第二十二話
presented by かのもの様
校長室において、リツコとトウジが対面していた。
「鈴原トウジ君。貴方にフォースチルドレンになる事を要請します!」
「……はぁ……あの、フォースチルドレンって何ですか?」
「……4人目のEVAパイロットという意味よ……綾波レイがファースト、惣流・アスカ・ラングレーがセカンド、碇シンジがサード。そして、鈴原トウジ……貴方がフォースよ!」
ようやく理解したトウジは、驚愕した。
「なんでワシなんですか?正直ワシに蔵……碇たちのようにEVAに乗って戦うなんてできるとは思えませんのですけど……」
トウジの疑問は最もだった。
蔵馬もレイも、悔しいがアスカも自分より優秀である。アスカは大学を卒業しているらしいし、レイも休みがちだったが、成績は上位。蔵馬にいたっては学年首席である。
運動神経には自信があるが、体力面においては、レイよりはあるが、それでも蔵馬やアスカには遠く及ばない。
腕っ節においては、レイにも、アスカにも歯が立たないし、蔵馬とは比べる事さえ馬鹿馬鹿しい。
先任者と自分を比較して、圧倒的に劣る自分が何故……という思いであった。
「鈴原君。それは貴方に適正があるからよ……それに、直ぐに実戦に出るわけではなく、訓練を受けてからということになるわ。レイもアスカも、最初からEVAを乗りこなしていたわけじゃない。彼女たちだって訓練を受けてから、実戦に出ているわ。だから、心配は無用よ」
確かに最初からド素人を、いきなり実戦に出すわけはない……のだが…。
「……蔵馬は……碇はどうだったんですか?」
トウジの質問に、リツコは渋い顔になった。
「……シンジ君は例外……彼は訓練なしで、いきなりEVAに乗って、そして、いとも簡単に乗りこなしたわ……しかも、戦闘能力においても、NERV所属の戦闘のプロフェッショナル達を凌駕しているわ。でも、それはシンジ君が特別なのであって、貴方にそれを求めない……私達自身、彼については信じられない思いよ…」
やはり、蔵馬は別格である。
それは、トウジにも理解できていた。
蔵馬は、自分達とは違う……と。
「ワシが断ったら、どうしますか?」
「そのときは、別の人間を再び選ぶ事になるわ。ただそれだけのこと。現時点で、君が相応しいと判断されてはいるけど、君以外にも候補者はいるわ……」
リツコは別にトウジに拘っているわけではない。
ただ、MAGI(表向きはマルドゥック機関)がトウジを選んだだけであり、トウジが断れば、彼を候補から外して再度MAGIに選ばせるだけである。
「直ぐに決めんといけませんか?」
出来れば考える時間が欲しいトウジであったが、リツコからの返答はNOであった。
「悪いけど、スケジュールが差し迫っているの。だからこの場で決めて頂戴。無駄に時間を取るわけにはいかないわ。君が辞退するなら、次の適格者を探さなくてはならないから……」
この瞬間で、トウジの未来が決められる。
チルドレンとなって、EVAに乗るか。
断って、いつも通りの生活を送るか……。
しばらく考えた後、トウジは答えを出した。
「ワシ……EVAのパイロットになります。よろしゅう頼んます」
トウジの未来が決定した。
☆ ☆
「蔵馬……これから、時間あるか?」
帰宅の準備をする蔵馬にトウジが声を掛けてきた。
「いや、俺はお前に話があってな……お前を誘おうとしていた」
「……そうか……じゃあ、ちょっと待っとってくれな。ワシも準備するさかい……」
本日は、NERVでの実験は休みである。
レイとアスカは、ゲンカイの所に直行していた。
あと、もう少しで念話をマスターできるので、特にアスカは張り切っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
学校の敷地から出て、蔵馬とトウジはそのままトウジの家に向かっていた。
「それで、用件はなんだ?」
「いや、蔵馬の方からで言うてくれ……」
