幽☆遊☆世紀 エヴァンゲリオンYu☆Yu☆ GENESIS EVANGELION

第十七話

presented by かのもの様


蔵馬は、レイとアスカと共に登校していた。

「……シンジ……以前言っていた、NERVの……EVAの秘密を教えて欲しいの…」

「…………前にも言ったが……」

「覚悟はできているわ!NERV上層部を敵に回すことを!!」

アスカの強い眼差しに、蔵馬は本気であることを理解した。

「しかし、何故…そこまで……」

それに答えたのはレイだった。

「蔵馬君……蔵馬君が、第12使徒に呑まれた時……赤木博士は、蔵馬君を殺す気でいたわ……」

「それで、わかったのよ!あいつらにとって、パイロットであるチルドレンより、EVAという機体のほうが大事なんだってことが……確かに、EVAは多額の資金で運営されているわ……でも、パイロットより機体優先だなんて、それなりの理由を教えてもらわなくては…納得できないわ!!」

確かにアスカは弐号機に誇りを持っている。しかし、自分の命より、EVAのほうが優先されるのは流石に認められなかった。
戦いだから、もしかしたら死ぬかもしれないのは理解できる。しかし、パイロットではなくEVA優先なのは気に入らないのだ。

「……蔵馬君…私も知りたい。……私は、ただ碇司令の命令を聞いていただけ……司令が何を望んでいるのか…本当のところは何も知らない……私は何をさせられようとしていたのか…知りたい。碇司令の目的は、恐らく皆には認められないことだと思う。そうじゃないと、ここまで秘密にするはずがない…だから、それを阻止するために、真実を知りたいの……」

レイも強い眼差しで、蔵馬を見つめていた。
蔵馬は、時が来たことを悟った。

「今日のシンクロテスト終了後、エレベータの前で待っていろ……そこで真実を話そう」

☆      ☆

ゲンドウはNERV内の居住区にある自室に帰る途中、考えていた。
蔵馬を始末し、レイを3人目にした後のことを。
2人目のレイはゲンドウから離反した。ならば、3人目のレイに対してはさっさと肉体関係を結び、常に自分の傍に付き従わせる方が良い……。自分が与える快楽で縛ってしまえば、2人目のような失敗はしないだろう…いかにも、小悪党らしい考えにふけっていた。

強面なゲンドウはあくまで見かけだけである。ユイに会う前は、巷で障害沙汰を起こし、留置場にぶち込まれるのは日常茶飯事であったが、所詮、素人の喧嘩。現在においても、軽い軍事訓練を受けた程度に過ぎない。
さらに、NERV本部内はMAGIによって管理されている。
NERV内で自分に危害を加える者など居るはずが無い……そう考えていた。
故に、完全に気配を消した襲撃者に気付く事も無く、後頭部に衝撃を受け、昏倒した。

「……久遠……結界は問題ないな?」

「……うん、久遠の結界は完璧。ここのコンピュータは完全に無力…」

襲撃者は久遠を伴った蔵馬であった。
久遠は、妖狐の族長とはいえ妖力値や戦闘力に関しては蔵馬より劣る。
蔵馬の次に強いとはいえ、その差はかなり開いていた。
そんな久遠だが、1つだけ蔵馬より優れた部分がある。それは、結界を張る能力である。
久遠の張った結界は元々、霊界、魔界関連には全くの無力であるMAGIなど簡単に誤魔化せるのだ。
結界内でゲンドウが襲われたことを、MAGIは完全に見落としてしまったのだ。

「よし、これでよし」

蔵馬はゲンドウからカードを奪い、部屋に放り込んだ。

「しばらく、幸せな夢でも見ているといい…」

部屋に、夢幻花を置いておいた。
夢幻花の花粉は記憶の操作、消去を行う。そして、花冠の香気は吸った者に甘美な夢を見させるのだ。

☆  ☆  ☆

エレベータの前で蔵馬を待っていたレイとアスカに近付いてくる影があった。

「…誰!……シンジ?」

「いや、俺だよ…アスカ…」

現れたのは加持であった。

「加持さん…どうしたんですか?」

アスカは、何故ここに加持が現れたのか疑問だった。自分に会いに来てくれたのか?などと考えたが……すぐにそれを否定した。

「実はね、シンジ君にここで君たちと待っていてくれと言われてね…」

どうやら、蔵馬は加持にも話を訊かせるつもりだと理解した。
しかし、何故加持も一緒なのか……。

「何故、加持さんもシンジに話を訊くんですか?」

「前に、シンジ君と約束していてね。シンジ君の味方に付く代わりに真実を教えてもらうことに成っていたんだ。で、アスカとレイにも話をすることになったから、別々にするのは時間の無駄だから、一緒に話すと言われてね……」

