幽☆遊☆世紀 エヴァンゲリオンYu☆Yu☆ GENESIS EVANGELION

第十八話

presented by かのもの様


NERV本部、司令室。
ここに集まった面々は暗い表情を浮かべていた。

「……結局、誰が破壊したのが解らず仕舞いか……」

そう、彼らはレイのクローンが何者かに破壊された事を知り、焦っていたのだ。

「MAGIの記録にも、突然水槽が破壊されたことしか残っていませんでした。それに破壊当時、あの部屋に入った者は、碇司令のカードキーを使用しておりました。しかし司令はその時間、官舎でお休みであったことも確認しておりますし、司令の部屋に侵入者が入った形跡もありません。それに、カードキーの使用記録は残っているのに、映像記録にはその人物の姿がまるで映っていないんです。まったく、不可解です」

リツコの説明に、訳が分からないゲンドウ達であった。

「しかし、これでレイを3人目にすることは出来なくなったな……それに、ダミーの開発も…」

冬月が指摘した事をゲンドウは苦々しい思いで聴いていた。
レイに離反されたとき、蔵馬を憎々しく思った。
使徒をすべて殲滅した後、蔵馬を始末し、レイを取り戻そうと考え、それでも、レイが従わなければ3人目に移行させようと考えた。
しかし時間が経つにつれ、蔵馬とレイに対して憤りを抑えきれなくなり、早々に蔵馬を殺し、レイを3人目に移行させることにした。
しかし、クローンが無くなってしまった。もはや、今のレイが唯一無二のレイである。
ゲンドウの目的を果たすためには、どうしても『綾波レイ』の存在は必要不可欠である。
もはや、今のレイを処分する事は出来なくなったのだ。

「レイを本部に移動させる!」

ゲンドウは受話器を取った。

「無駄だ!レイはお前から離反したんだぞ!!もはやお前の言う事を聞くと思うか?」

「あれは、命令には従うはずだ!」

「馬鹿な!既に背かれているではないか。ダミーの実験の参加命令を拒否したんだぞ。もはや、レイは、お前の言う事を何でも聞く昔のレイではないんだ……それに、レイは我々の計画の内容は知らないが、自分が必要不可欠な存在である事は知っているんだ。無理に言う事を聞かせようとしても、それを盾に逃れるに決まっている!!」

冬月の言葉にゲンドウは再び苦々しい思いを抱いた。

「……早々にシンジを処分しろ!そうすれば……」

「馬鹿かお前は……今、下手にシンジ君を殺してみろ、レイはますます、我々に従わなくなるぞ……最悪、後追い自殺をするかも知れん!そんな事をされてみろ、我々の計画は終わってしまうんだぞ……もはや、代わりは居ないんだ……それに、シンジ君を抹殺するのが、どれだけ大変なのか分かっているのか?」

「……所詮は青二才」

「いい加減にしろ!お前はまだ、シンジ君を侮っているのか。シンジ君はもしかしたら、我々より一枚上手かも知れんのだ。いい加減お前も認めろ!」

冬月は、今まで考えないようにしていたことを突きつけることにした。
ゲンドウはともかく、冬月はタダ考えないようにしていただけである。
蔵馬が……タダの計画の予備でしかないゲンドウの息子が、実は自分達では御し得ない存在かも知れないことを……。
それでも、ゲンドウは認められなかった。
親である自分が御し得ない息子の存在を……。

「とにかく、シンジ君の抹殺は一時中止だ……残り、5体の使徒全てを殲滅するまでは……いいな、碇!」

結局、冬月もゲンドウと同じくまだ蔵馬を侮っている。
憂いを断てば、蔵馬を抹殺できると思っているのだから……。
相変わらず、自分の上司達を冷めた目で見ているリツコだった。

☆      ☆

蔵馬との初体験はレイとアスカにとっては甘美なものであった。
もともと、蔵馬は盗賊妖怪時代…妖狐・蔵馬の美しさに魅了された何十、いや何百もの女たちを抱いていた。そんじょそこらの人間のプレイボーイとは経験が段違いであった。
それに加え、碇シンジとして生まれ変わってから、芽生えた優しさが拍車をかけた。
それ故に、レイとアスカは破瓜の苦痛よりも快感の方が勝り、初体験ながらも2人は絶頂に達していた。

