サードインパクトが起きたのは、今から3年前。



それからは、ありえないことばかりだったよ。



赤い海から帰って来た人に、魔法使いみたいな力が備わってるし、



もう現れないと思ってた使徒が、人並みに縮小されて、世界中に現れたしさ。



そんな僕の15歳の夏だったけど、おもしろいこともあったんだよ。



まずはカヲル君と綾波が帰って来てくれて、毎日、遊びまわったんだ。



いや〜あの時は本当に面白かったよ。まあ、冗談で初号機を燃やしちゃったのはやばかったけどさ。



それと、もう一つ!!



これは、楽しかったというより、胸がス〜としたことなんだけど、あの赤毛猿よりか、僕のほうが現れた能力が高かったんだ♪



どのくらいというと、もうお話にならなかったくらいかな?



普通の人は、炎なら炎、水なら水、電気なら電気って一つしか、能力は現れなかったんだけど、僕は数種類の能力が、



現れたんだ。一つ一つの能力もありえないくらい強かったみたいだし♪



毎日、毎日、一生懸命、特訓する赤毛猿を今までとは逆の立場に立って、からかってたよ。



今じゃ、どんなに馬鹿なことをやっていたんだって、反省する毎日だけどね。



そんなとき問題が起きたんだ。



初号機を燃やしたことが髭にばれちゃってさ〜。サードインパクトの責任が僕のせいにされちゃったんだ。



まあ、あながち、はずれではないけどね。



その頃は、使徒もどきも余り強くなかったし、僕の能力もあまり必要とされていなかったから。



それからは、毎日が大変だったよ。使徒もどきを専門に扱うNERVから、ずっと命狙われるんだもん。



こりゃ、たまらんわって具合で、カヲル君と綾波と逃げ続けたよ。



そして、1年くらいたったのかな?お金もなくなってきて、困ってたときに僕達の能力に眼をつけたある人に拾われたんだ。



えっ、誰かって?