「ああ、話すことは一緒ですので加持さんにもご足労を願ったんだよ」

いきなり声を掛けられて3人は驚き、一斉に声のほうに顔を向けた。
そこには、久遠を伴った蔵馬が立っていた。
加持は戦慄した。
蔵馬の気配をまるで感じなかったことに……。

「……ちょっとシンジ!気配を絶って近付いて来ないでよ…びっくりするじゃない!!」

「………ぼたんさんが言ってた……蔵馬君は気配を絶って相手に近付く悪趣味なところがあるって……」

アスカの抗議を軽く流し、蔵馬は3人を促した。

「では、行きましょう。これから、行くところで真実が明らかになるでしょう!」

蔵馬達はエレベータに乗り込んだ。
蔵馬が、隠されたボタンを押すとエレベータはL−5を越えさらに下降していった。
エレベータを降り、どんどんと奥に進んだ後、『KEEP OUT』と記されている扉に辿り着いた。

「ここは……?」

「ターミナル・ドグマ…と呼ばれているジオ・フロントの最深部だ…」

「シンジ君。ターミナル・ドグマに入るにはかなりのレベルのカードキーが必要だけど……」

「大丈夫です。このNERVでどこにも入れるカードキーを手に入れています」

「何処で手に入れたんだい?」

「…父さんから拝借してきました……今頃父さんは、夢の中ですよ」

そう言いながら、蔵馬は先ほどゲンドウから奪ったカードを通した。ゲンドウから、カードを取ってきたと知り、改めて蔵馬の底知れなさを感じる加持であった。
ターミナル・ドグマの扉が開かれた。
そして、そこにあるのは……胸に槍が突き刺さり、貼り付けにされている……上半身のみの巨人の姿であった。

「……なによこれ……?」

「第1使徒『アダム』……と思われているが、実は第2使徒『リリス』……」

「何だって……これが『リリス』!?」

加持は驚愕した。
加持はこれはかつて自分が運んできた『アダム』だとばかり思っていたのだ。

「この『リリス』の胸に刺さっているのは?」

磔にされている『リリス』の胸には、巨大な二又の槍が突き刺さっている。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の伝承に出てくる最初の人間『アダム』、メソポタミアにおける夜の魔女『リリス』の名で呼ばれている使徒などよりも、むしろこの槍の方が気になるアスカだった。

「……『ロンギヌスの槍』。父さんが南極に行っていたのは、これを回収する為だったのさ」

「ロンギヌスの槍って、十字架に磔にされたイエス・キリストのわき腹を刺した槍といわれるあれ?」

「……それとは別物……何者かが残した正体不明の武器だよ……その威力はA・Tフィールドをも簡単に貫く威力があるらしい……事実がどうかは俺も知らないがな……」

A・Tフィールドを貫く武器だと知り、何故、これを実用しないのか不思議に思うアスカだった。

「さて、それではそろそろ話をしましょうか」

レイ、アスカ、加持は蔵馬の話に耳を傾けた。

「まず、19年前のセカンド・インパクト……これは、人間の手によって起こされた……つまりあれは仕組まれたものだったのさ」

「なんですって!」

アスカは驚愕の声を上げた。加持の顔にも驚きが浮かんでいた。
蔵馬は、葛城調査隊とセカンド・インパクトのことを詳細に説明していた。
葛城調査隊が、南極でこの『リリス』に刺さっている『ロンギヌスの槍』を実験に用いられた。その結果、セカンド・インパクトが発生してしまったことを……。そして、ミサトに施された暗示についても…。
その話を訊いた加持は、悔しそうな表情になり、拳を握り締めていた……。
そして、蔵馬はEVAが使徒のコピーであることを話した。
初号機と零号機は『リリス』のコピー、制式採用機の弐号機以降は『アダム』のコピーであることを……。
そして、EVAの起動実験の話になった。

