君がいない世界を受けいれろって?

しょうがないな

世界を壊させてくれたら考えてあげるよ

それじゃ、意味がない?

何を言ってるの

君がいない世界に何の意味があるっていうのさ?










Moon River

第三話 〜決断と決別〜

presented by hot−snow様











「ふぅ〜ん、そういう作戦ね」

広すぎる部屋に置いてある1つのソファー。

生活観というものが感じられない室内で、少年は手元にある資料に視線を走らせながら呟いた。

「シンジ君・・・あなたはどうするの?」

その傍らに立ち尽くす女性。

童顔なため正確な年齢はわからないが、かわいいことには間違いない。

シンジは片手でその女性を懐に呼び込むと、耳元に口元を寄せる。

「マヤさんはどうしてほしい?どんな役をこなしてほしい?

裏切られたことに反発する少年?

それとも、昔の友を助けるために死ぬ気でキラーに挑んで欲しい?」

ケラケラと笑いながら、とても楽しそうに尋ねる。

マヤはその様子に、軽くため息をつくと、シンジの前に回り、そのふとももへと乗っかった。

「私は何もあなたには求めない。強制もしない。

ただあなたのしたいようにすればいいわ。ただ偶にこうして抱いてくれたらそれでいい」

「健気だね。なんで、マヤさんは僕に協力してくれるの?」

特に興味がなかったため、今まで聞かなかったが、少しは気になっていた出来事。

なぜ、目の前の、この女性は協力してくれるのか?

ある日、唐突に連絡をしてきて、知りたいことをなんでも教えてくれた。

シンジがNERVから逃げれたこともマヤの協力なしで不可能なことだった。

そして、シンジの初めての女性でもあり、汚した女性。

マヤはシンジの質問に何を今更と首をふり、口を開いた。

「あなたが私を一番、汚してくれそうだったから・・・。

それ以下でも、それ以上でもないわ。ただ私はあなたに尽くし、あなたは私を利用する。

大人の世界って感じじゃない?」

その答えになっているのか、分からない言葉にシンジは軽く微笑むと、マヤを押し倒し、首元にキスをした。

















「司令、どうなさるおつもりですか?」

いつもの情事を終え、けだるい雰囲気が漂う中、リツコはゲンドウへと問いかけた。

「・・・レイにはもう指示を出した。

いくらキラーの奴らといえども、本物の使徒には敵うまい。」

イヤらしい表情を浮かべ、応える。

しかし、それを聞かされたリツコは顔を歪め反論した。

「それは無理です。レイ1人では限界があります。

本部とチルドレン、その両方をガードするには不安が残ります」

「それは分かっている。

だが、他にキラー相手に敵うものがいるか?」

「心当たりなら」

「だれだ?」

仕事モードになる2人。

ベットの中で、裸のまま向かい合う。

「加持りょうじは憶えていらっしゃいますか?」

「ああ、死んだのではなかったか?」

ゼーレの元スパイ。非常に有能な男だった。

与えた任務を確実にこなし、予想以上の成果をあげた。

あの男が今でも生きていて、自らの傍にいたならば、反逆の恐れのある冬月などすぐにでも殺してしまいたいものだ。

冬月は知りすぎている。2年前、あいつを殺そうかと思ったが、外交などを考えると、気がひけた。

めんどくさい仕事などしたくはなかった。

そのため、今でも生かしている。しかし、ユイにいつ事実が伝わるかと思うと、肝を冷やす。

だから、できるだけあの二人は近づけてはいない。

「私もそう思っていました。

が、最近、気になる噂が・・・」

「なんだ?」

「どうやら、加持りょうじは生きていて、ある組織を立ち上げているらしいのです」

「ある組織?」

「はい、キラーと同じようなものです。

裏の世界では有名ですが、あの男の組織ならば、もしかしたら、キラーを抑えられるかもしれません」

その情報にゲンドウは震える。

レイといえども、キラーを抑えるのは難しい。それは分かっていた。

高い確率で自らが殺されることも。

しかし、助かる可能性が見えてきたのだ。

ユイがいて、リツコがいて、すべてが思い通りのこの世界でまだ生きていられるかもしれない。

急激に動き出すゲンドウの脳細胞。

「連絡手段はあるのか?」

「はい、裏の世界との繋がりは多少持ち合わせております。

それを辿っていけば、彼にたどり着けるでしょう」

「信じていいんだな?」

「もちろんです」

「・・・そうか。

金は厭わない。なんとしてでも、了解をもらえ。

この件は君に一任しよう」

リツコは軽く微笑むと

「了解しました」

と言葉を発した。
















ゆっくりと、そして、確実に進む時間

碇 シンジは身をソファーに傾け、たばこをふかしていた。

マヤが帰ってしまった現在、特にしなきゃいけないことも、用事もとくにない。

かといって、MAGIが目を光らせているため、うかつに外に出るわけにもいかない。

彼は暇をもてあそんでいた。

外から声が聞こえる。ソファーをゆっくりと立ち上がると、窓をあけ街を見下ろす。

一時は使徒戦の影響でぼろぼろになった第3新東京市だが、2年がたったいま、見事に復興し、首都の役割を果たしていた。

流れ込む新鮮な風を大きく吸い込む。

身体に行き渡る爽快感。少し、すっきりしたため、窓を閉め、戻ろうとしたその時

聞こえてきた大声。見ると、大学生であろうか、肩を組んで歌っていた。周りを見回しても

そこには、馬鹿みたいに騒ぎ、浮かれる人たち。

その光景をただぼんやり眺めていたシンジの瞳に段々と浮かぶ憎悪の光。

「・・・ふざけんなよ」

思わず口をつく言葉。

なんで、一番苦しんだ自分が日陰者にならざる得なくて、何も知らずに不満ばかりいっていた者達が、楽しそうに暮らしているのか?

納得がいかなかった。

「てめえらはだれのおかげで生きていられると思ってんだよ」

叫ぶたかった言葉

「なんで、俺だけが」

笑顔を浮かべ、馬鹿話に興じる人たち

「こんな思いを」

恋人と手を組み、表通りを歩くひとたち

「しなければいけないんだ」

すべてが憎い。

湧き上がる破壊衝動。

「碇 ゲンドウ・・・」

握り締める掌。

「お前だけは許さない・・・」

それだけ呟くと、シンジは窓際から離れた。

これ以上、見てたら抑えきれなくなりそうだ。

体を再び、ソファーへと沈め、たばこをくわえる。

殺意はおさまらない。外に出て幸せそうな奴らを片っ端から、解体してやりたい。

そうすれば、行き場のないこの怒りも少しは収まるだろう。

「・・・ふぅ」

シンジはそこで頭を1つ振った。

自分はこんなことをするために第3新東京市に来たのではない。

仕事だ。何を考えているのだろう、一般人に殺意を抱くなんて・・・

この土地だからだろうか?

ここには嫌な思い出が多すぎる。日ごろ、思い出さないこと、思い出したくないこと、

それが浮かんできてしまう。一人なら尚更だ。

そうなることは、ここに来る時点で分かってもいた。だから、ダダもこねた。

しかし、加持りょうじは確かにこういった

「NERVは助けを求めてくる」と。

だから、マヤに逢い、わざわざ情報を仕入れた。

それで、分かった事。

「まあ、十中八九、綾波も碇ゲンドウも死ぬね」

シンジは書類にそうまとめた。

キラーに狙われたら、ある程度の軍事力ではどうしようもない。

しかも、EVAに頼りきりのNERVでは相手にもならないだろう。

これまでの大国とも相手が違う。彼らは報復を恐れた。だから、思い切ったことはできなかった。

しかし、キラーは本拠地を持っていない。報復を恐れる事などしなくてもいいのだ。

根無し草なのだから。




そこまで分かっていても、シンジの中ではこの仕事を受ける事は確定事項だった。

敵わない事も、成功確率が0に近いことも分かっている。しかし、そんなことは関係ない。

碇 ゲンドウ・・・アイツを殺すのは自分なのだ。

横から出てきて、勝手に殺されては、それまでの自分の我慢は無駄になってしまう。

それなら、キラーの騒動に紛れて、自らが殺しに行く。

それは、決まっていた。


















白に統一され、清潔感溢れる病室。

その部屋はNERVが管理する院内の中で、一番奥に位置していた。

人通りが少なく、廊下からは一切人の声は聞こえてこない。

まるで、そこだけが世界から切り離された錯覚をうける。

そんな場所で、レイは黙ってその男を見下ろしていた。

その目には何の感情も見つけられない。観察・・・それが一番適した言葉だった。

「・・・いつまで狸寝入りを続けるつもり?」

しかし、男は動かない。

「カメラはもう動いていないわ」

その言葉が耳に届いたのか、男の肩がビクッと震え、口元が小さく動く。

「・・・・・・マジで?」

「ええ、大マジによ。今日は大事な報告があるの。早く起きて」

そういい終わると、服を掴み強引に立たせる。

「痛いよ、レイ。一体、どうしたんだい?

