第一話
presented by ハンドメイド様
「いたたたた・・・ くっそぉー あのヒゲ親父のヤロー(怒) こっちが小さいからってボコ殴りにしてガケから落とすかぁー」
海岸から、ずぶ濡れになった少年が悪態つきながら、上がって来た。
年の頃は3〜4歳という感じで、ちょっと歳を重ねたら美少年という感じにはなりそう。
しかし口調が、ちょっと悪い・・・というか、歳相応の言葉遣いではない。
「しかし、戻すにしてもタイミングを考えて欲しいよなぁー 戻ったのは良かったけど、気付いたのが海の中ってのは(汗)」
頭には海草が付いていて、服は海水が滴って気持ちが悪いのか、服の端を絞っている。
背中には遠出をしてました!という感じのリュックサックを背負っていて、海に入る服装ではない。
まあ、聞いていれば判るだろうが・・・
「やっぱ、エル(第15使徒アラエル)とミサ(第16使徒アルミサエル)が得意だからって、まかしたのがマズかったのかもな」
少年は服を絞りながら、海岸に面した道路へと歩いている。
(そういえば母さん・・・大丈夫かな・・・あとで行っとこ!)
─────思い出し─────
サードインパクト後・・・ゼーレの計画通りにシンジ1人を残して全部LCLに溶け込んだ赤い海になってしまった。
その世界でシンジは、自暴自棄になり暴れまくったが、しょせん1人だけの寂しさから、生きることを辞めた。
しかし、神と呼ばれる存在になってしまったため、みんなと同じLCLへ溶け込むことができず、LCLの海に漂っていた。
それから何年・・・何十年・・・何百年たった頃・・・
赤い海の中に、ポツンとシンジが浮かんだまま、シンジへ呼ぶ声があった。
(シンジ様・・・ シンジ様・・・)
(誰か呼んでるの?)
(はい・・・ お呼びして申し訳ありません)
(そんなに丁寧に話さなくても・・・)
(滅相も御座いません あなた様は神の1人になられた存在です。お声を掛けるだけでも不躾だと思いますが・・・)
(そんなモンかな)
いつのまにやら漂っていた身体へと何か当たったので、そこへと上がって周辺をみる。
シンジが上がった所は、もとはビルだったのか、倒れた一部が赤い海から出ている小さな島のようになっている所だった。
声を掛けた人物を探すが見付からない。
「声を掛けたのは?」
(シンジ様・・・申し訳御座いません。)
「すぐ近くにいるの。姿を見せて!」
(シンジ様・・・お近くにいるのですが実体化できないのです。)
「仕方がないね。キミは誰なの? どうして僕に声を掛けたの?」
(はい シンジ様のまわりには、使徒が全員います。)
「はいいいい 使徒!?」
(みんなを代表しまして第3使徒サキエルが、お声をかけました。)
「ちょっと待って! 綾波とカヲル君は?」
(はい お側にいますが力を使いすぎてコアのまま、お話しができない状態になっています。)
「使徒全員って言ったよね。アダムとリリンは?」
(はい アダムとリリンもコアのままです。)
「確か リリンって人間のことだよね」
(お側にいますリリンのコアは、シンジ様の知っている方がコアになってしまいました。なぜかは私共も判りません。)
シンジの質問に対して、サキエルが答えている。
リリン=人間のコアにはアスカが入っているみたいで、精神感応してみると、懐かしい口調でシンジに話しているのが判った。
使徒たちと話しているうちにシンジは、思い付くものがあり、話し相手であったサキエルに聞いてみた。
「サキ!(サキエルのこと) アダムを僕が取り込んで力のレベルを上げると、時間を巻き戻せないかな?」
(シンジ様の神格レベルが数段階上がるので、可能だと思いますが・・・)
「・・・が何か問題があるの?」
(戻れると思いますが、確実にドコ・・・というのが難しいかも知れません。)
「みんなに話したけど全員で戻りたいんだ。確実にする方法は?」
