ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第二十六話

ゴジラvs初号機(ユイ)!

presented by 蜜柑ブタ様


 ゴジラは、顔をしかめた。
 射出機を振りほどいて動き出した初号機の姿に。
 別に怯んでいるわけではない。決して初号機を恐れてはいない。ただ、気味悪いのだ。
 ゴジラが感じている使徒のソレだが、ソレとはまた少し違った気味の悪さ。
 初号機が消えた。
 ハッとすると、下から強烈なアッパーカットが入った。
 いつの間にか下に来ていた初号機をギッと睨み、ゴジラが身体を振って尻尾を振るった。
 すると軽く跳躍した初号機が、背びれを掴み、しがみつくと、ゴジラの肩首辺りに噛みついた。
 ゴジラは、グルル!っと唸り、初号機を振り飛ばそうと身体を大きく振る。
 ミチ、ミチっとゴジラの皮膚と肉が噛みちぎられ、振られた衝撃を利用してついにゴジラの肉を噛み千切った初号機は、肉をくわえたまま飛び退いて四つん這いで着地した。
 表面を軽く噛みちぎられただけだが、おそらく今回のコレがゴジラがエヴァンゲリオンに与えられた初めてのダメージだろう。
 初号機は、噛みちぎった赤黒いゴジラの肉をガジガジと噛みしめた。

『なんてことを……。』

 ツムグの弱々しい声がそう言った直後、初号機の細い身体に異変が起こった。
 背中が大きく膨らみ、ただでさえ猫背だった背中がより丸くなる。手から太い爪が伸びた。丸みを帯びて隆起した筋肉の背中に背びれが現れる、その形状は限りなくゴジラにそっくりだった。その背びれに沿って背骨が尾のようにびて、地面についた。
 ゴジラの細胞……G細胞を取り込んだ初号機が血走った緑の目をギョロギョロとさせ、身体をのけぞらせて天に向かって咆吼した。

「……司令。これもあなたの思い通りでしたか?」
「ユイ……?」

 リツコが聞くと、ゲンドウは、愕然とした様子で呟いていた。
 さすがにこれは予想外だったらしい。
 初号機を覚醒させ、ユイの魂を呼び覚ますこと、それが目的だったが事態は予想外の方向に行く。
 ユイは、何を考えたかゴジラの肉を食ったのだ。あの忌まわしく恐ろしい力の一部を。
 ゴジラは、忌々しげに歯を見せて唸る。噛みちぎられた箇所はとっくに治っていた。
 初号機は、少しの間ボーッとしていたが、ふと我に返ったようにゴジラをその目に映すと咆吼をあげながらゴジラに迫った。
 ゴジラの背びれが光ると、初号機の背びれも光った。
 そしてゴジラが熱線を吐くと同時に初号機も熱線を吐いていた。二つのエネルギーがぶつかり、爆発する。
 ゴジラが突進し、爆風の中にいる初号機に突撃、初号機は手を構えてゴジラを受け止め、ズリズリと後ろへ下がったがやがて止まった。
 初号機は、長く伸びた自分の尻尾をゴジラの首に絡ませ、その尻尾の力でゴジラの後ろへと移動すると、ゴジラの尻尾を掴んで、持ち上げ投げた。
 背中を打ち付けられたゴジラの上に馬乗りになり、ゴジラの胸の上に噛みつく。すると、初号機の頭部に血管のような筋が走り、脈動した。
「ゴジラを…食べてる?」
 マヤが口を手で押さえた。
 すると凄まじい警報音が鳴り響く。それは初号機の異変を伝えるための警報だった。
「なるほど…。彼女は…もう…。どうやら、初号機を出した時点で詰み、でしたわね。司令。」
 リツコが嘲るように笑う。
「なに?」
「分からないのですか? ユイ…、初号機は、とんだ間違いをしたのです。おそらくは力だけ奪う算段だったのかもしれませんが、そんな上手くいくほど人間の罪にして、怪獣王たるゴジラは簡単な存在じゃい。かつて、ミレニアムと呼ばれた怪獣がいましたわ。アレと同じ失敗をしたのですよ。ゴジラの細胞を取り込むと……、副作用で怪獣となってしまうのに。」
「!?」
「そしてミレニアムは、怪獣化によりその知性も理性も失い、完成度を求めて本能でゴジラを喰らおうとした。結果……、死んだのですわ! 知性も理性もなにもかも失ったゴジラモドキのような醜悪な姿へと変わり果てて!」
 リツコが高らかにそう叫ぶと、ゲンドウは何事か声にならない悲鳴を上げた。