蔵馬と一夜を過ごしたレイとアスカの甘えぶりは、相当なものだった。
特にアスカは今までの反動か、3人だけの時はよく蔵馬に甘えるようになった。
前述したことだが、アスカは14歳のときに大学を卒業している為、同年代の男子が子供に見えていた。
蔵馬に惚れていることを自覚した後でも、蔵馬が他の者より大人っぽいところはあるが、それでも甘えるのには抵抗があったのだ。
しかし、蔵馬が実は自分よりもかなり歳上であることを知ったアスカは、もはや遠慮を捨て蔵馬に甘えるようになったのだ。
そんなアスカに負けじと、レイも前以上に甘えるようになった。
流石に、人前ではそういう態度を取らないので、蔵馬も何も言わず2人を受け入れていた。

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霊力に目覚めたレイとアスカは、蔵馬の要請を受けたゲンカイから、念話の訓練を受けていた。レイとアスカが念話を使えるようになれば、蔵馬と初号機の中のユイのように、それぞれのEVAにインストールされているキョウコと1人目のレイの魂と話すことが出来る。
特にアスカは、ママと話すことが出来ることを喜び、訓練も真剣に受けていた。
レイは、1人目の自分とどう向き合っていいか分からなかったが、蔵馬が付いているので、勇気を出して、正面から向き合う気になっていた。

「どうですか、レイとアスカの様子は…?」

訓練の様子を見に来た蔵馬がゲンカイに尋ねた。

「ふむ、中々筋がいい。ユウスケよりも教え甲斐があるな」

「それ、陣達の修行のときも言っていませんでしたか?」

蔵馬が黄泉の参謀だったとき、黄泉との約束で妖力値100,000P以上の妖怪を用意することになり、かつて暗黒武術会で戦った、陣、酎、凍矢、鈴駒、死々若丸、鈴木の6人をゲンカイの元で修行させ、見事妖力値100,000P以上のS級妖怪にすることに成功したのだ。
その功績で、黄泉の国家の第二軍事総長に昇格。
更に蔵馬の台頭を目障りに思った当時のNO,2、軍事総長・鯱に暗殺されそうになったが返り討ちにして、黄泉の国のNO,2……軍事参謀総長になったのだ。

「それだけ、ユウスケの出来が悪いということじゃな……」

ゲンカイと蔵馬は声を出して笑った。
同時期、ユウスケが二回連続でくしゃみをしたとかしないとか?

☆  ☆  ☆

満月の夜。
蔵馬は何気なく、月を見ていた。
そのとき、蔵馬の目に戦闘ヘリの編隊が映った。
ベランダに出ると、戦闘ヘリと謎の陸上起動兵器が街中で戦闘していた。
街は大パニックが起こっていた。

「なんで?……なんで非常事態宣言が出されないのよ!?ほんと、この国ってトロイんだから……敵は、新手の使徒?レイ、蔵馬とミサトはどこほっつき歩いてるか知ってる……」

隣のベランダにアスカとレイも出てきていた。アスカは入浴中だったらしく、裸のまま出てきていた。

「蔵馬君なら……」

「俺はここに居るよ」

声に反応して、横を見ると確かに蔵馬が横にいた。

「!!」

アスカの顔が真っ赤に染まった。

「………今は、みんな騒ぎの方に集中しているとはいえ、明かりの点いた部屋は暗い外からは見やすいんだ……さっさと中に入って服を着てきなさい……お前の裸体を他の男に見せるのは惜しいからな」

顔を赤く染めたまま、ダッシュで室内に戻るアスカであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

翌朝。
柵に囲まれた起動兵器の足跡の上にアスカが立っていた。

「こんな明確な物理的証拠があるのに、謎の移動物体って……この国の治安はどうなっているんでしょうか……」

「この国の治安は悪くないさ、20世紀ほどではないがな……しかし、この第3新東京市はNERVのお膝元、トップの司令があの髭では期待するだけ無駄だ!」

アスカの疑問に蔵馬のゲンドウに対する毒舌が容赦なく吐き出された。
今や、かけらもNERV上層部を信用しなくなったアスカはあっさり納得した。

「そういえば今日、転校生が来るみたいよ……こんな物騒な街に越してくるなんて、物好きね」

『……何で、物好きなの?」

レイが不思議そうに尋ねた。

「……あんた馬鹿ァ!使徒が攻めてくる都市なのよ。戦う力のない一般の人なら、近付こうなんて思わないはずよ。現に、疎開が進んで全校生徒の人数もあたしが来た頃より3分の1くらい減っているわよ!」

蔵馬も、疑問に感じていた。
蔵馬のクラス、3−AはEVAのチルドレン候補達が集められているクラスである。そのクラスに今の時期に転校生が来るなどおかしい。
後で加持に調査を依頼することにした。

校門に到着した蔵馬達にケンスケが話しかけて来た。

「お早う、蔵馬。昨日の爆発事件見たか?感動モンだったよな!」

「……不謹慎だぞ、ケンスケ。その事件で負傷者が出ているんだから」

蔵馬がやんわり注意したが、ケンスケは聞いておらず、訳のわからない擬音を叫んでいた。

「蔵馬!変態メガネは放っておいて、さっさと教室に行きましょう!!」

呆れたアスカは、蔵馬の手を取り教室に引っ張っていく。
ちゃっかり、レイも蔵馬の反対の手を握っていた。蔵馬の持っていた鞄を自分の脇に抱えて……そこまでして蔵馬と手を繋ぎたいようだ。もう夜を共にするまで往ったというのに、まだまだ初々しいレイだった……。

周りの視線はこの3人に集中していた。
男子達は、学園で1、2を争う美少女2人を独占している蔵馬に対して、羨望の視線を……。
女子達は、学園NO,1の美男子の傍にいつもいるレイとアスカに対して、嫉妬の視線を……。
それぞれ込めていた。
以前も述べたが、男子はただ1人を除き蔵馬にやっかむのを止めている。
しかし、女子は諦めが悪いのか、男より女の方が色恋沙汰に関してはタフなのか、まだまだ諦めていないようだった。

「畜生。惣流さんと綾波さんの2人を独占しやがって……碇のヤロォ〜」

ただ1人の男子=二階堂ミツルがもはや、蔵馬を呪い殺しそうな目で睨んでいた。
懲りずに、アスカとレイの2人にアタックを掛けているのだが、もはや話しかけても返事すらしてもらえなくなっていた。

「しつこい男は嫌われる……典型的な奴になったな、二階堂」

「うるさい!」

☆      ☆

男子は、騒然としていた。
転校生はかなりの美少女であった。
綾波レイや惣流・アスカ・ラングレーに匹敵する新しい美少女の転校に、男子は浮かれていた。

「霧島…マナです…よろしくお願いします」

「よろしゅう!」

トウジがいつものごとくおちゃらけて挨拶を返した。
周りが笑いに包まれた。

「はい、よろしく……さて、霧島さんの席は……碇君の隣が空いていますね」

担任は、蔵馬の隣、レイの座っている反対側の隣を示した。疎開が進み蔵馬のクラスも人数が減り、空席が増えているからだ。
蔵馬は、驚愕していた。
霧島マナ。
中学時代のクラスメート。
そして蔵馬が碇シンジとして生まれ変わり、初めて恋した相手……そして、彼女も蔵馬に好意を抱いていた。

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「碇君、霊能力者って奴……感激だわ。ずっとオカルトとか好きでそういう力を持っている人を探していたのよ……それが、初恋の人だったなんて、ドラマティックだわ……」

「だってまだ、返事訊いてないもん……。はっきり、言ってくれていいんだ……覚悟は出来ているから……」

「碇君こそ、大丈夫、わたし、けっこう重いでしょ…」

「あれ、碇君?なんで?……ああ、そうか……夢かぁ……」

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「久しぶりだね、碇君…」

「……ああ、久しぶり……霧島……」

2人の会話にまわりは騒然とした。

「……蔵馬君……その人と知り合いなの?」

レイが浮かない顔をしながら訪ねてきた。

「……ああ、中学の……クラスメートだ……」

この台詞に、男子はがっくりと来た。
新しい転校生は、蔵馬の知り合いであることに……。
つまり、彼女も望み薄の可能性が極めて大であった。

しかし、二階堂は今度こそと思っているようだ。

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「ねぇ、碇君」

「なんだ、霧島?」

休み時間、クラスメートの質問攻めから抜け出したマナは、蔵馬の傍に寄ってきた。
蔵馬の傍にいた、レイとアスカはなんだか面白くなかった。

「本日、私、霧島マナは、シンジ君の為に午前6時に起きて、この制服を着てまいりました!どう、似合う?」

「………」

いきなりの猛攻に蔵馬は戸惑っていた。
確かにマナは、明るく積極的な少女だ。しかし何故、蔵馬にここまで積極的なのか……しかも、いきなりファーストネームで呼び始めたし……彼女の蔵馬に対する想いは、夢幻花の花粉によって忘れて果てている筈なのに……。

