第二十一話
presented by かのもの様
人類補完委員会が第12使徒『レリエル』に関し、初号機パイロットである蔵馬に直接尋問することを要求してきた。
蔵馬はそれに応じることにした。
自らを黒幕だと思い込んでいる、冥界の傀儡たちと会ってみたくなったからだ。
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蔵馬の前に12のモノリスが現れた。
顔を見ることは叶わないようだが、対話だけでもその人となりを計るとはことは可能だ。
「特務機関NERV所属、初号機専任パイロット、サードチルドレン、碇シンジ。先の事件についてだが、使徒が我々人類にコンタクトを試みたのではないかね?」
ナンバー01のモノリスが、蔵馬に問う。
「いえ、そのような感じはしませんでした。おそらくイレギュラーな事件だと推測します!」
「君の記憶が正しいとすればの話だがな……まあいい。では、第12使徒は人の精神、心に興味を持ったのかね?」
「……その様な気配は感じませんでした。事実、ただ、闇の中にいたという、感覚しかありません!」
その時、蔵馬は幽体離脱をして、EVA初号機の中に進入していたので、レリエルが何をしようとしたか等、知るよしもなかった。
「第一、果たして使徒に心の概念があるのか、人の思考が理解できるのか、それらの情報が俺には提示されていません。それらの質問をしたいのなら、使徒の詳細なデータの提示を要求します!」
「君に、要求する権利は与えられない!」
「では、話になりませんね……使徒に関する詳細な情報なしに、そのような事を質問することは無意味です。無駄なことは止めて頂きたい」
NERVの上位組織の人類補完委員会のメンバーに、まったく臆する事なく、侮蔑の視線を向ける蔵馬に、委員会の面々は内心穏やかではなかった。
「今回の事件には使徒がEVAを取り込もうとした新たな要素がある」
「左様、これが予測される第13使徒以降とリンクする可能性は?」
「さあ?それを情報を提示されない1パイロットに聞く神経を疑いますね……」
もはや、まともに返答する気を無くした蔵馬はいい加減に答えた。
「その態度は何かね?我々に対する礼儀を弁えんのならそれ相応の処罰があるぞ!」
「やってみろ!」
「「「「「!!」」」」」
蔵馬の眼光が、侮蔑から攻撃的なものに変わった。
以前のゲンドウや冬月のように、モニター越しからでも伝わる殺気に委員会のメンバーは恐怖で震え上がった。
「貴様らが、俺と俺の大事な者に危害を加えると言うのなら……いかなる手段を用いても貴様らを……殺す!!」
その言葉に、委員会のメンバーは完全に竦み上がった。
出来るはずがない……何故か、そう思うことが出来なかった。
今まで、蔵馬のことは報告でしか聞いていなかったが、こうして自ら接してみて、恐ろしい相手であることが実感できる。
「良い、今回の事はこちらにも非があるので不問にする!」
表面上を取り繕う事ができた、ナンバー01がそう言い、蔵馬に下がる様指示した。
今回は蔵馬も大人しく従った。
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ゲンドウは内心、いい気味であった。
自分達だけが、蔵馬に怯えるのでは面白くない。
SEELEの面々にも、あの恐怖を味わってもらって、実に気分が良かった。
最も、蔵馬に対する憎しみは相変わらずであるが……。
「ど……どう思うかね。碇君……これまでは単独行動だった使徒だが……」
「使徒は知恵を身に付け始めたようです。残された時間は……」
「あと僅かだな……」
☆ ☆
「どうだったかい?『SEELE』の面々は?」
加持が興味深そうに訊いて来た。
「……大した連中じゃありません……ですが、父さんよりは上手でしょうね……父さんは、あの連中を手玉に取るつもりのようですが、レイが父さんから離反した以上、それはもはや不可能……あの男はそれに気付いていない……と、いうより考える事を放棄しているように見えますが……」
レイに裏切られて(正確にはレイが利用されるのを拒絶した)から、ゲンドウの計画は、実現不可能である。
にも係わらず、ゲンドウは己の計画を捨てようとせず、固執している。
と、いうか正常な判断がつかなくなり始めているのかも知れなかった。
「ところで、シンジ君。碇翁が第3新東京市に来られたようだ。ゲンカイって人が滞在しているホテルの部屋で、会談したいとのことだよ」
「分かりました。では、これから師範の所に行く事にしましょう」
「しかし、何故そこで行うのだろうね……?」
確かに、ゲンカイが滞在しているホテルは、別に高級ホテルではない。
碇グループの会長には似つかわしくない場所である。
「祖父は、師範から俺の正体を聞いているでしょうから……少しくらい警戒はすると思いますよ」
「!?それは本当かい」
蔵馬の正体……人間ではなく、妖怪である事を碇翁聞いているのか!
「俺の方から、師範に伝えるよう依頼したからです。いかに孫とはいえ、たかが高校生にグループの未来を賭けさせる祖父ではないでしょうから、俺がただの人間ではないことを、理解してもらわなくてはなりませんからね。なにしろ、俺が碇グループに望むのは、『SEELE』との敵対ですから……」
最も、これは碇シンタロウがゲンカイと知り合いだから取れる手段である。
相手が妖怪とはいえ、ゲンカイが信頼する人物(?)なら、シンタロウはゲンカイと同伴する事で、会う気になるだろう……と。
本来は、妖怪であることを明かさず、能力だけ見てもらい信用してもらうつもりだったのだから……。
しかし、ゲンカイの知り合いなら、いずれ蔵馬が妖怪であることに気付く可能性が高い。
ゲンカイの知り合い=霊界、魔界関係に知識がある財界人の図式があるからである。
現に、シンタロウはかつて、ブラック・ブック・クラブの人間と敵対していたのだから……。
ならば、隠していたことがマイナスになる可能性が高い。
ここは、素直に正体を明かした方が得策と判断したのだ。
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「始めまして、シンジです…」
ゲンカイの部屋で初めて対面する祖父に挨拶をする蔵馬。
「ふむ、お前が……シンジ……そして、妖狐・蔵馬……か……」
シンタロウは、蔵馬を値踏みするように見つめた。
「シンタロウ。蔵馬は、ワシとはかなり親しい間柄じゃ。信用できる奴じゃぞ……」
「師範がそうおっしゃるなら、ワシも信じましょう。師範は、敵以上に味方の妖怪が多い方ですからな……それに、シンジ……ワシは妖怪だからといって、差別する気はない。師範の知り合いの妖怪に手を貸してもらった事もあるでな……B・B・Cの連中に対抗する為に……な…」
実際、シンタロウは偏見とは無縁の人物である。
彼の一番の武器は、人物評価である。
恐ろしい事に、彼は一目で相手のことを的確に評価できる眼力を持っているのだ。
一種の霊力である。
それこそ、一代で碇グループを立ち上げた要因の一つであった。
「『SEELE』の存在は、よく知っておる。元々、彼らがユイの後ろ盾になっていたのは、ワシが先代の『SEELE』と友好的だったからじゃ。……しかし、ワシは現在のメンバーではなく、先代のメンバーしか知らんからな……現在のメンバーとは顔を合わせておらん……先代のメンバーなら『人類補完計画』等という血迷った計画を立てるはずがない……」
先代の後継者たちが、そこまでの愚か者達であったとは……と、シンタロウは嘆いていた。
若かりし頃に会った『SEELE』の先達は、シンタロウが十分に尊敬できた人物たちであったのだが……。
「最初の頃は、まともだったのかも知れません。母も、『SEELEの人類補完計画』の内容を聞いて、最初は信じられなかったようでしたからね……」
「……いや、ユイは……お前の母はお嬢様育ちゆえ、人を見る目は余りない……どんな人物でも良い風に解釈してしまうからな……だからこそ、ゲンドウのような戯けと、結婚してしまうのだ……」
「……しかし、俺はそんな母が好きですけどね……」
「それに関しては同感じゃ。あれは場合によっては欠点じゃが、ユイの良いところでもあるからな……だから、甘いと言われようが、わしは結局、ゲンドウとの仲を引き裂く事が出来なかったのじゃ……今を思えば、例えユイに恨まれようが強制的に別れさせた方が良かったと後悔しておるが……な…」
溜息を吐きながら、シンタロウは呟いた。
「それで、母が誰か別の男と結婚して、子を産んでくれれば良かったですが……もし、母がずっと独身を通していたら、今の俺はここには居なかった可能性が高い。恐らく、母、ユイでなければ……俺は、人の心を理解して、人として生きよう等とは思わなかったでしょうから……ね」
あくまで、妖狐・蔵馬を今の蔵馬にしたのは、碇ユイである……蔵馬はそう主張している。
碇ユイの息子として生まれたからこそ、後に南野シオリにも会うことが出来たのだから………。
碇ユイ以外の息子として生まれていたら……恐らく、伝説の極悪盗賊と恐れられた、冷酷で極悪非道な蔵馬のままで在っただろう……。
「それで、シンジ……お前の提案に乗るのに条件がある」
「条件ですか?」
「お前がいずれ、ワシの後を継ぐ。これが条件じゃ!」
「なっ!?」
流石の蔵馬も予測していなかった。
「……確かに、この身体は人間の身体です……しかし、妖化しているので寿命はかなり永いですよ……そんな人間を後継者にするのは……」
妖狐は不老である。
元々、狐が何百年も生きて、妖獣となった存在であるため、何年生きても老いないのある。
『碇シンジ』として生まれ変わっても、その身体は妖化しており魂は妖狐のモノである為、『碇シンジ』の身体もまた不老なのだ。
老いもせず、何時までも若いままの人間が大財閥の当主では何かと問題がある筈……まして、人でないものを……。
蔵馬がそう答えようとしたとき、シンタロウが先に答えを出した。
「別に、ずっとお前が碇家の当主でいろとは言っておらん。……調べさせたのじゃが、お前には恋仲の女性が3人居るそうじゃな……『綾波レイ』、『惣流・アスカ・ラングレー』、『霧島マナ』……じゃったか……その3人がいずれ産むお前の子が成人したら、さっさと相応しい人物に継がせればよい!」
「……俺の子にですか…」
「それとも、お前の子も妖怪として産まれてくるのか?」
「……いえ、俺の子は間違いなく人間です。霊力は強いでしょうが……」
蔵馬の身体が妖化しているとはいえ、遺伝子は人間であるため、間違いなく人間が産まれるだろう。
「だから、3人の女性とお前との間に産ませた子の中から相応しい人物に継がせれば問題はあるまい……」
アスカの息子か、マナの息子のどちらかを……。
ちなみに、レイには生殖機能が存在しない為、レイとの間に子を生すことは出来ないが……。
レイは蔵馬の子を産む事はできない。
しかし、レイは使徒の因子がある為、寿命は蔵馬と対して変わらない。不安定だった頃ならば、調整を受けなければ直ぐに死に絶えただろうが、ゲンカイとぼたんによって安定した今のレイは、妖狐たちと同じ不老であり、その性質は、コエンマやぼたん達、霊界の住人に限りなく近付いていた。
子を生せぬ代わりに、一番永く蔵馬と共に居られるのだ。
アスカとマナは、蔵馬と永く居られぬ代わりに、蔵馬との子を生す事が出来る。
どちらが、幸せなのかは……判断できないだろう。
「問題は、後継者争いの火種になる可能性じゃが……蔵馬の子なら、間違いなく優秀な霊能者になるじゃろうな……平安時代の陰陽師、『安倍晴明』の様な……な。後継者以外の子はそちらの道に進ませればよいじゃろうな」
安倍晴明。
平安時代の最も有名な陰陽師の一人であり、鎌倉時代から明治時代初めまで陰陽寮を統括した安倍氏(土御門家)の祖である。
西暦1988年に安倍晴明を題材にした小説がヒットし、西暦1993年に同小説の漫画化もされている。
セカンド・インパクトからの復興後、テレビ・ドラマ化、映画化もされ、京都の晴明神社は人で溢れかえるほどのブームとなった。
晴明は、安倍保名と、葛葉明神の化身の白狐との間に産まれたので、ゲンカイの指摘どおり、蔵馬との間に産まれるアスカとマナの子も、晴明のような優れた霊能者になる可能性は非常に高い。
いや、アスカとマナも類まれな霊感の持ち主である為、その子等は晴明以上になれる可能性もある。
☆ ☆ ☆
『サキエル』との戦いの折に、怪我をして入院していたトウジの妹のハルナの退院が決まった。
見舞いに来ていた、蔵馬、レイ、アスカ、ヒカリ、ケンスケの5人は、ハルナの病室でそれを聞いた。
「おめでとう、ハルナちゃん」
「ありがとうごさいます。碇さん……ようやく退屈な入院生活からおさらばできますわ!」
祝辞を述べる蔵馬に、ハルナが笑顔で応えた。
「……なんや、ハルナ…蔵馬のこと知っとたんか?」
「……そりゃ、碇さんはウチの見舞いに何度か来てくれたからな……」
「そうやったんか……蔵馬、すまんな…」
「気にするな、ハルナちゃんの怪我に関しては、俺も少しは責任があるからな……」
「なに言うとるんですか!碇さん、家のボケ兄貴の戯言なんか気にしたらあきませんよ……この怪我の責任は逃げ遅れたウチにあって、碇さんにはまったく責任なんてないんですから……」
ハルナは兄を睨みながら、蔵馬に謝罪していた。
「大体、そんな事は兄貴も分かっているはずやのに、碇さんに喧嘩を売るなんて……返り討ちにしてくれた方がバカ兄貴の為になったのに……」
容赦のないハルナの糾弾に、トウジはしゃがみこんで床に『の』の字を書き始めた。
そして、まともに喧嘩をしていれば、間違いなく蔵馬が勝つことも、承知していた。
「……あの時、蔵馬君が言っていた。『大切な家族が怪我をして、悔しくて八つ当たりしているだけ』だって……その気持ちが理解できたから、蔵馬君は鈴原君にわざと殴らせたの……」
レイは当時の事を思い出しながら、説明した。
「……気にする必要はない。正直、トウジのパンチなど対して痛くもなかったしな……」
確かにあの時、殴られた蔵馬は微動だにしていなかった。霊撃力の篭らないただのパンチでは、妖怪には対して効果がないからである。
正直、殴ったトウジ本人の拳の方が痛かったのだ。
「……ワシの本気のパンチを『対して痛くもない』言われる方が落ち込むわ……」
「そんなの当然じゃない、蔵馬は長年、軍事教練を受けていたあたしより遥かに強いのよ……ジャージ如きが歯が立つ訳ないじゃない!」
蔵馬の正体を知ったアスカは、もはや簡単に蔵馬に追いつくことは諦めていた。
まあ、EVAのパイロットとしてならともかく、それ以外で蔵馬に勝とうと考えても、経験が絶対的に違う為、不可能である。
だから、あくまでEVAのパイロットとしてのみ、蔵馬を目標にしようと考えているアスカであった。
「ハルナちゃん。退院したらお祝いのパーティーをしましょうね……私が腕に寄りをかけて美味しい物を作ってあげるから……」
「ありがとうございます、ヒカリさん……全く、うちのバカ兄貴には勿体無い人やわ……」
ハルナの台詞に真っ赤になるヒカリ……。
「アホ、何言うとんのや?委員長とワシはそんな関係とちゃうわ!」
「アホは兄貴やろ!好意を寄せとらん異性に、わざわざ弁当を作ってくるわけないやろ!!」
ここ最近、ヒカリはトウジの為に弁当を作ってきていた。
「あれは、作り過ぎたからっていつもパンのワシに譲ってくれとるだけや!」
「毎日、作りすぎるかいな!兄貴の為に作ってくれとるに決まっとるやないか!!」
真っ赤になっているヒカリを無視して言い争いをする鈴原兄妹。
「……ジャージ…まだ、ヒカリの気持ちに気付いていなかったのね……」
「トウジの鈍さは、天然記念物ものだね」
アスカの言葉にケンスケが同意する。
「……ねぇヒカリ?アンタ、あのジャージの何処がいいわけ?」
心底疑問に思っていることを訊くアスカ。
「……優しいところ……」
ヒカリの返答に言葉を失うアスカであった。
「……蔵馬君の方が優しい……」
レイがぼそりと呟いたが、鈴原兄妹の悪口雑言にかき消され、蔵馬以外の耳には届かなかった。
「……レイ、俺は優しくないぞ……敵に対しては容赦はしない……いくらでも、冷酷にも残酷にもなれる…」
「……私には優しい」
確かにレイには優しいというより甘いので、そう言われると言い返せない蔵馬であった。
☆ ☆
NERV本部に、アメリカのネバダ州にあるNERV第2支部壊滅の報がもたらされ、激震が走った。
NERVでは、緊急会議が開かれていた。
「エヴァンゲリオン四号機ならびに半径89q以内の関連施設はすべて消滅しました」
「数千の人間も道連れに……ね」
マヤの報告の後、リツコが静かに付け足した。
リツコは、ネバダの同僚に技術提供をしていたので、流石に少し落ち込んでいた。
その同僚の事は嫌いではなかった。
「タイムスケジュールから推測して、ドイツで製造されたS2機関の搭載実験中の事故だと思われます」
「予想される原因は材質の強度不足から設計初期段階のミスまで32,768通りです!」
「妨害工作の線も考えられるわね……」
NERVは、様々な組織から煙たがられている……いや、恨まれている、憎まれている……。
どのような妨害工作を受けても不思議ではないと、ミサトは考えていた。
「でも、爆発ではなく、消滅なんでしょ?……つまり、消えた…と…」
日向が、その事を指摘した。
「多分、ディラックの海に飲み込まれたのでしょう、先の初号機のように……」
リツコは科学者として、一番確率の高い推論を提示した。
「じゃあ、せっかく造ったS2機関は……?」
「パーよ!……夢は潰えたわ……」
ミサトの平然とした態度に、内心、怒りを抱いていたリツコだが、表面上は平然としていた。
「よく分からないものを無理して使うからよ…」
(それは、EVAも同じだわ……)
ミサトの指摘にリツコは内心で、そう答えた。
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アメリカ政府は第2支部の消滅にうろたえ、第1支部まで被害を被る事を恐れ、強行に主張したEVA参号機の建造権を放棄し、NERV本部に押し付けた。
ミサトは、その事を知り憤慨していたが、リツコは、あっさりと受け入れていた。
「それで、参号機の起動実験はどうするの?」
零号機専任パイロットに、ファーストチルドレン。
初号機専任パイロットに、サードチルドレン。
弐号機専任パイロットに、セカンドチルドレン。
と、すでNERV本部に居るチルドレンには、それぞれ専用機がある。
戦闘用に改修したいえ、もともと試作機でしかない零号機を凍結し、レイに参号機を担当させるつもりなのだろうか?
ミサトはそう推測したが、リツコの答えは予想外であった。
「フォースチルドレンを使うわ…」
「フォース?私はマルドゥック機関から報告を受けていないわよ」
当然である。マルドゥック機関はダミーに過ぎず、決定するのはリツコを含むNERV上層部だからである。
「明日には、貴女の所にも報告かくるわ」
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リツコは先日のゲンドウとの会話を思い出していた。
レイがゲンドウから離反し、さらにレイのクローンを失ってしまいダミープラグの完成が不可能になってしまった。
現在のダミープラグの開発率は、せいぜい60%に過ぎず……これでは、とてもではないが実戦で使用することは無理である。
「しかし、60%でも役に立つかもしれん…」
「危険です。下手をすれば搭乗者の命の保障が出来ません」
「使うのは初号機に対してだ……シンジを始末する絶好のチャンスだ!」
「正気ですか?先の第12使徒の時と違い、下手をすれば使徒に敗北してしまうかもしれません!」
「弐号機と零号機がある……別にシンジなぞ必要ない……戦死してしまえば、レイもシンジを失った悲しみから、再び私に縋ってくるだろう。シンジさえいなければ、レイには他に頼れる人間などいないのだから……」
以前、冬月が指摘した蔵馬が死ねばレイが後追い自殺をする可能性を完全に失念しているゲンドウだった。
リツコがその事を指摘すると、ゲンドウは少し考え、そのケースに対する対処方法を考えた。
「シンジが死んだ後、零号機のLCLの濃度を限界まで圧縮し、レイを気絶させろ……その後、レイを私の部屋に運び込め…」
ゲンドウの顔がにやけだした。
ゲンドウは、かつてリツコにしたように、レイを犯し、再び自分に縛り付けるつもりなのだ。
その事を察したリツコは、再びレイが嫉妬の対象になることに内心、憤慨していたがゲンドウには逆らえず、了承した。
「では、赤木博士。次の使徒襲来時に、初号機にダミーを搭載し、戦闘中に起動させろ!」
「……解りました……ところで、EVA参号機はフォースを選抜し、その人物をテストパイロットに充てることでよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない」
ゲンドウは、そう言ってリツコを下がらせた。
「何故、私はあの男に逆らえないの……。無様ね……私は…」
リツコは、己自身を侮蔑していた。
☆ ☆
弁当を食べようと、蔵馬、レイ、アスカ、トウジ、ケンスケ、ヒカリの6人は屋上に来て、おのおの弁当を広げた。
相変わらず、トウジの弁当はヒカリが用意をしていた。
その為、購買のパンを買ってくるのはケンスケのみになっていた。
「あ〜あ……俺にも弁当を作ってくれる彼女が出来ないかなぁ〜」
ぼやくケンスケにアスカが突っこみを入れる。
「女子の着替えとかを盗撮する変態メガネの彼女になる奴がいるか!」
「相田君……いい加減に止めないと、流石に然るべき手段を採らざるを得なくなるわよ……」
ヒカリも、侮蔑の篭った視線で忠告する。
ケンスケは視線をそらしていた。
止める気はさらさら無い様である。
「あれ、今日のアスカ達のお弁当……碇君が作ったものじゃないようね……」
蔵馬たちが広げている弁当を見て、今までとは違うと見抜く辺り、流石というべきだろう。
「そうよ……これを作ったのはマナよ……」
「えっ?マナって……この前退学した、転校生の霧島さんの事!?」
転校したばかりなのに何故か退学したマナのことは、ヒカリたちも気になっていたが……何故、そのマナが蔵馬達の弁当を作るのか理解できない3人であった。
アスカは、マナが戦自のスパイである事を除いて、簡単に説明した。
「詳しくは、プライバシーに係わることだから説明できないけど、事情があってマナは学校に通えなくなったから、蔵馬の家で家事をしながら生活しているわ……」
「と、言う事は、蔵馬と霧島は同棲しているのか!?」
ケンスケが興奮しながら、問いただしてきた。
「……私とアスカも、ほとんど蔵馬君の家で寝泊りしている……」
実際、レイとアスカは自分の着替えとかは既に蔵馬の家の方に持ってきていた。
ミサトの家は、着替え以外の私物の保管場所に成り果て、ほとんど蔵馬の家のリビングで4人一緒に居て、寝るときは、蔵馬は自室で、レイたち3人は空いている部屋に布団をひいて寝ているのだが……たまに、3人とも蔵馬のベットに潜り込むときがあった。
「………つまり、毎晩、蔵馬は綾波と惣流と霧島と………」
ケンスケは鼻血を垂らしながら、妄想していた。
「……ふ…不潔よ〜〜〜〜〜〜〜!!」
予想通り、ヒカリの絶叫が響いた。
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誤解が解け(実は誤解ではないのだが)、落ち着いたヒカリがマナについて訊いてきた。
「じゃあ、これからは霧島さんがアスカ達のお弁当を作ることになったの?」
「ああ、マナの料理の腕はかなりいいからな……俺が作るのは休日のときくらいだな……」
「……蔵馬君の料理が一番美味しいのに……」
レイが少し不満顔になって呟いた。
「……ところで、トウジ。さっきから大人しいな……どうしたんだ?」
先程から、一言も喋ららず、黙々と弁当を平らげていたトウジにケンスケが語りかけた。
「……いや、なんでもあらへん……いいんちょ…今日の弁当も美味かったで……ごちそ〜さん」
そう言うと、トウジは屋上を後にした。
トウジは、昼食の前に校長室に呼ばれていた。
そして、リツコの気配を感じていた蔵馬は、ある推論に達した。
自分達のクラス……『コード707』、チルドレン候補が集められたクラス。
(まさか…トウジが……)
蔵馬の予想は当たっていた。
トウジは、リツコからフォースチルドレンになることを要請されたのだ。
〈第二十一話 了〉
To be continued...
(2009.08.22 初版)
(あとがき)
ジョルジュ「ゲームを元にした話も終わり、今回からはテレビストーリーを元にした話に戻りました」
コエンマ「じゃが、話はどんどん幽遊白書寄りになっていく……以前も言ったがな……」
ジョルジュ「しかし、今回はそれほど幽白寄りではありませんね……」
コエンマ「まあ確かに、まだまだEVAよりじゃな」
ジョルジュ「ところで、安倍晴明の両親の設定ですが……」
コエンマ「人形浄瑠璃・歌舞伎『蘆屋道満大内鑑』(通称葛の葉)の設定をしようしておる。つまり妖狐繋がりじゃな」
ジョルジュ「つまり、蔵馬さんのお子さん達は、安倍晴明と似たような存在になるということを強調したかったんですね」
コエンマ「そういうことじゃ。では、これからもかのものの駄文につきあってくれい」
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