 初号機の身体がより大きくなっていく。
 さらに肥大化していく背びれを、横から機龍フィアが掴んだ。そして頭と肩の中間を押さえつけ、背びれごと背中の肉を剥がしていく。
 剥がした肉の間にあったエントリープラグを見つけると、機龍フィアは、優しくそれを爪で摘まみ、引きずり出した。
 エントリープラグを掴み直した機龍フィアが初号機から離れると同時に、初号機の割れた背中が広がり、ゴジラを包み込む。
 直後、青白い光りが輝き、爆発した。
 粉々になっていく初号機の肥大化した肉が黒焦げになって散らばった。
 憤怒の表情を浮かべたゴジラが起き上がり、ピクピクと痙攣している初号機の頭を掴んで持ち上げると、見えぬ速度で地面にその身体を叩き付けた。
 胴体も四肢もグシャグシャに潰れるが、ゴジラは、構わず何度も何度も初号機を地面に叩き付け続けた。
 肉片が飛び、骨が砕け、内臓が飛び散って潰れる。あまりの惨状に、マヤはとうとう嘔吐していた。
 あらかた破壊すると、フーフーっと怒りによる荒い呼吸をしながらゴジラは一旦後ろへ下がった。
 そして背びれを赤く光らせた。





 オイし、い
 美味しいお肉
 このオ肉をもっと
 あら? あの子がイナイ
 ドコへ、行ったの?
 ワタシの、カワイイあの子




 G細胞の副作用で消え行く意識の中、ユイが見たのは、赤い光りと、憤怒の表情を浮かべた黒い怪獣の顔だった。




 シニタクナイ!




 最後に、どこからか、子供の声でそんな悲鳴が聞こえた気がした。





 そして初号機は、熱線で焼かれ、爆散した。






***






 粘菌型の使徒バルディエルは、戦艦火龍、エヴァ参号機と順に取りつき…、そして今はネルフ本部を覆っている特殊装甲板の下にある配管に取りつき、ネルフに侵入しようとしていた。
 取りついた物を自在に作り変える能力を持つバルディエルは、配管を作り変え、蛇のような姿へと変じた。
 軟体の身体を巧みに操り、狭い隙間を潜り抜け、ネルフ本部へと向かっている途中だった。
 参号機の時にコアを潰されたことと、さすがに三度も取りつくものを変えたため、これ以上は劇的な変化はできないが、アダムのもとへ行くには十分だと判断した。
 しかしバルディエルは、ふと立ち止まった。
 進んだ先に誰かが待ち構えている。

 小さい。
 集団だ。
 リリンだ。
 しかし、なぜだろう?
 先頭にいるリリンは小さいのに大きく見える。……ような気がする。

 バルディエルは、尾崎の姿を見て僅かにたじろいた。

「放水開始!」

 尾崎が手を上げると同時に、尾崎の後ろに控えていたミュータント兵士達がホースを構えた。
 猛烈に嫌な予感がしたバルディエルは、もと来た道を猛スピードで引き返し始めた。
 自分がさっきまでいた場所に水が流れ込んでくる。

 あの水(?)に触れたらマズイ!

 っという思考がアダムのところに行こうとする思考を上回り、とにかくバルディエルは水(?)から逃げた。
 しかしある程度引き返したところで後方に人間達の気配があるのに気づいた。

「撃てーーー!」

 光る弾(メーサー銃)を発射され、ATフィールドで防ごうとしたもののなぜか貫通した。
 以前の記憶(使徒マトリエル)から、これで一回死んでいることを思い出した。なぜ、すぐに思い出さなかった? 混乱してるからだ! 水(?)から逃げるので!
 人間達(ミュータント兵士)の襲撃にあい、バルディエルは混乱していた。
 自分よりもはるかに劣る小さい存在が、粘菌型の使徒である自分に勇敢に、それでいて策をめぐらせて挑んでくる。
 後方に水(?)、前方にメーサーの銃撃。
 逃げるならば…、下だ!
 配管を破壊し、狭い中をを軟体の身体を利用して潜り抜けて行く。
 ネルフ本部にさえ行ければ、アダムに会える。
 アダムに会って融合することが自分達、使徒の存在意義も同然だ。

 邪魔をするな、リリン。

 だだ広い通路の天井から落下したところで待ち構えていたのは、数台のメーサータンク。
「怯むな!」
「メーサータンク、前へ!」
「撃て!」
 ATフィールドを貫通し、メーサーの光がバルディエルの体を所々砕いた。
 他の部位で空いた部分を補修するとバルディエルの体は失った分だけ縮んだ。
 もう増殖するほどの余力が残っていないのである。
 バルディエルは、頭部にあたる部位を縦に割って口とし、叫び声のような鳴き声をあげながら突撃し、メーサータンクと兵士達を蹴散らした。
 すると天井からメーサーを撃たれた。メーサータンクに比べると弾は小さい。
 見ると、自分が空けた天井の穴から尾崎がワイヤーを伝いながらメーサー銃を撃ってきていた。

 なぜだ?
 なぜ己は、このリリンを……。

 背筋はないが長い身体が震える。知らない感覚にバルディエルは、一瞬硬直した。

 こんな“モノ”、知らない。

 バルディエルは、その感覚を振り払うように尾崎に向かって頭を伸ばし、口を開けた。
 そのまま尾崎を丸呑みにした。

 こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。こんなモノ知らない。

 こんなモノ(恐怖)など知らない!

