第三十話
presented by ジャック様
「ほら、シンジ! 襟が曲がってる!」
「あ、い、良いよ、アスカ・・・自分で直せるってば」
フェイ達は見た事の無い場所で見た事のない少年達の風景を見ていた。その中でも注目してたのは気の弱そうな黒髪の少年だった。
アスカと呼ばれる少女には全く頭が上がらない様子だった。≪どうなってんだ、こりゃ?≫
≪多分、一種の幻覚だと思うけど・・・≫
≪アレはシンジ君なのか?≫
顔は似ているが、髪と目の色が全く違うのでフェイ達は揃って首を捻った。
≪シンジさん、これは一体・・・って、シンジさん?≫
シンジに意見を求めようとしたが、そこに彼の姿は無かった。
≪あ、あれ? 何処行ったんだ? さっきまでいたのに・・・≫
≪あの野郎、肝心な時に姿見せねぇで・・・≫
仕方ないのであの少年達の後を追う事にした。少年達は階段を上がり、2−Aというプレートに書かれた部屋に入った。
「おはよう、カヲル君」
「おはよう、シンジ君」
教室に入ると、シンジは銀髪に赤目の少年に挨拶した。その少年を見て、フェイ達は驚く。レイ同様、カヲルもそこにいたのだ。
≪な、何でカヲル君まで!?≫
驚くフェイ達を他所にカヲルはシンジの肩に手を回して来た。
「ああ、挨拶と言うのは絆を持つ証だね。僕らの愛の重みを感じるよ」
「あはは、カヲル君は相変わらずだなぁ・・・」
間違いなくカヲルだ。
フェイ達は瞬時に思った。レイは彼女とは似ても似つかないほど明るいが、カヲルは全く同じだった。
するとアスカとレイが、シンジをカヲルから引き離した。
「ちょっと!! いつまでシンジとくっ付いてんのよ、このナルシスホモ!!」
「碇君を変な道に引き擦り込まないで!!」
「失敬だな、君達は。僕は単に友情を深め合おうと・・・」
「「愛の重みとか言ってたでしょうが!!」」
綺麗にハモって言うアスカとレイ。
「お! 始まったで、センセを巡る女と男の争いが!」
「シンジも大変だな」
「アスカも綾波さんも程々にしときなさいよ」
苦笑しながら彼らのやり取りを見るジャージの少年、眼鏡の少年、ソバカスの少女。
≪・・・・シンジだな≫
≪そうね・・・性格は違うけど、あの微笑はシンジ君に間違いないわ≫
≪だが此処は一体・・・≫
≪!? 皆さん!≫
マリアがハッとなって叫ぶと、景色が歪み始めた。フェイ達は何事かと驚いたが、次の瞬間、全ての景色が一変した。
平和だった風景が、突如、赤い世界に変化した。
何も無い赤い世界。
白い砂浜。
見た事の無い白い人型兵器が磔にされている。
≪あれは・・・レイさん?≫
そして赤い海には巨大な白いレイの顔が半分だけ、浮かんでいた。
≪お、おい、アレ!!≫
ふとバルトが砂浜に人がいたのに気付いて指差した。
そして四人は目を見開く。そこにはシンジと、アスカと呼ばれた少女が倒れていた。シンジはアスカの上に乗っかって彼女の首を絞める。
≪お、おい、シンジ! 何やってんだ!?≫
バルトが飛び出し、フェイ達はシンジを止めようとしたが、スカッと彼の体をすり抜けた。
シンジは涙を流しながらアスカの首を絞める。アスカは顔に包帯を巻き、赤い体にフィットしているスーツを着ていた。
そしてシンジの涙が頬に落ちると、彼女はスッと彼の頬に手を伸ばした。
シンジはハッとなり、アスカは静かに口を開いた。
キモチワルイ・・・。
シンジの体はビクンと震え、アスカから手を離す。ガタガタと体を震わせると、頭を抱えて絶叫し始めた。「う・・・うああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ブァッ!!
