「ピッ、ピッ、ピッ・・・・」

正確に鳴らされる音・・・レイが生きている事を教えてくれる音・・・。

そんな音さえ邪魔だと思う僕。



「碇さん・・そろそろ本当に寝てください。このままじゃ、碇さんの体が・・・」

この音はもっとうるさい。

僕の体?

壊れるって何?

笑わせないでよ。

こんなんで壊れるわけじゃん。



「もう、3日も寝てないんです。お願いしますから。」

まだ言うの? 不快だよ・・・。

おもむろに立ち上がる。

その様子を見て、コイツは何か安心してるみたいだ。

ははっ、バカじゃねえの?

お前は今から、この僕に殺されるんだよ。


「ひっ!」

僕の目に気付いたみたい・・・。

でも、もう遅いよ。

腕を振り下ろす。

目の前で朱に染まる空間。

ああ、綺麗。

カヲル君にも見せてあげたかったな。


「ははっ・・」

何がおもしろいか分からないけど、笑い声が漏れた。

何が楽しいんだろ?

「分からないや。」

また椅子に座りなおし、包帯だらけのレイを見続けた。

重症だけど、彼女は生きている。


どうやら、カヲル君が命がけで守ったらしい。

きっと、その選択に彼は後悔なんてしてないんだ。

だから、あんな安らかな顔で・・・眠ったみたいに・・・赤に染まり死んでいたんだ。

でも、彼を殺したのは僕・・・自己満足に付き合わせた僕・・・

だったら、償いをしなくちゃね・・。



「レイ・・・早く起きて・・・僕等も行かなくちゃ・・。」

カヲル君、少しだけ待ってて。

責任を取り次第、そっちに行くよ。

また笑い会おう・・・。



窓から見える空は曇ってて、太陽は見えなかった。










それぞれの天気

第十四話 〜停滞する感情〜

presented by hot−snow様











「お久しぶりです。キール議長」

「ああ。碇も変わってないようだな」

幾分、やつれたような顔で、来客を迎えるゲンドウ。

目の下にはっきりと見える黒い線はここ最近の寝不足を表していた。

その様子にキールは顔を曇らす。



「碇、今回の事件はお前のせいじゃない。シンジ君もそんなことは分かっているはずだ。

ちゃんと休め」

心配そうに声をかけるキールだが、ゲンドウはクビを横に振る。

「今回の事はすべて過去とリンクしている。責任は私にあります。

ユイに操られていたなんて、言い訳にもなりません。シンジを苦しめた結果がこれだ。

渚君を死に追いやり、シンジは心に大きな傷を負った。

どちらかと代われるものなら、代わってあげたい。あの子達はもう充分に苦しんだのに・・・。」

最後は涙が溢れ、声にならない。

だが、ゲンドウと同じ心境のキールには、声は届いていた。



「それを言うなら、私とて一緒だよ。むしろ、状況を分かっていながら、彼らを送り出した私のほうが罪は重いだろう。

孫達のように愛していたのにな・・・。なんで、こんな事態に!」

机を思いっきり叩く。

手にはめている手袋には、血が滲み、床に滴る。

しかし、そんなことを気にしていないように、何回も、何回も叩いた。

「キール議長・・・」

その様子をゲンドウはなんとも言えない表情でみつめる。



「なんと詫びればいい?どんな言葉をかけてやればいいんだ?

どうすれば・・・あの子を楽にしてやれる?私には分からんのだ・・・。」

血だらけな手を組むと、大きくうなだれる。

そこには、ゼーレ会長の威厳はなく、ただ傷つき、年老いた、1人の人間がいた。



「シンジは・・・今・・不安定です・・。我々にできる事と言ったら、ただ見守る事だけ・・。

他には何もない。」

「今はそっとしといてあげよう。

もう少したてば、ユイのことが世界に知られるだろう・・・。

その時まではせめて・・・静かに心を癒す時間を・・・。」



2人の願いが届いたのか?

この後、レイの病室にたどり着けるものはいなかった・・・。

傍らに堕ちている死体にも一切、興味を示すことなく、

長い間、シンジはレイを見守ると、明け方、静かに姿を消した。




















「一週間か・・・。」

「えっ?何が?」

「センセ達が、いなくなってや」

気だるさに包まれる放課後、トウジとケンスケは校庭を見つめながら、会話をしていた。


「う〜ん、本部でも見かけないし、どこに行ったんだろうな?」

「確かに、どこかいっとるだけかもしれん。でも、何かあったんちゅうことは間違いないで。

お前もセンセの叫び声聞いたやろ?」

「・・・ああ。」

トウジの言葉で思い出したのか、ケンスケは大きく顔を歪めた。

聞いてるだけで、狂いそうな程、せつない声。

あの瞬間、絶対にシンジは壊れた。そう確信させるほどに・・・。

女の子なんかは、あの叫び声を聞いただけで涙をながし、気を失った。

ミサトだけは、嬉しそうな表情をしていたが・・・


「本当に何があったんだろうな?助けになれることがあったらいいのに・・・」

「ワイはまだ謝れてもないわ・・・。」

「とにかく、俺らは蚊帳の外ってことは、確かだな。」

腕を頭の後ろに組み、ため息をつく。


そこには、その様子を寂しそうに見つめるヒカリの姿もあった。




















「本当ですか♪」

「ああ。」

今後の対策を練るために、行われた幹部のみの説明会。

そこには、顔に後悔を浮かべ、カヲルの死を話す冬月の姿があった。


「ということは、碇司令の奥様の仲間が犯人って事でいいんですか?」

事実をすんなりと受け入れ、嬉しそうに質問するミサト。

それには、流石のリツコも顔を曇らせた。

「ちょっと、ミサト!!やめなさい。仲間が死んだのよ?何を嬉しそうにしてるの?」

「ハッ?仲間?あの餓鬼は私の足を打ち抜いたのよ。喜んだっていいじゃない?」

「あれは、あなたに問題があったでしょ?MAGIにも、ちゃんとログは残ってたわ。」

「リツコは本当に騙されやすいんだから。あれは、あの餓鬼どもが私に仕掛けた罠に決まってるじゃない。

もう、本当に、これだから科学者って駄目ね。戦闘がなんたるかを全く分かってないわ」


そう言って、ケタケタ笑うミサト。

その様子を見て、一様にミサトを睨む参加メンバー。

その顔には怒りが浮かんでいた。

「葛城君一尉・・・君は本当にそんな事を思っているのかね?」

「えっ?」

「もし、そうだとしたら、ここを出て行ってくれたまえ。君みたいなものはNERVには不要だ。

消えてくれ」



冬月は静かにそう告げる。

だが、心ではミサトを何十回とボコボコにしていた。

「はいっ?何を怒ってるんですか?副指令。

私が不要?権力で有能なものを切り捨てるんですか?NERVは!!」

「馬鹿言っちゃいかん。君は間違いなく無能だ。死んでくれても構わんよ。

今回も君が死ねば良かったのにな・・・。」

恐ろしい台詞を、しみじみと呟く。

その様子は間違いなく本心をいってることを伺わせた。

「なっ!!!」

思わず立ち上がるミサト。

「皆も何黙って聞いてるのよ。これは、権力の横暴よ!!!」

「・・・・・」

周りに必死に訴えかけるが、皆は顔を見合わせ、嘲けるように、笑いあう。

そんな事態を予測してなかったミサトは一層、ヒートアップした。

「ふざけんじゃないわよ!!あんた達。誰のおかげで行きてられると思ってるの?

あたしの指揮があったからじゃない!恩で仇を返すってこの事よ。」



「うるせえよ!無能女!!!!少なくとも俺がここにいれるのは、お前なんかのおかげじゃない!

渚君のおかげだ。彼はお前なんかより何千倍も有能で、俺達を守ってくれてたんだ!

今回の事にしたって、彼が俺らを止めてくれてなかったら、保安部は全滅していたんだよ。」

あまりの勘違いに声を荒げる保安部のトップ。

「あらあら?今回の騒ぎで、役職が1つ繰り上がった上田君じゃない。

渚君のおかげで、あなたは死ななくてよかったわね。」

「ミサト!!!!!やめなさい!!!!」


人の死をからかいの材料にするミサト。

膨れ上がる気に、危険を感じたリツコは思わず叫んだ。

「貴様!!!お前なんか・・NERVに、いやっ、人類には必要ない!!!殺す」

「確かに。あの女は邪魔だな。能力もないくせに、偉そうなんだよ。殺してしまえ」

「そんな女、死んだところで困らないから、全然構わない。」

口々に保安部を支持する各課のトップ達。

「嘘でしょ?ねえ、やめてよ・・。」

壁際に追い詰められていくミサトを見て、リツコは慌てて、冬月に目を向けた。

「副指令止めさせてください」

半狂乱に騒ぐ。しかし、冬月は・・・ニヤッと微笑むと、静かに口を開いた。



「許可する」



一時間後、医務課に運ばれてきた女性。

外傷は特になく、両腕が反対側に曲がっている程度・・・しかし、その目は何もうつしてはいなかった。

明らかな精神的な拷問の跡があり、医師は何事かと思ったが、事情を聞くと、軽く微笑み、治療もせずに、廊下へと放り投げた。





邪魔者がいなくなった会議は、着々と進み、1つの策を打ち出した。

「現統治者を中心としたチームの編成」

そのためにドイツからキールは訪れたのだった。




















その頃、シンジはキールとは入れ違いにドイツにいた。

何十にもロックされた扉を1つ、1つ、開けてく。

すると、いきなり開かれる視界。

「お待ち下さい。許可書を。」

最後の扉の前には、警備員が立ち、シンジを押しとめる。

そこで不幸だったのは、有能な能力者とはいえ、つい最近、雇われたため、シンジの事を知らなかった事。


「ジュッ・・」

次の瞬間、彼は水蒸気の如く、嫌な音をたて、この世から消え去る。

後悔の時間さえなかった。

そんなことを一切気にしてないように、シンジは最後の扉を開いた。

そこには、壁に寄りかかったまんま器用に眠る小さい女の子の姿と、シンジをおもしろそうに見つめるおばさんの姿があった。





「待っていたわ」










To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

hot−snow様より「それぞれの天気」の第十四話を頂きました。
執筆がメチャメチャ早いです。昨日の今日ですよ?
今回もシリアス調ですね。
おお〜、レイが生きてましたぁ〜♪カヲルが守ってくれてたんですねぇ・・・泣ける逸話ですなぁ。
前回、彼女の死亡を断定するかのようなコメントをして、ゴメンなさいね。
でも、カヲルは本当に死んじゃったんですよねぇ。アギーの悲しみも一入(ひとしお)でしょう。
なんかシンジ君は凄味が増しているし・・・。
レイの病室で、とばっちりを食って殺されたのって一体誰でしょうね?名もなきナースかな?
しかし、なんかネルフもゼーレも、皆、良い人になってますねぇ。・・・ミサト以外は(笑)。
ミサト、いい気味です。ザマーミロです。
しかしどんな酷い目にあったのでしょうかね?それに精神的な拷問って?・・・うう、ちょっとだけ知りたいかも。
ふと思ったんですが、冬月もユイへの未練がキレイサッパリに消えているんですよねぇ。
あれほど彼女に執着していたというのに。・・・きっと呪縛が解けたんでしょうな。
最後に出てきた女の子は誰でしょうか?
もう一人の"統○者"である"お○様"?
側に控えるご婦人は彼女に仕える"管○者"の一人?(あー管理人の妄想なのでお気になさらずに)
・・・うーん、イマイチ謎ですが、この辺は次話で明らかにされると思うので、楽しみに待ちましょう。
シンジ君、早くパワーアップして下さいね♪(さあ今こそ超神水を飲むとき・・・ゲフン、ゲフン)
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう!!
作者(hot−snow様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで