僕が永遠を願うそれは

いつだって、手元からゆっくりと零れ落ち

また僕は臆病になる。










Moon River

第二話 〜執着〜

presented by hot−snow様











「な、なんだこれは」

NERVドイツ支部から緊急要請を受けたのが10分前。

何事かと、慌てて駆けつけた特殊部隊の前に広がっている景色は尋常なものではなかった。

奥へと続く研究スペースに漂う血の匂い。

室内に飛び散った肉片。

その死体は、何か強い鈍器で殴られたように潰れていたり、首から上が、捻りきられていたりと、

とても人間業には思えないものばかりであった。

「隊長、奥も同じようです」

先に潜入した部隊からの連絡も芳しくない。

「何か手がかりはないのか?」

「そういう情報は今のところは・・・」

残念そうに首をふる。

「犯人は?」

「今のところ発見されておりません」

よくない報告ばかりがあがる。

「隊長・・・これは、先日の?」

「ああ、似ているな・・・。」

思い出されるのは三日目に起きたアメリカでの出来事。

「司令室を漁れ。

あれと同じなら、メッセージがあるはずだ」

「はっ!」

NERV襲撃事件。

三日前、アメリカにあるNERV支部は何者かの集団に襲われ、研究者を中心に殺された。

死亡者46名。

負傷者0名。

なぜか、けが人はいなかった。

無差別ではないことを不思議に思ったFBIが調べた結果、殺されたものには共通点があった。

それはある研究。

関わっていなくても、許可を出したとかそういったことだ。

その研究に関わってていたものは例外なく殺されている。

逆に、それに関わっていない人物は見向きもされていない。少なくともあの研究が原因には間違いないだろう。

事実をしったものはそれも仕方ないと思った。それほどまでに非人道のものだったから。

犯人達の特定は未だにできていない。手口は見事すぎるの一言。証拠は一ミリたりとも残されていなかった。

しかも、あの研究は、アメリカ支部に限ったことではない。そんな、ふざけた情報もある。

そのため未だ世界には公表できていない。NERVがどんな組織にしろ、使徒から人類を守った世間のヒーローであったせいもあるが。

下手な混乱は避けるべきだ。上層部の判断だった。

しかし、今現在、目の前にある景色。

それは、アメリカでの事件と酷似していた。

後は、司令室にあのメッセージさえあれば・・・。

「隊長、見つかりました」

「やはりか。アメリカと同じなのか?」

紙に一言だけ書かれた言葉。




「我々はお前達の罪を許しはしない」





















「悪魔の薬か・・・・」

突然、鳴った電話。

それはNERV襲撃事件が再度起こったということだった。

「・・加持さん?」

電話を受け、様子が変わった加持に話しかける。

しかし、加持は何かを考え込んでいるのか、なかなか、応えない。

「加持さん!!どうしたんですか?」

「・・・あっ、悪い。どうした?」

ようやく、振り向くが、話を聞いていない。

その様子にマユミは頬を引きつらせながら、先程と同じ言葉を言った。

「だから、どうしたんですか?先程から、そう言っていますが」

再三、無視され、機嫌は斜めらしい。

「NERVがまた襲われた。」

「えっ?」

「しかも、アメリカの時より被害は甚大だ。

忠告を守らなかったみたいだな、あの馬鹿共は、自業自得だよ」

吐き棄てるように話す。

「忠告?なんのことです。加持さんは犯人を知っているんですか?」

「なんとなくだけどな」

「だれです?」

「簡単に言ってしまえば、復讐者だよ。」

真剣に話す加持。しかし、マユミはその態度に何かをかくしていることを察知する。

「NERVが使徒の細胞の研究をしていたのは知っているな?」

「・・ええ。それと、今回のことは関係あるんですか?」

「まあ、焦るな。

日本がこんなに安定してる訳はここにEVAがあるからだ。

そのおかげで経済も潤い、テロの脅威に晒される事も、戦争を仕掛けてくるアホもいない。

こっちには最大の武器があるんだ。報復なんかされた日には、どうしようもないからな。

だからこそ、各国において、NERV本部は邪魔なんだよ」

「それは、分かっています。

