第三十一話
レイの頑張りと、風間の頭痛?
presented by 蜜柑ブタ様
シンジがレイに告白し、二人が結ばれてから何日か経過した頃。
「どうしたらいいか分からない?」
「……。」
レイはこくりっと頷いた。
相談された志水は、シンジがレイにたいして好意を寄せていたのはなんとなく察していた。
いざ二人が結ばれたというのをレイが暴露してシンジが赤面して蹲ったのは最近のことだ。ちなみにレイは無邪気に微笑んでた。(悪意はない)
たぶんレイは、恋愛云々の知識はほとんどないだろうなっと思っていたのでもしかしたら自分に相談してくるかもと想定はしていたが、シンジじゃなく、レイの方が来るとは思わなかった。
「シンジ君は何か言ってたかい?」
「いいえ…。」
それを聞いて志水は、腕組して唸った。
志水は、今でこそ独り身だが異性との交わりがないわけじゃない。
レイは、どこかで恋人同士が何をするのか知識を手に入れたのだろうか?
その考えが浮かんだが、レイの顔を見るとそれは違うと思った。
シンジは、誰が見ても分かるほどよく気が付く子だ。火傷をする前からしょっちゅうレイの手助けだってしている。恋人同士の進展を気にしているというよりは、シンジに助けられてばかりで自分も何かしたいという気持ちから相談に来たのだろう。
恋愛云々にまだ疎いレイに、変に知識を与えてシンジとの仲が拗れることになっては大変だ。かと言って年頃の女の子らしさというものを芽生えさせるのは…。
それを考えて、志水の頭にピコーンとひらめいた。
「参考になるか分からないけど…。」
「?」
現在いる休憩室にある本棚から、本をレイに渡した。
変に拗れるかもしれないと何も教えないのはいけないと考えた志水は、起爆剤にと渡したのは………、少女漫画だった。
レイは、パラパラと漫画を読んで。だいたい読み終わると本を置いた。
「どう、がんばれる?」
「……がんばる。」
レイは、立ち上がると足早に休憩室から出て行った。
残された志水は、漫画を本棚に戻しながら。
「シンジ君…、これは試練よ。」
レイの頑張りが実ることと同時に、シンジの健闘も祈った。
***
その後……。
「で……? なんで俺に相談なんだ?」
「えっと…。尾崎さんいないし…、音無さんも忙しそうだったし…。」
何故かシンジから相談相手に選ばれた風間であった。
なんでもっと話しやすいはずの宮宇地でもなく、自分なんだと問いたいが……。そういえば宮宇地も留守だったと思い出した。
「まあいい…、それで? 何があった?」
「えっと…。」
そこからシンジは、これまでにあったことを語り出した。
まず、レイが通路の曲がり角でパンを咥えてぶつかってきた。
結果:ぶつかるタイミングが悪く、シンジが盛大に後ろにこけて後頭部強打で、大変なことに。なお、レイはこけなかった(※恐らく身体は細いがチルドレンとして鍛えられた部分が強かったんだと思われる)。
効果のほど:そもそも恋が始まる云々は、すでに起こっているので無意味だったことにレイが気づいて落ち込んだ。
幸い気絶しただけで済み、後遺症も無かった。レイは、メチャクチャ謝った。
次に、ベンチに座ってたら、隣に座ってきた。まではよかった。
しかし、レイがペシペシと自分の腿を叩いて注意を引くので、思わず『なに? どうしたの?』っと聞いたら、レイは、ふて腐れようになって去って行った。
その次にジーッと近距離で顔を見つめられ、見つめられて赤面したシンジが『どうしたの?』って聞くと、そこへ尾崎がちょうど来てしまい、急にレイはまたふて腐れて去って行った。
「なにがなんだかさっぱりで……。」
「……。」
風間は頭痛を抑えるべく、額を手で押さえた。
「誰が…。」
「?」
「あの娘っこに、そんなベタなこと教えたんだか…。」
「えっ?」
「正直言いたかねぇが、言わないとお前は分からないと思うから説明する。」
「は、はい。」
「まず、お前は少女漫画を読んだことあるか?」
「漫画はあまり…。」
「……パン咥えて曲がり角でぶつかった相手と恋に落ちる…、まあベタベタでチャチな少女漫画の展開だな。」
「えっ…?」
「お前と恋人云々の関係になるフラグでも立てようかと思ったが、とっくに立ってるのに気づいてなかっただろう。」
「ふら…。」
「次にベンチで太ももを示してたのは……、膝枕しないかってことだ。」
「ひざ…。っ!?」
「最後の方は、たぶんキスでも待ってたんだろう。そこに尾崎が邪魔しちまって、それで機嫌悪くしたんだろうな。」
「き…!?」
「ようするに、お前との関係を進展させたかっただろう。」
「わーわー!!」
想像したシンジは頭に浮かんだ汚れた(?)妄想を振り払おうとする。
「で? お前的にはどうなんだ? 今の関係以上のことは?」
「えーーー!?」
「お前がちゃんとリードしろ。もしくは教えろ。」
「ぼ、ぼぼぼぼぼ、僕…、女の子に告白したのも…全部初めてで…。」
「できる限りフォローしてやるから、さっさと行け! あの娘っこのところに!」
「は、はい!!」
シンジは、立ち上がりビシッと背筋を伸ばしてから急いで走って行った。
残された風間は、ハーっとため息を吐いた。
「……ごめんね。」
「…あんたか? 教えたのは。」
コソッと出てきた志水に、風間が聞いた。
「…起爆剤程度にしか考えてなかったの。」
「行動力のある無知ほど怖い。」
やってしまったと落ち込む志水に、腕組みした風間がため息混じりにそう言ったのだった。
***
「綾波!」
「……。」
M機関の敷地にある芝生のベンチに座っていたレイを見つけ、シンジは駆け寄った。
「あの…その…。わ、分かんなくてごめん。でも…、あれ、あんなところでやつことじゃないよ…?」
「……。」
「聞いてる? えっと……その…。」
「…分からないの。」
「えっ?」
レイがポツリと言った。
「碇君に好きって言って、それからどうしたらいいか分からないの…。碇君と何をすればいいのか。碇君にしてあげれること…、何か分からなくて…。」
「……ぼ、僕も実は分からないんだ。」
「えっ?」
レイは、それを聞いてようやく顔をシンジの方へ向けた。
シンジは、頬を染めてポリポリと指で頬をかいた。
「偉そうなこと言えないけど、僕も、その…女の子と……、えっと…、好きになった子と何をしたらいいか、分かんなくって…。」
「碇君も?」
「うん…、ごめん。」
「じゃあ…、一緒?」
「うん、そうだね。」
「……私、間違ってた?」
「ううん。綾波はただ僕と仲良くする方法を知らなかっただけだよ。人のこと言えないけど…、一緒に…考えながらさ…、その…、これからのこと…。」
「…うん。」
レイは、微笑みを浮かべて頷いた。
「クワ〜。」
「えっ? な、なにそれ?」
「あっ、さっきから引っ付いてきてたの。」
「なのそれ?」
「温泉ペンギン。」
「ペンギン?」
ベンチの下から出てきた温泉ペンギンなる生き物。
南極が滅んだ今となっては、ペンギンは超希少生物である。
なお、その温泉ペンギンの首には、PEN2と掘られたプレートが引っかかっていた。
「ペン、に(2)? いや、ペンペン?」
「クワー。」
「あー、ペンペンなんだ。」
頭良いな…と思いつつ、なんでM機関にこのペンギンが?っと疑問を持っていると。
「あっ、こんなところにいたか!」
「クワー!」
白衣の研究者が現れ、ペンペンをを見つけて近寄ろうとすると、ペンペンは、レイの足の後ろに隠れてしまった。
「これは、困ったな…。」
「あの、どうしたんですか?」
「その温泉ペンギンは、ネルフのとある職員からの預かり物でな。なんか色々と事情があって飼えなくなったらしいから、うちで預かることになったんだが…。」
「逃げられた?」
「ペンペン君。別に君を解剖しようってわけじゃないんだぞ〜?」
「クワクワーー!」
「これは困ったな…。……そうだ。君、部屋に余裕はあるかい?」
「えっ? はい?」
話を振られてレイは少し戸惑った。
「このペンギンを預かってくれないか? 餌はこっちで用意するから。なんだったら世話代を払ってもいい。」
「えっ?」
「えっ、でもいいんですか?」
レイじゃなくシンジが聞いた。
「いいもなにも、元々はペットのペンギンなんだ。人慣れしてるし、見ての通りかなり頭も良い。野生に返すわけにもいかないし、誰かが世話をしないといけないんだ。」
「分かりました。私が預かります。」
「助かるよ。」
「クワ〜。」
レイがしゃがみ、ペンペンを抱き上げた。