「そうか……今日、お前が校長室に呼ばれたとき、NERVの赤木リツコ博士に会わなかったか?」
「………」
「……やはりそうか…」
トウジの表情を見て、蔵馬は確信を持った。
トウジがフォースチルドレンに選ばれた……ということを。
「……それで、引き受けたのか…フォースチルドレンになる事を…」
「何でそれを!?」
「それ以外、リツコさんがお前に会いに来る理由が思いつかない……」
EVAに関すること意外に、リツコがトウジに会いに来るはずがない。
トウジの父親はNERVの職員だが、リツコが部長を務める技術部とはまるで接点がない部署の所属である。
多忙なリツコが、そんな男の息子に意味もなく会いに来るとはとても思えなかった。
「……なあ、蔵馬……お前が最初にEVAに乗ったとき……どうやったんや?」
「……トウジ…俺を参考にするのは止めろ!俺はある意味イレギュラーだ……」
「……そうか…なあ、蔵馬……この『蔵馬』っていうお前のあだ名は、大切な仲間にしか呼ばせない名前らしいな……」
トウジは突然話題を変えた。
「……仲間…だけではないが……そうだな……普通の奴には呼ばれないし、呼ばせない」
大切な仲間以外で、『蔵馬』と呼ぶのは霊界の関係者、あと妖怪たちである。
彼らにとっては、『碇シンジ』では無く、『蔵馬』が普通の呼び名であるから……。
「ワシはさぁ、最初、お前に喧嘩を売った。お前の言うたとおり、ハルナを護れへんかった自分にムカついて、お前に八つ当たりしとった……それやのに、お前はワシにその特別な名前を呼ぶ事を許してくれた。アスカなんかは中々お前の事を『蔵馬』とは呼べへんかったのに……」
「それは、俺が失念していただけだ……」
もっと早くにアスカのことを認めていたのだが、アスカから中々その事を言ってこなかったし、使徒との戦いや、SEELEの事など様々に考えることがたくさんあったため、失念していたのだ。
「それでもや……アスカはお前に認めてもらう事に努力しとった。しかし、ワシは?ワシはその名を呼ぶのに相応しいことを何もしてへん……お前に八つ当たりしたのに、お前はワシを助けてくれた……。お前を殴った借りは返したけど、お前に命を救われた借りを返してないんじゃ。ワシは…ワシはな……本当の意味で、お前の仲間になりたいんや……だから、EVAのパイロットになることにしたんや……最初は足手まといになるやろ……けど、いつかは……お前と肩を並べられる程の漢になりたいんや!」
いけ好かないアスカが、蔵馬に認められるために努力していた……それが、トウジの目には眩しく見えていたのだ。そんな時、自分にEVAのパイロットになれる道が開けてきた。
ケンスケではないが、トウジの心にもEVAのパイロットになりたいという願望は存在していた。
最も、ケンスケのようにヒーロー願望があるわけではない。
蔵馬は、自分達に特別な名前を呼ぶ事を許してくれている。
しかし、自分にはその資格がないのではないか……アスカを見ていてトウジはそう思うようになっていたのだ。
トウジはヒーローでは無く、蔵馬に憧れを抱いていた。
蔵馬から感じる、同い年とはとても思えないくらいの『強さ』。
喧嘩が強い、とかそんな幼稚な強さではない。
上手く説明できないが、蔵馬という存在が持つ『強さ』。
それに憧れているのだ。
「リツコさんって人に、フォースチルドレンになる言うてしもうたから、もう後戻りは効かへん……けどな……今になって怖なってしもたんや……戦いで死んだら……そして、蔵馬に認めてもらえへんかったら……そう思うと怖て怖て仕方ないんや……」
トウジは膝をついて、蔵馬に縋り付いていた。
「……トウジ…それは当たり前だ。恐怖は誰にでもある……もちろん俺にも…な……。お前が、やっぱりチルドレンになるのが嫌だと言うなら、俺が何とかしてやる……しかし、お前は……怖いけど……チルドレンになるを辞めたくは無いんだな?」
トウジは、小さく頷いた。
「なら、その道を突き進め。俺が支えてやる。……いつか、ユウスケ達の様に『戦友』と呼べるくらいになるまで……」
☆ ☆ ☆
「……初号機にダミーを搭載しました」
リツコがゲンドウに報告した。
「……そうか……それで、ダミーを起動させたら、具体的にどうなるのかね、赤木博士」
「予測は3通りあります……1つ目は、ダミーが正常に起動する場合。そのときは初号機の操作はシンジ君からダミーに切り替わり、ダミーが使徒を殲滅するため行動するでしょう。そして、シンジ君は何も出来なくなります。2つ目は、まったく起動しない場合。つまり完全な無駄に終わるということです。最後は、EVAが混乱するという場合。ダミーが起動したことにより、EVAが混乱し搭乗者の精神を汚染し、恐らく良くて廃人、悪ければそのまま死亡する可能性があります……」
リツコの説明にゲンドウは満足そうな顔になった。
「どれに転んでも問題ないな……ダミーが起動すればダミープラグ開発は成功したことになる。起動しなければ起動しないで、駄目元で起動させたのだから、特に問題はない。ダミー開発は断念せざる得なくなるがな……。1番好ましいのは、精神汚染で死亡することだな……」
「とりあえず、これがダミーの起動スイッチです。本当に司令が起動させるのですか?」
リツコがスイッチのリモコンをゲンドウに渡した。
ゲンドウが、ダミーの起動を自分がすると主張したからだ。
もし、これで蔵馬が死亡するのなら、自分の手で殺してやりたいからである。
蔵馬に対し殺意を持っているゲンドウであるが、腕っ節では歯が立たない。
かといって、オペレーターに命令して起動させれば、蔵馬が死亡したとき言い訳ができなくなる。
戦死ではなく、司令部からのちょっかいで死んだことが公になれば、さすがに大事になり、下手をすればゲンドウの責任問題に発展する可能性がある。
それくらいのことは、ゲンドウも理解していた。
だから、誰にも命令せず、自分の手でダミーを起動させ、システム上のトラブルに見せかけるつもりなのだ。
生意気な息子を始末するチャンスにゲンドウはほくそ笑んでいた。
☆ ☆
夕食の時刻となり、マナの作った料理を食べていた蔵馬たちの所に加持が訪ねてきた。
「ああ、加持さん。いらっしゃい」
「お邪魔するよシンジ君」
加持は空いている椅子に座り、マナが出したお茶を啜った。
「シンジ君。フォースチルドレンが選出された……」
「知っています。トウジが選ばれたんですよね…」
「ええ〜〜〜!あの馬鹿が!?」
アスカは、トウジがEVAのパイロットに選ばれたことに、不服そうな顔になった。
「……アスカ。俺たちのクラスにいる以上、トウジにも可能性があることはわかっていた筈だ」
「……そりゃそうだけど……」
EVAのパイロットであることにかつて誇りを抱いていたアスカは、まだその時の癖が抜けていないのか、不機嫌になっていた。
「……蔵馬君のクラスにいると、なんでEVAのパイロットになるの?」
事情を知らないマナが聞いてきた。
「ああ、マナには話していなかったな。俺たちのクラスはな、EVAのパイロット候補たちが集められているクラスなんだ」
「えっ!!」
蔵馬は、EVAのパイロットとEVAとのシンクロについて、説明した。
「……そんな…じゃあ、蔵馬君の乗っているEVAには……」
「そうだ、俺の母が取り込まれている。弐号機にはアスカの母が、零号機には……レイに近しい者が取り込まれている」
零号機については、さすがに一人目のレイが……とは説明できず、あいまいに答えたがユイとキョウコについては説明した。
あまりにも非道なシンクロシステムにマナの顔は青褪めていた。
「じゃあ、鈴原君が選ばれたということは……」
「トウジの近親者……おそらくトウジの母親の魂がインストールされているのだろう……」
トウジの家族は、祖父、父、トウジ、ハルナの四人家族である。
妹、ハルナは先日無事退院した。
考えられるのは、すでに亡くなっているトウジの祖母か母親である。
