「あ……、これ、なみだ? 泣いてるのは…、私?」
 次々に目から溢れ出てくる涙に、レイは、驚いた。
「私…、私は…。」
 涙を止めようと目をこするが、なかなか止まらない。
 そうしてレイは、しばらく泣いた。
 なぜ泣いているのかその理由がわからないまま。



To be continued...
(2020.09.12 初版)


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