「母さん、やっと出てくるんだね・・・。心待ちにしていたよ」

目の前で、だんだん紅を帯びていくコア。なんだか、血の色みたいで気分が悪い。

「こんなふざけた世界にはうんざりしてたんだ。

殺し合いをしようよ・・・いいだろ?」

きっと目の前の女性には聞こえてる。そう想いながら声をかけた。

不安を押し殺すように、

懐から、赤マルを取り出し、火をつける。それを、限界ギリギリまで深く吸い込むと、息を止め、

体にじっくり馴染ませた。

「これが最後の一服になるのかな?」

膨れ上がっていく力を目の前にし・・・僕は、自らを死刑囚とダブらせた。









それぞれの天気

第十三話 〜執行〜

presented by hot−snow様











「神がもし存在するのなら、レイとシンジ君を守っておくれ・・・」

これから始まるだろう戦いの前に、僕は初めて神に祈りを捧げた。

いるのか、いないのか、はっきりしないものだけど、今だけは信じよう。そう思っている。

もしいて、願いが叶ったらラッキーだしね。

今、ここに向かっている敵は間違いなく僕らより強い。

離れているのに、分かるのだ。もっと近づいてくれば、はっきりとしたものになる。

レイはまだ気付いていないのだろう。

のほほんとしてるし・・・寝かけてるし・・・・

でも、そんな様子を見せる君を愛しいと思うよ。

だから、守れるように頑張ってみるさ。

君とシンジ君との約束さえ守れれば、死んでもいい。

本気でそう思っているからね。










「シンジ・・・怖いよ・・・」

そっと頭の中で呟く。

こうしている間にも、何者かが迫ってきてるのが、分かる。

本当に怖い。

こんなに怖いなんて、シンジを失いそうにならない限り、ないと思ってた。

でも、違うんだね。

私の死んだ世界・・・シンジがいない世界・・・カヲルのいない世界・・・

そのすべてが今では怖いんだ。

だから、私は諦めないで、戦う。

さっき、シンジが言ってくれた、「すべてが終わったら、3人でどこかで暮らそう」っていう言葉、本当に嬉しかった。

本当にありがとう。

あっ、そろそろ来る・・・。

もう時間がないから、もう一度だけ言うわ。

「本当にありがと。またね。」
















「レイ。僕もだよ。」

離れた場所から聞こえてきた言葉。

それだけで、なんか力が沸いて来る。

「しっかりしなきゃな・・・。ねえ?母さん?」

「あら?気付いていたの?」

後方から聞こえてくる言葉。懐かしさ半分、憎さ半分って感じ。

「久しぶり。狂おしいほど会いたかったよ」

「嬉しいこと言ってくれるわね。シンジも大きくなったことかしら?

その様子なら、すべてに気付いてるようね。何か聞きたいことでもある?」

ええ。たくさん。でも、子供のわがままなんて言えないし、無難な所から聞くしかないだろうな。

「何で?こんなことしたの?」

「う〜ん、特に理由はないわ。強いていうなら、暇だったからかな?」

「それだけの理由で、僕等を苦しめたの?」

「苦しめた?私が?あははははは・・・」

「何がおかしいのさ?!」

なんか、母さんってムカつく。笑うなよ。

「こうなったのは、シンジ・・・あなたが弱かったからでしょ?」

「えっ?」

一瞬、何を言われたか理解できない。

「あの時、周りを傷つけたのは、あなたでしょう。

そして、願うことを拒絶したのもあなた。私は仕方なしに願っただけよ。」

「どお・・いう・・ことさ?」

理解することを脳が拒絶する。

「今、あなたがしていることも、今までしてきたことも、すべて自己満足。

この事態はすべて、あなたの過去の弱さからなっている事象。

現在の世界は確かに、私の願いだけど、もし、あの時私が願わなかったらどうなっていたと思う?」

「・・・分からないよ・・・」

見たくないものが、目の前に溢れる。

「嘘つきね〜。本当は分かっているくせに♪

実際、その世界を、シンジは見たはずよ。逃げるのは感心できないわね〜」

赤い赤い・・・海・・・

隣には無人のプラグスーツ・・・

「・・・あれが僕の願い?」

「そうよ。すべてを拒絶し、自らの殻に閉じこもった結果。

もし、あの時、あなたが、みんなの幸せを願えば、こんなことにはなっていなかったのよ。

それなのに、母さん1人の責任にするの?悲しいわ。」

「・・・・・・」

「あら?今度はダンマリ?」

追い詰めてくる母さん。なんか、3年前みたいだ・・・。

逃げていたことを見せられるのは辛いよ。

「あらあら?せっかく13年?14年?ぶりの再会なのに?」

「・・・・・う・・」

「はいっ?」

「うるさいって言ったんだよ。母さん」

満面の笑みで答える僕。

なんか、嫌な性格。結局、逃げるんだよね〜僕って。

また仮面をかぶってる。

「母さんに向かって、なんて言葉遣いなの?この子は全く!!

躾が足りなかったかしら?」

「じゃあ?躾すれば?つーか、もうすべてがめんどくさい!!殺しあおう?

あなたが死ねば、すべて解決する問題さ。過去の僕の責任というなら、ここで責任をとるよ。

息子からのお願いだよ。死んで?」

ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃない。

カヲル君とレイと約束しているんだ。考えるのはそれからでいい。

「・・・そうね。それがあなたの望みなら。まっ、戦ってあげる。

後悔しないようにね♪」

母さんの笑顔と共に、膨れ上がる存在感。

やばっ!

僕死ぬかも?そんなふざけた考えが頭をよぎった。













「碇、本当にいいのか?」

「ああ。シンジの願いを断るわけにはいかん。」

レイやシンジの緊迫ムードとは、また違う緊張感に包まれている司令室。

そこでは、かかってくる電話に対処しながら、事態を静観する2人の姿があった。

「しかし、シンジ君から聞いた話が本当なら、ユイ君には勝てる保障がないぞ!

使えなくても、葛城君の要請を聞き、チルドレンを出した方がいいんじゃないか?」

「いやっ、彼らはむしろ邪魔だ。引っ込んでいてもらおう」

全く聞く耳を持たないゲンドウ。冬月の苦労もひとしおだ。

「お前がそう言うなら、仕方がないが。」

その会話が終わると、また司令室は無言になる。

そして、ゲンドウは、先程よりも強く手をギュッと握ると、心の中で思った。

「シンジを傷つけたら、どんな手を使っても、ユイ・・・貴様を殺す」と・・・


















「ちっくしょー!!あのバカ司令共が!!」

プツっと強引に切られた電話を、床に叩きつける、ちょっと焦げたミサト。


少し香ばしい・・・・。


「ミサト!また出撃許可でないの?」

「仕方ないじゃない!!ドアが開かないし、許可が下りないのよ。

なんか、邪魔になるとか言われたし、私にどうしろっていうの?!」

「そこをなんとかするのが、作戦部長でしょ?ほんと資料通り無能なんだから。」

「なんですってー?」

「なによ?!」

お互いのイライラをぶつけあう。

聞くにも耐えない罵り合いが始まり、控え室のなかを響き渡った。


そんな中、他のチルドレンは、床に座り込み、一様に不安な顔を見せる。

「シンジ達大丈夫かな?」

「そんなんわからんわ。まあ、アイツの事や。助けてくれるやろ。」

「勝手だな。」

今までの態度を省みず、シンジに頼るトウジに思わず、きつい言葉をかけるケンスケ。

その様子を見ていた女性チルドレン達が、思わずフォローしようとしたとき、トウジは意外な言葉を返した。


「ああ。分かっとる。ワイは何もできへん。この前のことでようわかったわ。

3年前から助けてもらってばっかりや。なんで、センセを憎んでたかさえ忘れてしもうた・・・。」

「トウジ・・・。」

そこにいたのは、抜け殻のような1人の少年だった。

縋るものなくしてしまったかのような。

ケンスケはため息を1つ吐くと、落ち着いた声で、

「シンジが帰ってきたら、ちゃんと謝れよ?」

「ああ。殴ってでも、もらうわ。」


















攻撃を紙一重でかわし、シンジはユイを見上げた。

「母さんも趣味悪いよ。殺せるなら、早く殺せばいいのに?」

息をゼエゼエと吐き、苦しそうに言葉をつむぎ出す。

その様子を満足げに見つめ、ユイは楽しそうに言葉を発する。


「変ね〜、確実に決まったと思ったんだけど、少しずつ、ずらされているのよ・・・。

これは、シンジの能力に関連してると思っていいのよね?」

「さあ?母さんの攻撃も能力分からないけど、必殺技かなにか?」

お互いの目を見つめ、話し合う。


しかし、シンジは苦しそうにうめき、ユイは最初から一歩たりとも動いていない。

力の差は歴然だった。

おいおい・・・、統治者ってこんなに強いのかよ。

姫くらいしか対抗できないんじゃないの?

心の中で、力の不条理さを嘆きながら、なんとか、突破口を探る。


「さあ?攻撃はどこから来るのでしょう?」

「ちっ!」

全くもって、不快感な謎々を出される。

素早く右へステップし、交わしながら、同時に攻撃を放つが、ユイのガードへと吸い込まれた。

打つ手なしだね・・・。こりゃ。


「またかわされた。もしかして、シンジ見えているの?」

「さぁてね?それ、そんなにすごい技なの?」

本当に驚いているのだろう。

初めて笑顔じゃない、表情を見せながら、シンジへと尋ねた。


「当たり前よ。セカンドインパクト前の話だけど、誰にもかわされたことはなかったわ。」

「ははっ。能力者も増えたし、質が上がったんじゃないの?」

追い詰められてもなお、軽口を叩く、シンジ。

「その能力、見極めたいけど、そろそろタイムアップみたいね」

なんともいえない表情を残し、シンジに背を向ける。

その様子にやっと、シンジもこの空間に異質なものがまじっていることに気付いた。


「ユイさま、お待ちしておりました。」

「時雨に神楽、ご苦労様」

「さあ、参りましょう」

いつの間にかユイの近くに現れ、シンジのことなど、眼中にない。

「おいっ、待てよ!」

その声でやっと気付いたかのように、振り返る。


「始末致しますか?」

「いやっ、いいのよ。」

「はっ!」

ははっ・・・冗談じゃねえよ。

「こっち、向けよ!!!クソユイ!!!」

叫ぶと同時に攻撃を繰り出した。

しかし、息がいきなりできなくなり、目の前の光景がめまぐるしく変わる。

「ドンっ!!」

「かはっ・・・」


床に追突したとき、初めて自分が吹き飛ばされたことが分かった。

衝撃に肺の中の酸素が吐き出され、苦しい。

どこからか、血の味さえ感じる。

「お前みたいな小童が、汚らしい。」

明らかな見下した目。


あぁ・・・3年前から何も変わっちゃいない・・・。

成長したなんて、勘違いって事かよ・・。

「さっきの餓鬼2人といい、生意気だ」

「・・カヲル君にレイ?」

「ああ。そういや、そんなこと言っていたな」

「おい、もういくぞ」

「ああ、すまない。じゃあな、小僧。あいつらがもし生きていたら、あいつらにも伝えてくれ」


そういい残すと、残像のように、消え去る三人。しかし、シンジはもうそこを見てなかった。

シンジは鉛のように重い体をなんとか、起こすと、カヲルとレイのもとへ向かう。

嫌な胸騒ぎが止まらなかった。

確かこっちの方で、声が聞こえた。お願いだから、1人にしないで・・・

長く長く感じた廊下を曲がると、青い髪が目に入る。

「よかっ・・・・」

目の前の光景に言葉が止まった。

「ピチャピチャ・・・」

血が一滴一滴、血だまりへ流れ落ちる。

「あぁぁ・・・」


ユイの言葉が頭へ浮かんだ。

自己満足・・・その結果・・・

カヲルとレイは重なるように、倒れていた。

最後まで追い縋ったのだろう、体を引きずった後が見える・・。

止まらない血・・・流れ続ける血・・・。

狂う・・・

狂う・・・

自分だけの世界。



「あぁぁっぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」



シンジの絶叫が、館内中に響き渡り、戦いは終わった。










To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

hot−snow様より「それぞれの天気」の第十三話を頂きました。
今回はかなりシリアスでしたね。衝撃の回でした。
レイとカヲルの亡骸(?)を前に、慟哭するシンジ君・・・。
この悲しみを乗り越えてスーパーシンジUへと変身して下さい♪
しかし、レイとカヲルは本当に死んじゃったのでしょうか?
やはり前話の巻末にあった「死体」とは、この二人のことだったのでしょうか?
今回、シリアスな遺言シーンもあったし、シンジ君の悲痛な慟哭シーンもあったし、今さら「実は生きてました♪」というオチはないでしょうから、やはり二人は死んだと考えるのが妥当なのかも知れませんね。
とても残念ですが、ストーリー上、必要な措置だったのでしょう。作者様のご意思を尊重したいと思います。
二人のご冥福を心よりお祈りいたします。合掌。・・・でも、万一生きていたらゴメンなさい!(汗)
・・・あれ?じゃあこのお話、マナがヒロインとか!?
さあ皆さん、作者様に感想メールを書いて、次作を催促しましょう!!
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