ペンペンは、ネルフ作戦本部長だった葛城ミサトのペットだったのだが、ミサトと接点が失われたシンジの知るところではない。
ちなみにペンペンを連れてきたのは、加持である。
***
一方その頃。
「ハ〜〜〜〜〜〜〜〜…。」
「長い溜息だな。」
青葉と日向がネルフ本部の休憩室にいた。
青葉は机に突っ伏し、向かい側に座っている日向は本を読んでいた。
「どうしたんだ?」
「就職試験落ちた…。」
「またか。これで何回目だ?」
「15回…。」
「なにやってんだよ。」
弱々しく言う青葉に、日向は呆れ顔で言った。
日向達、ネルフのオペレーター達は、ネルフ本部が権限を失ったことでとにかく暇だった。
つい最近の出来事で、ゲンドウの暴走に事件の後、一時自爆装置の権限を奪われていたMAGIの復旧作業や破損したエヴァの格納などの作業があり、少々忙しかったことはあったが、終わってしまえば暇になる。
本部の維持については、本部中枢を担うMAGIの管理者であるリツコが中心となって行われており、今までの職員のほとんどが切られ、本部の維持に必要な人材も最小限、日向達のようにギリギリで残っている職員達がいるだけである。
ネルフが失墜したことで元ネルフ職員という肩書は枷となり、再就職を困難にさせた。
大量の失業者達が路頭を迷いかけたが、そこに救いの手を差し伸べたのが、ある意味で元凶である地球防衛軍だった。
再結成されたばかりで人材が足りないということで、審査に受かれば地球防衛軍での働き口(職種様々)を紹介してもらえた。再就職ができずにあえいでいた元ネルフ職員達の多くがこれにしがみつき、殺到した。結果としてこれが機密の多いネルフ内部の情報を地球防衛軍に漏れさせることになり余計にネルフの重要性がなくなるきっかけにもなった。
しかし、それでも再就職が難しかった者達もいる。
すでに機能を失った作戦本部のオペレーターである青葉などがその代表と言える。
オペレーターとして防衛軍に入りたくてもすでに司令部のオペレーター枠はかなり難問。そして事務作業の方も上限がいっぱい。
色々と運が悪く事務職の枠が埋まってしまったばっかりに、再就職に漏れてしまったのである。
ちなみに日向は。
「おまえ技術部オペレーター、まだ目指してんの?」
「まあな。」
日向が今読んでいる本は地球防衛軍が発行している入隊試験勉強の教科書だった。
「地球防衛軍は子供の頃からの憧れだったからな。この機会を逃したら二度と巡ってこないよ。」
「そりゃよかったな…。」
目をキラキラさせて言う日向の様子に、青葉は少しうんざり顔で言った。
一方で伊吹マヤは。
「先輩、コーヒーをどうぞ。」
「ありがとう。マヤ。」
パソコンの前にゆったりと椅子に座っているリツコに、マヤがコーヒーの入ったカップを渡した。
「…マヤ。」
「はい。なんでしょうか?」
「あなたは、このままここにいるつもりなのかしら?」
「はい。先輩を置いていくなんてできません。」
「今のネルフにいても何もないし、収入も少ない、贅沢を控えれば十分生活できる。そんな生活を続けることになるわよ?」
「大丈夫です。」
「若いあなたが、こんなところで人生を終わらせるなんてことないのよ?」
「いいんです。これが私の選んだ道ですから。」
「あなたなら防衛軍の技術職でやっていくことだってできるのに、勿体ないわね。」
「それは、先輩の指導がおかげです。」
「私のためなんかにここ(ネルフ)に残らなくたっていいのよ?」
「私、先輩に憧れているんです。」
「落ちぶれた組織の管理しかできない科学者なんて憧れても、失望するだけよ?」
「でも先輩、最近楽しそうじゃないですか。」
マヤが言うリツコが楽しそうという意味は、ゴジラが出てきてからというもの、ゴジラ関連の資料や、ゴジラと防衛軍の戦いを生中継で視聴していることだった。
「それにMAGIの管理だって先輩一人よりやりやすいと思うんですよ。それとも私じゃダメですか?」
「そんなことないわ。ありがとう。」
「そう言っていただけるだけで十分です。」
マヤはにっこり笑い。リツコは、やれやれと言う風に肩をすくめ微笑んだ。
***
波川の執務室で、波川とゴードンが机を挟んで対峙していた。