するとシンジの体から強力なエネルギーが溢れ始めた。
≪な・・・これは・・・!?≫
≪エーテル!? で、でも、こんなの・・・エレメンツより遥かに上だわ!≫
絶叫し続けるシンジ。そして彼の周りに幾つかの人影が浮かび始めた。
『乗るなら早くしろ・・・でなければ帰れ!!』
『俺は罪にまみれても、人が生きている世界を望むよ』
『これが大人のキスよ。 帰ってきたら続きをしましょう・・・』
『でも、そんなものにすら私は負けた! 勝てなかったのよ!』
『彼女と言うのは遥か彼方の女と書く。女性は向こう岸の存在だよ、我々にとってはね。男と女には海よりも広くて深い河があるのさ』
『エヴァの中で碇が苦しんでる姿を見てるからな。 碇の事をとやかく言う奴がおったら、このワシがバチキかましたる!!』
『私はアスカがどうやったって良いと思うし、何も言わないわ。アスカは良くやったと思うもの』
『乗りたいんだよ! エヴァに!』
「うあ・・・うわあああああああああ!!!!!!!!!」
シンジの体から更に力が溢れ出す。≪お、おい、あいつ!≫
バルトがシンジの体から発する力にアスカが飲み込まれて行くのが見えて指差した。
≪助けないと!≫
≪無理よ! 私達、此処じゃあ何も出来ないのよ!≫
力はやがて、アスカを飲み込んでしまった。
すると先程までシンジの周りにいた幻影が消え、一人の女性が現れた。その女性はレイを大人にした感じの人物で、優しい眼差しでシンジを見つめていた。
『生きて行こうと思えば、何処だって天国になるわよ。だって生きているんですもの。幸せになるチャンスはどこにでもあるわ』
「ちが・・・う・・・・こんなのが・・・・幸せなものか!!!」
苦しみながらシンジが吼えると、その力によって女性がかき消された。そして今度は三人の子供がシンジを取り囲う。
それは、アスカ、レイ、カヲルの三人だった。
『ありがとう・・・』
『ありがとう・・・』
『ありがとう・・・』
微笑んでシンジに『ありがとう』という三人。
「何で・・・」
『碇君は・・・私を救ってくれた』
『アンタは・・・私をエヴァから解放してくれた』
『君は・・・僕に本当の自由を与えてくれた・・・』
『『『だから、ありがとう』』』
「違う! 僕は・・・僕は・・・皆を・・・君達を・・・! ぐ・・・あ・・・うああああああああああああああああ!!!!!!!!」
シンジの体が激しく輝く。するとシンジの髪が銀に染まり、瞳が赤く輝いた。その姿はフェイ達の知るシンジそのものだった。
≪これは・・・!≫
≪はい、此処まで♪≫
≪≪≪≪!?≫≫≫≫
次の瞬間、シンジが彼らの目の前に現れ、景色が真っ白になった。
「っ!?」
フェイはハッとなって目を覚ました。
「やっほ♪ 気が付きました?」
するとシンジが爽やかに手を振ってきた。フェイはキョロキョロと周りを見ると、バルト、エリィ、マリアがベッドに寝かされていた。
「シンジ君・・・此処は・・・?」
「客間です。敵は僕が片付けときました」
「そう・・・なのか・・・」
「う・・・ん・・・」
「うぅ・・・」
「ん・・・」
やがて他の三人も起き始める。どうやら慣れない精神攻撃に四人とも気を失ったようだ。シンジは他の三人にも敵は倒したと言った。
そして沈痛な面持ちでシンジはマリアに謝った。
「ごめん、マリア。僕がアハツェンにプロトアイオーンが憑依してるって気付いてたら、君に辛い思いをさせなかったのに・・・」
マリアはその謝罪に顔を俯かせると、首を横に振った。
「いえ・・・良いです・・・気になさらないで下さい」
「あ、そ。じゃあ気にしない」
「ちょっとは気にしろよ!!」
クルッと背を向けて両手を挙げるシンジにバルトがツッコミを入れた。