今日は偉くご機嫌斜めじゃないか。愛しのシンジ君に振られたのかな?」

「まだ、そのほうが良かったのかもしれない。

少なくとも、迷惑はかからないもの」

いつもと違う、レイの様子にやっと気づいたのか男は表情を引き締めた。

「シンジ君に迷惑がかかりそうな事態?

もしかして、ドイツの件かな?」

「・・・なんで知ってるの?」

声の調子が幾分下がる。

この男はここ2年、病室から出た事がないはずだ。

なのに、大切な情報はいつも自分が告げる前に知っていた。

「それは、秘密さ。」

「教えなさい。あなたが生きていられるのは、私があなたを好きだという健気な少女を演じてるからよ。

そうでなければ、今頃、燃えるごみに出されて、夢の島行きなのに」

ズイっと身を乗り出し、カヲルへと詰め寄る。

しかし、カヲルはそれに何の興味も持たず、話を促した。

「それより、早く話さないと、だれが来るか分からないよ」

話すつもりがないのだろうと態度で察する。

この男は変なところで頑固だ。覆す事などできない。

レイはその様子にため息をつき、話を先に進める事にした。

「外道の行いのせいで、今度ここが襲われることは知っているわね?」

「ああ、なんとなくだけどね」

「私はそれの殲滅を命令されたわ」

淡々と事実を語る。

男はそれを静かに聴いていた。

「それとシンジ君とに、なんの関係があるんだい?

君なら傭兵くらい簡単に殺せるだろう?なんなら、僕が手伝ってもいいしね」

あっけらかんと話す。

しかし、レイはひとつ首をふった。

「あなたでも知らないことはあるのね」

「どおいうことだい?」

「アメリカ、ドイツを襲ったのはキラーよ」

「・・・嘘だろ?」

表情を険しくし、レイへと問いかける。

「いいえ、本当のことよ」

「なぜだい?彼らは無差別にそんなことをするような組織じゃないだろう。

まさか、何かちょっかいをかけたんじゃないだろうね?」

「ちょっかい?そうだったら、まだいいわね。

NERVは彼らの仲間を殺してしまった。その報復よ。もう止める事はできないわ」

「NERVが自殺志願者だったとは初めて知ったよ」

ヤレヤレと首をふる。

その表情には諦めが浮かんでいた。

「キラーが相手じゃ、僕らといえども、どうすることもできないね。

いつ逃げる?僕は荷物もないから、今からでもオッケーさ」

そういうと、ベットから飛び降り、仕度を始めだす。

しかし、レイは微動だにせず、言葉を続ける。

「・・・その時、ここに碇君がくるわ」

ピタッと止まる男。

ゆっくりと振り返ると、口を開いた。

「なぜだい?シンジ君はNERVを恨んでいるだろ。

助けに来るはずなんてあるわけないじゃないか」

馬鹿にしたように言葉を続ける。

目に浮かぶのは、そんな事も分からないのかという蔑み。

「・・・碇君は助けに来るんじゃない」

「観光にかな?」

チャラけて返す。

男は真剣に話す気はないようだ。

しかし、次のレイの言葉で時は止まった。




「・・・殺しにくるのよ。キラーに殺される前に、自らの手で」


















ぐるぐる廻り円形の板。

そこには男がくぐりつけられ、情けない笑みを浮かべていた。

「マユミちゃん、そろそろ助けてくれないか?

