悠久の世界に舞い降りた福音

第三十一話

presented by ジャック様


 シェバトの技術によって改良されたユグドラシル3世。その機能は空を飛べる事だった。大空を翔るユグドラシル3世は、マルーの故郷であるニサンへと向かう。

 そしてガンルームでは作戦会議が行われていた。

「ちぃっ! シャーカーンの野郎・・・俺達がいない間にニサンへ攻め込みやがって・・・」

「いないから攻め込んだんでしょう?」

 憤慨するバルトに対し、シンジが冷静に返す。事実、鬼のいぬ間に何とやらなのだが、バルトはそこまで冷静になれない。

 何しろニサンは彼にとって第二の故郷であり、従妹のマルーが生まれた場所でもあるのだ。そして、あそこは代々、アヴェの王族とニサンの大教母の一族が眠る霊廟があった。

「まず間違いなく市街はシャーカーンの兵達によって占領されてるでしょうね」

「でも変じゃないですか?」

 シタンの意見にシンジがふと疑問を口にし、皆が注目する。

 シンジは言った。前のアヴェ奪回作戦で、ゲブラーは大打撃を負って地上から撤退している。そのせいで、キスレブがいつでもアヴェに攻めれるよう睨みを利かせている。そんな時にニサン侵攻だ。地理的に、山々に囲まれ、どう見ても絶対必要とは思えないニサンを攻め込む理由が分からなかった。

「まぁ教会の陰謀がソラリスにバレて、壊滅しちゃったからシャーカーンも焦ってるみたいですね・・・と、なるとシャーカーンの狙いは一つ」

「至宝・・・」

 マルーがボソッと呟いた。皆の顔がハッとなる。シンジはニヤッと笑みを浮かべ、言った。

「シャーカーンの狙いは間違いなくファティマの至宝・・・そして、ソレはニサンにあるんですね?」

 そうバルトに問うようにすると、もう隠す理由が無いのか頷いた。だが、彼は碧玉が無いと至宝への道は開かれないと言った。

「なぁバルト。そもそも、その碧玉ってのは何なんだ?」

「あ、え〜っと・・・それは・・・」

「瞳・・・ですよ」

 フゥと溜息を零し、シンジが呟く。

「え?」

「お、おいシンジ! お前、何で・・・」

 慌てるバルトとマルーに対し、シンジは笑みを浮かべ核心を突いた。

「おおよその予想は出来てましたよ。至宝・・・つまりギア・バーラー程のものとなると、簡単に奪われる鍵じゃいけません。そうなると、あなた達特有の鍵が必要となった・・・碧玉・・・つまり碧。あなた達の目の網膜パターンです」

 こういう網膜パターンを使うような鍵はシンジのいた世界では良くあった。だが、バルト達にしてみれば、そういうのは稀な鍵なようだ。微妙な所で技術が遅れてると思わざるを得ないシンジだった。

 バルトはお手上げといった感じで「その通りだ」と頷いた。

「ああ、そうだ。シンジの言う通り、ファティマの碧玉ってのは、ファティマ家特有のトパーズブルーの瞳だ。シャーカーンどもはペンダントか何かと勘違いしてたみたいだがな」

 言って、シタンを見るバルト。以前、彼もペンダントか何かと勘違いしていたので、シタンはゴホンと咳払いした。

「でも、それじゃあ益々シャーカーンに至宝は手に入れられないんじゃないの?」

「う〜ん・・・っていうか碧玉の正体さえ分かってないっぽいしね」

「いっそ、この際にシャーカーンの真似してアヴェでも取り返すかい?」

 ふとカヲルが笑みを浮かべながら言うと、一瞬、場が凍り付いた。

「「それだ!」」

 するとシタンとバルトが同時に声を上げた。カヲルは目をパチクリとさせて二人を見る。

「今ならアヴェも手薄だろうから、ニサン組とアヴェ組に分かれて一気にシャーカーンを叩きのめそうぜ!」

「だとすると、どういう風に戦力を振り分ける?」

 リコが言うと、シタンがニサンは少数精鋭で行こう、という事になった。目的は至宝をシャーカーンに渡さない事だ。なら大人数で行くより迅速に少人数で至宝を目指すべきだそうだ。

 その意見には皆も賛成で、エリィとカヲルゲブラー基地の中を知ってるから、自然とアヴェ組になった。

「じゃ、僕はニサンに行きましょう」

「・・・私も・・・」

 シンジが名乗りを上げると、レイも言った。

「ではニサンへは若くん、シンジ君、レイさんの三人でいいですか?」

 シタンが確認すると皆は頷いた。

「若! 僕も行くよ!」

「だぁ〜! お前は毎度毎度・・・・あ、いや。そうだな。今回はお前も来てくれ」

 いつもなら喧嘩してでも連れて行かないと主張するバルトが今回は珍しく折れた。不思議がるフェイが尋ねると、シンジがバルトのファティマの碧玉は一つしかない事を説明すると納得して貰えた。

 そしてユグドラシルは、ニサンへとスピードを上げた。

 

 ニサンで降りたシンジ、バルト、レイ、マルーの四人は、街外れから、中の様子を見ていた。市街地にはアヴェの軍が入り込んでおり、あちこち巡回している。

 シンジ達は相手が雑魚ばかりなので、正面から殴り込んだ。一所で騒ぎが起きれば他の兵もやって来て、シンジ達はアッサリと市街地を占拠していたアヴェ兵達を撃退した。

「バルト様! マルー様!」

 すると議事堂の中から見知った顔が出て来た。シスター・アグネスだった。どうやら彼女は聖堂から、こちらへ避難してきたようだった。

「シスター・アグネス! 無事だったんだね!」

「はい。マルー様達も良くご無事で・・・」

 シスター・アグネスは感慨深げに言った。

「それより街の人達はどうしたんです? シスターしかおられないようですが・・・」

「他の方々は霊廟へと避難しました」

「霊廟?」

「ああ。歴代のアヴェの国王とニサンの大教母の墓だ。もし緊急の事態に陥ったら、そこに避難する事になっている。そして、そこが至宝の隠し場所でもあるんだ」

 それには流石のシンジとレイも驚いたが、まぁ先祖の霊を祭る所に至宝を隠すのはもってこいと納得した。

「それで? シャーカーンは?」

「・・・・街の人達を追って霊廟へ。そして至宝を・・・」

「何!? 何でシャーカーンが霊廟に至宝がある事を・・・」

「も、申し訳ありません!」

 すると、シスター・アグネスが深々と頭を下げて謝罪した。彼女の話では、民を人質に取られ、以前マルーから聞かされた事を話したそうだ。だが、バルト達は彼女を責めなかった。民を人質に取られて喋れなければ、その事を責めていたかもしれない。

「それに安心しろ、アグネス。奴らにファティマの碧玉は・・・」

「マルー様のお母様の網膜パターンを使うと・・・」

「な、何!?」

 流石にその言葉にはバルトも驚いた。

「ママの・・・」

 マルーも顔を青くしている。シンジとレイも、そのやり方には明らかに嫌悪感を示していた。

「あんのハゲジジィ! よりにもよって、死人の目を使うなんて・・・!」

「確かに腹立たしいですね・・・嫌悪に値するよ。嫌いって事さ」

 シンジも笑みを浮かべながらも、ハッキリと怒りを露にしている。

「若! 霊廟へ行こう!」

「ああ。シンジ、レイ、行くぜ!」

 バルトの言葉に、シンジとレイも頷いた。

 

 霊廟はニサンの北東に位置し、長い階段を降りた先にあった。そして、そこの入り口を開くと、街の人々とシャーカーンの私兵が何人かいた。シンジ達は苦も無く、シャーカーンの私兵達を退ける。

 そして、街の人達に、街は既に取り戻したと言って外に帰し、マルーの母親の棺を確かめ、荒らされた様子が無くて一安心した。

「けど変ですね・・・・シャーカーンの兵はいましたけど、本人がいないなんて・・・」

「きっと、俺達がいないと分かって安心し切ってるんだろ。それより、今の内に至宝を何とかしようぜ」

 そう言ってバルトは奥へ進む。シンジ達も彼の後に続くと、ニサンの大聖堂にあった、二体の天使像の小型版があり、入り口を固く閉ざしていた。

「若」

「ああ」

 バルトとマルーは並び、網膜パターンをサーチする機械の前に並ぶ。すると電子音が鳴り響き、扉はガコンと音を立てて開いた。

「お〜、凄い凄い」

「・・・・・・これは・・・要塞?」

 中は鉄作りで、扉や電灯などが目立っており、何処からどう見ても墓というよりは要塞だった。通路の形からして、この施設が円形というのが分かり、やがて四人はある部屋に到達する。

 その部屋は、正にブリッジそのもので、巨大なスクリーンがあり、コンソールパネルもあった。

「この要塞だったら、ギアの収納も可能だったでしょうね・・・」

「ああ・・・」

「けど、こんな巨大な施設が必要だったなんて・・・バルトさんのご先祖様は何と戦ったんでしょうね・・・?」

「さぁな・・・」

 シェバトでバルトは、自分の先祖であるロニ・ファティマが、シェバトと手を組み、ソラリスと戦ったと教えられた。だが、この設備は明らかにソラリスのものを凌駕しているとレイが言った。

「ま、歴史なんざ闇の中だよ。先へ行こうぜ」

 と言うバルトの言葉に従い先へ進むと、再び網膜パターンを図る装置があり、バルトとマルーは扉のロックを外す。そして、その扉の向こうは格納庫のように鳴っており、その先の部屋にソレはあった。

「これは・・・」

 バルトはソレを見上げて呆然となる。真紅のボディに、悪魔を模ったような翼を持ち、玉座に構える王の様に佇むソレは、間違いなくギアだった。

 そのギアの足下には石碑があり、文字が刻まれている。バルトは、それが旧ファティマ語で、読み上げる。

『汝、此処を訪れる子らに幸いあれかし、災いの大きさを案じ、我等かの遺産を封印するも裁断は汝等の腕に委ねるものなり』

 幸せを願いつつも、もし大きな災いがあり、このギアを必要とするのであれば、それを使うか使わないかの判断は、此処を訪れた者に任せると言う意味で、シンジは、バルトの先祖が、如何に立派な人物だったのか想像した。

「これが・・・・ギア・バーラー・・・」

 レイが、ギアを見上げながら呟く。神の知恵によって造られし、伝説のギアが、こうして目の前にある。バルトには何だか不思議な感覚だった。すると、パッと明かりが点き、暗かった要塞中が明るく照らされた。

「これは・・・」

「どうやら、このギア・バーラーの乗り手が来て、要塞も復活したようですね。ひょっとしたら、この要塞、動くのかもしれませんよ。このギア・バーラーを外に出さなきゃいけませんし、さっきのブリッジみたいな所に行きません?」

 そう言って、シンジ達は先程の部屋に戻る。電力が回復してるのか、コンソールはあちこちが点灯していた。

「よ〜し、いっちょやってみるか」

「若、大丈夫なの?」

「おう! 任しとけ!」

 何処から来るのか分からないが、自信満々に言うバルトは席に座るとキーを叩き始める。シンジ達はユグドラシルの艦長だから、こういう扱いは慣れてるのだろうと思った。

 すると、突然、足下が揺れ、要塞全体が上昇しているのが分かった。

「まさか、この要塞・・・飛ぶのか?」

 シンジの言葉通り、山の中にあった要塞はガラガラと音を立て、その姿を現した。スクリーンにはハッキリと景色が映り、海の向こうまで見えた。

「ひゅ〜・・・流石、ご先祖様だな」

「それよりバルトさん、急ぎましょう。こんなのが外に出たら、シャーカーンが気付いて攻め込んで来ます」

「ああ。確か、あの格納庫っぽい所の天井が開きそうだったよな・・・」

 そう言ってバルトは再び操作を始める。再び足下が揺れ、シンジは眉を顰めた。

「ん? 何か変な音が・・・」

「あ・・・」

「若? どうかしたの?」

 その時、キュドオオオオオォォォンという爆音が響き、スクリーンに一条の閃光が映った。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 シンジ、レイ、マルーは呆然となり、バルトを見つめる。

「あ、あはは・・・ど、どうかね諸君!?」

 すると、バルトは急に笑い出して言った。が、彼の顔には冷や汗がダラダラと流れている。

「いや〜、すげ〜威力だったろ!? 俺は、あの威力を見せたくて『わざと』あのボタンを押したんだよ! む!? 見ろ、あのスクリーンに映るのは、かのバベルタワーじゃないか? あんな遠くまで見えるなんて、流石は俺のご先祖様だ! わっはっは!」

「(間違えたな・・・)」

「(間違えたね・・・)」

「(・・・・お腹減った・・・)」

 約一名違う事を考えている。

「さて、と。お! こっちのボタンかな?」

「あ〜、あんまり無闇やたらと押さない方が・・・」

 シンジが注意する前にバルトは別のボタンを押した。するとガゴンと音を立てて天井の開く音が聞こえた。

「よっしゃ! これでギアを外に・・・」

【ご苦労だったな】

「「「「!?」」」」

 その時、通信である人物の声が響いた。それは、バルトにとって最大の宿敵であった。

「シャーカーン!?」

【至宝を甦らせただけ無く、中に入れてくれるとはな】

 シャーカーンの言うように、開いた天井部分からは幾つものギアが入って来た。そして最後に、足が無いシャーカーンのギアが入って来た。その姿は、微妙にストーンの乗っていた、アルカンシェルに似ていた。

「テメェ! 待ち伏せしてやがったのか!」

【幾らなんでも死体の目で鍵が開くとは思わんよ。では、ありがたく至宝は頂戴しよう】

「野郎!!」

 バルトは歯噛みして部屋を飛び出す。シンジ達も続いて、部屋を出て行って彼の後を追った。

 すると、シャーカーンの私兵達が行く手を遮るが、シンジがロンギヌスの槍で、バルトが鞭で、レイがエーテル攻撃を繰り出して全て撃退した。

 だが、相手はどんどんやって来てキリが無かった。

「ちきしょう! しつけぇ奴らだ!」

「なら・・・一気に片付けますか」

 シンジが言うと、ピタッと地面に手を触れた。そして、前方から向かって来るシャーカーンの私兵に笑みを浮かべた。

「永遠の地獄を味わいな」

 そう言ってディラックの海を展開し、シャーカーンの私兵達を尽く落として行った。あそこは、こちらの一秒が十二時間の世界だ。とても常人が堪えれるものではない。恐らく、もう既に精神崩壊を起こしているであろうとシンジはクスッと笑みを浮かべた。

「お、おいシンジ・・・今、何やったんだ?」

「ただのエーテルです。相手を異空間に飛ばす、ね。それより先を急ぎましょう」

「あ、ああ・・・」

 初めてディラックの海を見て驚くバルト達を尻目にシンジは駆け出した。







To be continued...


〜あとがきの部屋〜

アスカ「はい、チェックメイト」

シンジ「ねぇアスカ・・・僕達、将棋してるんだけど?」

アスカ「同じよ。王手もチェックメイトも・・・」

シンジ「まぁ・・・ね〜・・・」

アスカ「フェイって人、抜けるのね」

シンジ「この辺は、あの人影薄いから・・・」

アスカ「っていうか、アンタやバルトって人が濃すぎなのよ」

シンジ「そうかな〜?」

アスカ「本当よ。図太くなったわ」

シンジ「アスカよりマシだよ」

アスカ「そうよね〜。アタシだったら、まず最初の頃、フェイって人をぶっ飛ばして・・・って、何言わせるのよ!!」

シンジ「自分で言ったんじゃんか・・・」

ジェサイア「ひゅ〜。あの嬢ちゃんじゃなくて、シンジが来て助かったな、フェイ」


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