EVAのせいで、これまでの強国が発言権がなくなったのも分かりますしね」

「ああ、そのせいで、ここ数年のチルドレン暗殺計画は100件を超えている。

本部を崩すよりか、チルドレンを狙ったほうが早いからな。

しかし、本部も馬鹿じゃない。シンジ君の前例があるんだ。

それ相当に、警備はしっかりしている。それに、MAGIもあるしな。

全部、失敗に終わり、立場がまた悪くなる。悪循環なんだよ」

長く話し、喉が渇いたのだろうお茶で湿らす。

一方、マユミは話が長くなるのを悟ったのか、タバコを取り出し、唇へとくわえた。

「それで?」

「なんか、態度でかいぞ。

いやっ、なんでもないです」

たばこを投げられ、謝ってしまう加持。

自らも情けないと思ったのか、1つ咳払いをした。

「ここで、使徒の細胞が重要になってくる。

早く言ってしまえば、使徒の細胞を研究し、それを人間に取り込めないかの研究をしていたんだ。

使徒並の力を持っている人間を生み出せれば、ガードがいようが、いなかろうが、関係なくチルドレンを殺せる。」

「そんな不道徳な・・・」

「ああ、でも、そんなことがうまくいくはずがない。

数え切れない程の人間が死んだと聞いているよ。

しかし、犠牲の上に成果はちゃんと出たんだ。」

「どんな?」

「それは・・・詳しくは分からない。

俺が知っているのはNERVにいた頃までだ。

だが・・・薬と聞いている。

ドーピングと同じような効果を出す事ができると・・」

急に歯切れが悪くなる。

そして、落ち着きがなくなった加持。

マユミはそれを目ざとく見つけると、かまをかけた。

「加持さんが持っていたやつですよね?

机に入れてたと記憶しているんですけど・・・どこに隠してあるんですか?」

「俺は持っていないぞ」

「いいえ、あなたは持っているはずです。

私の目を見てください」

にらみ合う2人。

緊張が走った。

5分、10分がたった頃だろうか?

加持の方が目をそらした。

「俺の負けだよ。

確証はあったのかい?」

「いいえ、怪しいもの好きの加持さんが、そんな、おもしろそうなもの買わないわけがないじゃないですか。

少し考えれば分かりますよ」

マユミとしても緊張はしたのだろうお茶を含みながら応える。

加持はその答えを聞き、空を仰ぐと、顔を手で覆う。

「それで、マユミくんはそれを見たいかい?

さっきは言わなかったが、これは洒落にならない代物だよ。

使徒との融合に失敗し、人間とも使徒ともいえない奴らの亡骸からとったコアを固めたものだ。

だから、俺が持ってる一つにしたって何百人分の命と引き換えに作られた。

とても気分のいいものじゃない。俺だってこれが最初から分かっていたら、とても買わなかったさ。」

嫌気がさしているのだろう、たばこを灰皿へと押し付ける。

「いいえ、遠慮しておきます。

それで、犯人はだれなんです?どうしてその薬をもっていたんです?」

「犯人は少なくとも薬に関わっていたものさ。

薬のことはアメリカ支部、ドイツ支部の一部の研究者しか知らないものだ。」

「だったら、研究者が?」

「いいや、知っている可能性のあるやつらが他にもいるのさ。

NERVはどうやって被験者達を集めたと思う?」

「それは・・・孤児たちとかですか?

同じ人間としては許せませんが、そういった実験には都合がいいでしょ?」

マユミは今更何をという具合に、加持へと尋ねた。

「確かに常套手段としてはそれがいいだろう。

しかし、NERV各支部には時間がなかったんだ。本部にはMAGIがあるからな。

もし、成功したとしても、訓練に何年もかかるようでは、いつかは本部にもばれてしまう。

それでは、いけない。

だからこそ、あいつらは傭兵をかき集めた。金にものを言わせてな。

元から軍事方面では金を使っていたんだ。今更、疑われることはないよ」

「でも、亡くなった人、全部が全部、そういうひとじゃないでしょ?

そんなんじゃ、数があいませんよ。

子供もいませんと・・・。隠さなくても私は構いませんよ。本当に今更なんですから」

先程から、汚い部分を隠しながら事実を告げる加持。

しかし、マユミもこの世界に身を置き、大人のそおいう部分を間近で見てきた。

だからこそ、気づいてしまうこと。

「いやっ、隠してたわけじゃなかったんだ。

事実、嘘はついてはいないだろ?

子供にまで手が及び始めたのは、融合がうまくいかないと分かり、薬の作り方が発見されてからさ。

何せ、材料が人間だからな・・・。」

なんともいえない表情をつくる。

「それで、犯人は?ごまかしていないで、教えてください。」

確信に迫る。

加持は一瞬、顎に手をあて、悩むが、マユミの視線に根負けしたのか、渋々話し出す。

「キラーだろうな。それ以外に、考えられないよ」

「キラーって・・・あの犯罪集団の?」

「ああ。2年前くらいに結成された確実に依頼をこなす、犯罪のスペシャリストたちさ。

これは信頼できる情報筋から仕入れた情報だが、被験者の中には、キラーのものも含まれていたらしい。

その報復と考えたほうがいいだろう。彼らのことだ、裏幕も当然分かっているだろうし、報復は続くさ」

マユミはそう応えた加持の表情に、嘲りを読み取る。

それは、これからのことを楽しむかのような。

「裏幕?これは支部が勝手に行っていたんでしょ。

だったら、これで終わりでは?」

慌てたように加持に問い詰める。

嫌な予感がした。

「ここまで言えば、賢いマユミ君のことだ、分かるだろう?

これはシンジ君にすべて繋がっている事さ。

碇 ゲンドウを舐めちゃいけない。彼はシンジ君が逃げ出した事も知っている。あんな偽情報信じているのは末端の構成員だけだよ。

状況や証言者の態度は明らかにおかしいからな。本部としてもシンジ君の情報を公開し、すぐにでも息の根を止めたい。

元々、国連に引き渡そうとしていたんだ。何かしら理由があるんだろうな。

しかし、彼は通常の傭兵には手に余る。では、どうしたらいいか。

答えは簡単。彼以上の戦闘兵器をつくればいいのさ。」

嫌な笑いを顔に張り付かせながら、話し続ける。

「だったら、最初から本部で・・・」

「そうはいかない。彼には表の顔もあるんだ。こんなことがばれたら、地位を失ってしまう。

だったら、裏から操って支部に作らせればいい。元々、焦りをかかえていたんだ。餌をまけばすぐに食いつく。

そして、もし、ばれても彼には被害はいかない。

いざとなれば、支部ごと潰してしまえばいいんだ。駄目もとの案だったんだろう。」

「それが成功したと?」

「いいや、失敗だよ。大失敗といっていい。

支部は愚かなことにキラーという一番嫌な相手を敵に回したんだ。焦りの余りな。

流石の碇ゲンドウといえでも、どうすることもできないさ。案の定、支部は潰され、今度は本部の出番だ。今頃、焦っているころだろうな」

これはだれ?

初めてこんな加持を見る。

最初はこんなんじゃなかった。どうやら、リミッターがはずれたらしい。

追い詰めすぎた・・・いいやっ、加持の暗部に深く入りすぎたのだ。

「どうして、碇ゲンドウは、そこまでシンジ君を目の敵にするんですか?」

殺気をもろにあてられ、冷や汗を流しながら、マユミをなんとか言葉を発する。

その質問に加持は軽く微笑むと

「さあな?どうせ、ろくな理由じゃないさ」

そう応えた。
















「おはよ〜」

勢い良く空けられたドア。

教室にいる全員が振り返る中、そこに立っていたのは青い髪の少女だった。

「うるさいわよ、レイ。」

「おはよう、レイ」

一方は、顔を顰めながら、一方は苦笑いを浮かべ、それに応える。

「何よ、アスカ?朝から元気ないわね」

「あんたが元気すぎるのよ。」

「えへへ、ありがと」

「褒めてないわよ」

見事な掛け合いを披露する2人。

クラスメート達は、それを見て、朝が始まったことを実感した。

「もう、アスカやめなさい。」

「へいへい」

そして、それを止める委員長であるヒカリ。

その光景は正にいつも通り。

幸せな日常。

「ねえねえ、今日って転校生が来るんでしょ?

男かな?女かな?」

「う〜ん、どうだろう?

でも、うちのクラスって他のクラスに比べて1人少ないし、

すぐに確認できるわよ」

平和である故に、刺激を求める。

それは、当たり前のこと。

しかし、それはNERVが作り出した空間内だけ。

サードインパクトが起きる前と同じ生活ができている地域は本当に少ない。

世界中のなかで、日本だけ。

しかも、こんなに恵まれているのは、第3新東京市。ここだけだ。

「あ〜あ、かっこいい男来ないかな?」

「加持さんみたいな?」

思わず叫んだアスカの言葉に、茶々をいれるレイ。

「んっ?あんなオヤジどうでもいいわよ。もういないし。

私が言ってるのはイイ男のこと。

NERVとは関係していないね!!」

アスカが叫んだNERVという単語に、静かになる教室。

「アスカ・・・そういうことは、余り言わないほうが・・・」

恐る恐るアスカへと声をかける。

しかし、アスカはそんなこと知らないという具合に声を荒げた。

「ヒカリ、何を恐れているのよ?