「ちょっと!アンタいい加減にしなさいよ!!」

今まで沈黙していた、アスカがとうとうキレた。

「アンタねぇ、蔵馬の昔のクラスメートかなんか知らないけどね、蔵馬から離れなさいよ!!」

「……蔵馬ってシンジ君のこと?」

「そうよ!蔵馬が大切な人にしか呼ばせない、『と・く・べ・つ』な名前よ!!」

優越感に浸るアスカ。

「アスカはつい最近、ようやく呼ぶ事を認めてもらった……」

「……五月蠅い、レイ!」

レイの突っこみにアスカの勢いが弱まった。

「ふ〜ん……ねぇ、じゃあ私も『蔵馬』って呼んでもいい?」

マナが甘えるように頼んできた。

「……済まないが、遠慮してもらう。簡単に許したら、アスカの立場がないし…それに、霧島の態度に少し、不審があるんでな…」

蔵馬は探るような目でマナを見つめた。

「そんな……私の何処が不審なの……」

「俺達はそれ程親しく無かったはずだ。それなのに何故ここまで積極的なんだ?」

「……だって……私、中学の頃からシンジ君のこと、好きだったし……」

「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」」

マナの爆弾発言に、クラス中の男子は予感が的中したことに嘆いた。女子は新たなる恋敵の登場に、闘志を燃やした。
二階堂は、更なる怒りを蔵馬に対して抱いていた。

「ちょっと、霧島!話がある……屋上に来てくれ!!」

マナの台詞に驚愕した蔵馬は、マナを連れて屋上に出た。
蔵馬は信じられなかったのだ。夢幻花で確かに消したはずなのに……何故、再びマナがそんなことを言うのかを……。

「俺の事が好きだ……というのは冗談ですよね…」

「……本気だよ!私、碇君のこと、初めて会ったときから、好きだった……」

蔵馬は訳がわからなかった。蔵馬のことが好きだったことは覚えていても、その感情自体は忘れているはずである。

「ねぇ、碇君……中学の時、噂になった失踪事件のこと……覚えている?」

「……ああ、覚えている」

失踪者は、妖怪『八つ手』の餌になった人達だ。
当時、あの街を仕切る妖怪として、八つ手と戦った。
そのとき、飛影と出会い、彼と共闘し、八つ手を倒す事が出来たのだ。
今の蔵馬にとっては、八つ手など雑魚妖怪でしかないが、当時は碇シンジとして生まれ変わったが為、妖狐としての妖力を失い弱体化した蔵馬にとって、かなりの強敵であった。
マナも、八つ手の手の者に攫われ、蔵馬が助け出さなければ間違いなく喰われていただろう。そして、その後に夢幻花の花粉で記憶を消去したのだ。

「あれから少しの間……私、碇君にときめかなくなった……でも、一週間くらいしたらまた、碇君のことを好きになったんだ……でも……以前と違って、何故か碇君に話しかけられなかった……想いを伝えることが、できなかった……何故か振られてしまうってイメージが頭に浮かんできて……」

蔵馬は、女の真の恋心というの侮っていたのだ。
一時的に消されようが、恋心という炎は再び燃え上がるもの。
つまり、夢幻花で消し去った恋心は、新たなる恋心として不死鳥のごとく蘇っていたのだ。
しかし、夢幻花に消された記憶の1つ……蔵馬に振られたという感覚がマナの無意識の内に存在していたので、蔵馬に近づけなかったのだ。

「でもね……そんなイメージは振り払って、これからは碇君……シンジ君にアタックするから……諦めたりしないから……」

蔵馬はどう答えていいのかわからなかった。
正直、今もマナに対しての想いは残っていた。
しかし、今の蔵馬にはかけがえの無い2人の少女がいるのだから……。

「綺麗ね……」

マナは風景を眺めながら呟いた。

「何が?」

「街の向こうに見える山……だよ。緑が残っている……」

そう言われて、蔵馬は風景のほうに目を向けた。

「そういえば最近、忙しくて風景に目を向ける余裕がなかったな……」

「シンジ君、EVAのパイロットだものね……」

「……誰に聞いた?」

「……クラスで知らない人は居ないんじゃない?」

「そうだな……しかし、それは公然の秘密だ…。あまり口に出さないように……」

「……私ね、シンジ君が羨ましいんだ……自分が生き残った人間なのに何も出来ないから……」

マナの表情が変わった。

「……ねえ、シンジ君。これあげる…」

マナは、蔵馬に赤いペンダントを渡した。

「これは、シンジ君との再会の記念……それと、私がシンジ君を諦めない証だよ!」

蔵馬はペンダントを受け取った。

「じゃあ、そろそろ授業が始まるから教室に戻ろっか?」

「少し、気持ちを整理したいから、先に戻っていてくれないか?」

「うん、わかった。じゃあ、また教室でね、シンジ君♥」

マナが屋上から姿を消した後、蔵馬は考えていた。
確かに、最初の方のマナの台詞からは嘘を感じなかった。
自分に対する気持ちに関しては本音なのだろう……しかし、マナに対して、気になることがあった。

「蔵馬!!NERV本部に行くわよ!!」

屋上に蔵馬の荷物を持ったアスカとレイが現れた。
2人共、少し機嫌が悪いようだ。

「おい、別にまだ時間じゃないだろう……まだ授業があるし……」

「いいから行くわよ!!」

「蔵馬君!行こ!!」

早退の手続きを既に取ってあったようで蔵馬は、2人に引きずられるように学校を後にした。

☆  ☆  ☆

「なんなのよ!あの霧島って女!!」

アスカはかなりご立腹だった。
蔵馬の昔のクラスメートというだけでも気に入らないが、あろうことかクラス全員の前で蔵馬に告白をかましたのだ。
レイにいたっては、蔵馬の腕に自分の腕を絡ませがっしりと抱きついていた。

「ちょっと、蔵馬!蔵馬はあの女の事をどう思っていたのよ!?」

「その話は後でな……」

蔵馬はそう答えると、明後日のほうに視線を向けた……アスカがつられてその方角に目を向けると……そこにマナが立っていた。

「ついてきちゃった!」

「……アンタ、学校は!!」

自分達もサボった事を棚に上げ、マナを問い詰めるアスカ。

「だって、シンジ君がいないからつまんないんだもん!」

「……霧島、転校初日からサボるのは感心しないな……まあ、アスカとレイも人のことは言えないが……」

蔵馬を無理やりサボらせたのだから、こちらも性質が悪いと暗に言う。

「……で、霧島は何処までついてくる気だ?」

「シンジ君が行くところならどこまでも……」

マナはおちゃらけて、答えた。

「アンタね、あたしたちが行くところは関係者以外立ち入り禁止よ!さっさと帰りなさい!!」

「電車の中なんだから、直ぐには帰れないよ〜……ねえねえ、ぎりぎりまでいいでしょう?」

「……好きにしてください」

蔵馬は呆れ返りながら答えた。

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マナを伴った蔵馬達は、NERV本部前に到着した。
その間、レイがずっと蔵馬と腕を組んでいたので、アスカとマナはなんとなく面白くない顔をしていた。
レイが蔵馬から離れない為、もう片方の腕を巡って言い合っていたのだ。

「さあ、ここから先は、アンタは立ち入り禁止よ!さっさと帰りなさい」

「ねえ、シンジ君。あたしも入りたい……いいでしょう」

甘えるように蔵馬に懇願するマナだが、流石に蔵馬は断った。

「流石にそれは駄目だな。第一、俺には許可できる権限が無い。霧島はここに入るためのカードを持っていないんだから諦めて帰りなさい」

「こうすれば入れるでしょう……」

マナは蔵馬の後ろに回り抱きつこうとしたが、いきなり蔵馬の姿を見失った。

「……あれ?」

「悪ふざけが過ぎるよ、霧島!」

「……うっ!?」

蔵馬はマナをかわし、その背後に回り込み、後ろから香気に睡眠作用のある魔界の花の匂いを嗅がせ眠らせた。
S級妖怪の蔵馬の動きに、普通の人間はおろか訓練を積んだ人間でさえが追いつけるわけが無く、マナは蔵馬の動きを把握できなかったのだ。
ちなみに、蔵馬の腕に抱きついていたレイは今、蔵馬にお姫様抱っこをされていて、頬を染めていた。
気を失ったマナを人目につかない場所に移し、誰かに危害を加えられないよう、使い魔を護衛に就けておいた。
マナの安全を確保したので、蔵馬はレイをお姫様抱っこしながら、アスカを連れ本部に入っていった。

☆      ☆

「やあ、シンジ君、それにアスカとレイも…」

「こんにちは、加持さん」

NERV本部内に入った蔵馬達は、ここ数日、碇グループと接触する為、京都に出向いていた加持と出会った。
加持は、声の音量を下げ……3人しか聴こえないくらい……喋りだした。

「シンジ君。とりあえず碇翁との話はついたよ……近日中に現役復帰するらしいよ!」

「早いですね……いくら加持さんの人脈を使うとはいえ、もう少し時間がかかると思いましたが…」

「俺もそう思っていたんだけどね……先にゲンカイって人が連絡していたらしい…シンジ君が信頼できることをね……」

「師範が!?」

実はゲンカイは碇シンタロウと旧知であった。
今から30年くらい前、シンタロウは商売敵の刺客の妖怪に襲われた。
雇ったのは、闇の世界に関わり、妖怪の力で富を得た富豪……B・B・C(ブラック・ブック・クラブ)のメンバーの1人だった。
その襲ってきた妖怪を退治したのがゲンカイであり、シンタロウはゲンカイに絶大な信頼を置いていたのだ。

「世の中、広いようで狭いですね…」

流石の蔵馬もそこまでは知らなかったようだ。

「ところで、アスカとレイが何か不機嫌なようだが……?」

元の音量に戻し、加持が尋ねた。

「聞いてよ加持さん!」

アスカがマナのことについて話した。

「成程、アスカとレイの恋敵が登場したというわけか……で、シンジ君はその娘のことをどう思っているんだい?」

「………俺にとっての、初恋の相手だというだけです…」

「「「!!!」」」

蔵馬の返答に加持達は絶句した。
レイとアスカの顔は青褪め、体が震えていた……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

学校を早退してきた為、シンクロテストの時間までかなりあるので、L−2にある自動販売機コーナーで時間を潰すことになった。
そこで、蔵馬は霧島マナについて説明していた。

「成程ね……しかし、記憶ごと自分に対する想いを消すなんて、思い切ったことをしたな……」

「あの当時はそうするしかありませんでした……俺は碇シンジに生まれ変わった為、かつての妖狐としての力を失っていました。その後も危険に巻き込むことになるのは確実でしたから……今は…かつて以上の妖力を持っているし、状況は変わりましたから大丈夫なんですけど……それに、レイとアスカに対しての想いは、当時の霧島に対してより強いですから……」

蔵馬の言葉に照れくさく頬を染めながらも、喜びを感じるレイとアスカであった。

「ですが……彼女に対する気持ちも…まだ残っているのは確かなんです……それに少し気になることが……」

再び、声の音量を下げ、不審な点を語り始めた。

「まず、霧島が3−Aに転校してきた事です……加持さんはご存知のはず…」

「『コード707』…シンジ君達のクラスはチルドレン候補が集まっている……つまり、NERVの息がかかってるクラス…そこに、転校してきたことが不審な点だというわけか……」

アスカは、自分達のクラスの秘密を知り再び絶句していた。
EVAとのシンクロの秘密を知った…つまり、クラス全員の近親者の魂が利用されるということである。
親友のヒカリのことを思い浮かべ、不安そうな顔になった。

「それと、霧島の動き……あれは、訓練された兵士の動きです……中学の頃はあんな身のこなしではなかった……つまり…」

「霧島さんって娘は、何処かの組織で兵士としての訓練を受けている……つまり、何らかの組織と繋がりがある…」

「最後に、霧島がくれたこのペンダントですが……盗聴器が仕込まれていました……まあ、先程壊しましたが…」

「……霧島さんは、俺と同業の可能性が高い……か…」

加持の言葉に、アスカも理解した。
つまり、霧島マナは何処かの組織が、NERVについて探る為に寄こしたスパイの可能性がある…ということである。

「……しかし、俺に対する想いを告白したことについては……嘘を感じなかった……その事だけは真実のようだ…」

レイとアスカは再びむっとなる。…NERVに対してのスパイは別にどうでもいいが、その為に蔵馬に近付いてきたと思うと腹が立つし、更に、蔵馬に対する気持ちが本物となると、彼女たちにとってはなおさら性質が悪かった。

「……好きな相手を利用する……霧島さんは……平気なの?」

レイはマナの気持ちが理解できなかった。
レイはゲンドウに利用されていた。
ゲンドウはレイに拘っているが……それは、あくまでユイと再会するのにレイが必要であるのと、ユイの面影を持つことが原因である。
結局、ゲンドウはレイを見ていないに等しかった。
だから、利用できたのだろう。
しかし、マナは蔵馬に恋していて、その恋する相手を利用しているのだ。
まだまだ、精神的に幼いレイに理解しろというのは酷かもしれなかった。

「……加持さん、霧島のことも気になりますが、昨夜の起動兵器も気になります…二つのこと調べられますか?」

「……了解!俺はシンジ君に付いたんだ…シンジ君の指示を優先させるよ、じゃ、これで…」

「いえ、調査は明日からで結構です。とりあえず今日はミサトさんと一緒に居てあげてください。ここ数日寂しがっていたようですから…」

ヨリを戻してから日が浅い為、数日間加持に逢えなかったミサトは、タダでさえ多すぎる酒量が、更に多くなっていた。

☆  ☆  ☆

EVAの秘密を知ったアスカとレイのシンクロ率は急激に跳ね上がった。
蔵馬のシンクロ率は99.89%。
もはや、蔵馬のシンクロ率が高いことについてはみんな当たり前と思っているが……。
アスカのシンクロ率、95.61%。
レイのシンクロ率、92.86%。
2人のシンクロ率も90以上に達した為、リツコは驚愕した。
しきりにアスカとレイに質問するが……。

「そんなのあたしたちが知るわけ無いじゃん!大体、シンクロ率が上がったんなら喜ばしいことじゃない!!なんで焦るのよ!?」

と、アスカに強く反論され黙り込んでしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

蔵馬に言われたとおり、加持はミサトを呑みに誘ったので、ミサトは嬉々として出かけ、レイとアスカに今夜は帰らないことを伝えた。
そのため、レイとアスカは碇宅に泊まることにして、入浴後、蔵馬のベッドに潜り込んだ。
マナの登場で、色々な感情が渦巻いており、蔵馬に抱かれながら落ち着きたかったのだ。
蔵馬も2人の気持ちを理解し、彼女達の気が済むまで抱いた。
蔵馬の温もりを感じ、レイとアスカは幸せを感じていた。

〈第十八話 了〉






To be continued...
(2009.08.01 初版)
(2009.11.28 改訂一版)


(あとがき)

ジョルジュ・早乙女です。
第十八話、いかがだったでしょうか。
今回は、大人の雰囲気が感じ取れ、なんだか恥ずかしいですね……かのものも、当初予定通りとはいえ、表現の仕方に苦労しているようです。

コエンマ「こら、ジョルジュ!ワシが来る前に始めるな!!」

ジョルジュ「あれ、コエンマ様。仕事はどうしました…今回も溜まっているはずですが……」

コエンマ「ふん!ワシの実力を持ってすれば、アレくらいの仕事簡単に終わるわ……」

ジョルジュ「……そういえば……今朝、コエンマ様の執務室の前であやめさんとすれ違ったような……さては、手伝ってもらいましたね…」

コエンマ「ギクッ!」

ジョルジュ「さて、それはともかく……今回はとうとう、+αの部分…つまり、霧島マナちゃんの登場ですね」

コエンマ「うむ、つまりこの話からLARS+αから正式にLAMRSに変わるわけじゃ」

ジョルジュ「蔵馬さん……二股どころか三股になるんですか……」

コエンマ「実は、かのものは霧島マナも喜多嶋麻弥もどちらも好きでな……だからこそ、この話でマナと麻弥のふたりを1つしたんじゃ」

ジョルジュ「キリシママナとキタジママヤ……なんとなく語感も似ていますしね」

コエンマ「それも、ひとつの理由じゃ…」

ジョルジュ「では、これからもかのものの駄文にお付き合いください」

コエンマ「お前はワシを待たなかったから、あとでお仕置きじゃからな!」

ジョルジュ「そんな〜。コエンマ様許してくださいよ〜」

コエンマ「い〜や!絶対許さん!!」



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