(だれかナビゲートすれば大丈夫だと思います。しかし力を使い果たしますので、戻ってもお役に立てる能力が半減すると思います。)
「ナビ役をしてくれた為に?」
(はい・・・ それと移動する力の補助を他の使徒たちがしますので、戻ったら全員の力が下がると思います。)
「でも休めば戻るよね。」
(私たち使徒の場合は、同質の力であれば取り込めますので、戻った所で力を頂ければ大丈夫だと思います。)
詳細を煮詰めてみると・・・
第1使徒アダムのコアをシンジが取り込む。
第2使徒リリス(レイ)から第18使徒リリン(アスカ)までを実体化させる。
巻き戻すための補助役は、第15使徒アサエル第16使徒アルミサエルが担当する。
目的地は、シンジがゲンドウと離れた頃にする。(ちょうど1人だし)
途中の時期に合わせて、カヲルとアスカ、レイを、それぞれの時間軸にある各自の存在に上書きする。
その他の使徒たちは準備が整うまではシンジの身体の中で眠っておく。
─────思い出し・・・終わり─────
シンジは身体の中で眠っている使徒たちの存在を確認する。
予想通り エルとミサは仮死状態 他は休眠状態のコアになっている。
カヲルはゼーレのカプセルで自我に目覚めるタイミングで上書き。
アスカは母親がエヴァに取り込まれて、精神不安定になっているタイミングで上書き。
レイは、サルベージ失敗で生み出されたタイミングで上書き。
上書き組は、巻き戻す途中で降ろしてきたので、シンジの中にはいない。
今、シンジが持っている手紙は、逆行前に母親であるユイの記憶を引き出し、シンジが書いた。
その手紙が紛失しないように厳重に梱包していたものだった。
(さて・・・手紙の消印を実験の前日にして、配達される郵便屋さんの荷物に混ぜて・・・)
手に持っていた手紙をディラックの海経由で目的の所へと混ぜ込んだ。
道路に沿って歩くとバス停があったので、バスや電車を使って、目的地である京都へと行くことにした。
「郵便でぇーす」
「はーい お疲れさまです。(宛名を見て) 御前様への手紙ですね。でも碇ユイって方・・・碇家にいましたっけ?」
配達してきた郵便屋さんから受け取ったのは、ちょっとソバカス顔の少女。
年の頃は、中学生ぐらいだろうか、ちょっとした旅館の仲居さんのように着物姿であった。
「おぉーい ヒトミ? 玄関前で何してるんだ。」
「あっ お父さん! 御前様へお手紙なんですが、送り主が碇ユイになってるの。」
「いかり・・・ゆい・・・???? (うぅ〜ん・どっかで聞いたことが・・・)」
なんか親子で漫才しているみたい・・・
この親子は、碇本家で執事とメイドをしている親子で名前を加賀雄二と加賀ヒトミ。
母親が交通事故で亡くなったので、娘一人を残しておくのも困るので、最近になって碇本家邸宅内にある雄二の部屋へと引っ越してきた。
そして、居候ではなく娘もメイドとして住込み仕事をしながら学校へと通っていた。
雄二が悩みまくって「ユイ」という名前を思い出すと、娘が持っていた手紙を受け取り、一目散に邸内へと戻る。
邸内に戻って、すぐに目的の部屋ではなく警備室へと行き、本当に手紙だけか確認。
紙しか入っていないのを確認し終えると、自分の主人である碇イワオの部屋へと手紙を届けた。
「御前・・・失礼します。」
「雄二か 娘と口論しておったが、大丈夫か?」
「申し訳御座いません。御前宛てに手紙が届いていました。」
「手紙とは珍しいのぉ」
「それが碇ユイと差出人名に書かれていまして」
御前と呼ばれる碇イワオも白髪が混ざる頭で恰幅が良い身体をしている。
さすがに碇本家当主である風格を漂わせている・・・が差出人が『ユイ』と聞いて、脆くも崩れた。
側に控える執事がペーパーナイフを手渡すと、急いで手紙を開き、読み始める。
ひと通り、読み終えると側に控える執事へと指示をだす。
「雄二・・・ 明日、孫のシンジがやってくる。」
「御前のお孫様ですか?」
「そうじゃ・・・ ユイがトラブルに巻き込まれそうになっているので、孫のシンジをこちらへと行かせたらしい。」
「それでは急いで、お助けに参りませんと・・・」
「大きく動くと向こうにも気付かれると書いているので、だれか目立たないのを選んで、明日、京都駅で迎えて欲しい。」
「判りました。娘のヒトミを行かせましょう。ちょうど指定の時刻でしたら帰宅途中になりますので、待ち合わせても可笑しくはないでしょう。」
「車も近くに準備しておいてくれ・・・ 徒歩では危ないと思う。」
「かしこまりました。準備を整えます。」
─────翌日の夕刻
京都駅の近くにあるベンチに制服姿の女子学生が本を読んで待っている。
席の隣にはバイオリンが入ってそうな楽器ケース。
楽器ケースには猫マスコットが付いている。
旅行中なのか隣にリュックサックを背負った男の子がやってきて座った。
そして荷物から飲み物を取り出して一気飲みすると、ケースに付いている猫マスコットを指で突っついている。
読書に夢中になっていた女の子が気付いて、隣に座っている男の子を見る。
「ちょっと突っつくのは駄目よ!」 (借り物だから困るしーーーもう!)
「碇本家からですか。」
猫マスコットを突っついていた男の子が待ち合わせをしていた子供。
心の準備どころか真っ直ぐに言ってきたので、ついつい緊張してしまう。
「碇本家ではないのですか?」
「えぇ 碇本家から迎えに来ました。」
「そのまま正面を向いて読書をしているフリをして下さい。」
隣の男の子も本を広げて読書をしている。
同じように読書しているようにして、本で隠すように小声で話す。
「私は加賀ヒトミです。碇本家のメイドです。」
「初めまして・・・ヒトミさん。僕が碇シンジです。」
「はい。正面の左手に車が準備しています。」
「判りました。そちらへと歩いて行きますので、少し離れてから続いて下さい。」
隣の男の子はリュックサックに読んでいた本を納めると、ヒトミが伝えた方向へと歩いている。
ヒトミも手に持っていた本をカバンに納めると、少し離れた状態のまま、あとを追いかける。
そして、車がいる角を曲がり、車に乗り込むと、車は碇本家へと走り始めた。
─────碇本家警備室
邸宅へ到着すると、そのまま警備室がある建物へと進んだ。
車の中では・・・
「すみません。髪の毛を1本下さい。」
「本人確認のためにDNA鑑定ですか・・・ いいですよ。」
ヒトミがシンジの髪の毛を1本抜いて窓の外へと渡す。
鑑定結果が出るまで待つことになるのだが、いつの間にやら色々な話題で盛り上がる。
「シンジ君って私と10歳違いになるんだぁー へぇー」
「ヒトミさんってメイドさんでしょ。 学生が働いて大丈夫なの」
「へーき、へーき、だってお屋敷に住んでるしー 居候でご飯貰っているとねぇー」
「それでメイドさんですか(笑)」
「一応、お給金は私のお小遣いになるしね。」
「へぇー だったらメイドさんじゃなくて秘書にでもなったら、もっと貰えるでしょ。」
「だってぇー まだ学生だよー なれる訳ないし。」
「じゃぁ 僕が秘書になってって言ったらなってくれますか?」
「そうだったら・・・ね!」
「コラ! ヒトミ!! 何をしている」
「わっ お父さん ビックリするじゃない。」
「のんびり喋って、あれもこれも簡単に話すんじゃない。」
「はぁーーーい、以後気を付けまーーーす。」
DNA鑑定が済んで、血縁者という事が判明したので、シンジは祖父であるイワオの部屋へと案内された。
シンジの目の前にはイワオが座っている。
「ワシが、碇本家当主 そしてユイの父親であるイワオじゃ。」
「碇シンジです。」
「ユイのDNAもあったから調べてみて、ワシの孫であることが証明された。」
「お爺ちゃん!」
「おぅおぅ・・・(んー感動じゃ) 何じゃ言ってみい」