霊界で調べたところ、トウジの祖母はちゃんと霊界に来ているが、トウジの母親は霊界に来ていない……つまり、トウジの母の魂は、霊界に逝く前にEVAのコアにインストールされた。
恐らく、蔵馬のクラス全員の近親者の魂はそれぞれコアにインストールされ、保管されているのであろう。
既に人の所業ではない……。
実はこの件に関しては、霊界の極秘資料『黒の章』にも記録されているのである。
『黒の章』とは、人間の悪行の数々を何万時間にわたって記録されているビデオテープである。
あまりにも非道い内容の為、普通の人が見れば5分で人間に対する見方が変わってしまうことだろう。
かつて、このビデオを見せられた為、人間に絶望し、人間を滅ぼそうとする男に手を貸した人物がいた。
御手洗キヨシ。
二代目霊界探偵、仙水シノブが集めた7人の能力者の一人である。
耐え難い人間の一面を見せられ、それが人間の本質だと思い込んでしまったのである。
しかし、彼は桑原やぼたんの優しさに触れ、己が間違っていたことを知り、蔵馬たちに協力したのである。
『黒の章』は現在、飛影の手元にあった。
しかし、何万時間と記録されているため、さすがにすべてを覚えきれるものではない。
霊界も、この件は見落としていたのだろう。
なぜなら、霊界に逝く事が出来ない魂も若干存在する。
剛鬼のような魂を喰らう妖怪に喰われたりしたら、流石に霊界に逝く事は適わない。
霊界に来ない死者は、そのように処理されてしまうこともあるのだ。
「……蔵馬君。鈴原君のお母さんも、蔵馬君とアスカのお母さん達や、あの娘みたいには出来ないの?」
レイが、トウジの母をユイたちのように目覚めさせることが出来ないかどうか訊ねてきた。
「……無理だ…俺はトウジの母とは面識がない……母さんは勿論、キョウコさんとは面識があるし、あの娘は特別だ……しかし、会ったこともないトウジの母親の魂に呼びかけても……恐らく応じないだろう。それに……残念ながらトウジには霊感の素養は欠片もない……お前たちのように念話することも適わないし、何より…母さんやキョウコさんと違って、トウジの母は、生きながら取り込まれたわけではないからな……」
アスカの母、キョウコは肉体のみサルページされ、その肉体は1年後に自殺したが、弐号機の中に眠るキョウコの魂は死を体感していないので、なんとかなるが、トウジの母は既に亡くなっていて、本人も死を体感している。しかも、死んだ後にコアにインストールされているため、その自我は恐らく残っていない。本能のみ残っているだけである。
強烈な未練を持たない魂は、霊界に逝かない限りやがてその自我を失う。自らを縛りつける自縛霊や怨霊の類にでもならない限り……死を体感した魂はその自我を幾年も保ち得ないのだ。
流石の蔵馬も、霊界もこの状態の人間の魂を復活させることは不可能であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「それで、シンジ君。フォースチルドレンが選出され、アメリカの第1支部から、EVAの参号機が松代に運び込まれたんだ。参号機の起動実験は松代の第2試験場で行われるから、恐らく葛城とりっちゃんはその日は松代に出張だろう……」
加持の報告に、蔵馬が反応した。
「……リツコさんが、第3新東京市を離れる………レイ、アスカ!念話はマスターしたか?」
蔵馬が問うと、レイとアスカは得意気な顔になった。
《もちろん、完璧よ》
《どう、蔵馬君?》
アスカとレイは念話で蔵馬に答えた。
「すごい、アスカとレイの声が頭に直接聞こえてきた……」
霊感が強いマナにも念話を届かせたようだ。
「……完璧なようだな……よし、ではリツコさんが松代に行っている間に、弐号機と零号機のコアを目覚めさせる……」
蔵馬の言葉に、アスカの顔が喜びにあふれた。
「じゃあ、ママと話すことができるのね!?」
「……あの娘と……話せる……」
レイは、少し不安そうな顔になったが……蔵馬に微笑まれ改めて1人目の自分と向き合う覚悟をした。
何故、リツコの留守を選んだのか……それは、常にEVAのことを気に掛けているリツコが居るうちに、キョウコと1人目のレイの魂を覚醒させれば、気付かれる可能性があるからである。
まだ、力押しでことを運ぶ時期ではない為、切り札はあまり知られるべきではない。
正直、NERVの連中にどうにかされる蔵馬ではないが、蔵馬は油断する気はさらさらなかった。
……ユウスケなら油断するだろうが……。
☆ ☆ ☆
ミサトは、松代に出張するため何時もより早出をしていた。
そのとき、調味料が切れていたため、マナに頼まれコンビニに買い物に行っていた蔵馬とぱったり出会った。
「おはようございます。ミサトさん」
「おはよう、シンちゃん……ごめんね、今日は早出だから朝食はいらないわ……マナちゃんに伝えておいてくれ.る?」
既にミサトも、蔵馬の家にマナがいることを知っていた。
蔵馬に代わって、マナがミサトの料理を作るようになっていたからだ。
「……ねえ、シンちゃん……アスカもレイもほとんどシンちゃんの家に入り浸っているわね……」
「……それが何か?」
「……やっぱり、ちぃ〜とばかし不味いんじゃないかと……」
年頃の娘が男の家に入り浸っているのが問題だとミサトは指摘していた。
「そう言う台詞は、保護者としての務めを果たしてから言ってくださいね」
「うぐっ!!」
手痛い反論を喰らい、ミサトは沈黙した。
そのときねエレベータのドアが開き、中からケンスケが現れた。
「ケンスケ?」
「……確か、相田君だったわね?こんな朝早くから、何かしら?」
「ミサトさん!今日はお願いがあって来ました……」
ケンスケは、必死の形相でミサトに詰め寄った。
「どうか……この相田ケンスケを、エヴァンゲリオン参号……へぶっ!」
喋り終わる前に、蔵馬がコンビニで調味料と一緒に買ってきた雑誌をケンスケの顔面に叩き付けていた。
「……何するんだよ蔵馬!?俺が折角………ヒィッ!!」
抗議するケンスケだが、蔵馬に睨み付けられ黙りこんだ。
「ミサトさん、こいつのことは放っといて、先に行ってください」
蔵馬の眼光にミサトもビビリ、さっさと退散した。
「馬鹿かお前は……ただの一般人のお前が、極秘事項の参号機のことを知っていると分かれば、お前とお前の父親にどんな危険が迫るか解らないのか!?」
ケンスケがEVA参号機の情報を知っているのは、無断で父親の端末から情報を盗み見たからである。
ミサトはそこら辺のことをあまり気にしていないが、なにかの拍子でミサトがこのことをリツコ辺りに話せば、下手をすればケンスケはスパイ容疑を懸けられ、ケンスケの父親は情報漏洩の罪に問われてしまうだろう。
今まで、ケンスケは情報を蔵馬達の前でしか喋らなかったので蔵馬も黙認していたが、さすがに自分達以外のNERV関係者に喋ろうとするケンスケを見過ごす訳にはいかなかった。
蔵馬から、そのことを指摘されたケンスケは青褪めていた。
「……そんな……スパイだなんて…俺は…そんなつもりじゃ……」
「……言っておくが、高校生だからといって大目に見てくれる様な甘い組織じゃないぞ、NERVはな。自分の行動で父親共々犯罪者に成りたくなければ、二度としないことだ……いいな!」
蔵馬の脅しにヒビリまくったケンスケは何度も頷き、よろけながらその場を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
放課後。
教室でぼ〜っとしていたトウジにヒカリが声を掛けた。
「……どうしたの、鈴原…ぼ〜っとして?」
「委員長か……いや、少し考え事をな……」
そう答えた後、しばらく沈黙が続いた。
「……なあ、委員長…」
「……何、鈴原?」
「いつも、弁当ありがとうな……」
さすがに、妹との言い合いでヒカリがトウジの為に弁当を作ってきてくれていたことを、今更ながらに知ったトウジであった。
ヒカリは真っ赤になって俯いていた。
「ワシさぁ、明日は学校休むんや…」
「どこか具合でも悪いの?」
「いや、少し用事があってな……松代に行くんや……」
言葉を濁すトウジ。
「何かあったの?」
いつもと違うトウジの雰囲気にヒカリは疑問に思った。
「委員長!帰ってきたら……委員長に伝えたいことがあるんや……訊いてくれるか?」
「今じゃ駄目なの?」
トウジの伝えたいこととは……もしかして……と、期待してしまう乙女なヒカリであった。
「ああ、今はまだ……な。松代での用事が済んでからやないと……心の整理が付かんから…」
「……わかった。待ってるから……鈴原、気を付けてね……」
ヒカリは頬を染めながら、その場を後にした。
「……委員長……ワシは……お前が…」
☆ ☆
翌日。
学校を休み、NERVに来ていた蔵馬たちはケイジにいた。
ケイジの周りを久遠が結界を張り、蔵馬は幽体離脱をして弐号機と零号機のコアに潜り込んだ。
キョウコと1人目のレイは、蔵馬に応じユイと同じく、完全に覚醒した。
「これで、次の出撃のときに念話で話すことが出来るだろう……」
「じゃあ、ママと話か出来るのね?」
「……1人目の私と……」
「ああ、ただし、話すことに夢中になって使徒との戦いを忘れないようにな…」
「わかっているわよ!!」
蔵馬の忠告に膨れるアスカであった。
そのとき、警報が鳴り響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
時系列を遡り、作戦部長の葛城ミサト三佐と技術部長の赤木リツコ博士の立会いの下、松代の第2実験場ではEVA参号機の起動実験が行われていた。
シンクロは順調に進行し、絶対境界線を突破しようとしていた。
「上手くいきそうね……」
リツコが安堵しながらつぶやいたとき、異変が起きた。
「何事なの!?」
「EVA内部で高エネルギー反応を感知!」
「ま……まさか……」
暴走し始める参号機。
その首の後ろに菌のような物質をリツコは発見した。
「……使徒!」
リツコが参号機に使徒が寄生した事を悟った瞬間、松代第2実験場は閃光に見舞われ、ミサトとリツコはその光りに飲み込まれた。
第13使徒『バルディエル』の襲来である。
☆ ☆ ☆
発令所は喧騒に包まれた。
「松代にて爆発事故が発生!」
「被害、状況一切不明です!」
「救助及び支援部隊を送れ。戦自が介入する前に処理しろ!」
「爆発現場付近にて、未確認移動物体発見!」
「何!?」
「パターンはオレンジ、使徒ではないようです!」
そのとき、今まで黙っていたゲンドウが支持を出した。
「第一種戦闘配置!」
作戦部長が不在時は、総司令が直接指揮することになっていた。
「りょ、了解!総員第一種戦闘配置!!」
「EVAの発進準備を……」
「了解!EVA前機発進」
ゲンドウは、ようやく蔵馬を始末するチャンスが来たことに内心、嬉々としていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
《ママ!聞こえる?》
《……アスカちゃん……聞こえるわ…》
《ママ!!》
懐かしい母の声を聴き、アスカの涙がLCLに溶けた。
《………1人目の私……》
《………2人目……お兄ちゃんが言ったとおり……わたしを受け入れてくれるの?》
《お兄ちゃん?》
《うん……シンジお兄ちゃん……》
1人目のレイは、蔵馬の事を『お兄ちゃん』と呼んでいた。
考えてみれば『碇シンジ』は、確かにレイにとって兄といえる。
もっとも、レイにとっては愛しい存在だが……。
ユイ、キョウコ、1人目のレイ、EVAのコアにインストールされた彼女たちは、お互いの念話が可能であった。
彼女たちは、それぞれの想いを伝え合った。
そして、使徒との戦いが終わるまで蔵馬たちに協力することを誓い合った。
「どうやら、目標が来た……何!?」
目標を視認したと同時に蔵馬の顔色が変わった。
目標はEVAであった。
「……まさか、参号機……どういうことですか?」
蔵馬は発令所に問い合わせた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「主モニターに回します」
モニターに映し出されたのは間違いなくEVA参号機であった。
「やはり……」
沈痛な面持ちになる冬月。
「活動停止信号も認識しません。、それにエントリープラグの強制射出も反応ありません!」
「フォースチルドレン。呼吸、心拍の反応があります……」
オペレータの報告を聞いていたゲンドウが、突如命令した。
「エヴァンゲリオン参号機は現時刻を持って破棄。目標を第13使徒と識別する!」
この命令に発令所に緊張が走った。
それと同時に、初号機から通信が寄せられた。
「どういうことですか?」
「……あれは使徒だ…殲滅しろ……」
蔵馬の問いにゲンドウはそれだけ答えた。
「……マヤさん。パイロットは?」
「……まだ、中に居ます……こちらからの救出は不可能よ……」
辛そうな声で、マヤは答えた。
「……了解!なら、こちらで……力尽くで救出する!」
通信が切れると、EVA3機は参号機に接近を開始した。
「……え!?」
マヤは、驚愕していた。
「どうした?」
「…はい!初号機、シンクロ率150%。弐号機シンクロ率135%。零号機シンクロ率122%。すべてのEVAのシンクロ率が100%を超えています
!!」
「「何!?」」
アスカとレイがシンクロの真実を知り、コアの中の魂が目覚め、互いを認識した為、アスカとレイのシンクロ率は100%を超えたのだ。
この件は、ゲンドウにとってはうれしい誤算である。
相変わらず蔵馬のシンクロ率が一番高いが、アスカとレイのシンクロ率が100%を超えたのだ。
これで、ゲンドウの中ではますます蔵馬の存在が不要となった。
(これで、ダミープラグが私の思惑通り作用すれば……シンジを始末出来れば……私の計画を妨げるイレギュラーは存在しなくなる……)
ゲンドウは内心でほくそ笑んでいた。
☆ ☆
蔵馬たちは通信ではなく念話で話し合っていた。
《聞いたとおりだ。まだトウジは参号機の中に居る……》
《どうするの、蔵馬?》
《……決まっている。参号機の動きを封じ、エントリープラグを力尽くで抜き取る!》
《了解!》
《わかったわ……それにしてもジャージの奴……手間をかけさせてくれるわね》
《アスカちゃん……仕方がないわよ…そのトウジ君にどうにかすることは不可能なんだから…》
娘の発言をキョウコが嗜めた。
《わかっているわ、ママ……ちょっと言ってみただけよ…》
《では、まずこちらが参号機にダメージを与えるとフィードバックによってトウジを苦しめることになる。だから、最初に参号機の鳩尾辺りを打ち、トウジを失神させる。その後、アスカとレイで参号機を押さえてくれ……その間に俺が、参号機のエントリープラグを引き抜く…》
《《了解!》》
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
EVA3機の動きは実に迅速だった。
高シンクロのお蔭か、弐号機も零号機もいつもとまるで動きが違っていた。
初号機が参号機に一撃を入れヒット&ウェイの要領で離れた後、左右に展開していた2機が見事な手並みで、参号機の動きを封じ込めていた。
「……ふむ、どうやら今回はそれほど苦戦せずに終われそうだな…」
冬月は感心しながら、モニターを見入っていた。
オペレータも、これなら大丈夫と安心しきっていた。
全員の視線がモニターに集中しているとき、ゲンドウは初号機のダミーシステムの起動スイッチを押した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
《……何!?》
ユイは違和感を感じていた。
《……どうしたんですか母さん?》
《いえ、何か奇妙なデータが流れてきているわ……》
ユイは、そのデータの分析に入った。
初号機と同化しているようなものなので、ユイは直接初号機の演算機能にアクセスして分析できるのだ。
《……これは、どうやらEVAにパイロットが存在するかの様に誤認させるもののようね……》
それを訊き、蔵馬は思い当たった。
《ダミーシステムか……!?しかし、何故このような時に……》
《………これは!……これは、未完成の代物よ……もし、シンジに目覚めさせてもらえなければ私は、このシステムによって混乱していた可能性があるわ……ゲンドウさん……まさか、貴方…》
ユイも、このダミーがどういう結果をもたらすか、リツコと同じ結論に達したのだ。
ダミーとして正常に機能するか、それとも何も起こらないか……あるいは……混乱しパイロットの精神が汚染され、下手すれば死亡の可能性があることを。
最も、蔵馬の精神がこの程度のもので汚染される様な柔なものではないことは理解しているが……蔵馬の正体が『妖狐・蔵馬』ではなく、普通の人間『碇シンジ』であれば恐らく……。
詳細を訊いた蔵馬も、ゲンドウの思惑を察した。
《……成程……あわよくば俺を始末できると考えたようですね……》
その言葉を聞きユイは、心の中に残っていたゲンドウへの最後の想いが音を立てて崩れていくのを感じていた。
最愛の息子を、夫が殺そうとした。
ユイの心に、怒りと憎悪が渦巻き始めていた。
ゲンドウは、自らの手で最愛の妻の自分に対する愛情に引導を渡してしまったのだ。
ユイの魂が覚醒しているのでこのようなシステムが通用する筈もなく、初号機には何の問題も起こらなかった。
初号機は、参号機のハッチをひきちぎり、エントリープラグを引き抜くとそれを安全な場所に置いた。
《今だ!》
蔵馬の合図とともに、零号機が参号機から離れる。
弐号機はソニックグレイヴを構え、参考機の両腕を叩き斬りその場を離れた。
弐号機の離脱を確認し、零号機がスナイパーライフルで参号機の頭部をを打ち抜く。
頭部か無くなったため、参号機の頚部に取り付いている『バルディエル』がむき出しになった。
戻ってきた初号機が、『バルディエル』にプログレッシブ・ナイフを突き立てた。
『バルディエル』は参号機から剥がれ落ち、その活動を停止した。
☆ ☆ ☆
「パターン青、消失…殲滅を確認!」
青葉の報告を聞き、ゲンドウは内心憤っていた。
結局、3通りの予測のうち、何も起こらない……が選択されたのだ。
期待は裏切られたのだ。
「……ちっ!」
ゲンドウは舌打ちした。
しかし、彼は知らない。
今回の事で、ユイの心が完全にゲンドウから離れた事を……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
トウジは目を覚ました。
蔵馬の当身を喰らい、エントリープラグ内で失神していたが、事が終わり駆けつけた蔵馬に活を入れてもらい目を覚ましたのだ。
「……蔵馬…」
「終わったよ、トウジ……もう大丈夫だ……」
「そうか……すまなんだなぁ、蔵馬…早速足引っ張って……」
「いや、お前に非はないよ……非があるのはNERVの管理体制だ……」
蔵馬の言葉に安心したトウジは、一応念のために検査を受けるため病院に送られた。
「……さて……と…」
蔵馬は、あることを確認する為、行動を始めた。
〈第二十二話 了〉
To be continued...
(2009.09.12 初版)
(あとがき)
ジョルジュ「はい、二十二話いかがだったでしょうか」
コエンマ「戦闘シーンはもはや、EVA本編とかなり離れまくっておるな」
ジョルジュ「そうですね……やけにあっさりしてますね……」
コエンマ「まあ、トウジが無事なのは最初から決まっておったことじゃしな。後、参号機のコアはよく他の二次小説ではトウジの妹がインストールされる設定になっておるが、かのものはひねくれてトウジの母にしておる」
ジョルジュ「意味があるんですか?」
コエンマ「いや、ただのかのものの気まぐれだ」
ジョルジュ「そうですか…では、これからもかのものの駄文にお付き合いください」
作者(かのもの様)へのご意見、ご感想は、または
まで