第六話
presented by かのもの様
特務機関NERV・総司令公務室。
無駄に広い空間に、NERV総司令・碇ゲンドウは一人で居た。
いや、誰かと電話で会話しているようだ。
「また、君に借りができたな。」
《返すつもりもないんでしょ。》
電話口の相手は、笑いながら受け答える。
《で、例の件は、こちらで手を打っておきましょうか。》
「いや、君の資料を見る限り問題ないだろう。」
《では、シナリオ通りに……。》
電話を終えたゲンドウは、いつものポーズをとった。
ある程度のイレギュラーがあるが、彼のシナリオ通りに進行している。
しかし、そのイレギュラーが問題であった。
自分の息子、碇シンジ。
彼のシナリオでは息子は、自分の手のひらの上で踊る存在になる筈だった。
しかしあの駒は青二才の分際で、生意気にも自分に恐怖を与えたのだ。
それどころか、自分にしか心を開かなかったレイが、自分以上に信頼している。
「まあいい。今はまだ奴が必要だ。しかし、役に立たなくなれば……それ相応の報いを与えてから始末してやる。奴がいなくなれば、レイはまた私の元に戻る……。」
既にレイの心は彼から完全に離れていることにまだ気付いていなかった。自分の仕込みを過信しすぎているのだ。
そして、駒扱いしている息子が自分より一枚や二枚どころか、十枚も二十枚も上手であることも………。
☆ ☆ ☆
「おはようございます、ミサトさん。」
「おはようございます、葛城一尉。」
「ふぁぁぁぁぁぁぁ、おはよ〜。」
朝食を取っていた蔵馬とレイは、起きてきたミサトに挨拶をした。
起きてきたミサトは冷蔵庫からビールを取り出すと、席に座り一気にビールを一気に飲み干した。
「……ぷは〜……く〜、朝一番はやっぱこれよね〜〜〜〜〜。」
「コーヒーじゃなくビールですか、まったく……。」
蔵馬は呆れ、レイはよくわからなそうな顔をしていた。
「日本人はね、昔から朝はご飯と味噌汁、そしてお酒と相場が決まっているのよ。」
「日本人じゃなく、ミサトさんがでしょう。それと、今日の朝食当番はミサトさんのはずですが。」
「……うっ。」
蔵馬の冷静な指摘に反論できなくなるミサト。
「……ミサトさんが未だに独身の理由がよくわかりますね。」
「………悪かったわね、ガサツで。」
「ずぼらもでしょう。」
「………うっさい。」
不貞腐れるミサトだが、次の蔵馬の一言に凍りついた。
「まったく、ミサトさんと2歳年下なのに、既に17歳の息子がいる人もいるんですけどね。」
「……ちょ……ちょっとわたしより2歳年下ってことは………15歳で子供産んだってこと。」
葛城ミサト、今年で34歳。まだ誕生日は迎えていないから33歳だが………。
「まあ、結局相手の人がろくでなしだった為、結婚はしなかったみたいですけど、それでも家庭は持っていますね。」
蔵馬は事実をすべて語っている訳ではない。
浦飯アツコ、蔵馬の言う通り若いながら17歳の子供の親であるが、ずぼらさはミサトといい勝負である。彼女の家が保たれているのは雪村ケイコの存在が必要不可欠である。
そんなことは露知らず、ミサトはうなだれた。
蔵馬とレイは食事を済ませ後片付けを始めた。最近は、レイも後片付けを手伝うようになった。
少しでも蔵馬の助けになりたいという、けなげな乙女心というところだろう。
「それで本当に今日、学校に来るんですか。」
洗い物をしながら蔵馬が食事をしているミサトに聞いた。
「あったりまえでしょう、進路相談なんだから。シンちゃんとレイの保護者よ、私は。」
「仕事は大丈夫なんですか。」
「……大丈夫よ。これも仕事なんだから。」
軽く答えるミサト。
「そうですか……。ところで、俺とレイの本来の保護者であるあの髭親父は、どうしたんですか。…俺はともかく、レイの為に来ようという気はないんですか。」
蔵馬が聞くと隣のレイが無表情で答えた。
「……来て欲しくない。」
レイの言葉に驚くミサト。
「……ちょっ……レイ。貴女……。」
「……あの人………嫌いだもの。」
ミサトは絶句した。蔵馬が来るまではゲンドウにだけ心を開いている風に見えたレイの態度がここまで変わっていることに。
洗い物を済ませ、部屋に鞄を取りに行ったレイを横目に蔵馬に問いかけた。
「ねえ、シンちゃん。……レイ……どうしたの。」
「……第4使徒の調査中に、俺達が零号機暴走の話をしていたときに……レイも聞いていたんですよ。」
ミサトは納得した。ゲンドウの思惑に気付き、流石のレイもショックを受けたのだろうと。
そのとき、家のインターホンが鳴った。ミサトが受話器を取り、応対に出た。
「あら、鈴原君に相田君。はい、ちょっと待ってね。」
「ミサトさん。そんな格好で玄関に出ないでくださいね。」
蔵馬が釘を刺した。ミサトの今の姿は寝巻き姿であり、思春期の少年に見せられる格好ではなかった。
「はいはい。」
鞄を持った蔵馬とレイは、玄関に出た。
「「お早う碇く……。」」
にやついて挨拶しようとしたトウジとケンスケは蔵馬と一緒に出てきたレイを見て固まった。
「……な…なんで綾波がここに居んねん。」
「……私………ここに住んでるから。」
トウジの問いにレイは平然と答えた。
「……裏切り者。」
ケンスケの呪詛の声を呟いた。
「別に二人きりで同棲している訳じゃないでしょう。いちいち、拘らないでください。」
蔵馬の反論も、この二人には通じない。
「蔵馬。お前という奴は、ミサトさんという美人と同居しとるのに、綾波とまでやなんて……あかんで。そんな…羨まし…もとい、ハレンチな。幾らNERVの命令でも、若い男女が1つ屋根の下でやなんて……。」
トウジが蔵馬に詰め寄る。
「……何故。蔵馬君と一緒に居られるのは嬉しいこと。そもそも、蔵馬君が一緒に住もうって言ってくれたのに。」
ピシッ!!!!!
レイの何気ない一言に完全に硬直する二人。
「「……裏切り者〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」」
トウジとケンスケは泣きながら駆け出していった。
「結局、あいつら何しに来たんだ。」
トウジとケンスケは、蔵馬と同居しているNERVの美人作戦部長に会いたくて蔵馬を迎えに来たのだが、まさかレイまで一緒に住んでいるとは思わなかったのだ。しかもNERVの命令だと思ったが、実は蔵馬から言い出したということにもダメージを受けたようだった。
所詮、蔵馬は勝ち組だ……と。モテナイ男の哀れな嫉妬であった。ちゃんちゃん!
☆ ☆
「はぁ〜い、蔵馬。」
蔵馬とレイはトウジとケンスケに追いつき、なんとか二人を宥めて一緒に登校する。その途中、ぼたんが蔵馬たちの前に現れた。
「どうしました、ぼたん。」
「ちょっと、これを渡しにさ。」
ぼたんは蔵馬に手紙を渡し、「じゃあね〜」と帰って行った。
「…蔵馬……あの可愛い娘は知り合いかよ。畜生、蔵馬はいいよな。女にもててさ。」
ケンスケも再び不貞腐れた。
「それ、ラブレターかいな。」
トウジもやっかんでいる。
「違いますよ。確かに友人ですけど、そういうのとは無関係ですよ。」
否定しながら手紙を開いた。
そのとき、蔵馬の表情が厳しいものに変わった。
「…どしたんや、蔵馬。」
トウジが手紙を覗き込んだ。
「……なんや、この文字は。さっぱりわからんわ。」
霊界の文字で書かれていたため、トウジにはさっぱり読めない。
蔵馬の表情は厳しいままだった。そんな蔵馬をレイは不思議そうに見つめていた。
☆ ☆ ☆
進路相談の時間が近付き、学校の駐車場にルノーがドリフトして駐車した。そのルノーから一人の美しく凛々しい女性が出てきた為、学校中の窓に男子生徒が集まってきた。
(学校の駐車場でドリフトするなよ。)
蔵馬は相変わらずのミサトに呆れていた。
「いらっしゃったで。」
トウジが歓声をあげた。
「カッコイイ、あれ誰。」
「えっ、碇の保護者。」
「何、碇ってあんな美人に保護されてんの。」
「ちくしょ〜〜碇の奴。唯でさえ女子に人気があるのに、さらにあんな美人と〜〜〜。」
などと、騒ぐ男子。
「馬鹿みたい。」
ヒカリが呆れて呟いた。
「やっぱミサトさんてええわ〜〜。あれでNERVの作戦部長ゆうのがまたすごい。」
トウジがうっとりして言い、ケンスケも頷いていた。
蔵馬は呆れながら自分の席に戻った。
「……蔵馬君、今日の帰りはどうするの。」
レイが聞いてきた。
「ああ。少し用事ができたから、NERVには遅れていく。レイはミサトさんと一緒に行ってくれ。」
「……いいえ。私も用があるから。」
「どうした。」
「前に住んでいたマンションに赤木博士に借りた本を忘れたから取りに戻るの。」
「……そうかわかった。気をつけてな。」
などと話しているとまたしてもトウジ達の声が聞こえてきた。
「ああ。あ〜ゆ〜人が彼女やったらなぁ。」
「……フッ。」
実態を知らないトウジたちを苦笑しつつ見る蔵馬であった。
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私と蔵馬君の進路相談が終わった。
今まで私は、碇司令の望みを叶えることと無に還る事しか考えなかった。
今はよくわからない。これから、どう生きるのか。
でも、ひとつだけ今の私が欲するのは、蔵馬君と共に居ること。
何度も何度も願う、私の確かな気持ち。
その事を話したら、先生は頭を抱え、葛城一尉は笑っていた。
私は変なことを言ったのだろうか。
☆ ☆
マンションの部屋に来た私は、借りてた本を鞄に入れ直ぐ部屋を出て行った。途中、あの眼鏡が目に入ったが、不快な気持ちになり直ぐ目をそらした。
私を見ているようで、私を見ていない人。私に気遣う振りして、私を利用しようとしている人。
もう、あの人の道具は嫌。
私は見つけた。
私を見てくれる人を。私が本当に信じられる人を。
「ぎゃああああ〜〜〜。」
人の悲鳴が私の耳に響いた。
私は、そちらの方に足を向けた。そこで見たのは複数の引き裂かれた人の身体。そこに立っている巨漢の男。
引き裂かれた人達は黒服を着ている。恐らくNERV保安部の人達。
「……見たなぁ。」
男は凄い形相で私の方に向かってきた。
怖い。
何故かこの人に恐怖を感じる。
身体か震える。
私は動けなくなっていた。
「やめろ!!!!!!。」
その声に男の手は止まった。
この声は、私の大好きな人の声。
わたしの金縛りは解け、彼の元に向かった。
「……蔵馬君。」
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レイは駆けつけた蔵馬の胸に飛び込んだ。
「……蔵馬君。」
泣きながら蔵馬の胸に顔をうずめる。
「…レイ。良かった。……ぼたん、レイを頼む。」
蔵馬と共にここに来たぼたんにレイを預ける。
「ぼたん。レイを連れてここから離れてくれ。
「OK。さあレイちゃん、行こう。」
ぼたんはレイを連れて行こうとするが。
「蔵馬君と一緒にいたい。」
レイは留まろうとした。
「……レイ、頼む。ここから離れてくれ。そして、俺を安心させてくれ。」
蔵馬の懇願にしぶしぶ、ぼたんと共に離れるレイ。
「………さて………久しぶりだな、剛鬼。」
巨漢の男は、かつて蔵馬と霊界3大秘宝を盗み出した吸魂鬼・剛鬼であった。
「……く……蔵馬。て……てめえ〜〜〜〜〜。」
怯えた顔で剛鬼は叫んだ。あの当時はともかく、今の二人の実力差は歴然。剛鬼にはかけらの勝ち目もなかった。
「今朝、ぼたんからお前が脱獄したと報せを受けてな。お前の妖気を頼りに探していたんだ……ユウスケは寝てるからな。それにしても、お前がまだ生きていたとは。とっくに霊界に処刑されているものと思っていたぞ。他の洗脳された妖怪たちみたいにな。」
コエンマが閻魔大王を告発する前、かつて霊界は自分達の大義名分の為に妖怪を洗脳し悪事を働かせていた。この剛鬼は洗脳された妖怪ではないが、諸共に処分されたと思っていたのだ。
「……けっ……霊界のある組織が俺を逃がしてくれたのよ。」
「……ある組織だと。どういうことだ。」
「てめえの知ったことじゃねえ。」
「……そうだな。どちらにしろ、レイを襲ったお前を俺は許すつもりはない。」
蔵馬の目は鋭さを増した。
自分と、自分の護るべきものに危害を加える者へ対する圧倒的な冷酷さで剛鬼を射抜く。
「…でやぁぁぁぁぁぁぁ。」
剛鬼は鬼の姿に変化し、そこらの倒壊したビルを崩し、粉塵を目くらましに逃げようとした。しかし、その程度で逃げられる筈もない。あっという間に蔵馬に追いつかれた。
「薔薇棘鞭刃!!」
薔薇の鞭により五体バラバラに切り刻まれる。首が蔵馬の足元に転がってきた。
「……剛鬼。訊くだけ無駄だろうが、お前を逃がした組織の正体はわかるか。」
「……し……知らねぇ。」
「やはりな。恐らくお前を逃がしたのは人間界を混乱させ、それを大義名分として魔界との境界トンネルに再度結界を張ろうとする集団だろう。そんな奴らが捨て駒であるお前に自分達の正体を明かす筈もないか。」
蔵馬の言葉を最後まで聞くこともなく、剛鬼は事切れた。その身体から、複数の魂が抜け出した。剛鬼に喰われたNERV保安部の人達の魂だった。
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「蔵馬〜〜〜。」
剛鬼を始末した俺に懐かしい声が聞こえてきた。この声は……。
「……その声は、久遠……か。」
振り向いて見たのは、幼い妖狐。
「久遠……なんで子供の姿なんだ。」
久遠は俺より若いとはいえ、既に成人している筈。しかし、今の久遠は俺の記憶にある幼い姿だ。
「…人間界では目立つと思って、この姿に変身したの。」
「……その姿でも充分目立つぞ。」
俺は苦笑した。何時までたっても無邪気な奴だな。
「ところで、よく俺がわかったな。この姿でお前に会ったことはなかったはずだし、あの頃とは気配も変わっているのに……。」
「テレビで魔界統一トーナメントを観たから。蔵馬、試合中にその姿から昔の姿に変化したから。」
ああ、魔界統一トーナメントは全魔界に放映されたんだったな。
「で、何しに人間界へ……。」
「蔵馬……一度も久遠に会いに来ないから、久遠から遊びに来たの。昔は、霊界の結界があったから来れなかったけど今は自由に来れるから。」
そういえば、黄泉の軍事参謀総長になったときも、妖狐の山には一度も帰らなかったな……。
「……そうか……すまなかったな。しかし、その姿でも人間に見られるのは不味いぞ……。」
「じゃあ、もう一度変化する。」
そう言うと久遠は、子狐の姿に変化した。
「…く〜ん。(これならどう。)」
「……うん。それなら俺が飼っていた子狐ってことで済ませられるな。」
久遠は嬉しそうに俺の胸に飛び込んできた。俺はそのまま久遠を抱きながら、レイとぼたんの元に向かった。
☆ ☆ ☆
「ふぅ〜〜〜。ここまで来れば安心さね。」
私たちは、人通りの多いところまで走ってきた。
……この人は今朝、蔵馬君に手紙を渡していた人……誰なんだろう。
「さて、レイちゃん。怪我はなかったかい。」
「………。」
私は無言で頷いた。
「そう……良かったよ。レイちゃんに何かあったら蔵馬が辛いからね。」
「………貴女……誰。」
「あ〜御免ね。あたしの名はぼたん。蔵馬の仲間さね。」
………仲間………蔵馬君が言っていた私の知らない彼の大切な仲間。
「………レイちゃんの仲間でもあるよ。」
……私の……仲間。
「レイちゃんは蔵馬の大切な仲間だからね。だから、あたし達にとっても仲間だよ。」
蔵馬君が前に言っていた。
『望めばいくらでも絆は作れる。』
蔵馬君と絆を結んだから、他の絆が生まれた。
心が暖かくなる。
やはり、違う……碇司令は、私に他の絆はくれなかった。
あの人との絆は、やはり紛い物。これが、本当の絆。絆が絆を呼んでくれる。
後は私次第………。
「……ありがとう……よろ…しく。」
私が手を伸ばすと彼女は笑顔で私の手を取ってくれた。
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「……良かったな、レイ。」
突然の声にレイとぼたんは驚いた。
「……ちょっと、蔵馬。気配を絶って近付くのは止めてちょーだい。ほんとに、悪趣味なんだから……。」
二人が顔を向けた先に蔵馬が笑顔立っていた。
「……レイ。また今度俺の仲間達を紹介する。彼らとも絆が結べる筈だ。絆はただ与えられるだけの物じゃない。自ら進んで築き上げる物だ。それを忘れるな。」
蔵馬はレイに優しくささやいた。
「さあ、NERVに行こう。それじゃ、ぼたん。またな。」
「じゃあね〜。レイちゃん。今度は茶でも飲みながらお話しましょ。」
ぼたんは、笑顔で去っていった。
☆ ☆
NERV本部でミサトとリツコが二人を待っていた。
「…あら、シンちゃん、レイ。その狐は……。」
久遠は、蔵馬ではなくレイに抱かれていた。
「俺が飼っていたペットの久遠です。知り合いに預けていたんですが、こちらも落ち着いたので引き取ったんですよ。」
「あら、シンちゃんの用事ってこのことだったの。」
「はい。」
いけしゃあしゃあと、嘘を吐く蔵馬。
「でも、前もって教えてくれてもいいのに。」
「フッ……ちょっと、ミサトさんを驚かせたかったんですよ。で……飼っていいですよね。まあ、断られても飼いますけど。」
「なかなか可愛いし、いいわよ。」
こだわらないミサトはあっさりと承諾した。ちなみにレイは、何も訊かず久遠を抱いていた。久遠の抱き心地がよかった為か、疑問も抱かなかったようだ。
動物を抱くなど彼女には初めての経験だった。
「もういいかしら。じゃあ、テストを始めるわよ。」
それまで黙っていたリツコが蔵馬たちを促した。
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シンクロテストは俺にとって、一番安らげる時だ。母さんの温もりを感じることができるからだ。
エントリープラグ内の血の臭いも、俺にとっては気にならない。元々、魔界の空気は血の臭いが混じっているので慣れているからだ。
テストが終わり、俺とレイは久遠の相手をしていた。狐姿の久遠は、相変わらず俺にじゃれ付いてくる。本当に昔と変わっていない。しかし、こんな甘い性格で族長が務まるのか、少し不安だが妖狐族は誰しも久遠に敵対しない。久遠は皆に愛されている。そういう面では一番、族長にふさわしいのかもしれないな。
久遠はレイのことも気に入ったようだ。相変わらず気に入れば直ぐじゃれ付くからな、こいつは。
レイも戸惑いながらも楽しそうだ。久遠と遊ぶのはレイにとっての情操教育になるかもも知れないな。
そんな、俺達の横ではミサトさん、リツコさん、伊吹さん、日向さんが話し合っていた。
「零号機の胸部生態部品はどう。」
「大破ですからね。追加予算の枠ぎりぎりですよ。」
「これで、ドイツから弐号機が届けば少しは楽になるのかしら。」
「逆かもしれませんよ。地上でやってる使徒の処理も、タダじゃないんでしょ。」
「ホント、お金に関してはセコイ所ね……人類の命運を賭けてるんでしょ、ココ。」
「仕方ないわよ。人はEVAのみで生きるにあらず。生き残った人達が生きていくためにもお金がかかるのよ。」
「予算か。じゃあ、司令はまた会議なの。」
「ええ。今は機上の人ね。」
「司令が居ないとここも静かでいいですね。」
☆ ☆ ☆
「では次は、戦闘訓練を行います。」
蔵馬とレイは戦闘訓練をすることになった。
EVAの操縦は操縦桿ではなく、思考で操縦する為、本人の戦闘技術が優れていれば、EVAでの戦闘も有利になるからである。
しかし、残念ながらいくらその手のプロとはいえただの人間がS級妖怪の蔵馬の相手が務まるはずがなかった。
蔵馬は、指導員たちをすべて1分も立たないうちに叩きのめしてしまった。充分手加減して……。
ミサトたちは唖然としていた。
「……シンちゃん、強いのね………。」
ミサトたちも蔵馬が戦い慣れしているのは察していたが、これ程までとは思いもよらなかったのである。
「……相手が弱いだけです。」
蔵馬は、わざと負ける気にはならなかった。自分の実力をしめしておかなければ、実戦の時に支障が出るからである。
「……というわけで、俺はそれなりの力がありますので、実戦の時はある程度自由に戦わせてくれるとありがたいですね。」
「……分かったわ……。」
ちなみにミサトも軽く捻られたので、反論できなかった。
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「……ミサト。例のアレ、明日予定通りやるそうよ。」
「えっ…。ああ、アレね。分かったわ。」
「ああ、それとシンジ君とレイも来てもらうわ。」
リツコはいきなり、蔵馬とレイに話を振った。
「……いきなりなんです。」
「ああ。旧東京で行われる発表会に参加するのよ。」
「何故、俺達も……。」
「まあ、パイロットの視点から参考を訊きたいから…かしらね。」
実は、それは建前である。
リツコは蔵馬の能力を見て、他の組織の影を疑っているのである。
どう考えても、蔵馬の実力は高校生のそれではない。もしかしたら、他の組織の息がかかっているのではないか。
そして、明日のイベントで何か掴めるかもしれないと考え、蔵馬を誘ったのである。レイはついで、蔵馬を油断させるためであるが。
「……わかりました。しかし、俺は一応礼服を持っていますけど、レイは持っていないと思いますが。それとも、学校の制服で出席させますか。」
「NERVで支払うから、今日の帰りにでも調達しておいて。」
「わかりました。」
正直、蔵馬は気乗りしなかった。剛鬼は始末したが、もう一人、かつてユウスケが捕まえた妖怪で脱獄した奴がいる。そいつは剛鬼ほど間抜けではないため、見つけるのに時間がかかる。
しかしここで断って、疑いを深めるのも得策ではないと判断した。リツコの考えなど蔵馬はある程度、見通していたのである。
帰りにデパートにより、レイの礼服を買いに行った。
〈第六話 了〉
To be continued...
(2009.05.09 初版)
(あとがき)
ジョルジュ「さあ、第六話が終わりました。さて、コエンマ様は前回、後書きに出た影響でまた、仕事が溜まってしまい今回は不参加です。というわけで今回は私一人ということ。」
??「いいえ、違います。代わりに私がでます。」
ジョルジュ「貴女は。」
小兎「暗黒武術会の司会兼審判を務めた小兎です。ジョージ・渡辺さん。」
ジョルジュ「ジョルジュ・早乙女です。もう嫌いだな〜。」
小兎「失礼しました。さて、かのものさんから、みなさんに伝言があります。」
ジョルジュ「なんでしょう。」
小兎「はい、『この話ではペンペンはいません。ペンペンの代わりに久遠がその役割を担います。この話を読んでくれた方でペンペンファンの方、申し訳ありません。』とのことです。」
ジョルジュ「そうだったんですか。」
小兎「では、次回は、旧東京で何が起こるのか。次回お楽しみに。」
ジョルジュ「ああ。仕切られてしまった。ホント、嫌いだな〜。」
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