緑に包まれた世界
魔法が未だ生きている世界
人々は神を恐れ
人々は堕ちた天使達と共に生き長らえていた

そこに今又堕ちて来た一人の少年
全ての悲しみを背負った少年
全ての人の怨念を背負った少年
人として生きるのをやめた少年
復讐の為に生きることを誓った少年

今、闇に生きる少年が背負った運命が
彼が降り立った世界の穢れた歴史が
歯車を交わしていた

復讐

思慕

恨み

友情

複雑な感情の交差する
人の世界において
彼の復讐劇が始まった

 

だが、その始まりはリリスとなった綾波が過去に導くのでもなく、神の力を得たシンジが
時空の穴を開けるというようなものではなかった。
彼は魔法科学の高度に発達した天界と魔界の援護を受け、両界の統治者からイレギュラー
である使徒を再度殲滅するという任務を負い地上界に舞い戻ることになった。
だが、ただで戻れるわけではなかった。過去の資料を参照した結果、使徒は情報を共有し、
敵が強力な場合は次の使徒がさらに強力に進化することが確認されたのである。
これではATフィールドだけでは対処できないであろうことは目に見えていた。
その対策として彼は魔界に伝承する魔法を覚えさせられることとなった。
その種類は単純な攻撃魔法から複雑な攻撃魔法、防御魔法、移動魔法等100種類以上あっ
た。
彼は智天使たちにこれらを教わった。
複雑なものは長い詠唱時間が必要であり、これを短縮するための特殊な道具の開発も急が
れた。たとえば後に開発され、第一次三界大戦で魔界軍が使用した槍型の『グングニル』
もこれの一種である。これは大威力魔法を槍に封じ込めることによって、回数制限つきで
はあるが瞬時にその魔法を利用たらしめるための兵器であった。しかも、この槍が封じ込
めていたのは最強の破壊魔法として恐れられていた最上級超新星魔法『ハイパーノヴァ』
であったから天界軍、人間軍の被害が増大の一途をたどることになったのは別の話である。
だが、これは先ほども行ったように使徒戦役後に開発されたものであり、使徒戦役中には
このようなたいそうなものは無く、戦役後期に登場したものである『フロスト』でも上級
氷魔法を五回使用できる程度のものであった。

まぁともかく、シンジに最初に手渡されたのは中級瞬間移動魔法を封じ込め二十回使用可
能な時計型の『ミストリング』であった。
それ以外のは自らが詠唱しなくてはならなかったが、それもしょうがないとされた。

それ以外にもこのころ開発された特殊道具は中級火炎魔法を封じ込め十回使用可能な『イ
ンフェルノ』、中級雷撃魔法を封じ込めた『ショック』などがあったが、シンジには渡さ
れず、むしろ魔界軍への配備が急がれていた。

この特殊道具―マジックリングと呼ばれる―の開発を担当したのは魔界中央魔法科学研究
所の第二開発室兵器開発部であった。この開発部の所属研究員に対しては第一次三界大戦
後に栄誉勲章が授与された。

それ以外にも転移のための問題点は残っていた。
転移装置である。
これには既存の上級空間歪曲魔法と魔力増幅装置、魔力指向装置を同時使用することによ
って一応の解決を見た。これも使徒戦役中の使用データを基に改良が施され、第一次三界
大戦時にはこの大戦の勝敗を決したとも言われる三界間転移装置『ギルデニアン』が魔界
軍によって使用されている。

そしてリリムこと碇シンジが堕ちて来て数年の時が流れた。
彼はすべての準備が終了したことを確認され、転移を許可された。
だが、肉体ごとの跳躍であるため、先に一人の堕天使が『事前工作』のために潜入するこ
ととなったが。 







堕天使リリムの記録 〜究極破壊の先に見たもの〜

正典 第一話 帰還

presented by BlackCherubim様







遥か深遠の海をを首なしの人型の巨人が航行している。
その付近の海上では一隻の重巡が待機していた。
後部艦橋から延びるマストに軍艦旗をはためかせたその船の名は最上Uと言う。もっとも
この名称で呼ぶ人間は居らず、もっぱら最上とか最上改と呼ばれていた。
後部甲板からしきりに偵察機を発艦させ、海中の巨人の行方を見守っているようだった。
それにかまうことなく巨人は海岸を目指していく。
その海岸には何十両もの戦車がその砲身を海に向けている。
巨人が海上に現れたらすぐに発射するつもりなのだ。
その上空にも日の丸を翼に描いた六発の超重爆が今か今かと攻撃のチャンスを狙っている。
この三部隊がこの使徒戦役の緒戦の主役であった。
最上改が情報を収集し、戦車隊が初撃を、航空隊が第二撃を与える。
それでも足りないときは最上改も攻撃に参加する予定であった。

