――体は拒絶で出来ている


 血潮は魂で 心は硝子

 幾たびの戦場を越えて不敗

 ただ一度も敗北はなく

 ただの一度も理解されない

 彼の者は常に独り 赤き海岸で勝利に酔う


 故に、生涯に意味はなく

 その体は、きっと拒絶で出来ていた






Fate / Evangelical Night

プロローグ

presented by 黒潮様







 情報が流入してくる。赤い世界に放り出された僕に、世界中の記憶が、知識が、情報が流れ込んでくる。苦痛以上の何者でもない他者の記憶、彼らの生存していた証。それを受けてなお、自分が自分であり続けることなど不可能であるかのように、僕の人生の何倍も、何十倍も濃縮されて流入する他者の記憶。

 止めることは出来ない。これは、依り代であることの試練。人類を救い、同時に破滅させるための一工程。救世と破滅は同時に為される。それが、第三衝撃の勝利者に与えられた真実。こんなものを望むために、僕らは操られてきたと思うと、少し泣けてきた。

 そして、意識は暗転した。


 暗転から何年が経ったか、それとも一瞬のことだったのか、僕には気づく術は無い。ふと気づけばそこは崩壊した部屋。今の今まで居た赤い世界など、何処を見渡しても広がっては居ない。

 着ている服は、黒いジーンズに黒いシャツ。そして、赤い外套。手を見る限り、肌は異常なまでに白くなっているのが判る。周囲を見て鏡を探す。しかし、該当するものは見当たらない。諦めて、とりあえずソファから立ち上がろうか、としたとき、対面にあったドアが蹴飛ばされて、赤い上着にミニスカート、そしてニーソックスを履いたツインテールの女の子が飛び込んでくる。

「えっと、あなたがココの主ですか? 悪いことを……」

 そこまで言って僕は気づいた。……なんだ、この感じは。彼女から、何か霊的なエネルギーが送り込まれてくるのが理解できる。いや、霊的……というよりも、魔術的な、と言ったほうが良いかもしれない。

 そういえば、記憶の片隅に、本来なら知りえない情報が追加されていた。聖杯戦争、サーバントとマスター、サーバントのクラス、そして、僕のクラス、アーチャー。何で弓兵? と思ったけど、なったものは仕方がない。

「それで。あんた、なに?」

「……開口一番それですか? とんでもない人に引き当てられてしまったようだ……」

 思考回路が、本来なら知りえない聖杯戦争関係の情報の影響を受けて改変されている。弱気な、かつての僕ではなくて、皮肉屋な部分が入り込んでいる。まぁ、聖杯戦争関係の情報だけが影響しているとは言えないけど……

「アンタ、名前は何?」

「え、僕ですか? 名前は……たくさんありますね」

 そうとしかいえない自分が悲しくなる。碇シンジ、という僕自身の名前は、最早過去の自分を示す記号に過ぎない。今、僕をあらわすのに最も最適な名前は何だろうか……と、考え込む。サードチルドレン? いや、これは称号であって名前ではない。リリン? これがシックリ来るかもしれない。でも、人に名乗って良いような名前ではないと思う。じゃぁ、やっぱり碇シンジ……か。

「碇、碇シンジです」

 熟慮に熟慮を重ねて口から出てきたのは、15年間もの間、僕自身の名前として機能してきた名だった。

「はぁ……何処の英雄? 日本人かしら?」

「はい」

「それで、何時の時代?」

「時代?」

「そ。あなたがサーヴァントとして召喚されるぐらいの英雄ならば、あなたは何らかの形でその時代の人々、そして現代の人々に語り継がれているはずでしょ? でも、私はあなたの伝承なんか聞いたことがない」

 息を吸い込んで何をするのかと思えば、やたらと長いセリフを一気に述べ上げてくる。

「語り継ぐ人々……ですか。そんなものが居れば良いですよね。もっとも、そんなの居ても、僕は世界崩壊の真犯人として、凶悪犯罪者として扱われるだけでしょうけど」

 は? といった表情で彼女は僕の顔を覗き込んでいる。それはそうだろう。世界が崩壊したにもかかわらず、この世界は存在する。答えを知らなくては、この問題に答えることは、そもそもが不可能なこと。

「だから、異世界の英雄なんです。僕は」

 だから、ぶっちゃけた。

「この世界で、西暦2000年に起こっていないことが、僕の世界では起きました……」

 そこからだった。自分の身の上話を始めたのは。

 セカンドインパクト。神々の模倣品たる人類の最終兵器。神の使い、使徒と、人類側との戦闘。裏で進められていた人類の影の統治者たちの思惑。翻弄される子供たち。崩壊したにも関わらず、中断されずに最後まで続けられた『儀式』。世界の崩壊と再構成。

 彼女は、驚いていた。この世界には、確かに魔術なるものが存在している。もしかしたら、僕らの世界にも存在していたのかもしれない。にもかかわらず、使徒は一流の魔術師から見ても摩訶不思議な代物だったらしい。

 それぞれが天使の名を冠された15の敵性生命体。知恵の実を受け継いだ人類とは別個の、生命の実を受け継ぐことを選択し、単一生命体という道を歩んだ神々の時代の創造物。それは、魔術はもちろん、魔法でさえも凌駕しかねない遥かなる高みだった。

「なるほどね。それで、クラスがアーチャーか……」

 そこまで言って、彼女は押し黙った。つられて、僕も黙りかけるが、不意に寒気がした。上を見てみる。月が見えた。……あれ? ここって、室内だよね? 何で月が見えるのさ? と、一瞬驚く。そして、周りを見回す。部屋は、荒れ果てていた。あぁ、そうか。と、独り勝手に納得する。

 どうやら、僕はまず最初にこの部屋をどうにかしないといけないらしい、と。






 ステータスが更新されました。
クラス:アーチャー
マスター:遠坂凛
真名:碇シンジ
身長・体重:不明
属性:混沌・悪

筋力:E  魔力:D
耐久:A+ 幸運:B
敏捷:C  宝具:EX

 技能(英霊独自の保有スキル)
千里眼 :C 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
神性  :A 知恵の実と生命の実の双方を獲得した彼は最大の神霊適性を有する。
単独行動:A マスター不在でも現界し続けることが可能

宝具(ノウブル・ファンタズム)






To be continued...


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