 バルディエルの腹部にあたる部位が、橙色の光が発生し、ボコンッと膨れ上がった。
 メーサー銃の弾が内側から貫通し、穴をあけた。

 なんだ!?
 何が起こって…。自分は、何を?
 このリリンは、……ナ、ニ、モ、  ?

 疑問が次々に浮かんできては消え、バルディエルは、徐々に視界も思考も暗闇に飲まれた。
 鋼鉄の床に頭部にあたる部位が倒れこみ、バルディエルは、息絶えた。

 バルディエルの口から、尾崎が這い出てきて、動かなくなったバルディエルを確認した。


「………俺が、何者かって?」

 バルディエルの最後の思考を感じ取った尾崎が呟いた。

「…俺は、……俺だ。そのはずだ。」
 もう動かないバルディエルに向けて、尾崎は言った。





***





 特殊装甲板の上。つまり第三新東京では、ゴジラと機龍フィアの戦いが続いていた。
 全身から湯気を出し、金属のあちこちが赤々となっているオーバーヒート状態であるが、ゴジラとやり合う機龍フィア。
 科学部の推測だと内部の冷却装置がイカレテしまっているかもしれないということらしく、操縦席の方は灼熱地獄もいいところだとか。中にいるツムグは、オーブンで焼かれているも同然の状態かもしれないとも言われた。
 初号機から引き抜いたエントリープラグは、ゴジラが初号機を潰している隙に近くの部隊に渡しておいた。
 ゴジラが、ふと手を止めた。
 何かがいなくなったのを感じたかのように。
 そして機龍フィアとある程度距離を保ったまま、宙を見上げ、それから俯いて舌打ちでもするように口元を歪めた。
 機龍フィアは、その隙にそれぞれ左腕右腕を失い動けないでいるエヴァンゲリオン二機を庇うように、ゴジラから守るように立った。
 ゴジラは、そんな機龍フィアをちらりと見た後、フンッと鼻をならし、東京湾の方へ歩き出した。

「おいおい、ゴジラがエヴァンゲリオンを無視しして行くぞ。エヴァンゲリオンは、攻撃の対象じゃなかったのか?」
「さあな、ゴジラにはゴジラなりに優先順位ってのがあるんじゃないか?」
「とにかく今回も何とかなったな。」

 色んな事があったが、多くの者達がホッとした。



 エントリープラグの中にいたシンジは、保護され、意識がなかったためすぐに救急隊によって運ばれていった。
 人質にされていた音無も保護され、事件の犯人であるゲンドウは、心神喪失状態で連行されていった。
 意識を失っているシンジについて、エヴァとの神経接続の過程で精神汚染などの脳や他の神経への障害が発生した可能性があるとして、赤木リツコが診察をさせてほしいと願い出た。
 リツコはネルフから離れることを禁止されていたが、彼女以上にエヴァに詳しい人間がいないため、その願いは許可された。

 総司令ゲンドウの暴走により、ボロボロになったネルフの実権は副司令の冬月へと委託された。
 冬月は、戦いについても、今後のネルフの運営についても消極的で、ゲンドウと結託したそもそも発端である初号機が失われた今、彼も人類保管計画に執着する理由も無くなり、エヴァンゲリオンを運営しつつも、地球防衛軍に全面的に従うとした。
 作戦本部長であったミサトも、ゼーレがあらかじめ仕込んでいた暗示をゲンドウに利用される形で使われてしまい、脳への深刻なダメージを残した可能性があり、まともに生きられるかも危ういという結論が出された。これについて、元恋人である加持は青ざめ、ミサトが寝かされているベットの傍で泣いたという。

 そして残されたチルドレン2名であるが、ケンスケは、意識を取り戻した後、アスカに難癖を付けてしまい、ボコボコにされた。アスカは、危うくケンスケを殺す寸前まで痛めつけたため、麻酔を打たれ、ケンスケから引き離される形で落ち着くまで牢屋に入れられた。
 これにより、ケンスケが自分の方が正しいと増長し、ある意味でシンクロ率をアップさせ。逆にアスカは、誇りを穢されたと思い、シンクロ率を落とすこととなる。






 こうして、使徒バルディエルとの戦いは幕を下ろした。





***





 いつものどこだか分からない暗い空間で、ゼーレの会議が開かれていた。
『碇の計画は潰えた。』
『これで我々を阻むもののひとつが消えた。』
『初号機が潰された今、リリスによる補完を。』
『神への道を。』
『破壊神などと呼ばれるゴジラも次の使徒を前に大手を振るってはいられまい。』
 次に現れる使徒について、ゼーレはすでに把握していた。



To be continued...
(2020.09.12 初版)


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