所詮、人、1人守れなかった愚図の集団じゃない。

シンジは・・・」

「アスカ!!!やめなさい!!!」

何かをいいかけたアスカ。

しかし、レイの怒号によってかき消される。

日ごろのレイしか知らないクラスメート達は、びっくりして、目を丸めた。

「何よ? レイも恐れてるの?

情けないわね」

言いたいことを、途中で止められたのが、不本意なのか挑発する。

しかし、レイは挑発には乗らず、冷静に返した。

「アスカ、それはうかつに言葉にしちゃいけないことよ。

秘密になっているの知っているでしょ?」

「し、しっているわよ。けど!」

「けど、何?」

雰囲気が変わったことに、気づいたのかアスカは馬鹿馬鹿しいとばかりに、首をふった。

「もう、いいわ。」

「そう、分かってくれたのね」

「はんっ?

私が分かったのは、結局、この街にいる限り、言いたい事もいえないってことだけよ」

レイを睨みつけ、怒鳴る。

ヒカリは2人の険悪な雰囲気に口を挟むこともできない。

「アスカ、分かって。

あのことは私も納得していないし、納得できない。

けど、私たちはNERVに守られている立場。そして、NERVの人間なの。」

「分かっているわよ。

けど・・・あいつはいつになれば、帰ってくるのよ・・・」

「アスカ・・・」

思わず言葉に出た本音。

見る見るうちに、青く大きな瞳に涙がたまっていく。

「アスカ、待っていよう。」

小さく、囁かれた言葉。

しかし、それはアスカの耳に確かに届いていた。

黙りこくり、教室の床に落ちる涙。

その様子にヒカリがアスカへと駆け寄り、背中を優しく撫でる。

レイはそれを眺めると、気まずくなった教室の皆に小声で謝った。

いいよ、いいよと段々と拡散していくみんな。

教室にはいつもと雰囲気が戻っていき、日常が帰ってこようとしていた。

そんな時、囁かれる言葉。

「シンジ・・・私はどうすればいい・・・」

その言葉はヒカリとレイにだけ届いた。

ヒカリは悲しみに顔を歪め、アスカを強く抱きしめる。

アスカは少し驚いた表情を浮かべたが、抱きしめ返した。

そんな場面を無表情に眺めるレイ。

その表情は2年前となんら変わりはなかった。















冷たい雰囲気をその身に纏わせ、人気のない廊下を進む少女。

顔にはなんの表情も浮かんでいない。

ただ黙々と歩き、あるドアの前でその歩みを止めた。

「レイです」

「入れ」

左右に割れるドア。

床に描かれたセフィロトの奥にその男はいた。

男はレイが自らの机の前に着いたのを確認すると話し始める。

「ドイツが襲われた。

ここまで言えば、分かるな?」

なんの脈絡もなく告げられる言葉。

しかし、レイは男を一瞥し、静かに口を開いた。

「・・・相手は?」

「キラーだ」

お互い無駄な言葉は話さない。

レイは少し考え込むと、ポツポツと話し出す。

「・・・司令、流石に私1人では不可能です。

それは、お分かりでしょう?」

その言葉に顔を上げるゲンドウ。

「キラー相手では分が悪すぎます。

せめて、外部の組織から信頼できる人物を呼んでください」

「・・・それは無理だ。

相手が相手だ。誰も引き受けはしない」

にらみ合う2人。

無意味に時が流れる。

「・・・了解しました」

先に折れたのはレイだった。

それは、諦めに近かったが。

「用はそれだけですか?」

「・・ああ」

それだけ言葉を交わすと、足早に出口へと向かう。

ドアがあく瞬間、ゲンドウは口を開いた。

「・・・必ず殲滅しろ。

失敗したら、あの男の命はないと思え」

有無を言わせないゲンドウの言葉。

レイはそれに対して、如何にも、めんどくさそうに振り返ると

「・・・了解」

そう答えた。










To be continued...


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