ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮) リメイク      

第三十二話

その名は、『神の腕(ゼルエル)』

presented by 蜜柑ブタ様


 その使徒は、ずんぐりした黒を基調とした体に、首が無く特徴的な白い顔がずんぐりしたその身体に埋まっているような形をしていた。腕らしき物は見当たらず、足も短く、足として機能するのかどうかも怪しい形状をしていた。
 そんな使徒が宙を浮遊し、ゆっくりと第三新東京へ向かっていた。
 地球防衛軍の戦闘機や地上部隊からの砲撃を受けても平然としており、ATフィールドを張ってもいない。
 完全に無視している様子は、奇妙な顔の形も相まって非常に不気味であった。
「完全にこちらを無視していますね…。」
「しかも避けようともしていない。」
「チッ、嘗めた真似を…。」
 地上の前線部隊の指揮官が舌打ちをした。





***





『前線部隊の攻撃には全く興味を示していない。メーサー砲も全く効果なしだ。』
「だろうね〜。」
 ツムグは、操縦席で足を組んでくつろぐように座りながら答えた。
『なんだ…、おまえは、知ってたのか!?』
「いや、競技大会の時に嫌な予感だけはしてたからさ。」
『予感がしようがしまいが、出撃だ。』
「はいはい。」
 ツムグは、足を正して操縦桿を握った。
 しらさぎから機龍フィアが切り離され、使徒の進路上に着地した。
『ツムグツムグ、あいつの名前、ゼルエル!』
「ぜる、える…?」
 ツムグは、名前を聞いて眉を吊り上げた。

 ゼルエル。
 『神の腕』。
 簡単に言うと、力(ちから)を意味する。

 ツムグは、その名前と意味を理解した途端、猛烈な不安を感じた。
「嫌な予感的中…?」
『大丈夫だよ、負けないもん!』
 ふぃあは、自信満々に言った。
 まだ生まれたばかりで危機感が薄いらしい。
『椎堂ツムグ! 使徒が行ったぞ!』
「う…。」
 そうこうしているうちに使徒ゼルエルが機龍フィアの前に舞い降りた。
 表情の変わらない顔と何も映さない空洞みたいな両目がこちらを見ている。ツムグは、思わずたじろいた。他の使徒だって似たようなものなのに、こいつに限っては妙な圧力を感じたのだ。
『ツムグ?』
 いつもと違う様子のツムグにふぃあが不安げに声をかけた。
 と、その時。ゼルエルの目が光った。
「うわっ!」
 間一髪で操縦が間に合い、機龍フィアを横にずらすと機龍フィアのスレスレでゼルエルが放った光線が機龍フィアの肩にあるキャノンの右側を消滅させ、後方にある山を消滅させた。
「ゲッ…! ヤバイ!」
『ツムグ! 来るよ! 来…。っ!?』
「なっ…。」
 次の瞬間には、機龍フィアの右腕が根元から切り離されて後方に飛ばされた。
 カッター状に伸びた平たく薄いゼルエルの腕が目にも留まらぬ速さで機龍フィアの右腕を切断したのだ。
『う、ウソー、ウソー! 速い! なにアイツなにアイツ!?』
「ふぃあ、落ち着け!」
 ツムグは、残った左腕からブレードを展開しゼルエルに突撃した。
 ゼルエルの平たい腕がブレードを払うと、ブレードが真ん中から折れて地に刺さった。
 近接武器を失い、ならばと口を開けて100式メーサー砲を正面から放つ。
 すると数十枚ものATフィールドが発生し、十数枚を破って100式メーサー砲を防いだ。
「これを防ぎきるか!」
 ゼルエルがずいっと前のめりになった途端、新たに張られたATフィールド飛んできた。
 地を抉りながら飛んできたATフィールドを真正面から食らい、機龍フィアの巨体が吹き飛んだ。
「ATフィールドを飛ばすって、そんな使い方でき…。っ!?」
 素早く立ち上がった途端、ボキリっと大きな音を感知し、そのすぐ後にツムグの体に大きな衝撃が走った。
 恐る恐る下を見たツムグは。
「ぁ…。」
 口から血を大量に吐いた。
 ツムグの半身を上半身と下半身に分けたのは平らな何か。
 それはゼルエルの腕であった。
 機龍フィアの体を貫き、中にいるツムグの体の胸から下を切断していた。
 ツムグの体を貫いたことで血液などの体液で汚れた端からブクブクと沸騰するように水泡が出来ていった。
 ツムグの体液と細胞で焼け爛れるとゼルエルは、腕の根元辺りを切り離した。そして再び根元から薄っぺらい腕が生えて来た。
 首を折られたあげく、胴体をカッター状のゼルエルの腕に貫かれた機龍フィア。貫かれ切断された背骨から赤黒いドロドロの液を噴出した。その目から光が消える。
 動かなくなった機龍フィアの横を、ゼルエルは浮遊しながら通り過ぎて行った。
 この一連の展開に、地球防衛軍の司令部も前衛も後衛も、言葉を失って固まってしまった。
『…お…おい…、おい、おい! 椎堂ツムグ! 返事をしろ! 聞こえてるのか!?』
「………動ける…、…うにな、る…ま、で、待っ…て。」
 口から大量の血を吐いた状態でぐったりと操縦席にもたれかかっているツムグは、切断された部位を撫で再生の具合を確かめながらそう返事をした。内臓が全部出て、操縦室を血の海にしている光景な上に、再生のために切断面と内臓が終始動いているのはとてもじゃないがお見せできない状況である。
『生きてたか! 状況を説明しろ!』
「いや…その…うん……、体、真っ二つに…され、た…。上と下が…離ればなれ。……機龍フィアは、素体部分まで切断されて…。今から再生させるから、待って…。」
『そんな状態でも生きているのか……。』
「乗ってるのが俺で…よかったね。」
『……(ザザ)ッ…、ツム、グ、…ダ、だ、大丈夫?』
「ふぃあちゃんも…無事だよ。」
『…意外と元気じゃねぇか……。』
「あはは…、そーでもないよ。まだ内臓全部出てるし。」
『うげっ、早く治せ!』
「ムチャ言わないでよ。」
 ツムグは、大惨事にかかわらず気楽に笑っているが、いくら再生力が高くても、時間は使う。もちろん痛いのだが……。
 機龍フィアの方も自己再生で素体部分の切断面を塞ぎ、折れた首がギギギッと治ってきていた。だがさすがに消し飛ばされた右肩のキャノンは治らない。右腕も地面に落ちたままだ。
 再起動できるまで機龍フィアは、ゼルエルを追うことはできそうになかった。





***





 地球防衛軍は、大騒ぎとなった。
 機龍フィアが使徒ゼルエルの前に呆気なくやられてしまった。
 ゼルエルは、相変わらず前線部隊の攻撃を無視して、第三新東京を目指してゆっくりと飛行していた。
「機龍フィアが…。」
「なんなんだあの使徒は! これまでの使徒とはわけが違うぞ!?」
「前線部隊の攻撃が一切通用していないし、どうすればいいのだ!?」
「機龍フィアの再起動までどれだけかかる!?」
「分かりません!」
「ああああ、もう使えん!!」
「このままでは使徒が第三新東京に行ってしまう! なんとしてでも止めねば…。」

 しかし司令部の願い空しく、地球防衛軍の防衛を難なく突破したゼルエルは、ついに第三新東京に辿り着いた。


『よーーーし、やるぞーーーー!!』
『うるさいわね!』
 第三新東京にエヴァンゲリオン、二機が待ち構える。
『いいかね? 君らは、機龍フィア、及びゴジラが来るまでの時間稼ぎだ。間違っても勝とうなどと思わないことだよ!』
『なんですかそれ? 俺ら時間稼ぎ?』
『んなの聞いてられるないわよ!』
『もう一度言う。君らは時間稼ぎをするんだ。いいかね?』
 冬月が重ねてそう命令した。
 ゼルエルは、やがて第三新東京の中央辺りに降り立った。
 そして、海の方を向く。
『あれ?』
『……!』
 エヴァンゲリオンに対して完全に横向きである。
『…あんの使徒!!』
 その舐め腐っているようにしか見えないゼルエルの行動に、アスカは憤慨した。
『俺が怖いからって余裕ぶってんのか〜? よし後悔させてやろうぜ、惣流!』
『なんであんたが仕切ってんのよ! アンタなんかどーでもいいわ! 私は私でやる!!』
『あっ! おい!!』
 アスカが斧型ブレードを手にしてゼルエルに走って行った。
 しかしゼルエルにあと一歩のところで、ガギーンっと弐号機はATフィールドに阻まれた。
『この!!』
 アスカは斧型ブレードを振り回し、何重にも重なっているATフィールドを破っていく。
 次の瞬間。シュパンッと見えぬ速度でゼルエルのペラペラの腕が伸びていた。
 そして、弐号機の腹が大きく切れて、内臓が飛び出した。
『アアアアアアアアアアア!?』
 シンクロによる痛みでアスカは絶叫していると、カウンターソードを手にした四号機が弐号機の後ろから跳び上がってゼルエルに刃を振り下ろした。
 ムチのように振られたペラペラのゼルエルの片腕が、その刃を四号機もろとも弾き飛ばし、四号機は地面に着地した。
『やるな、お前! でも、俺の敵じゃ…。』
 そう言って場違いに不敵に笑うケンスケだったが、次の瞬間に首に激痛を感じ、首筋から血があふれた。
『……えっ?』
 何が起こったのか分からないでいると、エントリープラグから見たのは、血を撒き散らしながら飛んでいく四号機の頭だった。
 四号機は首から上を失い、そのまま倒れ込んだ。
 高まっていたシンクロ率によるショック死しかけたケンスケだったが、すぐに行われたプラグスーツに備えられた心肺蘇生装置により一命を取り留めたのだった。
 その時。
『……裏コード、モード反転!! ……ザ・ビースト!!』
『ダメよ、アスカ! それは…!!』
『倒せりゃ…いいのよ!! か、勝てば……、ぅう、あああああああああああああああああああああああ!!』
 隠されたエヴァンゲリオンのリミッター解除コードである、ザ・ビーストを発動したアスカにリツコが静止をかけるが、アスカは聞かない。
 弐号機の背骨から無数の管が飛び出し、メキメキと体の筋肉が隆起、そして隠されていた口部分が割れるように開いて無数の鋭い歯が露わになって弐号機は咆吼した。
『しぃねぇええええええええええええええええ!!』
 赤い光りに染まったエントリープラグ内は、ボコボコと沸騰し、暴走状態に精神を持って行かれたアスカが目を緑に光らせ、白目を血走らせて叫ぶ。
 獣のように跳び上がり、ゼルエルへと襲いかかるが、強固で何重にも重なったATフィールドがそれを阻む。ATフィールドの上に乗り、両腕を振り上げては振り下ろしATフィールドをバリンバリン!っと破っていった。弐号機が暴れるたびに腹の横から飛び出していた腸がぶらんぶらんと揺れて体液が散らばるためそのグロテスクな有様に、オペレーターのマヤは吐き気を堪えていた。
 やがてあと1枚と迫ったところで、ゼルエルに動きがあった。
 クルクルとペラペラの両腕を回し、丸い筒状に変えたのだ。
 そして、筒状になった腕を伸ばして弐号機を貫いた。
 側頭部と、腹部の半分以上を失い、弐号機は吹っ飛ばされ地面に落ちたが、それでも執念深く四つん這いで起き上がり、咆吼をあげて、少し露出した頭の脳部分や、破れたり更に溢れ出た他の内臓から出る体液を吹き出しながらゼルエルに迫る。
 まっすぐに伸ばされたペラペラのゼルエルの腕が、横へと振られると、弐号機の体が上下で二つに切断された。
 上半身だけでもガサガサと動いて、それでもなおゼルエルに迫ろうとする弐号機。だが、やがて内蔵バッテリーが切れて機能停止した。
『クソ…クソ、クソクソクソクソクソ…!!』
 弐号機の暗くなったエントリープラグ内で、アスカは吐血しながらガチャガチャと操縦桿を動かしてゼルエルを睨んでいた。
 しかし、ゼルエルはそんなアスカなど目もくれずその場に佇んでいた。
 ちなみに、ゼルエルはその場から一歩も動いていなかった。