それはね・・・・










それぞれの天気

第一話

presented by hot−snow様











「本日付けで、碇 シンジを無罪とし、NERVへと強制徴収する。もちろん、綾波レイ、渚カヲルもだ!」



暗い雰囲気が立ち込める中、司令である碇 ゲンドウの声が響いた。



「ちょっ、ちょっと待ってください。」



「何かね?葛城君?」



「シンジ君達を招集しなくても、現存のチルドレンだけでやっていけます!!」



やや冷静さを欠いた声でミサトは叫んだ。



その言葉にゲンドウと冬月は顔をしかめる。



「本当にそう思ってるのかね?事実、着実に進化する使徒にこの間、敗北を喫したばかりではないか!」



「あれは・・・」



痛いところをつかれ、沈黙するミサト。



「葛城君、我がNERVもなりふり構ってる状況ではないのだよ。先日の失敗で国連にも苦言を言われている。



もう、失敗は許されん!!そのためには、彼らの力が必要なんだ」



「くっ!」



唇を強くかみ締める。



「その通りよ、ミサト。彼らがあなたの指揮下には加わらないとはいえ、彼らなら確実に使徒を倒せるわ!」



「どういうことよ!天下のNERVがたかだか17歳のガキの言うことを受け入れるってこと?!」



目の前に司令と副指令がいることは、すっかり忘却しているのだろう。鼻息を荒くして、リツコに向かっていく。



「仕方ないでしょ!サードインパクトの罪を訂正すること。誰の指揮下にも属さず、独立した権利を保有できること。



その二つが、「ゼーレ」から提示された条件なんだもの。」



「何よ!その「ゼーレ」ってさ!ただ子供達が集まった集団でしょ!強引につれてこればいい話じゃない!」



その言葉にゲンドウや冬月は血管を浮かび上がらせ、リツコはあきれた表情を浮かべる。



「ミサト・・・そんなことをしたら、NERV自体がきえてなくなっちゃうわよ。「ゼーレ」の中での実行部隊は



確かに17歳の子供達よ。でも、そのバックボーンは、国連さえ自在に操れるほどの権力をもった人達なの。



事実、3年前の使徒戦では、NERVも彼らからお金を頂いていたんだから。」



「うそ・・・」



信じられないという表情で、周りを眺めるが、返ってくるのは沈黙だけ。



「えっ、じゃ、じゃあ、なんで、シンちゃん達は、そんなすごい組織に加わってるのよ」



「そんな事は私だって知りたいわよ!!発見できたのだって、偶然でしかないんだから!とにかく、SS級ライセンスとS級ライセンス

を持つ彼らは私達には手に負えないわ。基礎能力が桁はずれなんだもの。諦めなさい。」



能力者にも能力の大きさにより、いくつかのランクに分けられている。上から、SS級、S級、A級、B級、C級といった具合に。



比率としては、0:0:1:2:7くらいであろう。SS級とS級は世界に数えれる程度しか存在していないのだ。



元々、A級までしかなかったが、シンジ達の様な複数の能力を持つ者が確認されたとき、つけ加えられた。



ちなみに強さと関係せずにライセンスは与えられる。A級、B級、C級を分けるものとしては、力の大きさであるため、強さには比例しない。









ミサトは考えていた。自分のライセンスはB級。サードインパクト以降、人をはかる手段の一つとして、確立されてきたライセンス。



そのためにいろいろといい思いもできた。NERVの作戦部長を継続できたのも、その一つである。



しかし、今、ライセンスのせいで、我慢しなくてはならない状況に陥っている。



「どうしたらいいのだろう?」



それだけで頭がいっぱいだ。



世界には、複数の使徒撃退組織が存在している。だが、国連から認定されているのは、国に1つだけである。





日本を担当するNERVは世界的に見れば、中間くらい。



今回、もしもシンジ達が加われば、5本の指に入ることも可能になる。



でも、自分の存在意義を失うこともまた事実。





ミサトは葛藤していた。











































「空が青いね。カヲル君」



「そうだね。シンジ君、また練習をさぼっていたのかい?」



気づかれないように、見ていたつもりが、呼ばれて、少しびっくりする。しかし、カヲルはそんなことをおくびにも出さず、答えた。



「・・・うん。いかに早く、うまく人や使徒を殺せるかなんて、僕にはどうでもいいよ。ただ楽しく生きていたいだけだし」



「そうか。でも、あのことが現実のことになったら、僕らはまた、自分の意思とは関係なく、戦場に身を投じなければならなくなる」



シンジは何のことかと、一瞬、キョトンとした顔になるが、思い当たると顔を歪めた。



「なんで、大人達は体裁を気にするんだろう。誰が使徒を倒したって、何も変わりはしないのに・・・。



そんなに、自分が人より幸せになりたいんだったら、僕等を巻き込まないで欲しいよ。」



カヲルはシンジの隣に寝転ぶと、空を見上げる。



「僕もシンジ君やレイと一緒に過ごすこの時がなによりも大切だよ。この時を提供してくれたキールさんにはとても感謝していているよ」



「うん。いっそのこと、こんな能力、消えてしまったら、どんなに楽なものか・・・」



二人はしみじみと語る。しかし、



口に出しての会話はそこまでだった。二人は空を見ているふりをしながら、能力を使い、思念だけで会話をする。



(カヲル君、気づいてる?)



(ああ。どうやら、B隊が襲われてるね。これは・・・サキエルタイプだね)



(レイ大丈夫かな?)



(レイなら大丈夫さ。このまま、ほっておいても問題はないよ。でも、・・・)



(でも?)



