因果応報、その果てには

宇宙暦0015
W

presented by えっくん様


 作者注. 拙作は暇潰し小説ですが、アンチを読んで不快に感じるような方は、読まないように御願いします。

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 中台エリアで発生した爆発事故と大規模な武器の密造。それと宇宙歴になって初めて発生したコロニー間連絡船のハイジャック事件は、

 自治領の住民を不安にさせていた。特に爆発事故の規模がさらに大きかった場合は、他のエリアへも甚大な被害があった可能性があると

 発表された事は、此処では他のエリアの住民であっても一蓮托生となって生きて行かなくては為らないという自覚を促していた。

 そして事件の裁判と元中台エリア代表との公開討論会を明日に予定した状態で、治安維持局による隕石群迎撃作戦が一般公開されていた。


 今回、最大直径が数メートルの小規模な隕石群が、スペースコロニーを直撃するコースを取っている事が判明した。

 地球ならあまり実害は無いだろうが、スペースコロニーともなると衝突すれば外壁を破損する事になる。

 直径が数センチ程度の小さなものなら常時展開しているシールドで防げるが、数メートル規模では直撃すれば被害は大きい。

 大型の隕石群ならスペースコロニーを移動させて回避するのだが、今回の隕石群の規模は小さい。

 デモンストレーションも兼ねて、治安維持局の手持ちの武器で隕石群を迎撃する事となり、一般公開される運びとなっていた。


 コロニー内のTVの報道番組では、十五年前に使用された簡易砲台三百基と警備艇百二十隻の威容が映されていた。


『視聴者の皆様、これから小規模な隕石群の迎撃作戦が行われます。今まで二度程行われていましたが、今回は公開作戦となります。

 十五年前とは比較にならない程、小規模な隕石群ですので不安がる事はありません。視聴者の皆様は安心して御覧下さい。

 現在画面に映っているのは、十五年前にも活躍した簡易砲台三百基と治安維持局の警備艇百二十隻です。

 これらによって隕石群への攻撃を行い、消滅させます。あっ、カウントダウンが開始されました。画面に御注目下さい』


 TV画面の隅にカウントダウンの数字が表示され、ゼロになると画面の簡易砲台三百基と警備艇百二十隻から一斉に攻撃が行われた。

 三列に並んだ簡易砲台から一斉に粒子砲の光が吐き出された。それは光のカーテンだった。

 一列に並んだ警備艇からも粒子砲が一斉に発射された。しかも簡易砲台と違って、三連射であった。まさに圧巻される光景だった。

 十五年前の迎撃作戦に携わった人間から見れば、比較にならない小規模な攻撃だったが、一般人から見れば十分に圧倒される光景だった。

 簡易砲台は連射は出来なかったが、エネルギーをチャージすると再度攻撃を行った。

 それらの攻撃が何度か行われ、やがて目標の消滅が確認されると簡易砲台と警備艇は攻撃を中止した。


『治安維持局から発表がありました。これでコロニーと衝突するコースを取っていた隕石群は全て消滅しました。

 自治領の安全は守られたのです。視聴者の皆様は安心して下さい。これで治安維持局からの中継を終了します』


 コロニーの外壁が破損すれば、中の住民に深刻な被害を与える。

 地上であれば被害は無くても、宇宙では自分達に深刻な被害を与える事もある。

 絶え間ない努力によって、それらの被害は未然に防がれているが、油断は出来ない。

 TV報道された迎撃作戦を見て、そのような事を考える住民が少しずつ増えていた。

 そして見せ付けられた治安維持局の武力に信頼感を覚える者が居た反面で、脅威を覚える者も少なからず居たのだった。

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 自治領でも裁判制度はある。もっとも地上の時のように弁護士がついて長期間の審議をするものでは無く、簡素化されていた。

 そして今回は影響の大きさを考慮して、いきなり上級評議会による裁判が行われる事になった。

 一番目はコロニー間連絡船をハイジャックした犯人の裁判だった。最初は被告の自己弁護から始まった。


「自分は不当に弾圧されている中台エリアの住民を救おうと立ち上がったのだ! 悪いのは弾圧を行った自治領主であり、自分に非は無い。

 無罪放免を要求する! さらに中台エリアの住民への弾圧を直ぐに中止する事を求める!!」


 コロニー内で重犯罪者の人権が考慮される事は殆ど無い。このハイジャック犯は強制催眠処理を受けて、武器の入手ルートや情報提供者、

 それに事件を起こすように仕向けた者、それらを全て知らないうちに自白していた。

 その自白映像は治安維持局から自治組織に渡されていた。そして裁判に立ち会っている上級評議員も内容は知っていた。


「洗脳されたか。これは最早手遅れだな。殺人の罪もある事だし、追放刑で決定だな」

「ああ。密造武器を使用して連絡船の運営局の同僚を射殺した事は間違い無い。女の身体に溺れたのだろうが、同情の余地は無い。

 工作員の女も含めて追放処分が妥当だろう。当然だが全財産は没収する」

「弾圧が本当にあるなら、中台エリアの住民は生きてはいないだろう。それが分からないのか。いや、分からないから犯行に及んだのだな。

 事の善悪も分からない輩は、一刻も早く追放処分にするべきだろう」


 地球であれば裁判に相当な日数を要するだろう。だが、此処ではそんな余裕は無く、薬や強制催眠による自白が有効とされていた。

 そして速やかにハイジャック犯、及び扇動者の追放処分が決定された。

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「自分達は中台エリアの奴等に扇動されてしまっただけだ! デモ参加者の強制取締りがあると脅かされ、止む無く犯行に及んでしまった。

 デモに参加したのも、中台エリアの主催者に騙されて事だ! 我々は善良な日本エリアの住民で罪は無い! 悪いのは中台エリアの奴らだ!

 我々は中台エリアの全住民に対し、謝罪と賠償を求める! 上級評議会は直ぐに我々を解放し、中台エリアに対して共同で臨むべきだ!!」


 冬宮の事務所の警備員二人を射殺して、冬宮とアスカを拉致監禁した日本エリアの五人の裁判が次に行われた。

 こちらも事前に強制催眠によって犯人の本意と経緯は聞きだしていた。アスカへの暴行未遂事件も含めてだ。

 それらを知らずに自己弁護する犯人が一瞬は滑稽に見えたが、重犯罪を犯したのは事実だ。

 滅んだ祖国を想って再興を考える犯人だが、その為に他の民族を策を弄して支配下におこうなどと認められる訳が無い。

 その身勝手な論理に上級評議員全員が嫌悪の表情で、処分を決めようと議論していた。


「罪を全て中台エリアに擦り付けて、自分達は罪が無いと主張するのか。恥知らずも良いところだな。これらが奴等の本性か」

「警備員二名を射殺して、冬宮代表と秘書を拉致監禁したのだ。それで無罪を主張とはな。人間とは此処まで厚顔になれるものなのか?」

「しかも冬宮代表の秘書をレイプしようとしたのだったな。幸いにも未遂に終わったが、ズボンを脱いだ状態で逮捕されたのだろう」

「デモでは全住民の幸せを考えるべきだとか、差別廃止を訴えていたが、実態はこれか。

 自分達も信じていない事を声高に主張して支持を集め、自らの勢力を固める。そして自分達の有利なように事を進めるか。

 上辺は綺麗事を言っているから批判する勢力は少ないし、不満を持っている住民は騙され易くなる。

 こいつ等を信用した住民は、お人好し過ぎるのか、馬鹿だったのか判断に悩むな」

「元々、移住を許可されない国籍だったのだ。こやつ等の自白から、誰が仲間でどうやって移住審査官を抱きこんだかも分かった。

 現在はこやつ等の仲間を拘束するように警察組織に命令してある。殆どがデモ参加者だった事もある。

 そちらの処分は直ぐには決められないが、拘束した事から、これ以上の犯罪は未然に防げるだろう」

「仲間の処分は後にしよう。人数も多くて、自治領主と相談する必要がある。だが、この犯罪者達は追放処置以外には無いと思うが」

「賛成だ。更生の可能性も無く、他の住民に悪影響を与えるだけなら、さっさと追放処置にするべきだな」


 追放処置されると聞いて五人の犯罪者は泣き叫んだが、同情する上級評議員は誰も居なかった。

 警備員によって五人は強制的に部屋から連れ出されて行った。

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「我々は水素エネルギーが普及すれば、住民の生活レベルが上がるだろうと思っていただけだ。

 確かに違法研究だったのは認めるが、悪意から研究を行っていた訳では無い。全住民の生活改善を目標にしていたのだ!

 結果的に失敗してコロニーに甚大な被害を与えてしまった事は謝罪するが、再度のチャンスを与えてくれる事を希望する。

 自治組織や自治領主の公式許可があれば、あのような失敗は二度としない。上級評議会の英断を求める!」


 違法研究を行って水素爆発を起こした中台エリアの研究者の裁判が、三番目に行われた。

 こちらも強制催眠によって本意と経緯は判明していた。確かに独善的ではあるが、住民の生活改善を望んでいた事が分かった為に

 上級評議会は判断に悩んでいた。こうした自由研究を認める訳にはいかないが、さりとて無罪放免と言う訳にもいかない。

 コロニーの外壁破損という重大事故を発生させた責任は取らさなくては為らない。


「人類の為という理由があれば、どんな事をしても良いと考えている輩か。マッドサイエンティストと同じだ。困ったものだな」

「確認したが、彼らの技術力は貴重というレベルでは無い。技術愛好家というレベルで、特筆する内容は無かった。

 仮に国家レベルの貴重な技術者であっても、見過ごせない内容である事は間違い無い」

「これを許せば、他にも第二、第三の違法研究者が出てくる可能性はあるからな。見せしめの意味でも、厳しい処分にするべきだろう」

「とは言っても、酷寒の大地に放り出すのもどうだかな。善意が底にあるから、そこまで厳しい処分で良いのか悩むな」

「確かに。此処には置いてはおけないが、完全に追放処分というのも悩むところだ」

「ちょっと待って下さい! この件は後回しにしませんか? 私はシン博士の功績評価の件で自治領主と個別に協議させて貰いましたが、

 その時に興味深い話を聞きました。この後に予定されている中台エリアの公開討論会の結末に関する事です。

 今は詳細は言えませんが、その公開討論会で結論が出れば、彼ら違法研究者の処分もそれに乗じて行えます」

「……今は言えないか。まあ、良いだろう。違法研究者の最終処分は公開討論会の後に行う事としよう」


 あまりに厳しい処罰は住民の意欲を減退させる。甘過ぎても困るが、厳し過ぎても困るものだ。

 そこら辺の匙加減を考えなくてはならない上級評議員達であった。

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 最後の裁判は武器密造を行った犯罪者の件だった。今まで武器密造に関わった人間は全て追放処分となっていた。

 この為に、今回の犯罪者達は普通であれば処分は避けられないと判断して、開き直った自己弁護を行っていた。


「確かに我々の組織は中華の栄光を取り戻そうと武器を密造した。だが、元々は自治領主が武器の製造を禁止した事が問題では無いのか!?

 最初から武器の製造を認めていれば、こんな問題には発展しなかった。これが極端な主張であるのは自分も分かっている。

 だが、各国からの多数の民族をこんな狭い密閉空間に住まわせれば、こんな問題が発生するのは当然だろう。

 それを事前に予測出来なかった自治領主にも問題がある! その自治領主に責任は問われないのは問題だ!

 我々の民族は大災厄の前から移住した人を含めると、約四十万人が此処に住んでいる。

 その四十万人全員を強制追放処置にすると言うのか!? 女や子供、幼児も凍死させようとするのか!?

 そんな事をすれば自治領の住民の不安を掻き立てるだろう。我々は自らの権利を主張したに過ぎない。無罪放免を要求する!」


 武器の密造業者達は犯した罪の善悪を横に置いて、ミハイルの責任を追及した。

 さらには中台エリア全体に責任を取らせようとした風潮を逆手に取って、住民四十万に罪を問うのかと問い質した。

 現在の上級評議会に中台エリアの代表はいない。ミハイルの命令によって一時的に代表の権利を停止させてある為だ。

 他の犯罪者と同じく、強制催眠によって本音と経緯は聞き出してあった。

 そして緊急移住時に、大陸政府の内示を受けた多くの中華主義の信奉者が紛れ込んだ経緯も判明した。

 その為に、上級評議会で武器密造業者の抗弁に同情を示す評議員は誰もいなかった。


「やれやれ、中台エリア全員に罪があるとは言ってはいないのに、彼らは先走って、しかも代表にでもなったつもりなのか?」

「あの滅んだ大陸の伝統を負っているのが彼らだからな。罪を認めないし謝罪しないのが彼らの習慣だ。

 強制催眠による自白で、本来の国民じゃ無くて宇宙開発の足掛かりを目論んだ大陸からの移民が多く紛れ込んでいる事が分かった。

 まったく、本来救うべき現地民を少なくしているとは! 一部の高官に中華主義の信奉者がいた為だろう。

 そんな彼らが中台エリアを代表した意見を言うなど、厚顔過ぎるな」

「さて、彼らの処分をどうするかだな。まずは生産工場から火薬の材料を横流しした担当者は共犯者として同じ処分だろう。

 追放処分で決まりだと思うが、どうだ?」

「それしか無いだろうな。武器密造の行為を正当化出来るはずも無い。それにしても中台エリアで問題が多発して困るな。

 全員が悪い人間では無いだろうが、比率が多くてはこれからが問題だ」

「その解決策を決めようと、次の公開討論会が行われる予定だ。さて、どうなる事やら」


 武器密造業者達は追放処分を受けると聞き、拘束されていながらも連行されるのを激しく拒否した。

 もっとも警備員に抵抗出来るはずも無く、部屋から連れ出されて行った。

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 『U』において、中台エリアの住民は約四十万人であり、四人の評議員(その中の一人は上級評議員)を選出していた。

 もっとも、現在は四人の評議員はその資格をミハイルによって一時的に停止されている。

 その四人の評議員と他の上級評議員、そしてミハイルによって公開討論会が行われようとしていた。

 議題は今回のデモを発端にした中台エリアの対応をどうするかである。

 他のエリアも現在の状況に不満を持っていたが、中台エリアでは特に不満は大きい。

 その善処策を公開討論会によって検討しようと言うものだ。中台エリアに多数の中華主義の信奉者が不正に紛れ込んだ経緯を

 ミハイルと上級評議会員は知っていたが、その事は中台エリアに代表には知らせずに公開討論会は始められた。

 コロニー初めての試みという事もあって、TVの視聴率も高い数値を示していた。


「これから中台エリアの問題についての公開討論会を始める。『U』だけでは無く『T』でも各住民の不満が溜まっているのは知っている。

 だが、これは今の地球の地下に住んでいる人達の為、そして将来起きるであろう人口増加に対応する為の三基目以降のスペースコロニーの

 建造に大量の資材と開発力を投入している事に起因している事は、定期的に発表しているから全員が知っているだろう。

 その上で中台エリアの代表に問おう。此処への緊急移住前に、此処では厳しい規則が待っていると公式に発表してある。

 その事を忘れているのか、それとも覚えているのか?」

「……覚えています。ですが、人間とは慣れる習性を持っているのです。

 此処での生活に馴染めば、次に出て来るのは生活改善を求めたいと考えるのは当然です。

 行き過ぎた行動を取った住民が居るのは確かですが、人間の本質に根差した行動です。

 その人間らしさを失わせるのが得策とも思えません。この公開討論会で良い案を討議したいと考えています」

「無い袖は振れない。今は将来を見込んで耐える時だ。それとも地球でまだ生き残った人達を見捨てても良いと言うのかね?」

「ですから、我々を資源採掘やコロニー建造に参加させていただければ、開発速度も上がるでしょう。それが解決策になると思います」

「ほう? それで私の権利を全て放棄させて、長距離用宇宙船や資源採掘の技術を公開しろと言うのだな。

 その結果、今回の違法研究のような事故が起きて、コロニーが致命的被害を受けたら責任はどうなるのかね?

 最大速度に達した宇宙船をコロニーに直撃させれば、それだけでコロニーの全住民は死んでしまう。そんなリスクを甘受しろと?」

「リスクを恐れては進歩は無い! それは甘受すべきリスクです! 管理さえしっかりやれば問題はありません!」


 此処が勝負どころだと判断して、中台エリアの代表は声を大にして訴えた。

 確かに中華の栄光の復活を第一に考えているが、人類全体を考えても技術の発展を妨げるのは間違いだという信念があった為だ。

 もっとも、そんな中台エリアの訴えをミハイルは冷笑で応えた。


「私の見解は違うな。まだ価値観の統一が出来ていなくて、今のような争いが起きている状況で技術公開を行うつもりは無い。

 今の科学技術が悪用されれば、一瞬で人類が滅亡する危険性さえあるのだ。

 人類の滅亡のリスクと発展のメリットを天秤に掛けて、私はリスクを極力減らす事を優先させた。

 確かに技術公開すれば発展のメリットはあるだろうが、今はそこまで求められていないはずだ」

「ですが、人間の本質ではより良い生活をしたいと考えるのは当然です。今の自治領主の考え方は全人類を押さえつけようとしている!

 あなたに人類の発展を止めさせる権利は無いはずだ!」

「人類の発展こそが最善と思うなら、君達は此処を出ていくべきだろう。私は今は耐える時だと思うが、君達は違うと言う。

 考え方が違うのなら、此処に居る必要は無いだろう」

「ま、待って下さい! 此処と地下都市以外に今の人類が住める場所は無いではありませんか!?

 此処を出て行くという事は、我々に死ねと言っているのと同じです!」

「このスペースコロニーは最初はサードインパクトが起きた時の避難所という役割を持っていた。

 それがあの大災厄の為に、地下都市を除くと唯一の人類の生活エリアとなった。これも義弟のシンのお蔭だ。

 そして私は自治領主として、このスペースコロニーで人類を生き延びさせる義務があると思っている。

 今の君のような自己本位の考え方が以前のゼーレの暴走になったと歴史教育で教えているが、それを知らないとは言わせない。

 確かに己の欲望を持つのが人間の宿命だろう。だが、それを抑える理性を人間は持っていると考えている。

 今のコロニーの生活は、その人類の理性を試されている時だとな。

 人口が減ったこの時期に人類の理性を改善させないと、氷河期が終わって地球再開発の時に争いはまた起きるだろう。

 私は自治領主の最終判断として、君達のような利己主義者と共存出来ないと判断する!」


 所有権を全面に出せば、他の出席者は誰も反論出来ないだろう。もっとも、その場合は自治領主の信用は失墜する。

 その為に所有権の事には一言も言及せず、ミハイルは人類の理性を信じると訴えた。

 危険な公開討論会を敢えて選んだのも、それを言いたかった為だった。欲望に従うべきか、理性を徹底させるべきか?

 ミハイルは人類の理性を磨く時期だと訴えた。

 一方、中台エリアの代表達は一斉に顔を青褪めた。共存出来ないという事は、此処から追放されると言う事だろう。

 まさか公開討論会で自分達を追放すると表明するとは思っていなかった。

 他のエリアの住民への配慮もあって、絶対に何処かで譲歩を引き出せると考えていたのだ。

 自分達の交渉戦術が間違っていたのだろうか? 青褪めた表情の中台エリア代表に、ミハイルは冷たい表情で話を続けた。

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「君達のような利己主義者が己の欲求に従うのは良いだろう。だが、こちらを巻き込まないで欲しいものだ。

 さて、全自治領に放映されているこの時間を利用して、コロニー運営計画の一部を修正する事をこれから発表する事にしよう」


 ミハイルの口から語られるコロニー運営計画の修正の内容は、聞いた者全員が驚愕する内容だった。

 三基目のスペースコロニーの完成は五年後を予定している。その事に間違いは無い。完成すれば四百万人が入居可能になる。

 そして建造状況だが、外壁や制御装置、中の大気構成の制御部分などは完成しており、最低限の人類が生存出来る環境は整っていた。

 現在は住居部分の建築を行っているところであり、約二十分の一、つまり約二十万人分の住居が出来ている。

 生産工場の稼動はまだ無いが、一部であれば短時間で立ち上げが可能。食料生産も全種類は無理だが、一部は穀物の生産は始まっている。

 その中途半端な三基目のスペースコロニーに、中東連合の地下都市の住民を緊急移住させるというものだった。

 まだ二十万人分しか入居施設は出来ていないが、移住者の労働力を期待する事で約四十万人を暫定的に移住。

 残る四十万人を『T』と『U』の空きエリアに暫定入居させるというものだった。これで『T』と『U』のコロニー収容人口は満杯になる。

 勿論、三基目のコロニーの建設が進んで収容人口が増えれば、逐次移住をするという暫定的なものだった。

 その結果、中東連合の地下都市の住民が居なくなると結んで、ミハイルは視線を中台エリアの代表に向けた。


「この緊急移住プロジェクトを行う事で、中東連合の地下都市の住人は居なくなる。

 故郷を離れたく無いと考える人もいるだろうが、少数で問題には為らないだろう。核融合炉発電施設を持ち、食料生産施設も稼動。

 八十万人が生活していた地下都市を、利己主義者である君達に与えると言ったらどうする?」

「何ですって!? 中東連合の地下都市を我々に!?」


 ミハイルの発言に中台エリアの代表四人は驚愕した。さっきまで四十万もの同胞全てを地上に追放されるのかと考えた矢先の事だっただけに

 その提案は衝撃的だった。曲りなりにも八十万人もの住民を収容して、生活が維持されているのだ。電力もあって食糧生産も可能。

 それに地下都市を自分達に与えるという事は、ミハイルの管理下から離れて自由になると言う事であった。

 中台エリアの代表以外の出席者も目を丸にしていた。それだけ衝撃は大きかった。それは視聴者も同じだった。


「最低限の技術指導は行う。私はこれ以上は君達のような利己主義者に関わりたくは無い。そこでは研究や資源開発は自由だ。

 それと中台エリアだけの事では無く、他のエリアからも移住希望者が居れば許可する。

 中台エリアの住民でもこの自治領に残る権利はある。自治領の成人全員にどちらを選ぶかの意思表示をして貰いたい。

 これが最後のチャンスだ。君達のような利己主義者が此処を離れた後は、引き締めの為もあるが、規制をさらに強化するつもりだ」

「ちょっと待って下さい! 何も中東連合の地下都市に行かずとも、三基目のスペースコロニーを我々に与えてくれた方が楽ですが?」

「お前は馬鹿かっ! 黙っていろ!」


 中台エリアの代表の一人は三基目のスペースコロニーを要求したが、それは同じエリアの他の代表から呆れた声で叱責された。


(あそこまで時間と資源を掛けて建造した三基目のスペースコロニーを我々に与えるはずが無いだろう! まったく奴は馬鹿なのか!?

 地球の地下都市の残った住民などはどうでも良くて、自分達だけが良ければと言っているようなものだ! 他の賛同を得られるはずが無い!

 それに昨日の隕石群の迎撃作戦をTVで公開報道したのは、これを見越しての事だろう。

 宇宙は危険が多くて、治安維持局の保護が無いコロニーに住むのは危険だ。それを住民全員に知らしめる為に、一般公開したんだ!

 宇宙での反逆者は武力制圧すると脅しているようなものだ。

 我々が移住しようものなら、秘かに事故に見せかけて皆殺しに遭う可能性だってある。

 隕石が衝突する危険があっても、何もしない事だってありえる。中東連合のお古の地下都市というのは気に為るが、あそこでは自由だ。

 我々を体良く追放しようと言うのだろうが、あそこで力を溜めれば良い。しかも代価も要求されていない。

 核融合炉の運用ノウハウを学び、食料の自給が出来るなら最初は辛くても発展が見込めるだろう。

 地下資源を採掘出来れば、かなりの勢力が築けるはずだ! たとえ地球が氷河期でも耐えて見せる! そして再び栄光を掴むんだ!!)


 中東連合の地下都市にも問題はあるだろう。だが、住民を集めて総力を結集すれば道は開けると信じていた。

 リスクを恐れては何も出来ない。リスクを恐れずに先に進めば、必ず成果が掴める。失敗しても再度チャレンジ! それが彼の信条だった。

 滅亡した祖国の栄光を復活させる義務があると考えている男は、祖国復活の第一歩となる絶好のチャンスを見逃す事は出来なかった。


 図々しくも三基目のスペースコロニーを要求した代表を、他の上級評議員とミハイルの冷たい視線が貫いた。


「まったく、遠慮という言葉を知らないのか? 苦労して造った三基目のスペースコロニーを君達に与える訳にはいかない。

 その代価を用意出来るはずも無いしな。まあ良い、なら、中東連合の地下都市も不要と言う事か。

 それでは君達は「待って下さい! 我々を中東連合の地下都市に移住させて下さい!!」 ……良いだろう。

 では一週間後、自治領の全住民を対象にした希望調査を行う。そして希望者は中東連合の地下都市へ移住して貰う。

 もっとも、違法研究を行った人間は強制追放とする。残留の認可は与えない。それと日本エリアの他国籍の住民もだ。

 そこには我々の支援は無いが、君達が望んだ自由がある。発展するも、滅亡するも君達の責任において行えば良い。

 そして希望者数が八十万人を超える場合は、少し時間は掛かるが日本の地下都市も開放する。

 既に中東連合と日本の残った政府とは話がついている」

「後で中東連合の地下都市の資料をいただきたいのですが」

「当然だろうな。それは用意させる。ああ、それともう一つ発表するが、住民の評価制度を実施したいと考えている。

 規制に不満はあるだろうが我慢してくれている住民の評価は上げて、仕事を怠けたり問題となる行動をした住民の評価は下げる。

 評価が上がれば給与のアップ率や製品や食料の購入割引を実施する。評価が下がれば、その逆を行う。

 生産工場などでも行われている給与査定制度を、全住民に拡大適応させたような制度だ」

「そ、それは差別に繋がるものです! 住民は全て平等のはずです!」

「私は最初から規制があると伝えた。この状況で我慢してくれている住民と、問題行動を起こす住民を同格に扱う事の方が問題だ。

 言った者勝ちなどと言う考えを認める気は無い。苦労して協力してくれた住民に報いたいと考えている。それこそ平等というものだろう。

 嫌なら中東連合の地下都市に行って、君達が理想郷と考える社会を造れば良いだろう」

「……分かりました。必ず理想郷を造り上げて、この自治領を超えて見せます! その時は後悔なさらないようにして下さい!」


 こうして、自治領の全住民を巻き込んだ中東連合の地下都市への移住希望者の公募が行われる事になった。

 事前にシンジとミハイルから落としどころを聞いていた冬宮は、最初の予定通りになった事で少し脱力感を感じていた。

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 この公開討論会が行われる三日前、シンジの功績評価について話し合う為に、冬宮は一人でミハイルのところを訪れていた。

 待っていたのはシンジとミハイルだった。もっとも、シンジは上半身だけの姿でしかも空中に浮いている。

 それを複雑な表情で見ながら、ソファに座ったミハイルと冬宮の会談は始まった。


「聞いていると思うが、功績を公にせずに出来るだけ隠すように依頼があったのはシンからだ。まずは本人の希望を聞いて欲しい」

<ボクは未練があって成仏出来ません。そんなボクが大々的に評価されるのは遠慮したいですね。

 そういう理由から義兄さんに御願いしたんです。分かって貰えますよね?>

「……そ、それは分かりましたが、シン博士の功績が大きいのは事実です。

 それを正当に評価しないのであれば、後世から何と言われるか分かりません。

 博士の事が他言出来ないのは分かりましたが、私以外の博士の功績評価を求める人をどうやって説得するんですか?」

<……こんな事であまり悩みたくは無いですね。大げさに為らない範囲で、その件は冬宮さんに任せます。義兄さんもその方向で宜しく>

「分かりました」  「シンが良いのだったら、それで行こうか」

<それと冬宮さんは秘書の宮原夫人の口止めをしておいて下さい。ボクが行くと驚くでしょうし、彼女と口喧嘩になるでしょうから>

「彼女はあなたにお礼を言えずに後悔していました。一度会うのは出来ないのですか?」

<幸せを手に入れたんですから、ボクと関わらない方が彼女の為ですよ。それに会えば、また口論になるでしょう。

 この前の心の中の罵詈雑言は聞こえていたと伝えてくれれば、彼女もそれ以上は言わないでしょう>

「……分かりました。彼女を説得します。……ちょっと質問なんですが、博士は未練があって成仏出来ないんですよね?

 以前と変わらない対応なので、少し戸惑ってしまいます。日本では成仏出来ない霊は、自縛霊とか怨霊とかで良い目では見られません」

<……ま、まあ、それはボクの人徳という事にして下さい。それと三日後に予定されている公開討論会の件で御願いがあります>


 自分が霊体である事は知られても、その背後にある事情まで知られる訳にはいかなかった。

 ある意味、満足すれば成仏すると思わせた方が良いだろうと考えていた。普通の幽霊では無いと思われては、この手は使えなくなる。

 会談が拙い方向に向かっていると察したシンジは、会話の内容を公的なものに切り替えた。


「公開討論会? 自治領主も出席されるのですよね? 中台エリアだけで無く、他のエリアでも不満を持っている人はいます。

 それらの批判が一斉に自治領主に向かったら、どう反論されるのですか? 万が一でも方向を間違えば、自治領主の権威は失墜しますよ」

「既にシンから提案があって、検討を済ませている対策がある。まずはそのプロジェクトの内容を理解して貰おう」


 ミハイルは三基目の完成していないスペースコロニーを前倒しで稼動させ、中東連合の地下都市の住民を移住させるプロジェクトを

 説明した。その後に『T』と『U』に居る不満を持つ人間を中東連合の地下都市に移して、関係を一切絶つという内容だった。

 そのプロジェクトの感想を問われたが、冬宮は即答は出来なかった。目を見開いたまま、たっぷり五分は固まっていた。


「……で、では三基目を前倒しで稼動させ、中東連合の地下都市に不満を持つ輩を追放すると言うのですか? 上手く行きますか!?」

「上手く行くように手は打つさ。宇宙では我々の庇護が無いと、危険回避も出来ないと周知させる。

 後は彼らの逃げ道を塞げば、地下都市へ移住する事を許諾するしか無いように仕向けるだけだ。シンも協力してくれる」

「中東の地下都市の住民八十万人を移住させるのも大プロジェクトになるでしょう。

 亜空間転送システムが使えない現在では、全員を移住させるだけでも数年は掛かるのではないですか?」

「亜空間転送システムは流出すると危険な技術だから封印している。一時的に適当な理由をでっち上げて運用するさ。

 もっとも、こちらの生活の最低限度の研修を行わなくてはならないから、全員が一斉にという訳にはいかない。

 受け入れ側の準備もあるから、ざっと見積もって半年から一年は掛かるだろうな。」

「分かりました。それにしても住民八十万を収容出来て、食料を自給出来る地下都市を彼らに与えるのは太っ腹ですね。

 自分の価値基準では勿体無いと感じますが、本当に良いんですか?」

<北欧連合の地下都市はボクが以前から用意した海底地下工場を拡大したもので、三つの地下都市の中で一番設備が整っています。

 日本の地下都市はジオフロントの方は急造したものですが、富士核融合炉発電施設の地下施設はボクが手掛けています。

 北欧連合の地下施設よりは劣りますが、それなりに整った設備を備えています。

 ですが、中東連合の地下都市は大災厄の後に急造された地下都市なのです。

 問題が色々とあって、絶え間ない修復工事を行わないといけないのです。

 確かに地下空間で自給自足が可能な設備を持ってはいますが、応急施設の悲しさで定期的なメンテナンスは欠かせません>


 これこそがシンジとミハイルが協議して作成した計画だった。利己主義者が自ら自由を求めて、地下都市に移住するように仕向ける。

 もっとも欠陥があるとは言っても、住めない訳では無い。きちんとメンテナンスをすれば居住可能だ。

 自分達と対立する勢力に、衣食住全てを完備して完璧な拠点を無償で与える義理は無い。彼らも努力するのが当然だろう。


「……では、その欠陥都市を彼らに与えると? 彼らがクレームを付けては来ませんか!?」

<餞別代りに、ある程度の補修部品は用意しますよ。自作が可能な設備はあるし、後は彼らの努力次第です。

 それに無償で八十万の人口を収容出来る施設を与えられて、文句を言うのは筋違いだと思いますよ。

 彼らの移住が完了すれば亜空間転送システムは故障する予定ですし、潜水輸送艦も出入りも止めます。

 関係を完全に絶ちますから、クレームが来る事は無いでしょう。これも彼らが自ら選んだ道だと納得して貰います>

「……何だか彼らを詐欺に掛けるようで気が引けますが、確かに此処で我慢出来ない彼らにも問題はあるでしょうね」

「中台エリアの全員が、耐えられない不満を抱えている訳では無いという報告が来ている。予測だが約四割は此処に残るだろう。

 そして他のエリアからの移住希望者があると見込まれている。概算で六十万人。デモ参加者は全員が応募するように仕向ける。

 中東連合からの三基目に入れない移住者を受け入れても、『T』と『U』の人口が減って余裕が出る見込みだ。

 そうなれば、食料供給状態も良くなって、自治領の生活改善のペースも進むだろう」

「……不満を持つ輩を欠陥都市に体良く追放して、それで『T』と『U』の人口を減らして負担を軽減。

 残った人達の生活改善を進めようと言うのですか!? さすがと言おうか、褒めるべきなのか悩みます!」


 中東連合の地下都市に移住を望む住民が多いほど、治安は良くなって、残った住民の負担は軽くなる事で生活改善のペースも進む。

 まさに一石二鳥の効果を持った計画であった。内容を知れば腹黒いと指摘されるのは間違い無いだろう。

 だが、指導者としての自覚に目覚めたミハイルは、この程度の事では動じなかった。


「私は自治領主として住民の生活を守る義務がある。不満分子と協力的な住民とを区別するのは当然の事。

 そして不満分子の将来に対する義務を持った覚えは無い。もっとも、大量虐殺の汚名は被りたくは無い。

 その両者が成立するなら、この程度の対策は考えるさ。何より、利己主義者が自由に振舞える環境を用意するんだ。

 彼らの希望を叶えてやるのだから、感謝して欲しいくらいだ。後はかれらの努力次第だ」

<もし、公開討論会の方向がこれと違う方向に向かったら、冬宮さんに介入して欲しいと思っています。宜しいですか?>

「……日本エリアの不満を持つ輩もこれで追放出来る。そして彼らの努力が実れば、地下都市で生き延びられる。

 お互い、其々の主張に従った生活が出来るか。分かりました。協力させていただきます」


 公開討論会を間違った方向に仕向けられないと冬宮は覚悟を決めていたが、討論会は何の支障も無く予定していた内容で終わった。

 その後ろにある陰謀の事は、冬宮は生涯語る事は無かった。

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 自治領全体が三基目のスペースコロニーの前倒し稼動が決定された事を受けて、今後がどうなるかで自治領全体が騒がしくなっていた。

 そんな状況で、自治領からの追放処置が決まった犯罪者が、大きなコンテナを見せられて涙ながらに訴えていた。


「ま、まさかあのコンテナに入れて宇宙に追放すると言うのか!? 御願いだから止めてくれ!!」

「宇宙への追放刑はあまりにも残酷過ぎるから中止されたはずだ! せめて地球に追放してくれ!!」

「改心する!! 二度とあんな事はしない! だから許してくれ!!」

「俺はリンに騙されたんだ!! 俺に罪は無い! 追放するのはリンだけにしてくれ!!」

「何よ、この期に及んで命乞いなんて見苦しいわね!! 男なら覚悟を決めなさい!!」

「世界一優秀な民族である俺達を宇宙に追放すると言うのか!? 絶対に後悔するぞ! 考え直せ!!」

「俺達を強制連行したのに、宇宙へ追放すると言うのか!? 謝罪と賠償を要求する!!」

「ああ! 神は居ないのか!! こうなるなら、あの年増の秘書と出来なかったのが心残りだ!! 最後のチャンスを!!」


 追放処置する人数が少数であれば、地球の地上に追放が行われるのが常だった。

 それが慣習化する前、一度だけだがカプセルに入れて宇宙へ射出する追放処理が行われた事があった。

 二人の女性を暴行殺害した凶悪犯三人の処理の時の事だ。

 数時間分の酸素しか無いコンテナに犯人を入れて、太陽目掛けて射出したのだ。

 酸素が尽きるまでの間を撮影した映像があったが、あまりにも惨い映像の為に公開される事も無く、知る人も少数だった。

 その凶悪犯三人の遺体を載せたコンテナは、金星の軌道に達している頃だろうか。誰も興味は持たずに、忘れ去られていた。


 今回はその処置が復活した。罪の重さを思い知らしめる意味と、手間を省くという二つの意図の結果である。

 地球に追放するのも手間が掛かるのだ。見せしめというメリットがあれば良いが、今回はそれを行う余裕も無かった。

 こうして重犯罪者と認定された者達は泣き叫びながらもコンテナに収容され、太陽目掛けて射出された。

 そして犯罪者達は誰にも看取られる事無く、どんな最後を辿ったか誰にも知られる事は無かった。

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 中東連合の地下都市へ移住を希望する住民の公募が行われる事について、シンジは一計を案じて冬宮に相談していた。

 冬宮は複雑な表情だったが、結果的に承諾した。その結果、シンジの功績の一部がTV局の番組で特集されて流されていた。


『……こういう経緯があって、シン・ロックフォード博士のお蔭で、我々は宇宙空間でも生きていける事になりました。

 今までの報道内容は各学校での教育に盛り込まれる事が正式に決定しました。初号機の銅像に名前も追記される予定との事です。

 このような功績を持つシン・ロックフォード博士ですが、一部に不穏な噂もありますので、それを御紹介します』


 画面には目にモザイクが掛かった若い人が次々に映し出された。


あたしは幽霊を見たんです! シン・ロックフォードって確かに言ってました。

 皆の為に命を投げ出したのに、争いが絶えないから心残りがあって成仏出来ないって! 本当です! 信じて下さい!』

『ボクがトイレに行こうと深夜に廊下を歩いていたら、いきなり目の前に上半身だけの少年の姿が浮かんでいたんです!

 確かにシン・ロックフォードって言って、未練があって成仏出来ないって。文句を言う輩を呪ってやるとか呟いていました!』

『あたしが初号機の銅像に御願い事をしようと深夜に行った時の事でした。薄っすらと暗闇に少年の上半身が浮かび上がったんです!

 我慢をすれば報われる。でも不平不満だけを言って、何も行動しない奴を探しているから知っているかと聞かれたんです。

 あたしは怖くなって、悲鳴をあげて逃げました!』


 色々な人のシンジの幽霊を目撃した証言が、TV画面に流れた。

 一応は気を使って、ミーシャ達や旧ゼーレの老人達の幽霊の目撃談が語られる事は無く、シンジの幽霊の目撃談のみが報道された。

 TVの報道番組で流された事もあって、シンジの幽霊が未練があって成仏出来ない事は、あっという間に自治領の住民全員に知れ渡った。

 そして幽霊が成仏出来ない要因を知った一部の住民は、呪われるかも知れないと恐怖を覚える者もいた。


 こうしてシン・ロックフォードの名前は、歴史の一部として語られる事にはなった。

 だが、少年は神話になる事は無く、怪談として延々と語り継がれていった。

 別に英雄に為りたい訳でも無く、自分の事が茶化されて語り継がれるが、それにより将来の禍根を少なく出来るならシンジは満足だった。


 余談だが、治安維持局の職員は『守護霊』の正体がシン・ロックフォードの幽霊であったと悟り、騒然となった。

 治安維持局の局長は事情の説明を求めたが、ミハイルが答える事は無かった。

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 中東連合の地下都市への移住の希望調査を全自治領の住民に実施すると決定した後、中台エリア代表による一大キャンペーンが実施された。

 本来、自治領の報道機関はこのような報道をする事は無いが、ある思惑からミハイルはキャンペーンの実施を許可していた。


『住民の皆さん。我々は地球での民主主義の正統な後継者として、中東の地下都市に差別の無い理想郷を造り上げたいと考えています。

 それには多くの住民の皆さんの協力が必要なのです! 地下都市にはシン・ロックフォード博士の遺した設備があって、地下資源の採掘も

 住居エリアの拡大も可能です。苦労はあるでしょうが、共に理想郷の実現の為に汗を流しましょう!

 我々はミハイル自治領主のように差別はしません。私は出来た人間ではありませんが、平然と差別をするなどとは恥かしくて言えません。

 皆さんの権利の保護を最優先に考えています。是非とも、我々と一緒に中東の地下都市で未来の為に頑張るべきなのです!』


 中台エリアの代表は自らもTV出演して自治領の住民に訴えたが、それだけでは済まさなかった。

 住民の視覚に訴えようと、子供や美男美女を次々にTVカメラの前に出して、積極的に移住するように勧誘をしていた。


『あたしはいつもおなかがすいていました。ちかのまちにいけば、おなかがいっぱいになるってききました。

 パパとママといっしょにあたしはちきゅうにいきたいとおもっています。みなんさんもいきませんか?』

『ボクは窮屈な生活は嫌です。自由に生きられる地球に行きたいと思っています。

 皆で頑張れば絶対に良くなります。移住する人達が多いほど、その時間は短くて済みます。一緒に頑張りましょう!』

『好きな歌を自由に歌えないなんて嫌だ! 地下都市に行けば、歌謡番組やバラエティ番組を復活させると代表は約束してくれた!

 皆も僕達と一緒に、自由に生きよう! そして力いっぱい歌おう! 僕達にはその権利があるんだ!』

『あたし達は地下都市への移住を決めました。此処では水着になるのもプールでしか出来ないけど、地下都市に行けば自由なの。

 あたし達のこのナイスボディを隠すなんて、ある意味では罪だわ。あたし達を気にいったら一緒に地球に行きましょう』


 可愛い幼児や子供、それに着飾った美男子の呼びかけ、それに水着姿の美女のグループの呼びかけがTV画面で行われた。

 それはイメージキャンペーンだった。内容の重要性はほどほどにして、視覚に訴えて安心や希望を全面に出していた。

 そしてそれは、嘗て『マスコミ報道に流されやすい、比較的IQが○い人達』と分類されたB層の人達に有効に働いていた。

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 公開討論会の内容はTV局によって中継され、自治領の全住民に大きな影響を与えていた。

 確かに今の生活は規制が多く、ストレスが溜まる。だが、徐々に改善されつつある。

 特に三基目のコロニーが完成すれば、生活改善の速度が上がるだろう見込みもあった。

 でも、ミハイルが規制を強化すると発言した事で、今まで以上に厳しい生活が待っている可能性もあった。

 住民の評価制度が導入される事で、我慢していた者にはメリットとなり、不満を訴えていた者にはデメリットになる。


 中東連合の地下都市に移住すれば、自由が手に入る。色々な規制に悩む事も無くなるだろう。

 地球が氷河期にあり、何時元に戻るか誰にも分からない。だが、自由になれば地下空間を拡大して生活圏の拡大も可能だ。

 窮屈だが保証された生活と、自由だが将来が見通せない生活。どちらを選ぶべきか、大勢の住民は一度は悩んだ。

 中台エリアのキャンペーンもそれなりの反響があって、住民同士は活発に話し合っていた。


「明日が申請する日か。お前はどうするんだ? 移住か残留か?」

「俺? 俺は残るさ。確かに生活が厳しい事もあるけど、飢えている訳じゃ無い。それに少しずつ改善してる。

 そのうちに良くなるさ。俺は自治領主を信じる」

「生活を保証してくれる点では自治領主を信用しても良いさ。でも、技術の発展を押さえつけるのはどうだろう?

 それこそ中東連合の地下都市に行った方が発展するんじゃ無いのか?」

「それこそ発展する技術の裏づけがあればな。それなりの技術者も移住するんだろうが、自治領主が独占している技術と比べられるのか?

 核融合炉技術もそうだし、亜空間転送システムもそうだ。核融合炉の修理技術は移住者に教えてくれるそうだが、基礎レベルが違うぞ」

「そんな事を言ったら始まらない! 何事も挑戦は必要さ。失敗を恐れては成功は無い! 俺は移住するぞ!」

「今の調子だと、中台エリアが移住後の主導権を取りそうだな。それで大丈夫なのか?」

「中台エリアの代表は、各民族を纏めた評議会を結成して運営するつもりだって言っている。他のエリアから移住しても大丈夫だとさ」

「信用出来るのかね。確かに規制ずくめの生活はストレスが溜まる。自由な生活に憧れる気持ちはある」

「飼い慣らされた安定した生活を取るか、不安定であっても自由な生活を取るかだ。其々の考え方だな」


「今の中東連合の地下都市の住民も全員が移住する訳じゃあ無い。

 故郷を離れたく無い人達は残るって事だから、設備はそんなに悪くは無いはずだ。後は地下という密閉空間で我慢出来るかどうかだな」

「評価を下げられるなら移住した方が良いって、デモ参加者は考えているみたいだ」

「ああ、自治領主が言った評価制度の事か。協力的な住民には飴を、批判的な住民には鞭をか。

 見え透いた手段だが、ある意味では平等な政策だな。これで残る住民の不満も少しは改善されるんじゃ無いのか」


「あのTVに出ていたグループは良い男揃いね。あんなに良い男が勧めるなら移住しても大丈夫かしら」

「あんたはそんな事で移住を決めるの? もう少しはじっくりと考えなさいよ。後で後悔しても遅いのよ」

「大丈夫よ。ああ、○○様! あたしはあなたについて行きます!」

「あのTVに出ていた水着の女の子は凄いよな。地下都市に行けば、水着姿をじっくり見れるのか?」

「ここじゃあ、女子専用プールもあって水着姿の女の子なんて普通は見れないからな。

 TVにしても、めったに映さないから久々に目の保養になったぜ。俺はあの子の為にも移住するぞ!」

「はあ。そんな事で移住を決めるだなんて、お前らはお気楽だな。まったく報道を鵜呑みにするなんて、後でどうなっても知らないぞ」


「今の日本エリアで弾圧に耐えながら暮らすよりは、地下であっても自由に生きられる環境を選ぶべきだ」

「ああ。このまま此処に居ると優秀な我等民族が消滅してしまう。それなら起死回生を狙って新天地で生きた方が良い。

 そこで我等の民族を増やせば、栄光を掴む事が出来るだろう。全員にそう指示しよう」

「上手くいけば、我等がその地下都市で指導的な立場に為れるかも知れない。今から中台エリアの指導者層と接触してみよう」


「そう言えば、魔術師の幽霊が出るってTVで言ってたろう。あれから不満を言っていた奴のところに出没したって聞いたけど、本当かな?」

「俺も聞いたぞ。命を投げ出して人類を救ったのに、文句を言って争っているなんて呪ってやると言われたそうだ。

 そいつは怖くなって、顔を真っ青にして地下都市に移住するって騒いでた」

「魔術師の亡霊か。こんな事で争っているのを見たら、未練があって成仏出来ないのも何となく分かるな」

「一部のクレーマー達は呪われるんじゃ無いかって、怖がっている。あいつ等は絶対に移住するだろうな」

「俺は怖くは無いぞ! 何も後ろ指を指される事はしていない。核爆発の中に消えて言った人の為にも、此処で生き延びる!」


 人によって様々な事情があるだろう。自由という価値観に重きを置くか、生き延びる事に重きを置くかでも結果は異なる。

 我慢強い人もいれば、我侭な人もいる。それは善か悪かでは無く、価値観や性格の違いだろう。

 中台エリアの行った一大キャンペーンに大きく影響された人もいた。そして住民全員の意思表示を行う時がやって来た。

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 労働年齢である十八歳以上の成人を対象にした、中東連合の地下都市への移住を望む者の公募が行われた。


 その結果は以下の通りである。

  北欧連合エリアからは約二十万人が応募した。最大の人口を抱えるエリアであり、それだけ不満を持つ人間が多かったと言う事だろう。

  中東連合エリアからは約十一万人が応募した。不満を持つ人間も居たが、一部には故郷に帰りたいと望んで応募した者も居た。

  日本エリアからは約八万人が応募した。問題となっていた本来の日本国籍を持たない集団に属する人間は全員が応募していた。

  中台エリアからは約二十八万人が応募した。それだけ不満を持っていた住民が多かったという事だ。これで中台エリアの規模は半減した。

  南米エリアからは約二万人が応募した。祖国が悲惨な最期を遂げた事で最も我慢強い民族性と思われていたが、約一割の住民が応募した。

  その他のエリアの応募者数は約六万人。

 総計で約七十五万人。当初は約六十万人が応募するだろうという見込みがあったが、実際は見込みを上回っていた。

 実に自治領の全人口七百六十万人の中の七十五万人。住民の約一割弱であった。


 余談だが、防火用バケツの普及委員会の委員長であるナナシも移住に応募していた。

 実際の火事の時に役に立たなかったものを無理やり普及させた事で、周囲の冷たい視線に耐えかねての事だった。

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 三基目のスペースコロニーの最低限の生活が可能な状態になる作業に、約一ヶ月を要した。

 そしてその間に、中東連合の地下都市に亜空間転送システムが設置された。

 制御は自治領側にあり、地下都市には転移先を示すマーカのみが置かれた。万が一の場合の技術漏洩を防ぐ為である。


 そして、約三ヶ月をかけて四十万もの中東連合の地下都市の住民は、三基目のスペースコロニーに移った。

 彼らは残りの住居部分の建設に携わる事となる。水漏れも無く、一応は新居とも言える環境なので、住民の労働意欲は高かった。

 その為に、残りの住居の建設も順調に進んでいた。


 移住の第一弾の四十万人が三基目に移った後、『T』と『U』で地下都市に移住する予定の住民の先遣隊が送り込まれてきた。

 数は約二十万人。これから都市機構の把握と各維持施設の技術講習を行う予定である。

 そして同時に、以前から地下都市に住んでいた住民の『T』と『U』への移住も始まった。

 最終的に、以前から地下都市に住んでいた住民の宇宙への移住が終わったのは、ミハイルが発表を行ってから八ヶ月後の事だった。

 そして平行して『T』と『U』の住民で、自由を求めて中東連合の地下都市への移住を望んだ者達の移送も進められた。

 こちらが終了したのは、さらに二ヶ月後の事であり、これにより宇宙歴の第一回目の民族大移動は無事に終了した。

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 宇宙歴0016年。

 中東連合の地下都市に以前から居た住民で、故郷を離れる事を拒んだ住民は約二万人。

 それと『T』と『U』でミハイルの方針に不満を感じて、自由を求めて移住してきた住民は約七十五万人。

 中には幽霊の呪いを恐れて移住してきた者もいた。こうして中東連合の地下都市の現在の人口は約七十七万人となった。

 技術講習も済んで、自由を求めて移住してきた住民が独立して生活出来る目処は立っていた。

 そして最後の日、元の中台エリアの代表(現在は地下都市の代表)と施設管理局の職員は最後の会談を行っていた。


「では、引継ぎは全て終了と言う事で大丈夫でしょうな?」

「ああ。核融合炉を含む全ての都市管理施設のメンテナンス講習は受けたし、補修用部品も用意して貰った。

 食料生産施設や加工工場も全て我々だけで運営出来る。地下資源の採掘も何とかなるだろう。

 不足な原材料はあるが、これは我々の努力で何とかしてみせる。君達の今までの協力には感謝している」


 不満分子の追放を兼ねた移住だが、最初から生活出来ないような環境には放り込めない。

 その為に大量の補修用部品を用意し、各設備の運用と修理が可能なような技術講習を行った。

 これからはこの地下都市と自治領の関係は遮断される。後は自由を求めた人々は、自らの責任で生きて行かなくては為らない。


(これで我々だけで生活出来る目処はついた。幸いにも最大の人口を持つ我々中華の人間が主導権を取れたしな。

 核融合炉の増設は今は無理でも、必ず技術解析を行って我々の手で新しいものを造って見せる! 亜空間転送システムもだ!

 使える作業用ロボットもある。あれで地下資源を採掘して、生活空間を拡大していけば活路は見出せる!

 色々な問題はあるが、挑戦する事で必ず解決して見せる! 挑戦無くして成功は無いのだ!

 必ず自治領より発展して、奴等を見返してやるぞ! そして中華の栄光を再び我等の手に取り戻すのだ!!)


 自由を求めた人々が地下都市で生きられるような手配を、シンジとミハイルは行った。

 彼らが生き延びられれば、それは人類の一勢力となり、ある意味では人類の絶滅を避ける為の保険となるだろう。

 だが、必要以上に勢力を伸ばせば、争いの大きな原因となる。価値観が異なる集団なので、人類の歴史を振り返れば当然の理である。

 もっとも、氷河期が何時まで続くか分からないが、百年以内には自滅すると推測していた。

 今まで運用していた潜水輸送艦は、今後は運行を停止する。北欧連合の地下都市でしか生産出来なかったものは、二度と手に入らない。

 地上は雪と氷に覆われているので、単独では何処にも行けない。潜水艦の建造施設は無いから、海中を移動する事は出来ない。

 まさに隔離された空間であった。後は栄えるも滅ぶも、彼ら利己主義者の手に委ねられた。


「あれから一年か。三基目のスペースコロニーの稼動状況はどうなったのかな?」

「住居部分の建設も進んで、今の人口は約六十五万人になりましたよ。

 その分、『T』と『U』の負担が減って、住民の生活状況も改善が進んでいます。住民の不満も減って、デモはあれから起きていません。

 これもあなた達が、この地下都市に移住してくれたお蔭ですかね」


 施設管理局の職員の皮肉に、代表は眉を顰めた。だが、自由を求めて此処に来る事を選択したのを間違ったとは思ってはいない。

 その後、施設管理局の残った職員全員が亜空間転送システムによって、自治領に帰っていった。

 そして自治領からは亜空間転送システムの完全停止の操作が行われた。

 これにより、シンジかミハイルが許可しない限り、自治領と中東連合の地下都市が繋がる事は無い。


 残された地下都市の代表が真っ先に指示したのは、亜空間転送システムが地下都市側で制御可能か調査しろと言うものだった。

 当然、そんな事はミハイルも見越してある。結局、システムの原理さえも分からなかった。

 代表は落胆したが、それ以外にも為すべき事は山程ある。亜空間転送システムだけに関わっている余裕は無いのだ。

 これまでは施設管理局の職員がつきながら、色々な設備を動かしてきた。しかし、これからは彼らだけで運用しなくてはならない。

 こうして地下都市の移住して来た人々は、自由を満喫しながらも働き始めていた。


 余談だが、ナナシは此処でも防火用バケツの普及に拘った。そして壁からの地下水が漏れるという環境から、採用が決定した。

 こうしてナナシの野望は場所を変えて、やっと達成されたのだった。

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 中東連合にある地下都市の封鎖が行われた事で、シンジとミハイルは今後の対応について協議していた。


「不満分子を追放して三基目を前倒し稼動させた事で、たいぶ住民の生活改善が進み出した。不満を感じている者も減っている。

 良い傾向だよ。後は本国の地下都市と日本の地下都市をどうするかだな。シンの考えは?」

<以前の提出したレポートにあったように、本国の地下都市は設備が整い過ぎたから、大部分の人が生活保護を受けている状態で、

 無気力感が漂っている。だから三基目に早めに移住して貰って、労働意欲を取り戻して貰わないとね。

 拒否するなら、そのまま本国の地下で永住して貰った方が良いと思うよ。但し、二度と外に出られないと脅してね。

 日本の地下都市からの移住者は厳しく選別しないと。今回の中東連合の地下都市に上手い事に不満分子を追放出来た。

 ここでまた不満分子を抱えたくは無いしね>

「そうだな。基本的には移住は受け入れる。本国の地下都市は一番設備が整っている事もあるから、重病人や高齢者の介護施設の役割を

 与えた方が良いと考えている。高齢者の中には、死んだら宇宙に埋葬されるのは嫌で、地球に埋葬して欲しいと考えている住民は多い。

 そんな希望もある程度は考慮しないとな」

<そうだね。あそこには大災厄の前から集めていた各地の動植物のDNAサンプルが保存してある。

 氷河期が終われば絶滅した動植物も復活出来るから、あそこは絶対に手放せない。それにあそこまで整備したから有効に使わないとね>


 サードインパクトが起こっても以前の環境が復活出来るようにと、各地の動植物のDNAサンプルは地下施設で冷凍保存されていた。

 氷河期が終わる気配は無く、まだまだ進行中の状態だが、先々の事まで考えなくてはならない立場の二人だった。


「以前に提案があったように、日本のジオフロントの地下都市は移住の状況によっては閉鎖しても良い。

 急造した施設の為に問題も若干はあると言う事だしな。もっとも、移住を許可出来ないような人間が居た場合は、そこで住んでもらう。

 そして地球の氷河期の観察を含めて、本国の海底地下施設と、日本の発電施設の地下施設は運用を続けるのだったな」

<そうだね。宇宙からの観測体制は整えたけど、地上でも拠点は確保してあった方が良い。

 本国の方は何とかなるし、日本の方も委託者の目処がついたんでしょう>

「ああ。ちょっと意地が悪い試験にも無事に合格したよ。まだ会って無いんだろう。実の父親だろうに、本当に良いのか?」

<格好をつけて別れを告げたのに、のこのこと会いに行けるはずが無いじゃない! まあ、腹違いの弟の世話はボクが責任を持つよ。

 それはそうと、地球寒冷化対策計画と火星のテラフォーミングの計画は、そろそろ下準備を進めようか?>

「ああ。三基目が稼動を始めたから、かなり負担は減ったしな。地球寒冷化対策計画の方は月面基地を主に使って進めよう。

 火星の方はコロニーの建造拠点を使って進める。どちらも数百年以上は掛かるプロジェクトだが、始めない事には効果は出ない」


 地球の寒冷化は収まる気配は無く、進行中の状態であった。これを少しでも改善しようと計画されたのが地球寒冷化対策計画であった。

 嘗て、地球温暖化を防ごうと二酸化炭素の排出量を規制した計画の逆の計画である。皮肉を込めて命名された作戦だった。

 内容としては地球の周囲に太陽光を反射する巨大な自立型の鏡を多数設置。その反射光を地球に向けるという計画だった。

 地球の温度を上げる対策としては、火山活動を活性化させる事も考えられたが火山灰等の影響でさらに寒冷化が進みかねないという

 危惧から、時間は掛かっても安全な太陽光を利用する方式で決定された。当然、効果など直ぐに出る訳では無い。

 太陽の活動が停滞期に入っている事もあり、効果が出るのは数百年以降、下手をすれば千年以上は掛かるかも知れない。

 でも、始めなければ効果は何時になっても出ない。月面基地を拡大して、自立制御が可能な巨大な鏡を製造。

 そして地球の周囲に配置する計画だ。第一段階の製作数の予定は十万枚。追加の製造は効果を確認してからになる。

 反射する太陽光を集約すれば、焦点温度が数千度になるかも知れないという兵器にもなりえるが、今の状況で使う意味は無い。

 地球全体の寒冷化を出来るだけ抑えて、温暖化を促進という目的を達成する為に考え出されたものだった。


 平行して本国の地下施設と日本の地下施設を継続稼動させて、地表から気象観測を行う体制を整える予定だ。

 本国の地下施設の管理はシンジの義兄であるハンス・ロックフォード。そして日本の地下施設の管理は六分儀ゲンドウが行う。

 それぞれの地下施設とは亜空間転送システムで結び、ある程度の人材交流は行う構想だった。

 勤務者の親族が気軽に往復出来るようにする為もある。技術漏洩には気を配り、全てが施設管理局の管轄下にあった。

 宇宙からは再配備された気象観測衛星と、残った【ウルドの弓】三基が監視する体制である。


 そして人類の生活拠点が宇宙のみというのも問題があった。中にいれば分からないが、コロニー外壁の外は宇宙空間である。

 当然、人間は宇宙空間では生きられない。将来的にスペースコロニーを増設するのも良いが、どうしても民心の安定という意味では

 不安が残る。人は船より大地に安心感を持つのと同じ事かも知れない。そこで目を付けたのが火星のテラフォーミングであった。

 地球の氷河期が終わるのが見通せない現在、火星のテラフォーミングは住民への大きな希望を与えるだろうと予測されていた。

 勿論、問題は多かった。まずは火星の重力である。地球の三分の一しか無い重力では生活に慣れてしまったら、他では生活出来なくなる。

 大気の問題もある。若干はあるが濃度は地球の一パーセント未満だから、無いに等しい。その為に大規模に整備しなくては為らない。

 火星の地下にある氷を使っても不足しているだろう。そして大気を造っても、重力が少なくては宇宙空間に拡散してしまう。

 人体に有害な宇宙線を遮る役目の全惑星規模の地磁気は火星には無く、どうしても宇宙線対策を考えなくては為らない。

 これらの問題をシンジとミハイルは、時間を掛けて協議した。


 その結果、大胆な方策が執られる事となった。

 反重力エンジンを使用している事から分かるように、重力制御技術は非公開だが確立していた。

 そして火星の全域は無理だったが、要所毎に地球の約九割程度の重力を発生させる装置を地下に組み込む事が検討された。

 大気の宇宙への流出はある程度は避けられないが、これにより人類は地球やスペースコロニーと同じぐらいの重力下で生活出来る。

 勿論、都市部として予定されているエリアだけの限定である。

 それ以外のエリアは重力が低い事から病院や療養所、それに農園などで使えば良いと考えられていた。

 地球とは比較にならない程弱い地磁気の為に、宇宙線対策が必要とされた。

 その為に、有害な宇宙線を防ぐ為のシールドを常時展開出来るような人工衛星を多数配置する事が計画された。

 これらは小型のものでは無く、全長が数キロレベルの要塞レベルの人工物だ。

 動力炉と反重力エンジンを搭載する事で、半永久的な稼動を見込んでいる。

 シールド展開用だけで無く、防衛兵器としても運用が考えられていた。重力とシールドが出来れば、後は地上の作業になる。

 地下の氷を解凍して分解。さらに氷で出来た小惑星を多数持ち込んで、徐々に火星の大気を増やす予定だ。

 大気の組成の調整は最終段階になるだろう。植物や機械を使って、出来るだけ地球に近い大気組成にする事が必要だ。

 そして地球より太陽から離れている事から、太陽光による恩恵は少ない。地球の半分程度しか届かないのである。

 この為に大気の組成を調整して、出来るだけ温度を外に逃がさないようにする事が肝心である。

 さらに地球寒冷化対策計画で使用する巨大な自立型の鏡を火星でも使用する。出来るだけ太陽光を有効に使う為である。

 時間は掛かるだろうが、重力、そして宇宙線対策、そして大気の形成と温度維持。ここまで出来て、初めて移住の準備が整った事になる。

 太陽を周回する軌道も楕円である事から、一年の周期が違ったりなどの問題点もあり、それは試行錯誤で解決するしか無いだろう。

 急ぐものでは無いが、少しずつでも進めなくては為らないと考えて、シンジは火星のテラフォーミングの下準備に忙しい日々を送っていた。

 そして二つの計画は水面下で進められ、一般への発表のタイミングを見計らっていた。

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 宇宙歴0017年。

 自治領の住民の生活環境は徐々に進んでいた。そして改善が進んだ事から、住民の不満もだいぶ解消されていた。

 とは言え、完全に不満を持たない住民など居るはずも無く、そこは飴と鞭を使い分けながらも何とか平穏に過ごしていた。

 そして北欧連合と日本の地下都市から三基目のコロニーへの移住が開始された。全面的なものでは無くて、労働力を当て込んだ移住だ。

 完成した住居ブロックに応じて、徐々に移住が進められた。


 一方、中東連合の地下都市に移住した利己主義者達は、大きな問題に直面していた。

 地下都市に自由を求めて移住して来た人達は、ミハイルからは利己主義者と言われたが、自分達は自由主義者だと自負していた。

 民主主義の後継者となるべく、彼らは地下都市を改良し、さらなる発展をさせようと努力していた。

 最初の壁は移住者同士のトラブルだった。移住してきたエリア別人口の関係で中台エリアが主導権を握ったが、実数では半数にも及ばない。

 他のエリア出身者の意向も考えなければならず、厳しい運営を迫られた。特に元日本エリア出身の一部の集団には手を焼いた。

 細かい事を言えば、夜勤が一部のエリア出身者に偏っているとか、食糧生産で自分達の好む品種を多く生産しろとかである。

 自治領であれば収穫量が多くて食料不足に為らないようにミハイルが強制的に決めていたが、此処は自由を求めて移住してきた人達が住む

 地下都市であった。自然と自己主張も多くて、様々なトラブルが発生した。

 一番痛かったトラブルは、勤務時間の贔屓があると抗議してストライキを行っている時に起きた地下水漏洩事故であった。

 この地下水漏洩はかなり大規模なものであり、倉庫にあった貴重な補修部品や貯蔵食料が大量に失われてしまった。

 その為にさらに生活は厳しさを増したが、住民の自己主張は止まる事も無く、秩序は徐々に失われていった。


 地上であれば、問題があったら他に移動すれば良いだろう。だが、密閉された地下都市にそんな場所は無かった。

 逃げる場所など無く、限られた空間と資源を有効に使わなくては為らない。

 いつしか路上のゴミも増えて、衛生環境も徐々に悪化していった。

 慢性化する地下水漏洩もきちんと対処していれば問題は無かったが、秩序が失われていくにつれて被害も拡大していった。

 表面上の上手い宣伝に乗せられて自治領から地下都市に移住した事を後悔した人は多かったが、既に戻る事は出来ない。

 人は自分が考えて選択した事に責任を持つ事が必要なのだ。そして、彼らはその責任を自らの生活環境の悪化という形で取っていた。

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 宇宙歴0018年。

 地球の嘗て中東連合と呼ばれていた国があったところから、弱い電波が発信されていた。


『自治領は応答してくれ! こちらは以前の中東連合の地下都市にある自由地球政府だ! 至急、支援を求める!

 地下水の漏洩で倉庫の半数以上が被害を受けた。医薬品と食料が不足している! 至急支援を求む!!』


 その発信電波の出力は弱く、使用周波数帯も通常とは異なっていたので、受信出来た施設は無かった。

 その為に何処からも応答が無かったが、その微弱な電波発信は一ヶ月間続けられた。だが、その後は停止していた。

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 宇宙歴0019年。

 地球の嘗て中東連合と呼ばれていた国があったところから、弱い電波が発信されていた。


『自治領は応答してくれ! こちらは以前の中東連合の地下都市にある自由地球政府だ! 至急、支援を求める!

 新エネルギーの開発に失敗して爆発事故が起きて多数の負傷者が出た!! 至急支援を求む!!』


 その発信電波の出力は弱く、使用周波数帯も通常とは異なっていたので、受信出来た施設は無かった。

 その為に何処からも応答が無かったが、その微弱な電波発信は一ヶ月間続けられた。だが、その後は停止していた。

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 宇宙歴0020年。

 この年に三基目のスペースコロニーの全施設が完成した。北欧連合と日本の地下都市からは、宇宙歴0017年から移住が始まっており、

 これらの最初の移住者が各施設の建設に携わった事から工期が遅れる事も無く、無事に完成していた。

 そして大々的に、後世からは二回目の民族大移動と呼ばれる移住計画が行われた。

 もっとも、住み慣れた故郷を離れるのを嫌がった人間は移住はしなかった。生活保護に慣れきって労働意欲を失った人間もである。

 又、素行不良等の問題から、一部の人間の宇宙への移住は許可されなかった。

 この為に、北欧連合の地下都市には約三十万人、日本の地下都市には十万人が住み続ける事となった。

 施設維持に関わる人を除いて、これらの住み続ける人にはスペースコロニーへの移動許可は絶対に下りなかった。


 そして北欧連合の地下都市は一番設備が整っていた事から、大規模な治療所や介護施設が置かれる事となった。

 亡くなった場合は地球に骨を埋めたいと考えている高齢者は、身体の不自由さを感じたら此処の介護施設に入居出来る。

 事故等でまったく働けなくなった人も対象である。

 一応、施設管理局の許可が必要になるが、親族は介護施設の入居者との面会は可能であった。


 そして各地下都市の機能を維持する傍らで、地上で地球の気象を観測する役割も担っていた。

 宇宙、そして地上から地球を見守る観測体制である。

 そして小規模ながら地球の周囲に自立型の鏡を設置し、太陽の光を地球に向けて反射する計画が発動された。

 その様子は自治領全域にTVで放映され、住民の大部分が母なる地球への想いを再度考えさせる結果になった。


 月面基地は拡大され、自立型の鏡の生産工場として稼動していた。こちらはシンジの直轄であった。

 そして人狼の一族の教育センターも兼ねて運営されていた。


 そして密閉空間だけが生活空間だけで無い事を知らしめる為に、火星のテラフォーミング計画が大々的に発表され、大きな反響があった。

 色々な問題があり、それらを逐次解決していかなくては為らない。

 だが、火星の大地に暮らせる可能性を知った時、自治領の住民は再び大地の上で暮らせる事を想像した。

 それらの計画の発表は、自治領の住民全員に希望を与えていた。

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 宇宙歴0030年。

 地球の嘗て中東連合と呼ばれていた国があったところから、弱い電波が発信されていた。

 今まで一年のうちの一ヶ月だけ、定期的に支援を求める内容で発信されていた。

 暴動が起きたとか、食料や修理部品の要求、さらには地下水の漏洩、最後は汚水の逆流で助けを求めてきた。

 しかし、通信電波の周波数帯も異なるし、出力自体が弱い為に、受信出来た施設は無かった。

 そして宇宙歴0030年をもって、その支援要請の通信も途切れて、彼らが二度と歴史の舞台に立つ事は無かった。

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 宇宙歴0035年。

 四基目と五基目のスペースコロニーが続けて完成した。人口は増加傾向にあったが、まだ三基のコロニーで余裕があった。

 その状態で二基のコロニーが完成したのだ。食料の供給量が増加し、住民はそれなりに豊かな生活が送れるようになっていた。

 スペースコロニーは五基の体制を考えており、これで当初の計画が達成出来た事になる。


 そして自治領主はコロニー運営計画を修正する事を発表した。

 四基目のコロニーは予備の扱いにして、何時でも使用可能な状態にしたまま、食料の生産は進める。

 五基目のコロニーは全面的に動植物だけのコロニーにする事を決定したのだ。巨大な宇宙の自然動物園にする為である。

 北欧連合の地下都市に保存してある動植物のDNAを使い、絶滅した種の復活が試みられた。

 そしてさらに将来に対応する為に、六基目以降のコロニーを一基辺り一千万人の収容が可能な仕様にして進められる事も決定した。

 急ぐ必要は無いが、雇用の確保と将来への布石の為であった。

 この頃になると資材や開発用機器の余裕もかなり出てきた為もある。生産出来る食料も多いほど良い。


 ちなみに、この時の自治領主はアリソン・ロックフォード。ミハイルとクリスの息子であった。

 あれから三十五年が経過しており、大災厄当時に精力的に働いていた人達は殆どが引退していた。

 だが、セカンドインパクトの前の世界や大災厄の前の世界の事を定期的に報道して、如何に多くの人が亡くなったか、

 その犠牲の上に今の世界が成り立っている事を訴えて、その当時の精神を忘れ去れないように務めていた。


 地球寒冷化対策計画は進んでいるが、まだ目立った成果は出ていない。

 火星のテラフォーミングに関しても、二基の重力発生装置の設置が終わったところだ。

 まだ先は長いが、着実に人類の生活圏の拡大は進んでいると実感出来た。

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 宇宙歴0186年。

 地球の寒冷化は、まだまだ収まる気配さえ見られなかった。

 確かに地球の周囲に張り巡らした太陽光反射システムは、地球に少しずつだが影響を与えている。

 だが、太陽そのものが停滞期に入った事で照射量が大きく減少しており、その恩恵は微々たるものだった。

 こちらに関しては、太陽の回復を待つしか無いのかも知れないと考えられていた。


 火星のテラフォーミングは少しずつだが進んでいた。既に重力発生装置は稼動しており、直径五キロのドーム都市が一つ建設されていた。

 そこには地下エリアもあって八万人が住んでおり、火星のテラフォーミングの作業に携わっていた。

 まだ有害な宇宙線を遮るシールドを発生させる宇宙要塞の建設は二割程度で、大気の形成も途中であった。

 太陽が停滞期に入っている事もあり、火星に届く日射量も当然だが減っている。

 その為に大気温度が予想した程上がらないという問題もあった。それを嘆いても仕方が無い。

 あの大災厄の時の隕石群のように、時として大自然の脅威はあっさりと矮小な人類の努力を嘲笑う事がある事を知っていた為もある。

 自然に過度に逆らう事無く、自然を上手に利用する事こそが大事であると経験から悟っていた。

 将来的には火星の大地を保護服無しで歩き回れるようにするのが目標だ。多くの住民が、その目標が達成出来ると信じて働いていた。


 そんな人類が徐々に拡大していく様子を、シンジ、ミーシャ、レイ、マユミ、カオルの五人の霊体が静かに見守っていた。

 此処まで来るのに平坦な道程では無かった。


 ある時は治安維持局の宇宙艦隊司令官が、部下を巻き込んでクーデターを起こした事もあった。

 当時の最大最強を誇った最新鋭の宇宙巡洋艦を乗っ取り、自治領主を抹殺して自治領の統治権を奪おうとした事があった。

 その時は対抗処置として、地球寒冷化対策計画で使用している自立型太陽光反射システムを使用して、最新鋭の宇宙巡洋艦を焼き尽くした。


 ある時は違法研究の為に未知のウィルスがスペースコロニー『U』に蔓延して、一時期は『U』の全面放棄が検討された事もあった。

 幸いにも対処法が急いで確立されて死亡者は約三十六万で抑えられたが、違法研究の危険性を自治領の全住民に知らしめた。

 それ以外にも、細かいトラブルを言い出せば限が無かった。

 とは言え、教育方針の一元化による効果が働きだして一般住民のモラルは向上しており、犯罪発生率は低下して治安はかなり安定していた。


 この頃になるとシンジ達が自治領に直接介入する頻度は激減していた。住民のモラル向上による治安の安定と犯罪発生率の低下。

 それに全体の技術力も向上して、問題の発生も自然と少なくなった為だった。とは言え、何もしない訳では無い。

 自治領の成立の背景を知る存在として、代々の自治領主に心構えを教育するのも、シンジ達の仕事になっていた。

 身体を持たない事から物欲が無く、しばらくは霊体のままの為に方針が揺らぐ事が無い存在というのは確かな指標に為り得たのだ。

 ゼーレの老人達の霊体は、住民の意識確認や犯罪調査、さらには小惑星帯の資源調査と忙しく動き回っている。

 他にも小惑星帯で、全長七キロの最終兵器とも言うべき巨大宇宙戦艦の建造も秘かに進めている。

 まだまだ先は長いだろうし、困難な事もあるだろう。だが、人類の未来に希望はあると信じている五人であった。






To be continued...
(2012.12.16 初版)


(あとがき)

 勘違いして欲しく無いから敢えて言いますが、自分は窮屈な生活を望んでいる訳ではありません。

 ですが、何らかの事情で今の社会が崩壊した場合、望まない生活を強いられる可能性はあります。

 それが嫌なら今の社会を維持する努力をするべきでしょう。反面教師の意味を込めて書きました。


 最後は中途半端な気もしましたが、これで終わりになります。長い事、ありがとうございました。



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