「え〜? だって気にしないでって本人が言ったじゃないですか〜?」
「そこを気遣うってのが良心ってもんだろ!?」
「ふ・・・バルトさん、分かってませんね〜」
「あ?」
「小さな親切、大きなお世話ってヤツです!」
「傍若無人な性格の野郎が言うな」
ハッハッハ、とシンジは笑いながら誤魔化す。フェイとエリィはマリアを見ると、彼女はシンジを見て笑っていた。
それは決して強がりではなく心から笑っていた。きっと気にしないでと言ったのはマリアの本心なのだろう。
だからシンジはああ言い、バルトと掛け合ってマリアを楽しませている。フェイとエリィは何だかんだでシンジは優しく、自分達を手の上で遊ばせていると実感した。
「そういえばシンジ君、あの幻は・・・」
「ああ、アレですか? あんなもん、プロトアイオーンの作った幻覚ですよ。天国から地獄に突き落として精神を壊すって寸法です。まぁ僕には効きませんでしたけど。おほほほほ!」
手を添えて嫌味なオバサン笑いをするシンジにフェイ達は表情を引き攣らせる。
「でも何でレイやカヲルまでいたんだ? それに、あのアスカって奴は・・・」
「ま、昔の嫌な思い出ってヤツですよ。ところで、どうです? 昔の僕ってチャーミングだったでしょ?」
赤らめた頬に手を添えてモジモジするシンジ。何故か妙にそのポーズが恐ろしくハマっていた。バルトは腕を組んで盛大に溜め息を吐いた。
「お前、どうやったらそんな風に性格捻じ曲がるんだよ?」
「そりゃ〜・・・・うぅ、きっとバルトさんといる内に毒されて・・・」
「シンジ君、元からそういう性格だったじゃないか・・・」
目薬をポタッと落として泣くフリをするシンジにフェイが小さく呟く。
「シンジ×バルトって腐女子受けしますかね?」
「唐突に恐ろしいこと言うな!!」
鳥肌立たせて冷や汗をダラダラと流すバルトが怒鳴る。純情三人組は何の事か分からず、首を傾げた。
「まぁ僕は普通に女の人が好きですけどね」
「俺もだよ!」
「あ、そうそう。ゼファー女王や皆さんが待ちくたびれてますよ?」
「「「「そういう事は早く言え(言ってください)!!!」」」」
四人は激しい頭痛を感じながら部屋から飛び出して行った。シンジは「元気だな〜」と呟きながら彼らの後を追った。
謁見の間でゼファーは皆にまず礼を言った。
「ありがとうございました、皆さん。ジェネレーターの修理も完了し、障壁<ゲート>も従来通り展開されています。
それと、マリア・・・・良く頑張ってくれましたね。ニコラ博士のことは、本当に無念です・・・・博士をあのような目にしたソラリスを一日でも早く倒して、真の自由を取り戻さなくては・・・・・」「はい」
マリアが強く頷くと、フェイが一歩前に出て言った。
「ゼファー女王、俺達もソラリス打倒の為に共に戦うよ。
しかし、そもそもソラリスは一体何処にあるんだ? どうやったら、ソラリスへ行けるんだ?」空に浮かんでると言ってもシェバトのように今まで肉眼で確認できなかった。世界一の国なら見えてもおかしくないので、フェイは不思議に思っていた。
「ソラリスは、三つのゲートによって人々の目からその姿を隠しているのです。ゲートの一つは『教会』の地下にあるらしいのですが・・・それがギアでも、とても降りられない深さなのです。
残る二つが何処にあるのかはまだ分かっておりません。三つのゲートを破壊しない限り、ソラリスへの道は開けません」そう言われ、シンジ以外が落胆の色を示す。ソラリス出身と言っても、シタンやエリィ、カヲルにレイもゲートの場所は分からなかった。
「それと、先ほど気になる知らせが入りました。ニサンにアヴェの軍隊が侵攻したとの事です」
「なんだって・・・!? シャーカーンの野郎!!」
それに過敏に反応したのはバルトだった。
「目的は、恐らく彼の地に眠る、アヴェ王家の秘宝。ロニ・ファティマの封印したギア・バーラーです」
「ちくしょう!! こんなトコでグズグズしてられないぜ! 俺は行くぜ、ニサンに! シャーカーンの野郎の好きにさせてたまるかッ!」
バシッと拳を叩いてバルトが言うと、フェイ達は頷いた。
「そうだな。ニサンの人達を見殺しにはできない。良し、まずはニサンへ急ごう!」
「あなた方の艦には、飛行ユニットを取り付けておきました。元々は、バルトの祖先、ロニの船で使用されていたものです。遠慮なく使ってください」
ゼファーがそう言うと、マリアがおずおずと言ってきた。
「あのう・・・私もあなた方と一緒に連れて行って貰えませんか? もう、じっと待っているのはイヤなんです。動きたいんです、私も・・・・ゼプツェンも・・・・!」
「私からもお願いします。皆さん、マリアを連れて行ってやってください。この子は、幼くして運命と戦わざるを得なくなってしまった。自分なりの決着がつかぬ限り、先へは進めないでしょう。行きなさい、マリア。生きる理由を自分の手で掴み取って来るのです」
ゼファーが言うと、シンジはバッと何処から取り出したのか不明な扇子を広げてパタパタと仰いだ。
「良いんじゃないですか? ゼプツェンの中の君のお母さんもそう望んでるんだろうし」
「え?」
その言葉に皆がシンジに注目する。
「言いそびれてたけど、多分、マリアのお母さんは自分からゼプツェンの中枢回路になる事を望んでたんじゃないかな?」
「そ、それはどういう・・・?」
「ニコラ博士は研究を続けても、人質だった君と君のお母さんが解放されるとは思ってなかった。同じ事を考えていた君のお母さんはニコラ博士に『マリアを守る為のギア』としてゼプツェンの中枢になる事を願ったんだ」
「そんな・・・お母さんが・・・」
マリアは震えるが、ポフッとシンジが頭に手を置いてきた。
「君の両親はずっと君の身を案じてたんだ。良いね、両親に愛されてて。好意を感じるよ。好きって事さ」
そう言われると、マリアは目に涙を浮かべてギュッとシンジに抱きついた。
「おっと」
シンジは倒れないように彼女を支えると、ポンポンと彼女の頭を撫でる。嗚咽を上げるマリアを皆は優しく見守っていた。
「さて、そういえばシェバトの賢者の一人であるガスパールが戻って来ています。彼はカーンやワイズマンに武術を教えたほどの達人。出発前に教えを請うと良いでしょう」
確かにアヴェからニサンに行くまでに少しばかり時間がある。フェイ達は頷くと、謁見の間から出て行った。
そしてその日、シェバトの地下にあったギア・バーラーがエリィに反応したのだった。
To be continued...
〜あとがきの部屋〜
アスカ「上手く誤魔化したわね・・・」
シンジ「何の事でしょう?」
アスカ「言っとくけどね〜! アタシはアンタなんかに感謝してないんだからね!」
シンジ「はいはい」(ズズ〜)
アスカ「何、呑気に茶なんかしばいてんのよ!?」
シンジ「ふぅ・・・本編でハッチャけてると疲れるんだよ」
アスカ「だからってジジ臭いわよ・・・」
シンジ「はぁ〜・・・シェバト編も終わり。次は作者一押しの若マルの話だね〜」
アスカ「久し振りにニサンに行く訳ね」
シンジ「三十話突破。さて、後どれだけ続くのやら・・・」
アスカ「シンジ〜、アタシにもお茶」
シンジ「はいはい」
メイソン「爺の紅茶も如何でございますかな?」
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