(僕らに張り付いてる人間がうざいよ。たぶん、NERVだね。)



(あぁ〜あの黒服の人たちか〜。僕らから見れば、丸見えなのにね。)



そこで、シンジは苦笑いを浮かべると、サッと立ち上がる。



「シンジ君?」



何をするの?という、疑問に満ちた顔を向けるカヲル。



「さあ、カヲル君、手伝いに行こう。能力を見せてあげれば、彼らも帰ってくれるさ。」



1キロ以上離れた場所で、ビクッと震える黒服な人たち。



「あはははは。やっぱり、シンジ君はおもしろいね。」



カヲルも気に入ったのか、笑みを浮かべ、少し前に行ってたシンジの後を追う。



談笑していた二人は、最後に「ついて来てごらん?」という言葉を残すと、そこから消え伏せた。



















「諜報部の田中です。碇 シンジ、渚 カヲル、綾波 レイの調査結果を報告しに参りました」



「ああ。入ってくれ」



重い雰囲気を纏う、司令室の扉があく。



黒服の男が、司令の前に立ち、送られてきたFAXを読み上げた。



「三人とも複数の能力を持つようです。力は何かは断定できませんが、我々の規定外のもの。



NERVに在籍していた頃とは数段の違いが見られます。」



「それは、新たな能力があると見て、いいのかな?」



「それは、分かりません。ただ我々が敗北したサキエルを、一瞬にして、チリに変えてしまうほどの能力ですから、



そう見てもいいと思います。」



「そうか。分かった。下がってくれ。」



冬月は、一瞬、思慮深い顔をするが、目の前の男に気づき、下がらせる。



「はっ。それと、もう一つ、ご報告ですが、今後、彼らの調査はできません。最初から気づかれていたようで、正式に「ゼーレ」から、



通達がありました」



「分かった」



ゲンドウの返答を聞き、男は部屋を出て行った。



「どうする?彼らを中に迎えれば、いざという時、潰されかねんぞ」



「分かっている。しかし、ユイのサルベージをできるのは、もう、あいつしかいない。その可能性があるのなら、それに綴るよ」



目の前に腕を組み、あの頃と一向に変わらない風貌で答える。



「そうか。でも、初号機はもうないだろう?大丈夫なのか?」



「コアは無傷で残っている。問題ない」



「分かった。さっそく、会議を開こう。葛城君と赤木君を呼んでくれ。」



冬月は電話を取ると、誰かに連絡を入れた。その様子を横目で眺めながら、ゲンドウは誰にも聞こえないような声で小さく呟く。



「それさえ、終われば、家族をやり直せるかもしれんのだ・・・」



後悔はたくさんある。もう、戻れない程の後悔が。



それは、懺悔に近いものかもしれない。でも、それを認めてしまったら、



あの頃から描いていたものがなくなってしまう気がして、恐かった。



今、求めるもの。それは、家族だ。ただ、ユイとシンジとレイ、家族で暮らしたい。それだけだった。



だから、求める。



何を犠牲にしても!



ユイさえ帰ってくれば、それが叶うと信じているから。



でも・・・



彼は知らない。



ユイを求めているのも、



家族を望んでいるのも、



自分ひとりだけであることに。



シンジとレイに見限られていることに。







後悔と懺悔を繰り返し、辿りついた場所は、皆、それぞれなのだから・・・・











To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

hot−snow様より寄稿して頂いた「それぞれの天気」ですが、如何でしたでしょうか?
EOE後のお話のようですが、ご期待に漏れず、シンジ君はスーパーです。
スパシン信奉者の管理人のツボを見事に押さえています。グッドです。このまま突き進んでください。
ここのミサトも見た感じではアレですね。保身を考えているし・・・。今後の展開が楽しみですな。
ゲンドウは少し毛色が違いますね。彼の想いは報われるのでしょうか。
あと、赤毛猿はどうなるのかな?今回出番はなかったけど、このままピエロになるのでしょうか。
しかしシンジ達がゼーレの一員になっているとは。これは些か意外な展開です。
ネルフ本部も以前みたいな強大な力を持っていないようだし・・・。
この先、ストーリーはどう動くのでしょうか。すごく気になります。
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、新作を催促しましょう!!
作者(hot−snow様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで