サードインパクト。
全ての生命が個を失った。
私も最初は無に還えるつもりだった。
だけど彼はそれを望まなかった。
私に新しい絆を与えてくれた。
だけど彼はもう居ない。
汚い大人と子供達の生贄にされてしまった。
もう、彼は居ない。
加持一尉が言っていた。
「シンジ君は俺達の生贄として、死んだ。これで彼は、ある意味本当の英雄なったかもしれない・・・・俺達にとっての・・・・・」
そう言うと加持一尉は私の横で虚ろな目をしながら言った。
そして私は1枚の名刺を貰った。
第二部 第壱高校編
第四話 綾波レイ
presented by 黒き風様
〜コンフォート17綾波レイの部屋〜
コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ・・・・・・
先程から時計の針の音が部屋全体に響き渡っている。
この部屋は女の子の部屋とは思えないほどシンプルな内装なので、音は更によく聞こえるような感じがする。
この部屋の主人はそのことを歯牙にもかけてはいない様子だが、客人であるココとヒカリはなんとなく居心地が悪い。
だったら何かを話せばいいのではないかと思うのだが、先程部屋の外でレイとケンスケの会話の一部始終を聞いていたので何から話せばいいか少し迷っている。
(会話の中にはとんでもない内容も含まれていたので。)
だがそんな沈黙を打破すべく、ココの部下である青年、ヒカリは意を決してレイに問いかける。
「悪いけど、僕達はさっきの君と相田ケンスケの話をきいてしまった。その上で君に聞きたい!3年前、この第3新東京市で一体何が起こったか・・・・・その真実を!!」
レイはヒカリの発言に少し反応し、顔を俯かせてしまう。
「ヒカリ!いきなりそんなこと言って怯えさせちゃ駄目じゃない。・・・・・大丈夫よ、この部屋にはネルフの仕掛けているような目と耳は無いみたいだし、それにこれから貴女が何を話しても情報提供者としてメロスが保護と保障をするから。」
ココはレイの反応を見て切り札の一つを切った。
これは盗み聞きした際の会話を元に、3年前のネルフの噂や今まで調べてきた情報を総合して、少なくとも綾波レイは自分達の敵ではないと判断したからである。
いや、上手くすればセカンドインパクトからサードインパクトまでの全ての真実を明らかにする為の最強のジョーカーに成りうるのだ。
ココは勝負にでたのだ。
「・・・・・・・・」
レイは沈黙を守ったままである。
「「・・・・・・・・」」
ココとヒカリも、レイが答えを出すのを待つかのように沈黙している。
5分ほど経ったころであろうか、ココが多くある疑問のうちの一つをレイに問い掛けてみることにした。
「一つだけ教えてくれない?貴女にとって碇シンジはどういう存在なの?」
レイはこの問いかけに俯いていた顔を急に上げるが、何も言い出せなくなった。
それは今日一番の反応かもしれない。
ココはその反応を見て確信した・・・・
「わかったわ、今日はここまで。またいつか日を改めて来るわ。」
「え!?ココ、いいのかい?」
これにはヒカリも驚く。
彼女から重要なことを多く聞き出せるかもしれないのだ。
「あ、そうそう、ネルフの首脳陣は勘付いてるかもしれないけど、ボッカは私達メロスのメンバーなの。だから何かあったらボッカを通して私達に連絡取れるからね、それじゃ♪」
ココはそれだけいうと部屋から退出する。
ヒカリも、レイにボッカがメロスであることをバラしたことに困惑しながらもココと同じく退室した。
そして部屋には綾波レイ、1人だけが残った。
「ココ、いいのかい?あんなことまで言って。彼女は僕達の味方になってもらったわけじゃないんだよ。」
帰り道にヒカリはココに疑問をぶつけた。
「いいのよ、最後の質問をしたときのあの子の表情・・・・・少し複雑だったけど、多分大丈夫よ!」
「そ、そうなのかい?」
「それより、あのメガネ!女の子を脅迫して手篭めようなんて・・・・・絶対に許さないんだから!!!」
そういうとココは携帯を手に取り、ひっきりなしに何処かへ連絡を掛けている。
(元々、あのメガネに関してはチルドレン接触許可が出る以前に、幾つか悪行を掴んでるわ・・・・・・見てなさい)
少し顔が怖かった・・・・・・
○月×日 天気、晴れ
今日も清々しい一日が始まる予定だった。
『は、離せーーー!!俺はエヴァのパイロットだぞ、エリートなんだぞ。世界の平和は俺の手に懸かってんだぞ!!!』
前言撤回・・・・騒々しい一日の始まりでした。
騒いでいるのはネルフの誇る6thチルドレン、相田ケンスケ。
どうやら国連MPやインターポールの捜査員に連行されているご様子・・・・・
しかもその後ろには頭に矢が刺さった状態で倒れている作戦部長が・・・・・
更にネルフ内の廊下であるにもかかわらず、その片手にはエビチュの缶が握られている。
さて、如何してこのような事態が起こったかを説明する前に、これより3日前のことから説明しなければならない。
3日前、ネルフにココと部下数名に国連の査察団にインターポールと地元警察がやって来てたのである。
最初、この面子にネルフ職員は戸惑いながらも応対し、どのような用向きで来たのかを尋ねると査察団の代表と思しき男が、
『国連本部より、ネルフ所属の6thチルドレン、相田ケンスケ特務三尉を盗撮、脅迫、猥褻行為、及び強姦未遂の容疑で逮捕、拘束する。』
という宣言がなされたのである。
これにはネルフ職員も大慌てし、すぐさま、リツコに連絡を入れた。
(ゲンドウと冬月は国連に呼び出しを喰らって、議会にて会議中。どうして呼ばれたのかは後程)本来、チルドレンの直属の上司でもあるミサトを一番に呼ぶのがセオリーなのだが先の記者会見の影響でスルーされたのである。
(一般職員にもアレはかなり不信感を買ったらしい。)よって、現時点におけるネルフの責任者であるリツコは会議室にて話し合いの場をもうけたのである。
「それでは、6thの犯罪行為について話してもらえないでしょうか。」
リツコはココに向かって単刀直入に用件を言う。
「勘違いしないでね、私はネルフを監査するメロスとして立ち会ってるだけだけよ?」
少し、勿体つけるような声であくまで自分は傍観者ですと言い切るココ。
リツコは白々しいという顔で一瞥した。
現在、ネルフを監査をしているのはメロスという組織だけで、もしネルフの不正等の問題が見つかった場合には否応なしにメロスが関わっているはずなのである。
「赤木リツコ博士、こちらの資料を見てもらえば判りますように、6thチルドレン相田ケンスケの行為は極めて悪質なものです。例え人類を守るパイロットでもこのまま見過ごすわけには行きません。」
インターポールの刑事は手を組みながら身柄の引渡しを求める。
リツコは資料を見ながら溜息をつく。
資料に書かれているケンスケの行状は余りにも非道なものだった。
読者の皆さんも知っているように、ケンスケの趣味の1つにカメラがある。
無論、撮る対象はミリタリー関係若しくは女の子である。
中学時代は表向き、かわいい女の子(エロなし)を撮ってその写真を自分のコレクションとしたり、男子生徒に売って儲けるなどのレベルであった。
しかし裏では着替えの中の女子やスカートの中を撮り、それを自分用に楽しんだり、ネットで売り捌いたりしていた。
中学時代はこの程度だったが(十分悪質なレベルだと思うが)エヴァパイロットになり、高校に入ると行為は次第にエスカレートしていく事になった。
中学時代の行いは高校に入ってからも続けており、チルドレンになってからネルフに出入りできるようになってからはネルフ女性職員をも盗撮のターゲットにしていた。
トイレや更衣室、階段、エスカレーター等々至る所にバッテリー交換を必要としない、コンセントやウォシュレットから電源をとって、データを送信できるタイプのカメラを仕込んでいた。
(カメラはチルドレンに就任した手当てで購入。)しかし、読者の皆様はこんなこと、MAGIのログを調べたり、ケンスケを監視している諜報部によって、一発で判ってしまうとお思いだろうが、それはなかった。
まず、ケンスケの盗撮行為は中々巧妙で女性職員もそんな簡単には気づかなかったことが挙げられる。
(後々気付かれたが、緘口令を敷かれて有耶無耶にされた。)
更に、これを最初に見つけたのはゲンドウ子飼いの保安部員で、これで詰め寄ったときにケンスケは保安部員とある取引を交わしたのだ。
取引とはブッチャケ、盗撮写真の横流しである。
ネルフの女性職員は若くてキレイな独身が多く、男性職員にとっては天国である。
保安部員が盗撮写真を見て、ケンスケの実力を高く評価し、報告しない代わりに写真を譲ってくれと言ったのだ。(ケンスケの盗撮レベルはかなりのものらしい)
そしてケンスケのマーケットには保安部、諜報部、特殊監察部にかなりの顧客がいて儲かっていたのである。
(自分達が盗撮しようとしても、メロスの監視のせいで実効不可。だが、当時メロスはチルドレンには接触できなかったのでケンスケはやりたい放題だった。)なかには、高校の女子生徒の写真を依頼する者もいたようだ・・・・・
次に学校では更に酷かった。
自分がエヴァのパイロットということ言い、女子生徒にセクハラ紛いに身体を触るなどしてきたのである。
無論女子生徒達は拒絶の意思を持っていたが「俺は世界で数人しかいない貴重なパイロット様なんだぞ、お前等なんか社会的に消す事だって出来るんだぞ」と脅して黙らせてきたのだ。
(これはミサトが平時においても特務権限を乱用している姿を身近で見ていた影響である。部下は上司の背中を見て育つという悪い例である。)流石にこれには女子生徒も大きく出ることが出来ず、ケンスケの猥褻行為を為すがままに受け入れさせられて来たのだ。
だが不幸中の幸いとも言うべきか、本番行為には踏み切ってはいない。
(流石にそのような行為は学校では出来ないし、学校以外では殆どネルフに常駐なので。例えチルドレンの関係者でも、自宅のコンフォート17には一般人はそう簡単には近づけられない。)
(無様だわ・・・・・・・)
リツコはこめかみを抑えながら思っていた。
もはや弁解の余地がない。
「すみません、この強姦未遂とは・・・・・」
最後にリツコは渡された資料にはないケンスケの罪状について聞き出した。
国連のMPはリツコをすこし哀れそうに見つつ、切り出した。
「その被害者は、1stチルドレン綾波レイです。」
「な、何ですってえぇぇぇ!!!」
これには流石のリツコも驚いたようだ。
同席しているネルフ職員もザワザワしている。
「そうよ、私達が1stチルドレンに面会をしようと偶々、彼女の部屋に入ろうとしたら相田ケンスケが事に及ぼうとしていたのよ。証拠があるけど聞いてみる?彼女をとあるネタで脅して、無理矢理押し倒す所がよーくわかる証拠映像よ。」
ココはあの時聴診器で聞いていただけではなく、郵便受けから小型のカメラを忍ばせていたのである。
ビクッ!!!
リツコはココのとあるネタという言葉に思いっきり動揺した。
ケンスケがレイを脅せる情報など限られているからだ。
「・・・・・・・わかりました、6thチルドレンの容疑に関しては認めます。しかし、現在使徒襲来中により彼をこの第3新東京市より外に出すことに関しては、ネルフ特務権限において拒否させて頂きます。」
リツコは提示された資料と証拠に観念し、これ以上、事を荒立てて余計なことをこの場にいる一般職員に知られる前に切り上げることにした。
「承知しております。彼はネルフ内の独房で国連の監視員が拘束します。有事の際は一時的に開放しますので・・・・あしからず。」
国連のMPはそう言うと会議室を出てケンスケがいるコンフォート17へと行き、拘束、連行となった。
ちなみに国連MPの団体がケンスケを拘束しているところ近くからミサトが騒ぎを聞きつき、やって来たのである。
(時刻はAM11:00を過ぎているにも関わらず職場にて何故か酒気を帯びている。ちなみにチルドレン達は本日、学校を休み本部内に居た。)ミサトはチルドレンの中で現在最も自分に従順なケンスケが連れて行かれる状況を目にして、ケンスケを助けるべく国連MPやインターポールの刑事達に襲い掛かった。
無論、国連MPも事態を説明しようとしたがミサトは聞く耳持たずの状態。
結局乱闘騒ぎになり、重傷3人、軽傷5人の被害を出したのである。
(国連MPの中には軽装備をしていたものが多数いたのだが、ミサトは素手で相手をしたらしい(汗))最後はココが小型の弓を取り出し、麻酔薬を仕込んだ矢で沈黙させたのである。
無論、この騒ぎはこれから始まる国連本部での会議にも知らされて、ゲンドウと冬月を大いに困らせるのである。
「ふふ、それにしても見事だったわね〜あのメガネ!」
「ココ、そんなに彼のことが嫌いなんだね?」
ケンスケがネルフ内の独房に連行される様を見つめるココとヒカリ。
これでケンスケは有事の際、つまり使徒襲来時にはパイロットとして出撃する以外には独房から出ることが出来なくなった。
・・・・・・・さて、髭と電柱はどうなっているのでしょうか?
