ちょっとぶち壊れている雰囲気を醸し出す少年と・・・
壁に寄りかかって眠る器用な女の子・・・
そして、それらをおもしそうに眺めているおばさん・・・
如何にも変人って感じの3人が集まる部屋には微妙な空気が流れ、なんか危ない・・・。
いつまでも続くと思われたそんな空気。それを、破ったのは危ない少年であった。
「もう、何も文句なんて言わないから、強くならせて。」
唐突に脈絡のない言葉を言い出す少年。常人なら「はいっ?」と言ってしまいそうな感じだが、
それを言われたおばさんは慣れているのだろうか?一切、表情を変えずに対応した。
「あらあら?練習嫌いな、あなたがそんなこと言うなんて何かあったのかしら?
本番の経験だけでなんとかなるんじゃなかったの?」
にっこりと微笑み、おもしろそうに声をかける。
「その様子だと全部分かってるんでしょ?謎を持てない雫に隠し事ができるとは思ってないよ。
だから、意地悪言わないで、前みたいに練習付き合ってよ?ねっ?」
胸の前で手を組み、おねがい!と言っているその姿は小動物を想像させた。
雫はその様子を満足そうに見つめ、言葉を続ける。
「まっ、話は大体分かっているわ。時雨達が動き始めたことは、昔の仲間から聞いているし、やられたんでしょ?」
「・・・うん。カヲル君がね・・・」
顔を下に向け、苦しそうに声を出す。
「そうか・・・。死んじゃったか。レイは?」
「レイは重症で済んだ。カヲル君が守ってくれたみたい・・・・。
怪我は力でなんとかなったけど、体の中までは直しきれないし、怖いから自然治癒に任せてある。」
「なるほど。それで、あなたは強くなって何がしたいの?」
それまでのおちゃらけた雰囲気が一気に消え、シンジへと問いかける雫。
可愛らしい文字で「れんしゅうじょう」と書かれた看板が置いてある室内の空気が張り詰めた。
「・・・そうだね。とりあえずは、あいつらを殺すよ。その後はどうなってもいい。」
「ふ〜ん、あなたは相変わらず安直ね。それがあなたの願いなら何も言わないけど、
死ぬのだけは勘弁してね。」
「どうして?」
元暗殺者で、死という言葉が一番近いはずの雫のその言葉に、不思議を感じたのであろう、
シンジはクビを傾げ、雫へと疑問を投げかけた。
「私的にはあなたがどうなろうと知ったことじゃないけど、姫様が悲しむでしょ?
あなたがここを出て行ったときなんて、泣き暴れて大変だったんだから。
キールさんなんて、嫌われちゃって・・・・
それなのに、死んだなんて事になったら、もう目もあてられなくなるわ。だから、死んでは駄目よ。分かった?
それさえ守ってくれるなら、あなたに付き合って上げる。
姫様の練習嫌いにも拍車がかかってきて、追いかけっこにも飽きたしね〜」
まだ小さい女の子とはいえ、仮にも統治者・・・誰よりも強い能力を持っている。
そんな子との鬼ごっこは毎回、壮絶を極め、最近では国境超えは当たり前。
それに相当疲れているのであろう、雫は嫌な事思い出したという風に、声をなんとか発した。
「お姫様は練習嫌いだもんね。」
いつも苛められている腹いせなのか、とってもおもしろそうに話す。
「誰のせいだと思っているんだか?シンジがサボるからあの子も真似するんでしょ!!
格闘能力なんて、全然上がってないんだから・・・今度、あの子を中心にしたチームを作るって案があるみたいだけど、
ありえないわね。夢物語で終わるわ・・・。だからこそ、ここであの子を不安定にさせるわけにはいかないのよ。
それを、踏まえて考えて。約束を守っていただけるのかしら?」
「守るよ・・・。」
「必ずよ?」
最後の問いかけ・・・その答えをいう前にシンジは、壁に寄りかかって眠る女の子に、目線を向け、軽く微笑むと、
「アリスに誓って、僕は生き続けるさ。
後悔を胸に抱えながら、生きていくのも、一興だからね。
辛いから、贖罪になるとは思ってないけど、辛いのは確かだ。それでいい。
早速、始めよう?時間がないんだ。」
目線を前に向け、力強く言葉を発する。
そこには、決意が感じられ、1つ進んだ事を表していた。
雫もそれを微笑ましく見つめ、頷く。
「わかった。まずは、戦ってみましょ?じゃあ、・・・って、先に解決する事ができたみたいね。」
2人で、壁際に目線を移す。
そこには、目をごしごしと擦りながら、
「私眠ってないよ〜本当だよ〜」
と言っているかわいらしい女の子の姿があった・・・・。
第十五話 〜波紋がもたらすもの〜
presented by hot−snow様
「碇・・・それは・・・なんのつもりだ?」
ここは発令所の一角。
使徒の急な出現により、非常警報が鳴り響く中・・・走ってきたのだろう、息も絶え絶えのチルドレンは呆然としていた。
その理由は、いつもなら一番に現れ、無理難題を言い続ける葛城ミサトがいなかったこと・・・
それと・・・なぜか、ねじり鉢巻きをした変なおっさんがいたからだ。
皆の奇異な目線が集まる中、その中心に、い続けているおっさんはいきなり話し出した。
「シンジにどうすれば私の思いが通じるのか・・・ここ数日、必死に考えてきました・・・。
パパと呼んでもらいたい・・・。そのためには、どうすればいいのだろう?と・・・
毎日、指定された口座にお金を払い込み、愛のおやすみメッセージを毎夜囁きました。
だが、変わることない満たされぬ日々・・・。」
(碇・・・そんなことをしていたのか・・・)
軽く引き出す冬月。顔が引きつっている。
「昨日、眠る事ができず・・・何気なくテレビをつけました。
その時、ふと耳に入ってきた歌で分かったのです。!!!愛とは奪う事じゃなく、そして、奪われるものじゃない!!!
勝ち取るものだとね!!!!!!」
勝ち誇った表情を浮かべ、「どうだ!!!」と周りを見回すゲンドウ・・・。
所詮、パクリだろ? というみんなの心の声を完全無視をしたまんま、なおも話し続ける。
「アピール!!そうアピールです!!!
タイミングよく現れた使徒が運命と言っています。」
「それで、お前がプラグスーツを着る理由にならないと思うが?」
「フッ・・・冬月先生・・・これは、シンジのお下がりです。
この苦しいとも言えなくはない、しめつけが私のリビドーをより深いものへと変えていきますよ。」
(うん。これは変態だぁ〜)
と笑顔で頷く冬月。
もう、なんか涙で前が見えない。何年無駄にしたのかな?
完全についてくる男を間違えたんだろう。
「冬月先生・・・後は頼みます。」
そういい残すと、久しぶりに、ここ第3新東京市に現れた使徒へと歩いていく。
顔はキリっと締まり、見様によっては、男前に見えなくはない。
惜しむは、変態じゃなければ、良かったのに!!!
「碇・・・・グッドラック。」
どこからか現れたキールが声をかける。
こっちもとてもいい顔している。
でも、こちらもプラグスーツを着ているが・・・・
「ええボケや・・・ワイにはまだ突っ込めへん・・・。力が・・・力が欲しいんや!!!!」
なぜか、己の漫才能力を嘆くトウジ・・・。
いろんな人の思惑が絡まる中、画面の向こうでは、先走ったアスカが、
「負けてらんないのよ!!!」
と懐かしい台詞を吐きながら、使徒にやられ、空中を舞っていた。
「シンジィ〜。かまって!かまって!!かまってくれなきゃヤダ〜!!!泣いちゃうよ?」
可愛らしく、体全体を左右に振り、不満を訴える少女。
その目には涙が大きく溜まり、今にも泣き出しそうだ。
しかし、呼ばれ続ける少年は振り返る様子を一向に見せず、雫との戦いを楽しんでいた。
「はぁ!!」
細かくフェイクを入れながら、左右のショートパンチを放つ。
そのスピードは常人を遥かに超越し、風の音だけが舞う。しかし、雫は顔に余裕を持たせたまんま、
それを、軽く捌き、雫の放った平手打ちがシンジの頬を打った。
「パチン!!!」
「キャッ!」
軽く叩かれたはずの、その体は宙を舞い、壁へと叩きつけられた。
その様子を間近で見てしまい、悲鳴を上げるアリス。
タッタッタッと小走りにシンジのもとへと駆け寄る。
その際に、雫を睨みつける事を忘れなかったが・・・・。
「シンジ大丈夫? あのおばさんねー、力の加減を知らない馬鹿なの。
だから、体中、皺だらけなの!
そんな人の前で寝たら、シンジのエキス吸い取られちゃうよ!
起きて!!皺だらけのシンジなんて見たくないの。」
涙を流しながら、必死にシンジへと呼びかける。見様によっては、美しい展開だが、
後ろのほうで沸きあがる「ゴゴゴゴゴゴ」という音が台無しにしていた。
「うっ・・・うん。大丈夫・・・。僕はあんな年増に吸い取られたりしない・・・逆に吸い取って見せるよ」
寝言で危ないことを口走るシンジ。「くはぁぁぁぁ〜!!!」という声が聞こえているあたり、
後ろのほうでは順調に殺気が増し続けているようだ。
そんなことを10分ほど、やり続けて、目を擦りながら起きたシンジがみたもの・・・それは・・・
遠くから聞こえてくるアリスが泣き叫ぶ声と、般若の顔をし、愛用のナイフを削っている雫の楽しそうな後ろ姿であった。
「まさか、こんなことになるとわね・・・」
母国に帰還する飛行機の中、キャメルは小さく呟いた。
カヲルの死は、もちろん、アメリカ支部にも伝わり、使徒襲来中にも関わらず、急な帰国命令が出たのだ。
「・・・これから、どうなるのかしら・・・」
ケリーは泣きつかれて、寝てしまったアギーの頭を撫でながら、返事を返す。
人一倍、カヲルに懐いていた?アギーは死んだという事をなかなか受け入れる事ができずに、
こっそりと忍び込み、死体を見てしまっていた。
その時の泣き叫ぶ様子を見ているケリーとキャメルにとって、傷が癒えない内にの帰国命令には反対だったのだが、
明け方、唐突に訪れた人物によって、状況は一変した。
「この子連れて、アメリカに行って。素質はきっとあるから。なくてもなんとかして。3人でチーム組んで。ケリーちゃんと上と掛け合ってね」
というカタコトみたいな言葉を話し、有無を言わさず、消えてしまった人物。
それは、言わずとも知れたシンジなのだが・・・・。
そんな経緯があり、今、この三人は飛行機に乗っているのだ。
「本当にこの子使えるの?死神の言う事だから、間違いはないんだろうけど・・・」
日本の使えないチルドレン・・・しかも、2軍に属してるとあっては、作戦部リーダーのケリーとしては、不安は否めない。
「まっ、何とかなるわよ。どちらにせよ私たちにはどうすることもできない相手が敵なんだもの。
私は今まで以上の練習を、ケリーは作戦パターンを増やして待っていれば、文句は言われないでしょ?
あの子には、とりあえず、アメリカに慣れてもらわなきゃ。向こうでは私たちみたいに日本語話せる人なんて、いないんだから。
まずは、語学ね。猶予期間は1ヶ月・・・。それまでに形にしなきゃ。」
顔が段々とスパルタ教師みたいになっていくキャメル。どうやら世話好きっぽい。
そんな様子を見て、ケリーはため息をついた。
先はものすごい不透明なのだ。死神さえ歯が立たない敵・・・。それが、何を意味しているか分かっている。
「いつ世界は終わりを迎えるのかしら?」
ぼそっと自分自身に確認をとるように、小さく言葉を発した。
猶予期間・・・そんな事、MAGIがユイさんの性格を踏まえて、出した推測であって、
答えではない。これから、毎日、びくびく暮らすのかと思うと、げんなりとする。
とりあえず、したいことをしよう。我慢していたって、未来がどうにかなるわけじゃないのだ。
というか、未来があるかどうかさえ分からないけど・・・
「私が悩んでるというのに、こいつはお気楽に寝ちゃって。」
こんな状況なのに、眠り続ける死神が連れてきた女の子。どうやら、度胸だけはある。
期待してもいいんだろうか?
はずれじゃないことだけを祈ろう。今の私にできることは少ないのだから・・・。
フカフカするチルドレン専用機の椅子に寄りかかると、ため息を1つ、つき、瞳を閉じた。
「ユイ様、紅茶お持ちいたしました。」
「あらっ?ありがと、時雨。ところで、姿が見えないようだけど、神楽はどこにいったのかしら?」
どこかの王様のようなゴージャスの部屋の中、ユイはバスローブのみを羽織り、優雅にくつろいでいる。
「はい。神楽はドイツへと行っております。ユイ様のご子息の目撃情報が入ったものですから。」
時雨はユイの隣に腰掛け、自らも紅茶を飲みながら、答える。
「シンジが見つかったの?良かった。親子の語らいがまだ足りないと思ってたのよ。
ちゃんと連れてきてね♪」
「いやっ、それは、ここの場所があるんですから、無・・・いやっ、なんでもないです。
ちゃんとつれて来ます。」
無理と言おうとしたところを、殺意に満ちた目で睨まれ、無茶な約束をしてしまう時雨。
また、眠れないよ・・・気分が落ちていくのを感じる。
「私はそろそろ寝るわ。あの計画ちゃんと支部長に話しておいてね。
ここのチルドレンも借りたいから。」
そういい残して、部屋を出ていくユイ。
自ら仕事をする気は毛頭ないらしい。
「いいですよ。あなたのためなら・・・・」
どこかのメガネオペレーターみたいな言葉を呟き、時雨の姿はその部屋から消えた。
水の入ったコップに絵の具を垂らし、生まれた波紋の渦。
ユイというその絵の具は、世界にどんな色を与えるのだろうか?
悲しみの色なのか・・・喜びの色なのか・・・それは、分からない。
渦が止まり、交じり合ったときに分かる事だろう。
すべてはその時間に・・・
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
hot−snow様より「それぞれの天気」の第十五話を頂きました。
今回、幼女(アリス)とオバハン(雫)の正体が明かされましたね。
幼女はシンジ君がお気に入り(笑)、オバハンはオバハンらしからぬ可憐な名前(汗)・・・なかなか濃い方々のようですね。
さて、シンジ君の特訓が始まりました。
無事パワーアップして、雪辱を果たして下さいね!
キャメルたちは失意のうちに帰国の途に着いたし・・・暫くは会えなくなりますね。
アギーには化けて欲しいものです。そしてカヲルの仇をとらせてあげたいですね。
結局、ユイは何をやらかそうとしているのでしょう?
ゲンパパはゲンパパで、このシリアス時に何やら怪しいことをしているし(笑)、・・・どうなるんでしょうね?
さて、物語は佳境に入ったと思うのですが、ミサトの出番はもうないのでしょうか?(汗)
まだギリギリ死んではいないんですよね?じゃあ、まだまだ甚振れるのでは?(笑)
でもまあ、チルドレンたちはもう彼女の手駒にはなりえないでしょうし、ここらへんが潮時なのかなあ・・・。
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう♪
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