第伍話
presented by かのもの様
第5使徒は生物の姿ではなく、正八面体だった。飛行しながらゆっくりと第3新東京市に接近していた。
「目標は芦ノ湖を通過。」
「EVA初号機、発進準備。第壱ロックボルト、外せ。」
「解除確認。」
「了解。第二拘束具除去。」
「発進。」
EVA初号機は、ミサトの命令で地上へと、射出された……が……。
「目標内部に高エネルギー反応。」
「なんですって。」
青葉の報告にミサトの顔が驚愕を表した。
「円周部を加速。収束していきます。」
「まさか。」
リツコはその正体に気付いたが、既に遅く初号機が地上に出てしまった。
「駄目、避けて。」
ミサトの叫びと同時に、第5使徒から発せられた加粒子のビームが初号機を直撃した。
「シンジ君!!!!!!!!!」
☆ ☆
射出のGに耐えながらも、ミサトの驚愕に気付いた蔵馬は、危険を感じた。流石にATフィールドを展開する余裕が無かった為、妖気を発し自らの周りに結界を張った。
地上に出たと同時に、使徒からの攻撃を受け初号機はかなりの損傷を受けた。
「ぐっ!!!!!!!」
妖気の結界を張っていたため、エントリープラグ内に損害はない。しかし、シンクロによるフィード・バックでかなりの激痛が蔵馬を襲っていた。
「戻して、早く。」
ミサトの指示により、初号機は再び格納された。
(今のは危なかった。危うく妖狐に転じてしまうところだった。)
☆ ☆ ☆
射出された初号機が直ぐに戻ってきた。
……ナニ……何があったの……。
戻ってきた初号機の胸部装甲版が融解していた。
「碇君!!!!!!!!」
碇君を失うかもしれない。
……怖い……これは……この感じは……恐怖……。
碇君がいなくなれば私は生きていけない。もう碇司令の望みを叶える気がない私は無に還る選択をするだろう。
……死なないで、碇君。
☆ ☆
「目標、完黙。」
「シンジ君は。」
「生きています。」
日向の問いにミサトはホッとした。
「LCL強制冷却。」
「パイロットの意識ははっきりしています、軽い興奮状態が認められますが。」
「初号機との通信。回復しました。」
報告と同時にミサトが蔵馬に通信した。
「シンジ君。大丈夫。」
《大丈夫ですよ。ミサトさん。》
「……そう。よかったわ。」
ミサトは心から安堵した……が……それだけでは済まなかった。蔵馬の口調か少しきつくなったのだ。
《ミサトさん。今度という今度は言わせて頂きます。何故、いつも敵の真正面にいきなり初号機を射出するんですか。》
「……そ……そりは………。」
あきらかに怒気のこもった蔵馬の詰問にミサトは萎縮した。
《作戦において一番大切なモノは何だと思います。》
「……勘と……運。」
《馬鹿ですか貴女は。作戦に必要なのは、正しい情報と冷静な判断です。無策に敵の前に初号機を射出するのではなく牽制して、敵の情報を得る。その後、最も適切な命令を下す。これが、指揮官に必要なことです。最もこれだけが大事という訳ではありませんが。》
もはや、完全に落ち込むミサト。
《それに司令と副司令、二人にも問題があります。》
いままで、蔵馬とミサトの会話を聴いていた二人だが、矛先が自分達に向き反応した。
「どういう意味かね、シンジ君。」
冬月が尋ねる。
《作戦部長がミスをしたら、正すのが上司の役割でしょう。一般の会社なら部下のやりたいようにさせ、後に問題点を挙げることで済むでしょう。しかし、これは『人類の存亡を賭けた戦い』なのでしょう。失敗すれば人類は滅亡。、何故部下のミスのフォローもせず、そこでのほほんとしているのです。後で叱責することなど、誰でもできます。余裕の無いときは積極的に指示するべきでしょう。》
「しかし、シンジ君。こう言ってはなんだが、私も碇もプロの軍人ではない。素人が口を差し挟む必要はないと思うのだが。」
《じゃあ、そんな素人たちが司令と副司令をやっているのが間違いです。さっさと辞表を提出してください。》
息を呑む冬月。まさか、辞めろと言われるとは思いもよらなかったのだ。
《特に副司令。第4使徒との戦いの前にEVA出撃前の攻撃を『税金の無駄遣い』と言ったそうですね。》
「……うむ。確かに……。」
《さっきも言ったように、本格的に戦う前に敵の情報を知るため、主力以外の兵器で様子を見るのも立派な戦術です。……時間的余裕もあったんですから……。副司令ご自身がおっしゃったように、素人が見当違いの評価をしないでください。》
冬月が項垂れた。
「……シンジ。お前に我々を非難する権限はない。」
ゲンドウの反論が、蔵馬の怒りを買った。
《……黙れ。》
ゲンドウ、冬月の二人はモニター越しの蔵馬の眼光に青褪め、冬月などは腰を抜かしていた。
ミサトもリツコも日向も青葉もマヤも皆、凍り付いていた。18歳の少年から感じる恐怖に生きた心地がしなかった。
《下の者の意見を取り入れない独裁者がやがて破滅するのは歴史が証明しているだろう。》
恐怖で震えて反論できないゲンドウ。
《話を戻します。作戦部長の傍に参謀、副官など、有能なブレインを手配すればいいでしょう。》
「シンジ君。一応、僕が葛城一尉の補佐をしているんだが。」
日向が蔵馬に答えた。
《日向さんは戦闘中はオペレーターの仕事があるでしょう。ミサトさんのミスのフォローまでは無理です。どこかの優秀な参謀をスカウトしてきたほうが良いとおもいます。》
まったくの正論だが、できない相談だった。ゲンドウも冬月もある目的のために動いている。外部の優秀な人間ならそれに疑問を持つだろう。それ故、優秀な人物を登用するわけがないのだ。
勝手に使徒への復讐心で行動するミサトはまさにうってつけの人材だったのだ。目的の為の生贄として。もちろん、チルドレンもそうである。しかし、蔵馬は黙っているだけの生贄に甘んじるような性分ではなく、魔界一の智謀の持ち主である。ゲンドウも冬月も利用しようとする相手が悪かった。だが、この二人はまだ、その事に気付いていない。
気付いているのはリツコぐらいであった。
リツコはもはや、蔵馬を軽んじる愚を犯さなかった。
「……無様ね。」
愚かな上司と、そんな上司に従っている自分に、誰にも聞こえないよう呟いた。
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レイは初号機に駆け寄った。そして、怪我をしたようには見えない蔵馬が立っているのを見て安堵し、蔵馬に抱きついた。
「……綾波。」
「………碇君。無事でよかった。」
蔵馬は、そんなレイの頭を撫でた。
「じゃあ綾波。次の作戦が決まるまで時間がある。LCLを洗い流して、食堂にでも行こう。」
レイは頷き、蔵馬の手を握った。蔵馬は何も言わず、そのままレイを連れ更衣室に向かっていった。
☆ ☆ ☆
第5使徒の下部からドリルが出てきた。
「敵は何を始めたの。」
「ジオフロント内NERV本部に向かい穿孔しています。」
リツコの問いに日向が応対した。
「ここへ直接攻撃を仕掛ける気だわ。」
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蔵馬に言われたよう、牽制の攻撃が始まった。
初号機を模したダミーが使徒に銃を向けると光が放たれ消滅した。
「ダミー消滅。」
「次。」
自走砲が発射したレーザーは使徒に到達する前に明後日の方向に弾かれ、反撃を喰らい火柱が上がった。
「12式自走臼砲消滅。」
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作戦部では、対策会議が行われていた。
「これまで採取したデータによりますと、目標の一定距離の外敵を自動排除するものと推測されます。」
「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち。EVAによる近接戦闘は危険すぎますね。」
「A・Tフィールドはどう。」
「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています。」
「誘導火砲、爆撃などの、生半可な攻撃では泣きをみますね、こりゃ。」
「攻守ともにパーペキ。まさに難攻不落の空中要塞ね……。で、問題のボーリング・マシンは。」
「現在、目標は我々の直上。第3新東京市0エリアに侵攻。直径17.5mの巨大ドリル・ブレードがジオフロント内のNERV本部に向かい穿孔中、第2装甲版まで到達しています。」
「本部への到達予想時刻は。」
「明日午前0時6分54秒です。その時刻には22層、すべての装甲、防壁を貫通してNERV本部に到達するものと思われます。」
「あと、10時間足らずか。」
零号機は再起動には問題がないが、実戦はまだ無理というのが技術部の意見である。
「状況は芳しくないわね。」
「白旗でも揚げますか。」
日向が冗談っぽく言った。
「ナイス・アイディア。でも、その前にやれるだけはやらないとね。また、シンジ君に怒られたくないし。」
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☆ ☆
「あ、シンちゃん、レイ。ここにいたの。」
自動販売機コーナーでくつろいでいた蔵馬とレイにミサトが声をかけた。
「どうしました、ミサトさん。」
蔵馬はいつもの雰囲気に戻っていたのでミサトはホッとした。
「レイ。シンちゃんと引き離して悪いけど、ちょっち手伝ってくんない。」
レイは蔵馬の裾をつまんでいた。離れたくないようだ。
「ミサトさん。俺もついていきましょう。」
その台詞にレイが嬉しそうな顔をする。
「そうねぇ。零号機を使うからレイに頼んだんだけど、シンちゃんにも来てもらうか。でも初号機は修理中だからシンちゃんは私と来て。」
「わかりました。」
直ぐ近くにいられないのには不満そうなレイだったが、一緒に行けることは喜んでいた。
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「以上の理由により、この自走式陽電子砲は本日15時より特務機関NERVが徴収します。」
「しかし……こちらにも都合というもがあるんですよ。」
徴収礼状を突きつけられた研究員は絶句した。紙切れ一枚で大事な努力の結晶を横取りされるのだから良い気分ではないだろう。
「おあいにく、日本政府の許可を頂いておりますので、貴方の許可はいらなっ…痛っ。」
後ろから蔵馬がミサトの後頭部をはたいていた。
「ちょっとシンちゃん。何するのよ。」
蔵馬はミサトの抗議を無視し、研究員に近付いた。
「申し訳ありません。こちらの勝手で大事なものをお借りすることになります。ですが、どうしてもこれが必要なのです。どうか皆様、ご協力をお願いします。」
深々と頭を下げた。
この美しい少年の誠意ある態度に、先ほどのミサトに対する不満を忘れ研究員も気をよくしていた。
「いえ、我々の研究がお役に立つなら、喜んでお貸ししましょう。」
陽電子砲の入ったコンテナを外に出し、待機していた零号機がそれを運びだした。
「ミサトさん。あんな言い方では相手は反感を持ちます。もっと相手に気遣った対応をしてください。それと零号機をもってきたのは力づくで徴発するつもりだったんですね。そういう態度だからNERVは敵が多くなるんです。敵より味方を作らなければいつかは酷い目に遭いますよ。」
またもや蔵馬の説教をうけるミサトであった。
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☆ ☆ ☆
「EVAによる超々長距離からの直接射撃。日本国内総電力の徴発。大胆な作戦を立てたものだな葛城一尉。」
「残された時間でできる最も確実な方法です。目標のA・Tフィールドを中和せず、高エネルギー収束体による一転突破しか方法はありません。」
発令所で作戦準備をしていたミサトたちに冬月が話しかけ、ミサトが応対した。
「MAGIはどう言っているのかね。」
「MAGIによる回答は、賛成2、条件付賛成1でした。」
冬月の問いにミサトが答える。
「勝算は8.7%か。」
「最も高い数字です。」
「……反対する理由は無い。やりたまえ葛城一尉。」
いつものポーズでそう答えるゲンドウ。
「はい。」
ゲンドウの了承を得たミサトは作戦準備を再開した。
「いいのか、碇。」
「問題ない。」
冬月の疑問にいつもの返答をするゲンドウ。
「シンジ君はこの作戦をどう評価しているかな。」
「所詮、青二才だ。奴のことなどいちいち気にしなくていい。」
先ほどシンジ君に怯えていた男の台詞とは思えない……と、発令所のほぼ全員がそう思った。
碇ゲンドウは人望はなかったが、辣腕ぶりは畏怖されていた。しかし、蔵馬に睨まれて怯えていたにもかかわらず、蔵馬のいないところでは強気になるゲンドウの評価は発令所の職員達の間ではかなり下がっていた。
☆ ☆
二子山に設置された作戦部。その山頂ちかく、ぽっかりと空いた平地の真ん中に初号機と零号機が座り込んでいた。その足元にプラグスーツを着た蔵馬とレイがミサトとリツコから作戦を説明されていた。
作戦の分担。シンジ君は初号機で砲手を担当。レイは零号機にて初号機を防御して。」
「「ハイ。」」
「これは、シンジ君のシンクロ率がレイより圧倒的に高いからよ。今回の作戦はより精度の高いシュミレーションが必要なのよ。」
リツコが説明する。
「盾はどれくらい耐えられますか。」
「17秒よ。」
蔵馬の質問にリツコが答える。
(17秒。いや、理論上だろうからもっと短いと考えるべきだな。)
「私は初号機を……碇君を護ればいいのね。」
レイが嬉しそうに呟いた。
レイにとっては初めての実戦である。その最初の仕事が蔵馬を護ること。蔵馬の助けになれることがなにより嬉しいレイだった。レイにとって蔵馬はそれだけかけがえのない存在になっていた。
「他に質問は。」
「ありません。」
レイが即答した。
「う〜ん。まあ、いいでしょう。」
蔵馬が反対しなかったのでミサトはホッとした。
「時間よ、準備して。」
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「綾波。怖くないか。」
碇君が心配そうに私に尋ねてきた。
「大丈夫。」
私は嬉しくなって碇君に答えた。碇司令の偽善に満ちた心配ではなく、本当に私のことを心配してくれる碇君がどうしようもなく好きだった。
「碇君は死なないわ。私が護るもの。」
「……綾波。」
……私が死んでも代わりはいるもの。だから、この命に代えても碇君は護ってみせる。碇君は一人しかいないから。
「綾波。命を粗末にしては駄目だよ。」
碇君が優しい声で語りかけてきた。
「綾波が俺のことを護ってくれるなら、俺も君のことを護る。」
………碇君………。
碇君の言葉が私の心を暖かくしてくる。
「時間だ、行こう。」
☆ ☆ ☆
「シンジ君。……日本中のエネルギー、貴方に預けるわ。」
「……はい。」
(成功率8.7%。……フッ…ユウスケの病気が俺にもうつったか。)
「第1次接続開始。」
「第1から第803区まで送電開始。」
山中に設置された変電機がうねりを上げ始めた。
「ヤシマ作戦スタート。」
『ヤシマ作戦』。那須与一の故事に習い命名された作戦が開始された。
着々と準備か進められる中、初号機は陽電子砲を構え、体勢をとる。
「発射まで後10秒。9、8、7、……。」
そのとき使徒に変化が起きた。
「目標に高エネルギー反応。」
マヤの報告に唇を噛むミサト。
(気付かれたか。しかし……奴より先に撃てば、勝機がある。)
「撃て。」
ミサトが号令をかけるが、蔵馬は撃たない。
「シンジ君。どうしたの撃ちなさい。」
それでも蔵馬は撃たなかった。
そして、使徒が加粒子砲を発射した。
「綾波。頼む!!!!リツコさん。照準の再調整を。」
蔵馬の声に反応し、零号機が盾で加粒子砲を防いだ。リツコも再び再調整を始めた。
「……くっ。」
10秒経過し、盾が解け始め、15秒で盾は融解した。
「くっ……やはり盾はもたなかったか。しかし、やはり威嚇か。」
使徒から感じる力が先の出撃で感じた力より弱く感じた蔵馬はこれが威嚇射撃であることに気付いて先に防御する方を選んだのだ。そのお蔭で盾が消滅して零号機がその身で加粒子を受けたが、照射時間は大幅に短くすんだ。
「照準固定。」
蔵馬はスイッチを押し、陽電子砲が発射された。威嚇とはいえ、それなりのエネルギーを放出した為、再チャージに間に合わず陽電子が使徒を貫いた。
「よっしゃ。」
ミサトが歓声をあげた。
「パターン青、消滅。」
「敵、ボーリング・マシン停止。完全に沈黙しました。」
戦闘は終了した。
「シンジ君の機転がなかったら、もう少し被害がでていたでしょうね。」
勝手に作戦を変更した蔵馬だったが、それが正しかった為文句がないリツコであった。
「………。」
ミサトは沈黙していた。先ほどは使徒が倒されたので思わず歓声をあげたが、自分の作戦が完全にはうまくいかず、蔵馬にフォローによって成功したことは理解していたからだ。
「やっぱり、シンジ君からすれば、私はまだまだなのかな。」
少し悔しいミサトであった。
☆ ☆
蔵馬は後悔していた。
実は、ミサトの作戦より有効な作戦を幾つか考えていたのだ。しかし、NERVには実行不可能と判断した。蔵馬はNERVの能力をあまり評価していない。
しかし、やり直す時間がなかったし、蔵馬を護る役割にレイが喜んでいた為、ここで反対すれば、レイは自分の存在は必要ないと落ち込んでしまうかもしれなかった。
故に作戦の不備は戦闘中に修正することでなんとか成功させようと考えていた。
しかし、思ったよりも負担をかけてしまい、レイを危険な目に遭わせてしまった。
加粒子をその身で受けた為、零号機は損傷を受けていた。威嚇射撃のため照射時間は短かったがやはり無事ではすまない。
蔵馬は、零号機のハッチを初号機で引きちぎり、エントリープラグを引きだした。
急いで外に飛び出し、プラグに駆け寄った。いちいちノブを回す時間も惜しかった蔵馬は薔薇棘鞭刃でハッチを跳ね飛ばした。
「綾波っ。」
プラグ内に入りレイに呼びかけ、身体をゆすった。
「……うっ……。」
ゆっくりと眼を開けるレイ。
「………碇……君……。」
「綾波、大丈夫か。」
蔵馬は涙を流していた。レイが無事だったことが素直に嬉しかった。そして悟った。かつて、霧島マナに対して抱いた気持ちよりも遥かに強くレイを想っていることを。
「何故、泣いているの。」
「綾波が無事だったのが嬉しくて泣いているんだ。」
「嬉しいときでも涙が出るのね。……御免なさい。こういうとき、どういう顔をしたらいいかわからないの。」
「笑えば……いいさ。」
蔵馬の答えを聞き、レイはゆっくりと微笑んだ。蔵馬も微笑み返し、レイを抱き上げプラグから外に出た。
「…碇君。」
「綾波……いや…レイ。俺のことは『蔵馬』と呼んでくれ。」
「……蔵馬。鈴原君や相田君のように。」
「ああ。俺の大事な仲間たちは俺のことをそう呼んでいる。だから、レイにもそう呼ばれたい。」
「……蔵馬君。」
蔵馬は優しく微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
蔵馬。……彼の特別な名前。大事な人たちがそう呼んでいる名前。
蔵馬君は私にもそう呼んでくれと言った。
私も蔵馬君の大事な人になれたんだ。
………嬉しい。
☆ ☆ ☆
EVAの回収に来ていたリツコは零号機のエントリープラグを見て驚愕した。ハッチが跳ね飛ばされている。
「シンジ君がやったのかしら。」
エントリープラグはパイロットの安全の為、かなりの硬度を誇っている。EVAの装甲よりもろいとはいえ人力のみで跳ね飛ばせるシロモノではない。
碇シンジ。彼は何者なのか。
自分達は、とてつもない存在を呼び込んでしまったのではないか。
リツコはその考えに戦慄していた。
☆ ☆
魔界。
妖怪たちの世界。
ここは、その魔界のある山である。この山には何百年も生きた狐が妖獣化し「妖狐」と呼ばれる妖怪になったものたちの生息地である。
「ん〜〜〜。退屈。」
妖狐族、新族長『久遠』。族長になってまだ、一年も経っていない。妖狐たちのなかでも、すさまじい妖力を誇るが、その性格は純真で無垢。気を許した者にはとことん甘える、心優しい妖狐である。かの最強の妖狐蔵馬でさえ、彼女に対しては優しく、可愛がっていた。久遠も他の妖狐たちさえ恐れていた蔵馬にかなり懐いていた。
「蔵馬。もう、19年も逢ってない。魔界に戻ってきたときも久遠には逢いにこなかった。」
「族長。蔵馬殿も忙しいのでしょう。どうやら、霊界からの依頼で動いている模様です。」
側近の一人が久遠を諭すが、久遠はもう決めていた。
「久遠。人間界に行って蔵馬と遊んでくる。」
側近が止めるのも聞かず、久遠は人間界に向かった。
〈第伍話 了〉
To be continued...
(2009.05.02 初版)
(あとがき)
ジョルジュ「さあ、幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン第伍話が終わりました。」
コエンマ「ふむ、これで使徒は三匹倒したわけだな。」
ジョルジュ「コエンマ様。何故ここに。」
コエンマ「フッ。作者がワシも後書きに出演してくれるよう頭をこすり付けて頼んできたのでな。」
うそばっかり。
コエンマ「ん…なんかいったか。」
いえ別に。
ジョルジュ「しかし、蔵馬さん、レイちゃんのことが好きなことを自覚しちゃいましたね。」
コエンマ「そうじゃな。しかし、ユウスケと出会う前に恋した女子とは違う結果になってほしいの。」
ジョルジュ「そして、ついに妖狐の族長が人間界にやってくる。」
コエンマ「さて、蔵馬はどうするか。そして、ワシらは本編で出番があるか。」
ジョルジュ「それは、作者しだいですね。」
コエンマ「では、これからも『かのもの』の駄文に付き合ってくれい。」
作者(かのもの様)へのご意見、ご感想は、または
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