〜ニューヨーク国連本部〜
ここはニューヨークにある国連本部の議会場。
現在、ここでは世界中の首脳と国連軍や日本の戦自のトップ達も居り、物物しい雰囲気に包まれている。
ここでは新たに襲来してきた使徒に対しての会議が成されており、今ある議題について物凄い論争が繰り広げられているのである。
(論争と言っても殆ど一方的だが(笑))
「どういうことなんだね碇君!」
事務総長の声が議会場に響き渡る。
「・・・・・問題ありません。」
ゲンドウはいつものポーズでお決まりの文句を言い放つ。
「何が問題ないのかね!メロスから渡された発令所内での記録、あの葛城作戦部長は本当に3年前に使徒を殲滅の指揮を執っていたのかね!?」
事務総長は怒鳴りながらゲンドウを批判をぶつける。
議員達も同じ心境のようで先程からざわめいている。
それもそうだろう、ミサトは先の戦闘で碌な作戦も指示も出せなかったのだから。
(最初のアスカ、トウジには作戦を出してはいたが、すぐに敗退。)その後、戦果の功労者であるボッカに何の作戦も指示も出さずに出撃させ、使徒を倒したら『何故、命令を聞かなかったのか』と責め立てる。
はっきり言って、何故こんな奴が人類の命運を賭けているような戦場で重要なポストを任されているのか疑問であった。
「しかも先日の記者会見・・・・わが国にも報道されてたよ。記録を知っている者からすれば嘘八百のモノだったな。」
国連議員が言う。
「全く・・・・他人の功績を自分のものと偽り、己の失態を忠実に指示に従った部下に擦り付けるとは、人間性を疑うよ。」
他の議員が補うように進言した。
「そ・・・・その、3年ぶりの使徒戦だったので彼女も本来の実力を出し切れていないというか・・・・興奮していたというか・・・」
「とてもじゃないがそんな言葉で済まされるレベルじゃないよ!!日本の戦略自衛隊の方々は如何思いますか?確か葛城ミサト作戦部長は以前、其方に軍籍を置いていたようですが。」
冬月が言い辛そうにフォローするが、国連議員がそれを遮るかのように叫ぶ。
「はぁ・・・彼女がいたのは3年以上前のことでして、当時彼女のことを知っている者は誰もおらず、資料のほうもサードインパクトの混乱時に消失していまして・・・・・」
戦自のお偉いさんは当たり障りのないことを言う。
ここではっきりさせるが、ネルフと戦自は繋がっている。
これは3年前に戦自(日本政府)がゼーレの思惑でA−801でネルフを占拠した事実を出来るだけ戦自には汚点がないように済ませる為に裏取引をしていたのである。
実際、ミサトは戦自にいたときにも無断遅刻、欠勤は当たり前のようにやっており、職場でビールを飲んでもいたのだ。
演習などで立てる作戦や指揮も余りに稚拙で、部隊に被害を出しまくりで、よしんば作戦を成功させていたとしても生き残っているのはせいぜい無事な者で2、3人。
酷いのは、演習にもかかわらず何故か死者まで出していることである。
その自衛隊員は演習中の不幸な事故として片付けられたのである。
因みに、ドイツの軍隊に居た頃は更に酷いもので、民間人にもその被害が及んでいた。(ドイツはゼーレのお膝元であり、補完計画の一役を担っているミサトを保護する為かなり強引なことが出来る。)
その原因は勿論のことミサトの無知から来る無謀な作戦のとばっちりによるものである。
酷いものになると作戦行動中にも関わらずアルコールを摂取し、酔った挙句に銃を誤射、テロリストの隠れ家の近辺に偶々居た一般人を撃ち殺してしまったのである。
(当然作戦は失敗し、民家などにも被害を出し、確保する予定だったテロリストを全て殺してしまう結果になった。)だが、これだけの事態を引き起こしてもミサトには何のお咎めもなしなのである。
(関係ない兵や上官が濡れ衣を着せられ始末されました。)
「事態はこれだけではないよ、エヴァンゲリオンのパイロット、6thチルドレンの相田ケンスケ。明らかになった彼の犯罪歴!」
大使がそれだけが問題じゃないと言わんばかりに、大きく叫んだ。
「特権を傘にしての盗撮に猥褻行為のオンパレード・・・・君の組織はどういう教育をしているのかね?」
「そうそう、調べたところによるとその盗撮写真をネルフの職員が買い付けていたとか・・・・・」
「本当ですか?」
「ええ、その証拠にこんなメールが・・・・・・」
![]()
・・・・・・・・・・・・・このセカンドインパクト前に日本の建物の耐震偽装のニュースの最中に見たことがあるようなメールは、ケンスケが盗撮写真を売り捌き、それをネルフの職員が仲介しているという紛れのない証拠であった。
読者の皆様へ、メールの仲介者は決してフリーライターではありません。(笑)
「確かに、はっきりとネルフ特殊監察部と書かれていますな。」
「特殊監察部といえば確かネルフのなかでも有名な部署ですなぁ。」
議会堂のあちこちでは国連議員に各国の代表や軍関係の面々がざわめいている。
「碇君、このような事態を引き起こしておいて如何するつもりかね?こんなこと世間に公開など出来ないよ?」
「問題ありません・・・・・」
ゲンドウは冷や汗をかきながらもいつものポーズでお決まり文句をいう。
(それはないだろう・・・)「・・・・・・国連軍総司令、ホル・カウトリー殿は如何お思いかな?」
ゲンドウの反応に呆れたのか事務総長は国連軍総司令に意見を求めた。
事務総長が国連軍の総司令に意見を求めると他の各国の大使達も注目していた。
「・・・・・はっきり言って、こんなのが世界の平和を守るネルフの重役とは思えないねぇ。一度徹底的に洗ってみたら如何かな?現在も過去も・・・・・そうだ、特務監査機関のメロス殿にやってもらおう。君達はとても優秀だからねぇ。」
国連軍総司令のホルという男はイスの背凭れを最大限に利用して凭れかかった状態で資料を片手で高々と上げながら読み答えた。
彼は逆立った髪に何か獲物を見つけたかのように細めている目つきをして、軍服の前ボタンを掛けずにしている。
はっきり言ってこのような国連の議会でこんなお行儀の悪い態度は普通は無い筈なのだがこの議会堂の誰もがそのことを咎めようとはしない。
ホル・カウトリー。
彼はサードインパクト後、世界中が混乱している最中、国連軍所属の中尉でありながら、類まれな統率力でLCLから還って来た軍人を先導し、世界各国の混乱を迅速に沈静化させた者である。
サードインパクト後の当時、世界中の軍隊はまともに機能はしていなかった。
それはまだ軍隊は縦社会であるが故、LCLから還ってきていない者が上層部や現場の指揮官などが多々いる状態では機能しなかったのである。
そんな中、ホルという男は『世界中の混乱を沈める為に』と掲げて身近にいる(軍人を階級等関係なしに)手当たりしだい掻き集め、混乱鎮静化活動に乗り出したのである。
非常時であるとはいえ、縦社会である軍隊でそのようなことをすればその時は良くても、後々問題視されることになる筈だが、そのような事は無かった。
彼の強力なリーダーシップから来る、熱心で精力的な活動は他の軍人達に階級などのことを忘れさせてしまうものであり、誰もがホルを慕い、指示を仰いでいったのである。
混乱がある程度沈静化して、国連軍総司令や上層部の数名がLCLから未帰還状態であることがわかり、急遽新たに軍部を再編することになったとき、皆が彼を総司令にと推薦したのである。
このような経緯でホル・カウトリーはサードインパクト後の英雄として異例の大出世を遂げたのである。
(因みにネルフはサードインパクトの被害を最小限に抑えた英雄になっている。)
ということで、何かと有名な彼は不躾な態度をとっていても誰も文句を言わない。
これを差し引いても仕事は優秀だし、どうやら皆も今に始まったことではないと気にはしていない様だ。
(ちゃんとした儀式的な公務においてはキチンとしてるらしい。)
「お願いできるかな、黒船・バラード君?」
ホル総司令は視線を黒船に向けながら言う。
「・・・・わかりました。」
黒船はそれを無視して端的に了解をした。
「・・・・・では碇君、今後国連からもネルフに監視員をつけさせて貰う。次の戦いで判断させて貰う。」
事務総長はそう言い議会を終わらせた。
ちなみにゲンドウと冬月には、国連や各国のお偉方から作戦部長の不始末に関する叱責、批判やメロスによって明かされた使途不明な予算、第3新東京市で密かに頻発している女性の行方不明事件(ゲンドウの変態チックな趣味)等に関する詰問が待っている。
(女性の行方不明事件についてはネルフがマスコミに圧力を掛けて事を大きくしないようにしているのがバレた)
更につい先程、ミサトがケンスケを連行しようとした国連MPやインターポールの職員に怪我を負わせた事が伝わったので、更に面倒なことになった。
よって暫らくは日本には帰れない状態になり、ネルフ本部内ではミサトが再考責任者となっているのである。
(“再考”は誤字にあらず。)
・・・・・はっきり言って危険だ。
ちなみに国連では現在ネルフへの不信がかなり広まっている。
ひとえにあの有名な作戦部長さんの功績(無能実績)とその作戦部長さんを擁護しているゲンドウと冬月である。
ミサトはセカンドインパクトの生き残りとして使徒との戦いの場に居るべき存在として、死海文書に記載されていたためゼーレが送り込んだ人材なのである。
もちろんゲンドウと冬月もゼーレ無き今、こんなごく潰し以下の存在は早急にクビにしたいところだがそれは出来ない。
ミサトは世間一般では“使徒殲滅の要”“極東の戦女神”などと言われ、下手をすればチルドレンより人気が有るのだ。
(メディアにも出まくっている・・・・チルドレンを押しのけて)そんなミサトをクビにでもすれば各方面から疑惑の目で見られるし、そこを皮切りに不祥事が漏れるとマズイ。
事故に見せかけて暗殺という手もあるが、知名度という点を考えても躊躇われてしまう。
(ミサトには、ファンや追っかけがおり常に注目の的である。)それにミサトは指揮能力や事務処理能力が無能レベルでも某事情により自己の生存能力に関しては尋常ではないほどに持ち合わせており、失敗が見込まれていたのである。
(MAGIの予想では99.89%の確率で暗殺は失敗に終わると出た。)
「・・・・・碇、大丈夫なのか?」
「問題ない、エヴァの研究は進んでいる。ユイが戻ってくるのも時間の問題だ。」
「(やれやれ、結局はそこに行き着くのか・・・・)」
冬月は溜息をついた。
確かにネルフが公開組織になってからは世界中から優秀な科学者が集まっており、エヴァのオーバーテクノロジーは着々と解明されつつある。
実際、中にはマヤ以上の実力者もいる。
(ネルフは3年前までは鎖国状態且つ、機密保持優先で後進の優秀な科学者については当時眼中に無かった。)その優秀な科学者達はリツコの下でメキメキ腕を上げており、リツコのマッドな部分も受け継いでいるようだ。
しかも先月には動物実験でLCL化した実験体をサルベージに成功した。
したがって初号機のコアから碇ユイがサルベージされるの時はそう遠くないのである。
しかしゲンドウは知らない。
近い将来、碇ユイがサルベージされることによって自身に降りかかる、最大級の地獄が待っていることに・・・・・・・・・
コッコッコッコッ・・・・
一人の男性が廊下を歩いている。
特務監査機関メロスの司令、黒船。
議会が終わり、本部への帰路につくところだ。
pipipipipipi・・・・・
廊下を携帯の音が鳴り響く。
ピッ
「俺だ。」
「私、遠音よ。加持リョウジの件なんだけど・・・」
相手は行方不明の加持リョウジの捜索をしている遠音であった。
「・・・・・何か分かったのか?」
黒船は周りを見渡して誰もいないことを確認すると携帯を持っていない方の手で口元を隠しながら報告を聞く。
「・・・・はっきり言って、全然足取りが分からないわ。流石は3重スパイってところかしら?」
遠音は少し呆れながら成果を報告する。
「だが、国外へ出て行った可能性は無い筈だ。」
「何故?」
「・・・・とあるソースからだ。」
「・・・・わかったわ。引き続き捜索するわ。」
ピッ
黒船は電源を切り携帯をしまう。
そして加持リョウジの資料を見ながら思いふける。
(・・・・加持リョウジが国内に居る。これは国連軍司令ホルからの情報・・・・・。何者なんだ奴は?ネルフの監査を言い出したのはウチからだが、奴はそれが最初から分かっていたみたいに後押しを始めやがった。)
そう、実は国連内部のネルフ不信派閥で一番大きいのは国連軍司令のホルである。
(実際は表立ってはいない。)更に、メロスが特務独立機関になる際後押しをしたのもホルであったりする。
(奴め・・・・・何か知っているのか?)
黒船はどうやら本能的にホルという男を嫌っているみたい。(汗)
(国連軍司令というお偉いさんなのに・・・・)
〜国連軍総司令執務室〜
ピッ
「あぁ、私だ。暫らくネルフの司令、副司令は国連本部に居続けだ。暫らくあの作戦部長が名実共に最高責任者だろう。」
『・・・・・・・・・・』
誰かと話しているようだが話し声は聞こえない。
「心配ない、これは“表”の意思でもあるから、態々秘密通信を使う必要も無い。じゃぁ。」
ピッ
国連軍総司令ホルは電話の電源を切ると机に足を乗せ、イスに座り、リラックス状態になっていた。
彼の執務机の横ある留め木には一羽のインコが佇んでいた・・・・・・
〜第壱高校〜
レイはいつも通りに登校し、席に着いた。
レイは3日前の事件以来、色々考え込むようになった。
「(駄目・・・また、昔のこと・・・・考える・・・・)」
〜3年前、サードインパクト後〜
綾波レイはネルフ内の病室で目が覚めた。
「目覚めたのね、レイ。」
そこにはゲンドウに拳銃で撃たれた筈の赤木リツコが居た。
「赤木博士・・・・・還って来たんですね・・・・」
レイは虚ろな意識で答えた。
「ええ、私が目を覚ました時あなたはターミナルドグマで倒れていたのよ。・・・・レイ、一体何がどうなったの?私達がこうしていられるのは司令やゼーレの計画が失敗したということよね、実際に司令は生きているし・・・・」
「はい、碇君はすべてが一つになった世界を拒絶しました。お互いが傷つき合うことがあってもいいと、元の世界を望みました・・・・それだけです。」
リツコは驚きながら聞いていた。
本来、精神が脆弱な筈のシンジなら人と人が傷つけ合うような世界を望むはずが無いと思っていたからだ。
「そう、それだと貴女の身体に起こった現象もシンジ君の意思というわけね。」
リツコは納得したような顔でレイに言った。
「どういうことでしょうか?」
レイはキョトンとした顔でリツコに疑問を口にした。
「レイ、あなたの細胞にはもうリリスの因子はないわ、100%人間のものよ。しかもDNAに碇ユイ博士の因子も見当たらなかったわ。つまり、リリスやユイ博士とは別の・・・個別の存在になったといえるわね。」
ポタ・・・・・・
レイはリツコの発言に涙した。
シンジが自分のコンプレックスを無くしてくれたのだ。
レイはシンジに自分の出生を知られたとき、悲しかった。
シンジが自分を恐怖し、避けられていたからだ。
しかし、今ならそれはない。
「赤木博士、碇君は今何処に・・・・!」
レイは涙声になりながらも、はっきりと言った。
そう、愛しい少年のことを思いながら。
リツコはレイの反応に驚きながらも、少し戸惑いながら言う。
「レイ・・・・よく聞いて、シンジ君は・・・・・・・」
その後レイはシンジがサードインパクトを引き起こした大罪人としてネルフを守る為の生贄にすることを聞かされ、自分もシンジを陥れる為に協力するようにと言われた。
当然レイはこれを拒否したがこの時点でネルフは世界中にサードインパクトを引き起こしたのはゼーレの命令どおりに動いたサードチルドレン、碇シンジだということが知れ渡っていたのでもはや遅いということを言われた。
だが、それでもレイは頑なに拒否した。
自分だけでもシンジが無実であると主張すると言ったのだ。
これには冬月やリツコ等の面々も流石に困った。
すでにレイのことはネルフの正当性を宣伝する為に、使徒との戦いを勝ち抜いてきた勇者として世界中に報じてしまった。
なので、レイがシンジが正義であることを唱えれば混乱が生じ、そこから綻び始め、全てが公になる危険性があるからだ。
「レイ、そんなにシンジが大事か?」
ゲンドウがいつものポーズを構えながらレイに問いかける。
レイはゲンドウのプレッシャーに臆することなくはっきりと言う。
「はい。」
「レイ、最早手遅れだ。すでにシンジの身柄は国際裁判中のためにインターポールが拘束している。裁判も次の証人尋問のあとスピード判決で死刑が言い渡される予定だ。」
手順が滅茶苦茶で結果が決まった裁判がすでに始まっていた。
「そんな・・・・・・・・」
レイは死刑という言葉を聞いて青ざめた。
「だが、方法が無いわけでもない。」
「「「!!!!」」」
ゲンドウはレイにとって唯一の希望ともいえる言葉をその時、言い放った。
これには冬月やリツコも驚いた。
「フッ・・・すでにシンジの死刑は覆すことは出来ない。だが、シンジの処刑までには時間がある。それまでに身代わりのダミーとすり替えることもできる。」
たしかにネルフの技術なら出来損ないのクローンをダミーとして仕立てるは可能である。
「ほ、本当ですか・・・・」
レイは恐る恐る聞いた。
「勿論だ。シンジにはこれから初号機の中にいるユイをサルベージするために必要な存在なのだ。」
これは嘘である。
実はサードインパクトが起きている間もMAGIの電源が生き残っており、初号機と初号機から見たサードインパクトの情報は確り記録されていたのだ。
つまりアンチATフィールドによる人間のLCL化やLCLから還って来る人間のデータが大量に記録されているのである。
(シンジのデータは使徒戦以来、大量に残っている。)それにネルフは非公開から公開組織になるため、世界中から科学者を集める算段が出来上がっている。
更に、今現在それらのデータを基に研究が進んでいるので、シンジが最早必要ないのである。
「では、葛城三佐のところへ行き証言の師事を受けろ。」
「・・・・・・はい。」
レイは少し戸惑いながらも答え、司令室を後にした。
レイが出て行った後の司令室。
「碇、シンジ君を助けるのか?」
「ふん、そんな馬鹿なことを誰がするか!もうシンジには用はない。最後に我々の生贄になって、最後の親孝行でもして貰うよ。」
ゲンドウは子を持つ親とは言えない台詞を口にしている。
「・・・・・しかし、ユイ君が戻ってきたら如何するんだ。」
「・・・・適当な理由をつけて、しばらくネルフ内にいて貰いますよ。シンジはサードインパクトの混乱で死亡したとでも言っておきます。」
「そうか・・・・・(やれやれ、自分の息子を・・・・・)」
冬月はゲンドウに呆れながらもどこか他人事のように見守っている。
「だが、レイは如何する?」
「構わん、もし真実を暴露するといっても自分も使徒であったと言うようなものだ。何も出来んよ。」
実際、裁判のあと即行で処刑へと移り、シンジはダミーとすり替えられる暇も無かった。
勿論ゲンドウはそんな時間があるわけ無いと最初からわかっていたのである。
レイはゲンドウ達を問い詰めたが予定通りの文句で何も言えなくなった。
(ついでに即行で処刑に移るとは思わなかったと弁明もした。)
「い、い・・・かり・・・・君・・・・・・」
誰も涙を流さない中、レイは一人涙を流していた。
レイは目を開けた。
(今、自分は何をしているの?)
(真実を明かすわけでもないのに・・・・・)
(新たな使徒を倒す?・・・・・・・いえ、違う・・・・期待してるのかしら?)
レイは少し離れた所にいる同じチルドレンでありメロスのエージェントであるボッカを見ていた。
その後、無造作にポケットに手を入れ一枚の名刺を手に取り、見つめていた。
その名刺には『加持リョウジ』と書かれており、裏には何処かの連絡先が書かれてあった。
その後携帯に非常召集の連絡が入る。
それを見てレイは他のチルドレンと共に急いで早退する。
しばらくした後、学校全体に警報が鳴り響く・・・・・・
〜何処かの格納庫〜
“ミリオネアびーばー”は部屋の中央部に立っており、暗い部屋の中、スポットライトを浴びている。
「ジャスト・フィット・リブ!!」
“ミリオネアびーばー”がそう叫ぶと、背後から奇怪な金属のアームが彼女の身体を包み、まるでメカの部品のような形になる。
そして苦痛の、あるいは興奮の為か絶頂に達し、叫ぶ。
「ビバ、モンスターユニオン!!」
更に、周囲から機械仕掛けのネズミが“ミリオネアびーばー”に纏わり付いてゆき、一体の大きなネズミ型のロボットになる。
「ネルフめ・・・・今日こそ、鉄槌を下してやる!!」
To be continued...
次回予告
司令、副指令の居ない中での戦闘
作戦部長が放つ狂気は全てを破滅へと導く
それでも一人の少女は戦い続ける
何時からだろう、定めか、意思か、誰も知らない
次回『すでに択ばれていた進むべき道』
鳴り響け僕のメロス!!
(あとがき)
・・・・なんとか、第4話をお送りしまシタ。
ここで今さらなんですが、この作品のクロスとして使っている忘却のキャラについてです。
実は作品自体、クロスでなくても逝けるんですが、自分にはネーミングセンスというものが壊滅的にないので、忘却を使ったのデス。(爆)
つまり、名前だけ利用してデス。
原作の設定とかは大してフィードバックさせるつもりは無かったのデス。(爆)
(まあ、できるだけ設定を出してはいまスガ・・・)あと、最近、本作品のスートリーを見直していたところ長編というより、中編と言ったほうが良いような話数だと考えさせられまシタ。(汗)
(一応この作品を投稿した際に管理人様に連絡しまシタ。)いやはや・・・・・何なんでしョウ?
それと、次回の話ですがかなり、荒れます!!!ご注意下さい。
それでは続きは6月下旬になりそうなので、この辺りで失礼いたしマス。
(下手すりゃ7月辺リ・・・・)次回、第5話『すでに択ばれてた進むべき道』をお楽しみ下サイ。
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