「内緒話ししたいから、まわりにいる人たちを部屋から遠ざけて」
「ワシと、この執事の他にはいないが」
シンジは荷物からPDAを取り出し、2人が見えるように机に置く。
そのPDAには光の点が表示されていて、真ん中の3点を中心に複数の点がある。
それを見た執事は、マユが動いて表情が少し変わった。
「のう・・・雄二・・・」
「はい 御前」
「部屋のまわりに、こんだけ居るのか?」
「はい・・・御座います」
「シンジの言う通りに・・・」
「承りました。私も下がります。」
「うむ・・・」
机に置いたPDAから点々が離れていくと、今までのこと。
母親であるユイの現状。
これから起こるであろう状況を、祖父であるイワオに話す。
そして10年後に起こる・・・ 使徒との戦いについて話し、碇グループの将来についても話し合った。
(ただ・・・ 翌朝になっちゃったんだよね。話の内容が多すぎて、気が付いたらニワトリが鳴いてた。)
碇本家浴室で、イワオとシンジが入っていた。
話しに熱中しすぎて、とうとう朝までやってしまったので、2人して朝風呂。
イワオの背中をシンジが流して、湯船に浸かっていた。
「のう・・・ シンジや」
「なに お爺ちゃん」
「まずは、グループ内の建て直しじゃな・・・」
「まずは・・・ね。」
「3年間と考えているが、もっと短くできるのではないか?」
「地道にするよ・・・どうせ使い込みする所も出てくるから、3年で全盛期の頃に戻す。」
シンジとイワオが考えたシナリオは・・・
3年間で碇グループの日本制覇・・・ その後、アジアとアメリカに進出。後半は、ヨーロッパ方面へと手を伸ばす。
シンジの方では、まずは学力向上・・・ その後は国連軍に参加して、ある程度の階級を持っておく。
「3年で日本制覇か・・・ 忙しくなりそうじゃの!」
「うん 僕の方はグループ内の掌握と新規開発と平行して大学に行くよ。」
「特進試験は?」
「そろそろ小学校・中学校の特進試験があるでしょ、それを受けたら続けて高校の特進試験も受けるよ。」
「続けて大学は京都大学か?」
「うん短期卒業を目指すよ!」
2人の会話は、まだまだ続きそうだが、歳を取っているイワオの方は、のぼせそうなので出て行った。
シンジは、もう少し考えたい事があったので、湯船のフチに座って、考え事をしていると後ろにある扉が開いて、誰かが入ってきた。
出入り口に立っている感じだったので、振り返って見ると・・・
(ヒトミさん!)
シンジも驚いて思考回路がフリーズしかかったが、すぐに湯船に入り反対側の壁まで飛び去った。
ヒトミは一応、手ぬぐいで身体を隠してはいるが、面積の小さい手ぬぐいでは隠し切れない。
表情を見ると、お風呂で熱くなって赤くなったのではなく恥ずかしくて赤くなっている感じ。
「な・・・ん・・・で・・・ ヒトミさんが・・・」
「御前から頼まれまして・・・」
「あっちゃー お爺ちゃん・・・ 何すんのかなぁー」
「お背中・・・流します・・・」 (真っ赤っか)
ヒトミは、椅子を準備して手招きしている。
シンジは持っている手ぬぐいで下半身は隠しているが、心臓がバクバク状態。
いくら男だと言っても、これは、やりすぎだと、イワオへ怒鳴り込みたかった。
しかし、お風呂の出入り口は、手招きしているヒトミの向こう側。
シンジは観念して、ヒトミが準備した椅子に座ると、おとなしく背中を洗って貰った。
そして2人して湯船に入ると
「お爺ちゃんに言われたとしても・・・ なんでかなぁ〜」
「すみません(真っ赤) 御前の御言付けなので・・・」
「はぁ〜〜〜 風呂の後も言われているの・・・」
「(さらに真っ赤っか) は・・・い・・・ お部屋へ案内を・・・」
「気を廻しすぎ・・・ お爺ちゃん!」
ヒトミも困っているみたいで、しょうがないとシンジは諦める。
シンジが上がると、ヒトミも続いて上がるが、着付けはシンジが断り、お互いが背中合わせにパジャマを着込む。
ヒトミの先導で部屋へと行く前に、お爺ちゃんの部屋へと立ち寄った。
「お爺ちゃん・・・ ヒトミさんの事だけど(ちょい怒)」
「ん・ん・・ん・・・ 何か気に入らんかったか?」
「あの色ボケ・ヒゲ親父と同じこと・・・しないでね。」
(ガーーーン! そうだったのか 若いからと思ったから、そのようにしたのじゃが・・・)
「お爺ちゃん! ヒトミさんは僕付きになるの?」
「あぁ シンジ専属のメイドとして側に仕えさせる。良いかのぉ〜」
「断っても本家内で困った立場になるでしょ・・・ヒトミさんが」
「そうじゃの」
「どうせ、グループ内でドタバタ始めるから、僕専属の秘書にするよ。」
祖父であるイワオと、ヒトミの位置づけを話し合った。
その後、シンジの部屋で今後の事を話し合った。
話し合った後、ヒトミが添い寝を言ったが、シンジが頑として聞かず、ヒトミは自分の部屋へと戻った。
部屋には、昼休みを取るために父親が戻ってきて、お茶を飲んでいた。
父親の前にパジャマ姿の娘が座った。
「お父さん・・・ 私・・・ 魅力ないのかな・・・」
「無いとは思えないが・・・ シンジ様の育った環境が違うからだろう。」
「シンジ様のお母様・・・研究者だったの」
「ユイ様は京大の冬月教授の所で、形而上生物学というのを専攻されていた。そしてユイ様を奪った六文儀も、そこで出会って駆落ちなされた。」
「駆落ち・・・」
「あとは御前からシンジ様のお話を聞いたが、研究の毎日で、ほとんど家には戻られなかったらしい。」
「それで、しっかりとした考え方をされるのかぁ。」
「お前も知っておいた方が良いか・・・ シンジ様は六文儀に殴られて意識不明状態で海へと捨てられたらしい。」
今までの生活・・・ 育った環境・・・ 1人で来た経緯・・・
全て碇本家当主である御前から父親の雄二が知った内容。
雄二は、御前とともに外出するが、その前に娘に秘書として、メイドとしての心構えや行動について、細かく教えた。
季節がめぐって、もう夏前。
「おっはよぉー ヒトミちゃん 今日も元気ねぇー」
「おはよう! カエデちゃん サツキちゃん アオイちゃん」
朝の挨拶を交わすのは、ヒトミのクラスメートである3人娘。
この3人娘は、ヒトミより少し背が高い ・・・ というのも、挨拶を交わす場所は、京都市内になる高校の前。
ヒトミの年齢だと中学校になるが、特進試験を受かって、現在は高校2年生。
教室に入ると、ニュース好きの男子が振りまいたのか転校生の話しが持ち上がっていた。
そういう話しも好きなので、盛り上がっている集まりに参加してワイワイ、ガヤガヤ。
「今回の転校生ってヒトミのお仲間ってっさ・・・」
「おいおい、特進試験・・・受かってくるのかよ。」
「職員室前で聞き込んだら、なんか2回飛ばしたらしい。」
((( なにーーー )))
この頃の特進試験は小学校と中学校、高校も飛ばすことができる。
生徒たちの2回飛ばしは、小学校と中学校の2つを飛び越えることをさす。
※作者より※ここは小説内の設定なので、突っ込まないで下さい。※
(もしかして・・・ シンちゃんかな! きゃーーー クラスメイト… ポッ)
「おーーーい ヒトミちゃーーーん」
(目の前で手をヒラヒラ)
「駄目だコリャ 目がイッちゃってるよ」
「でもさぁー ヒトミが、こんなだと・・・ 知ってる子になるよね」
「そうよねー」
「だったら11歳か12歳ぐらいかな」
「おいおい本気(マジ)かよ 5歳年下かぁー」
「はいはい・・・ チャイムは鳴ったわよ。ちゃっちゃと席につく!」
担任が入ってくると、ウワサ話しで盛り上がっていた生徒たちは一目散に各自の席へと戻る。
全員が着席したのを見た担任は、転校生の話しを伝える。
「さて今日から仲間が1人増えるぞ!」
「特進試験2つパスしたって聞きましたぁー」 (爆笑)
そういう情報が伝わりやすいので、お調子物がちゃちゃを入れる。
それを担任が宥め透かして、笑い声や暖かい雰囲気がある明るいクラス。
「それじゃぁ・・・ 入ってきてぇ」
担任に声を掛けられて扉が開くと、教室内の眼がそっちへと向く ・・・ が、目線が行った先は、誰もいない。
ただ、席の最前列にいるのが、驚いて固まっている。
後ろの席にいるのは見えないので、立ち上がって見ると、そこにいるのを見付けて、同じように驚いて固まる。
みんなが固まる先には、縮小サイズの男子夏制服を着た児童(かな)。
みんなの反応をみて喜ぶ担任。
(みんな驚いてるわぁー 私も書類見て、驚いたからねぇ。 5歳児が高校2年に編入だからねぇー)
驚く生徒たちを見ていたが、シンジは椅子を出して黒板に名前を大きく書くと、担任に断りを入れて教卓の上に正座した。
この位置に座らないと、後ろにいる生徒からは見えない。
「はい! はい! ちゃんと見える所へ座ってくれたんだから、みんなも着席! 着席!」
驚きまくった表情のまま、各自の席へと戻って着席。
着席しても、あまりの小ささに驚いたまま。
「みんなも驚いたよね。」
((( コク コク )))
「私も書類を見て、数字を書き忘れたのかと問い合わせたぐらいだもん。
・・・でさぁー、てっきり加賀さんと同じぐらいの14歳かと思ったんだけど、正真正銘の5歳だもん。」
((( えぇーーー 5歳!!! ・・・12歳違い )))
「この前あった特進試験を2つ受けて・・・ 通って・・・ ウチのクラスになっちゃったの。」
( はい! ) 手をあげる生徒
「普通、2つの特進試験を受けたら、高校1年に編入だったと思いますが?」
「それが・・・(汗) 1週間ぐらい前に学内の予備試験が・・・ あったでしょ」
「えぇ 私たちも受験しましたけど・・・ ま・さ・か・・・」
「そうなの・・・(大汗) それも受かっちゃって、この冬にある高校の特進試験を受けることになってるの」
((( えぇー 嘘だろぉーーー )))
「それで、ウチのクラスにも試験受けるのが固まっているので、このクラスへと編入になったの(汗)」
「・・・という訳で、短い間になるかも知れませんが、よろしく、お願いします。」 (ペコリ)
((( よろしく )))
シンジの席は、身長のこともあって窓側のイチバン前に決定して、一部の席替えが行なわれた。
あとは対した混乱も無く授業は進む。
まあ、初めて授業する先生たちは朝礼で聞いていても、5歳児が席にいると、どうも勝手が違うみたいで苦労していた。
休憩時間になったら他クラスから見物に来て、廊下は満杯。
時には小さいという事もあり、そっち系が好きな所からは黄色い声があった。
なんやかんやで日付は流れて行き・・・ ある日の放課後。
シンジのまわりには特進受験組である3人娘(阿賀野カエデ、大井サツキ、最上アオイ)が荷物をまとめている。
シンジの席を囲むように、この3人の席があり、その後ろの席には、ヒトミの席がある。
「ヒトミー ウチら途中でアイス食べるけど、どうする?」
「うーん ちょっとぐらいなら時間あるし、食べたいけど・・・ (チラッ)」
ヒトミの視線の先にはシンジ。
今日は、学校帰りに会社の会議へと参加することになっていたので、近くでアイス食べるだけの時間はある。
ヒトミの視線を向けている先を見て、3人娘たちは・・・
「シンジ君も来ない・・・ アイス代ぐらいなら出したげるよ。」
「まあ、女性におごって貰うのも何ですし、自分の分は出しますよ。」
「まぁ、紳士的ねぇー (ウチのクラスにはいないタイプ)」
みんなで中心街に行ってみると、いろいろな店がある。
色々な場所を紹介がてら、いつもの店に行くが、他の学生たちもいて満杯状態。
シンジが知っている店が近くにあるということで、カエデ・サツキ・アオイが付いて行くと、そこは、ある高級スイーツの店。
たかだか高校生が帰り道に立ち寄る店ではなく、奥のボックス席に座ると各自の財布をみて、お勘定のことを考えていた。
(1つで何回分のオヤツになるんだろう)
(今月・・・ピンチなんだけど ・・・ どーしょー)
(ここだったら商品券あるし・・・大丈夫でしょう)
3人とも席に付いたが、あまり寄ることがない店なので困惑気味。
途中で用事がある・・・と言っていたヒトミが席に着くと、メニューから簡単に選んで注文している。
シンジも慣れているのか、ヒトミから受け取った書類袋の中身を確認して、同じように注文する。
注文の品が届いてから目の前に置かれると、圧倒的にヒトミの前に置かれている物が多い。
「ちょっと、ヒトミぃ〜(汗) あんただから食べれるけど、お勘定・・・ どーすんの?」
友人から非難の眼を向けられても、フトコロが暖かいのか、目の前にあるスイーツから眼を離さない。
お子様であるシンジの前にも、ミルクティーと軽めのサンドイッチがある。
3人娘の前にはアイスのセットだけ。
「だって、銀行に寄り道した時に、おこずかい (モグモグ) 下ろしてきたから大丈夫だもん (ゴックン)」
「あんたバイトしてたのは知ってるけど、そんなにあるの?」
「ちょうど給料日だったし、欲しい服もあったから、10万ちょっと下ろしてきた (これ美味しいのよね)」
「あんた金持ちだわ・・・ 私のバイトでも月5万がやっとよ。 (パク・・・うーん、冷たい)」
「私は月3万 ・・・ (やっぱ美味しい)」
「バイトというか副業で月4万かな (ヒトミのアレ・・・欲しい)」
「(ゴクゴクゴク・・・もう1個かな) すいませーん ミルクティーとモンブラン追加でお願いしまーす。」
「まだ! 食べるんか!!」
「だってぇー お腹空いてたしー」
((( この子・・・食欲魔人だったの忘れてた・・・ )))
「ヒトミ あんた時給ナンボ? 私たち3人でも900円から1200円ぐらいだよ。」
ヒトミはスプーンくわえたまま、カバンから電卓を取り出して・・・
「先月30日働いて・・・ 平日が8時間で土日が12時間だから・・・ うーんと振込金額から時間で割って・・・約2000円かな」
「「「 時給2000円 それに休みなしの毎日かい 」」」
「じゃあ 先月の給料って・・・ (大汗)」
ヒトミが給料明細をカバンから出して、テーブルの上に出すと、3人娘は金額を読む。
「「「 55万2000円 (それも手取りで・・・) 」」」
「だって私の仕事って、お屋敷のメイド兼秘書だから、学校と睡眠と休憩時間外したら、全部仕事時間になるもん。」
「ヒトミって住み込みだったよね。お父さんといっしょに!」
「うん、そーだよ。碇本家のお屋敷。」
「メイドと秘書って・・・ 当主様の・・・」
「うーんとね。次期当主様の秘書やってんの・・・専属メイドと掛け持ちで・・・(あははは)」
3人娘の眼が光る。
ヒトミを足がかりに碇グループの中に入り込めるチャンスと思った ・・・というのも3人とも親が碇グループで働いている。
グループ全体が高収益を上げており、新規の人員追加は随時やっていても足りない状態。
目の前の友人は掛け持ちで高収入を上げている ・・・ となると自分たちも同じようになることができる!という事。
「ヒトミ〜ぃ ちょっとバイト先・・・ 紹介しなさいよ。」
「時給1500円ぐらいで、なにかない?」
「私もやりたい!」
「えぇーーー 困ったなぁー 一応、相談しないと返事できないし・・・」
隣にいるシンジは、サンドイッチを全部食べて、ミルクティーを飲んでいる。
テーブルでは困ったことが起こっているのに、シンジは別のことを考えていた。
(そろそろ碇本家から出て、自分の家を作らないとなぁー)
(それとMAGIクラスのスパコンも必要になるし・・・)
(ん… なにかあったのか?)
やっと3人娘に迫られて、狼狽しまくっているヒトミに気づいた。
シンジは持っていた書類袋のカドで、隣で困りまくっているヒトミの頭を叩く。
「痛ったーーーい。 何すんの シンちゃん」
「痛そー」
「そうだね〜 その封筒なに?」
「さっきヒトミがシンジ君に渡していたよね。」
「会社の書類ですよ。これから会議ですから。」
「会議って… シンジ君が?」
「それがぁ〜 (シンちゃん…話しても大丈夫かな)」
「ヒトミさんが困っているので、僕が話しましょう! 僕が碇本家次期当主だからです。 」
「「「 はいぃぃ 」」」
シンジは腕時計を見ると、テーブルにある伝票に自分のカードを入れて隣へと渡す。
そして3人を見て、これからの事を話す。
「アルバイトの件は判りました。 お仕事はありますので、3人とも、親御さんを連れて、今夜9時に本家に来てくださいね。」
「親って」
「一応、未成年にお仕事を依頼するのですから、ご了承は頂いておかないと。」
「「「 は・・・ はい! 」」」
書類袋の中身を順番を確認しつつ、秘書であるヒトミへ指示を出す。
学生から秘書の顔に変わったヒトミは、自分の手帳を取り出す。
「さて、会議の時間ですから、お開きにしましょう。 ヒトミさん、僕の会計でみなさんのをお支払いして下さいね。」
「承りました。 会議後は帰宅で、よろしいでしょうか?」
「はい。 直行で帰りますので、手配をお願いします。」
「承りました。 会議は、会長室で行なわれます。 直通エレベータからお願いします。」
「判りました。 後始末はお願いします。」
シンジが店の出口へと出ると、サングラスを掛けた黒服が、さりげなく両側に付く。
当主であるイワオが付けさせているボディガードたちだ。
その後ろ姿に対して、秘書であるヒトミは深々とお辞儀する。
「さて・・・ どーしたの3人とも???」
テーブルに残っている3人娘は、友人であるヒトミの立ち振る舞いをみて、ボーゼン。
シンジから渡されたカードを使って料金を支払い、しっかり領収書を貰っている。
「3人とも早めに帰宅して、ご両親と話しておいたら・・・」
「お父さん・・・遅いと思うし、それからでも大丈夫じゃないの?」
「判ってないわね。 シンちゃんが手配って言ったでしょ。 3人のお父様への連絡も私がするの。」
ヒトミはアドレス帳を取り出し、3人の父親がいる会社へと電話をして、娘が次期当主のもとで仕事をすることを伝える。
3人の父親たちは一様にびっくりしており、父親と娘が揃って、約束の時間に本家に行くことを約束させた。
その電話を済ませると3人を連れて店を出ると、それぞれを見送ってから、次の仕事へと取り掛かる。
To be continued...
(2007.06.02 初版)
(2007.07.21 改訂一版)
(2009.07.26 改訂二版)
(あとがき)
初めまして、作者のハンドメイドと申します。
下手の横好きというか国語苦手をなくすために色々な書き物をしています。
表現が下手んちょの作者が書いていますので、書くペースは遅いわ、文章下手・・・というのは笑って読んで下さい。
さてTV版の第1話まで行き着くまで、ちょっと前置きが長くなりそうなので、プロローグではなく、話数で進めていきます。
気長に書いていきますし、最終話まで進めますので、ゆっくりめで、よろしく、お願いいたします。
(追記)
当初は20KBの予定だったのですが、書きすぎて29KBになってしまいました。
一応、20KB程度で収めるように努力しますが、超過する時は、ごめんなさいです。
作者(ハンドメイド様)へのご意見、ご感想は、まで