「…要件はなんですか?」
「ゼーレを知っているか?」
それを聞いた波川は、眉を歪めた。
波川の表情を見てやはりかとゴードンは呟いた。
「どこでその言葉を?」
「言う必要はない。」
「……。」
「……。」
そして再び沈黙が流れる。
先に口を開いたのは波川だった。
「私もすべてを知っているわけではないわ。“彼ら”のことは。」
「全く知らないわけじゃないんだな?」
「セカンドインパクトが起こる前…、解散する前の地球防衛軍にいた頃、彼らに従う者と接触した。彼らは地球防衛軍を良く思っていなかったらしいから内側からどうにかしたかったのね。危うく殺されかけたことだってあったわ。」
「人類の文明が始まった頃から存在するとかしないとか…、歴史を裏から支配していたとは聞いたぜ。」
「あら、それだとあなたの方が良く知っているかもしれないわ。」
「………使徒が人類の可能性だってこともな。」
「なんですって?」
ここから先は、ゴードンが加持から聞いたことである。
使徒は、使徒アダムから生まれた生命の実を持つ人類。
人間は、使徒リリスから生まれた知恵の実を持つ人類。
両者は争う運命にあり、互いに持たない物を手に入れて完全な生命になることが目的である。
人間は、使徒から生命の実を。使徒は、人間から知恵の実を。手に入れるために。
使徒が持つ生命の実と言うのが、使徒の体を維持しているコアであり、S2機関という永久機関だという。
「人類の可能性だから、人類とほとんど同じ遺伝子を持つわけだ。ある意味当り前のことだった。使徒が人間に敵意を向けるのは俺達人間にしかない知恵の実とやらが欲しいから。……そして人類は、生命の実、永久機関のS2機関を欲しがった。ゼーレとかいう連中の目的はそれだろう。」
「その二つを手にした人類が覇者になるということかしら? 単に頂点に立つことだけを狙っているとは、思えないわね。」
「おまえもそう思うか?」
「人間の歴史の裏にいた彼らが、“その程度”のために動いているとは思えない。もっと面倒なことを考えて行動してそうね。」
「人間を進化させるためだっつったら信じるか?」
「…その話、どこで?」
「どーでもいいだろ。
「情報の出所は重要よ。」
「おまえがゼーレとかいう連中と繋がっている可能性はどうだ。」
「信用がありませんか?」
「戦自も国連も、ゼーレの隠れ蓑だったらしいからな。」
「それはどこの情報かしら?」
「ゼーレと繋がりのある奴らを片っ端から上げてもらおうか。」
「それを言ったらほとんどの人間達がそうなるでしょうね。ですが彼らはゼーレを良く思っていないらしいわ。」
「…ゴジラか。」
地球防衛軍が誕生するきっかけとなった最悪最強の敵。
「そうでしょうね。ゼーレからの離反が増えたのも、ゴジラを始めとした怪獣の出現がきっかけではあったらしいわよ。」
ゼーレにとって完全なイレギュラーであったゴジラを始めとした怪獣の多くの怪獣の出現は、ゼーレの隠れ蓑とされていた政治家や軍部などに自立する力を湧きあがらせ、ゼーレの威光が及ばない地球防衛軍が人類の存続を賭けてゴジラと怪獣達と戦いを繰り広げた。
「尾崎の命を狙っているのもゼーレか?」
「また命を狙われているとは聞きましたが、ゼーレとは断定できませんわ。」
「…連中は何か勘違いしているかもな。」
「その根拠は?」
「あいつ(尾崎)の力もそこまで及ばないということだ。」
「なら、本当に彼らのことを探ったのは、ツムグということになるかしら。」
「奴ならそれぐらい朝飯前だろう。」
「ですが、ツムグは何も喋りませんからね。」
「奴は何を企んでいる。」
「それは分かりません。」
「ったく、面倒な奴だ。」
「同感ですわ。」
ゴードンと波川は同時に溜息を吐いた。
と、その時。
警報が鳴った。
「波川司令! 使徒が現れました! 至急本部に!」
波川の部下が駆けこんできた。
「使徒か。」
「行きますよ。」
波川とゴードンは、波川の執務室から出た。
この使徒がもたらす悪夢を、まだ二人は知らない…。
To be continued...
(2020.09.26 初版)
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