「10年前に行われたEVA初号機の起動実験……被験者は俺の母『碇ユイ』…結果はEVAに取り込まれてしまい、サルページを試みるも失敗。次にドイツにおいてEVA弐号機の起動実験……被験者はアスカの母『惣流・キョウコ・ツェッペリン』…結果はやはりEVAに取り込まれ、サルページは成功したが、キョウコさんは精神汚染を受け、その後、自殺……」

「いや!止めて!!」

アスカは突然泣き叫んだ。

「そんなこと思い出させないで!私を壊さないで!!……」

アスカは耳を塞ぎ、首を振っていた。
アスカの脳裏には、自分を見てくれず、人形をアスカだと思い込む母の姿が浮かんでいた。

「……アスカ……キョウコさんは……死んではいない……」

「……え!?」

泣きながら、蔵馬のほうに顔を向けた。

「……弐号機からサルページされたキョウコさんは……魂の無い抜け殻だった。彼女の魂は今も弐号機の中に存在している。EVAとのシンクロとは、正確には、EVAに取り込まれた近親者の魂とシンクロすることだ。だから、初号機のパイロットに俺が選ばれ、弐号機のパイロットにお前が選ばれた」

「……本当に……本当にママはあそこに居るの?……あたしの傍に居てくれているの?」

幼児のように、呟いていた。

「ああ。俺もキョウコさんとは会った事がある。母さんの親友だったからな。いつも、娘のことを話していたよ……そんなキョウコさんが、大切なお前を捨てるはずはないだろ……」

「ママ!……ママ!……ママ!……ウウッ…!!」

アスカはその場に蹲り、泣きじゃくった。

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弐号機のパイロットが泣き止み、ターミナル・ドグマを後にした私達は、歩きながら蔵馬君の話を訊いていた。

「SEELEの目的は『人類補完計画』の実行です」

「人類補完計画?」

「全ての使徒を倒した後、人為的にサードインパクトを起こし、不完全な群体生物の人類を使徒と同じ完全な単体生物に人工進化させる……それが、『人類補完計画』……」

「群体生物を単体生物に変えるとは、どういうことだい?」

加持さんが蔵馬君に質問した。

「まあ、わかりやすく言えば群体として存在している人類を、単体にしてしまう……ようするに、個人というものを失くしてしまうということです」

「何故、そんな事を?」

「人は、心の闇を恐れる…孤独を感じて、心が痛む……だから1つになってしまえば、その恐怖から逃れられる……そして、その1つとなった後は自分達が統べれるとでも妄想しているのだろう……全人類の集団自殺でしかないんだが……」

話している間に、目的地に到着したようだ。
!?ここは……。
人工進化研究所、第3分室。
私が、生まれ育った所……去年まで住んでいた所……。

「……ここは、レイが生まれ育った所です」

私は蔵馬君の台詞に驚いた。そして、理解した。
蔵馬君は知っている。
私が、人間じゃない事を……。
私は足の震えが止まらなかった。
そのとき、蔵馬君が私の頭を撫でてくれた。
蔵馬君の顔を見て、私は落ち着いた。
蔵馬君の顔は優しかった。そして、思い出した。

『綾波が拒絶しない限り、俺は君との絆を大切にする』

蔵馬君は約束してくれたんだ。私が拒絶しない限り……蔵馬君は傍に居てくれる。
蔵馬君が居てくれるなら、私は何も怖くない…!

☆      ☆

アスカと加持は、目の前の光景を見て動揺を隠せなかった。
LCLの水槽の中に漂う少女たち。
それは、彼らの隣にいる少女と同じ顔をしていた。

「これは、レイの予備の体だ。今、ここにいるレイが死ねば、その魂は彼女達のどれかに宿り、3人目のレイになる…」

「……3人目…って…」

「そうだ、今のレイは2人目だ!」

「じゃあ、1人目は…?」

「大分前に、リツコさんの母親である赤木ナオコ博士に絞殺された。そして、魂は今のレイに移行し、僅かに残った魂の欠片は零号機のコアにインストールされた……」

アスカは理解した。1人目のレイは自分の母と同じ状態になっていることを……。

「……レイってなんなの?」

「レイは、俺の母とリリスの遺伝子によって造られたハイブリット・クローンだ……」

蔵馬はレイの出生の秘密とその存在理由を話した。
そして、同時にゲンドウの真の目的も話した。

「じゃあ、司令はレイとEVAを使って、初号機に取り込まれたユイ博士と会おうとしているというわけか……人類と引き換えに……」

「ええ、そのために『SEELE』の人類補完計画を利用するつもりなのでしょう……レイはその為の道具……そして、父さんにとって都合のいい人形だった。しかし、人の心を知ったレイは父さんから離反した。だから、父さんは今のレイを殺して3人目に切り替えるつもりだろう……再び自分の人形にするために……」

「ふざけんじゃないわよ!そんな、たった一瞬のことの為に人類を滅ぼそうとするなんて……!!そして、その為にファーストの命を弄んで……」

アスカは余りのことに憤慨していた。

「アスカは、レイを拒絶しないようだな」

「…最初は戸惑ったわよ…多分、少し前のあたしならファーストを拒絶していたでしょうね……でも、今は違うわ!ファーストは人形なんかじゃない、ちゃんと意思があるヒトよ……あたしでも、そのくらいの事はわかるわ…それに、碇司令の同類にはなりたくないし…」

「……ありがとう」

レイは涙を流していた。
真実を知ってもアスカは自分を拒絶しなかった。
レイのアスカに対する感情は、嫌悪から友愛に変わっていた。
アスカのレイに対する感情も同様だ。

「ならば、そろそろお互い名前で呼び合ったらどうだ?いつまでも、『ファースト』『弐号機のパイロット』と呼び合うのは、拒絶しているように聞こえるぞ」

「……そうね、じゃあ、『レイ』でいいわね。あたしの事も『アスカ』でいいわよ、レイ」

「ありがとう、アスカ」

今、レイとアスカは親友となった。同じ男を愛する者同士……やっと分かり合えたのだ。

「……シンジ君。君はレイのことをいつから知っていたんだい?」

そこに、加持が割り込んできた。

「俺も、アスカの様に戸惑ったが、なんとか受け入れる事ができたよ……でも、シンジ君はもっと前からレイの事を知っていたんじゃないかい。そして、俺達と違って、最初から戸惑わずレイを受け入れていたと思うんだ……それに、君に対する疑問はますます深まったよ…君は、何者なんだい?」

「……蔵馬君は、いつから私の事を知っていたの?」

レイも疑問に思ったようだ。
自分を受け入れてくれることは嬉しいが、それとこれとは、別である。何故、蔵馬は自分を簡単に受け入れられたのか?

「俺がレイの事を知ったのは、第3使徒戦の後、二回目にレイの見舞いにいく前だ……」

「そんな、早くからかい!……本当に君は何者なんだ?そして、何故君はすんなりレイのことを受け入れられるんだ?」

加持の質問に、蔵馬は俯いて考えていたが、やがて、顔を上げた。

「……いいでしょう。ならば、俺の正体を教えましょう」

蔵馬はそう言うと、自らの妖力を高めていった。
周りの空気が重くなった。加持もアスカもレイも、息苦しさを感じていた。
そのとき、レイ達は見た。
蔵馬の体が、まるで蜃気楼のように変化していった……。
癖のある黒い長髪は、さらりとした銀の長髪に、その瞳は黒から金に、学校の制服は白装束に……獣の耳と尻尾を持った半獣人の姿。

「……シンジ!?」

「……シンジ君……!?」

「……蔵馬君!?」

レイ達は驚愕した。
そう、蔵馬は妖狐に転じていた。

「俺の名前は蔵馬。妖狐・蔵馬……何百年も生きた狐が霊力を持ち妖獣となった……いわゆる妖怪と呼ばれる存在だ」

その声も変わっていた。
普段の優しげな声から冷たい声へと変わっていた。
レイも、アスカも、加持も声が出ない。
特に、アスカと加持は今の蔵馬に恐怖を感じていた。しかし、その恐ろしくも美しい姿に魅了されてもいた。
再び、蔵馬の体が変化し、元の碇シンジの姿になっていた。

「……見ての通り、俺も人間ではありません。……人間じゃない俺にとっては、レイが人間でない事など問題ではありませんね」

そう言うと、蔵馬は自分の素性を語りだした。
かつて、伝説の極悪盗賊と呼ばれたこと。
19年前、強力なハンターに深手を負わされ霊体の状態で人間界に逃げ込み、流産する予定の受精卵に憑依融合し、『碇シンジ』として生まれ変わったこと。
10年くらいすれば、妖力も戻り、肉体も妖化するので碇夫妻の前から姿を消すつもりだったこと。
母、ユイがEVAに取り込まれ、その時に彼女を母親として慕っていたのを思い知ったこと。
父、ゲンドウに捨てられ、人間に幻滅しかけたが、畑中シオリ……旧姓南野シオリ……と出会い再び、人の温かさを知ったこと。
飛影、ユウスケ、桑原、ゲンカイとの出会いのこと。
そして、人間界、霊界、魔界の関係の変化によって、数多くの妖怪が人間社会に混じっていること。

「つまり、『蔵馬』とは、あだ名ではなく俺が『碇シンジ』となる前の名前……言わばこちらが本名ということになるな……」

レイは、蔵馬の話を訊き、救われた気分になった。
ずっと人間ではないことを気にしていた。
しかし、もっとも愛する男も人間ではなかった。それどころか、人間でないものが自分以外にも数多く存在し、人間社会に混じっていることを知り、人間ではないことを気に病む必要が無くなった。

「……アスカ…お前は俺のことを好いてくれている…しかし、今話したように俺は人間ではない……それでもいいのか?」

今ならまだ無かった事にできる。
台詞の裏にそう言っているのは、アスカにも理解できた。

「……さっきのアンタの姿は、凄く怖かった……けど、今更アンタへの気持ちは変えようがないわよ!それに、レイのことも受け入れたのに、アンタのことを受け入れられないはず無いじゃない。アンタが人間だろうが、妖怪だろうが、もう変えられない位アンタに惚れちゃったのよ……だから……そんなこと言わないで!」

アスカは自分自身の心情に驚いていた。
蔵馬が人間ではないことを知っても、それを簡単に受け入れられる自分に……。
そこまで、蔵馬のことを好きになっていた自分に戸惑っていたが、悪い気分ではなかった。

「……ありがとうアスカ……俺は、お前達2人が好きだ。そして、俺は人間ではないからな。人間のモラルに従うつもりは無い。さっきも話したように俺は盗賊妖怪だ。欲しいものは手に入れる。お前達2人は、今まで手に入れてきたどんな宝よりも、手に入れたい存在だ。だから、俺は2人共……俺のモノにする……」

ようするに2人共、自分の恋人にすると宣言した蔵馬であった。

「……レイと…決着をつける必要はないってことか……良いわ。あたしだってもう、レイとアンタの取り合いをするのは辛いからね。アンタの二股、認めてあげるわ!……レイはどうなの?」

「……私も、蔵馬君とアスカとずっと一緒にいられるなら、それでいい……」

アスカに蔵馬を取られる訳ではなく、ずっと一緒に居られるなら、レイに否やはなかった。

「……彼女公認の二股か……両手に花とは羨ましいな、シンジ君……」

蚊帳の外の加持がぼそりと呟いた。

☆  ☆  ☆

まったく、ターミナル・ドグマの『リリス』や『SEELEの人類補完計画』のことも驚いたけど、シンジとレイが人間じゃなかったことが、一番驚いたわよ。
特に、シンジ。
同い年だと思っていたら、実は1000年以上生きている妖怪だなんて……いかに天才のあたしでも、そんな奴に勝てるわけないわね……むしろ、納得したわ。
3人で付き合う事も、あっさりと受け入れる事が出来たわ。もう、レイを蹴落とす気にはなれないからね……でも、これは口に出すつもりは無いけど……シンジの一番になることは諦めたわけじゃないから、覚悟しておきなさいよ、レイ!