 海から放射熱線が飛んできて、ゼルエルは、それを何重にも重なったATフィールドで防ぐ。すべてのATフィールドが破れたところで熱線は消えた。




「き、来た!」
 緊張が走る。
 ゴジラがやがて海から姿を現し、ゼルエルからそこそこ距離を取った状態でその前に立った。
 ゴジラを目の前にしてもゼルエルは、一切慌てる様子もなくその場に佇んでいた。
 両者の睨みあいが1分ほど続いた後、両者がほぼ同時に動いた。


 怪獣王ゴジラと、力の使徒ゼルエルの戦いが始まった。





***





「最強の拒絶型…。」
 ネルフ本部でリツコが呟いた。
 機龍フィアがゼルエルを前に敗北したのも生中継で見ていた。
 これまでの使徒でも、ゴジラ相手でも耐えることができた機龍フィアの特殊超合金が、いともたやすく切断され、右腕が飛び、首を折られ、体の中心を背中の方まで貫通された。箇所から見て操縦席と思われる。中にいるパイロットは、間違いなく無事ではないだろう。
「だとしたら、今までの使徒とはわけが違う…。ゴジラは、果たして勝てるの?」
 リツコですら、この戦いの勝敗に大きな不安を感じていた。
 それほどの力を持つのが使徒ゼルエルなのである。
「きっとあの老人達は、期待しているでしょうね…。この使徒に。」
 ゼーレがゴジラを排除することに期待しているのは目に見えている。倒さずとも致命傷を負わせて人類補完計画実行まで大人しくさせたいはずだ。
 ゼーレにとって、ゴジラは完全なるイレギュラー。
 なんとしてでも排除したかったから、地球防衛軍の結成と活動にもほとんど口出ししなかった。それが結果として、これまでゼーレに従っていた者達の離反を招く結果となってしまったのだが……。
 今やゼーレの目的は、変わりつつある。そのことに彼らは気付いていない。
「人類の進化のための計画が、自分達に逆らう者達への報復になりつつあるのに、気付いているのかしらね…?」
 ゼーレに従わなくなったとはいえ、リツコはMAGIを使ってゼーレの様子を見ていた。ゼーレがMAGIのコピーを使っている以上、MAGI本体を操るリツコに筒抜けなのである。
 ゼーレから漂う不穏な空気にリツコは、多少の不安を覚えていた。
 と、その時。大きな振動が本部を揺らした。
 上ではゴジラとゼルエルの戦いが激しくなっている。
「……ゴジラが勝つことを願っている自分がいるわ。恐ろしい…。…っ?」
 頬杖をついてパソコンのモニターを見つめてため息を吐いていると、なぜかどこかで誰かがニヤリッと笑った気配を感じて、リツコは周りを見回した。



『それ悪いことじゃないよ〜。赤木博士。』
『ツムグ…、もうくっついたの?』
『まだ。』
『えー。』



To be continued...
(2020.09.26 初版)


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