幽☆遊☆世紀 エヴァンゲリオンYu☆Yu☆ GENESIS EVANGELION

第二十話

presented by かのもの様


芦ノ湖で零号機が新兵器、垂直式使徒キャッチャーを使用していた。
トライデントは、2機確認され、内1機は発見されたが、後1機が見つからない。以前、芦ノ湖に潜伏している形跡があったため、ミサトの指揮の下捕獲作戦が行われていた。
しかし、この新兵器どうみても釣竿であり、こんなので捕獲できれば苦労はないな……と、誰もが思っていた。

「……釣れないわね……餌が悪いのかしら……」

仮設テントで団扇片手に、ミサトが呟いた。
その隣で、ジュースを飲んでいる蔵馬は呆れ返っていた。

「……そういう問題ですか?」

そもそも、こんなもので捕獲が出来るか!
こんな物造るくらいなら、もっとマシな事に資金を使え!
と、言ってやりたい蔵馬であった。

「……それはともかく、あの起動兵器はNERVには関わりがないでしょう……何故探すのですか?」

「女の意地よ!……碇司令は何かを隠しているわ。だから焦らすの……本当のこと知りたいじゃない……」

「……こんな事で焦れるような奴なら、俺ももう少し楽なんですけどね……」

☆      ☆

NERV本部に、移動物体……トライデント……と軍の、戦車隊との抗戦の情報が入ってきた。
トライデントは、戦車隊を全滅させ、再び行方をくらましていた。

「……軍だけではない、民間施設も被害を受けている」

「……好きなようにさせておけ!」

「しかし、あの移動物体の行動は異常だぞ……」

まるで破壊を楽しんでいるようなトライデントの行動に危機感を覚える冬月だった。

「問題ない…」

ゲンドウはいつもの台詞を口にした。

(こいつ……本当に考えているのか?)

最近、ゲンドウが実は何も考えていないのではないかと感じる冬月であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ここ数日、マナは学校を欠席していた。
マナの正体がはっきりした為、蔵馬も少し心配になっていた。

「……やはり、例の起動兵器の件で何か彼女にも問題が降りかかったのか?」

「居れば居たで、やきもきするけど……居ないなら居ないで、心配になってしまうわね……」

「………うん…」

マナのことが気に入らないと公言しているアスカも、多少気になっているようだ。
レイも、心配そうな顔をしている。
なんだかんだで非情になりきれない2人だった。

そんな話をしていたとき、教室に今まで欠席していたマナが入ってきて蔵馬に語りかけてきた。

「シンジ君!」

「……霧島……どうした?」

「居ないの……」

「……誰が…?」

「集中治療室のケイタが……」

「……病院には行くな……と言った筈だが……」

「……だって居ないんだもん……」

既に話が噛み合っていない。どうやら、マナは動揺しすぎているようだ……。

「集中治療室を出て、一般病棟に移ったとか?」

「いや、彼の立場上一般病棟に移るのは考え難い……隔離病棟に移されている可能性もある」

アスカの意見に蔵馬が答えた。

「病院の受付で聞いても、『そんな人は入院していない』って……」

「……彼の今の立場ならそう答えるだろう。彼は戦自の脱走兵。いわば、戦自にとっては反逆者だ……いくら友人とはいえ、おいそれと面会させるわけにはいかないだろう」

「脱走兵?」

「ああ、加持さんの調べで、ムサシ・リー・ストラスバーグと浅利ケイタの2人は、トライデントを戦自から奪い脱走したことがわかった……」

「なんで脱走なんか……」

アスカの疑問はもっともだった。新型兵器のパイロットに選ばれたということは、彼らは戦自のエリートではないのか?……と。

「……霧島…これは俺の推論なんだが……お前達が戦自に入隊したのは……お前達の意思ではなく、強制されたのではないか?」

「……何故…そう思うの?」

「……まあ、中学時代のお前は、ミリタリーよりむしろオカルト関係の方に興味があったようだったし……ストラスバーグも浅利も、そんな風には見えなかったからな…」

蔵馬はケンスケの机を見ながら言った。

「………」

蔵馬の推論は正しく、彼ら3名は強制されて戦略自衛隊に入隊させられたのだ。
マナが受験した高校は、裏で戦自のあるお偉方と繋がっていて、ロボット兵器のパイロットの適正のあるものは強制的に戦自に入隊させられたのだ。
その後、彼らの親には彼らが自分から志願した……と偽りの報告を出されたのだ。
それ以来、彼らは親とは一度も会っていなかったのだ。

「……何…その漫画のような展開は……」

マナから事情を聞いたアスカも流石にマナ達に同情したようだ。今時、そんな話があるのかと……。

「……俺も使徒襲来当日に父さんに呼ばれ、EVAに乗ることを強制されたからな……しかも、レイを使った茶番を演じて……所詮、NERVも戦自も同じ穴のムジナだな……」

蔵馬も似たよう物だと思い出し、事実は小説より奇なり……という諺を思い出すアスカだった。

「……そんなことより、ケイタのことを…」

思い出したようにマナが蔵馬に懇願してきた。

「……分かっている。先程加持さんにメールで調査を依頼した。直ぐに分かる……」

話をしながらも、きっちりと行動している蔵馬だった。

☆  ☆  ☆

蔵馬達は、市街の外の森に来ていた。
加持からの返信で、『浅利ケイタは、もう1機のトライデントをおびき出す囮として使う為、戦自に連れ出された』と知らされたからだ。
蔵馬は1人で行くつもりだったが、マナが共に行く事を強行に主張し、レイとアスカも同じく主張した為、止む無く連れて行くことにした。

「それにしても……同士討ちをしたのなら、囮として役に立たないんじゃないの?」

アスカの疑問に蔵馬が答える。

「それを確かめる為……というのもあるだろう。この囮が通用しなければ、彼らは同士討ちをしたと確信できる。そして、今度は霧島を囮に使おうとするだろうな……」

トライデントが奪われ、その存在が白昼にさらされてしまった為、マナの任務は終了ということになる。
もはや、トライデントは戦自にとっては、厄介な存在に過ぎない。
つまり、もはやマナ達は不要の存在になったのだ。
ならば、最後まで有効利用しよう……などと考える輩もいるだろう。
トライデントの処分する為に、1人の少女を囮として犠牲にする……それくらいのことはやりかねないのである。

「……ほんと、戦自って、NERVとどっこいどっこいの組織ね……いや、下手したらNERVより性質が悪くない。一応、NERVの問題って、司令と副司令、あとリツコだけでしょう……ミサトは、ギリギリセーフってとこだけど……」

「他の職員の人達は……みんな頑張っている……碇司令たちにいいように利用されているけど……あの人達は、本気で人類の平和を護ろうとしているから……」

そう、NERVの職員たちは、本気でサード・インパクトを防ぐ為にNERVに所属しているのだ。
真実を知るのは、トップの3人、碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、赤木リツコの3名のみ……。
蔵馬は、基本的に大切な仲間たち以外はどうでもいいのだが……NERVの職員…特にEVAの整備をしている整備員たちは何かと蔵馬たちチルドレンに親切にしてくれる。
高校生を戦わせている罪悪感からかも知れないが……。
それでも、その事に何も感じないトップ3人に比べればはるかにマシである。
そんな彼らのために、人類補完計画は絶対阻止したいと思う蔵馬だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

地獄絵図である。
死体、死体、死体、死体、死体の山である。
浅利ケイタを勾留しているはずの戦自の部隊はほぼ壊滅していた。
その死体たちは、何者かに喰い殺されていたのだ。
レイは目を背け、アスカは嘔吐感を抑えるので精一杯、マナに至っては青褪めへたり込んでいた。
蔵馬は、まだ息がある自衛官に問いかけた。

「……ここで一体何があった?」

「…ば……化け……も……の…になった。……ガキが……目を覚ましたら……化け物に……なって……皆を喰い…殺し始……めた……」

そう言うと、男は事切れた。

「……ねえ、蔵馬君……あっちから……何か……凄く嫌な感じがする……」

レイの指摘に蔵馬はそちらに目を向けた。

「……あたしも、何となく……禍々しい感じがするわ……」

アスカも、レイに同調した。

「ああ、確かに……それほど強くはないが、妖気を感じる……下級妖怪の妖気が……」

同時に殺気も感じ、蔵馬は身構えた。

「……来るぞ!……君たちは下がっていろ!!」

霊感は持っていても、妖怪との戦闘はド素人の3人を下がらせた。
妖気の持ち主が、殺気を放ち飛び出してきた。

「……ケイタ!?」

その魔物は、見たこともない獣の姿をしていたが……顔は浅利ケイタのものだった。

「人面獣!?……しかも、人を喰らうタイプだ!」

本能からか、ケイタの顔をした魔物は蔵馬を避け、後ろのレイたちを襲おうとしたが、それを見逃す蔵馬ではなかった。

「させん!薔薇棘鞭刃!!」

薔薇の鞭が、魔物の足を斬りおとす。
魔物はその場に倒れ伏した。
蔵馬は、魔物からレイたちを庇うように立ちはだかった。

「……碇君……邪魔をしないでくれ……僕は……そこにいる……マナちゃん達の肉を……味わいたいんだ……さっきの男共とは違う……柔らかそうな女の肉を……味わいたいんだ……」

「やはり、貴様は……浅利ケイタ本人か!?」

人面獣は浅利ケイタが変体した姿であった。

「……嘘……ケイタなの?」

「喰わせてくれよ、マナちゃん……君のその美味しそうな肉を……」

「ケイタ!?……なんで……」

ケイタの口が裂け、涎を垂れ流し始めた。

「喰わせろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

片足の力のみで飛び上がり、マナに襲い掛かる。

「させるか!!」

薔薇の鞭の連撃により、ケイタの五体は切り裂かれた。

「ギャアアアァァァァァァァァ!!」

断末魔の悲鳴を上げ、ケイタは息絶えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

どうして!?
どうしてケイタが化け物に……そして、私を食べようとするなんて……。
私、オカルトとかは好きだけど……こんなのは嫌!!
どうして、ケイタがこんな事になるの!?

シンジ君が、私を助ける為にケイタを殺した。
ケイタ……ご免ね……助けるつもりだったのに……。
それにしても、シンジ君は一体?
薔薇が鞭になって………!?
なんだろう……私…何かを忘れている……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ケイタが化け物になり、人を喰い殺したことと、自分まで喰おうとしたことに、流石のオカルト好きのマナもショックを受け、泣きながら蹲っていた。

「……どういうことなの!?あの浅利ケイタって奴……妖怪だったの?」

「……いや、中学の頃は間違いなく人間だった……何故、彼が妖怪に………!?」

この時、蔵馬はあることを思い出した。
先日、ケイタが収容された集中治療室でアスカが言った……。

『背中には、刃物で斬られた後があった』

(……まさか!?……確かめる必要があるな……)

蔵馬は、極秘連絡網でコエンマに調査を依頼した。

☆      ☆

戦自は、浅利ケイタを勾留していた部隊が何者かに壊滅させられたことに、危機感を抱いていた。
早急に、もう1機のトライデントを捕獲……または破壊しなければならないのに……。
第2のプランである、霧島マナを囮にする作戦を実行しようとしているのだが、肝心のマナが行方不明である。
もしかしたら、彼女は、ムサシ・リー・ストラスバーグと合流しているのかもしれない。
トライデントが、これからも第3新東京市に被害をもたらせば、NERVが出張ってくるかもしれない。
ただでさえ、戦自の立場はかなり悪いのに、このまま失態を続ければNERVの連中を益々増長させるだけである。
戦自としては、何とか手を打たなくてはならなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ここ数日、マナは蔵馬の部屋にかくまわれていた。
蔵馬たちが学校に行っている間、掃除、洗濯などの家事を任されていたのだ。
もちろん、久遠が護衛していた。
蔵馬の部屋は、NERVや他の組織の盗聴、盗撮の類が存在していない。
仕掛けても、蔵馬が直ぐ見つけ破壊しているし、最近は久遠が仕掛けようとする諜報員を追っ払っていた。
故に、隣人であるミサトでさえも気付いていなかった。
知っているのは、蔵馬、レイ、アスカのみである。
普段ならば、蔵馬とマナを1つ屋根の下に住まわせるなんてことに大反対するアスカとレイだったが、今のマナの落ち込みようを見て、そんな事を言っている場合ではない事は理解していた。
それに結局自分達も、蔵馬の部屋に入り浸っている為、そうそう蔵馬とマナが2人きりになることはなかった。

碇宅に客が来ていた。
おしゃぶりを咥えた美青年……コエンマである。

「蔵馬、邪魔するぞ……」

「また来たのね……この変人……」

「誰が変人じゃ!!」

「……蔵馬君……この人はどんな人なの?」

面識はあるがコエンマの正体を知らないレイとアスカだった。

「そういえば、彼について説明していませんでしたね……彼は、霊界の最高執政官。閻魔大王Jrのコエンマです」

「え……閻魔大王〜〜〜!!」

ドイツ育ちのアスカだが、日本に来て蔵馬達妖怪の存在を知り、その手の話を調べていたので閻魔大王のことは当然知っていた。
つまり、閻魔大王とは、ギリシア・ローマ神話の冥界の王ハーデース(プルートーン)と冥界の審判者ラダマンテュス、ミーノース、アイアコスを合わせた存在である……ということを……。

「さっき蔵馬も言ったが、閻魔大王Jrのコエンマだ。少なくともお前の約50倍は永く生きとるのだ。口の聞き方に気をつけろ!」

「は……はい!」

流石のアスカも恐れ入っていた。
ちなみに、霊界での幼児姿で現れていれば、ここまで恐れ入る事はなかっただろうが………。

「ところでコエンマ……どうでしたか?」

「うむ……お前の予想通りじゃった。霊界博物館に保管されていた『降魔の剣』は、いつの間にか贋物とすり返られていた……」

「やはり……」

「何なのよ蔵馬……そのコウマノケンって!?」

降魔の剣。
妖毒石で作られた剣で、斬りつけた人間を魔物に変えてしまう。それを防ぐには、毒が全身に巡る前に剣の柄の中にある解毒剤を飲ますしかない。
蔵馬がかつて、飛影、剛鬼と組み盗み出した霊界3大秘宝の1つである。

「しかし、何者が……」

厳重に警備されている秘宝を二度も盗まれたことに、コエンマは不思議がっていた。

「……俺達が盗んだときは、閻魔大王の留守を狙ったときでした。そして、今回は閻魔大王が失脚したとはいえ、警備が強化された後……恐らく内部事情を把握している者だと思われますね」

「内通者が居るという事か……!?」

「霊界の人間である可能性は高いでしょう……恐らく……剛鬼達を脱獄させた組織の……」

「奴らか!?……そういえば、剛鬼はお前が処理してくれたが……乱童は未だ……」

剛鬼と共に脱獄した妖怪とは、ゲンカイ師範の奥義を狙い、ゲンカイ師範の奥義継承者選考会の決勝戦でユウスケを苦しめた乱童であった。

「とにかく、降魔の剣が誰の手に渡ったのか調べなければならないな」

「その件ですが、実は加持さんに頼んでNERVが鹵獲したトライデントの戦闘データ映像を手に入れてもらうことになっているので、そこから俺が探りを入れます」

「……なんか、加持さんを使いまくっているわね……」

「彼には、それなりの報酬を前払いしているからな……それに見合う働きをしてもらうさ」

「報酬?」

「彼が命を賭けて知りたがっていた真実。彼にとっては破格の報酬だろう……彼がその真実を自力で突き止めるには、恐らく自らの命と引き換えにして、ようやく……といったところだろうからな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

コエンマが碇宅を辞した後、それまで沈黙していたマナが蔵馬に話しかけてきた。

「……シンジ君。そのコウマノケンって剣がケイタをあんな姿にしたの?}

「ああ、恐らくな……そして、ストラスバーグも……」

「ムサシも!?」

「浅利だけが襲われたとは考えにくい……そして、そう考えればまるで楽しんでいるかのようなトライデントの破壊活動にも説明がつく……」

マナは、泣きそうな顔になった。
これでは、ムサシを助ける事も不可能に近い……。
どうして、こんな事になったのか……。
ムサシもケイタも……脱走なんかしなければ……こんな事にはならなかったかも知れない。

☆  ☆  ☆

「いや〜苦労したよ…りっちゃんの目を誤魔化すのは……」

「お疲れ様です加持さん」

その夜に加持が、トライデントの戦闘データのディスクを持ってきた。
蔵馬達は早速、ディスクの内容を調べることにした。
その映像を見て、アスカが呟いた。

「何よ、このロボット……センスないわね……」

トライデントを襲っているロボットは、甲羅のような装甲の前面に単眼と口があった。
どう見ても、ゲームに出てくるモンスターのような外見である。
蔵馬は、このロボットに見覚えがあった。

「……あれは確か『妖鋼獣ガタスバル』……Dr,イチガキか!」

「シンジ君。心当たりがあるのかい?」

Dr,イチガキ。
生物兵器の専門家で、人間を対象とした様々な実験をおこなっている妖怪である。
2年前、暗黒武術会に研究成果を試す為に参加した。
ある高名な武道家を毒によって危篤に追い込み、その治療代として愛弟子3人を操血瘤という瘤を取り付け洗脳し、自分のチームに加えていた。
蔵馬が幽閉されたその武道家を助け、解毒剤を調合しあっさりと毒の治療をし、さらにゲンカイの霊光波動拳五大拳、修の拳の奥義『光淨裁』で3人を解放したあと、ユウスケの怒りの鉄拳を喰らったが、しぶとく生きていたのだ。暗黒武術会決勝戦では、浦飯チーム対戸愚呂チームの観戦をしていたくらいである。
しかし、よく戸愚呂弟の100%の妖気を浴びても死ななかったな……。

図式が読めた。
かつて、剛鬼たちを脱獄させた霊界の組織は、妖怪たちに人間界を混乱させ、それを大義名分として魔界との境界トンネルに再度結界を張ることを目的としていると推察される。
つまり、その組織がイチガキに『降魔の剣』を渡したのだろう。
奴にそれを渡せば実験としてそれを使い、人間界を混乱させるのは目に見えている。

「とんでもないシロモノが、厄介な奴の手に渡ったものね……」

「こうなったら一刻の猶予もないな……奴の手に『降魔の剣』がある限り、魔物に変えられる人間は後を絶たなくなる」

蔵馬は、ユウスケと飛影を呼ぶことにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……あの爺〜〜!あの時にぶっ殺しておけばよかった……」

ユウスケは憤慨していた。

「……マナちゃん……だったか、すまねぇな……俺達があのクソ爺を野放しにしていた為に、アンタの友達を酷い目に遭わせてしまって……」

ユウスケはマナに頭を下げた。
それを見たマナは慌てて、首を横に振った。

「…いえ、シンジ君達の所為じゃありませんから……ムサシとケイタが、何も考えずに脱走するから……」

「それより蔵馬……貴様、まだこの女に未練があったのか?」

呆れ顔の飛影が、蔵馬に問いかける。

「……未練って、飛影。お前マナちゃんのこと、知っているのか?」

「ああ、俺と蔵馬が初めて会ったときに、こいつの横にいた女だ……」

「ちょ……ちょっと飛影!!」

いきなり暴露する飛影を慌てて止めようとする蔵馬だが、手遅れであった。

「……一緒にいたって……シンジ君…私、この人の事知らないけど……」

「ふん!知らないのは当たり前だ。貴様の記憶は蔵馬が消していたからな!!」

「飛影!!」

これが、きっかけになった。
もともと、数日間蔵馬の傍にいたため、マナの霊感は再び強くなり始めていた、その為、かつての無限花の効果が失われかけていたのだが、これがきっかけとなり、彼女の記憶が戻り始めたのだ。

「……そうだ、私……あの時、シンジ君に告白して……そして、振られて……その後で、この人が襲い掛かってきて……そのあと、誰かに攫われて……気がつけば、シンジ君におんぶされていて……いい匂いがして……」

マナはハッとして、蔵馬を見つめた。

「……シンジ君。貴方、私に何をしたの?消した記憶って……これの事!?」

「……飛影……後で憶えてて下さい……わかったよ、霧島。俺の事を話そう……」

蔵馬は自分の正体と、かつての事を説明した。

「……酷い……酷いよシンジ君……私の記憶を……私のシンジ君に対する気持ちを…勝手に消すなんて……酷すぎるよ!!」

マナは泣きながら蔵馬の胸を叩いた。

「………ごめん……」

蔵馬は謝ることした出来なかった。

「……霧島……さっきも言ったように、俺は人間じゃない……だから君の気持ちには応えられなかった。だから……俺の事は忘れて…」

「また記憶を消すの?」

「……君が望むなら……」

「嫌!シンジ君が妖怪でも私、諦めない!!それに、綾波さんと惣流さんもその事を知ってて、シンジ君と付き合っているんでしょう。2人は良くて、私は駄目なの?それに、前にも言ったでしょう、オカルトとか好きで、そういう人を探していたって……ムサシやケイタみたいなのは辛いけど……シンジ君のことは別だよ……」

マナは、真剣な目で蔵馬を見つめた。
彼女の気持ちが本気であると感じたユウスケが蔵馬を諭した。

「こうなったらしょうがねぇ〜んじゃないか、蔵馬!」

「ユウスケ!?」

「レイちゃんとアスカの気持ちは受け入れたんだ…2人も3人も似たようなモンだろ!!マナちゃんを受け入れてやれよ」

「……シンジ君。おれもユウスケ君の意見に賛成だな。それに、マナちゃんは君にとって初恋の相手だろ……それに、既に二股をしているんだし…
三股になっても良いんじゃないかい…目指せハーレム!!ハーレムは男の浪漫だよ…」

何か、余計な事を言っている加持。
加持の『初恋』という言葉に、マナが反応した。

「そうなの?シンジ君……」

「……ああ。だから、君に告白されたときは……嬉しかった……」

「嬉しい!!」

マナは蔵馬に抱きついた。
いつもなら避ける蔵馬だが、今回は黙ってされるがままになっていた。
そんな蔵馬に嫉妬したアスカとレイはマナに対抗し、蔵馬の腕に抱きついた。

「……あの、ちょっと……」

流石に3人に抱きつかれるのはきついのか、蔵馬は辟易していた。

☆      ☆

飛影の邪眼の能力の1つ、『千里眼』でイチガキの居場所を突き止めた蔵馬達は、早速そのアジトに向かった。
レイとアスカとマナは置いていくつもりだったが、結局また押し切られ同行させていた。

「……なんだ、貴様らは……?」

蔵馬達に気付いた、イチガキの助手がいきなり襲い掛かってきたが、ユウスケの鉄拳を喰らい一撃で伸びてしまった。

「……久しぶりだな……クソ爺!」

ユウスケを見たイチガキは驚愕した。

「う……う……浦飯……?何故、ここに……!?」

「……どうやら、俺達がここにいるのを知らなかったようだな……」

蔵馬は呆れたように呟いた。
イチガキは、EVAを研究材料として奪うつもりだったが、蔵馬がそのパイロットであることを知らなかったのだ。
この男は自分を天才だと思い込んでいるが、実はかなりの馬鹿である。

「イチガキ…ムサシ・リー・ストラスバーグは何処だ?」

「……フ…フハハハハハ!奴はワシの研究の成果をつぎ込んだからな……降魔の剣で人面獣に変え、ワシの技術で改造したトライデントの生体コアとして組み込み、『妖鋼獣トライデント』として生まれ変わったのじゃ!!」

地響きがしたと思ったら、イチガキの背後にトライデントが現れた。
かつてコックピットだった部分のハッチが開き、そこには人面獣と化し、コックピット部分に組み込まれたムサシの姿があった。

「ムサシ!!」

マナの声にムサシの目が開いた。

「……マ……マナ……」

「やれ!『妖鋼獣トライデント』よ……浦飯達を殺せぇ!!」

トライデントが蔵馬達に襲い掛かる……と、思ったら、トライデントは口の部分からワイヤーを出し、マナを縛り上げた。

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

「霧島!?」

トライデントはマナを連れ、そのまま逃走した。
急いでその後を追おうとする蔵馬だったが、トライデントはレイとアスカに向かって発砲したため、追いかけることが出来なかった。

「トライデント!逃げるな……ワシの命令を聞けぇぇぇぇぇぇ!!」

イチガキが再度命令するが、トライデントはそれを完全に無視し、何処かに逃走した。

「ユウスケ、飛影!イチガキを捕らえておいてください。俺はトライデントを追います!!」

蔵馬は、トライデントが逃走した方向に駆け出した。
レイとアスカの護衛として付いてきていた久遠も妖狐形態になり、レイとアスカを抱え、蔵馬の後を追った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……ムサシ…止めて…お願い、正気に戻って!」

トライデントの腕で服を剥がされたマナは、ムサシに懇願した。

「……マナ……お前は…俺のモノだ……」

裸体を晒しているマナの姿に興奮しているのか、ムサシは息を荒くし、涎をたらしながらマナに迫ろうとしていた。
『降魔の剣』によって人面獣と化してしまったが、マナに対する想いは残った……しかし、その感情はもはや、性欲でしか表現できなくなっていた。
イチガキの改造で、伸縮可能となったトライデントの腕を使い、ムサシはマナを自分の傍に寄せた。

「……ムサシ……止めて……私、ムサシとそんな事、したくない…」

「……マナは、俺のモノだ……お前は……俺のモノだ……」

「イヤァァァァァァァァァァァァァ!やめて〜〜〜〜〜〜〜!!」

今、まさにムサシがマナを犯そうとしたとき、ムサシの顔面に鋭利な刃物の化した草が突き刺さった。

「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

「ストラスバーグ!霧島は返してもらうぞ!!」

薔薇棘鞭刃でトライデントの腕を切断した蔵馬は、マナを抱きかかえた。
追いついてきた久遠にマナを預け、ムサシと対峙する蔵馬。
レイが剥がされたマナの服を拾ってきて、マナの胸や恥部を隠させた。
アスカもマナを庇うようにしていた。

「……碇……お前は、またしても俺の邪魔をするのか?お前にマナは渡さない……マナは…俺のモノだ!!」

「ストラスバーグ……お前の気持ちは知っていたが……無理やり手篭めにしようなどと……霧島の気持ちも考えろ!!」

「うるさい!マナは、俺のモノなんだ……俺のモノになる筈だったんだ……それなのに、お前が邪魔をした……俺のモノにならないなら……マナを喰って、俺の一部にしてやる!!その前に、碇。お前を八つ裂きにしてやる。そして、そこにいる女達も、犯した後、喰ってやる!!」

『降魔の剣』で魔物と化したムサシは、人間だったときに秘めていた本性を浮き彫りにしていた。
そう、これがムサシ・リー・ストラスバーグの本性である。
相手の気持ちも考えず、自分の欲望のままに行動する。

「……貴様!そんな事は、やらせん!!」

マナだけてなく、レイとアスカをも辱めようとするムサシに対し、蔵馬の怒りが爆発した。
蔵馬の姿が蜃気楼のように変化していく………。
妖狐・蔵馬が顕現した。

「……な……何ィィィィィ!!」

妖狐と化した蔵馬を見て、驚愕するムサシ。
そして、マナも……。

「……あれが……シンジ君の……」

「そう、あれが蔵馬君の昔の姿……」

「……アンタはどう思うの…今の蔵馬を見て……」

アスカの問いに、マナはうっとりとした顔で答えた。

「……綺麗……」

妖狐・蔵馬のその恐ろしくも美しい姿に、マナは見惚れていた。
流石、オカルトマニアのマナ……といったところか。

「ちくしょ〜〜〜!!」

マナの呟きを聞いたムサシは我を忘れた。
自分と同じ化け物なのに、マナの態度が全然違う事に、怒りを覚えたのだ。
考えれば分かる事だが、無理やり自分を犯そうとする者と、自分を護ろうとしてくれる者と態度が違うのは当たり前である。

「死ね!碇ィィィィィィ!!」

トライデントに内蔵されている重火器の全砲門を開き、蔵馬に狙いを定める。
そのとき、トライデントの周りに巨大なオジギソウが複数、生えてきた。

「何!!」

「魔界のオジギソウは、動くもの、火気を孕むものに容赦なく襲い掛かる……死ぬのは…貴様だ」

トライデントは、オジギソウの偶数羽状複葉に包み込まれた。
その中で、破壊音が響く。
オジギソウの中で、トライデントはスクラップにされてしまった。

トライデントがオジギソウの餌食となる瞬間、トライデントに本来内蔵されていた脱出装置が働き、コアになっていたムサシは難を逃れていた。

「……ムサシ……」

「……マナ……どうして……どうして、俺の気持ちを受け入れてくれないんだ……化け物なってしまったからか?だったら碇だって化け物じゃないか!なのに、何故……!?」

ムサシの告白を聞いたマナは、ムサシに近付いていった。

「……ごめん、ムサシ……私、ムサシとケイタをそんな目で見たことは一度もなかった……そういう目で見れなかった……私にとって2人は幼馴染としてしか……見れなかったの……」

マナは素直な気持ちでムサシの気持ちに応えた。しかし、ムサシにとっては納得できるものではなかった。

「俺のモノにならないなら、マナ!殺してやる!!殺して俺だけのモノにしてやる!!!」

再び、マナに襲い掛かろうとするムサシだが、その前に蔵馬が立ちはだかった。

「やらせん……と、言ったはずだぞ!樹霊妖斬拳!!」

植物の力を宿した拳を放ち、ムサシの殴り飛ばした。

「ぐはぁ!!」

S級妖怪の蔵馬の必殺技の直撃を喰らったムサシは、そのまま息絶えた。

☆  ☆  ☆

「どうやら、あっちの方も終わったようだな!」

イチガキの頭を踏みつけているユウスケが呟いた。

「ふん!蔵馬があんな雑魚に手こずる筈がないだろう!!」

「……で、コイツはどうするんだ?」

踏みつけているイチガキを見ながらユウスケが聞いた。

「……知るか!蔵馬が決めることだろう」

などと話しているユウスケと飛影に妖狐・蔵馬が近付いてきた。

「待たせたな、2人共!」

「蔵馬……やっぱり妖狐になっていたのか……」

先程の蔵馬の妖気の高まりを感じていたので、ユウスケも飛影も状況を察していた。

「イチガキ!貴様に訊きたい……何故、ストラスバーグと浅利を襲った……」

蔵馬の詰問に何も答えようとしないイチガキだったが、蔵馬の眼光をもろに受け、震え上がった。

「答えろ!!」

イチガキは震えながら、自らの計画を話した。
トライデントを使い、第3新東京市を襲わせ、EVAを誘き出し捕獲し、自らの研究材料にしようとしていたことを話した。

「なるほど、貴様の目的はあくまでEVAであり、トライデントはその目的を果たすための道具だった……ということか…しかし、愚かだな……俺がそのEVAのパイロットであることを知らなかったとは……」

ユウスケの足から解放されたイチガキは、蔵馬に懇願した。

「……正直に答えたのだから、命ばかりは助けてくれ!!」

暗黒武術会のときは、悪あがきをしていたが、簡単に返り討ちに遭ったので、今回は見苦しい命乞いをしていた。

「……そうやって、命乞いをした人間達を何人生体実験に使った!?」

蔵馬は髪の毛から種を取り出し、妖気を込め一気に成長させた。
その植物は、食妖植物であった。

「ヒィぃぃぃぃぃぃぃ!!」

怯えるイチガキに蔵馬は容赦なく、食妖植物を嗾けた。

「ギャァァァァァァァ!!」

「……貴様の様な外道を許す俺だと思ったか……」

暗黒武術会のときに止めを刺さなかったことを後悔していた蔵馬達は、イチガキを許す気などさらさらなかった。
イチガキは、食妖植物の餌食となった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ムサシの死を悼んでいたマナたちに、碇シンジに戻った蔵馬が声を掛けた。

「……済まない霧島……結局、ストラスバーグも浅利も、救う事はできなかった……」

それどころか、2人を殺したのは蔵馬だった。

「ううん。ああなってしまったらどうすることも出来なかったのはわかっている……でも、今だけは……今だけは泣かせて…」

マナは、蔵馬の胸に顔を埋めて号泣した。

☆      ☆

『降魔の剣』は、無事、霊界博物館に戻った。
二度とこんな事がない様に、霊界3大秘宝は封印されることになった。
そして戦自には、ムサシ・リー・ストラスバーグは逃げ切れないことを悟り、自爆したと報告された。
その報告をしたのは加持である。
スクラップになったトライデントを回収した戦自は、疑問に思っていたが、厄介ごとが片付いたので深く追求はしなかった。
マナに関しては、機密を洩らさない事を条件に除隊を認めた。
もちろん、蔵馬が加持を使って裏から手を回したからである。
マナたち、トライデントのパイロット候補生達の扱いが世間にばれれは、戦自の立場は更に悪くなる為、彼らとしても取引に応じるしかなかった。
しかし、戦自を除隊した為、高校に通うことが出来なくなっていた。
もともと、通っていた高校は戦自に入隊したときに退学扱いになっているし、直ぐに両親の元に戻るわけにはいかなかった。
結局、そのまま蔵馬の家で家事をやることになった。
そう、レイとアスカはマナを受け入れたのだ。
マナの蔵馬に対する想いを理解し、渋々だが、自分達と共に蔵馬の傍にいることを認めたのだ。

「いい、アンタが蔵馬の傍にいることは認めてあげるけど……あくまでアンタは『愛人』よ!本妻はあたしなんだからね!!」

「アスカ!蔵馬君の本妻は私!!」

「フッ!いくらレイでもそれだけは譲らないわ!!」

笑いながら言い合いをしているレイとアスカを見て、苦笑している蔵馬であった。

「……シンジ君…じゃなくて、蔵馬君!……これから、よろしくお願いします」

「ああ、よろしくマナ」

蔵馬とマナは唇を重ねた。

「ああ〜〜!何抜け駆けしてるのよマナ!!」

「……蔵馬君、私も…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ちなみに、蔵馬の怒りを買った飛影は、雪菜に飛影が兄であることをばらし、更に桑原と雪菜の仲を進展するよう協力すると脅され、土下座して謝ったそうである。

〈第二十話 了〉






To be continued...
(2009.08.16 初版)


(あとがき)

ジョルジュ「はい、第二十話いかがだったでしょうか?」

小兎「今回は、本編に出演したコエンマさんに代わり、再びこの私、小兎が代理で後書きを担当します」

ジョルジュ「それにしても、本当にどんどんゲームの内容から離れていってますね」

小兎「そうですね……これからの話もそうなるようですよ」

ジョルジュ「つまり、幽☆遊☆白書寄りの話になる……と」

小兎「基本的にはEVAの話です。また、使徒との戦いが再開されますし……しかし、使徒の能力が変わっていたり」

ジョルジュ「それ以上はネタバレになるので!!」

小兎「はい、すいません。では、これからもかのものの駄文にお付き合いください」



作者(かのもの様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで