幽☆遊☆世紀 エヴァンゲリオン 蔵馬育成計画

STAGE.05

presented by かのもの様


人工進化研究所。
蔵馬の両親が所長、副所長を勤める、研究所である。
現在、そこではある目的の為の実験が行われていた。
被験者は、綾波レイ。

「パルス及びハーモニクス問題なし……」

「グラフ正常。オールナーブリンク終了」

「リスト2590までクリア」

「絶対境界線まであと2.5」

「2.0」

「1.7」

「1.2」

「1.0」

「あ…」

オペレータを務めている大井サツキが声を上げる。

「どうしたの?」

「駄目です。シンクロ率低下。グラフも乱れています」

「……やっぱり」

副所長であるユイは、サツキからの返答に憂いの表情になった。

「……レイ、あがっていいわよ」

「…はい」

『エントリープラグ』と呼ばれるカプセルからレイが出てくるのを、ユイと所長であるゲンドウは見つめていた。

「レイ……最近、調子が悪いわね…」

「ああ…」

「何か手を考えないと…」

ここ最近続くレイの不調で、研究が進まない状況が続いていた。

「さてさて……どうしたものやら……」

これからの事に、頭を悩ませるユイであった。

 ★☆★

その日の昼休み。
蔵馬たちは、屋上で弁当を広げていた。

「やれやれ……、ミサト先生にはかなわんわ」

トウジが弁当のおかずを箸でつまみながら、嘆息した。

「今時、バケツを持って廊下に立たせるなんざ、ホンマにやらせるかいな…」

ミサトのスリーサイズを質問したトウジは、罰として、古典的な罰を受けさせられたのだ。
昭和の時代、ドラマやアニメ等でよく見られた水を入れたバケツを両手で持たされ、立たされるという罰である。
現在、そんなことをやらせる教師など、まずいないだろう。
葛城ミサト以外は……。

「……先生の対応はともかく、お前は自分の質問が拙かったことを悟れ……」

ミサトもノリが良い性格だが、それでも多少は時と場合を考える。
トウジの質問は、場にそぐわなかった。
だから、トウジは罰せられたのだ。

「シンジの言うとおり、アンタが悪いんじゃない…」

「そうよ、鈴原が先生のスリーサイズを聞いたりするから……」

アスカとヒカリにもそう言われて、分が悪いと踏んだのか、トウジは話題を変えた。

「なんや、センセ。今日も昼飯、購買で買うてきたんか」

普段の蔵馬の昼食は、母、ユイの手作り弁当である。
しかし、ここ三日間は購買のパンを食べていた。

「何かあったの?」

ヒカリも不思議に思ったようだ。

「ああ、父さんたち、もう三日も研究所から戻ってこないんですよ……。よくは分かりませんが、大分忙しいみたいですね……」

実際、蔵馬の料理の腕はかなり上手いし、母であるユイよりもレパートリーが多い……が、わざわざ自分一人の為に、朝早くから弁当を作る気にはなれないようだ。

「うちのママも。……こんな可愛い娘をほったらかして!」

アスカも不満そうに、愚痴を言った。
アスカは今時の14歳の娘にしては、母親にべったりなところがある。
俗に言う「マザコン」である。

「……ということは……」

ケンスケがある事に気付き、声を上げる。

「い…碇…!まさかお前、綾波さんと2人っきりで〜〜〜〜〜〜」

「なぬっ!」

「あっ…!」

「碇くん…!!」

ケンスケの指摘に、アスカ達もそのことに気付き、顔を真っ赤にしながら、蔵馬を凝視する。
特にアスカとしては、好きな男が他の……しかも、気に食わない……女と三日間、2人っきりでいたという事実は容認できることではなかった。

「……だったら、どうしますか?」

蔵馬は呆れながらも、少しからかう気でそう言い返した。

「と……年頃の男女が同じ屋根の下で……碇くん……不潔よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

真っ赤になりながら絶叫するヒカリに蔵馬は、冷めた口調で返答した。

「……前々から思っていたんですが……洞木さん、貴女は何様のつもりなんですか?……」

「えっ!?」

「年頃の男女が同じ屋根の下にいたら、淫らな関係になる……と、決め付けていますね……。断っておきますが、もし、例えそうであっても、貴女に文句を言われる筋合いがありますか?」

「だって、私達……まだ中学生だし……」

「だから?……」

蔵馬の冷たい視線に、言葉が出ない。

「仮に俺と綾波さんが、そういう関係になって……洞木さんに迷惑がかかるのですか?」

「だって、碇くんにはアスカが……」

「そこです!」

「えっ!?」

「はっきりと言いますが、俺とアスカは別に恋人同士じゃありませんよ……。これから先、どうなるかは分かりませんが、今はただの幼馴染みです。幼馴染み同士が必ずしも恋人にならなければならない……と、誰が決めたんですか?」

蔵馬は別にヒカリが嫌い……というわけではないが、流石に彼女の潔癖ぶりと、アスカとの関係を誤解して、こちらの行動に文句を言ってくるのは、いい加減鬱陶しくなってきていた。

「……」

「大体、何故、あなた達は俺とアスカをくっつけようとするのか……理解に苦しみます…。これは俺とアスカの問題であって、あなた方にとやかく言われる筋合いの話ではありません。俺とアスカがそのような関係にならない……とは、言いませんよ。少々、口やかましいですが、アスカが俺にとっては、大切な幼馴染みであることは変わりがありませんから……それから1歩進んだ関係になるか、今の状態のままなのか……決めるのは俺たちであって、貴女にとやかく言われる筋ではない……貴女が何を思って俺たちをそういう関係だと誤解したのかは分かりませんが……それを押し付けないで下さい……」

蔵馬の言葉に、ヒカリは何も返答出来なかった。
自分の親友であるアスカが、間違いなく幼馴染みの碇シンジに惚れているのは理解できていた。
だから、当然のことながら、シンジもアスカを想っていると思い込んでいた。
しかし今、明確に、しかも冷静に、否定されたのだ。
この先、どうなるかは分からないが、今現在は違う……と。
ヒカリはちらりとアスカの方に視線を向けた。
しかし、意外とアスカは平然としていた。
アスカにしてみれば、今のところこの幼馴染みが自分に対し、そういう感情を持っていないことは理解していた。
しかし、諦めるつもりはさらさら無く、絶対に自分に振り向かせてやる……と、無意識に決意していたのだ。

(……って、いつもいつも私は何を考えているのよ!)

この様に、我に返ると否定しているが……。

「センセ……。まさか一人でもう大人の階段を登っとんのか……」

「裏切り者……」

意味深な蔵馬の台詞に、トウジとケンスケは恨めしそうな顔で見つめていた。
蔵馬から見れば、トウジとケンスケのこの反応は滑稽でしかない。
蔵馬は、彼らが生まれる前から既に大人である。
確かに、『碇シンジ』としての蔵馬は、彼らと同い年であり、今の姿の時に女性と付き合ったことなど一度も無いが、妖狐時代においては、欲望のままに女を抱いていたのだから……。

「……フッ……冗談ですよ……。残念ながら、綾波さんも研究所ですから……」

「「「えっ?」」」

レイはこの三日間、学校を欠席していた。
風邪を引いて休むと、学校側には説明されていたが、実は、彼女は三日前からゲンドウとユイと共に研究所に出掛けて行ったのだ。

「……なんで、綾波さんが研究所にいくんや?」

「……そんなの理由は一つしかないと思うが……」

トウジの質問に、蔵馬は呆れた表情で答えた。

「綾波さんも、父さん達の研究に関わってるからだろう……。だから、ウチに居候しているんじゃないか……?」

今まで、まったく付き合いのなかった親戚を、急に預かるというのも妙な話である。
レイが、ユイの遠縁だというのは間違いないだろう。
彼女には。母、ユイの面影がある。
しかし、いくら蔵馬が親類縁者について関心がなかったにしろ、彼女のことを知らなかった。
昔に1,2度くらい会ったことがあるのかも知れないが、そこまで疎遠の親戚を急に頼って居候するというのも変である。
まあ、蔵馬が付き合いがないだけで、両親はレイとそれなりに付き合っていたのかもしれない。
しかし、家族と接する時以外の殆どを『人工進化研究所』で研究に明け暮れている2人が、蔵馬に隠れてレイと会っていたというのも有り得ない。
つまり、彼女も昔から研究所に関わっていたのではないか……と蔵馬は推理したのだ。

「………」

蔵馬が、トウジの問いに答えているのを、アスカは何か不満そうに、じっと見つめていた。

 ★☆★

――――放課後。

「シンジ。ちょっと来なさい!」

「……何の用だ?」

「いいから一緒に来なさい!」

アスカが有無を言わさず蔵馬の手を取り、引っ張っていく。
蔵馬はため息を吐きながら、それに従った。



アスカが向かった先は、近所のスーパーだった。
そこで、ジャガイモ、人参、玉葱に肉などを買い帰路に就いていた。

「……こんなに食材を買って何をするんだ?……しかも俺を付き合わせて……今日はトウジたちと一緒にゲーセンに行こうと話していたんだが……」

蔵馬はそう文句を言いながら歩いていたが、その時、アスカがぼそりと呟き後ろを向いた。

「なんで……何で黙っていたのよ?」

「……何のことだ?」

いくら明晰な蔵馬とはいえ、いきなり話を振られても理解できないのは当然である。

「あんたが今、家で一人っきりだってこと!」

「はあ!?」

どうやらアスカは今、蔵馬が一人っきりでいることを自分に教えなかったことに腹を立てているようだ……。

「………別に、俺は一人でも困らないし……わざわざアスカに教えなければならないことか?」

たかが三日程度一人で居ても、別に蔵馬にしてみれば問題は何もない。
お守りのいる年ではないし、大抵のことは一人で出来るのだ。

「……と、いうか……毎朝、ウチに顔を出しておいて、気付かなかったお前もお前だろ…。いつも母さんは声を掛けてくれるのに、この三日間母さんの声を聴いてないんだから……それに、同じ職場で働いているお前の母親も三日間居なかったんだから……それくらい推理しろよ……」

「う……うっさいわね。とにかく今日は喧嘩はなし!寂しい一人暮らしのアンタの為に、このアスカ様が夕飯作ってあげるんだから、感謝しなさいよ!」

「………どうせカレーだろう……」

「…ギクッ!な……何故、それを……」

「買ったものを見れば分かるし、お前はそれしか作れない……」

半眼で突っ込みを入れる蔵馬に、今更ながら焦るアスカであった。

「まあ、確かに一人の食事は飽きてきたし……、たまにはお前と夕食を食べるのもいいかもな…」

蔵馬の柔らかく優しげな微笑みにアスカはドキッとした。
真っ赤になりながら、蔵馬の持っている食材を半分持とうとするが、バランスを崩し蔵馬の方に寄り掛かってしまい、抱きとめられた。
蔵馬の広い胸板に抱きとめられたアスカは、更に顔を紅くさせた。

「ちょ……ちょっと!は……離れなさいよ!!」

「……倒れてきたのはお前だろ。いちいち文句を言うなよ」

照れ隠しなのは判っていたいたので、蔵馬は呆れながらアスカの体勢を整えさせた。
そう言う蔵馬自身の顔も少し紅くなっていた。
碇シンジとして生まれ変わって、身も心も人間に近くなっているため、不意にアスカほどの美少女に不可抗力とはいえ寄り掛かられれば、赤面はするようである。
しかし、それでもアスカに比べれば蔵馬は冷静だった。

「……で、覗きが趣味になりましたか?ミサト先生……」

「エッ!?」

「い……いやぁ〜ね……べ……別に除いていたわけじゃないわよ…」

アスカは驚き蔵馬に寄りかかりながら、声のする方に顔を向けた。
そこには確かに担任教師のミサトが立っていた。

「ただ、不純異性交遊の監視って奴を……」

「ほう……今のを不純異性交遊と判断しますか?貴女が俺たちを見ていたのはアスカがバランスを崩す前からでしたが……ならば状況は把握できた筈……」

蔵馬の返答にミサトはニヤリと笑いながらこう答えた。

「いや〜。イチャつきながら、歩いてアスカがバランスを崩したように見えたけど……」

「……もう呆けてきましたか……30で呆けるのはまだまだ早いと思いますが……」

「…なっ…!アタシはまだ29よ!」

「おや、では20代で呆けましたか……。大変ですね?」

「……シンちゃん…。女性に歳の事を言うのは禁句よ…」

「言われたくなければ、余計なことを言わないように……。俺は礼儀には礼儀で返しますが、無礼には無礼で返しますよ…」

蔵馬が半眼でミサトを睨み、ミサトも冷や汗を流した。

「まあ、そんなことはともかく、一緒に来てくれる。二人を迎えに来たの」

 ★☆★

蔵馬とアスカの2人を乗せた車は、蔵馬の両親とアスカの母親が勤める『人工進化研究所』に向かっていた。
実は、ミサトの行方不明の父があの研究所の設立に関わっており、ミサトもあそこの人間と幾人が知り合いであり、時々、仕事を手伝っていた。
実際、このミサト……普段の態度とは裏腹に大学時代はかなりの優等生であった……性格に難があるが……。

「うっさい!」

「何も喋ってませんが?」

「ああ、アンタたちに言ったんじゃないから……」

ナレーションに突っ込み入れるなよ!

「じゃあ余計なことを言うな!」

「ミサト先生……だからアタシ達何も喋ってないって……」

「だからアンタ達に言ったんじゃないって!」

等とやっている間に車は目的地に到着した。

「ここが人工進化研究所か?……そういえば来るのは初めてだな……」

意外な事に蔵馬もアスカも自分の親の勤め先であるこの研究所に今まで来たことがなかった。
いや、不思議ではないのかもしれない。
いくら職員の身内と言えども、色々と危険なモノがある研究所に子供を入れるわけにはいかなかったのだろう。

「それでミサト先生……俺たちは何故呼ばれたんですか?」

「それは、自分でご両親に聞いたほうがいいわ」

「………フム。綾波さんに何かあったのかな?」

レイのことを真っ先に思い浮かべた蔵馬を、アスカは面白くなそうな顔で見つめていた。

 ★☆★

研究所の内部はかなり広く、簡単な迷路のようになっていて、何度も来ている癖にミサトはすっかり迷子になっていた。
迷ったミサトに、アスカは呆れ果てた目で見ていた。

「ミサト先生……これ以上無駄に動き回る必要はありませんので、ここで待っていましょう」

蔵馬がそう言うとアスカが反論した。

「待ってるって、迎えが来るとでもいうの?けっこう歩き回っているんだから、そう簡単に見つけてもらえる筈ないじゃない!」

「もう直ぐ近くまで、父さんと母さんが来ている」

蔵馬の聴覚は常人の数千倍以上である。
元々、狐はイヌ科の動物であり、妖狐ともなれば普通の犬では聞き取れない音さえも聞き取ることが可能である。まあ、犬や狼の妖怪には及ばないが……。
故に近づいてくる人間の会話も聞き取っていた。
まあ、それ以前に2人の気配を感じ取っていたのだが……。

「葛城先生。よく来てくれました」

蔵馬の言ったとおり、前からゲンドウとユイが姿を見せたのでアスカもミサトも唖然としていた。
何故、蔵馬は2人が来ることを悟ったのか……?
しかし、そんな疑問よりも道に迷ったミサトとしては……。

(よかった〜〜〜〜)

と、思っていたりする。

「シンジ……アスカちゃんもごめんなさいね」

ユイはいきなり呼び出した二人に謝った。
蔵馬はユイの表情を見て、別にレイの身に拙いことが起こった訳ではないことを悟り、ホッとした。

「それで母さん……何の用ですか…?今まで俺を研究所に呼んだことなんて一度もなかったのに……」

ユイが蔵馬の問いに答えようとした時、その背後から気配がした。

「……碇君」

「ああ、綾波さ……ッ!?」

レイが声を掛けてきたので、彼女の方に視線を向けたが、その格好に絶句する。
無論、蔵馬の隣にいたアスカも同様であった。

「なにっその格好は!?」

「え、これ……プラグスーツって言うんだけど――――」

レイが着ているプラグスーツなるものは、彼女のバスト、ウェスト、ヒップのラインがはっきりとわかる程ピチピチしていて……少しやらしいイメージがあった。

「ほう、今行っている研究は父さんの変な趣味が入っているのですか?」

半眼で父の顔を見る蔵馬に、ゲンドウは慌てて否定した。

「な……ご……誤解だ!このスーツをデザインしたのはユイだ。決して私の趣味などでは……確かに目の保養になるなどと思わないわけではないが……いや、しかし…!って無視!?」

等と言い訳をしていたが、蔵馬は既に聞いておらず、ユイからここに呼ばれた理由を聞いていた。
詳しくは話せないが、レイにここの研究を手伝ってもらっているのだが、最近レイの調子が良くない。
メディカルチェックでも問題なく、恐らくは精神的なものだと判断したのだ。
そこで、レイの話し相手として、蔵馬とアスカの2人を呼び、レイの気持ちを解してもらおうと考えたのだ。

「まぁ、その程度のことならお安い御用ですよ……。それじゃあ綾波さん。適当にこの中を案内してくれませんか?実は俺は研究所に入るのは初めてなんですよ…」

「ええ」

レイは蔵馬とアスカに中の案内をする為、歩き出した。
ミサトも知り合いに挨拶したいとの事なので、ユイが案内を買って出て歩いていった。
その場には、ゲンドウが唯一人ポツンっと残された。

 ★☆★

一通り案内してもらい、3人は自動販売機コーナーで一休みしていた。

「やはり、綾波さんは母さん達の研究に関わっていて、その為にこの街に来たんですね…」

「黙ってて、ごめんなさい……」

何故か落ち込むレイに、蔵馬は笑いかけた。

「謝ることじゃないですよ……。オレはここの所長の息子とはいえ、部外者だからな……。研究所には研究所の都合がありますからね……。俺としても、俺達に害さえなければ、態々知ろうとは思いませんし……」

今のところ、蔵馬にはこの研究所で行われている研究には興味がなかった。
此方に不利益なことさえなければ、これからも余り関わるつもりもない。

「ありがとう」

蔵馬に買った飲み物を手渡され、レイは微笑みながら蔵馬と談笑を始めた。
そんな2人を、面白くなさそうな表情でアスカは見ていた。
そして、2人の楽しそうな雰囲気に、とうとう我慢出来なくなった。

「ちょっと馬鹿シンジ!さっきからどこ見て話してんのよ!!目つきが厭らしいわよ!!!」

と、いつもの様に絡み始めるのだった。

「………何だ、アスカ……変な言いがかりをつけてきて……相手を見ずに話すなんて礼儀しらずな行為しろ……と」

「下の方ばっかり見てないで、目を見て話せって言ってんのよ!」

アスカは、蔵馬が身体のラインがばっちりと解るスーツを着ているレイの胸や腰、お尻などを厭らしい目で見ていると言いがかりを付け始めた。

「……綾波さん…。俺の視線は君にとって不愉快でしたか?」

蔵馬の問いに、レイは首を横に振っていた。
正直、レイには蔵馬にそんな目で見られている気配など感じてもいないので当然である。

「本人がこう言っているんですから、やはり、アスカの言いがかりですね…」

熱くなって絡むアスカと、そんなアスカに冷静に対応する蔵馬。
この2人のいつものやり取りである。
いつもの如く、蔵馬に軽くあしらわれるアスカは、これまたいつもの如く、ムキになって蔵馬に文句を言う……。
その時、蔵馬は自分達に近づいてくる人影に気付いたが、文句を言うことに集中しているアスカは当然、気付いていなかった。

「ほんと、あんたたちは変わらないわね」

「み……ミサト先生…」

「いま大事な研究の最中で研究所の人たち気が立っているみたいだから、喧嘩なら外にいって好きなだけしなさい」

漸く、ミサトが来たのに気付いたアスカに、ミサトはニヤニヤしながら言った。

「止めないんですか?」

「いいのいいの、犬も喰わないって奴だから……」

「ミ……ミサト先生!な……何でアタシがシンジなんかと―――!」

いつもの如く冷やかされたアスカがミサトに喰ってかかる。
そんなアスカに、蔵馬はいつもの如く呆れていた。
何度も何度も『いつもの如く』と表記しているが、それだけ、『いつもの如く』繰り返されているのだ。
そして、からかわれて何も反撃しない蔵馬でもなく……。

「ミサト先生と加持先生も……毎日のように『犬も喰わないって奴』をやってますよね…」

「な……何言ってるのよ……シシシシシシ……シンちゃん!?」

ミサトは蔵馬からの思わぬ反撃にしっかりと動揺する。
結局、アスカをやり込めたミサトも『いつもの如く』、蔵馬に逆にやり込められるのだった。

「あははは…っ!」

そんな3人のやり取りを見ていたレイは、クラスメート達には余り見せない楽しそうな表情でで笑い始めた。

「レイのあの笑顔……。やはり3人を連れてきて正解だったわね」

「ああ」

陰から蔵馬たちの様子を伺っていたユイとゲンドウは、狙い通りレイの気持ちがほぐれているのを見て、ホッとした。

 ★☆★

「……それでは、始めるわよレイ!」

「はい…」

レイの気持ちもほぐれたので、中断していたシンクロテストが再開された。
ミサトと、本来は部外者である蔵馬とアスカも、今回は協力してもらったので特別に見学を許され、見守っていた。
プラグ内のレイは、前回のテストの時に比べ遥かに穏やかになっていた。

「第一次接続開始!」

「パルス送信」

「グラフ正常値。リスト350までクリア」

「了解。作業を続けて」

「シンクロ問題なし」

「すごい……」

いつもよりスムーズに進むテストに感嘆の声を上げる上層部だったが、その時、突然警報が鳴り響いた。

「どうしたの!?」

「分かりません!第一接続に異常が発生!」

「パルスが逆流しています!」

いきなり起こったトラブルに、門外漢であるアスカとミサトは動揺し始めた。

「接続中止!!全ての信号を遮断して!」

「駄目です!信号を受け付けません」

いきなり起こった異常事態に管制室は騒然となり、そんな今の状況に、蔵馬の瞳からいつも穏やかさが消え、鋭く見据えていた。

「綾波さん―――!!」


〈STAGE.05 NEXT〉






To be continued...
(2010.08.21 初版)


(あとがき)

コエンマ「久しぶりの更新じゃな」
ジョルジュ「今回は蔵馬さんのご両親の職場の話ですね」
コエンマ「と、言ってもまだまだ謎が多いがの」
ジョルジュ「さて次回は、窮地に陥った綾波さんはどうなるのか。そして蔵馬さんはどう行動するのか?」
コエンマ「では、これからもかのものの駄文に付き合ってくれい」



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