謝るからさ〜」

「カツーン!!」

なんの前触れもなく、くぐりつけられている男の両足の間に突き刺さるナイフ。

「黙ってください。それ以上、喋ると、口にいきますよ?」

「・・・・・・・・」

黙りこくる。

顔には冷や汗が流れ、室内気温が下がる。

カタカタと何事もなかったかのように、仕事を再開するマユミ。

しかし、苛々を隠せないのか、顔は引きつり気味だ。

「なんで、加持さんは、シンジ君を浮気の旅になんて送り出したんですか?」

「おいおい、待ってくれよ。俺はただ仕事を頼んだだけだぜ。

別に浮気してこいなんていってないよ」

苦笑いを浮かべながら、なんとか助かる道を探す。

しかし、マユミも追求の手を緩めない。

「伊吹マヤと密会して来いなんて命令が仕事ですか?」

「ああ、逢ってNERVの情報を仕入れる。

立派な仕事じゃないか?」

「いいえ、それは逢引です。

そんなに情報が欲しければ、加持さんが行けばいいじゃないですか?」

ボスなのに、どこまでも権力がない加持。

容赦ないマユミの言葉に、苦笑いを浮かべる。

「それができれば一番良かったんだけどな。

俺が欲しいレベルの情報なんて、俺が行ったところで手には入らないよ。

それにシンジ君は女装が似合うから、潜入には困らないし、正に適役じゃないか。

マユミ君もシンジ君の女装好きだろ?」

「はい、それはもちろん!ってそんなこと問題じゃないんです。すり替えないで下さい。

私が言っているのはシンジ君が」

「はいっ、加持です」

「って聞け〜!!」

いとも簡単に縄を抜け出し、携帯に出る加持。

伊達にボスはやっていない。

ゼロの状態からここ数年で裏の世界では一目置かれる組織を作り上げたのだ。その手腕は大したものだろう。

傍らで騒ぐ、大興奮のマユミを片手でいなし、悠長に会話を続ける。

「分かってる。

別に助けは求めないさ。ただ、いつも通り仲介してくれるだけでいい。

そうすれば、彼女はここまで来るはずだ」

確信があるのだろう、言い切る。

その口調には自信が漂っていた。電話先の相手も付き合いが長いのだろう、了解したようだ。

「ああ、このお礼はいつかするさ。

引っかかったら、また連絡をくれ、じゃあな」

ピッと音を立て切れる。

加持は大きく息を吐くと、マユミを呼びつけた。

「マユミ君、これから2、3日中にここに赤木リツコという女性が訪れるはずだ。

おっと、場所がばれるわけじゃない。ちゃんと、目隠しをして連れてくるよ」

何かをいいかけたマユミを制して、話を進める。

「そこで、君にしてもらいたいことがあるんだ。」

意図的に切ったのだろう、マユミを見つめる。

「俺は赤木リツコと2人で話がしたいんだ。

細かい条件から、金銭までじっくりと詰めたい。そのためには、横槍は勘弁なんだよ。

もちろん、彼女は1人でここに来るつもりだろう。だが、そんな事は彼女の役職を考えれば厳しい。

必ず金魚の糞がついてくるんだ。もし、そんな事を許せば、場所からすべてばれちまう。

それだけは避けなければならない」

重く言い切る。

「そんな危険なのでしたら、断ったらいかがですか?別に義理はないでしょう?」

当たり前のように話すマユミ。

彼女にとってNERVなど、そこらへんに落ちている石ころと同じ価値しか持っていない。

仕方ないと言い、シンジを見殺しにしたのだから、今回の事も諦めたらいい。

それ相当のことをしたのだ。罪は償わねばならない。

それを、今更生き残りたいなどとは、呆れるばかりだ。

だから、マユミにとってNERVなど、どうでも良かった。

「いやっ、俺はこの仕事を受けるよ。

君も本当は分かっているだろう?この仕事を例え、俺が断ったとしたって、シンジ君はNERVに向かうということは。

彼の目には碇 ゲンドウしか映っていないんだから」

その言葉に一瞬、肩が震える。

しかし、マユミは顔を上げ加持を睨んだ。

「私が止めます」

断言するマユミ。

しかし、加持はそんなマユミを一瞥すると、おもしろそうに顔を歪めた。

「君が?

それは無茶を通り越して、無謀だよ。

いくら君でも殺されるぞ?」

「・・・・シンジ君はそんなことしません」

絞るようになんとか言葉を発する。

しかし、それは何の説得力もなかった。

「自分でも思わないことは口にしないほうがいい。」

加持はたばこに火をつけると、大きく吐き出した。

そして、デスクの中から、ファイルを取り出し、マユミへと投げる。

しかし、マユミはそれを受け取らず、小さな音を立て、床に散らばる書類。

加持はそれを無表情で眺めると、ゆっくりと立ち上がり、出口へと足を向けた。

「君もプロだ。

仕事はしてもらうよ?」

そういい終わると、部屋を静かに出ていく。

そこに残されたのは、マユミの泣き声。そして、

「赤木リツコのガード一覧」

と書かれたファイルだけだった。










To be continued...


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