「暑いですなぁ」

「そうだな」

指揮官戦車の中で二人の男が会話を交わしていた。
一人はこの戦車群の指揮官であり、もう一人は指揮官戦車の砲手である。
彼らはただこの常夏の国と化した日本で戦車屋になったことを悔やむだけであった。

「中佐、司令部より入電です。航空重巡『最上改』からの情報で敵性体が上昇しつつある
とのことです」

「よし、臨戦態勢に入れ」

その指令が行きわたったのか、すべての戦車がその砲身を一点に集中させた。
上の重爆も爆弾庫を開放し、ミサイル投下態勢に入ったようだった。
そして、水飛沫があがった。
その瞬間、戦車群が一斉に発砲した。
上空の重爆からもミサイルが投下された。
あたりを轟音が包んだ。
反戦運動家がみたら気絶しかねないほどの大兵力を利用したセカンドインパクト以来の大規模な軍事作戦―兵器の威力では過去のどの戦争も上回るかも知れなかったが―は開始された。

 

「はぁ、ここもだめか」

目の前の公衆電話に受話器を押し付けつつ一人の少年がぼやいた。
周囲にはすでに人影が無く、駅のスピーカーは避難を勧告するアナウンスを流している

「しょうがない、シェルターにでも行くか」

少年はそのまま歩こうとするがいきなりの大音響に驚いてしまった。
それは至近距離を対地巡航ミサイルが通過したことを示す音であった。

 

「よりによってこんな時に見失うだなんて、参ったわね・・・」

そうつぶやきながら無人の街を猛スピードで走り去る一台の車を運転する一人の女性。
その傍らには二人の少年の写真がはさまれたファイルがあった。
彼女はそのまま強羅駅を目指して進んでいった。
そこがおそらく少年が足止めを食っている場所であったから。

 

「湾岸戦車隊・・・壊滅」

その声は発令所全体にこだました。

「湾岸重爆隊は撤退を開始します」

そして次の報告が絶望の傘をかぶせた。

「皇軍の意地を見せろ、厚木も入間も全部出撃させるんだ」

だが、この座の最高指揮権を握る男は、それでも勝利を信じ続けなくてはいけなかった。
そのためにはいかなる犠牲を払っても良いと言うことだけが彼の胸中にはあった。

「高機動砲戦車『トライデント』の投入も検討しなくてはな」

彼は傍らに腰掛ける参謀にそう話しかけた。

「えぇ、そうですね。まだ訓練は完了していませんが仕方ないでしょう」

「よしっ、参謀本部に通信を入れろ」

その命令を受けてオペレーターが動き始めた。
ここ新東京から遠く離れた帝都第二東京にある参謀本部への直通通信用プログラ
ムを開始させた。
上の方に座る将軍たちの目の前に通信用フライウィンドウが開いた。

『厳しいようだな』

「は、はぁ。我々の現有火力では如何ともしがたい状況です。高機動砲戦車『トライデント』の出動をお願いします」

相手の位が高いため頭を低くして要求を将軍は伝えた。

『だめだ。あれはまだ使えん。だがそのまま放置するわけにもいかん。だからといっては何だが、代わりに帝国が新開発した新型N2爆弾を投入する。
そして、使いたくは無いがやむをえん場合は『あれ』の使用許可も軍令部からとらなければなるまい』

「りょ、了解しました」

敬礼した格好で通信が終了するまで直立不動のまま時が流れた。
通信が終了し通信用フライウィンドウが消え去った。
将軍は安堵の表情で戦況の推移を見守ることにした。
新型N2爆弾。これは軍令軍政関係なく、開発陣のほかには極一部の人間しか本当のところ
は知らないものである。
だが、皇軍では現在その噂で持ちきりなのである。
例えば、『その破壊力は富士山を抉り取れる』とか『宇宙空間での使用が十分に考慮され、
宇宙軍創立に結びつくんだろう』とか『多弾頭化して大範囲に攻撃を仕掛けられるように
なったのだ』とかの噂がその類である。

 

巡航ミサイルが急上昇し、サキエルに命中したころにシンジはミサトとようやく会うことができていた。

「えぇっと、シンジ君よね。一緒に来るはずだった六文儀君は?」

「えっ、一緒に来る人がいたんですか?」

戸惑ったようにシンジが応えた

「(参ったなぁ。第二で足止めでも食っているようだし)まぁ、いいわ。早く行くから乗りなさい。」

後に起こることをすでに緊急無線で聞いていたミサトはシンジを乗せると愛車を急発進させた。

 