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レイに抱かれていた久遠が、飛び降り本来の姿に戻った。

「「「!!」」」

「蔵馬が正体を明かしたなら、久遠も正体を明かしてもいいよね……私は妖狐族の族長、久遠。改めてよろしく、レイ、アスカ」

金の髪に、蒼い瞳。巫女服っぽいのに太ももを顕わにした扇情的な服装。蔵馬と同じ獣の耳に尻尾持った、半獣人の美少女……見るからに蔵馬と同族であることがよくわかった。

「……アンタもそうだったの、しかも、『族長』!?じゃあ、アンタはシンジより、偉いわけ?」

「違うよ。蔵馬は妖狐の中で一番強いから……久遠が族長だけど、魔界は力がすべての世界だから、蔵馬と久遠はあくまで対等……いや、むしろ蔵馬の方が上かも……」

魔界は、完全な弱肉強食の世界。強者が法律である。

「ねぇ、もしかしたら、アンタもシンジのことを……?」

アスカは蔵馬と久遠の関係が気になったようだ。

「いや、それは無い」

「それは無いよ」

蔵馬と久遠は同時に否定した。

「俺にとって久遠は、妹のような存在だからな……確かに、心を許してはいたが……男と女の関係にはならないな」

「久遠にとっても、蔵馬はお兄ちゃんみたいなものだし……それに……恋愛ってまだよくわかんない……」

姿形は妙齢の美少女だが、久遠の精神年齢は人間の10歳児前後である。
それを訊いたアスカは安堵した。

「とりあえず、蔵馬……予定通りにするね!」

そういうと、久遠は妖気を手に集め、1つの妖気弾を造り、レイのクローンたちが漂う水槽にそれをぶつけた。
水槽は破壊され、LCLのプールに漂っていたレイのクローンたちは、その生命活動を停止させた。

「!?何をするの……」

いきなりの破壊行動にアスカは驚愕した。

「……父さんは、レイを殺し3人目に移行させるつもりの様だったからな……予備の体が無くなればレイを殺せなくなるだろう……これで、レイは唯一無二の『綾波レイ』になった……もう、レイが死んでも代わりは居ない…父さんは目的を果たすため、レイに手出しは出来なくなった」

つまり、レイの為の予防策……であった。

「……済まない、レイ。君に何も相談せず勝手に決めてしまって……」

レイに詫びる蔵馬だが、レイの心は晴れ晴れとしていた。
これで、忌まわしき運命から解放されたのだ……彼女達には悪いが……。

「いい……ありがとう、蔵馬君」

レイの謝意を受けた蔵馬は微笑み、そして虚空を見つめた。

「居るんでしょう、ぼたん!」

「え!?ぼたんさん?」

蔵馬がぼたんの名を呼んだので、辺りを見回しぼたんを探すレイ。

「はいな〜。やっぱり気付いていたのね蔵馬」

壊れた水槽の真上にピンクの着物を着て、櫂に乗って浮いているぼたんが現れた。

「ぼたんさん!」

「ちょっと……浮いている……この女も妖怪なの?」

霊界案内人としての姿のぼたんに、アスカは怪訝な表情を見せた。

「……ぼたんって……そこに誰かいるのかい?」

加持にはぼたんの姿が見えず、レイとアスカの態度に疑問を持っていた。

「……え!?加持さん、この女が見えないの?」

加持の態度にアスカが疑問に思った。

「やはりな……レイは生まれが生まれだし…アスカも常人より霊感が高いと思っていたが……どうやら、俺と久遠が傍にいた為に、霊感が強まったんだ。そして、妖怪…つまり、俺の存在を認めた為、その力が一気に解放されたのだろう。だから、常人では見えない霊体状態のぼたんが見える様になったんだ」

そう、かつての霧島マナのようにレイとアスカは、元々潜在的に持っていた霊感が蔵馬達の傍に居る事によって高まった。
そして、霊や妖怪の存在を認識したことにより覚醒したのだ。
その霊感能力は、桑原カズマやシズル級の強さであった。修行すればそれなりの霊能者になれるだろう。

「ちなみにあたしは、妖怪じゃないよ。改めて自己紹介するね。あたしは霊界案内人のぼたんちゃんよ、西洋で言う死神って奴かな…よろしくね♥」

「つまり、ぼたんは死んだ人間をあの世に案内する霊界の者だ……今のが本来の状態で、以前、レイの治療に来ていたときは仮初めの身体を使っていたに過ぎない……だから、霊感のない加持さんは見ることが出来ないんです」

「そうなのか……じゃあ、今度はその仮初めの身体のときにでも…お願いするよ」

加持は、残念そうに呟いた。

「ところで、レイちゃん……これを…」

ぼたんの手にはなにやらふわふわした煙みたいなモノが存在していた。

「これは?」

「レイちゃんのクローンたちに僅かに存在していた魂を1つに纏めたものだよ…」

その魂はレイの方へと飛んでいき、レイの魂と1つになった。

「…あっ!」

レイは、己の魂が満たされるのを感じた。
レイの魂は、分化されていたのだ。
魂無き身体は、生きる事ができない。それ故に、クローンたちにも僅かに魂が存在していた。しかし、1人目のレイの魂の欠片は零号機の中に存在している……。
つまり、零号機の中にある1人目のレイの魂の欠片を除き、今、レイの魂は1つに統合されたのだ。

☆      ☆

セントラル・ドグマから帰る途中、加持は蔵馬から今後の事を訊いていた。

「これから、俺は何をすればいいんだい?シンジ君」

「そうですね……使徒のことがあるため、俺は第3新東京市から離れる事ができません。そこで、加持さんに動いてもらいたいんですよ」

「何をすればいい?」

「碇グループとの接触……」

碇グループ。
碇ユイの父、碇シンタロウが創設した大財閥である。
現在、会長であるシンタロウは社交界から遠ざかっていた。
10年前、ユイが死亡(したと思われている)。娘の死にショックを受けた碇夫人は後を追うように突然、亡くなった。
妻と娘を一度に失ったシンタロウは、失意の内に隠居生活に入っていた。

「碇グループ……シンジ君の祖父が作った財閥だね…何故、そこが必要なんだい?」

「SEELE亡き後のためにです」

蔵馬の話はこうだった。
SEELEは良くも悪くも社会の安定を担っている。
セカンドインパクト後の世界は、不安定になっていた。
SEELEからの資金援助が無くなれば、餓死する人間は20世紀後半のおよそ数十倍にまで跳ね上がるだろう。
何かの引き金によって、下手をすれば第三次世界大戦が起きても不思議ではないのである。
つまり、SEELE亡き後、世界を支える存在として、碇グループを後釜に据えるというのが蔵馬の考えである。

「何故、碇グループなんだい。他にも候補はあると思うが……」

『自分の祖父の財閥だから』とは、流石に加持も思わなかったし、蔵馬もそんな個人的な理由で決めたわけではない。

「碇シンタロウという人の眼力ですね」

シンタロウは、ゲンドウとユイの結婚を認めていなかった。
彼は、ゲンドウという人間を見抜いていた。
ユイが傍に居るならともかく、ユイが居なくなれば果てしなく暴走することを読んでいたのだ。
それだけではなく、今まで、シンタロウがグループの重鎮に据えた幹部達は、シンタロウが社交界から遠ざかった後も、グループを支え続けている、一人の造反者を出す事も無く……。
シンタロウの恩義と信頼に報いるため、必死にグループを支えているのだ。
そんな人材を発掘し、運用していたシンタロウなら、SEELE亡き後の世界を支えることも可能である。
蔵馬はそう評価していた。

「……初号機に取り込まれた母さんは、使徒との戦いの後、サルページします。母さんも、そう約束してくれましたしね」

「ちょっと待って、シンジ……サルページが出来るの……シンジのママが出来るのなら、あたしのママも……」

アスカが割り込んできた。

「ああ、恐らく可能だ…先のレリエル……第12使徒戦のときに、俺は母さんと話をしたしな。……そうだな、レイとアスカは今度、ゲンカイ師範の指導を受けろ。弐号機と零号機の中にいる、キョウコさんと1人目のレイと話が出来るよう、念話のやり方を教えてもらえ。弐号機と零号機も初号機と同じく、インストールされた魂を前面に出せるようにしておく」

蔵馬は、今、初号機を支配しているはユイの魂であることを教えた。
幽体離脱をして、弐号機と零号機の中にいる魂を前面に出せば、初号機と同じ状態にする事ができる。
キョウコとは面識があるし、かなり親しかった。1人目のレイも前回の相互互換試験のときに分かり合っている。
故に、可能である。

「話を戻します。今は希望を失っている祖父ですが……母さんが戻る事を訊けばまた、昔の活力を取り戻すかも知れません。いずれはこの第3新東京市にお呼びして、俺自ら要請するつもりですが……それまでの繋ぎとして加持さんにお願いしたいんです」

蔵馬は、シンタロウとは面識が無かった。
ゲンドウのことを認めていなかったシンタロウは、結婚後一度も、ユイに会おうとしなかったからだ。

「……成程。その為に俺を引き入れたわけか…」

「頼めますか?」

「難しそうだが、遣り甲斐がある。今までに築きあげた人脈を利用して、接触してみよう」

話しているうちに、セントラル・ドグマから最初の集合地点に戻っていた。
加持は、そのまま蔵馬の依頼を果たすためNERV本部を後にした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「じゃあ、俺は父さんから拝借してきたカードを戻してくるから先に帰っていてくれ」

蔵馬はレイとアスカを先に帰らせ、ゲンドウの部屋に向かおうとした。

「待って、シンジ!」

そんな蔵馬をアスカが止めた。

「……まだ、『蔵馬』って呼んじゃ駄目なの?」

アスカが切なそうな目で見つめてきた。
蔵馬はようやく失念していた事を思い出した。

「ああ、忘れていたな……もう、あの時の君じゃ無いし……正体も明かしたことだし、アスカにもその名で呼んでもらいたいな」

「……ありがとう、蔵馬。じゃあ、先に帰っているわ。レイ、行きましょう」

「じゃあ、後でね蔵馬君」

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ゲンドウの部屋に侵入した蔵馬はイカ臭い匂いに気分が悪くなった。

「ユイ〜!ユイ〜!!」

ゲンドウは眠りながら、腰を動かし射精していた。
どうやら、ユイ相手の淫夢を見て夢精しているようだ。

「……夢幻花の効果で見る幸せな夢は、この男にとっては母さんとの淫夢か……」

余りにも性欲に正直な男に呆れ返る蔵馬であった。
カードを戻し、さっさと退散する事に決めた。

☆  ☆  ☆

ミサトは、今夜は夜勤のため帰ってこないので、レイとアスカは今日も蔵馬の部屋に泊まる気でいた。
そしい、就寝しようとする蔵馬に、アスカが求めてきた。
レイも、性知識は皆無であったが、アスカから恋人同士がすることとして教えられ、その気になっていた。
蔵馬は、アスカとレイの2人が震えていることに気づいた。
知識として、知っているアスカでも、実際の経験は全く無く、これが初体験である……故に緊張している。
知識のないレイは、未知の領域に緊張している。
2人共、怖いのだがそれでも、蔵馬に抱かれたいと思っているのだ。

「……わかった…2人共おいで……」

彼女達の初夜は、こうして始まった。

〈第十七話 了〉






To be continued...
(2009.07.26 初版)
(2009.11.28 改訂一版)


(あとがき)

かのものです。
今回の話を見て、「こんなの蔵馬じゃない」と思う方もおられると思いますが、この話の彼は、蔵馬=南野秀一ではなく、蔵馬=碇シンジである為、若干違うところがあるということで、納得してください。
さて、とうとうレイとアスカは蔵馬の正体を知りました。
次回からどんどんとEVA本編から離れていく予定です。
そして、次回は前に予告したとおり、レイとアスカにとって最大の恋敵が登場する予定です。
では、これからも私の駄文にお付き合いください。

P・S
今回は、内容が内容であるため、ジョルジュたちではなく、私自身が後書きを担当させてもらいました。
次回からはまた、ジョルジュたちに任せようと思います。



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