「・・・あれ?ここって第二だよなぁ。まさかミスった?」

同じ時一人の少年が帝都第二東京に出現した。
白銀の髪と紅い眼が印象的な少年である。
彼はただ呆然とするわけにも行かず、人目の無い場所に移動して今後の対策を考え始めることとした。

 

「例の新型爆弾を利用し、現在進行中の敵性体に対し攻撃を加えよ。これ以上皇国の神聖
なる領土を犯させるわけには行かぬ」

ハンガー奥のミーティング室で少佐の階級を持つ飛行長が部下に対して訓示をした。
この基地は皇軍の戦略爆撃団に所属する基地としては一番大規模な物である。
そこに所属する超重爆『富岳改』は八発の大型爆撃機である。
それが現在の皇軍戦略爆撃団の主力兵器であった。
だが、彼等が使用する機体はそれではない。大型の爆撃機では機動性が低く新型爆弾を有
効に利用できないからである。
彼等が使用するのは小型の単座攻撃機である。
機動性、低空飛行能力に優れるこの機体の名は『鳳凰』である。
流線型、二枚の垂直尾翼、水平尾翼の無い大きなデルタ翼、四発の高出力エンジン、おそらくはこれ以上の性能を持つ小型軍用機は存在しないといえるだろう機体であった。

ブリーフィングが終了したらしく、彼らはそれぞれ指定された機体に乗り管制塔の指示に
従って飛び出していくと、上空で綺麗な編隊を組み南西へと超音速で飛んでいった。

 

「北東より鳳凰編隊接近」

「よし、現場に居る部隊に一時撤退を指示」

「了解」

サキエルの周囲に群がっていたVTOLが命令を受けて一斉に散っていく。
それに入れ替わるかのように流線型の飛行機が一斉に突っ込んできた。
そのまま散開すると、四方から弾頭に新型爆弾を取り付けたミサイルを一斉に発射した。
ミサイルの誘導装置は正確に機能し、全弾サキエルに向かっていく。
そして、搭載されたマイクロレーダーが十分に敵に接近したことを伝えると、N2爆弾の起
爆装置が起動した。
紅い高熱のレーザーがほぼ瞬時に核融合物質を核融合可能温度に引き上げた。
そして、その膨大なエネルギーは新型爆弾にのみ追加された指向装置―つまり新型N2爆弾
は指向性爆弾なのだ―によって、一箇所に向かって飛び出していく。
その先にあるのはもちろんながらサキエルである。

膨大なエネルギーがATフィールドに多方面から干渉した。
あまりにも膨大だったため、ATフィールドの許容量を超え、それはサキエルに直撃した。
サキエルは表皮の37パーセントにやけどを負った。
だが、それだけであった。
帝国の誇る新兵器といえども使徒を倒すには不十分であったのだ。

その間、各種センサーは発生した強電磁波によって死に、ネルフ本部の発令所に臨時設置
された皇軍臨時前線司令部はサキエルの破壊を祝っていた。

「碇君、君の新兵器とやらの出番はどうやらなかったようだな。」

だが、磁気嵐がやみ回復したセンサーがもたらした情報は彼らに絶望を与えた。

「くっ」

「なぜだ、なぜ我々の新型兵器が聞かぬ」

「湾岸戦車隊は壊滅、飛行隊による爆撃も不可。そして最終兵器も食らわぬ。とすれ
ば・・・」

『全部隊に告ぐ、敵性体より半径五十キロより離れよ。我々の底力を見せ付けてやる』

参謀本部からの臨時警報が本部発令所の空間を埋め尽くした。

「とすると・・・」

『そうだ。軍令部及び帝国内閣は今現在を持ってスサノオの使用を許可した。海軍の力を借りるのは嫌だが仕方あるまい。』







To be continued...


(あとがき)

すいません、前回よりかなり時間がたってしまいましたm(__)m
よく分からないという箇所がある場合は連絡お願いします。
人は教えを受けて初めて上達できますからw
さて、正典としたわけですが・・・伏せておきましょう(ぇ
ではでは、次話後書きで

ところで、わかりにくいという方居ましたら・・・

高機動砲戦車『トライデント』→陸上軽巡洋艦『トライデント』

などと置き換えたら多少はわかりやすくなるかも(因みに、本家エヴァと違う単語を使用しているのは他にもあります)
まぁ、些細な違いですが、バタフライ効果で差はどんどん大きくなる(予定)です。


作者(BlackCherubim様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで